「ねえ、姉さん」
「んー?」
その日のトレーニングを終えて寝室にて各々の時間を過ごしている中、筋トレをしていたゴンが唐突に話しかけてきた。メイメイのマッサージをしながらリンが気の抜けた返事をすると、ゴンは更に唐突な質問を投げかける。
「もし父親と母親がそれぞれ崖から落ちそうになっていて、どちらか一人しか助けられないとしたらどっちを助ける?」
「母親を助ける」
「…即答だね」
「親父はほっといても死にゃしないし。てか死ぬとしてもふつーにミトさん助けるわ」
食い気味に即答したリンになんとも言えない表情を見せるゴン。母親はミトに置き換えるとして、父親の顔を知っているリンはもっと悩むと思っていたらしい。
もしもジンが崖から落ちそうになっていたらリンは助けるどころか指をさして大笑いするだろう。ジンを尊敬している弟に引かれると辛いため、わざわざ言う事はないが。どういうわけかゴン達のやり取りに興味を引かれたらしく、アダルト雑誌を捲っていたレオリオや武器の手入れをしていたクラピカも眼を向けている。
(…まあ、私たちに産みの母親がいるかは怪しいけどね)
以前ジンに会った時はわざわざ確認しなかったが、自分たちの出生については多少の見当がついている。あくまで可能性の一つだが、あまり信じたくないので考えないようにしているリンである。
「うー、そういう話じゃなくて、何て言ったらいいのかな…」
「?」
リンの返答は自分の思うような返答ではなかったようで、しかしゴンが上手く説明できずにあうあうと頭を掻く。見かねたクラピカが助け船を出したことで、リンも話を理解するに至った。
ゴン達がナビゲーターを探す道中、試験官に突き付けられた問題。どちらかを選んでしまえば不正解であり、正解は『沈黙』だったらしい。その試験官とゴンの意図を察したリンは「なるほどね…」とメイメイのマッサージを続けながら呟いた。ツボを的確に押せているらしく、メイメイは満足そうに鼻息を漏らす。
「じゃあ、もっかいやるよ!息子と娘、どっちを助ける?」
理不尽な二択を先輩であるリンがどのように答えるか、それがゴンの知りたかった質問の意図だったようだ。内容を変えて再び質問するゴンに、リンは少し意地悪な質問で返した。
「…それって絶対に『どちらか』しか助けられないの?」
「う、うん」
「本当に?」
「うん…たぶん」
「オイそこは自信持てよ」
ずいっと真剣な顔を近づけられたゴンは、自分で言っておきながら段々自信がなくなってくる。年の離れた姉にうだつが上がらないゴンに思わずレオリオがツッコミを入れた。
「そのおばあさんは今のうちに不条理な選択を突き付けられることに慣れておきなさい…ってその試験を出したんだろうけど、現実はちょっと違うわよ」
「どういう事?いつかどっちかを選ばないといけない時が来るって話じゃないの?」
ハンター試験を受けた時。あの時試験を受けなければ良かったと何度も思った。いっそ開き直ってルカス達全員を守りつつ全員を殺せばよかったとも。だが、どれを選択しても何かしら後悔は残っただろう。
ミシャクーロを見つけた時、殺すか許すか迷った。どちらを選んでもスッキリしなかったのは確実だ。どちらを選んでも後悔はしないが、後に残る感情は数えきれないほどあった。
人にせよ、人生の選択にせよ、選ばなければいけない時は確かに来る。過去にしてきた自らの選択を思い出し、自然と眉間に皺が寄った。
「『両方助けられる』か『どちらかしか助けられない』か『両方助けられない』」
「そりゃあ、質問の答えになってねぇだろ。『両方助けます』で正解じゃねーか」
アダルト雑誌を傍らに置き、レオリオが口を挟んだ。リンはメイメイのマッサージを終え、ベッドのヘッドボードにクッションを挟んでもたれ掛かる。
「クイズや理想論じゃなくて、基になるもっと現実的な話よ。更に言うなら両方助けられないパターンが圧倒的に多いわね。『どちらかしか選べない』なんて状況よりも」
「どうしてかわかる?」と問いかけるとゴンは黙って首を横に振る。クラピカが小さく「力がないから」と呟き、リンはそれに対して静かに頷いた。
ゾルディック家の門が数トンあるのも一見馬鹿馬鹿しいが、根本はそれと同じだ。同様にハンターが常識はずれな力を身に着けている理由も。奪う者は奪われる覚悟もしなければならない。理不尽な力から大事なものを護るためには、力がないといけない。
「ま、でもそのおばあさんの意図は正解ね。『どちらか』の場合があるのも事実よ。その点で言えば私の答えは…選べないかな」
「やっぱり?」
「そりゃあ個人的な感情を言うなら両方助けたいけど、そんなの無理だし」
「だから選択肢を増やすために力をつけな」と締めると、ゴンは暫く考えた後にしっかりと頷いた。
その姿に目元を和らげながらも、リンは胸中穏やかではない。頭の片隅に置き続けていた悩みがむくむくと肥大していくのを感じていたからだ。
(どっちを選ぶか…ね。そんな機会、来なければ一番良いんだけど)
クラピカの目的は幻影旅団への復讐。プロハンターになった今、その目的を遂行するために動くだろう。試験官として、友として、リンはそんなクラピカを合格させた。それは復讐を促す事を選択したとも言える。
だが、リンは幻影旅団も友人だと思っている。友である二つの勢力の対立。何年先になるかわからないが、何かしら選択をしなければならない時が来るはずだ。
リンはクラピカにも幻影旅団にも死んで欲しくない。ゴンに悲しい顔をしてほしくないし、キルアやレオリオを敵にも回したくない。クロロと対立したくないし、ウボォーやノブナガ達とも良好な関係を築いていたい。何より、自分自身死にたくない。
どちらを選ぶか、あるいは無関心を貫くか。もしくは第三勢力となるか。選択肢は少ないように見えて意外と多い。クラピカが幻影旅団と対峙した時、自分はどうするのだろう。
◇◇◇
そんな会話をしてから二日後、パドキアを訪れてから三週間後。レオリオが二の扉までを一気に開けた。その後ゴンとクラピカも一の扉を開き、これで無事全員がゾルディック家に入る権利を得られたことになる。
「これでキルアに会いに行ってもいいよね!」
キラキラとした笑顔でリンを見つめるゴン。ゴンにこの顔をされた時、リンがゴンの願いを聞き入れなかった事はない。眩しさに思わず片手で目を覆いながら、小さく頷いた。
「1週間くらい前にキルアが拷問室を出たって連絡があったわ。シルバさんと話し合って旅に出る許可も貰ったって」
数日前にミルキからメッセージで来た報告を思い出しつつ言うと、ゴンが不穏な言葉に反応した。
「…拷問室って?」
「あ、やば」
ゾルディック家に拷問室があるのは当たり前だと慣れていたせいで、うっかり口を滑らせたリンがぎくりと肩を振るわせる。
「…まあ、あの家流の反省室ね」
「そんな、酷い…」
「あくまで彼らの方針だから私たちが文句を言うのは筋違いよ。…でも、キルアと一緒に旅をしてそんな家から引き離すことはできるでしょ?」
「…うん!」
そんな会話をしながらもゼブロたちに礼を言い、さあ行こうと再び閉まりかけた門を開けようとした時、逆方向から門が押し開かれた。ここに滞在している間は一度も見ることができなかった光景に、ゴン達が驚いて扉から離れる。
現れたのは髭を生やして眼鏡をかけた男と、数名の執事風の男達。彼らはリン達の姿を認めるとペコリと恭しく一礼した。
「ゴトーさん!久しぶり!」
「お久しぶりでございます、リン様」
少ないながらも客人が訪れる事もあるゾルディック家だが、執事が直々に迎えに来る事はそうない。わざわざゾルディック家まで足を運ぶ人間にとって、標高3000メートル程度の山道はちょっとした庭にしか見えないからだ。
そんな中、迎えに現れたゴトー達。間違いなくゴン達を迎え入れるために家の誰かが指示したのだろう。
「姉さん、この人誰?」
「失礼、ゾルディック家の執事をさせていただいております、ゴトーと申します。シルバ様のご指示でお迎えに上がりました」
迎えに来たというのは本当らしく、扉の向こうには高級そうな黒塗りの車が用意されている。案内されるままに乗り込むが、内部は10人程度座れるくらいの広さで高級そうな革張りのシートが進行方向に沿って対面で設置されている。映画で海外セレブが乗り込んでいるタイプのアレだ。
『リン様、これから行うご無礼をお許しください』
(?)
先に座ったゴン達に並んで座ろうとしたが、自然な流れでそれを阻まれた。疑問に思っているとゴトーはリンにだけ見えるよう念文字で示す。リンの頭には更に?マークが浮かぶばかりだ。
座席には両脇に執事を挟んでゴン達三人。そして向かいにゴトー達執事が四人とリンが座っている。唯一の女性執事であるらしい赤髪の女性はリンの隣に腰かけた。
(…何、この不穏な空気)
両脇に執事を配置して動きに眼を光らせる、まるで囚人を護送するようだ。いつもなら警戒するところだが、ゴトーの先程の言葉もあるため即座に行動するわけにもいかない。
「凄い!広いね!」
「この革張り…相当な高値だろうな」
クラピカが同様に疑いを表に出した表情をしているが、ゴンとレオリオは高級車に驚くばかりで座席の違和感には気づいてもいない。外の景色を眺めたりばふばふと座り心地を確かめたりしている。ゴトーが合図すると車は揺れもせず静かに発進し、屋敷への道を走り出す。
「やれ、カナリア」
ゴトーが鋭く指示を飛ばすと、カナリアと呼ばれた女がリンの首に強い力で腕を回した。首筋には鋭利なナイフがあてがわれる。暗殺一家の刃物は執事のものでも相当研がれているらしく、ゴトーの発言から空気を読んでオーラを薄くしたリンの肌から簡単に血が流れ出す。
「姉さん!!」
「動くな、騒ぐな。その女を殺すぞ」
慌てて立ち上がりかけるゴン達を執事が両脇から制する。その眼に浮かぶ殺意は本物で、動けば本当に殺すといった雰囲気だ。少なくともそう見える。
だが目の精孔を開いてオーラの色を視れば、殺すつもりはないのもまた明白で。リンは徐々にこの状況を理解しつつあった。
「どういう事だ…迎えに来たのではなかったのか」
『これ、ゴン達を試すテスト?』
油断せず座りながらも構えを取ろうとするクラピカをよそに、ゴン達にはわからないように手から念文字を浮かび上がらせる。オーラからしてこの執事たちは全員が念能力者だ。誰か気づいて返事をしてくれると期待しての行動だったが、リンに答えたのはすぐ隣から発せられるオーラだった。
『お許しください、あくまで到着までの余興です。そして我々なりにキルア様を心配しているのです』
カナリアと呼ばれた女性は、表情にこそ一切見せないが念文字でそう返答した。オーラの色からして本当にリン達への敵意は持っていないらしく、念のため程度の警戒心もここで解く。そんなリンをよそに、ゴトー達の纏う空気は不穏なものだ。
「キルア様を迎えに来たらしいな…正直言って、俺はお前らが憎い」
「リン!お前馬鹿力なんだからそれくらい抜け出せ!」
「考える脳の足りない哀れな奴だな。俺達がそんな事許すわけないだろう」
その言葉を合図として、カナリアがリンを拘束する力を更に強めた。迫真の演技に内心敬服しつつ、黙って両手を小さく挙げ、降参ポーズをとる。メイメイごと抱え込まれているがメイメイも意図を察しているらしく、大人しくしているままだ。
「キルア様がお生まれになった時からずっとお仕えし、僭越ながら親に似た感情も抱いている。シルバ様が、キキョウ様がどんなお気持ちでキルア様を送り出すのかと思うと…」
「私たちを殺すつもりか…?」
「なぁに…お前らがキルア様を連れて行くにふさわしいか簡単なテスト、ちょっとしたコインゲームをするだけだよ。全員間違えちまえばその先はないがな」
ゴトーはポケットからコインを一枚取り出し、軽く弾いた。そして目にも止まらぬ速度でシャッフルを始める。
(心配半分、余興半分の芝居って事ね。私が入ると緊迫感が薄れるからここで見てろ…と。少し寂しい)
複雑な心境のリンをよそに、自分たちの命が懸かっていると思い込んでいるゴン達は必死でコインの動きを追っている。初回は小手調べらしく、しかし一般人には到底見えないようなスピードでシャッフルされたコインはパッと右手に握られた。
「右か、左か」
「「「右!」」」
「…正解だ」
本当に怒りを滲ませているかのような表情でゴトーが告げた。リンもオーラの色が視えなければ騙されていたのではと思うくらいの名演技である。
(…ゴトーさん、もっと向いてる仕事あるんじゃない?)
脳内でハリウッド映画に出そうなファッションをしたゴトーがコインで敵を撃ちまくる。海賊ものとか意外と似合うんじゃないかなんて、そんな事を考えているリンはこの空気の中では明らかに場違いだ。
なるほど、確かにリンが居ては緊迫感が薄れてしまう。そしてスピードを上げてかなり真剣にシャッフルされた二度目のゲームは、明らかにゴン以外の二人は眼で追い切れていない。
「右か、左か」
「…わかるか?」
冷や汗を流しながら呟くレオリオ。ゴンは真剣に考えこんでいるらしく黙っているが、クラピカは合理的な選択に出たらしい。
「私は、左だ」
「じゃあ俺は右だ!」
「俺も、左!」
「一人脱落、だな」
コインが左手から現れる。レオリオが大きく舌打ちをし、ゴトーはニヤリと悪人の様な笑みを浮かべた。更にシャッフルが開始される。
恐らくゴン達は早く屋敷に着けと願っている事だろう。更に驚くべきは、両脇の執事もシャッフルに参加し始めた事。これでは先程の様に二択に賭けることもできない。
(うわ、ゴトーさん…これたぶん本気でシャッフルしてるわね…!?…っと!)
ゴトー達の手の陰に隠れ、猛スピードでリンの方へ飛んできたコイン。両手が塞がれているカナリアでは不可能であり、これはリンに向けられたものだろう。ゴン達にバレないよう、視線をそちらへ向ける事はせずにやや自由が利く左手でそれを受け止める。
(ゴトーさん…こんな茶目っ気あったのね)
サプライズとしては意地悪だしかなり刺激的だ。ゴン達にも、リンにも。10年前共に過ごしていたゴトーはかなり堅物な印象だったので、更に驚くリン。
念には念を入れているのだろう。ゴトー達の手は誰も握っていないコインをさもシャッフルしているかの様に動き続ける。
「ゴン、わかるか…?」
「一気に二人脱落か?」
パシッという音を最後にゴトー達の眼がゴン達へ向けられる。誰のどの手にコインがあるか答えろ、という催促だ。
「…右だ」
「…」
完全に運にかけたクラピカ。一方で、ゴンは不安そうに黙り込んだままだ。沈黙を続けるゴンに痺れを切らし、ゴトーが手を握ったまま指だけで眼鏡をずり上げた。
敵かもしれない人間と姉が結託しているとは思いたくなかったのだろう。恐る恐るといった表現が相応しいゆっくりさで顔をリンの方へ向け、小さく呟く。
「姉さん…?」
(お、流石ゴンね)
泣きそうな顔でリンを見つめるゴン。合っていればリンが裏切っていることになるし、間違っていれば全員ハチの巣。そんな緊迫感の中、全員の視線がリンに向けられる。
どくり、どくりと誰かの心臓音まで聴こえる気がする。リンはそれらの緊張感に相応しい丁寧さで左手を開いた。
「…正解!」
「お見事です!」
人質とは思えないほどの笑顔でコインをピンと上に弾くリン。同時にゴトー達が拍手でゴンを称賛した。レオリオが動揺して「え?え?」と左右を見回す。
「全部ゴトーさんたちのお芝居だったってことよ」
リンの言葉に数秒間を置いて、ようやっとこれまでのものが演技だったと理解したようだった。全員が大きく息をついて脱力し、はははと力なく笑う。
「ゴトーさん、人が悪いぜ!本気で殺されるかと思っちまった」
「リンも、まさか共謀していたとはな」
「私も知らなかったわよ。ゴトーさんの意図を察して合わせただけ」
「空気読みスキルすげぇなそれはそれで…」
不名誉な冤罪を着せられそうになったので慌てて否定する。リン達の念文字によるやり取りを知らないレオリオは呆気に取られて呟いた。大きくソファにもたれ掛かりやれやれとため息をつく。
「ご無礼をお許しください。…ですが、時間を忘れてお楽しみいただけたでしょう?」
「ちげぇねえや。寿命も少し縮んだけどな」
シャッフルの時間もゴン達が思考する時間も、全て計算済みだったのだろう。ごくごく僅かな振動を感じたかと思えば、車は本邸の前に停車していた。
いつの間にか目的地に着いている事にゴンが歓声を上げた。入口へと続く階段の最上段にはキルアが待っている。
停車して扉が開く。ドアに近かったリンが車を降りると、カナリアが絆創膏を差し出して頭を下げた。
「大変失礼しました、リン様」
「リンで良いわよ。年もそこまで変わらなそうだし」
これくらいの怪我なら別に必要ないが、人の家に血を流しながら入るのも問題だろう。ありがたく受け取りつつ首にぺたりと貼り付ける。リンの言葉にカナリアは申し訳なさそうな表情で再び頭を下げた。
「いえ、そういうわけには…」
「私はゾルディック家の人間じゃないし。…まあ、気が向いたらでいいわ。困らせてごめん」
「…キルア様のお友達というのは本当ですか?」
「まあね。イルミには睨まれたけど」
「…良かった」
イルミをやや馬鹿にするというまたしても執事の立場としては困るような発言をしてしまったが、これは完全に無意識だ。言ってからはっとしたが、予想に反してカナリアはほっと胸を撫でおろす。辛うじて聴こえる程の小さな声で呟くその姿には、リンも感じるものがあった。
「キルア様の事、よろしくお願いいたします」
「…任せといて」
何を話していたのかべっと舌を出しながら車を降りるゴンに続き車を降りるゴトー。カナリアに挨拶をしてその長身な後ろ姿に近づくと、ゴトーは改めてリンに深く頭を下げた。
「リン様、申し訳ありませんでした。リアリティのためとはいえ傷をつけてしまい…」
「全然気にしてないわ。むしろ面白かったわよ、ゴトーさんが凄んでるのを見るのも初めてだし」
「恐れ入ります」
リンが本当に気にしていないのも勿論だが、ゾルディック家では執事が主人に害を為す事はそこまで咎められるものではない。死んだらそれまでの人間だったとみなされるだけだし、執事が戦闘訓練の相手を務める事もあるからだ。
「ゴトーさん、相当キルアを可愛がっているのね」
「私どもは主人に特別な感情は抱いておりませんよ」
「ゴンに「嘘つき」って言われてたの、聞いてたわよ。私も同意ね」
リンが揶揄い混じりに言った言葉を、ゴトーは無言の返答とした。わざとらしく眼鏡をずり上げる仕草を見ながら、それでもゴトーやカナリアがキルアを大切に想っていてくれたことにほっとする。
「…この家でキルアを普通に愛してくれる人がいて良かったわ。かなり厳しく育てられたみたいだったし」
「部外者だけどお礼を言わせて」と言うリンに、ゴトーは「滅相もありません」と端的に返す。少し笑ってリンもくるりと背を向けた。後ろ手に軽く手を振り、ゴン達に続いて階段を上るのであった。