リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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新米師匠編
パドキア旅行を楽しんだり


 空港は意外と近くにあった。全員で観光ビザを取得し、パドキア共和国へ向かう。

 一番安い乗船券を購入したため個室やベッドなどはなく、座席で三日間を過ごす事になる。向かい合った四人席の窓際に腰かけて窓辺に頬杖を突きながらリンがぼやいた。

 

「安いとはいえ風呂入れないのは、乙女としては辛いわね」

「そんなこと言って、四次試験では一週間入らなかったじゃん」

 

 釣り竿の手入れをしながらツッコミを入れるゴン。

 最安価の座席にはシャワールームの使用権が付与されていない。室温は快適に保たれているため汗もかかず、そもそもハンター業をしていて毎日風呂に入る方が難しいため実際はそこまで不満にも思っていないが、ゴンとじゃれるのが楽しくて言い返すリン。

 

「あれも本当は嫌だったのよ?次からは浴室付きの試験にしてほしくない?」

「もう受かったから、試験を受ける事ないけどね…」

「わっかんないわよぉ。私みたいに試験官やるかもしれないし」

 

 リンとゴンの会話を、クラピカとレオリオは少し驚きながら聞き入っていた。二人の会話がいかにも姉弟のそれである事(実際そうなのだが)、リンのキャラがニアと異なる事が意外でしょうがなかったからだ。

 彼らにとってニアはところどころ激情的な所がありながらも、基本的には冷静で物静かな青年というイメージだった。リンは逆に少し冗談めいた物言いが多く、その一方でイルミに対峙した時のようにいざという場面で鋭い眼光を放つ。まさに真逆だ。

 そう思いながら、笑って会話を続ける二人を交互に見比べる。外見に関しても、改めて見れば確かにそっくりだ。髪の生え際や髪質といい、瞳の色といい、完全に血縁者のそれ。知ってしまうと、なぜニアの状態で気づかなかったのかと思わせられる。

 

「なんというか…本当に姉弟なのだな…」

「ん?そうよ?」

「あ~、クラピカの言う事わかるぜ…あとリン、なんかキャラ違くねえか?」

 

 二人の言っている意味が分からないリンはきょとんとしている。意味が分かったゴンはへらっと笑って解説した。

 

「姉さん、ちょっと人見知りなんだ。男だったのもあってキャラがぶれてたんだと思うよ」

「あー!また要らん事を言って!!」

「なんで怒るのさ~仲良くなれたんだし、よかったじゃん!」

「てか人見知りって思ってたの?ちょっと姉ちゃん傷つくんだけど!」

 

 ぎゃいぎゃいと姉弟喧嘩をするリンとゴン。騒がしい乗客に乗務員が若干目を付けているが、当人たちはそこまで気にしていない。特にリンは弟から『人見知り』と断言されたことがじわじわダメージになっているのでそれどころではない。

 リンを女である事をここで思い出したレオリオ。同様に気が付いたらしいクラピカだが、性格が邪魔をして尋ねる事はできない。結果的に、リンに明け透けな質問をするのはレオリオの役目になる。

 

「そうだ女!リン、お前…風呂一緒に入ったじゃねえか。…あの時、生えてたよな?」

「え?…あ~、そうね。期間限定の息子さん…」

 

 気まずさから目を逸らすリン。気まずいのは裸を見られたからではなく裸を見たからなのだが。

 

「…まさか、試験の変装のために手術を?」

「してないしてない!正真正銘女!体格変わったの見てたでしょ?身長も縮んだし!」

 

 あらぬ嫌疑をかけられ、慌てて否定する。目の前で変化を見ていたため、レオリオとそう変わらなかった高身長が今はクラピカより少し低い程度まで縮んでいる事も、ワイシャツ姿だったリンの身体が女性らしい曲線になった事も、知っている。

 しかし普通はそんな魔法みたいな現象は起きない。いったいどんな手を使ったのかと疑う三人に、キルアも居ない場でまだ念の事を話すわけにはいかないリンは苦し紛れに答えた。

 

「…ハンターだからね!!」

「そうなんだ!すごいや姉さん!!」

 

 弟は純真だ。こんなクソみたいな言い訳でも信じてくれるのだから。その横でクラピカとレオリオはまだ信じられないといった顔をしている。当然である。

 

「…ハンターになると性転換が自在にできるのか」

「ま、クラピカは簡単にできそうだけどな」

 

 地雷を踏んだレオリオがぶん殴られたのは言うまでもない。

 

「でもまぁ、あんたら皆『ゴンに似てる~』って言うからひやひやしたわよ。本当鋭すぎる」

「確かに、今思えば大正解だったのだな」

「…ふぉうふぁふぁ(そうだな)」

 

 思い返すほどに、あの時バレなかったのが奇跡で仕方ない。流石に哀れなのでレオリオにビスケお墨付きの軟膏を渡すと、レオリオはぶすくれた顔のままだが素直に受け取った。

 

 リンが心配していたよりもわだかまりはなさそうだった。ゴンは言わずもがな、レオリオはニアだった時と同じ調子で接してくれる。クラピカだけがやや表情が硬く時折思い悩んだような表情を見せるものの、彼も表面上は問題なく接してくれる。

 クラピカの事は引っかかるが、それでもリン達は楽しくパドキアへの旅路を進んでいた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 飛行船を降りてククルーマウンテン行きの観光バスに乗り、揺られる事およそ1時間。観光バスはククルーマウンテンの麓で停車した。

 朗らかに暗殺一族の解説をするバスガイドをよそにゴン達が門を開けようとするが、押しても引いてもスライドしても開かない。しまいには面白がって他の観光客も同じことを始めたが、やっぱり扉が動く気配はない。

 

「あれー?開かないね」

「ならば、これは見かけだけの門か。実際の門はあそこの鍵付きの扉…という事か?」

「んだよ、金持ちのでけぇ門だと思ったのに、とんだ見掛け倒しだな」

 

 この場にはリン以外に門の仕組みを知る者はいないらしい。リンが面白がって黙っているとは露知らず、クラピカの言葉に従ってその場の全員が眼を向ける。

 視線の先には貧相で事務的な扉が錠付きで備え付けられていた。門の大きさのせいで普通の扉でもやたらと小さく見える。

 

(…あら、観光客にしては完全に堅気じゃない雰囲気)

 

 リン達以外の観光客は全員が一般人だと思っていたが、よく見れば違ったらしい。アマチュアハンターらしきワイルドなファッションの男が二人、かなり人相の悪い顔を扉に向けている。

 大方、ゾルディック家の人間を殺しに来たのだろう。知名度を上げるために一族を狙って山に来る人間は多い…らしい。

 

「やめた方が良いわよ。番犬に食べられちゃうし」

「はっ、何言ってんだこのアマ」

「忠告してんのよ。あの扉を開けたいんでしょ?私は言ったからね?」

 

 昔イルミに聞いた話を思い出しながら、あくまで親切心で忠告しておく。別に、素直に聞いてくれるとも思ってないが。

 

「俺達ゃ遊びに来たんじゃねぇんだよ」

「違うの?じゃあ何しに来たの?」

「…ゴン、お前が思っているより、ここは気軽に来る場所ではないのだよ」

 

 純粋な瞳で粗野な男たちに質問するゴン。ゴンの中ではこの山に来た理由はあくまで友達に会うためなのだが、それが異端側であるのは言うまでもない。イマイチ話が噛み合わない中、クラピカが冷静にツッコミを入れる。

 

「そりゃあ、殺しに来たんだよ。有名な殺し屋を殺せば、俺達の名もあがるからな」

 

 そこからの展開は予想通りだ。門の端に備え付けられていた小屋から守衛らしき初老の男を引っ張り出し、鍵を奪って中に入る男達。

 数秒後には耳を劈くような叫び声が聴こえ、それも暫くすると静かになった。観光客達もざわざわと不安そうに共に来た者と囁き合う。

 更に数十秒後には骨だけとなった男たちの残骸が扉から放り出された。ご丁寧に肉だけを食べたらしい獣の手は、そのまま扉を閉めて内側へと引っ込む。

 

(言わんこっちゃない)

 

 観光客はパニックになって押し合いながらバスへと戻っていく。辛うじて避難誘導をするバスガイドを「あ、私たちは大丈夫でーす」と言いながら見送り、さっきまで尻もちをついて呆然と…そんな演技をしていた男に眼を向けた。

 

「ミケー!太っても知らないよー」

 

 普段はカラフルな視界が嫌で極力絞っている精孔を少しばかり開く。予想通り、小太りな外見とは裏腹に男は一般人とは比べ物にならないオーラを漲らせていた。筋力も並みの者とは比べ物にならないだろう。

 ゾルディック家の関係者だと判断したらしいゴンが男に近づき、門を指さす。

 

「おじさん、何でこの扉は開かないの?」

「そりゃあ、開けるだけの力が足りないからだよ」

 

 ゴンの様子を見て悪人ではないと判断したのだろう。落ちていた鍵を拾いながら愛想よく答えた男は、ネームプレートにゼブロと表記されている。

 驚かせるためにここまで黙っていたが、そろそろネタばらしをしてもいいだろう。そう思い、リンも扉を見上げるゴンの下まで歩み寄った。

 

「そういう事。1の扉から7の扉まで、トン単位の重さよ。最低でも2トン…だったかな」

「トン!?嘘だろ!?」

「おぉ、お嬢さん詳しいね」

 

 レオリオの叫びを筆頭として、リンの言葉にゴン達が驚いたのは当然のことだ。更に「まあね。せっかくだから私が開けちゃおうかな!」とリンが言うと、ゴン達だけではなくゼブロまでもが目を見開いた。いつもミルキに会う時はさっさと門を開いて入っていたので、ゼブロがリンを知らないのも無理はない。

 

「君がかい?無茶しない方がいいよ」

「大丈夫ですよ、心配ありがと」

 

 そう言うとリンは門の傍まで歩み寄り、自分の身長の何十倍もあるそれを見上げた。

 気合を入れて巨大な門を思い切り押す。即座にズズ…と、リンが押す扉が動き始めた。1.2.3…と小さい門から順々に開いていき、最終的に全ての門がリンの手によって押し開かれる。

 

「…これは驚いたな」

「姉さん凄い!!」

「…ほんとにゴリラだったぜ」

 

 レオリオを軽く蹴り飛ばし、扉を押さえながらゴン達が中に入るのを待つ。リンの姿を認めた巨大な猛獣が大きく尻尾を振りながらリンの下まで近づき、従順な態度で伏せた。

 

「ミケ!久しぶりー!!」

「…お嬢さん、ただ者じゃないね?」

 

 試しの門を全て開き、主以外誰にも懐かないとされる番犬に服従のポーズを取らせる。ゼブロの様な使用人であれば、リンがゾルディック家の関係者に近い人間であろう事は簡単に予想がつくだろう。全員が潜り抜けた扉を閉めながらゼブロに返事をするリン。

 

「まぁ…昔ここに預けられていて」

「そうか…じゃあ君がリン様か!」

 

 そう言うとゼブロは自己紹介した上で改めて一礼をした。ゾルディックの人間ではないが貴重な客人だと判断したらしい。

 

「姉さんを知ってるの?」

「有名だったからね。ゾルディック家に小さな女の子が預けられたって。使用人も皆心配していたよ。父親は何を考えているんだって…おっと失礼」

「いえ、誰でもそう思いますよ」

 

 使用人の間で噂になるのも仕方ないだろう。有名な暗殺一家に幼い娘を預けた父親が居れば、誰でもそんな反応になる。

 相変わらずリンに対してのみ硬い表情だが、クラピカが代表してその詳細を促した。

 

「…そういえば、イルミと幼馴染だと言ったな。キルアを幼少期から知っているとも。あれはどういう事だったんだ?」

「まぁ、身内の恥みたいな話なんだけどさ、1年ちょっと…2年くらいかな?育児放棄親父の伝手でゾルディック家に預けられてたのよ…ゴンが生まれる前後の時期に。だからキルアが生まれた時もその場に居て色々面倒見てたってわけ」

 

「オムツも替えてた」と付け加えると、我慢できずに三人が噴き出した。あの生意気なキルアがそれを知ったらどんな顔をするかと想像してしまったのだ。

 ゴンもケラケラと一緒に笑うが、「あんたもでしょ」とリンが軽く小突くと大人しくなる。それを見て二人はまた噴き出した。

 

「それで、君たちは何をしに?」

「俺達友達に会いに来たんだけど、キルアって知ってる?」

「はぁ…!キルア坊ちゃんに友達!嬉しいねぇ…」

 

 感慨深く呟くゼブロ。ゾルディック家に詳しい人間なら誰もが知っている。特にここに来る人間をずっと見続けてきたゼブロは猶更だろう。

 通常、暗殺一家を訪ねてくる人間は殺し屋か依頼人か同業者か、何にせよ碌な人間が居ない。そもそもゾルディックの人間が友人という存在を作らないのだから、友人が訪ねてくるわけがないのだ。

 

(私もミルキとイルミの友達でーすって言っておいた方が良いかしら…?)

 

 何となく友人としてフォローを入れたい気持ちになるが、当の本人たちは一切気にしていないであろう事は明白なので黙っておくことにするリンである。代わりに知ったかぶりをして偉そうに腰に手を当てた。

 

「ま、でもここを開けられなかったらお話にならないわよ?当然、キルアを迎えに行く資格もないとされる」

「このまま行くんじゃねーのか?」

「あの門の名前、『試しの門』っていうの。ゾルディックの人間は勿論、関係者含めてあの門で腕試しをしてるのよ。…ズルして入っても嬉しくなくない?せめて三人で一の門くらいは突破できないと」

「そりゃそうだけどよ…」

「俺!やりたい!門を開けてキルアに堂々と会うんだ!」

 

 やっぱりゴンは天使だ、と思わずゴンの頭を撫で繰り回す。積極的なゴンの姿を見て、初めは納得いかなかった様子のレオリオとクラピカも考えを改めたらしい。

 

「…そう言われちゃ、渋れねぇな!気合入れて筋トレしねーと」

「それなら、うちで特訓すると良い。筋力トレーニング用の道具なら沢山揃っている」

「いいの?」

「嬉しいんだよ。坊ちゃんを友達と呼んでくれる人が現れて。手伝いくらいさせてくれ」

 

 思ってもみなかった申し出だ。リンを含め、全員が頭を下げた。それならとゼブロが背を向けて門の外に戻ろうとするが、リンだけがそれを断る。ゴンが首を傾げてリンを見上げた。

 

「私はちょっと屋敷に行ってくるわ。長期滞在になるし、挨拶くらいしておきたいからね」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 予め連絡を入れていたおかげで屋敷にすんなりと入れたリンは、執事の案内に従って客間でお茶を飲みながらのんびり待っていた。ミルキはいつものように数十分は待たせるだろうと予想していたからだ。

 しかしその予想は大きく外れ、数分もしないうちにミルキは大急ぎでやってきた。暗殺者のくせにコミハン以外で運動の類をしない身体で走るのは堪えたらしく、ひょろりとした身体でぜぇぜぇと息を切らしている。(黙っていれば美形なのに。あとBL漫画を描いてなければ)と心の中で思うリンだ。

 

「早かったわねミルキ。久しぶり」

 

 物凄い勢いで現れたミルキに驚きつつも取り敢えずは挨拶だけしておく。しかし長年の幼馴染はリンを見るなりどんとテーブルに手を着いて捲し立てた。

 

「おいリン!そんな事言ってる場合じゃねえぞ!」

「へ?」

「さっきお前がこっちに来てるのを知ったパパが!!「リンをうちの嫁にできないだろうか…」とかじいちゃんと話してたのが聴こえたんだよ!」

 

 思わず飲んでいたお茶(リンの希望により毒入り)を吹き出す。それをもろに顔に浴びたミルキだが、衝撃的な情報のせいで互いにそれどころではない。

 

「はああああ!!!?嫌なんですけど!!」

「俺だって嫌だよ!お前が義姉や義妹になるとか生理的に無理だし、嫁になるとか言われた日には首吊って死ぬわ!!」

「いやそれ私に失礼過ぎるけどマジで同意!…ていうか誰の嫁?」

 

 散々な言われようだが、趣味に関しては物凄く気が合う二人だ。幼少期から知っており共に暮らした時期も長かったため、こんな暴言の嵐でも見た目よりは仲が良い。友人か同志か、二人の互いへの認識はかなり違うが。

 

「年齢的に考えたらイル兄か俺、あーでも少し早いならキルもありえるか。…長男だし本命はイル兄じゃね?」

「無理無理無理!イルミはヒソカとデキてんだから!」

「…は?」

「…え?」

 

 リン渾身の叫びに、部屋の中を微妙な空気が流れる。言葉の意味をミルキが察するのに数秒を要した。

 

「いや、お前の妄想の話だよな?」

「うん。ちなみにキルアはうちの弟とデキてる。フリーなのお前だけな」

「それも妄想だよな?」

「うん」

 

 今の言葉と今回の問題点を繋ぎ合わせるのに更に数秒を必要としたミルキ。しばらくして理解するだけ無駄と悟り、大きくため息をつく。

 

「…俺、お前のそういうとこすげーと思うわ。尊敬はしねえけど」

 

 暗殺一家の人間に称賛される人間はそう多くないだろう。明らかに嫌味だし失礼な一言も付け加えられているが。

 

「ともかく、無理なモンは無理よ。シルバさんに直談判に行かないと!」

「…そうだ!お前のとこの親父が断ればいいんじゃねえ?」

「うちのクソ親父がそんなんまともに取り合うわけないじゃん!「おーもってけー」で終わりだわあのクソ野郎無精髭引っこ抜いてやる!」

「そうだったー!」

 

 リンからすればそんなのは案ですらない。ちなみにそれはあくまでリンの予想であって、実際そう言われたらジンは「あん?親父の許可なく何勝手に決めてんだよ俺はそんな式絶対出ねーからな!」と拗ねるのだが、リンがそれを知る事はない。

 他者の助けを借りられない以上、自分の力で何とかするしかない。リンは数秒の葛藤の後に静かに目を開き、覚悟を決めた。

 

「…ミルキ、一時の恥と一生の屈辱ならどちらを選ぶ?私は前者よ」

「そりゃ前者だ。つーかお前と家族になるくらいなら何でもしてやるよ」

「いいわ、私に考えがある」

 

 そして相談すること数分。ミルキを先導として、緊張した面持ちの二人はシルバの自室に殴り込みに来ていた。

 死にはしないが、社会的には死を覚悟している。それくらい、今回の事件を解決することは二人にとっても重要性が高い。

 

「シルバさん、お久しぶりです」

「リンか。大きくなったな」

 

 部屋の中にはシルバしかおらず、いかにも殺し屋といった雰囲気の(リンに言わせれば)悪趣味な部屋でリンとミルキは仁王立ちになった。死地に赴くような顔つきの二人を怪訝そうに見ながらも、シルバは近くまで来いと手招きをする。

 

「パパ、話があるんだけど」

「ああ、丁度良かった。俺達も話があったんだ」

「嫁入りの話ですか?」

「なんだ、知っていたのか。お前くらい優秀な人間なら是非ともうちに来てほしい」

 

 どうやらミルキの情報は正しかったらしい。嫁入りというワードを自分で使っておいて、自分でダメージを受けるリンである。

 そして思ったよりも友好的なシルバの態度に少しばかり心が痛む。しかしミッションを忘れてはいけない。ここで最も重要なのは、婚約の提案を破棄させることだ。

 

「…もしも私をゾルディックの嫁に入れたら、この屋敷及び執事用の屋敷まで全ての壁をBL本で埋め尽くしますからね」

「…?」

 

 証拠としてメイメイのポケットからリン達の会社で発行した大量の同人誌を取り出して山積みにし、シルバの前にどさどさと置いた。

 あらゆる漫画が原作ではあるが、共通点としては親子の恋愛を描いているというところだ。好きな人にはたまらないが、自分も同じように描かれたいと思う人はあまり居ないだろう。

 

「ゼノ×ゴトー、ゼノ×シルバ始めとしてジン×シルバのリバ18禁から息子たちの近親相姦モノまで壁を埋め尽くしますからね!」

「そうだぜ親父!」

「一冊250ページはいきますからね!」

「うちの会社で発行してやるからな!」

 

 ずいずいとぴったりの息でシルバに詰め寄るリンとミルキ。その剣幕とリンの念能力によって取り出された数百冊の同人誌(別漫画の親子モノ)を呆気に取られて見つめる。一番上に置かれていたドラゴンボールの親子が絡み合う18禁本を手に取ってぺらりと一枚ページを開くと、シルバは即座に己の行いを後悔した。

 

「…わかった。…良い話だと思ったんだがな…」

 

 そんなわけで、恥と引き換えに嫁入りフラグをぶった切ったリン。何か大切な物を失った気がしないでもないが、物事には優先順位というものがあるのだ。

 

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