リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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四次試験を見守り隊【前編】

 リンは睡眠時だけは本当に無防備に眠る。睡眠中に神経を尖らせたくないし、仕事中などの非常時には念能力で睡眠をとらないからだ。最悪能力が無くても何日かの徹夜はできるが、肌のためにも心と体の健康のためにも睡眠はしっかりととりたいところ。

 よって、プロの暗殺者と同室でも気にせず爆睡していた。リン自身が彼の事を暗殺者でなく幼馴染として認識しているところが大きいが、どちらにせよ傍から見れば信じられない行動であることに変わりはない。

 

 そんなリンは、頬をつつく尖った何かの感触で目が覚めた。瞳を開くと、目の前には既に変装以外は身支度を整えたらしいイルミが、真顔でリンを覗き込んでいる。尖ったものは針だったらしい。

 

「あー、おはよ」

 

 むくりと起き上がり大あくびをするリンに、珍しくイルミは呆れた表情を見せた。

 

「お前さあ、そんなんじゃすぐ殺されるよ」

「殺気があれば流石に起きるわよ」

 

「どーだか」という言葉を無視し、顔を洗うため洗面所に向かう。ツインベッドとはいえ男女二人同室で一晩過ごしたのだが、ときめく展開は当然ながら起きない。

 

「おうニア!行こうぜ!」

 

 リンを誘うためにレオリオが勢いよく船室の扉を開けたのはそれから数分後のことだ。リンは既に準備ができていたが、イルミは丁度針で顔を変えているところだった。

 従って、レオリオが目にしたのは、慌てて天井に張り付き針で修正しきれない中途半端な化け物の如き顔を向けたイルミ…ことギタラクルの姿である。一瞬その空間だけ時間が止まった。

 

(可哀そうに…レオリオ、トラウマになってないといいけど)

 

 乙女の様な叫び声を上げて去って行くレオリオを見送りながら、リンは責めるようにイルミを見つめた。イルミはそれを意に介さず、無言で針を刺し直しビキビキと顔を変える。暫くすると、ギタラクルの顔に戻った。

 

 そんなこんなでリンとイルミも部屋を出る。デッキに集まると、順番にくじを引くよう促された。全員がくじと称された札を取ったところで、改めて四次試験の説明がされる。

 四次試験の内容は狩るものと狩られるもの。島の中に七日間滞在し、その間に6点分のプレートを集めるのが合格条件。自身と引いた札…ターゲットのプレートは3点、他は1点となる。プレートを取得した後も試験終了まで守り続けないといけないのがこの試験のミソだ。

 

(私の仕事はここまでか…)

 

 説明を聞くと、島に着くまでの時間を各々で過ごそうと、受験生たちは船のあちこちに散ってしまった。ご丁寧に自身のプレートを隠してしまっているあたり、既に試験は始まっていると言っても良いだろう。

 ゴン達の姿も気づけば見当たらず、リンは一人デッキの手すりにもたれ掛かってターゲットを確認した。

 

(私のターゲットは…403?うわ、レオリオじゃん…)

 

 この時点で対象をハントする事は速攻やめたリン。というか、試験に潜入するのは四次試験までという事になっているので、リン自身が誰かをハントする必要はない。強いて言うなら受験生の動向を見守りつつ、将来有望そうな者がいれば手助けする程度のつもりをしている。

 

「ニア!何番だった?」

 

 声がした方に目をやると、そこに居たのはゴンとキルアだった。二人とも互いのターゲットについては既に教え合った後らしく、揃ってターゲットカードをリンに見せてくる。ゴンの手には『44』、キルアの手には『199』と書かれたカードが握られていた。

 

「安心してください、二人ともターゲットじゃないですよ」

「えへへ、俺達もニアじゃないから大丈夫!」

「見ればわかりますよ。キルアの番号はわからないですけど、ゴンの番号はヒソカですね…くじ運悪い」

 

 ゴンのターゲットカードは44番。言うまでもなく、不吉なナンバーが一番ふさわしい男ヒソカのものだ。

 

「俺も同じ事言った」

「やっぱそうだよね…」

 

 リンの言葉にキルアが同調し、ゴンも苦笑いをする。確かに、一周回って大当たりな気がしてくる程のくじ運の悪さと言えるだろう。

 だが、この試験の良いところは試合をするわけではないというところだ。潮風で靡く長髪を押さえながら、ゴンに微笑みかける。

 

「でもまあ、7日もあればヒソカにも隙はできるでしょう。プレートを奪うだけなら、ゴンにも勝つチャンスはありますよ」

「うん!俺もそう思う。頑張るよ!」

 

 カシャカシャカシャ…。

 

 小さくそんな音が聴こえ、反射的に全員が頭上を見上げる。そこにはリン達を見下ろす形で写真を撮影しているイルミの姿があった。針人間が兄の変装した姿だと気づかないキルアは、ゴンの肩を抱きながら気色悪そうに言う。

 

「うえー何あいつショタコンかよ…行こうぜゴン」

「!?………」

 

 ショックのあまり放心しているイルミがリンに殺意を向ける前に、リンもそそくさと反対方向へ歩く。あの様子ならあと1分はあのまま固まっているだろう。

 

(ごめんイルミ…私のせいで変なレッテルを貼られてしまったね…)

 

 だが後悔はしていない。代わりに今撮った写真は高く買い取ってやろうと心に決めた。

 

(…さて、レオリオとクラピカの様子も見ておこうかしら)

 

 ゴン達はいつも四人でいるのかと思いきや、意外と2:2に別れたり単独行動もする。リンも同年代の女の子と比べるとかなり単独行動派なので比べることはできないが、彼らを見ていると心持ち男の子の方がマイペースな気がする。

 

 船体を挟んで反対側のデッキまで足を伸ばすと、クラピカとレオリオの姿があった。

 リンの姿に気づいたレオリオが軽く手をあげた。それに軽く応じながら二人の下まで歩み寄り、船体にもたれ掛かる。

 

「ニア、ターゲットは誰だった?」

「残念、俺のターゲットはレオリオです」

「「!?」」

 

 少しいたずら心で事実を明かしたリン。当然、二人の間には緊張感が走った。推しに嫌われるのは避けたいので、慌てて訂正する。

 

「レオリオを狩る気はないです!受かってほしいですから」

「はぁ?だけど、そしたらお前が…」

「三人分集めますよ」

 

 明らかに難易度が上がるのにあっけらかんとそう言うリンに、レオリオが複雑な表情を見せた。

 

「あ、でも油断はしないでくださいよ?1点でもプレートを狙う奴は居るだろうし」

 

 レオリオが何か言おうと口を開くのとゼビル島の到着アナウンスが流れるのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 ゼビル島に降り立った。軽く周囲を見渡したが、先に上陸した受験生は近くには居ない。早く島に入ったものほど奥の方に先乗りして罠を仕掛けたくなるのが心理であるため、もっと奥に居るのだろう。

 リンはゴン達五人の中で順番は最後だ。彼らが無事に試験に合格するのを祈りつつ、リンは歩き出した。

 

 リンがこの島で予定しているのは主に三つ。

 一つ目は、ヒソカとの戦闘。これは予定しなくても、それこそ仮にリンが逃げてもヒソカが追ってくるだろう。既に島の中央から嫌な殺気が立ち昇っているあたり、ヒソカは待ちきれないようだ。だが、暫くは放っておいても良いかと思い取り敢えず後回しの放置プレイをかます。

 二つ目は有望な人材に自分のプレートを渡すこと。それはゴンでも良いし、キルアやレオリオ、クラピカでも、何なら合格してほしい人間が居れば他の受験生でも構わない。だが、これも急を要しているわけではないので後回しだ。

 そして三つ目はゴンの見守り。本来は流石にここまで過保護になるつもりはなかったが、相手が悪すぎる。

 ヒソカはゴンを気に入っている様子だったし殺す事はまだないだろうが、万が一もある。この中で一番優先順位が高いとしたら、ここだろう。

 

(…ん、まずはゴンを見つけなきゃね。島も広いし、少し時間がかかりそう)

 

 ゴンの匂いを辿りながら歩く。かなりストーカーチックな捜し方だが、仕方ない。

 そして目的のゴンはかなりふらふらと考えなしに歩いていたらしく、匂いがあちこちについていてわかりにくい。おまけに、地面だけではなく木々や枝葉に至るまで、立体的に匂いがついている。警戒して跳びまわる相手を体臭一つで探し当てるのは、ブラコンのリンでもなかなか難しいところ。

 

 持久戦でもあるため焦り過ぎるのも良くない。途中休憩を挟みつつゴンを探してようやく見慣れた姿を見つけたのは、日が暮れかかった頃だった。木の陰に隠れて様子を窺う。

 

(あーもう、ゴンったら警戒心ゼロであんな特訓しちゃって…)

 

 リンが見つけたゴンは、川べりで釣り竿を振って的に当てる練習をしていた。大方釣り竿でナンバープレートを奪う作戦なのだろうが、こんなに無警戒で特訓をするなんてゴンはここを試験会場だと思ってはいないのではないだろうか。

 

(自分が狩られる側でもあるって自覚、ないのかしら…)

 

 兵糧攻め作戦だったとはいえ、リンが現役で似たような試験を受けた時は食っちゃ寝しかしていなかったので人のことは言えない。

 

(膠着状態…そういう試験ではあるけど、かなりやきもきさせられるわ)

 

 そのまま数時間、陰から黙って観察をしていたが、ゴンの集中力は途切れない。

 そして、ゴンを狙う視線も。

 

 狩猟のプロだ。帽子を深くかぶる肌の黒い男性、持っているライフルは筒の構造からして麻酔銃の類だろう。…実弾も所持しているだろうが。

 殺気を上手く隠し、確実な隙を狙っている。

 

(獲物を狙うのに最も適したタイミングは、睡眠中。…狙ってるわね)

 

 夜更けまで竿を振って疲れ果て、電池が切れたかのように大の字になってゴンが眠ったのを確認し、リンは動いた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「お兄さん、眠る少年を観察するのがご趣味ですか?えっち~」

 

 眠る少年を狙おうと銃を構えた時、背後から突然聴こえた低い囁き声に、ゲレタは僅かに肩を震わせた。僅かに首を動かして背後を確認すると、そこには赤い髪の青年が静かに立っている。

 

(ここは木の上だぞ!どうやって音もなく近づいた!?)

 

 ゲレタとて狩人だ。ターゲットである少年を見つけた時点で、周囲の状況は入念に確認していた。勿論自分が狙われる者でもある自覚も持っているため、物音も敏感に聴き取っている。

 それらすべてをすり抜けて、まるで道端で偶然出会ったかのような雰囲気を出している目の前の男に、ゲレタは薄ら寒いものを感じた。

 

「別にあなたに危害を加えようとは思ってません。…でも、あの子を狙うのは止めた方が良いと思いますよ?」

 

 理由は二つある。一つはヒソカの獲物を横取りすることになり怒りを買うだろうから。もう一つは当然ながら、リンがブチ切れるから。

 

(…ま、命まで狙わないなら黙認してあげるけどね)

 

 殺すというならいざ知らず、正当な狩りの範囲ならリンもそこまでゴンを依怙贔屓するつもりはない。受かってほしいのでヒソカをハントするまでは依怙贔屓するが。

 

「…お前はなぜあいつを狙う?ターゲットではないだろう」

「実利主義も良いですけど、それだけでは視野を狭めますよ」

 

 片手を銃のポーズにして自身の頭を差し、「BANG!」と言ったのは特に意味のない個人的な趣味だ。ゲレタには不気味な余命宣告の様に見えただろうが。

 そう言って静かに木を飛び降りるリンを、ゲレタは身動きできずに見送るばかりだった。

 

(ま、慎重派みたいだしこれで今夜は動かないでしょ。…次はこっちね)

 

 ゲレタとは別な二つの視線に気づいたのは、ほんのさっきのこと。初めはゴンを狙っているのかとも思ったが、こちらが見ているのはリンだ。そのため、眠っているゴンを起こさないよう散歩でもしているかのように歩いて距離を取る。

 

 周囲に人がいないのを確認し、小さな湖近くの広いスペースが取れる場所まで歩いたところでくるりと振り返った。

 リンのその行動に相手もリンが気づいていると悟ったらしく、静かに姿を現す。警戒されないよう、努めて平静に穏やかに、リンは柔らかく微笑みかけた。

 

「クラピカ、レオリオ。無事でよかったです。…なぜ尾行していたか、聞いても?」

 

 リンがそう言うと、クラピカが気まずそうに目を伏せた。そして意を決したように顔をあげる。

 

「…私の獲物は、ニア。君だった…」

「あー、やっぱり?なんかそんな気がしてたんですよ」

 

 大方、リンが『仲間であるレオリオは狩らない』と宣言していた手前、罪悪感に駆られていたのだろう。

 元々プロハンターなので、プレートを獲られようがリンはまったく気にしない。それどころかクラピカにならどうぞと渡したいのだが、リンことニアを同じ受験生だと思っているクラピカからすればそう簡単な問題ではない。

 

「レオリオ、悪いが席を外してくれないか?ここからはニアと一対一で話がしたい」

 

 クラピカがそう言うと、レオリオは黙ってその場から離れていった。夜といえども月が水面に映り、リンやクラピカなら十分に互いの顔が認識できる。今夜は満月だ。

 

「レオリオと組んだんですね?確かに信頼できる仲間と狩りをするのはハンターあるあるですし…でも、せっかく数で有利だったのにいいんですか?」

「ここには提案があって来たんだ。…私達と組んで、全員で合格できるように協力してプレートを集めないか?」

(なるほど。仲間を裏切らずにかつ効率的にプレートを集めるなら、それが一番合理的ね)

 

 わざわざレオリオを下がらせたのは、数の利で威圧感を与えず対等に話がしたかったからだろう。そして、たとえ交渉が決裂してもフェアに戦えるように。

 だが、リンはここで試験を降りることになっているし、クラピカたちとずっと行動を共にするわけにもいかない。ゴンは仕方ないだろうが、ヒソカと戦うところをあまり他の人間に見られたくないからだ。

 しかしこのままではプレートを得られずクラピカが困ったことになる。それは避けたいリンは、ニッと口だけで笑って言った。

 

「でも、クラピカにとってもっと効率的な方法がありますよね」

 

 胸のプレートをちらりと見せると、クラピカの表情が歪んだ。

 クラピカは聡い、本当はわかっているのだ。リンと協力して、レオリオのターゲットとリンのための一点プレートを六枚、計七人を狩るよりも、レオリオと協力してリン一人とレオリオのターゲットを狩るだけの方がはるかに簡単であると。

 それでもわざわざ非効率的な方を選択したのは、共に試験を潜り抜けてきたリンに対する誠実さの表れだ。

 

 この時点で、リンはクラピカに自分のプレートを渡す事に決めた。どうせなら三点の有意義な形で使用してもらいたいし、それがクラピカのような推し兼仲間兼有望な受験生ならば願ったり叶ったりだ。

 

「…交渉は決裂ということか」

 

 交渉決裂、それはクラピカにとって、敵に回ることを示す発言だったのだろう。キュッと唇を固く結ぶと、クラピカは背中に隠していた二本の木刀を構えた。だが、やはり仲間であるニアを害する気にはなれないらしく、真剣が抜かれることはない。

 

(あ…戦うってことは勝ったらクラピカのプレート奪っちゃうことになるわよね。とはいえ、やられたふりをするのもなぁ…)

 

 クラピカは静かにリンを見据えている。緊迫する空気を少し崩すために、軽い調子でためしにジャブを入れてみる。

 

「俺がクラピカにプレートをあげるって言えば、受け取ってくれます?」

「悪いが受け取れない。様々な想いを胸に試験に臨んでいるのは皆同じだ。互いに悔いのない方法で決めたい」

 

 わかってはいたが、クラピカの返答は堅いものだった。クラピカなりにこの試験でできた友人を大切にしたいからこその返答だし、リンとしては冗談ではなく本気で言っているのでお互い様なのだが。

 

「じゃ、クラピカが勝ったら俺のプレートを持って行く。その代わり、俺が勝ったらクラピカに俺のプレートを押し付ける…ってことでどうでしょう?」

「それでは勝負の意味がないだろう!?」

 

 リン渾身の提案に、流石のクラピカも呆れたようにツッコミを入れた。あわよくばこれで了承させるつもりだったので内心(チッ)と舌打ちしているが、クラピカは気づかない。

 

「だから言ってるじゃないですか。俺はクラピカに合格してほしい」

「…私は!私も君に合格してほしい。だが同時に私にも使命がある!」

 

 クラピカが悲鳴のように叫んだ。

 

(復讐が目的ならこの先数えきれないほどの葛藤があるのに、この程度で心を痛めるなんて…驚くほど人を傷つけるのに向いてない性格だわ)

 

 プロの資格を取得してしまえば『そんな葛藤が生まれるなら試験なんて降りればいい』と思うものだが、最難関の試験だからこそ、受験している時はそうは考えられないものだ。次があるかなんて保証はないから。…あの時のリン達と同じ様に。

 

「クラピカは優しいですね」

「…っ!」

 

 リンの何気ない呟きに、クラピカの身体がびくりと跳ねた。自分が心を鬼にしているのに、対照的にリンが仲間としての言葉を口にしてしまったせいで気持ちが揺らいだのだろう。こんな様子でまともに勝負ができるとは思えない。

 

「…仕方ないなぁ」

 

 寝起きの様な無防備さで大きく伸びをすると、リンは瞬時にクラピカの背後に回り手刀を打ち込んだ。才能溢れるクラピカといえどリンの攻撃を目で捉える事は出来ず、そのまま気を失う。

 脱力したクラピカの身体を抱え、リンは周囲を見回した。

 

「レオリオー!近くに居るんでしょう?」

「…」

 

 期待通り、レオリオは様子を見られる距離で待機していたらしい。すぐに二人の下へ駆け寄ってきたレオリオに、クラピカの身体を預ける。予想外にもクラピカを姫抱っこしたレオリオに思わずガッツポーズをしそうになるリンだが、流石にそれができる空気でもないので必死に堪えた。

 

「一時間もしないうちに目覚めるだろうから、傍にいてあげてください。あと、プレートも」

 

 そう言ってプレートをクラピカの鞄にねじ込むと、レオリオは複雑な表情を見せた。

 

「てっきり組んでくれると思ってたんだがな」

「二人にとっての合理性を追求したまでですよ。それに少し一人で動く用事があって」

 

 仕事上当然ではあるが、リンはここまでの試験で徹底して他人優先の姿勢をとっている。それは傍目には奇妙に映る光景だ。レオリオもそう感じ、そして直感でこれが二人きりで話せる最後の機会だと察して本音を漏らした。

 

「ニア…お前は、合格したくないのか?」

「…皆と、もっと一緒には居たいかな」

 

 答えになっていない答えを、曖昧に口にする。それは紛れもないリンの本音だった。仕事とはいえ騙すような真似をしてしまい、罪悪感が込み上げている。

 レオリオ同様に、リンも察していた。これが試験中に『ニア』としてレオリオと話せる最後のタイミングだと。次に会う時は対等な受験生仲間ではない。

 

 だが、友人になる事は出来る。彼らが受験生と自らを偽っていたリンをそう見做してくれるなら。

 そう望みをかけ、リンはあくまでいつも通りに手を振り背を向けた。レオリオの視線は互いが見えなくなる距離まで続いていた。

 

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