リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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寄り道は楽し

「リンって念使うの器用だよね。拷問訓練はてんで駄目だけど」

 

 明らかに一言多い雑談は、ゾルディック家の庭(正確には樹海)で強化系の修行をしながら始まった。

 今日のメニューは大木削り。『周』をした木の枝で大木を攻撃し、大木を倒す事ができれば成功だ。レベル1が石割りだったのを思えばかなりレベルアップしたのを感じる。できるかどうかは別として。

 

「そう?」

 

 木こりの気分でえっさほいさと木の枝を打ち付けながら答える。元々転生オタクなので念に対する好奇心があるのは否定しないが、器用だろうか。

 

「わかる。こないだもオーラをロープに具現化させてターザンしてたし。あんな発想ふつーない」

「うん。オーラを実体化させるって概念、初めて知った」

 

 早々にリタイヤしたミルキが木の枝を投げながら、大木を背に言った。

 大木はミルキの攻撃ではびくともしなかったようだが、出会ってから1年の間にすくすくと育ったミルキに背もたれにされると、どしんと大きく揺れた。彼の傍らには常にポテチが常備されているから育つのも仕方ない。今日はコンソメ。

 

 実際、オーラの修行は私が唯一2人に勝てる訓練メニューだった。まあ、暗殺歩法とか体の変形とか、おおよそ普通に生きていたら必要としない訓練で勝つ方が無謀なのだけど。 その分というか、オーラ総量や操作では私が圧勝だった。たぶん私がオーラ使うの得意なんだと思う。

 

「才能かしら」

 

 ドヤ顔でぷぷっと笑うとミルキに石を投げられた。

 ちょっと。今の、軽く銃弾みたいなスピードが出ていたと思うんだけど。プロなら気軽に人を殺そうとするな。

 銃弾もどきの石は、反射的にオーラを纏った左手で叩き落とした。

 

「うるせぇ殺すぞ」

「殺されたくないでーす」

 

 殺そうとしてから言うな。

 

 んべっとミルキに舌を出した後、少し思い立って冷静に自己分析してみる。確かに、才能はあるかもしれないけど、そもそもイルミやミルキと比べて念を扱っている時間が長いと思った。暇があればイボクリとか堅とかしている。漫画読みながらとか、ながらでもやってる。あとはオタク的試行錯誤。前世からいろいろ考察してたから、試してみたくてしょうがなかったのだ。

 

「念って私にとっては遊び道具だからね。2人よりオーラで遊んでる時間が長いからかも。能力作っちゃ駄目って言われてるし、能力にならない範囲で、オーラで何でもできるようになりたい」

「オーラをおもちゃにしてもなんも面白くないだろ。ゲームの方が良い」

「オーラか本しか遊び道具無かったから。家庭の事情でね」

 

 ミルキのブーイングを原作のキルア名言で返してみたが、私が言っても彼らの心には響かないようだ。

 

「まあ、家庭色々だよね。うちも人の事言えないし」

 

 ズバン、と枝で大木を切り倒しながら、でもそんなすごい事をしているのに声のトーンは一切変えず、イルミが言った。自分の家が変って自覚あったんだこの人。

 

「イルミって達観してるよね。私、イルミの歳で仕事するのやだもん。殺しとかなおさら」

「そう?俺は家業に誇り持ってるよ」

「凄いね」

 

 この時点でのイルミは、思考回路こそ読めないしマイペース過ぎるくらいマイペースだけど、仕事とかに対する考え方は比較的まともな気がする。子ども特有の好奇心も多少は持ち合わせてるし。少なくとも針人間とかは作らないと思う。

 

 キルアの事になったらちょっと過保護のケがあるけど、そこに深く関わり過ぎなければ私にも比較的友好的だ(あくまで『比較的』)。まあこれは、仲良くしろっていうシルバさんの指示もあるんだろうけど。

 

 キルアへの愛情と、それにもかかわらず反発するキルアをねじ伏せる支配欲がねじくり曲がって、今後原作みたいな性格になるのだろうか。漫画でもカルトとか、反発しない他の兄弟には普通のお兄ちゃんとして接してるし。

 

 でも、この家に暫く暮らしているから、私もイルミの気持ちは少しだけわかるようになった。

 

 たまにイルミやシルバさんが大怪我をして帰ってくる時がある。だから、小並感だけど、暗殺ってやっぱり命懸けなんだなーって思ったわけですよ。そんな職業に、感情という名の甘さは命取りだろう。キルアへの過保護は結果として当然とも言えると思う。

 まあ、針はやり過ぎだけど。長男特有の責任感を大分拗らせているよなぁ。

 

 話しながら大木を削り削りしていると、ゴトーさんが私たちを呼びに来た。今日も眼鏡の縁までピカピカにしている。

 

「リンさま。お父様がいらっしゃいました」

「え、嘘」

「…リンの親父ってホント唐突だよな。ふつーうちに来るなら、最低でもアポ取るぜ?うちが暗殺一家だって忘れてるだろ」

 

 6歳児に呆れられる父親が迎えに来たというわけだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「おー、お前ら大きくなったな」

「そりゃ、1年以上も会わなかったらね…」

 

 父さんは相変わらずだ。手に抱えてる物体を除けば。

 当の本人は何も変わらないかのように、イルミとミルキの頭を撫でている。雰囲気としては完全に親戚の遠慮がねえおじさん。

 父さんが抱えている物体を指差して、恐る恐る尋ねた。いや、何かはわかってるけど一応。

 

「…父さん、その抱えてるやつなに…?」

「あー?お前の弟だよ」

 

 …

 

 …

 

 …

 

 オトウト…。

 

 ゴンんんんんんんん!!!!!

 

 抱えられている物体はなんと、マイ・スイート・リトルブラザーであるらしい。本作の主人公にしてハンターになる男だ。そして私の弟だ。これ重要。

 シルバさんに寄こしたあんなシンプルな一文一つで、父さんはちゃんと詳細を伝えていたつもりだったらしい。『今更何言ってんだ?』みたいな目で見られた。解せない。

 

「抱いてみるか?」

「うん…」

 

 言われるがまま抱いてみると、ゴンは腕の中でふにゃふにゃと嬉しそうに笑った。

 やべえ可愛い。超可愛い。

 

 今この瞬間、『この世界の主人公』は『かけがえのない私の弟』として認定された。たとえ未来でゴン=サンになろうとも。ごりごりのまっちょまちょになろうとも。

 

「キルの方が数段可愛い」

 

 うるせえイルミ。私にとっては弟がベストオブ可愛いなんだよ。弟ってこんな可愛いんだ。前世では一人っ子だったから知らなかった。これは可愛い。本当に可愛い。天使っていたんだな。口に出すとイタいから言わないけど。思うだけは許してほしい。

 

 天使のはーねひーろーげー♪

まいあーがーれー(我が弟よ)

 なるほど、あの歌にはこんな解釈があったのか。

 

 イルミがキルアを一眼レフ持ち出して愛でる気持ち、わかったかも。針ぷすーはわからないけど。

 

「ゴン、私がお姉ちゃんだよ」

 

 そう言うとわかっているかのように微笑みかけてくれたゴン。もう命がけで守る。決めた、私がゴン=サンにさせない。

 

「ジンによく似ているな」

「おう。俺に似て強くなるぜ?お前んとこのガキもうかうかしてられねぇな」

「言ってろ」

「んじゃ、リン、行くぞ」

 

 散々シルバさんを煽った後、全く予告なしに出ていこうとする親父。礼儀がない。

 

「父さん!ちゃんとお礼言わなきゃダメでしょ!」

「ジン、娘に言われてるぞ」

 

 シルバさんににやにやと揶揄われ、「うるせぇ」とぶすくれる父。本当変わらねぇなこいつ。

 

 一時的なものだとわかっていたとはいえ、1年一緒に暮らしたゾルディック家の人といきなり離れるのはやっぱり少し寂しい。もう父さんと過ごした日数普通に超えてるし。

 

「シルバさん、キキョウさん、ゼノさん、ありがとうございました。イルミ、ミルキ、元気でね。キルアにもよろしく」

「キルは赤ちゃんだからよろしくって伝えてもわかんないよ。そもそもリンの顔も覚えてないと思う」

「…言葉の綾だよ」

 

 キキョウさんが物凄く喜んで追い出そうとしている他は、シルバさんもゼノさんも挨拶に応じてくれた。少し寂しそうにしてくれている。なのにイルミ、酷くない?

 横から投げつけられたマジレスに傷ついていると、ミルキがメモを取り出し何か書いた後、私にずいっと差し出した。

 

「俺のホームコード。お前携帯も持ってない野生児だから渡しといてやるよ。携帯持ったら連絡しろよ」

「ミルキ、ありがとう…」

「あ、じゃあ俺のも渡すよ。依頼くれたら割引してあげる」

 

 予想外の申し出にオタクとして、思わず目頭が熱くなる。推しの連絡先ゲットなんて…いいんすか?こんな胸熱展開?

 

「リン、良い友達持ったじゃねぇか」

「おじさん、友達じゃないよ。顧客候補」

「そーだよ。グリードアイランドやらせて貰えるかもしれないし、コネは作っとくもんだろ」

「…」

 

 父さんが珍しく親っぽい発言したと思ったところで、私の胸熱な気持ちは吹っ飛ばされていった。…まあ、顧客でもコネでも連絡できるのは嬉しいし。携帯買ったら連絡するか。いつ買うかわからんけど。

 

「…元気出せ」

「父さんは黙ってて!!」

 

 そんな締まらない締め方で、私のゾルディック家生活は幕を閉じた。なんだかんだ2人とも寂しそうにしていてくれたと信じたい。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 ククルーマウンテンを降りた私たちの目的地は、発売されたG・Iの世界らしい。しかし、途中、父さんの気まぐれによって、カチガン国に寄り道する事になった。

 

 ゾルディック家に居た頃図書室で調べた事があるのだが、この世界では国土面積最小の国家なんだとか。元ネタはバチカン市国だろうか。

 街並みが綺麗で近辺には遺跡も多く、恐らくその辺が父さんの興味を引いたみたいだ。乗っていた列車を急に降りたからびっくりした。

 

 ゴンを抱えた父さんの服の裾をはぐれないように掴み、ヨーロッパ系の街並みをとてとてと歩く。

 

 可愛い擬音語だしやがって…って思うじゃん?成長途中とはいえ、足が短くて成人男性の足並みについていけないの。必然的に小走りになってそんな歩き方になるの。

 やい親父!娘の歩調に合わせろ!…とまでは流石に言う気にはならないから黙って小走りしているわけ。

 

「おいリン!この店パスタ大食いやってるぜ!入るぞ!」

 

 父さんのマイペースぶりは今に始まった事じゃない。父さんが指差した店に黙ってついて入る。私もパスタ食べたかったし。

 

 白と赤のコントラストでひと際目立っていたその店は、中も石造りで雰囲気あるものだった。ところどころに埋められている間接照明がおしゃれな雰囲気を出している。

 こんな見た目を重視している店で、大食いチャレンジなんてやっていいのだろうか?謎の罪悪感が押し寄せる。父さんが看板見間違えたんじゃないのかな?

 

 そして相変わらずの風来坊ファッションな父さんは、店内でかなり浮いている。少なくとも、腰にリボンでアクセントをつけたチュニックとレギンススタイルな私よりは。

 ついでに言うと、ゴンを含め3人そろって生え際と髪質が遺伝子の強さを物語っているので猶更恥ずかしい。異国からの家族連れ旅行者だと思ってくれる事を願う。

 

「お前はどうする」

「カルボナーラ」

 

 父さんに差し出されたメニュー表を見ながら特に悩むでもなく即決した。メイドパンダが作ってくれる中で特にお気に入りの料理だったのをふと思い出したからだ。育て親とも言えるメイドパンダに会えるのが、楽しみでしょうがない。

 

「そうか。じゃあカルボナーラとミートソースパスタ、チャレンジで1つずつ!」

「はぁ⁉」

 

 父さんが迷うことなく通りすがりのウェイターにそう注文したため、流石に叫んだ。大食いするとは言ってないんですけど!食べられるわけない!

 

「あ、ゴンの分忘れてた。すまん、子ども用の離乳食も頼む」

 

 父さんはマイペースにウェイターへの追加注文も済ませている。私の方を見るとニヤッと笑った。

 

「いいじゃねぇか。どっちが先に食えるか勝負しようぜ」

 

 暫くして5人前はあろうかという山盛りなパスタが2つ、運ばれてきた。そして私は心の中の前言を撤回する事になった。

 ちょっと苦しいけど、ふつーに食べられるわ。

 

 いや~なんかね?最近訓練の後お腹空くな~とか思ってたよ?でもゾルディック家の皆同じくらいの量食べてたし、イルミやシルバさんは倍量食べてたし、ミルキは3倍食べてたから私って小食なんだと思ってたみたいな?的な?

 …父さん、ごめん。あなたが正しかった。

 

「ゾルディック家の毒入り料理はどうだったよ。美味かったか?」

 

 父さんがずるずるとパスタをすすりながら話しかけてくる。同じように口いっぱいに頬張っていたパスタを飲み込んでから返事をした。

 

「味は美味しかったよ。変な匂いしてたけど」

「食っても平気だったか」

「初めは食べた後気持ち悪かったけど、慣れた。最近は皆と同じ量の毒を食べても平気になったよ。ちょっとぴりぴりするくらい」

 

 父の横暴により、毒耐性、電気耐性、軽度の拷問耐性を手に入れてしまったリン=フリークス7歳です。なんか悔しい。

 

「父さんも毒入り食べてみたら?」

「俺はいらねぇ。毒なしの方がうめぇ」

「わかる」

 

 間違いなく毒なしの方が美味い。せっかくついた耐性をなくすのはもったいないから維持できるようにしたいけど、やっぱり普段のごはんは毒なしが良いと思う。

 そうやってお喋りしているうちに、気づいたら父さんの皿は空になっていた。数分遅れで私も完食したが、父さんにはドヤ顔かまされた。

 

「俺の方が食べるの早かったな」

「7歳の子どもと食べる量で張り合って楽しい…?」

 

 むしろ7歳で大食いチャレンジクリアしている事に驚くべきだと思う。私は驚いてる。自分に。

 

 自分たちのチャレンジが終わったので、のんびりとゴンに離乳食を食べさせる。ちっちゃい歯が生えてきてるんだよ!可愛いんだよ(脳死)!

 

「リン、ゴンの世話うまいよな」

「父さんこそ、おむつ替えもできないのにゴンを連れてたのはびっくりしたよ。今までどうやって育児してたの?」

「俺はそういうお前が育児に慣れてる方がびっくりだよ」

「ツボネさんに教えてもらった」

 

 慣れた手つきで離乳食を与える私を見て、不思議な生き物を観察するかのように父さんが見ている。ツボネさんのおかげで大抵のお世話は問題なくこなせるようになった。私が推しの顔見たさにキルアの部屋を訪れてばかりだったとも言うけど。

 

 イルミとミルキと一緒に、キルアに漫画の読み聞かせもしてあげたりした。これにはツボネさんもニッコリ。兄弟の仲を取り持ってくれた漫画はやはり素晴らしいものだ。閑話休題。

 

 にしても、この父が育児をできないのは驚きだった。本当に今までどうしていたんだろう。リン知ってるのよ。ゾルディック家の執事さんの間で私が『馬鹿親父に捨てられた娘』って噂されてたの。ほんと、どの面下げて2人目こさえてんだ馬鹿親父。

 

「そんな事よりリン、あそこ見てみろ」

 

 そんな事よりってなんだって思いながら言われるがままに窓の外を見るが、別段何もない、白い石畳に白基調のヨーロピアンな建物が並んでいて、綺麗な街だなぁと思うだけだ。

 

「あそこってどこ?別に何もないじゃん」

「向かいの店の中だよ」

 

 そう言われて向かいの店を見る。町に良く馴染む真っ白な建物だ。その店も…というかこの辺一帯の店はどれもおしゃれ。だから当然、中もおしゃれだ。何もおかしなところはない。ちなみに私の視力はマサイ族並みだ。

 

「普通のお店じゃん」

「アホ、どこ見てんだ。中の人間だよ。眼鏡かけたセンター分けの色男」

 

 確かに窓際に父さんが言った特徴のイケメンは居る。御令嬢っぽい彼女さんとデートしているらしく、いかにも勝ち組のメンズだ。ミルキが見たら即座に殺しに行くタイプの人種である。

 

「あいつな、ああ見えて指名手配中の詐欺師なんだよ。念で顔を変えちゃいるが、国中の金持ちから巻き上げてちょっとした資産を築いてやがる」

「なんでそんなこと知ってんの」

「友達は持っておいた方が良いぜ?」

 

 父さん、その煽りが今の私に効果抜群だってわかってて言ってるよね?

 

「で、その詐欺師がどうしたの?」

「お前、捕まえてこい」

「…」

 

 何となく嫌な予感はしたうえでしらばっくれてみたけど、父さんには無駄だった。7歳児に指名手配犯を捕まえてこいって、一般的には虐待の部類に入ると思う。

 

「念で顔を変えてんだから当然だが、念使いだから油断すんなよ」

「私行くって言ってないんだけど」

 

 嫌だぁ~父さんが全身のオーラで『行け』って言ってる~。今すぐ児相に駆け込んでやろうかなぁ~~~。

 

「デザート、特盛プリンアラモードを頼んでおいてよ?」

「お前が帰ってくるのが遅かったら、俺が食っちまうからな?」

 

 思いっきりあっかんべーをしてやった後、店を出て向かいの店へ入る。中には外から見えた通り、勝ち組イケメンこと詐欺師メガネが居た。

 そして外からは見えなかったが、詐欺師メガネと御令嬢の座っている席には一枚の書類があった。内容から察するに、婚姻届だろう。

 それだけならおしゃれな店でプロポーズしていると思うだろうが、不釣り合いなアタッシュケースも傍らに置いてある。どうやら父さんの言っていた事は本当らしい。

 

「おじさん、それ婚姻届?」

「あ、ああ…大事なところだから、ちょっとあっち行っててね」

 

 ぴょこりと机に手をかけて顔を出し、いかにも子どもな口調で聞いてやると、あからさまに『邪魔が入った』的な顔をされた。実際邪魔をしているから、特に何も感じない。

 

「お姉さん、この人にお金渡しちゃ駄目だよ」

「お、お嬢ちゃん?」

「このおじさん、詐欺師なんだって。お父さんが言ってた」

 

 詐欺師メガネは一瞬ぎくりと顔を強張らせたが、子どもの言う事だと思ったらしくすぐに平静を取り戻す。まあそんなもんだよね。

 

「お嬢ちゃん、変な嘘をついちゃいけないよ」

「そ、そうよ?このお兄さん、すっごく優しい素敵な人なのよ?」

 

 それまで無言で固まっていた御令嬢お姉さんも、ようやくはっとした風に私に語り掛けてきた。そりゃあ、通りすがりの子どもの言う事よりも婚約者の言う事を信じるだろう。

 

「お父さん、プロハンターなの。この人、指名手配されてるんだって。顔も変えてるよ。なんならお父さんも呼んでくる」

 

 ぶっちゃけ父さんは来てくれないってわかっているが、カマをかけてみた。『プロハンター』という言葉は、この世界ではある意味水戸黄門の印籠のようなものだ。どんな資格よりも信頼され、正しいとされるもの。

 子どもがそんな事を言い出すとまでは思っていなかったらしい男は、焦ったようにその場から逃げ出した。お金も持っていないあたり、相当動揺しているらしい。

 

 凝を使って足にオーラを溜め走っているな。常人では考えられないスピードだ。

 まぁ、十分追いつけるけど。

 

 壁を蹴り屋根を伝って逃げる男を追いかける。ここまで人気が無い所まで来ても逃げ続けるあたり、この人の発は戦闘系じゃないのだろう。そもそも念の習熟度もそこまで高くない。お前の敗因は念能力で私に劣っている事だ。

 

「とりゃあ!!」

 

 オーラを紐状に伸ばして実体化させ、男に向かって投げつける。それを操作してぐるぐる巻きにすれば、男はあっけなく捕まった。

 空中で捕まえたため、紐は重力に従いぷらぷらと屋根の下へ落ちて揺れる。衝撃音が聴こえたから、もしかしたら壁にぶつかったのかもしれない。アーメン。

 

 案の定気絶していた男の首根っこを引きずり店まで戻ると、店先には先に父さんが手配したのであろう警察が居た。厳重に拘束された上で連行されていく男を、私たちを追いかけ外に出てきていた御令嬢と見送る。御令嬢のお姉さんは呆然としていたが、取り敢えずと言った形で私に名刺を渡し、ふらふらと何処かへ去って行った。

 

「おう、丁度デザートが運ばれてきたぞ」

「父さん、自分が面倒だったから私に捕まえさせたんでしょ」

 

 席に戻り、プリンを食べながらじろりと睨むと、それを気にするでもなくがははと笑われた。

 

「まぁそう言うな。あの男にかけられてた懸賞金はお前にやるからよ。小遣い代わりだ」

「いくら?」

「500万。大した額じゃねえがな」

「大した額だよ」

 

 今まで小遣いを渡された事なかったのに、いきなり500万だぞ?何に使おう。

 

「ねぇ父さん」

「なんだ?」

「一つ聞いてもいい?」

「おー、答えるかはわからんが」

「あの指名手配犯、整形してたんだよね。全然違和感なかったけど」

「ああ、すげえ技術だよな」

 

 この言葉で私は確信した。自分の予想が当たっていると。

 

「それに、一応念能力者だったよね」

「そうだったな」

「念で顔を変えたって言ってたよね」

「…ああ」

「…G・Iに顔を変える念能力のマシーン、あったよね?」

「…」

「マッド博士のなんとかって言ってたっけ」

「…そろそろ出るか」

 

 自身の分が悪い事を悟った父さんが、強制的に話を変えようとする。そうはさせない。

 

「自分のゲームを利用しての犯罪は胸糞悪い、でも自分が捕まえるのは面倒くさいって事で私にやらせたんじゃないの?」

 

 図星だったらしい。会計札を持つ父さんの手が妙に汗ばんでいる。

 

「父さん、後で私と組手してよね」

「…仕方ねぇな…」

 

 仕方ないと言いつつも、父さんは嬉しそうだ。

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