リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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リンの九月四日【5】

鉄錆を水に流す為

貴方は自ら蝶となる。

見捨てられた狩人達は

パンドラの箱に手を伸ばす

 

狩人を捨てきれない遊猟の蝶は

蜘蛛の手を捥ぎ眠りにつく

針を補助に使うと良い

きっと力になってくれるだろう

 

(眠りってたぶん永眠とかその辺の暗示よね?やっぱ私死ぬのな…それにしても針…?)

 

 リンはネオンの存在をほぼ忘れてしまっていた。辛うじて『占い』というキーワードに引っ掛かるものはあるが、それは大してこの場で役に立つものではない。

 しかしクロロが念を発動している点、そして『占い』という言葉から推察するに、能力は100%当たる占いか書いたものが現実となる能力だろうとアタリをつける。そしてクロロが意識を失くした様子で書いていた点からすると、前者の可能性が高いだろう。

 

「それはある女から盗んだ能力でな…100%当たる預言だ。1小節につき月初めから1週間の出来事が書いてある。逆に言えば、そこに書かれている内容を達成しなければ当たらない」

「団長、この子聞いてませんよ」

「…」

 

 シズクがズバッと真実を告げ、黙り込むクロロ。

 実際、リンはクロロの丁寧な説明を一応は耳に入れつつも、無視して考えこんでいた。何度か目を通しているうちに占いの意味が少し見えてきたからだ。

 

鉄錆を水に流す為

貴方は自ら蝶となる。

見捨てられた狩人達は

パンドラの箱に手を伸ばす

 

(鉄錆を水に…鉄錆で思い出すのはクラピカのオーラの色。それを変えるために私はクラピカたちから離れて蜘蛛を殺しに来た)

 

 もう友達を目の前で死なせない。あんな色のオーラを出させない。そう誓ったリンの心境が占いにははっきりと出ている。念能力とはいえ誰にも明かさなかった心の内を文字に起こされ、読んだ瞬間リンの心臓は大きく跳ねた。

 

(でもそこにはゴンとキルアが居て、人質交換を申し出た…と。これが1週目、見事に当たってるわね。パンドラの箱ってのがよくわからないけど…さっき私が伝えた暗号の事?少し違う気がするけど)

 

 意味を読み取ることが出来なかったリンは、諦めて次の週…つまりその下の予言について考える。

 

狩人を捨てきれない遊猟の蝶は

蜘蛛の手を捥ぎ眠りにつく

針を補助に使うと良い

きっと力になってくれるだろう

 

(狩人を捨てきれない…ハンターである自分?いや、それは遊猟が示しているから、クラピカたちか。彼らを捨てきれない私は、彼らを守るため蜘蛛のメンバーを殺して自分も死ぬ。針がその手助けをしてくれる)

 

 ゴン達にはああ言ったが、どちらにつくかなんてとっくの昔に決めていた。そして何より、クラピカ達に旅団を殺させる気はない。

 ゴンはもちろんだが、特に人殺しでクラピカが傷つくのはわかりやすく目に見えている。そして自身も経験があるからこそ、弟や友人の手を、復讐という理由で汚させたくなかった。

 

 クラピカやゴン達に旅団を殺させるくらいなら、大切な彼らが正面衝突により殺されるくらいなら、自分が先に旅団を潰してやろう。リンはとっくにそう決めていた。彼らのために、あの日の後悔を繰り返さないために。

 子どもじみた思想だとわかっていても、それ以外の選択肢は考えられなかった。だが当然、進んでそれをしたいわけではない。

 だからこそ最も良い選択肢…ヨークシンで旅団とクラピカ達が出会わないようにと画策していたのに、その目論見は、そして最終手段すらもゴン達によってあっさりと覆された。それが今のリンの状況だ。

 

(針って聞いてこの場で浮かぶのはマチだけど、マチが旅団を裏切るとは考えにくい。すると、他にイメージするのは…イルミ)

 

 そう考えていると、ずっと忘れていた目の前の男…クロロからの強い視線を感じた。どうやらずっとリンに声をかけていたが、リンが気づいていなかったようだ。

 

「何か?」

「やっと気づいてもらえたね団長」

「…もう読んだならそれ、見せろ。書いたが俺には内容はわからないんだ」

 

 ニヤニヤ笑うシャルナークに、少しむくれた様子のクロロ。少し気まずさを感じつつも承諾すると、クロロは紙を自分が見えるように手元に戻す。そしてざっと目を通すと、口を開いた。

 

「この『蝶』というのはリンのことで間違いないだろう。蝶=蜘蛛の餌=人質と読み替えられる」

「来週リンが俺たちを殺すということか?」

「まぁ、さっきリンが言っていた話と一致するな」

 

 横から覗いていたフランクリンにクロロはそう言って、そのままリンの予言が全員に向けて読み上げられた。

 プライバシーの侵害を主張したいリンだが、よく考えれば今のリンは捕らわれの身だ。占いもクロロが行なったものであり、文句を言う筋合いは驚くほどにない。

 

「おい、針ってまさか…マチか」

「はぁ!?ざっけんなよ!」

「…お前ら、全員占う。順番に並べ」

 

 一触即発のフィンクスとマチ。クロロはそれを無視してしばし考えこむと、団長として全員に指示を出した。しぶしぶのマチとフィンクス含め全員がその言葉に従い、団員番号順にメンバーが並ぶ。

 生年月日等が分からず占いようがなかったフィンクス、フェイタン、コルトピを除いて順番に占いが行なわれた。全員分の占いが終わったところで、情報共有のためにそれぞれの占い内容がそれぞれの持ち主によって読み上げられる。

 

1.ノブナガ

大切な暦が眠りについて

待ち惚けた月達は盛大に弔うだろう

貴方は誰よりも大きく奏でる

霜月に聲が届くようにと

 

外から舞い降りた死神が

命を代償に蜘蛛の手足を切り落とす

白き衣は緋色に染まり

緋の眼と共に睦月は永い眠りにつく

 

3.マチ

大切な暦が眠りについて

待ち惚けた月達は盛大に弔うだろう

片割れを失った弥生は

静かに怒りの糸雨を流す

 

天使が怒りの血を流し

死神となって貴方を眠りへと誘うだろう

天使の翼を捥いではならない

貴方もかつては天使だったのだから

 

「…私が言うのもアレだけど、これ私の前で話しても良い内容なの?」

 

 ノブナガといいマチといい、書かれているのはかなり突っ込んだ預言だ。しかも、彼らを殺すのは十中八九リン。自分がこの場に居るのが場違いに思えて念のためクロロに確認するくらいには、とても気まずい。

 

「あまり好ましくはない。だが、お前から目を離したら即座に逃げるか攻撃をされるからな。それにお前の実力を少し侮っていた。あのレベルの『練』ならば団員数人程度見張りにつけても、突破される可能性が高い」

「…まあ、エスケープするのは否定しないわね」

 

 この状況下ならばエスケープして態勢を立て直すのが良いのではと考えていたリン。嘘をついてもまた見破られそうなので、正直に答えておくことにする。

 どれが誰の予言かわかりやすいように、予言は団員番号順に読み上げが行なわれていた。ノブナガ、占いのできないフェイタン、マチと続いて、次は団員No.4のヒソカだ。しかしヒソカが口を開きかけた時、パクノダがそれを遮る。

 

「待って、私が読み上げる」

「…どうぞ♥」

(あからさまに信用されてないわね…まあクロロのケツ狙ってんだし当然か)

 

 そんな思考が伝わっているかのように、終始リンと眼を合わせようとしないヒソカである。間違ってはいないだけに始末に負えない。

 そんな事は露知らず、ヒソカから用紙を受け取ったパクノダが淡々と予言を読み上げる。

 

4.ヒソカ

大切な暦が眠りについて

待ち惚けた月達は盛大に弔うだろう

貴方の鎌は血を纏い

哀れな霜月への貢物となる

 

空腹の蜘蛛は餌を急き

手足を捥がれ地に果てる

蝶を殺してはいけない

貴方も手足の一員だから

 

「…良かったじゃない、特におかしなところはないわ」

 

 そう言って紙を返したパクノダ。「酷い言われようだ♦」と返すが、特にヒソカが怒っている様子はない。

 団員No.5はフィンクス。だが彼も占いができなかったので、続くシャルナークが軽い口調で読み始めた。

 

6.シャルナーク

電話を持ってはいけない

かけてくるのは死神だから

機械整備も勧めない

死神は聞き耳を立てているから

 

天使を傀儡にしてはいけない

死神の眼は全てを見通すから

天使を殺すのはもっといけない

死神の怒りを買うから

 

「俺のやつ、禁止事項多すぎない?しかも2小節目で終わってるし、死んじゃうみたいだね」

 

 一旦の状況を整理するために、全員の占いは来週の2小節目までを読むように指示されていた。本来ならばその下に3小節目、4小節目があるのだが、シャルナークにはそれがない。つまり、シャルナークに9月の3週目は訪れないということだ。

 

「違和感がある。1小節目の死神と2小節目の死神って、別人物じゃない?」

「…一度全員の占い結果を確認しよう。判断はそれからだ」

 

 マチの指摘を受けて、「確かに」と呟く者や「?」と首を傾げる者。だがクロロの言葉に全員がまた静かになる。次はフランクリンだ。

 

7.フランクリン

大切な暦が眠りについて

待ち惚けた月達は盛大に弔うだろう

文月は星の欠片を流し

霜月の輝きを更に彩る

 

血塗られた晩餐会の場で

あの日の蛹は羽化して死神となる

狩人を狩ってはならない

死神は対価に貴方の魂を求めるから

 

8.シズク

大切な暦が眠りについて

待ち惚けた月達は盛大に弔うだろう

貴方は仲間と共に墓標に血を添える

霜月が寂しくないようにと

 

血肉踊る月達の晩餐会が

貴方の最期の食事となる

死を恐れない不敗の蝶は

不死の蜘蛛をも殺しかねない

 

「私も2小節までです。シャル、お揃いだね」

「あはは、あんまり嬉しくないお揃いだなぁ」

「次は私ね」

 

9.パクノダ

死神に触れてはならない

それは冥府への入り口だから

逆十字の男に従うと良い

それが蜘蛛の手足を護るだろう

 

天使達は貴方自身

無垢な心で貴方の傍に佇む

死神達も貴方自身

鎌で貴方の首を落とす

 

 冥府への入り口というくだりで、全員の空気が変わった。今までの団員は明確に殺される記述があったのにもかかわらず、パクノダだけが『触れる』だけで死を暗示されたからだ。そしてこの場でパクノダが触れようとした相手は、動く前に逃げられたゴン達を別とすると1人しか居ない。

 

「…リンに触れないで良かったな」

 

 全員の視線がリンに突き刺さる。この人間は何を隠しているのか、それは人を死に追いやるだけのものなのかと。

 

「やっぱり、死神が2つの意味を持っているわね」

 

 パクノダは他人事のようにそう呟くと、そのまま口を閉じた。次に進めという無言の合図だ。

 

10.ボノレノフ

大切な暦が眠りについて

待ち惚けた月達は盛大に弔うだろう

貴方は追悼の舞を奏でる

霜月が何処かで見ている事を願って

 

蝶が怒りに舞い踊り

血塗られた死神に変貌する

蜘蛛は死神の餌となるだろう

神無月は供物となり果てる

 

「『なり果てる』が『成り果てる』と『なり、果てる』をかけているな」

「つまり?」

「ボノも2週目で死ぬってことでしょ。供物だし」

「…これで全員か」

 

 この場に居ないウボォーが11番、そして占えないコルトピが12番だ。これで全員の占いが出そろったことになる。

 

「死の暗示が出ているのはノブナガ、ヒソカ、シズク、俺、パク、ボノ、フランクリン、マチだね」

「やべえな。ほぼ全員じゃねえか」

「更に俺とフェイタン、コルトピも死ぬ可能性があると…リン、お前とんでもねぇな」

「ありがと」

「褒めてねぇよ」

 

 フィンクスの軽快なツッコミが入る。話題こそ物騒だしリンの両手首は未だに拘束されているが、口調だけならかつてと変わらない友人のそれだ。

「状況を整理しよう」とクロロが言い、暗記したばかりのノブナガの占い2小節目を諳んじた。

 

外から舞い降りた死神が

命を代償に蜘蛛の手足を切り落とす

白き衣は緋色に染まり

緋の眼と共に睦月は永い眠りにつく

 

「…まずノブナガだが、緋の眼という言葉には聞き覚えがある。リン、質問だ。正直に答えなければ殺す」

「黙秘は?」

「痛めつけて殺す」

「…了解」

「鎖野郎とは、緋の眼…クルタ族の事か?」

「正解」

 

 クロロの口調は確信している者のそれだ。否定したところで意味はないと、リンも正直に頷く。どかりとクロロから少し距離を置いた廃材の上に座り、大きめのブラウン管テレビの廃材にもたれ掛かった。

 

(本当、頭が良い奴って嫌だわ。こっちが無抵抗で答えるであろうギリギリのラインを狙ってる)

 

 例えば、『鎖野郎の能力を吐け』とかだったら、リンは暴れてでも黙秘していた。それをさせないあたり、クロロもリンの心理を完璧に理解している。

 リンとクロロは、基本的に合理主義に基づいて物事を判断する。だからこそ互いの思考は酷く似通っており、酷く読みやすい。リンもクロロもそれを承知していた。

 だからこそ、クロロは疑問で仕方ないだろう。リンがなぜこのような勝ち筋のない暴挙に出ているかは、合理的思考では到底理解できないものだから。

 

「クルタ族って何だったっけよ?」

「ルクソ地方に行ったことあっただろ。5年くらい前。そこの民族だよ」

「あー、団長がえらい気に入ってた目玉か」

 

 フィンクスとシャルナークの不穏なやり取りを聞きながら、コルトピがふと思い出す。昨夜、該当する商品をコピーしたはずだと。当然、同胞の眼を鎖野郎が購入していると考えるのが自然だ。

 

「昨日ビルでコピーしたよ。緋の眼」

「マジか。仲間の眼なら買ってる可能性あるんじゃねーか?」

「追う価値はあるね。ていうか、鎖野郎がヨークシンに来てたのってそれが目的…?」

 

 団員達の議論の中でクラピカがノストラードファミリーに入った理由についても察したクロロが、ワックスで撫でつけた頭を軽く撫でた。

 

「…俺は馬鹿だな。ノストラードの娘は人体収集家の側面を持つ。そこから鎖野郎を連想することはいつでもできたはずだ」

 

 次々に明らかになる事実。今後の方針を決めるつもりで始めた占いが、思わぬ方向へと転がり始めた。だが、今はあくまで情報整理が先だ。

 

「団長、もう回りくどい事せずにささと拷問して吐かせた方が良くないか?」

「…待て、他の占いを纏めてからだ。次にマチだが…」

 

 旅団の拷問担当であるフェイタン。先日リンに逃げられてヘイトも溜まっているため、団長命令が出たならば嬉々としてリンの爪を剥ぎ始めるだろう。

 しかし命令で止められたため、そのまま仕方なく黙る。そしてクロロはまた暗唱をする。

 

天使が怒りの血を流し

死神となって貴方を眠りへと誘うだろう

天使の翼を捥いではならない

貴方もかつては天使だったのだから

 

「ここから、俺達が何者かの怒りを買った結果殺されるということが読み取れる。鎖野郎の可能性ももちろんだが、他の第三者の可能性もある」

「例えば?」

「リンの弟とかはどうだ?あいつら、リンを殺したら血眼で俺達を殺しに来るだろ」

 

 情をかけているだけあって、ノブナガのゴンに対する推察は的を射ている。それを聞いたフィンクスが鼻で笑った。

 

「あの程度の奴に殺されはしねーだろ」

「念能力者に絶対はないっての。常識だろーが」

「あ?」

「やんのかコラ?」

「ノブナガもフィンクスも、ちょっと黙って」

 

 この程度の喧嘩は日常茶飯事だとシズクが文句を言い、クロロは無視して次に移る。

 

「ヒソカの占いはわかりやすいな」

 

空腹の蜘蛛は餌を急き

手足を捥がれ地に果てる

蝶を殺してはいけない

貴方も手足の一員だから

 

「ここで出てくる蝶はリンの事を指す。殺してはいけないと断言されている以上、殺したら旅団の半壊に繋がる可能性が高い。…次、シャルだな」

 

電話を持ってはいけない

かけてくるのは死神だから

機械整備も勧めない

死神は聞き耳を立てているから

 

天使を傀儡にしてはいけない

死神の眼は全てを見通すから

天使を殺すのはもっといけない

死神の怒りを買うから

 

「聞き耳を立てる、というところから鎖野郎かその関係者の中に聴覚関係の念能力者がいるのかもな。機械整備…例えばリンを操作すると、それがバレるという事だろう。そして天使…さっき言っていた第三者を操作するのもタブーということだが、ここでの死神を鎖野郎だと断定するには違和感がある」

「鎖野郎は怒りを買わなくても、私達を狙ってそうですよね」

「その通りだ。そこでフランクリンの占いが関係してくる」

 

血塗られた晩餐会の場で

あの日の蛹は羽化して死神となる

狩人を狩ってはならない

死神は対価に貴方の魂を求めるから

 

 クロロはここまでを話し終えると、一息ついた。水を一口飲んで休憩を挟む間に、リンと団員の数名はクロロが言いたい事を察する。

 

「これだ。蛹が羽化して死神となる…つまり俺達の占いにおける『死神』は『鎖野郎』と『リン』の可能性がある」

「少なくともフランクリンを殺すのはリンで確定ってこったな」

「人聞き悪くない?まだ殺してないわよ」

 

 ノブナガにそう言われ、思わずムッとして口を挟むリン。

 だがリンにとっても、旅団全員分の占いは興味深いものだった。そしてクロロが言いたい事は、恐らくリンの予想とまったく同じ。

「最後はボノだな」とクロロが言い、今までよりもはっきりとした口調で他の団員のように2小節目を諳んじた。

 

蝶が怒りに舞い踊り

血塗られた死神に変貌する

蜘蛛は死神の餌となるだろう

神無月は供物となり果てる

 

「ここでも蝶が死神になる描写がある。つまりリンは占いの中で『蛹』『蝶』『死神』と例えられている」

 

 そう言うとクロロはぐるりと団員を見回した。本題はここから、今の言葉を理解できない奴は居るかと確認する意味で、だ。

 難しい事を考えるのが苦手なボノレノフやフィンクスでも、そこに疑問の余地はない。それぞれの占いの結果を繋ぎ合わせたシンプルな流れだ。

 

「リンを殺そうとすると鎖野郎…もしかしたらガキ共も含まれるかもな…の怒りを買い、全面戦争になる。そこで少なくともノブナガとマチが死ぬ、もしかしたら更に数名。だが俺達で総動員すれば鎖野郎やガキは簡単に殺せるだろう」

 

 狩人はもちろんだが、天使もゴン達を指す可能性が高い。クロロの言葉は、言外にそれも示唆していた。そしていかにウボォーギンを倒した鎖野郎と言えど、蜘蛛で連携をかけて倒せない相手とは考えづらい。

 ノブナガが髭を捻りながら天を仰ぎ考え込む。クロロの言葉はその通りだが、ゴンがリンを殺されて怒るであろうように、リンも同じく…いやそれ以上にゴンを殺されたらブチ切れるだろう。あのレベルの『練』を見せるリンならば、確かに能力次第で蜘蛛の半数も殺しかねない。

 

「で、怒りを買ってリンが俺達を本気で殺しにかかり俺達はほぼ全滅…ここまでの占いを総括するとこの流れが最も自然だな」

「その流れだと女が鎖野郎との戦闘を挟んで2回出てきてないか?」

「リンなら、俺達から全力で逃げようと思えば逃げることはできる。実際フェイとシズクからも逃げきったんだろ?それに、殺そうとした時に鎖野郎が現れて混戦…という可能性もある」

 

 フェイタンのツッコミに事も無げに答えるクロロ。数日前を思い出し少しピキピキするが、フェイタンとしてもクロロの返答に言い返す言葉はない。

 

「待て。リンの占いにあった『針』は何だよ?」

「フィン、今のやり取りがあってもまだ私の事疑ってんのかい?」

「針を使うのはマチだけではない。俺とリンの共通の知り合いに針を使う能力者がいる。…あのガキを殺したら、『針』は血眼で俺達を殺すだろうな、リン?」

「スマホ忘れてきたからいざという時は貸してね。イルミに連絡するから」

「…とまあ、こんな具合だが、まだわからない事がある」

 

 隙あらば喧嘩を売るリンだが、クロロは慣れた風にスルーする。だが言葉の通りまだまだ分からないことは残っているようで、暫く考えた後クロロはリンに言った。

 

「リン、お前…パクノダの能力を知っているな?」

(流石にあれだけパクノダに触れるのを嫌がれば、まぁバレるわな)

 

 リンがそれを知っているのは、うろ覚えの原作知識に加えてゴン達を迎えに行った時のやり取りからだ。具体的な制約等はあくまで推測の域を出ない。

 だがこれもまたしらばっくれてメリットはなさそうだと判断する。

 

「知ってる。触れた相手の記憶を読み取る能力者…でしょ?」

 

 クロロはリンの言葉には答えない。それを無言の肯定と取り、リンもそれ以上は何も言わない。

 

「パクがお前の記憶を読み取ればパクは死ぬ。そして俺の占いには『外から舞い降りた遊猟の蝶』とあった。『外から』だ。…お前は何者だ」

 

 団員達の頭には「?」と浮かんでいる。この問いの真の意図を理解できるのは当事者どうしだけだ。だからこそ敢えて、リンは言葉少なに真実をそのまま答えた。

 

「その占いの通りよ。『外』から来た。それだけ」

 

 その言葉に、クロロの纏う雰囲気が初めて大きく変化した。それに団員達も気づいたらしく、何事かと渦中の2人に眼を向ける。

 今までになく真剣に、そして信じられないという表情で熟考するクロロ。どんな推測が出てきても正解に辿り着く事はない自信があるリンは、平然とした表情でクロロの結論を見守る。

 

「暗黒大陸…昔あれだけ新大陸紀行に拘っていたのはそういうわけか」

(面白いから黙っておこっと)

 

 リンが先程そうしたように、クロロもリンの無言を肯定と捉えた。そして団長として、全体に向けて指示を出す。

 

「シャル、お前は俺が良いと言うまで能力を使うな。電話も他の奴に預けておけ」

「アイサ」

「今の時点ではまだリンは殺すな。蜘蛛崩壊のきっかけを防ぐとすれば、まずはそこだ」

 

 これは絶対的な命令だ。従って、今すぐリンが殺される可能性は回避されたということになる。

 ならばそろそろ拘束をやめてくれと、わかりやすくクロロに見えるように腕をぶんぶんと振り回しながらアピールして見せた。

 

「殺さないならそろそろこの糸外してくれない?」

「手首は解放して良いだろう。だが能力を使う気配を見せたら殺す」

「殺したら蜘蛛壊滅するのに?」

「殺さず殺す手段はいくらでもある…お前だって理解しているだろう。マチ、念のため糸は繋いでおけ」

 

 団長の指示に従い、マチの糸は解除された。代わりにマチはリンの近くまで来て座り、糸をリンの腰に巻き付ける。

 それはたった1本の細い糸だが、相当に頑丈であることが能力者ならば容易に想像がつく。見栄えは大分改善されたがもう一声、とリンはわかりやすくぶーたれた。

 

「猿回しの猿みたいでなんか嫌なんだけど」

「さっきの方がいいか?」

「何でもないでーす」

 

 扱いとしては数段マシだと、厭味ったらしくもそう答えるリン。「あいつらいつもあんな感じなのか?」「付き合いが長いらしいからな」とボノレノフとフィンクスが小声でやり取りをする。

 取り敢えずの作戦会議は終了したと、クロロの様子からメンバーは判断する。そして各々が多少の臨戦態勢を解いて、クロロとリンの会話を軽く流しつつも自由行動に移り始める。

 その中でヒソカが1人にやりと笑うが、それに気づく者は居なかった。

 

「ところでリン、お前はなぜ人を殺せる?」

「え、何?犯罪者に人殺しの説教はされたくないんだけど」

「別に説教なんかしないさ。お前の弟にそう問われてな」

(盗賊のリーダーに何聞いてんのあの子)

 

 唐突に尋ねられた質問は、どうやら弟に起因するらしい。ニアの時に似たような事を聞かれたことがあったが、恐らくその時同様に悪意はなかったのだろう。

 しかし一歩間違えれば殺されても仕方ない発言だとリンは思わず肩をすくめた。

 

「そうねぇ…『理由があるから』かしら」

「理由?」

「殺すための理由。殺さないと自分が殺されたり、仲間が殺されたり、不利益が出る場合に殺すわ」

「俺達を殺しに来たのは、鎖野郎を殺させないためという事か」

「ニアピン賞」

 

 クラピカを殺させないためだけではなく、クラピカに旅団を殺させないためでもある。

 だがそれはクロロには理解できないだろうと、リンもそれ以上は何も言わない。代わりにクロロの質問を深堀してやろうと、少し考えこむ。

 

「でも…、あんた達には適用されないでしょうね」

「だろうな。強いて言うなら、逆だろうか」

「『殺さない理由がない』ね。盗賊らしいわ」

「意外だな。お前も同じだと思っていたよ」

 

 淡々と打ち返される言葉のラリーを、マチやフランクリン、ノブナガといった手持ち無沙汰な一部の団員は、静かに耳を傾けて聞いていた。2人の奇妙な連帯感に興味があったからだろう。

 

「犯罪者と一緒にされるのは心外」

「同じ穴の狢だろ」

「まあ否定はしないけど。…そうね、確かに関係ない人が死のうがどうでも良いわ。でもなけなしの倫理観はあるのよ。偽善だろうが可能な限り自分の手は汚したくないの」

 

 そしてリンの言葉にクロロは怒るでも共感するでもなく、ただ納得した。単純に知識欲を満たしたかっただけで、そこに深い意味はなかったらしい。

 クロロのこのような物言いにも全員が慣れているため、そこにツッコミは入らなかった。

 

「次だ。さっきお前が言っていた『鎖野郎絡みの情報』とは何だ?」

「あ、覚えてた?」

「生憎記憶力には自信がある」

 

 クロロが指しているのは、ゴン達と人質交換を持ちかける際にリンが言った言葉だ。あわよくば忘れていてくれないかと思っていたが当然そんなわけもなく、リンは仕方なしにため息をついてから白状した。

 

「ウボォーさんは生きている可能性が高い」

 




赤目の客が貴方の店を訪れる
断罪の鎌を捥がれた哀れな天使
貴方は月の秘密を売り
天使を悪魔へと変化させる

護る者を失った蝶は
窮地の蜘蛛に牙を剥く
偽りの卯月は暦から外れ
逆十字の男を追い求める


ラブリーゴーストライターは『能力者が作成した占いを見ない』を、誓約ではなくあくまでジンクスという前提で書いています。

来週木曜投稿です。
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