リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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リンの九月五日【1】

 時刻はクラピカに指定された時。3台の車はハンロ跡地の目的地より少し離れた場所に到着した。それらは全てが盗難車だ。

 ここからはパクノダと2人であるように見せかけ、旅団員たちは待ち合わせの場所を取り囲むように待機することになる。

 

 ハンロ跡地は、かつては栄えた繁華街だった。時代と共に栄える街が微妙に変わっていくように、長い月日の間に人々はそこから離れ、捨てられたビル建造物だけが残されたのだ。

 風化してあちこちが崩れているこの場所は、幻影旅団のヨークシン仮拠点にも似ている一方で、どこか流星街にも近いものを感じさせる。

 

「リン…わかっているな」

「はぁい」

 

 団長の指示に従い団員達が散っていく中、クロロは去り際にリンにそう声をかけた。

 一方でわかっているのかいないのかと言われそうな気の抜けた返事を返し、リンはパクノダについて歩く。もう拘束はされていないのにそれでもおとなしいリンに、パクノダは少しだけ目を丸くした。

 

「本当に、全く抵抗しないのね」

「え?抵抗してほしい?」

「いいえ…でもあなたが本気で動けば、私はきっと簡単に殺されるだろうから」

 

 中央部へ歩く2人は、場所さえ違えばただの年が離れた友人に見えなくもないだろう。そんな雰囲気をぶち破るような言葉を、パクノダはあっさりと口にする。

 超一流の念能力者とはいえ、パクノダは基本的には非戦闘員だ。リンと対峙したならば恐らく負けるであろうことは、リンの『練』から悟ってしまっていた。リンはそれに対して、思ったままのことを言った。

 

「別に、殺したいわけじゃないし」

「殺しに来ていたのに?」

「状況が変わったのよ。元々好きでやってたわけでもないから」

 

 カツカツと2人のヒールが音を立てる中、ビルの波間からクラピカの姿が小さく見えてくる。傍らには座らせた状態のウボォーギンも居た。

 

「…あるわよね。そういうこと」

 

 同情か共感か。パクノダは小さくそう呟くと、そのまま口を閉じた。目的地に到着したため、これ以上の無駄話は不要だということだろう。

 

「来たか」

 

 強い風が古いビルの隙間を縫って吹きすさび、クラピカの金色の髪を大きく揺らした。ここで攻撃意思を見せる必要がないからか、はたまた別の理由があるからか、パクノダは武器も持たずにリンの隣に立ったままだ。

 

 一方、宿敵の1人を前にしているにもかかわらず、クラピカの瞳は不自然に黒いままだった。感情面からしてもいざという時に備えて緋の眼を発動しているであろうことからしても、これは恐らくカラーコンタクトをつけているのだろう。

 パクノダはクラピカの言葉には返事をせず、その後ろに座らされたウボォーをちらりと一瞥した。建物の壁にもたれて座ったままのウボォーは、パクノダに眼を向けることもなければ動くこともない。オーラも見えず、死んでいるようにしか見えない。

 

「…本当にウボォーは生きているのね?」

「仮死状態だ。蘇生する手段はいくらでもある」

 

 平然と答えたクラピカに、パクノダの眉がぴくりと動いた。

 パクノダの怒りも、クラピカの怒りを押し込めて装っている平静も、全てを理解しているリンは、敢えて口を挟まずに黙っている。次に口を開いたのはパクノダだった。

 

「…信じられないわね」

「そもそもの約束を違えたお前達に言われる筋合いはないな」

 

 周囲に潜伏した全旅団員がクロロの指示に従って動くよりも先。クラピカは蔑むようにそう吐き捨てると、右手の中指を突き立て鎖を飛ばした。

 

 

 

 

『…いや、やっぱ作戦は用意していた方がいい。相手は何してくるかわかんねー連中だぜ』

 

 キルアがそう言ったのは、クラピカがクロロに電話をかけ終えた少し後だ。

 目的はウボォーとリンの人質交換。仲間の命がかかっているとなれば交換にも応じるだろうと期待するゴンとレオリオ。クラピカも無意識にそう考えていたが、一方でキルアの意見はどこまでもシビアなものだった。

 

『それも確かにそうだ。いくつか策を練っておこう』

 

 だが、キルアの意見はもっともだ。何かあった時のためのプランB、何ならC、Dも用意しておいた方がいい。蜘蛛の糸に引っ掛からないための策を。

 そしてパクノダと対峙する数十秒前、携帯を通じてセンリツが報告をしていた。

 

『心音が旅団のメンバー分全部そろってる!あちらは全員で来ているわ!』

 

 

 

 

【束縛する中指の鎖】(チェーンジェイル)

 

 センリツからの報告を受けたクラピカは、その時点で即座に策を切り替えていた。即ち、穏便な人質交換(+パクノダへの鎖の打ち込み)からリンを奪還しての逃亡へと。

 

(記憶を読み取る能力者に鎖を刺したうえでリンを奪還するのがベスト!しかしそれが不可能だと判断した場合、速やかにリンを連れて離脱すべき!)

 

 幸いにもリンは拘束されていない。ならば【束縛する中指の鎖】(チェーンジェイル)でリンを掴んで共に逃亡する。クラピカは予め計画していた作戦に従い、中指の鎖をリンに差し向ける。

 それはリン目掛けて真っすぐに伸びた。そしてリンを拘束する…はずだった。

 

 リンの目の前に鎖が接近した瞬間。リンが身体を僅かに逸らし、そのせいで鎖は宙を切ったのだ。

 

「!?」

 

 今までの振る舞いから、半日前にリンがクラピカ達に向けて放った言動は全て嘘で、リンは旅団と敵対する覚悟を決めていたとわかる。

 それならば今はクラピカの鎖に拘束されて共に離脱するのがベストだと理解しているはずだ。

 

(リンはやはり敵だったのか?いや、それは考えられない!ならば私の鎖が狙いを外したのか…!?)

「チェックメイト、だな。鎖野郎」

 

 予想外の連続で動揺するクラピカをよそに、いつのまにかクロロをはじめとする旅団員たちがクラピカを取り囲んでいた。それぞれが武器を持ち、殺意を漲らせてクラピカを凝視している。一瞬の動揺と手違いは蜘蛛が獲物を取り囲むには十分な時間だった。

 代表してクロロが1歩、また1歩とクラピカに近づいていく。そしてパクノダとリンを追い越し、3人の間に立つ。一転した不利な状況に、クラピカは顔を歪ませた。

 

【霊銃】(レイガン)!!」

 

 その時、どこからかそんな叫びが響き渡った。同時にクロロの斜め正面からレーザーのような高密度のオーラが放たれ、4、5人の旅団員に当たりそうになる。

 全員が避けることができたとはいえそれは瞬きの間に通過する光を思わせるようなもので、全員の間に動揺が走った。

 

「リン、そこから離れろ!」

 

 廃墟の内部に隠れていたレオリオに全員が眼を向けようとしたが、それより早く頭上から巨大な物体が降り注ぐ。落とした主はゴンだ。

 

「あなたこそ1人じゃなかったのね…」

 

 誰もが臨戦態勢を取る中、低く腰を落としパクノダが言った。一方でクロロは動かない。じっと状況を見定めるようにクラピカの瞳を見据えるばかりだ。

 そしてリンも動かない。ただそれぞれの動きに気を配るばかりで、自身が行動を起こす気はない。

 

「姉さんそこから逃げて!」

 

 数瞬ではあるが膠着した状況に業を煮やしたゴンが、屋上から再び大きな何かを投げ落とした。隕石のようにランダムに落下するそれは、ずしんと地面を揺らしたり衝撃に耐えきれず粉々に砕け散ったりと様々な顔を見せる。

 それはコンクリート。天空闘技場でヒソカにすらも通用した石板砕きの応用技だった。

 古いながらもコンクリート建築の多いハンロ跡地は、ゴンにとっては格好の舞台。次々に落とされ視界も危うい中、目的を達成するために団員が動く。

 

「逃がすわけないだろ!」

 

 真っ先にマチが動いた。人質を奪還されてなるものかとリンに糸を伸ばす。

 強靭な糸はオーラを必要以上に纏わず無防備を見せているリンの足首に巻き付き、巨大な魚を釣り上げた時のようにリンを宙に飛ばした。

 

「うわぁ!?」

「リン!」

 

 その瞬間、物陰からキルアが姿を現す。リンがマチの手元に飛ばされるより先に何とか奪還せねばと跳び上がり、宙を舞うリンに掴みかかった。

 同時にレオリオがウボォーを抱え、走り出す。ゴンも屋上から飛び降り、レオリオに続かんと走る。

 

「逃がすな!」

 

 いったい誰が叫んだのか。旅団の男性陣の誰かだということは誰もが理解していた。

 そしてそれぞれが回り込み、ボノレノフの手によってゴンが地面に叩きつけられる。リンの修行を受けたとはいえレオリオもウボォーを背負っては機動力が足らず、フィンクスとノブナガに行く手を塞がれた。

 

(くそ!切れねぇ!ここからリンだけを脱出させるのは不可能だ!)

 

 まったく同じ時、リンと共に宙を舞いながらキルアは眉間に深い皺を寄せた。

 手を変形させて何とかリンとマチを繋ぐ糸を切断しようとするが、複数本に渡って巻き付けられた糸はキルアの手刀でも切れる気配を見せない。

 

 キルアが姿を現してからここまで、僅か1.1秒。リンの奪還が不可能だと判断したキルアは瞬時にリンから離れ、地面に降りたった。そしてクラピカ目掛けて怒鳴り半分に叫ぶ。

 

「クラピカ、プランCだ!」

「わかっている!」

 

 その言葉にクラピカも了承したと同時に、何処かからフルートの音が鳴り響いた。まるで警笛を思わせるような、捻りのない単音だ。誰もが反射的に音の出どころを探す。

 それはクラピカから響くものだった。いや、それは語弊があるだろう。旅団の面々は知る由もないが、それはクラピカの内ポケットに入れられた携帯から響くものだ。

 

 そしてその2秒後、旅団員の視界に花畑が広がった。

 

 誰もが機械越しに響き渡るフルートの美しい調べに意識を奪われる。そのことにすら気づかないくらいに自然に、音楽は彼らの間に横たわっていた。

 

 どれだけ時間が経ったのだろうか。団員が誰からともなく意識を取り戻す。

 その時には既にクラピカの姿もゴンの姿も、キルアもウボォーを背負ったレオリオの姿もなかった。

 

 結局振り出しに戻っただけか?そう思ったシャルナークは、次の瞬間それが大きな間違いだということに気づいた。自分たちの最も大切な仲間の姿が消えていたからだ。

 

「団長が居ない!」

 

 そこからはクロロの姿が消えていた。

 

 

 

 

『最優先事項はリンの奪還。そして記憶を読み取る能力者に鎖を打ち込むことだ』

『もし、両方駄目だったら?』

『蜘蛛のリーダーを拉致する。交渉材料になりうるし、頭を潰せば蜘蛛は崩壊する…きっと』

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「…」

 

 かくして、捕らわれの身になったクロロ。しかしそんな状況に慌てるでもなく、連れ込まれた車内でじっと隣に座るゴンを見つめていた。

 反対隣には身体を縛る鎖を持ったクラピカ。別段性別に関連する驚きも無ければ、誘拐されたという恐怖心も感じていない。そうでなくてもクロロに恐怖心など湧きようもないのだが。

 

「…」

「…」

 

 運転席にはレオリオ、そして助手席にはセンリツ。トランクにウボォー。

 本来ならば多くても5人乗りの車で6人を無理やり乗せるには、ゴンとキルアで1人分になるのが合理的だ。従ってゴンはキルアを膝に乗せて抱え込んでいた。

 そんな状況下、クロロからの隠す気もないその視線に、ゴンだけでなくキルアも思わず気まずい気持ちになる。

 

「な、何…?」

「いや、改めて見ると出会った時のリンにそっくりだと思ってな。丁度お前くらいの歳だった」

 

 おずおずとクロロに眼を向けたゴンに、クロロは雑談をする口調でそう言った。

 本来の目的を何一つ達成できずに苦し紛れのプランCを選択した車内は、緊張と悔しさで重い空気が漂っている。

 それらを全て無視するクロロの姿は、捕虜としてはかなり太々しいものだ。リンが居れば「あんただって捕虜感ないじゃん」とツッコミを入れただろう。

 

「口を慎め。何がお前の最期の言葉になるかわからんぞ」

「俺は聞かれたことに答えたまでだ」

 

 クロロを睨むクラピカとは対照的に、ゴンはぼんやりとリンのスマホで見た写真の中のクロロを思い出した。今よりもほんの少し幼さの残るクロロと、ゴンと同じか少し上くらいに見えるリンが他の旅団員と写っている写真だ。

 記憶の中の姉が頻繁にあのフライトジャケットを身に着けていたのは、初めてカイトと出会ったくらいの頃だったか。もしかしたら実際に姉とクロロが出会ったのはもっと前なのかもしれない。クロロの言葉をそのまま飲み込むなら、きっと姉がハンター試験に合格して間もない頃だ。

 

「お兄さん…クロロって、姉さんの何なの?」

「聞きたがりなんだなお前」

「昨日は十分に話せなかったから」

 

 逆の立場だった時から質問ばかりしてくるゴンに、クロロは思わず口角を上げた。捕虜らしくない仕草で視線を宙に浮かべ、考え込む。

 

「…そうだな、改めて問われると難しいかもしれない。そもそも俺たちのような人間に関係の明確性は必要とも思えないしな」

 

 天下の幻影旅団の団長がここから突飛もない攻撃手段に出るのではないかと、運転席のレオリオはひやひやしながらハンドルを握る。車は明らかなスピード違反で、無人の街を走り抜けていた。

 

「強いて言えば妹のような存在だと思っていた。成長が楽しみな、親近感を感じる相手だと。だが、お前とリンの関係を見ていると、それは本当の兄妹の定義とはまた違うのではないかと思えてくる」

「貴様は妹のように感じる程親しい相手を捕虜にするのか?」

 

 クラピカは宿敵の頭が隣にいる事実に怒りを顔に出さないようにするので必死だった。当然それを隠すことなどできず、結果蔑みの視線を惜しげもなく向ける。しかしその程度で臆するクロロではない。

 

「あいつ自ら人質交換を申し出てきたんだ。俺はメリットがあったからそれを了承したに過ぎない」

「…写真さ、見たんだ」

 

 唐突なゴンの言葉にクロロは一瞬何のことかわからずきょとんとする。その後、そういえば昔リンがシャルナークとアドレス交換をしていたと思い出した。当時シャルナークがいつもの自撮りをしていたような気もする。

 やたらとスマホを弄るのが好きなリンのことだから、自分たちの写真も残していたのだろう。クロロはそう、自分の中で結論づけた。

 

「…ああ、律義に残しているのかあいつ」

「凄い仲良さそうだよね。俺、旅団はもっと非道な集団なんだと思ってたから驚いた」

「おいゴン…」

「どうして悪いことをするの?傷つく人が出るし、恨みを買って大事な仲間を殺されるかもしれないじゃん」

 

 これにはゴンの膝に乗っているキルアが慌てた。なぜこの友人はこんなにも相手を刺激する質問を、しかも悪びれなくするのだろうかと。

 捕縛しているとはいえ、何が目の前の犯罪者の逆鱗に触れるかわからない。次の瞬間全員の首が飛んでいる可能性だって十分にあるだろう。

 

 だがキルアの心配とは裏腹に、クロロは面白くて仕方ないといった様子でくつくつと笑った。誰もがクロロの反応を窺う中、クロロの小さな笑い声だけが車内を占拠する。

 

「姉弟とは、言動も似るものなのだろうか」

「?」

「懐かしい…昔リンにも同じことを言われたよ。『後悔するだろうからやめろ』とな」

 

 クロロが指したのは、流星街の墓に連れて行った時にリンに言われた言葉だ。ゴンのように疑問混じりではなくはっきりとしたものだったが。

 

 しかしその言葉を聞いたゴンは、いや、全員がリンの行動に疑問を持たざるを得なかった。

 リンは幻影旅団の犯罪を許容していたわけではないらしい。だが、その割には交友関係を変わらず続けている。特にクロロとの信頼関係は写真から見ても明らかだった。

 クラピカの同胞の命を奪ったと知っていながら。数々の命を奪い、略奪の限りを尽くしていながら。リンは今まで何を考え、旅団と向き合ってきたのだろうか。

 

「ねえ、姉さんとはどこで出会ったの?」

 

 ゴンは疑問をそのままにしておけない性質だ。よって、疑問に思った次の瞬間には平然と口を開いていた。

 またしてもキルアが慌てかけるが、もう何を言っても無駄だと思ったらしく口は閉じたままだ。

 

「エジプーシャのピラミッドだ。俺は当時ある古書を探していてな。リンには手を貸してもらっていた」

 

 リンが聞いたら「思い切り脅してたでしょうが!ものは言いようね!」とクロロの足をゲシゲシやっただろう。だが本人不在のため、真実をゴン達が知ることはない。

 

「センリツ…こいつは嘘ついてるか?」

「いいえ。少なくとも嘘はついてないわ…少し冗談混じりなところはあるみたいだけど」

 

 レオリオが軽く顔を助手席に向けてセンリツに尋ねる。これが本当だろうが嘘だろうがさして今後の方針に影響はないのだが、何となくだ。

「楽しい思い出だったみたい」とセンリツが付け加える。クラピカは更に眉間の皺を深くし、ゴンは更に興味を示して身を乗り出した。

 

「その時の姉さんって俺に似てたの?」

「どうだったかな…ああ、俺に興味本位で殺気を飛ばしたりしてたか。うっかり殺しかけた…そういった向こう見ずなところは似てるかもな」

 

 場違いながらも全員一致の感想として「何やってるんだあいつ…」という雰囲気が車内に漂う。クロロはその空気を楽しみながらもニヒルに笑った。

 

「だが…あの時のリンは既にこちら側の目をしていた」

「こちら側って?」

「あー…リンも人を殺してたって事だよ」

 

 気まずそうに補足するキルア。それは自分にも当てはまるからだろう。

 この場でその経験があるのは、キルアとクロロのみ。仲間の宿敵と同列に並んでしまうのは気分の良いものではない。

 

「ふーん、そうなんだ。その時点で俺と同じ歳くらいってことは、それより前に殺してたのかな」

 

 一方で、ゴンの反応はあっさりしたものだった。その眼にリンへの嫌悪は一切感じられず、単純に自分の知らない姉の一面を知りたいという好奇心に満ちている。

 そんなゴンを見て、クロロは呆れ半分に薄く笑った。

 

「お前、リンより性質が悪いな」

 

 その言葉の真意にすぐさま気が付いたのもまた、クロロと近い視点を持てるキルアのみであった。不思議そうに首を傾げるゴンに、今度は説明をする気にはなれず口を噤む。

 だがクロロはキルアのような遠慮はしない。ともすれば人を馬鹿にしているようにも見える笑みを浮かべながら、続きの言葉を並べ立てた。

 

「非道な行為を否定するくせに、実の姉が人殺しなのには嫌悪感を抱かないのか」

 

 これにはゴンよりもキルアよりも、クラピカが激高した。自分達も知らなかったと散々思い知らされた仲間の本心や一面を、目の前の宿敵が当然のように知っているのが我慢できなかったのだ。

 

「…お前がリンの!何を知っていると言う!」

 

 鎖でつながれたままの宿敵の胸倉を掴み、今にも殴り掛からんとばかりに顔を近づける。

 慌てたゴンとキルアが何とか引き離すが、クラピカの怒りは収まらない。不要となったカラーコンタクトを外して見せた緋色を容赦なくクロロに向け、今にも殺しそうな眼で睨む。

 

「少なくともお前よりは知っているさ。あいつがお前たちに隠そうとしていた事も」

 

 一方でクロロの表情は何も変わらなかった。まるでクラピカを怒らせることを楽しむかのように言葉を選ぶ。それが事実だとセンリツが認めると、車内は再び静寂で包まれた。

 

「お前ら姉弟で最も異なるのはそこだな。あいつは非道そのものを否定しない。清濁を併せ呑んで生きている」

 

 かつてシルバにも言われた覚悟という言葉。それはクロロが口にしたリンの一面にも当てはまると思えるものがあった。

 口を開こうとしても何を言えばいいのかがわからないゴン。誰もが黙り込む中、緊迫した空気を破ったのは、レオリオの叫び声だった。

 

「ひ、ヒソカ!!」

 

 それを聞いて全員が背後を振り返る。窓越しに見えたのは、暗がりの中でも自動車と遜色ないスピードで走るヒソカの姿だった。

 

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