リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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最終試験を見守り隊【後編】

(やあやあ私、リン=フリークス!弟のストーカー…じゃなくて潜入試験官!でも幼馴染が弟を殺すって言ってて、オーラ漏らしちゃった!…という夢を見たのさ!!)

 

 コミカルなモノローグを入れてみたが、目の前にはやっぱりイルミの姿があるままだ。振り返れば背後には汗びっしょりのキルアが立ち尽くしており、観客席では全ての視線がリンに注がれている。夢オチのフラグは一切立ってくれない。

 

「「「ニア!?」」」

 

 リンことニアが出てくると思わなかったゴン、クラピカ、レオリオは驚いて声を上げた。当然だろう。四次試験で不合格になったと思っていた仲間が、最終試験の場に突如として現れたのだから。

 流石に四次試験まで進んだ人間なら、互いの人相もある程度は把握している。おまけにゴンが大声でネテロに直談判したこともあり、全員がニアの存在と四次試験で確実に落第した事も知っている。天井と共に降ってきたことを差し引いても、その場の誰もが驚きを隠せないでいた。

 

(イルミはマジでゴンを殺しかねないから出てきちゃった。…ま、おかげで助けることができたし)

 

 やってしまったものは仕方ない。それに、あそこで出なければゴンの身体かキルアの精神が壊れていたのは確実。むしろファインプレーだと自分を褒め称えるべきだろう。現実逃避のコツは可能な限りポジティブに捉えることだ。

 

「今は俺とキルが話してるんだけど」

 

 唯一、イルミだけがニアの姿をしたリンの存在に動じる事もなく淡々と言った。リンの存在を暴露しないという契約を結んでいるためだが、イルミの性格と相まって周囲にはキルアを最優先しているようにしか見えない。リンはそんなイルミを無視して、唇を震わせ俯いているキルアに眼を向けた。

 顔は青ざめており、手がかたかたと震えている。自分の意思と相反する意思に抗うのは生半可な事ではない。内部のオーラとの反発具合を見れば、葛藤で苦しんでいるのは簡単に分かった。

 

(色々歪んでるとはいえ人様の家だし…それにイルミやミルキの育ち方を見るにもう少し放任主義の家庭だと思ってたんだけどね…)

 

 殺し屋に常識を当てはめるのもおかしいが、実の兄に怯える家庭は正常ではない。イルミの言動も含めると、まるで機械の様に支配的に育てられたようだ。

 そんな自分よりも頭二つ分小さな少年に目線を合わせ、リンは静かに言った。

 

「キルア、参ったって言って良い。それはゴンへの裏切りなんかじゃない。今キルアがイルミを止めるのはまだ無理だけど…私がゴンを殺させる事は絶対にしない。約束する、絶対にイルミにゴンを殺させない」

 

 怒りと恐怖に揺らぐキルアのオーラが、僅かに変化した。

 リンの言葉は、ゴンとはまた別のベクトルで人の心を揺さぶる。こいつが言うなら本当にそうなるのではないかと思わせるものがある。僅かでもその言葉は届いているらしかった。

 

「乱入は規則違反じゃぞ~」

「やかましい!話してるだけだからセーフ!!!」

 

 横から飛んでくるネテロの声に、かなりスレスレの屁理屈を捏ねて叫び返す。実際、レオリオやゴンも野次を飛ばす形で会話をしていたのだから規則に引っ掛からないだろうという確信もあった。ちょっとうっかり、ついでに天井が落ちてきただけだ。

 

「キルア、キルアはハンターになれる。その資格も資質もある。私が言うんだから間違いない」

「ねえちょっとうるさいんだけど」

「しゃーらっぷ!!」

 

 あの時甲斐甲斐しくオムツを替えて読み聞かせをしていたイルミはどこへ行ってしまったんだと憤慨するリン。リンの中でイルミは『弟妹溺愛の会』会員ナンバー3だったというのに。

 キルアはリン扮するニアとそこまで親しく話していたわけではない。ただでさえ同年代のゴンを優先して過ごしていたのに、頭のおかしなコスプレ野郎と思っているニアと仲良くなる道理がないからだ。あくまでキルアにとって、ニアはたまたま顔を合わせる機会の多い受験生の一人でしかなかった。

 そんな男が急に天井を壊して現れて、しかも女言葉で説得してくる。いつものキルアなら一笑に付していただろう。

 

「私を信じて、参ったって言って。眩しさも闇も関係ない、なりたい自分になればいいの。あなたは殺し屋じゃない、私達と同じ、ハンターよ」

 

 だが、この時のニア…リンには、不思議な説得力があった。イルミから逃れたい一心の決断だったのかもしれないが、それは確かにキルアの心を動かした。

 

「ま、いった…」

 

 そうして、殺し屋兄弟の異例の対決は、リンという部外者の乱入によってあっけなく幕を閉じたのだった。

 

 キルアとイルミが控えに戻っていくのに合わせて、リンも武舞台から下がる。流石にここでゴン達と合流するのは気が引けるので、向かう先はネテロやメンチたちが見物する支配人席だが。

 

「まったく…修繕費は貰いますからね、リンさん」

 

 階段を上がり吹き抜けの上階から見下ろすメンチたちの下に行けば、真っ先に叱責と共に出迎えたのはビーンズだった。

 その目は典型的な呆れ顔といった風であり、彼が今から修繕手続きと必要経費に頭を悩ませているのは言うまでもない。流石に申し訳ないとは思っているので、苦笑いと共に心を込めて謝罪しておく。

 

「えへ、ごめんなさいビーンズさん…」

「にしても本当あんた、やっちゃったわねぇ」

 

 メンチの言葉にサトツやブハラにリッポー、イモコとイトコまでも無言で軽く頷いた。唯一ネテロだけが真剣な表情で黙り込んでいる。その顔が面白いと言いたいのを必死に隠している時の表情だとわかっているため、リンは敢えて黙殺した。

 潜入試験官の存在は一般にも周知しておらず、完全な極秘任務だ。にもかかわらず落第したと受験生に思われている中、天井を突き破って登場してしまった。これが最終試験で試験内容の性質上、落第者が一人しか出ないのが不幸中の幸いだろう。

 

「あんな試験内容とメンツなのに私を真上の部屋に置いた時点でこうなるのわかるでしょ。むしろここまでよく我慢した私。偉い私」

「堂々と言うなし」

「任期は終わってたし、セーフ」

「余裕でアウトよ」

 

 ここまで派手に登場してしまった以上仕方ないと開き直ったリンとメンチの漫才が繰り広げられる間にも、次の試合が始まろうとしていた。残る試合は二つ。まずはレオリオ対ボドロだ。

 

「てか、その声で女言葉はキモイわよ」

 

 緊張した面持ちでレオリオを見つめているリンに、メンチが追撃の一言を食らわせた。メンチの言葉を思い切り無視して、リンは観客側から低音ボイスで目一杯の声援を送る。

 

「レオリオー!頑張れー!あんたならできるわー!!」

 

 ニアの女言葉に寒気が走ったレオリオが、ボドロの目の前で派手に転んだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ねえキルア!」

「…」

 

 イルミとの試合から、キルアは何も言わない。俯いているために顔は見えないが、イルミの言葉が相当に心に残っているようだった。

 少しでも元気になってほしくてゴンはキルアの顔を覗き込む。

 

「キルア!俺は簡単に殺されないから!」

 

 いつものキルアなら、そこでクールにツッコミを入れるか何かしらふざけて笑ってくれるのだが、今回に限っては何も反応がない。

 暫く黙って見つめていると、震えながら小さく、か細い声が聴こえた。

 

「無理だ。兄貴には勝てない」

 

 なぜそんな事を言うのか、理由はわからない。だが、それを聞いたゴンは思い切りキルアに頭突きをした。ガンッと鈍い音が響き、一瞬全員の眼がゴン達に向く。痛みに耐えかね、思わずキルアもゴンを睨みつけた。

 

「ってぇな!!」

「もう!キルアらしくないよ!俺だって、クラピカだってレオリオだっている!ニアだってほら!」

 

 そう言ってゴンが指さした先にはニアが試験官の一人と談笑している姿があった。二次試験の試験官だった女がニアと親しいとは思わなかったと、ゴンは勿論キルアも少しばかり思う。

 指をさされたニアがゴンに大きく手を振るのを見届け、ゴンは自分に間違いはないと言わんばかりにふんすと鼻息を漏らして言った。

 

「何でかわからないけどあそこにいるじゃん!五人寄れば何とやらだよ!」

 

 そこまで言った辺りでゴンはふと気づいた。五人寄れば何だっけ?と。どうやら、人数が違う上に言葉も忘れてしまったらしい。

 うんうんと頭を抱えて思い出そうと考えこむゴン。頭からぷすぷすと煙が出てきたため、キルアは堪え切れずに噴き出した。

 

「何とやらってなにがあるんだよ」

 

 そう言ってからはっとして、おずおずと顔を前に向ける。そこにはとびきり嬉しそうな顔をしたゴンが居た。

 

「やっと笑ってくれた!」

 

 そしてキルアの隣で壁にもたれ掛かり、レオリオ達の試合を観戦する。武術はボドロが圧倒的だが、筋力をはじめとする身体能力ではレオリオに分がある。ボドロの負傷もあり、形勢はレオリオに傾いていた。

 

「冗談はともかく、ニアがキルアの兄に匹敵する強さなのは間違いないだろう。ゴンの話ではニアは四次試験で互角にヒソカと戦っていた。…それに、私は彼に手も足も出なかった」

 

 試合から目を離さずもゴン達の会話を聞いていたクラピカが、難しい顔で腕組みをする。試験を共にしてきた仲間の事を悪く言いたくはないが、怪しんでいるのも隠せないといった口調だ。

 それはヒソカのプレートを獲ったゴンも十分に承知していた。口にこそしなかったが、ニアの強さはヒソカやイルミと同等のものだ。

 

「それほどの強さにもかかわらず四次試験で落ちるとは思えない。なのに私にはプレートを渡し、自らはあっさりと落第…何より明らかに試験官達と親しい。元々関係者だったのだろう」

 

 この試合は辛くもレオリオが勝利、そして残る最終試合はキルアがあっさりと勝利したのだった。

 

 医務室にボドロが運ばれ、場に居る全ての人間が新人含めたハンターのみとなったところで、ビーンズが講習会へと合格者たちを誘導する。ライセンスに刻む名前を申請し、講習を受けている間にカードを作成するらしい。下手をすれば数日はかかるかと思われた試験だったが、早朝から開始したのもあり一日で全てが終わってしまった。

 

「…何?」

 

 連れだって講義室へと向かう中、無言で前を通り過ぎたイルミの腕をゴンが思い切り掴んだ。初めは無視しようかとも思ったようだが、ギリギリと掴まれて流石にイルミもゴンへと眼を向ける。

 

「イルミ!キルアに謝れ!」

「何で?」

「おいゴンやめろ!」

 

 激昂するゴンに、心底理解できないといった様子で表情を変えないイルミ。それがハッタリではなく紛れもない本心だと理解したゴンは、更に青筋を額に浮かべる。イルミの恐ろしさを知っているキルアが必死で制止するも、イルミの態度にゴンは完全に頭に血が上っていた。

 

「何で…?そんな事もわからないの!?」

 

 そう言うと、ゴンはイルミの腕を強く握りしめ、窓に向かって叩きつけた。

 そこまで耐久性に優れていなかったらしい窓はいとも簡単に割れ、イルミの身体は外へと飛ぶ。受け身を取り着地したイルミだったが、ゴンに掴まれた腕が折れた事に気づき少しばかり苛立ちを募らせた。そんな事は気にせず割れたガラスの内側から一歩踏み出し、ゴンがイルミを怒鳴りつける。

 

「家族だって、友達を作る事に口出しする権利なんかない!今までキルアにやってきた酷い事、全部謝れよ!やりたくない事を無理やりやらせて、キルアが辛い思いをしてきたのはお前らのせいなんだろ!?」

 

 イルミがゾルディック家を守るために引いている線を、ゴンは大きく越えてきた。キルアに悪影響を及ぼすどころか、このまま成長すればゾルディック家を脅かす可能性すらも孕んでいる。

 

(ゾルディック家に害を及ぼす可能性が高い。…やっぱり殺すか)

 

 リンが度々話していた弟であるゴンが持つ才能は、イルミから見ても類まれなるものだった。歴代最高傑作と評価されるキルアと足並みを揃えられるであろう程に。なるほど、リンの言葉は只の溺愛故ではなかったとも思うイルミ。

 不安の芽は早いうちに摘んでおくにかぎる。そう判断したイルミはオーラを手に纏わせた。悪意が籠った手がゴンの目前に迫る。反射的に危険を感じて跳び退きかけたゴンだったが、それよりも背後からイルミの腕が掴まれる方が早かった。

 

「そこまで。イルミ、あんまりうちの弟を虐めないでくれる?」

 

 いつの間に移動してきたのか、青空の下にニアの姿があった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「だから誰、君」

「ん?…あー、約束守ってくれてんのね。もういいわよ、バラしちゃって」

 

 イルミの言葉が『取引』を守り続けてくれているためであると気づいたリンは、さっくりと言った。それを聞いたイルミも「あっそ」とさっくり返す。

 

「そうだニア!何でここに居るんだよ、てかなんだその話し方…」

 

 試験官達と共に観戦していたリンに声をかけるタイミングが無かったレオリオが、ここにきて言えなかった疑問を口にした。他の受験生たちの目も一斉にニアの姿をしたリンへと向く。

 

「っと…どこから話そうかな…」

 

 試験が終了して全員がプロハンターとなった今、もう正体をばらしてしまっても構わない。だが、まだ自分は声も低く体格も良い完全な男だ。

 どうやって説明しようかと考えあぐねていた時、自身の身体に変化が訪れるのを感じた。

 

(やっとホルモンクッキーの効果が切れたか…ちょっと遅過ぎるけど、まあタイミングとしては丁度良いわね)

「…姉さん?」

 

 どうやらギリギリのギリギリでゴンにはばれてしまったようだ。…と思ったが、よく考えたら堂々と「弟」と言ってしまっていたのだったと思い出した。ゴンの呟きに小さく笑い、その変化に身を任せる。

 

 身長が縮み肩幅が一回り小さくなった。身に着けていたワイシャツがぶかぶかになると思われたが、胸も膨らみ女性らしい体躯になることで少し大きめのシャツ程度の見た目でバランスが取れている。ズボンがぶかぶかになってしまうのは仕方ない。

 

 突然姿を変え始めたリンを、試験官とイルミを除くその場の誰もが啞然として見守っていた。少し前にイルミが針で顔を変えるのを見ていたが、それとは根本的に異なる肉体からの変化、性別の変化。合格したばかりのルーキーハンターたちが理解するには、知識と経験が足りなかった。当然だろう。それに使われている技術は、全て一般常識の一線を飛び越えたものなのだから。

 オーラで変化させていた髪色は頭を軽く振りながら元に戻す。数日前クラピカに褒められた真っ赤な髪は、見る間に濡羽色へと染まっていった。なかなか言う事を聞いてくれない硬質の黒髪を前髪ごとポニーテールにまとめ上げたあたりで、身体が完全に元に戻る。習慣と化しているメイメイを具現化して肩に乗せ、リン=フリークスは誰もがよく知る姿になった。

 

「ゴン、ハンター試験合格おめでと!レオリオとクラピカ、キルアも!!本当、自分の事みたいに嬉しいわ!」

 

 そう言って笑いかけると、ゴンは驚きと喜びが入り混じった複雑な表情をした。視界の端で青い果実がリンだったとわかったヒソカが苦い顔をしているが、リンは気にしない。

 

「おい!お前ゴンの姉ちゃんだったのかよ!?じゃあニアって何者だ!?」

 

 指差して叫ぶレオリオのおかげで、自己紹介する必要に気づく。この場の殆どの人間にとって、リンは突然現れた謎の人間だ。急に姿を変えたニアとの関係も含め、誰もが疑問符を頭に浮かべていた。

 

「ハンターになった諸君には話しても問題なかろう、潜入試験官じゃよ」

 

 合格者たちの背後からネテロがそう答えた。ずっと黙っていた種明かしのところなのに一番おいしい一言を持っていったと、ネテロをじとっと睨みつけるリン。ネテロはそんなリンには目を合わせず、さもその説明が自分の役割であるかのように髭を撫でながら仰々しく話す。

 

「数年前から、試験官とは別で極秘にプロハンターを潜入試験官として受験生の中に紛れ込ませておる。彼らは身元がばれないように変装しており、誰が潜入しているかは試験官すらも知らなんだ。条件は諸君らと同じじゃ」

 

 メンチにはすぐさまバレたが、リンとメンチは目配せをして黙っておくことにした。別にやましい事はないが、叱られるのが面倒だからだ。

 

「潜入試験官にはそれぞれ特定の試験まで任務を務めてもらっておる。そうして内部から試験官の不正監視と目ぼしい人材の発掘補助をしてもらっておったのじゃよ」

 

 そう言ってネテロは背後に居たイモコとイトコを目で示した。見覚えのない顔だが彼女たちも受験生として紛れていたのかと、ルーキーたちはどよめく。

 ネテロは今ので十分満足したらしい。それに、ゴン達がリン本人の口から事実を聞きたがっているのが目を見て分かった。

 

「改めて自己紹介しようかしら。リン=フリークス18歳。ゴンの姉で、シングルの異文化(カルチャー)ハンター。今回はハンター試験の潜入試験官って事で、『ニア』って偽名を使って四次試験まで皆と行動を共にしてました」

 

 自己紹介くらいイキったっていいだろう。軽く自身の髪を手櫛で梳き、ぐるりと新たな同僚たちを見渡した。今年のルーキーは結構骨がありそうじゃん、なんて先輩ぶった事を考えながら。

 

「Nirを並べ替えるとRin…そういう事か」

「Rinも実名ではないしちょっと無理やりなアナグラムだったのに、流石ねクラピカ」

 

 いち早く状況を理解したクラピカに微笑みかけるも、まだ数々の疑問を残し得体のしれないリンを見るクラピカの表情は固い。内心少し傷つくリンである。ちなみにリンの正式名はLynn。Rinはマロン式の表記だ。

 だがクラピカもレオリオ同様にわからない事だらけだったらしく、疑問のいくつかを解消するために小さな口を遠慮がちに開いた。

 

「キルアの兄と知り合いなのか?」

 

 そういえば今はゴンとイルミが揉めているのを止めた所だったと、その言葉に思い出した。知り合いと言うにはもう少し仲が良いが、ここでリンが『友達』なんて言ったら「自分は友達を作っているのか」とややこしくなるのが目に見えている。

 

「あ~…どう説明したらいいのかな。幼馴染みたいなもんなのよ」

「違う、金払いの良い顧客だよ。ちょっと付き合いが長いだけ」

「少しは気遣え馬鹿」

 

 すかさず訂正するイルミを軽く蹴り飛ばしいつものように言い合った後、本題に戻る事にする。

 

「で、話を戻すけど、ご存じの通りこの子は私の可愛い弟なの。…殺したらただじゃおかないから」

 

 ぎろりと睨みつけるリンの目は本気だ。もしもイルミがゴンを殺したなら、リンは容赦なくイルミに報復しにかかるだろう。

 近くに居たクラピカ、レオリオ、キルアはその瞳とオーラに圧倒されて少し後ずさり、ヒソカは青い果実への絶頂感とリンへの不快感でジレンマに陥っていた。

 

「…オーケー。食べ物と弟絡みのリンはハイリスクだからね。水に流してあげる」

「さっすがイルミ。お礼に、ゴンを出汁にしてキルアを脅してたの許してあげる」

 

 リンとイルミからすればいつものやり取りなのだが、ゴンとキルア、そして他の大勢からすれば(それでいいのかい)と思ったのは当然だろう。当事者のゴンは怒りも忘れてしまいリンとイルミの顔を交互に見ている。

 

「ていうか、俺もゴンに骨折られたんだけど」

「あーやっぱり?ゴン、謝っときなさい」

 

 ぼけっと二人を見ていると突然矛先が向いて狼狽えるゴン。だが、イルミに謝る気は毛頭ない。

 それだけははっきりと言えるため、「キルアに酷い事する奴なんかに謝らない!」と言い切った。リンも、ゴンの強情さはよく知っているしイルミが悪いよなこれ…と思いつつ、この一件を終わらせてしまいたいので雑に宥めにかかる。

 

「思ってなくても形だけでも謝っとくのよ」

「嫌だったら嫌だ!」

「ゴン!イルミってばしつこいから、ここで手打ちにしとくのが一番楽なの!」

「それでも嫌だ!!」

「ねぇ、丸聞こえなんだけど」

 

 イルミの文句をよそに口論を続けるリンとゴン。呆れたメンチ達が先に合格者を誘導していく中、ネテロの更に背後から緑のラスボスがぬらりと顔を出した。

 

「…姉は天井、弟は窓ガラスですか…」

 

 その表情は鬼の様に怒りに満ちている。ゴンの分のガラスもリンが立て替えることになるのは確実として、それより前に命がなくなるのではないかという悪寒に襲われるリン。ビーンズ、非念能力者でありながら恐るべし。

 

「すいませんビーンズさん!ほらゴン謝って!イルミはどうでもいいから!!」

「わ、わかった!ごめんなさいビーンズさん!」

「だから丸聞こえなんだけど」

 

 そんなわけで、最終試験におけるイルミ騒動はビーンズによって無理やりまとめ上げられたのだった。

 

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