リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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喧嘩したり能力を考えたり

「参考までに、リンの発を聞いてもいいか?」

 

 クラピカがそう言ったのは、クラピカに頼まれて組手をしてから更に数週間後のこと。

 基礎トレーニングの穴掘りはオーラの応用技を意識させ、それに加えて系統別の修行や組手もメニューに取り入れ始めた。更に短時間ながら『堅』の修行も行っており、リンの鬼コーチっぷりが頭角を現し始めている。

 二人とも毎日ヘロヘロでクラピカは布団に入るや否や爆睡するし、レオリオに至ってはそこから勉強だから白目を剥く始末だ。

 だがそれも少しずつ慣れてきて、そろそろ『発』についても考え始めたい。クラピカがリンに質問したのはそういった経緯だった。

 

「ん~…ぶっちゃけ特質系って個人の資質が大きいからあんまり参考にならないのよ。殆どが生まれつきか無意識で能力作ってるし」

「構わない。どんな能力が作れるのかを把握したいんだ」

「じゃあいいか。でも、基本的に他人の発は聞いちゃダメよ?マナー違反になるから」

 

 能力は文字通り生命線であり切り札だ。それをむやみに人に聞いたりしないようにと、師匠として釘を刺しておくのも忘れない。

 現在二人が行なっているメニューは強化系の系統別修行Lv.2の枝砕き。ビスケに教えてもらったメニューを参考に木の枝で石を砕くトレーニングをしている二人に、リンはメイメイに合図してタブレットを出現させてみせた。

 

「私の能力は【狩人の覚悟】(ハンターライセンス)【スキル最適化】(二次創作)【狩人の覚悟】(ハンターライセンス)は自分の欲しいと思った他者の能力をコピーして自分の物にする能力。【スキル最適化】(二次創作)はそれを自分に適した形に改変する能力。それをこの念獣…メイメイで制御してる」

「なんだそりゃ…チートじゃねぇか」

 

 タブレットを操作して説明文を見せるリンに、手を止めて覗き込むと唖然としてそう言うレオリオ。以前『基本的に能力は一つか二つ』とリンが言っていたため、そんな事を言っておきながら当の本人はいくつでも能力を使えるのかと言いたいのだ。

 リンが操作するタブレットにいくつかの能力がチラ見えしたのだから、レオリオの文句は当然の反応だろう。確かにそれはリンの能力のメリットだが、しかしそれは使いこなせなければただの器用貧乏…にすらならないものだ。

 

「そうでもないわよ。管理する念獣(メイメイ)はずっとオーラを消費し続けるし、『家族として接する』って制約もある。…まったく負担じゃないけどね。使う頻度や気持ちにも制限があるし、何より得た能力をすぐに把握できないのがきつい」

 

 リンの能力は一見何でもできる能力に見えるが、相応に重い制約も付きまとう。勿論家族として接する制約は全く負担にも感じていない。だが、具現化中ずっとオーラを消費し続けるのはかなり負担だ。

 日常生活で消費する量は微々たるものであるし食事でもオーラを補えるから問題ないが、戦闘となると必要なオーラは一気に増加する。リンが念能力の修行を怠らないのはオーラ総量を底上げする意味もある。

 そして得た能力の性質を把握するのにかなり手間がかかり、かといって欲しい能力が得られるわけでもない。これはかなり痛い所だ。

 幸いにも使用しやすい能力を得られているため今までやって来られているが、能力を100%使いこなしているとは言い難いだろう。ジンのおかげで能力の解釈はある程度進んでいるが、ならばうまく使えるのかと言えば難しい。

 

「質問だ。一つの能力に纏めなかった理由は?」

 

 レオリオと違って修行の手は止めずに、しかし話はしっかりと聞いていたクラピカがちらりとリンに眼を向けて尋ねる。

 聞いておきながら不遜な態度ではあるが、その程度はクラピカの常なのでリンもレオリオもあまり気にしていない。

 

「無意識に作った能力だから設定は後付けだし感覚的なモンなんだけど…コンピューターでデータをダウンロードして編集する時って、『ダウンロード』と『編集』の二つの機能を組み合わせてる事になるわよね?それと同じで『纏める』事に違和感があったから」

「そんなテキトーな理由なのか?」

「『なんとなく』って、念能力に意外と重要なのよ。『しっくりくる』って感じが自分の能力だーって思わせるの。で、能力として強化される」

 

「ちなみにコレ、死ぬか生きるかって時に残しておく『切り札』だから他言無用でよろしく~」と締めくくると、真剣に話を聞いていた二人は思わずずっこけた。

 文字通り切り札なのだから当然だろう。リンは能力の性質も相まって人前で平然と能力を使用するため、能力を使用しているところを見た人間はそこそこ多い。しかし能力の核心を知っているのは親友のメンチとノワール、師匠であるビスケや意図せず能力がバレたクロロ、そしてジンくらいのものだ。

 ナックルやイモコとイトコは今もリンの能力を『動きを止める念獣と移動補助の足場を具現化する能力』と理解しているし、ウボォーやノブナガに至っては砂を操作する能力者だと思っている。それこそがハンターサイトでもリンの能力が不明とされる理由であり、アドバンテージの一つでもある。

 

「そんな事を気軽に教えるな!」

「まあまあ。で、どんな能力を作りたいの?」

 

 キレる二人を軽く流し、話をすり替えるリン。不服そうにしていたレオリオとクラピカも、そうやって話を振られると真剣にそちらに意識を切り替えた。なんせ一生モノの問題だ。

 

「俺は医療に役立つ能力がいいな。不治の病や通常の医療じゃ死ぬ怪我を治せる能力…は無理か?」

「前話してたみたいに、制約と誓約次第では可能だと思うわ。あとは修行して力量を付ければ。それと、できれば戦いにも応用できるものがいいわね。難病ハンターとかウイルスハンターで、病気を治すほかに攻撃に使うって人も居るわよ」

 

 噂でしか聞いたことがないが、ウイルスハンターで有名なサンビカ=ノートンはウイルス関係の念能力を扱うと聞いたことがある…とノワールから以前聞いた話を思い出すリン。そういえば、ノワールは近日ジャポンに仕事で来ると言っていた。少しレオリオ達の修行を見てもらうのも良いかもしれない。

 癒しにも攻撃にも使える能力はレオリオに似合っているだろう。何より治癒を目的とする念能力を作るハンターは色んな意味で貴重な人材でもある。

 

「いいなそれ!だけどなぁ~イメージが湧かねぇんだよ。俺、こういうの向いてねぇな」

「漫画からアイデアをもってくるとかは?ドラゴンボールなんて放出系の技ばっかりだし」

「お、それいいな。攻撃用の技も作れそうだ。…てか、かめはめ波じゃなくて念だったんだな、三次試験のアレ」

 

 レオリオが賛同すると即座にドラゴンボールの漫画を【何でも叶える不思議なポッケ】(四次元パンダ)でどさどさと取り出すリン。当然あわよくば布教しようという魂胆だ。レオリオは原作を既に知っているが、オタクの性である。

 そんなリンをやや呆然と眺めながら、そういえばと三次試験でリン扮するニアが放ったかめはめ波を思い出すレオリオ。分厚い壁を貫通するだけの威力が出せるのかと、今更ながら念能力の強力さを思い知り冷や汗をかく。

 

「あ、よくわかったわね。放出系の系統別修行で似たような事するから、楽しみにしといて」

「いいなそれ!俄然楽しみになって来たぜ!」

「クラピカはどうする?具現化系は最初が肝心だから特にしっかり決めないとね」

 

 具現化系は能力を発現させるまでの苦労とそれに付与する能力から、何を作るか決める段階が最も重要となる。かなり慎重な相談を重ねる必要があるだろう。

 リンがそうやって言うと、考えているというよりは決まっているが少し口に出しづらいと言った雰囲気のクラピカが小さな声で口に出した。気づけば修行の手も止まっている。

 

「…鎖がいい」

「鎖?」

「旅団を決して逃がさない、頑丈な鎖だ」

 

 もうこれ以外は考えられないのだろう。小さいながらもはっきりとした口調で語られるその言葉を覆すのは不可能だと直感する。そもそも、ここまでしっかりと定まっているのなら無理やり変えさせるのも本人のためにならない。

 

(…気に入らないわね)

 

 だが、リンは、クラピカが鎖を選んだことが無性に気に入らなかった。もっと言うなら、鎖にしようと決意した瞬間に変化したクラピカのオーラの色が気に入らなかった。

 無意識に腕を組み、考え込む素振りを見せることでしばしの時間を稼ぐ。予想に確信を持たせるため、精孔を特別大きく開いてクラピカのオーラを細部に至るまで覗き込んだ。

 

(前から薄々感じてたけど、やっぱり最近クラピカのオーラが変質し始めている)

 

 クラピカのオーラは水色…冷静で理知的な彼らしい色だ。その奥には緋色のような激情めいた赤も内包しており、いざという時に向こう見ずな行動をするタイプの色だと分析している。

 それが、鎖を具現化したいと言った瞬間から、鎖のような淀んだ鈍色に変化した。そしてところどころ血の様な赤が目立つ。

 

(…あの時のルカスと同じ色、ね)

 

 経験上、この色を持つ者は自分の命を顧みない傾向がある事をリンは知っている。その色を持つ者が長生きしない、碌な死に方をしない事も。かつての友の様に。

 

「んん~鎖かぁ」

「何か問題があるのか?」

「いや、問題はないんだけど…念能力に口出しはしない方が良いのよね…」

「構わない。教えてくれ」

 

 もしもクラピカがリンに助けを求めるのなら、リンは即座に行動する。レオリオ達もきっとそうだろう。

 それなのに一人きりで戦うと言う。そしてこんなオーラの色をしている事が気に喰わない。かといって、個人の資質に左右される念能力を否定するのも良くない…。考えに考えた結果、リンの発言は妙に捻じ曲がったものになった。

 

「クラピカってまだ17歳じゃん?おっさんになった時恥ずかしいんじゃないかなぁって。…厨二臭くて」

「…」

「ブッフォ!」

 

 予想外の発言にぴしりとクラピカが固まる。その横でレオリオが思いっきり噴き出したのもリンは見逃していない。こいつはいざという時共犯に使える、そう確信した。

 

「ていうか、手錠でも警棒みたいなのでもなくて旅団を捕まえる鎖って…緊縛趣味?クラピカって結構ニッチな性癖持ち?」

「な…!そんなわけあるか!!」

 

 リンの言葉を聞いて、思わず立ち上がり顔を真っ赤にしたクラピカがぶるぶると震えている。同時に、オーラの色が赤を覆う水色に戻った。

 

(素に戻るとオーラの色が戻る…ね。やっぱ旅団緊縛願望は呪いじみた使命感からか)

 

 一人で遂げるには大き過ぎる使命。復讐を糧にしないと精神的に潰れてしまっていたのだろう。今まではハンター試験が目的になっていたが、ついに復讐が目的になる事によって色が変化し始めたのかもしれない。

 復讐を言い訳にしないと、生きる理由にしないと自分が許せないのだろう。その気持ちはリンにも痛いほどわかった。

 

(唯一、仲間に気を許している時が自分でいられる時間、ね。素直じゃないわ本当)

 

 しんみりしているが、旅団捕縛を旅団緊縛と既に解釈してしまっているリン。仕方ない、長年かけて染みついた思考回路なのだから。

 

「おいリン、その辺にしてやれ…クラピカは下ネタの耐性がないんだよ」

 

 そう冷静に分析していると、笑いが収まったレオリオに窘められた。落ち着いてオーラの解釈を行っていたリンとは対照的に、クラピカはまだ顔を真っ赤にしている。心なしか少し目の奥が赤い。

 

「あってたまるか!品性のないお前たちとは違う!」

「はぁ!?しっかり意味わかってるくせにこのむっつり!」

「なんだと!?」

 

 喧嘩上等だとリンも立ち上がり、思いきり睨みを利かせてきたクラピカの頬を片手でむにょんと引っ張る。クラピカはふがふがと言いながら額に青筋を立てた。

 意外に頬が柔らかく、常に冷静ぶっているクラピカが間抜けな表情をしているためゲラゲラと笑っていると、同じようにやり返される。

 

「ひょっと、離ひなはいよ」

「ほっひこほ早ふ離へ」

「お前ら、その辺にしとけって。ほら、修行もしないとよ!」

 

 なにくそと顔を更に強く引っ張って互いに収拾がつかなくなっているところを、呆れ顔のレオリオに仲裁される。渋々互いの手が離されると、二人とも頬は真っ赤に腫れていた。

 歳が近いからだろうか、この二人は遠慮のなさがゴン、キルアのコンビにどこか似てると思うレオリオだ。…かなり喧嘩っ早い二人だけど、とも思っているが。

 

「つーかよ、リン。クラピカは9月までに幻影旅団に対抗できる力を身に着けられそうなのか?」

 

 少し落ち着いたところで再び修行に戻るも、二人とも完全に集中が切れておりあっさりと枝は折れてしまった。当然だろう。

 これはもう諦めて今日は座学に徹しようと、二人を呼んで部屋へと戻る。どうせいずれは考えなければいけなかった問題だ。二人の今後のためにも早めに決めておいた方が良い。

 レオリオには漫画内の能力をある程度把握するように命じ、主にクラピカの能力について話し合う。レオリオの頭の上では、最近居心地が良くなってきたらしいメイメイが鼾をかいて眠っていた。

 

「ま、ぶっちゃけ難しいわよね。普通に考えて」

 

 リンも何か作業をしようとPCを開きながらそう言うと、二人の顔が一瞬で曇る。仕方ないがこれが現実だとため息をつき理屈をもって話す。

 

「幻影旅団が台頭し始めたのはいつ頃?」

「10年ちょいくらい前じゃねえか?」

「つまり、少なく見積もっても10年以上念能力者としてのキャリアがあるのよ。それを半年で追い越すのは、二人がどれだけ才能豊かでも難しいわ。相手も超一流の集団なんだから」

 

 10年といえば、リンとほぼ変わらない熟練度だ。準備期間があった事も踏まえると、本当に念能力を覚えた時期はリンと変わらないのだろう。クロロと一緒にサラサの墓参りをした影響か、サラサに関連する記憶だけはリンの中に朧げに留まっている。

 大部屋にはホワイトボードが、リンの描いた図をそのままに置かれている。クラピカはそれに眼をやりながら、しばし考え込む。

 

「私は幻影旅団限定の能力を作るつもりで考えている。それでもだめか?」

「一応聞くけど…鎖にどんな能力を付与したいの?」

「手に付けるタイプの鎖をイメージしている。指ごとに捕縛した相手を無力化する能力やルールを課して破った相手を死に至らしめる能力にしたい。…そのため、前提として千切れない鎖がいい」

 

 この先一生の付き合いになる念能力を限定能力にするのはあまり勧められない。しかし旅団限定という重い制約にすれば能力が向上するのもまた確実だ。それでも旅団に通用するかは難しいところだが。

 

「んー、情報収集系の能力も欲しいわね。ていうか実力のあるA級犯罪者相手に千切れないってのは、たぶんその制約だけでは無理よ?ていうか汎用性も低いし」

「それなら問題ない。誓約を重くする事で条件を満たすはずだ…命を懸ける」

 

 瞳を緋色に染めながら言うクラピカにリンも、漫画に眼を落していたレオリオも思わず目を奪われた。

 クラピカの覚悟はわかっていた。わかっているつもりだった。それでもここまで簡単に命というワードを使用するとは思っていなかった。

 

(ここまでの付き合いで軽口を言う性格じゃないのはわかり切ってる。つまり、命を懸けるのは紛れもない本心…!)

 

 制約で旅団限定の能力として使用する。誓約は命。確かにそれならば、初心者でも旅団限定で強力な能力を手にすることができるだろう。

 そこにクラピカの知力も併せれば、旅団を捕縛するだけの戦略を立てる事も可能になるかもしれない。具現化系能力は対策を立てられては勝ち目がないが、逆に言えば何も知らない相手を罠にはめて有利に持ち込める可能性が高いからだ。

 

「駄目」

「なぜだ!」

「命使うの禁止。ていうか旅団限定の制約も駄目」

 

 それは別として、やはり命を懸けるのは許容できないリンだ。師匠権限をフルに悪用してゴリ押しの命令をする。

 

「…そんな事よりさ、もう一度水見式をやってみて。前から思ってたんだけど緋の眼になるとオーラの質が変わってる気がするのよ」

 

 納得いかない表情のクラピカを無視して、グラスを水で満たし葉を浮かべる。渋々ながらクラピカが『練』をすると、不純物に加えて水が緋色に変化した。水の量も増加し、葉がゆらゆらと動いている。

 

「…少ししょっぱいわね」

 

 まさかと思い水を指につけて舐め取ったリン。僅かではあるが、間違いなく水道水の味ではない。つまり、全ての系統の特徴がグラスの中に表れたということになる。

 

「特質系ね」

「クラピカは具現化系じゃなかったのか?」

「たぶん、クルタ族特有の先天性系統。緋の眼の時だけ特質系になる…ちょっとピーキーだけど、使いこなせれば強そう」

 

 レオリオが漫画を畳に置き、グラスをしげしげと眺める。緋の眼から元に戻ったクラピカが、先程とは打って変わって冷静にリンを見た。

 

「特質系は何ができる?」

「個人によりけりだけどぶっちゃけ何でもできる。その分、本当に自分に合っている能力を考えるのが難しいわよ。クラピカの場合はオーラの絶対量が増えてるから…ああ、そういえば身体能力も上がってたわね。具現化系ではできない能力強化系とかは?強化系が良かったって前言ってたし」

 

 三次試験で蜘蛛のタトゥーを見た時、明らかに筋力が増加していた。怪力のゴンやレオリオを吹っ飛ばしそうになるレベルで、だ。

 それは一般人、非念能力者としては明らかに異常なまでの増加だ。クルタ族が緋の眼になると強いと言われるのはそこに起因するのかもしれない。

 

「なら、全ての系統を100%習得できる、とかはどうだ?」

「かなり良いけど、今のクラピカには力不足だと思う。何か制約をつけないと」

 

 今でもかなりみっちりと修行メニューを組んでいるが、ここからはクラピカに緋の眼になるためのトレーニングもさせなければいけないだろう。そろそろ二人同時ではなく個別のメニューを組まなければならない。改めて4人全員を弟子にしたらパンクしていただろうなとうすら寒くなるリンである。

 何処を削ろうかと考えながら同時にクラピカの能力についても思考を巡らせていると、クラピカはあっさりと言ってのけた。

 

「使用時間に応じて寿命が縮むようにする」

「…は?」

「1秒使用で1時間寿命が縮むとかならどうだ?」

 

 念のため聞き直してみたが意味はなかったようだ。流石に限界だと、リンは思い切りクラピカの頭をぶん殴る。ゴンッと気持ちの良い音が響き、クラピカが畳に突っ伏して頭を抱えた。

 

「あちゃー…」

 

 思わず目を閉じていたレオリオが恐る恐る片目でクラピカを見た。

 音の大きさに見合うだけのダメージを受けたようで、本人は動かない。しかし数秒もすると回復したらしく、ガバッと涙目で起き上がり喧嘩勃発1秒前の表情でリンを睨みつけた。

 

「何をする!!」

「さっき命を使うなっつったばっかでしょうが馬鹿かお前は?馬鹿か、そうなのね??」

「馬鹿馬鹿言うな!」

「馬鹿に馬鹿つって何が悪いのよ!」

 

 前言撤回、クラピカはそこまで冷静ではない。というより、旅団関連の話になると冷静さが鳴りを潜める。まあまあとレオリオが宥めにかかるが、本日何度目かの喧嘩は留まるところを知らない。

 

「確かに命を制約にすれば蜘蛛も倒せるかもね!でもそんなの論外よ論外!!バーカバーカ!」

「合理的だろうが!馬鹿と言うな!」

「そんなこと言って修行サボってるだけじゃないの!アーホ!ハァーゲ!!」

「禿げてないし阿呆とも言うな!私の勝手だろう何が問題なんだ!!」

 

 どんどん言葉のIQが低くなっていくリンにつられて、クラピカの煽りも単調になっていく。

 今にも掴みかかりそうな位にガルルルル…と睨み合う二人の首根っこを掴んで、レオリオが無理やりに引き離した。「どうどう…」と言いながら両方の肩をポンポンと叩き、何とか落ち着かせる。

 

「落ち着けって二人とも。…クラピカ、リンはおめーを心配してんだよ。俺も同意だ…少なくとも命は最終手段にできねぇか?そんなことしなくてもリンが居れば旅団を一人誘拐して芋づる式に捕縛…とかもできるかもしれねぇじゃねえか」

「これは私の問題だ!人に頼る事はしたくない」

 

 クラピカは頑なだが、リンもレオリオもいざとなったら遠慮なしに介入するだろう。それはゴンも、きっとキルアも。我の強い彼らと旅団が一挙にヨークシンに集まるのは、事がややこしくなる事を如実に示している。

 クラピカを睨みつける眼は変わらないまでも少し落ち着いたリンが、分厚い座布団を抱えてぶすっとむくれる。口悪く暴言を吐いていたが、レオリオに言われた言葉は図星だったからだ。

 

「…私は正直、旅団との対峙もしてほしくないわ。一度喧嘩を売ったら全面戦争は確実、メンバーを殺しでもしたら地の果てまで追いかけてくるだろうし。平穏な人生を送れなくなるわよ」

 

 それはリンの本心だ。せっかくハンターとしての第一歩を踏み出せそうなのだから、旅団への復讐なんて忘れて好きなように冒険してほしい。それが無理な相談だということもわかっているが。

 リンは未だに自分が旅団と関係があると言えずにいる。わざわざ口にするだけ気まずくなるのもそうだが、可能ならば彼らが対峙しない道を模索しているからだ。

 

「今後の人生に平穏など、ないさ…」

 

 クラピカは静かに目を伏せ、呟いたのだった。

 

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