何かあった際にはXで報告しておりますので、「あいつ生きてる?」とか思った際にはご確認いただけると幸いです。
「さて、卒業試験ってわけじゃないけど、ちょっとした力試しでもしてみましょっか」
相変わらず唐突にリンはそう言った。ポカンとする弟子二人をよそに、近くにある無人の山の頂上へと連れ出す。
ボロボロの廃屋が一つ残されたそこは周囲に人っ子一人居ない、戦いをするには十分すぎるくらいの材料がそろった場所だ。
暦は7月になったばかり。ヨークシンでの約束の日に向けて、クラピカはそろそろ雇い主を探さなければならない。斡旋所を探す時間を考えると、この辺りで修行を終えるのがベストタイミングだった。
「ルールは簡単。1時間以内に私に一撃食らわせる事。勿論二対一でいいし、メイメイはレオリオに預けたままで構わないわ。私はメイメイが居ないと能力を使えないから、『発』を使わない。けど二人は当然『発』を使ってオッケー」
唐突だが卒業試験をするのは了承したクラピカとレオリオ。
だが、正直なところこの条件には納得しかねていた。それは表情にも出ており、先にレオリオが言葉にも表す。
「…そりゃあ、かなり俺達に有利なんじゃねえのか?」
「だってそれくらいしないと、私を殴るなんてさせないわよ?こっちからも攻撃するしね」
二人に有利過ぎる程の条件なのは百も承知。だが、それくらいしないとまともに勝負にならないというのもまたリンの見解だ。物心ついた頃から念を扱ってきたリンに半年そこらの修行しかしていないルーキーが敵うわけがない。
「じゃ~いくわよ?スタート!」
リンが片手に持つスマホのタイマー機能を起動させる。数字が59:59からカウントダウンし始めたのを確認し、ポケットに仕舞った。
そして念の制約上半径20mを超えて離れることはできないが、この手の戦いの定石として一定の距離を取る。有無を言わさない師匠の決定を見て、弟子二人も顔を見合わせて頷く。
「じゃあ、やらせてもらうとするかね!」
「だな!」
クラピカとレオリオが同時に動く。特に作戦会議もしないあたり、まずは一人で挑戦するつもりらしい。
俊敏なクラピカが一足先にリンに追いつき、オーラを纏った拳を腹目掛けて放った。当然軽く掌で往なし、その際にオーラも纏わせる。ただのオーラではなく雷に性質を変化させたオーラ、『雷』だ。
「ぐ…!!」
「言ったでしょ?やり返しはするって!」
一拍遅れて蹴りを放つレオリオにも同様の動きを仕掛け、蹲る二人に呆れ顔で言う。電撃を喰らった経験のないクラピカとレオリオには、可能な限り威力を殺した念の攻撃であってもかなり堪えたらしい。
「『発』は使わねぇんじゃなかったのかよ!」
「これは『発』じゃないのよ。それでも普通はなかなかできないらしいけど…ま、ただの才能ね」
(あれ、なんかデジャヴ)と思うリンをよそに「なんだそりゃ」とツッコむレオリオ。クラピカは黙って立ち上がり、リンの瞳を見据えた。
リンは知る由もないが、原作では旅団限定の制約を背負っていたこの能力は改変されている。リンが散々止めた努力の賜物と言えるだろう。
その代わりに別な制約が生じてはいるが、それはリンすらも把握していない。
大まかな能力内容を聞いているとはいえ、能力の詳細や制約及び誓約については弟子でも聞けないしクラピカも言わなかった。知られれば命取りの念だが、復讐相手がいるクラピカはその能力が知られるリスクが人一倍高い。
(このタイミングで繰り出すってことは…捕縛系の鎖ね)
クラピカが作ると言っていたのは『捕縛の鎖』、『治癒の鎖』、『探知の鎖』、そして旅団を捕縛した際に居場所を吐かせるための『ルールを強いる鎖』だ。
この中で使用されるなら捕縛しかないだろうと鎖を軽く身体を逸らして回避する。隙を狙ってレオリオが念で放出した拳を放つが、軽く跳び上がって避けた。
「バラバラに攻撃してるようでは一日かけても達成できないわよ~。連係プレーも先読みもハンターの技能!」
木の上から念弾を放ちつつ叫ぶリン。固い地面を抉るほどの威力を持つ弾を辛うじて避け、クラピカとレオリオは眉間に皺を寄せた。
「…確かに、このままでは制限時間以内に目標を達成するのは難しそうだ。一度作戦会議をしよう、レオリオ」
「…だな」
クラピカの意見に否定もせず頷くレオリオ。会議のために廃屋へと足を運ぶ二人を、リンも黙って見送る。
距離を取ったとはいえ耳をすませば会話が聴こえてしまう距離だが、サービスだと暫く耳を塞いでおくリン。どうせならどんな作戦を立てるのか楽しみたいという好奇心も理由の一つだが。
そうして二人が廃屋に入ってから20分が経過した。
(…なかなか動きがないわね)
作戦会議にしては長すぎる。あくびを嚙み殺しながら流石に動向を探るが、廃屋からは物音ひとつしない静かなものだ。
そろそろ何か仕掛けてくれないかと足をぶらつかせていたが、ふと頭をよぎった違和感に動きが止まった。
(物音がしない…いや、そんなわけない!!)
今、リンは耳を塞いでいない。だがそれでも物音はしない。つまり、二人とも意図的に息を潜めている!
周囲を警戒するためにリンが『凝』をするのと、音を立てずにゆっくりと『隠』をした鎖が近づいてくるのはほぼ同時だった。反射的に念弾を放ち、木から廃屋の茅葺屋根に飛び移って距離を取る。
見ていた方角と反対方向から舌打ちをしつつ近づいてくるクラピカ。ぐるりと廃屋からリンの目の届かない木々を縫って回り道をし、リンに近づいてきていたらしい。
(私は彼らから一定距離離れられない。でもそれは逆に言えば、レオリオも私から離れられないということ!レオリオも近くに居る以上、必ず何かしらかのアクションを仕掛けてくる!)
その時、リンの足元からドンドンと何かが爆ぜる音がした。恐らく念弾の類だ。
重量トレーニングで手に入れた怪力に加えてオーラも手伝い、レオリオは軽く殴るだけで地面に大穴を開けるくらいの力を得ている。
それだけならクラピカも同様だが、放出系のレオリオは念弾でも同様のことができるようになっていた。恐らく元々得意分野だったのだろう。
「っ!!」
瞬間、リンの身体は地に叩きつけられた。いや、正確には屋根に叩きつけられたわけだが、脆い廃屋の屋根は簡単に貫通してリンを廃屋の中に引きずり込む。
その身体は厨で止まったが、数メートル下へと思いっきり叩きつけられたダメージは常人ならば複雑骨折間違いなしの重症レベルのものだ。
(メイメイの制約を思い出して上手く利用し始めたみたいね…)
クラピカが『隠』で鎖をリンに飛ばす。それが駄目ならレオリオがメイメイの制約を利用してリンを廃屋に誘い込む。二段構えの作戦だろう。そしてリンをこの場所に誘導した以上、まだ何かあるのは間違いなかった。
(レオリオはメイメイを連れて地下で私の動きを制限している。つまり次に動くのは十中八九クラピカ!使うのはかなりの高確率で
だが彼らが起こした次の行動は、リンの予想のどれでもなかった。
死角から壁を貫通させてリンを狙ったオーラの光線。咄嗟に危機を感じて避けたが、クラピカはオーラの放出を一番の苦手分野としている。つまり廃屋とはいえ木を貫通させるだけのオーラを放てるのは一人しか居ない。
「レオリオ!?何でここに…」
扉の向こうから現れたのはレオリオだった。その肩にメイメイが居ないのを確認し、疑いが確信に変わる。
(メイメイ…二人の味方についたわね?)
メイメイはリンとは別の意思を持った生命だとリンは認識している。つまりリンの命令に従わない時もあるわけで…。勿論真剣勝負の時は息を合わせてくれるが、今回は裏切る気満々だったらしい。レオリオがここに居るのが良い証拠だ。
つまり、地中でリンの動きを制限しているのはメイメイを連れたレオリオではなくメイメイ単体。レオリオが空けた穴にメイメイが飛び込んだというのが正解なのだろう。
「俺だってリンに話してなかった隠し玉があるんだぜ!」
そう言って指を拳銃のような形に模したレオリオ。その指先はリンに向けられ、力強く光り輝いている。クラピカと違いどんな能力にするか詳細に至るまでを相談していたレオリオだったが、彼が言う通りその動きはリンにとって全く聞いていない能力のものだった。
一閃。眩い輝きと共にレオリオの指からビーム状のオーラが放出される。僅かな一点に凝縮されたオーラは下手なハンターならば一撃で死にかねないだけの威力を持ってリンに襲い掛かった。
「
廃屋を崩し、無に帰すだけの威力を持ったオーラ。野生的な反射神経で避けたそれは背後の柱に当たり、廃屋を完全に潰した。それだけでは飽き足らず、更に向こう側の木々もなぎ倒す。
唯一残った瓦礫を互いに頭からかぶり、ゲホゲホと咳き込みながら立ち上がる。当たりはしなかったものの、レオリオの隠し玉はリンの意表を突くのに十分な攻撃だった。色んな意味で。
(使うならお前は次元刀だろーが!!)
思いっきり叫びたいところだが流石にレオリオからしたら意味不明だ。レオリオが最近幽遊白書を熱心に読んでいた理由が判明し、少しスッキリする。ついでに言うと、我が儘を言っても良いならクラピカには植物を具現化してほしかったリンである。
続いてレオリオの拳がリンの足元から飛び出した。この能力は知っていたため後ろへ跳んで回避するが、着地点目掛けて次々と放たれる。
(瓦礫だらけで戦いづらいわねこの!)
場所を移したくてもメイメイが下から引っ張っているため廃屋の場所から外へと動けない。今も高重力を受けているような負荷を全身に受けながら辛うじて避けている。苛立ったリンの思考が強硬手段へと向くのは当然だろう。
(…燃やすか!)
『焔』を使ったリンの周囲が炎に包まれる。それは残った瓦礫全てを燃やし、レオリオの下まで熱気を伝わらせた。
「あっちぃ!」
叫んだレオリオが数十m後方に退避した。同時にリンの拘束も解ける。どういうわけかメイメイが場所を移動したらしい。身体が地面へと押し付けられるような感覚がなくなり、僅かに息をつく。
(このタイミングで移動…どういうつもりよメイメイ!)
しかしそれは思い違いで、拘束が解けたように見えただけだった。
瞬間、リンの身体は見えもしない背後の木に向かって叩きつけられる。ちらりと振り返ると、悪い表情をしたメイメイが飛んでいるのが見えた。
(…もう!あんたが一番やっかいなのよ!)
正直に言うと、メイメイが裏切る可能性を考えていなかったわけではない。元はリンが生み出した能力であるため、リンと似たような気質を持つメイメイだ。面白い方につく可能性は十分考えていた。
だが、考えても対処できないのがメイメイの厄介なところだ。制約で縛られている以上、リンとメイメイはどうやっても離れることができない。無意識とはいえ、メイメイ優先で引き摺られる制約を作った自分を恨むばかりだ。
『焔』を使って叩きつけられるはずだった木を瞬時に燃やす。このままメイメイに引き摺られて何処かへ誘導されるのかと思ったが、ここに来て忘れていた奇襲が再びリンを襲った。
レオリオの奇襲とメイメイの予想外の行動に完全に気を取られていたリン。『絶』を使って完全に気配を消していたのも警戒心を削るのに一役買っていた。
「『隠』を使うならば可能な限り気を逸らしていた方が、成功率が高いということだな。リンで通用するなら実戦でも使いようがあるだろう」
「…一応試験だし私も手加減してあげてるんだからね?」
「思い切り驚いた表情をしていたが?」
「そういうフリなの!フリ!!」
見え見えのハッタリだし当然クラピカも気づいていたが、リンはそれどころではなかった。念攻撃を受け、その効果が何かを探るのに忙しかったからだ。
(『絶』!強制的にオーラが出せない状態にさせられては念能力者との闘いは完全に不利なものになる!クラピカ…良い能力を作ったわね!)
対象を『絶』にする能力のアイディアはノワールのものかとアタリをつける。クラピカの言う通り、奇襲にも成功したし実戦でも通用する攻撃なのは間違いない。
だが、ノワールの能力は複数人で戦うのを前提にした制約付きだ。一人で戦うことに拘るクラピカがこれだけの効果を付与するには、どんな制約を作ったというのだろう?
(…心配するな私!それを防ぐために先回りして動いていたんだから、大丈夫!)
頭に浮かんだ嫌な想像をかき消した。多少の不安要素があるとはいえ、リンが能力を発動していた以上は効果が出ているはずだ。
それに今は別の事を考えている余裕はない。メイメイの助けがあったとはいえ、クラピカとレオリオは予想以上に成長している。余裕綽々で二人を相手にするのは得策ではない。
「『絶』にされたからって諦めはしないわよ?」
鎖で繋がっているクラピカも引っ張られてしまうためだろう。メイメイの動きは止まっている。リンが上半身を鎖で拘束された以上、それも必要ないと判断されたのかもしれない。
だが、まだ足がある。弟子として厳しく鍛えてきたとはいえ、念能力者の経歴としてはリンの方が断然先輩だ。強化系の修行は苦手分野だが、莫大なオーラに耐えられるようにと生身の肉体も強靭なものになっている。ダメージは負うだろうが、多少ならば『絶』状態の足技だけでもオーラを纏ったクラピカと良い勝負ができるとリンは読んでいた。
クラピカの左拳がリンの腹部を狙う。それは初めと同じ動きだが、違うのはリンが拘束されている点だ。従って、リンはその攻撃を唯一自由に動く足で往なした。
更にそこから回転蹴りを放ち、クラピカもそれを辛うじて受け止める。
(…っ!やっぱオーラがないと大分痛いわね)
オーラを纏ったクラピカと念が使えないリンでは当然リンの方が威力は劣る。だがクラピカが予想していたほどは差が生まれなかったようで、クラピカは依然険しい表情を崩さない。
「クラピカ!二人でやるぞ!」
「いや、ここからは私にやらせてくれ!」
「んなわけにはいくかよ!」
「二人とも!よそ見している余裕はあるかしら?」
体感では残り時間15分程度。十分持ちこたえられる範囲だ。メイメイを肩に乗せて参戦しようとするレオリオと、対旅団を想定して一人で戦おうとするクラピカ。そんな意見が割れた状態のルーキーにやられるほど油断はしていない。
跳び上がり二人の顔面目掛けて一度に蹴りを入れる。攻撃が入った事でクラピカもそんな事を言う余裕がないと悟り、鎖の威力を強めた。同時にアイコンタクトをしてレオリオと協力する意思を示す。
「いっつつつ…!」
リンを縛る鎖が巨大になり、身体を締め付ける。ぎちぎちと身が潰されそうになる感覚に顔を歪めつつも、レオリオの蹴りをしゃがんで回避し足払いをかけた。
「レオリオ!お前が奇襲を掛けろ!鎖を操れる私が気を引く!」
「おうよ!」
「聴こえてるのに乗るかっての!」
矢継ぎ早に繰り出されるクラピカの攻撃を避けながらもレオリオ目掛けて後ろ蹴りを放つリン。
それは余裕がなくなってきた事から無意識に本気に近い一撃が繰り出されていた。咄嗟に目で追いきれない蹴りを喰らい、レオリオの身体は後方へ吹っ飛び木に叩きつけられる。
ここからは持久戦だ。シンプルにレオリオとクラピカの攻撃を避けて往なして、反撃をするだけ。それは正解なようで、クラピカは息をつく間もない勢いで攻撃を繰り出す。
だが、クラピカは身体能力こそ高いが純粋な腕力で言うならば非力な部類だ。おまけに一定期間鎖を具現化する修行に時間を取られていたため、格闘に関してもまだまだ発展途上。緋の眼を使うつもりもないようで、『絶』状態で上半身が使えないリンでも十分に対処できる。…一対一ならば。
「
レオリオの叫びと同時に放たれた強力な念のビーム。それは先程よりも更に巨大なもので、当たれば『絶』のリンは勿論、オーラを纏っているクラピカでも致命傷になるものだった。
「まずっ…クラピカ!」
反射的にクラピカを押し倒し、地面に伏せる。頭上を巨大なオーラが通過していくのを見て、才能の塊が得意系統を使いこなすスピードの速さに思わず呆気に取られてしまった。
そしてその攻撃は、確実にリンの隙を生んだ。
「捕縛、完了…!!」
下に挟まるクラピカから腰を拘束され、起き上がることができない。完全に身動きが取れない今、レオリオだけが自由に動く事ができる。当然、焦って身を捩り何とか起き上がろうとするリン。
ここが一番のチャンスポイントだと、攻撃される側のリン含め全員が理解していた。
「っ!!」
上半身だけ起き上がろうとした時、レオリオ渾身のパンチがリンの頬に炸裂した。鈍い音が山の中に響き渡る。ゲームセット、リンの敗北が決まった瞬間だった。
「痛ぅ~…」
「わりぃ、大丈夫だったか?リンは『絶』状態なのに手加減できなくて普通に打っちまった!」
闘いが終わり、クラピカの腕がリンから離れた。同時にタイマーが間抜けな音でタイムアップを知らせ、メイメイがリンのスマホを操作して停止させる。
勝負が終われば今までの真剣さはなりを潜め、レオリオは心配そうにリンを見つめた。何とか足だけで立ち上がり、多少は自由になる手で土埃を払いながら、心配させまいとリンもケラケラと笑う。
「いやぁ、大分痛かったけどむしろ誇らしいわ。全力でやったのに一発貰っちゃった」
「『絶』しててその程度のダメージなのかよ…」
レオリオが呆れ顔になる通り、リンの顔は赤く腫れて血も出ているが、逆に言えばそれだけだった。最悪骨が折れているのではと心配していたレオリオはほっとするやら呆れるやらで微妙な表情を見せる。
オーラを纏っての攻撃が全くオーラを纏っていない相手にその程度のダメージということは、それだけ純粋な力量差があるという証拠だ。またジンと殴り合いをする際にはもっとタフに戦えるようにと続けていたトレーニングがこんなところで成果を見せている。
「ともかく私は大丈夫。てかレオリオ、あの
「何がだ?」
「何がって…私はともかくクラピカが死にかける所だったわよ?」
どんな制約を使ったんだかそれとも天性のものかとリンが少し叱るようにそう言うと、レオリオはからりと笑って言った。
「そりゃあ、リンがクラピカを守る方に賭けてたからな!それ含めての作戦よ」
「はぁ!?それ外したらどうしてたのよ!」
「ま、ぶっちゃけあの技は事前に話していたからクラピカも避けられたし。最悪リンが避けられなければクラピカに助けるよう言ってたからな」
「…完敗だわ」
あの感じだと、その作戦を提案したのはレオリオだろう。リンの性格やそれを外した時の対策すらも読んでいる。予想外なところでレオリオのハンターとしての才を見つけ、思わずそう呟いた。
レオリオの読みと切り札、クラピカの『発』と能力を最大限に活かす作戦。どちらもリンの期待を大幅に上回っている。師匠としてこれほどに嬉しい事はない。
「…二人とも凄いわ。これでも先読みは得意なんだけど、普通に意表を突かれちゃった。ほんと完敗」
嬉しさのあまり二人を絶賛するリン。レオリオは満更でもないにやけ顔を見せる。一方でクラピカの表情は浮かないものだ。打倒旅団を掲げる彼は、今回のリンの卒業試験を模擬戦闘とも見ていたのだろう。
「本番なら私たちはリンにあっけなく殺されていただろう。それにリンがあの雷のようなオーラを使い続ければ、私たちが触れる事は不可能だったはずだ」
「そりゃあね。でもこれは戦闘じゃなくて訓練だから。それに言った通り、全力でやったわ。そこに嘘はない」
逆に言えば、殺す気でタイマンをすれば今でもクラピカはリンに敵わないということ。それを言外に匂わせることで少しでも冷静になってほしいと思い口にするリン。
それがクラピカに届いているのかはともかくとして、クラピカの表情が暗いままなのがずっと気がかりだった。
「ところでクラピカ、そろそろこれ外してくれない?」
「あ、ああ…」
空気を変えるため、わざとらしくじゃらじゃらと拘束されている鎖を揺らして見せるリン。すると先程までの流暢さと表情はどこへやら、クラピカは一気に歯切れが悪くなった。そんなクラピカにリンは途端にニヤニヤと弄るモードの悪い表情を見せる。
「なぁにぃ??やっぱり緊縛趣味に目覚めちゃった的な?」
「そんなわけない!!むしろお前だろう!」
「何よむっつり!レオリオのエロ本をチラ見してんの知ってんだからね!」
「そっちこそ興味津々で堂々と覗き込んでいるではないか!」
「おいまたかよ…」
かくして卒業試験は満足いく形で終わったが、締めはやっぱり喧嘩になるリン達なのであった。