リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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久々に仕事でもして閑話休題【後編】

(よくやったわ…本当によくやったわねゴン…姉ちゃん誇らしい…)

 

 200階デビューしてから約1週間後の昼下がり。闘士たちと熱い念能力バトルを繰り広げているのかと思いきや、リンは200階の部屋でゴロゴロと試合観賞をしていた。

 高値で売られていたゴンとヒソカの対戦映像記録を見た日には(ヒソカと闘ったの!?あれでもキルアの口ぶりでは元気そうだったし…)と混乱のあまり一瞬息が止まったが、映像を見てしまえばあとは姉バカが噴出するだけ。感動のあまり思わず零れる涙をハンカチで拭いながら、映像に向かって一人拍手を送るリンは立派にオタ活をしていると言えるだろう。

 

 しかし200階クラスで初見の念能力者相手に軽く運動…と思っていたリンがなぜそれをしなかったのか。

 理由は至極単純、なぜか腕の立つ念能力者が殆ど居なかったからだ。

 メンチから聞いていた話とは異なり、200階クラスの闘士約半数以上が非念能力者。残りの半分も身体の一部が損傷している念に目覚めたばかりの人間で、辛うじて腕の立つ念能力者も勝利のために非念能力者と進んで試合を組みたがる。

 

 それは、ゴンやキルア、ヒソカたちの影響だ。ゴンとキルアが初心者狩りをしていた連中を屠った事により200階クラスに非念能力者闘士が流入。更に同じタイミングで腕の立つ念能力者をヒソカが軒並み殺してしまったため、200階クラスの質は著しく低下していた。

 そんな事をリンが知る由もないのだが、ともかくリンは200階クラスに巣食うヒキニートと化している。

 

「はぁ~、最高だったわ。次は念なしのビデオでも…え、メイメイ何?」

 

 非念能力者目線であの戦いを観るのも良いだろうと新たにビデオを取り出すようメイメイに求めるが、差し出されたのはゴン達の記録映像ではなくリンのスマホだ。

 オレンジ色のカバーがかけられたそれはブルブルと着信を告げており、画面を見ると『イルミ=ゾルディック』と表示されている。

 

「あー、イルミから?珍しいわね」

 

 メイメイから受け取り通話ボタンをタップする。余談だがリンはアドレスをフルネームで登録する派だ。例外としては『クソジジイ』と『クソ親父』が挙げられるが、今それは関係ない。

 

『やあリン』

「珍しいわね。キルアは今一緒に居ないわよ」

『なぁんだ。少し話したかったのに』

「キルアはイルミと話したくないんじゃない?」

『何で?』

 

 何でと来た。何で?と。

 半年近く前とはいえ、初めてできた弟の友人(兼幼馴染の弟)を殺すと脅したことを忘れているのだろうか。どういう思考回路をしているか聞きたいところだが、知らぬが仏、言わぬが花というやつだ。

 大して重要そうな用事でもないのを察し、喋りながらもメイメイのポケットに手を突っ込んでビデオを取り出す。音声を少し小さくしてデッキに挿入し、ベッドに腰かけた。

 

「で、何か用?キルアの電話番号は知ってるんじゃないの?」

 

 てっきりキルア関連の用があるのかと思っていたが、イルミの雰囲気からしてどうやらそうではないらしい。

 

『ちょっとね。お前って今天空闘技場に居るの?』

「まあそうだけど」

『やっぱそうなんだ』

「200階クラスに上がってからはほぼニートだけどね」

『いつもそうだろ』

「ハンターって書いてニートって読むなし…あーもうゴン最高!」

『はあ?』

「こっちの話よ。気にしないでオケ」

 

 ゴンがナンバープレートをヒソカに突き返すシーンに、思わず叫んでしまうリン。少しスマホから距離を取ったらしいイルミの咎める声が小さく聴こえてくるが、元来遠慮をしない相手に礼儀を弁えるリンではない。

 テレビの中では局部を勃起させた変態ピエロが弟に殴られている。ヒソカレベルならば簡単に避けられる連撃なのにそれをしないあたり、そして恍惚とした表情を浮かべているあたり、ヒソカの性癖が露骨に出ているシーンである。

 

(ゴンが目を付けられてるのって、殺されないかは勿論だけどケツ掘られないかも心配なのよね…)

 

 姉としては弟の貞操が心配になるところだ。『SとMは表裏一体』という誰かが言っていた言葉が脳裏をよぎる。

 リンの推しカプは勿論キルゴン。巷では成人ピエロを振り回す悪女ゴンの薄い本も出回っていたのであろう事は簡単に想像がつくが、可愛い弟がそんな事をするわけないとリンは信じている。リンはゴン過激派なのだ。

 どうでもいい考え事に意識が引っ張られそうになった時、それに気づいていないイルミの声がリンをギリギリ現実に戻した。

 

『なら都合がいいや。ちょっと呑みに行かないか?』

「え?私未成年なんだけど」

『じゃ、リンはジュースで』

 

 嫌な予感がする。イルミが利害抜きで(しかも未成年を)呑みに誘うなんて裏がある気しかしない。

 テキトーに理由をつけて断るのが吉だと、リンの中の対イルミ用脳内演算回路は素早く回答を出した。

 

「私ちょっとご飯を食べる用事があるから…」

『ククルーラウンジの18階で待ってるから。あ、20時だよ』

「…」

 

 言い返すよりも早くぷつりと通話が切られてしまう。

 イルミが話を聞かないのはいつものことだ。晩御飯は早めに食べて行こうとリンは諦めてため息をついたのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 時刻は20時。言われた通りククルーラウンジに到着したが、約束していた人物は見当たらずリンはきょろきょろとエレベーターの前で周囲を見回していた。

 

(…居ないわね。ちょっと早く到着し過ぎたかしら)

 

 客どころかバーテンダーすら一人も見当たらない。早く来てしまったのかと時計を確認するが、時刻は20時ぴったりだ。

 だが、流石に店員が一人もいないのはおかしい。階層を間違えたのかとエレベーターに戻りかけた時、静かな空気に紛れて僅かな殺気を感じた。

 

「!?」

 

 反射的に飛び退くと、リンが居た場所に数本の針が突き刺さる。端に赤い球体の飾りがついた待ち針のようなそれは、イルミが愛用している武器だ。

 突き刺さったそれを視認すると同時に、かすかに空気が揺れ動いたのを感じ取った。間を置かずに全く別の方角から再び針が襲い掛かってきて、即座にリンも能力を発動させる。

 

【透明な反射鏡】(ミラーミラージュ)

 

 投げられた針は具現化されたガラスにぶち当たり、ぽとりと力なく落下する。カラカラと床に転がった数本の針が動きを止める頃、イルミは陰からぬるりと姿を現した。

 

「何の真似?」

「…」

 

 リンの叫びにもイルミは何も答えない。ただただ任務を遂行するための仕事人の顔で、リンに襲い掛かるのみだ。

 即ち、殺し屋としてリンと相対している。殺されてはたまらないと、リンもオーラを噴出させた。

 

 イルミが距離を詰め、リンに近距離戦を仕掛ける。さっきまでのような遠距離攻撃では全て防がれてしまうと判断したらしかった。そしてその両手には数本の針が握られており、いつでも投げることができるように準備されている。

 針を持っている以上、一発でも攻撃を喰らえばアウト。そうでなくても常に針の動きを注視しながら戦わなくてはならない。

『雷』はイルミが相手では効果がない。『焔』はやり過ぎると建物をめちゃくちゃにしてしまう。イルミの意図が分からない以上、必要以上の周辺の損傷は避けたいリンはあくまで防戦に回ることになる。

 

(殺す気の割には妙に攻撃が単調ね…イルミなりのとち狂ったお遊びかしら)

 

 ゾルディック家に預けられていた時はイルミとも数えきれないほどの戦闘訓練を行ったリンだ。あくまで訓練とはいえ、互いに本気の勝負を何度も行ってきた。

 そのリンに言わせてみれば、今のイルミの攻撃には捻りがない。

 本気で相手を倒しに来るときのイルミは、暗殺者という肩書に恥じない位にはもっと隠密行動を積極的に行う。肉弾戦の間に挟まれる隠密行動が最もイルミの面倒な攻撃なのだ。

 

 ジャブ、ストレート、回し蹴り。単調とはいえ続けざまに浴びせられる攻撃の数々は、念能力者だからではなく訓練によって培われたイルミ本来の身体能力だ。それらを寸前で受けたり躱しながら、内心悪態をつくリン。

 

(相っ変わらずダルい攻撃ね!だから肉弾戦のできる操作系は嫌いなのよ!)

 

 本来遠隔攻撃を得意とする操作系が肉弾戦を仕掛けてくるのは、悪手に見えて実は遠近両用の手堅い手段だ。尤も、イルミのように双方の技術に長けている場合に限るが。

 

 ほとんどの攻撃は寸前で躱すが、針が刺さりそうになったら【透明な反射鏡】(ミラーミラージュ)でガードをする。距離を取って壁を背にした時、想定外の攻撃がリンを襲った。

 

(!?)

 

 油断と言えばそれまでだが、リンにとっては当たらないと判断した針による遠距離攻撃に過ぎなかった。

 しかしそれが手首に身に着けていた細身のラバーバンドに引っ掛かかる。2、3本のバンドが針に纏めて串刺しにされ、抜く間もなくイルミは正面から針を両手に襲い掛かってきた。

 

(もう!これ気に入ってたのに!!)

 

 壁を思い切り蹴り、推進力でバンドを引きちぎりながらイルミの想定していた攻撃タイミングをずらすことに成功した。そしてそのまま右足に『焔』を使い、イルミの側頭部目掛けて打ち込む。咄嗟に左腕でガードしたようだったが、その腕は一瞬にして酷く焼け爛れた。

 

「嘘くさいわよ。何の演技なわけ?」

 

 意図もわからないためそのお遊びに乗っかっていたが、お気に入りのファッションアイテムを壊されたとなれば話は別だ。正確に言えば壊したのはリンであるが、きっかけを作ったのはあくまでイルミである。

 ワイドパンツの汚れを払い腰に手を当てながら呆れ顔で睨むと、イルミは無言で腕に針を差し込んだ。すると一瞬にして火傷の後が見えなくなる。周辺の皮膚を操作して傷跡を覆い隠したらしい。

 

「何だ。バレちゃってたか」

 

 作業を終えると、イルミは悪びれもせずに乱れた髪をかき上げた。本人的にも本気ではなかったのだろう。

 

「バレるも何も、イルミが私を殺すならもう少しスマートにやるでしょ」

「ま、それもそうだ」

 

 そう言うとイルミは手に持っていた針を全て包帯の様なデザインのタンクトップやワイドパンツの内側に収めた。リンもホッとして『練』をやめ、同時に能力を解除する。オーラを再び偽装状態に戻し、戦闘によって少しずれたヘアバンドを被り直した。

 

「で、何でまたそんな面倒な演技してたわけ?」

「余興だってさ。お金貰ったし」

「私、余興で殺されかけたの?」

「死ななかったんだしいいじゃん」

「これで死んでたら化けて出るわよマジで」

 

 しれっと言うイルミに殺意が湧くが、死ななかったのだから終わりよければすべて良しと心を静める。イルミの物言いにいちいちブチ切れていては若くして高血圧になってしまう。

 

「で?誰よ。そのアタオカ脳天パァな依頼をした暇人は」

 

 イルミの口ぶりからして誰かの依頼を受けたのは確実。更に特に隠そうともしていない何者かの視線も感じていたため、聞いているであろう人物への嫌味も含めて言うと、イルミは一言、「クロロ」と言った。

 予め見ていたのだろう、タイミング良くコツコツと足音を響かせながらクロロが部屋の奥から顔を出す。良いものを見せてもらったと言いたげに一定間隔で拍手をするのも忘れずに。

 

「よ、久しぶり。またでかくなったか?」

「実際に会うのは4年ぶりくらいだしね。私あんたに嫌われるような事したっけ」

 

 クロロは軽く手を挙げるとそのまま窓際のカウンター席に腰かけた。すると予め指示していたのか、ウエイター達が無言で素早くラウンジの掃除を始める。念のためあまり派手に暴れなくて良かったと思うリンだ。

 

「あいつが「暇だからバトルしてるとこ見せろ」って言い出したんだよ。リンを呼んだのもクロロの指示」

「悪趣味ね」

「まぁそう言うなって。今日は奢るから」

「許す」

 

 即座にリンが言うと、クロロは「変わらないな」と言ってくつくつ笑った。リンの現金な性格は、最後にクロロと会った時から全く変わっていない。

「オレンジジュースお願いします」とカウンターに頼み、クロロの隣に腰かける。イルミも同様にしてリンの隣に座ったため、自然と美青年二人に挟まれることになったリンだ。

 

「んー、じゃあ俺はXYZにしようかな」

「俺はロブロイを」

 

 イルミが度数の高いショートカクテルを注文し、クロロは女性受けしそうなカクテルを注文した。

異文化(カルチャー)ハンターとしてカクテルの種類や言葉の意味くらいはリンも把握している。XYZが『永遠にあなたのもの』でロブロイは『貴方の心を奪いたい』だ。

 

「イケメンがカクテルを頼むとそれだけで勘違いする女が大量発生しそうね」

「好きな物頼んでるだけ。リンは酒、飲まないんだ?18なら飲めるだろ」

「ちょっとね…」

「あ、昔ヒソカにやらかしたトラウマ?まだ引き摺ってんの」

「ニューイヤーオレンジが好きなだけだし。多少は酒だって飲めるわ」

 

 容赦ないイルミの言葉に早速血圧が上がりそうになるリン。暫くすると注文したドリンクが運ばれてきて、その頃にはフロア全体もほぼ片付いていた。

 酒は飲みたいが、この二人相手にヒソカに対してのようなセクハラはかましたくない。ちなみにいうと、リンは別に下戸ではない。ビスケのアルハラが酷過ぎただけだ。

 

「クロロ、ちゃんと報酬送っといてよ?リン相手にするのって正直コスパ悪いんだから」

「ああ。もう送ったから口座確認しといて」

「ん、まいどあり」

 

 イルミがそう言うとグラスを軽く掲げた。奇妙なメンバーで乾杯の音が鳴らされる。共に差し出されたつまみは「全て自分が摘まむ」と言わんばかりにメイメイが抱え込んでいる。

 

「今日は何か仕事絡みでここに居るの?」

「まあそれもあるけど、普通に飲んでただけだよ」

 

 一口飲んで尋ねたリンに、クロロがグラスを軽く回しながら答える。(友達かよ)とリンが内心ツッコんだのは仕方がないだろう。

 

「イルミ、これでよくキルアに『友達は必要ない』なんて言えたわね」

「間違っちゃいないさ。俺とクロロはギブアンドテイクの関係だからね」

「ハイハイ。クロロ、接待らしいわよコレ」

 

 数年前にも似たようなやり取りをしたのを思い出しながら首を右から左に向ける。クロロはワイシャツの襟を正しながら「ふっ」と笑って流した。リンのグラスの氷がカラリと音を立てる。

 

「で、私にも何か仕事の依頼かしら」

「いや、天空闘技場でリンの噂を聞いたからな。近くに居るなら呼ぼうって話になっただけだ」

「…あんたらってたま~にカタギ染みた事するわよね…良かったわね。若くて可愛い女の子とタダで飲めるなんて、そうそうないわよ」

「それは光栄」

 

 目に入りそうな前髪を軽く流すクロロ。包帯が露出する面積を増やした。イルミはそんな二人の会話を何の感情も持たずに聞いている。

 

「キルとはなんで今、一緒に居ないの」

「私も会いたかったんだけどねー。ゴンと一緒に私の故郷に里帰りしてるみたい…ああ、写真も貰ってるわよ」

「頂戴」

「友達じゃないならギブがないとテイクはできないわね」

「金なら出す」

 

 イルミの普段の言い草を地味に根に持っているリンが「ど~しよっかな~」と軽くニヤついてみせると、「殺すよ?」という言葉が返ってきた。

 

「そっちは?最近何か面白い事あった?」

 

 イルミの脅迫をいつものことだと完全に無視するリン。有名な暗殺者をここまで無下に扱う人間も少ないだろう。「既に今目の前で起こっていることが面白い」と言いたげなクロロだが、口には出さないらしい。

 

「俺は休暇だな。そろそろ働こうかと思っている」

「相変わらず」

 

 イルミもイルミで、いつものことなのでさっきのやり取りは流したようだった。キルアが居ない日常がつまらないらしく、殆ど表情は変わらないもののどことなく寂しそうに見える。

 一方でクロロの言葉はそれだけを聞けば裕福な自営業者にも見えなくはない。職業が盗賊というだけで、間違ってはいないが。

 

(…ヒソカからの情報通りってことね)

 

 このタイミングで何か盗みを働くならば、一番に思いつくのはヨークシンのドリームオークションになる。それだけ大々的に行われる祭典だからだ。主旨は違えど動く金銭と人々への影響力はオリンピックにも引けを取らない。

 

「ヨークシンで暴れるつもりでしょ。碌な事にならないからやめてくれない?」

「なぜ知ってる?」

「…女は秘密を着飾って美しくなるのよ」

「ベルモットだな。柄に無い台詞を言うのにハマってるのか?」

 

 クロロは活字の類であれば特に選り好みせずに読む。つまりはコナンも許容範囲だったらしい。

 そして間接的に『ベルモットのような色気はお前にない』と言われピキリと来るリン。なぜ自分の友人は煽りスキルが無駄に高い奴ばかりなのだろうかと内心思うが、類友というやつだ。

 

「私の仕事が情報第一って知ってるじゃない。ともかく、絶対にやめてよね」

「ふ、そう言われると俄然興味が湧いてくるな」

(そうだー!こいつ意味不明なレベルの逆張り野郎だった!!)

 

 言うまでもなくそれはブーメランである。

 だが、冗談で言っているわけでもない。ジュースを一口飲んでコホンと咳払いすると、真剣な表情をクロロに向けた。

 

「…結構本気で止めにかかってるのよ。盗賊らしくこそこそするならまだしも、旅団って名ばかり盗賊のテロリストだし」

「つまり派手にやれってことか」

「…はいはいセーカイデース。私はちゃんと言ったから、知らないわよ」

 

 駄目だこいつ。ダメ元だったため別にショックはないが、あわよくばと思っていたのも事実。目論見があっさりと失敗して、少しリンはむくれた。

 

「クロロ、次は何を盗むつもりなの」

「ヨークシンのオークションに出るお宝。全部派手にいってやろうかと思って」

「わぁお、マフィアは大混乱になるだろうね。こっちにも色々仕事が回ってきそうだ」

「十中八九俺も目を付けられるだろうな。場合によってはお前に仕事を頼むかも」

「はいよー」

 

 リンを挟んで両脇で会話がなされる。気分を直すためにジュースをちびちび啜っていると、いつの間にかグラスは空になっていた。

 

「リン、果実系が好きなら次はカシスソーダなんてどうだ?」

「私じゃなければオチてるわよ。自分の顔面の良さは自覚した方が良いと思うけど」

「大丈夫だ、理解してる」

 

 どこぞの本で身に着けたのか、クロロもカクテル言葉に詳しいらしい。揶揄うようにそう言ったクロロの脇腹に、リンは呆れ顔で軽く肘を入れたのだった。

 決断の時は迫っていた。何事も起こらないようにと居ると思いもしない神に、リンは心の中で願った。

 

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