リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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念能力を教えたり

 新たな弟子を二人迎えたリン。店を出るとそのままタクシーを呼び止め、予め予約していた旅館へと移動する。

 

「おお!でけぇホテルだな!」

「ジャポン式のホテルよ。旅館っていうの」

 

 そんな高級旅館を仲居に案内されながらレオリオが興奮気味に言った。聞けば、格安のビジネスホテル(と恐らくラブホテル)以外のホテルにはほぼ泊まったことがないらしい。

 数千坪にわたる敷地面積を誇る旅館だが、リン達が滞在するのは離れだ。贅を凝らしているだけあって、機械が導入され過ごしやすい環境でありながらも人目につく事なく周囲は自然で溢れている。快適な生活環境と修行環境を両立させるためには、リンは金銭の出し惜しみはしない。というかこのためだけに旅館丸ごと買い取った。

 

「食事は少し離れた場所にスタッフが運んでくれる。基本は離れに人を寄せ付けないようにしてるから、思い切り修行できるわ」

「ここからどうすんだ?本当に俺達もあんな力が使えるようになるんだよな?」

「勿論。まあ一朝一夕とはいかないけどね」

 

 仲居が一礼して部屋を去り、部屋の中にはリン達三人だけとなった。盗聴の心配もない旅館であるため、遠慮なくタブーな話題も口にできる。

 

「よろしく頼む。…で、何から始めたらいい?」

「基本は瞑想ね。あとは基礎体力をつける修行!起きてる時間はずっと修行だから覚悟してよ?」

 

 基本的にはジンやビスケから教えられた修行のやり方をベースにして、リン流のアレンジも加える予定だ。二人とも才能溢れるルーキーであり、特にクラピカは賞金首(ブラックリスト)ハンター志望。半端に放り出せば命取りになりかねないため、彼らのためにも厳しく鍛えるつもりをしている。

 そんなリンの宣言を聞いたレオリオがギョッとして目を剥いた。

 

「ずっと!?…リン、俺今年の医学部受験は諦めた方がいいかな…」

「大丈夫よ。寝なければ勉強できるわ」

「殺す気か?」

「至って真剣。…まあ、それでも周りより勉強できる時間は少ないから頑張らなきゃだけど、念を覚えれば集中力も上げられるから悪い事ばかりじゃないし」

 

 そう言って【私の代わりに眠って】(睡眠パンダ)を発動させる。メイメイに目配せをすると、レオリオの肩に乗っかりそのままスヤスヤと眠り始めた。クラピカもレオリオも、目を丸くしながらその様子を見守る。

 

「うぉ…っと、…あれ、何か疲れ…ってか眠気が消えたか?」

「私の能力の一つを使って、眠らなくてもいいようにしたの。でも私から20m以上離れられないから、お風呂の時とかはひと声かけてね」

 

 まだ念能力を習得していない二人にはリンのペットが眠っているだけに見えており、体感しているレオリオもなぜか眠気が消えたというだけの感覚だ。半信半疑だが先程見せられた念といい、リンが言うのならば本当なんだろう程度の心境でそれを見守っている。

 

「ちなみにだが、仮に20m以上離れるとどうなるんだ?」

「私がそっちに引っ張られる。風呂とかだったら強制的にレオリオの風呂を覗くことになるわね」

「…だ、そうだが。レオリオにとってはむしろご褒美なんじゃないのか?」

「俺は見られる趣味はねぇよ」

 

 セクシーな女の誘惑ならばともかく、リンにセクハラされても食指をそそられない。友人だからこそではあるが、それだけではないのがレオリオの本心である。下手にそんな事を言ってリンにまた殺気を飛ばされると堪ったものではないので敢えて言わないが。

 期限は8月末。クラピカの仕事を探す時間も加味すると7月には修行を終えなければいけない。修行ができる期間は約半年だ。

 

 修行をスタートし、リンはまず弟子二人にひたすら体力づくりと念を起こす修行をさせた。

 体力づくりの内容は穴掘り。ゼブロに貰った重量ベストを着せてひたすら穴を掘ったり埋めたりさせるだけの単純な作業だ。リンはとっくに覚えていないが、原作と違うのは穴を掘る方向が横か下か。原作のゴン達は猫車を使用していたが、クラピカ達は土を入れた籠を背負って穴からよじ登らねばならない。

 弟子を迎えるにあたってビスケに修行方法のアドバイスも聞いていたので山を掘る選択肢もあったが、リンはこちらを選択した。明らかにビスケの考案よりもハードな訓練、その由来は4歳の頃にさせられた崖のぼりだ。そのため誰が悪いと言えばそんな経験をさせたジンが悪いと言える。

 そして重要な念能力の開花。こちらも非常にシンプルでただオーラの流れを感じるために瞑想させるというものだ。アドバイスやオーラが流れる感覚を体感させたりはしたが、基本的にリンは二人の様子を見守るだけ。後は念が目覚めた時のための簡単な座学などなど。まだ修行としては序盤というのもあり、暫くは穏やかに過ぎていった。

 

 変化が訪れたのは半月と少しが経った頃のことだ。

 

(…ん?)

 

 見られっぱなしも気が散るだろうと、瞑想している二人から少し離れた所でノートパソコンを弄っていたリン。こちらに来てから服装を変え、今は黒のワイドパンツを履いている。白いタートルネックのノースリーブセーターに顔を半分埋めながら作業をしていたが、ふと感じた念能力者の気配に思わずイヤホンを外して顔を上げた。その際にキーボードをうっかり触ってしまい、個人的な趣味で作業していたアニメの吹き替え台本がおかしなところで改行される。

 こんな所に突然念能力者が現れる確率は殆どない。ならば、考えられる可能性は二人の内どちらかが『纏』を習得した可能性だ。

 

「リン…何か緩い湯気の様なものが見えるのだが、これが『オーラ』というものか?」

 

 日に日にオーラが強まっていたのでもしやとは思っていたが、クラピカが『纏』を習得したらしかった。

 だが、たったの二週間だ。驚異的な早さに流石に信じられなくて、思わず近くに駆け寄りオーラの流れをマジマジと見つめる。だが、どこからどう見ても『纏』ができている。

 

「嘘…こんなに早いとは思わなかったわ」

「マジかよ!俺も早くできるようになりてぇよ~!」

「焦らなくていいわ。…正直こんなに早く目覚めるとは思っていなかったし」

 

 呆れ半分にリンはそうフォローした。

 ところがレオリオはよっぽど悔しかったらしく、それから更に二日後には念を目覚めさせた。メイメイ伝手でオーラの操り方を学んだのかそれとも系統的な才能なのか、留まるオーラはクラピカよりも力強い。

 

「何か…服を着てるみてぇな風呂に入ってるみてぇな…変な感じだな」

「…二人とも一カ月待たずに習得するとはね」

 

 これには流石のリンも驚いた。期限付きであるのを考えるともしかしたら無理やりにでも念能力を起こした方が良いのかもしれないとも考えていたが、完全な杞憂に終わったわけだ。初めてリンが念を使えるようになった時のジンの気持ちが少しわかったリンである。

 

「リンの時はどれくらいかかったんだ?」

「私はちょっと例外で自然発現型だったのよ。…でも、一般的には才能があっても半年はかかるって言われてるわ。自惚れていいわよ」

 

『絶』や『練』など、四大行の知識は既に与えている。そのため、更に数日も経てば拙いながらもそれらの技術を身に着けるに至った。

『絶』は所々オーラが噴き出ているし、『練』や『凝』もムラっ気があるが、これらは技術の向上と共に精度も上がっていく。

 

(本当に才能の塊ね…スポンジみたいに教えた事を吸収するから少し面白いわ)

 

 こうしていざ目にしてみると、ビスケが才能ある人間を原石と称して磨き上げる気持ちも少しわかったリン。自身もまだまだ発展途上だと自負しているしそもそも念能力の修練に終わりはないのだが、弟子の成長を見ているのはこんなに楽しいのかと思わせられる。

 そんなわけで、予想よりもはるかに短期間で四大行を習得できた。もう少しメニューを厳しくしても良いかしらと内心ニヤリ笑うリンの心は露知らず、レオリオがワクワクしながら眠っているメイメイをつつく。

 

「なあリン、俺達念能力者になれたんだよな?いつリンみたいな能力を使えるようになるんだ?」

「まだ早いわ。二人は才能があるから基礎をじっくり固めておきたいの」

「だが、どんな能力にするかを考えるための足掛かりくらいは欲しい」

「そうね…じゃあ、前置きだけはやっておきましょうか」

 

 どういったルートで修行するのが最も効果的か先に教えておくのは、リンならではのアレンジだ。応用技は自分でも気づいて欲しいため追々伝授していくが、基礎や『発』に関しては意識する時間が長ければ長いほど良い。

 

「まずは系統ね。一昨日軽く話してたけど、術者にはそれぞれ得意系統があって、それに合わせて能力を作るのが一般的よ」

 

 そう言ってガラガラと持ち込んだホワイトボードは明らかに部屋の雰囲気に合っていない。場違いなものが置いてあると二人は思ったが、リンが全く気にしている様子がないので、敢えてツッコまない事にした。

 よくわからない事は大抵念能力絡みだと思い始めた二人は、立派に順応し始めている。

 

「…っと、できた!この六系統のどれかになるから、それに合わせて能力を作る。あるいは隣り合った相性の良い系統か。例外もあるけど、それを外すと苦手分野ばっかりを頑張って伸び代は頭打ちのかませ犬になるから気を付けてよ?」

 

 強化系、変化系、放出系…と六系統を六角形に書き込み、それぞれの簡単な特徴と水見式の変化を余白に書き入れる。今、クラピカとレオリオは自分がどの系統かと色々想像を膨らませているのだろう。

 

「これから、二人の系統を確認するわよ」

 

 ホワイトボードと共に用意しておいたワイングラスを持って水道に行き、水を注ぐ。

 別に旅館に備え付けられている湯呑を使っても良いのだが、これはただのロマンというやつだ。湯呑に葉を浮かべるよりワイングラスに葉を浮かべる方がなんかそれっぽいという、リンの記憶を引き摺った無意識に紐づけられている。

 

「はい、これが水見式」

 

 二人の前にワイングラスを置き、庭先に植えてあるサクラの葉を二枚失敬して浮かべた。何か宗教染みた物体を目の前に置かれ、不思議そうに眺めるクラピカとレオリオ。リンが「『練』をしてみて」と指示すると、素直にそれに従う。

 

「レオリオは放出系で、クラピカは具現化系ね。予想通り」

 

 レオリオのグラスは色がオレンジ色に代わり、クラピカのグラスにはガラスの様な不純物が現れた。

「ほう」と面白そうに変化したグラスを観察するレオリオとは正反対に、少しがっかりした様子で息をつくクラピカ。

 

「具現化系か…強化系が理想的だったのだが」

「何でだよ?何もないところから物を出せるってすげぇじゃねえか」

「私は念の全てを打倒蜘蛛に捧げるつもりだ。その上で、強化系が最も攻守のバランスが良いと考えていた」

(…?)

 

 クラピカがレオリオの言葉にそう返した時、クラピカのオーラが僅かに変質するのをリンは感じた。目の精孔を大きめに開いてみると、少しオーラの色が淀んでいる様に感じる。

 

(その時の感情でオーラの色が変化するのはよくあるけど…何か根本的に違うわね)

「…リン?」

 

 考え込んでいたリンを、クラピカの声が現実に引き戻した。そうだ今はこちらに集中しなければいけない、と慌てて会話に戻る。

 

「ああごめん…確かに戦闘バランスは強化系が一番良いわね。同レベルの違う系統な能力者と戦う場合だと肉弾戦で戦えばまず負けないし。…でもまあ、クラピカは強化系じゃないと思ってたわ」

「なんで予想通りなんだ?人によって系統は違うんだろ?」

「オーラって遺伝とか性格とかである程度系統が決まるのよね。まあ、ちゃんとデータを取った事はないからジンクスとか占いみたいなものだけど」

 

 暗黙の了解の様なものだが、オーラの系統が性格に起因するのはある程度の経験を積んだ念能力者なら誰もが感じている事だ。特に意味も無いため統計を取る人間も居らず、結果眉唾モノの占いといった立ち位置になっているが。

 

「…強化系の性格は?」

 

 クラピカの言葉にリンは強化系の人間を思い浮かべる。ウイングや(なんか納得いかないが)ネテロ、確かドゥーンも強化系だった。そしてたぶんゴンもそうなのだろう。ナックルは…ポットクリンを具現化させていたのであれで意外と具現化系の可能性が高い。そういえば能力は頭を使うものだし、すぐ泣くし、繊細な性格をしている。

 

「愛すべき馬鹿ってとこかしら。ゴンも強化系じゃないかと思ってる。理知的なクラピカは正反対のタイプね」

 

 そう言うとクラピカは残念そうにしながらも何も言わない。ゴンとクラピカは性格が全く違うので仕方ないと思ったのだろう。リン達は知る由もないが、ゴンがヒソカに「強化系は単純一途♥」と指摘されるのはここから数カ月先の話だ。

 レオリオが興味を惹かれたらしく、更に続きを催促する。

 

「へえ、他はどうなんだ?」

「取り敢えず放出系は短気でざっくりしてる。やたら喧嘩を売りがちなのもこのタイプね」

 

 ニヤニヤと揶揄う眼でリンが言うと、クラピカがぶっと噴き出した。口元を押さえて小刻みに震えるクラピカと依然ニヤニヤしたままのリンをレオリオが睨みつける。大正解な自覚は自分でもあるらしく、言い返しはしないが。

 

「心理テストや占いなどというものは大抵がバーナム効果だと思っていたが…当たっているじゃないかレオリオ」

「うっせぇ!リン、具現化系はどうなんだ?」

「神経質。細かい。説明が長い」

「だっはっは!合ってんじゃねぇかクラピカ!」

 

 仕返しと言わんばかりにクラピカの背中をバンバンと叩くレオリオ。グーで殴ろうとしたらしいが、しかし図星なのでその手を止めるクラピカ。

 わざわざそんな言い方をしたが、勿論放出系や具現化系にも見られがちな良い性格も分析している。だがそれをわざわざ言うのも気恥ずかしいので、黙っておくリンだ。

 

「リンの系統は何なんだ?」

「せっかくだし、見せようかしら」

 

 笑い過ぎて涙目になったレオリオ。新たにグラスを用意してもらうのも面倒なので、二人に場所を空けてもらう。おそらく変化が分かりやすいのは、かけらが少し入った程度の変化しかないクラピカのグラスだ。

 そう判断し、クラピカのグラスを使用して『練』をした。グラスは形を歪ませ、徐々に変化していく。

 

「…パンダか」

「…パンダだな」

 

 クラピカとレオリオが覗き込んだグラスは、ワイングラスの形状からパンダの形状に変わっていた。器用に細工されたのかと見紛う程に精巧に、グラスの凹凸でパンダの顔が見事に表現されている。

 

「正解。ホワイトボードに書いてる以外の特徴が出たから特質系ね」

 

 ちなみにハンターとして仕事ができなくなったら、パンダグッズを念で作って売ろうかと画策しているリンである。

 

「はぁ~、なんか特質系って特別感があるんだな。ちなみに性格は?」

「自己中で我が儘。自分の世界に入りがちなのもこのタイプかしらね」

 

 リンがそう言うと、クラピカとレオリオは不思議そうな表情を見せた。確かに試験中に天井を壊したり急に二人をジャポンに連れてきたりと独自で動いている場面も見られたが、我が儘だとか自分の世界に入るだとかといった印象を決定的に感じた事がなかったからだ。どちらかと言えば最終試験でダブスタをかましていたゴンの方が我儘な気がする。

 だが、リンは自分の性質を理解している。自らの基準で行動し、他者の考えを理解はしても心から受け入れはしない。そして優先順位に従って行動する。自分は、比較した結果優先順位が低いならば、それが大切な物だろうと容赦なく切り捨てる人間だ。

 

「…なんかピンと来ねぇな?」

「同意だ。むしろ放出系だと思っていたが」

「私が短気で大雑把で喧嘩っ早いって?はい悪口~!」

「自覚がなかったのか?」

「おいお前ら喧嘩すんなって…」

 

 クラピカとリンはよく喧嘩をする。喧嘩というよりは年相応の言い合い程度のものだが、それをレオリオが仲裁したり、時には悪乗りしたりするのがこの三人の関係だ。ゴンとキルアの関係とはまた少し異なるが、大人びた彼らが歳相応の幼さを見せる唯一のタイミングでもあった。

 そんなレオリオは、今回は仲裁に回った。リンもクラピカも、鉾を納めながらもむすっとした表情を崩さない。

 

「…ま、そのうちわかるわよ」

 

 リンの言葉は、負け惜しみの類として流されるだけに終わった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「リン、少し頼みがあるんだが」

 

 その夜、修行を終えて就寝するかという時刻に、クラピカは襖を挟んで向こう側にあるリンの部屋を訪ねた。

 男女で分けている他に深夜はレオリオが勉強するため、クラピカとレオリオも部屋を分けている。三つの部屋に一つの大部屋、風呂トイレも当然ついているという三人が宿泊するだけにしては無駄に大きな間取りはフルに活かされている。

 就寝に合わせて髪を下ろし、ラフなTシャツとショートパンツという姿になっていたリンは、対照的に修行をしている時の上下セットアップを身に着けているクラピカをじっと見つめた。

 修行を始めてからは動きやすさ重視でクルタの衣装を身に着けず、インナーだけの姿だ。だが記憶が確かなら眠る時のクラピカはせっかくだからと旅館貸し出しの甚兵衛を身に着けていた筈。さっき風呂にも入っていたのにと首を傾げる。

 

「何?」

「手合わせをしてほしい。…本気でやってくれ。旅団と対峙した際を想定したいんだ」

「どうしてまた、急に?」

「念を覚えてわかった。リンのオーラは私やレオリオとは比べ物にならないほどに力強い。それが旅団と同格だというのなら…」

「…わかった」

 

 人に見られる心配もないため、今のリンはオーラの偽装を解き通常の『纏』をしている状態だ。そのオーラの密度や質、総量だけでも念を始めたばかりのクラピカとは比較にならないほどの差がある。それを見て内心焦っているのだということを今の一言で察した。

 

(圧倒的な力量差を見せつければ、復讐を諦め…はしないでも延期してくれるかしら)

 

 レオリオにひと声かけ、一時的にメイメイの能力を解除して肩に乗せる。受験生の半径20mでは流石に戦闘はできないからだ。

 軽く屈伸をすると指を指し、昼間は穴を掘っていた庭に出る。打ちのめす事で蜘蛛との対峙をやめてくれるのではないかと、僅かながらに期待をしながら。

 

「…本当に本気でやっていいの?」

「ああ。頼む」

 

 旅館を買い取った際に作らせた修行できるだけの広い庭で、リンは改めて確認を取った。これから行う行為が少なからずクラピカに挫折をもたらすとわかっていたからだ。だが、そこまで頼まれるなら容赦せずやろうと心を決める。

 念能力を前に通常の武器は意味を成さない。『周』を使えばモノになるが、具現化系のクラピカはあまり得意分野ではないだろう。自らが具現化した武器を使えるのもあり、具現化系能力者が通常の武器を使用することはあまりない。

 それを悟ってから、クラピカは木刀を使うのをやめたらしかった。素手で構えを取り覚えたばかりの『練』をするクラピカに、リンは距離を詰める。

 

「はい、今ので死んだ」

 

 次の瞬間、リンの右手はクラピカの喉元に添えられていた。男性の割には白く細い喉に触れるそれは手刀の形を取っており、リンのスピードにようやく追いついた髪が反動でふわりと揺れる。その気になれば三次試験の時のように簡単に首を落としてしまえるだろう。

 真正面からクラピカの瞳を見据えるリンに、クラピカは小さく息を呑んだ。

 

「これでいい?力量差はわかったと思うけど」

「…いや、まだだ!今度はこちらから行かせてもらう!」

 

 一歩下がり、クラピカの拳がリンの腹部へと吸い込まれる。またしても覚えたばかりの『流』を拳に使い、クラピカの全体を100とするならば攻防力70程度のオーラが右手に集まる。

 

(本当、教えたばかりなのに使いこなそうとしている…凄い才能よ。でも、遅いわ)

 

 丁寧にこなすならばまだ攻防力移動には数十秒かかるような段階だ。なんとか拳のスピードに追い付かせようと努力しているのはわかるが、拳ではなく右手全体に集まりムラが激しい。そして拳自体もリンには軽く捌ける程度のスピードだ。

 力量差を見せつけるため、避けることなく敢えて拳を受ける。クラピカの7割に当たるオーラは、リンにとっての1割にも満たない。従って、攻防力移動をさせるまでもない。

 

「また死んだわよ」

「…くそ!!」

 

 額にそっと指を当てて死亡宣言をするリンに、クラピカはやけくそ混じりに足払いをかけようとした。当然軽く跳び回避する。この程度で諦めてくれるとも思っていなかったが、多少のダメージを与えるのは避けられないようだ。

 

(…仕方ないわね!)

 

 次の日の修行に影響が出ない程度に、だが強く腹部へ掌底を打ち付ける。大ダメージに繋がるため『流』もしない状態での攻撃だったが、それでもクラピカが血を吐いて蹲るには十分だった。

 

「わかったでしょ?早く休まないと明日の修行に響くわ。レオリオにも能力を使わないといけないし」

「…!もう一度、頼む!!」

 

 大きく深呼吸をして再び立ち上がるクラピカ。一方的な蹂躙をする趣味はリンにはない。それでも向かってくる姿に、しかし相手をしないわけにはいかなかった。

 蹴りを受け止めてまた拳を打ち付ける。頭突きをしようとした頭を押さえつけ地に叩き落とす。早く諦めてほしくて無意識に強くなる攻撃、だがクラピカは動きを止める事はない。

 

「今のクラピカには、本気を出したくても出せないわよ。確実に殺してしまうから」

 

 数分後、倒れ伏してなかなか立ち上がれないほどに負傷したクラピカにリンがそう言ったのは、ここで終わらせたいがためだった。リンとの組手と呼べないような一方的な勝負も、半年後の旅団との対決も。

 リンに『発』どころか、応用技の一つも使わせることができない。それが今のクラピカの実力だ。旅団と近い実力を持つリンに対してこの結果ということは、半年後に旅団と対峙したところで結果は目に見えている。

 

「これが…!今の私の実力だというのか…!」

「何回も言うけど、今のクラピカでも下手なハンターよりは上よ。これからの伸び代だって計り知れない。時間をかければ旅団も対等に戦えるようになると思う」

 

 だから、今は力を蓄えるのに徹してほしい。無闇に突っ込んで死んで欲しくない。勿論旅団にも死んで欲しくはないが、今のクラピカが旅団を倒す可能性は0に等しい。

 

「だめだ!私は…!すぐに一人で戦える力が必要なんだ!!」

「…」

 

 その言葉は小さく、だが確実にリンの心を傷つけた。そんな言葉で傷つくのもおこがましいと思ったリンはそれを口にする事はなかったが。

 

(私たちが居ても、一人で戦おうとするのね)

 

 我が儘だとわかっているが、頼ってほしかった。リンだけでなくレオリオやゴン、キルアにも。そして可能ならば、もう復讐は止めて仲間の眼を集めるだけに徹してほしかった。

 出会って数カ月の相手にそんな事なかなかできないし、クラピカの性格や目的からして猶更難しいのもわかっていたが。

 

「…もうわかったでしょ。今のクラピカには無理よ。焦らないでも明日からまたきついトレーニングにするから、今日はもう寝て」

「…ああ、すまなかった」

 

 小さく謝罪したクラピカが背を向けて部屋に戻る中、リンは共に戻る事なく近くの桜の下で一人座り込み、俯いた。半分に欠けた月の下、メイメイが黙って彼らの様子を見守っていた。

 




リンリンのオーラ別性格分析

強化系:愛すべきバカ
変化系:気分屋で猫かぶり上手い
具現化系:繊細で頭が良い
放出系:短気なのに包容力えぐい
操作系:我が道を行くマイペース
特質系:自分の世界に入りがち、自己中

ヒソヒソと微妙に違うのは、ちゃんと今まで出会った人で分析しているからです。レイザーとかクロロとか。
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