リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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調理室にて【前編】

 幻影旅団と対峙して丸二日眠っていた時、クラピカは不思議な夢を見た。見知らぬ少年とただ会話をするだけの夢だったため、結局誰にもその話をすることはなかったが。

 しかし、すぐに忘れるかと思ったその夢は思ったよりも印象的な記憶として残ったらしく、クラピカの脳の片隅に居座り続けている。

 

 夢の中で自分はどこか故郷を思わせる森に居て、草の生い茂った地面に腰を下ろしていた。少年は腰をかがめると、じろじろと遠慮なくクラピカの顔を覗き込む。

 どこかキルアを彷彿させる雰囲気だと、夢を見ている自覚を持った状態でクラピカは思った。スウェットにカーゴパンツ、ファッションセンスまでどことなく似ている。ラフなものだが上等品なのだろうと感じさせた。だが不思議なことに、腰に巻いているオレンジ色のスカーフだけが色褪せて古そうだ。

 少年はふてぶてしく立ち上がってクラピカを見下ろすと、腕組みをして不服そうな表情を見せる。

 

『似てるか? 俺、こんな女々しい顔してねーだろ。ノワールも見る目ねぇな』

 

 夢の中とはいえ初対面の人間にここまで好き放題言われて、良い気分ではない。むっとしたものの、どういうわけかクラピカは口が動かなかった。

 それだけならまだしも、おまけに身体も動かないときた。夢なんて往々にして不自由なものだが、少なくともこの夢の中では少年に言いたい放題言われるしかないらしい。

 

『まーでも……あー、やらかしの内容は似てるか。俺もお前も、1人で突っ走って仲間置いてけぼりにしたもんな。初めっから素直に協力してほしいって言えばいいのに、意地張ってさ』

 

 少年はクラピカの隣に腰を下ろすと、気まずそうにがしがしと頭を掻く。自分よりもう少し色素の薄い金色の髪が、風に靡いてさらさらと揺れる。

 自由度は低い癖に妙なところにリアリティのある夢だなと、クラピカは漠然と感じた。にしても、耳の痛いことばかりを言う少年だ。

 

 リンにも非があるとクラピカは変わらず思っているが、それでも自分に至らないところがあったとも認識を改めていた。

 必要だったのは対話。相手の言い分を聞く時間と余裕。もしも自分がリンの言葉に真剣に耳を傾けていたならば、また状況は違ったかもしれない。全員無事だったからよかったものの、それもまたリンの戦略の結果だ。自分だけで動いていれば、仲間を死なせていたかもしれない。

 リンがわざわざ旅団のことを必要以上に口にしなかったのは、それでクラピカが冷静でいられなくなるとわかっていたからだ。仇相手の話題で冷静でいられるわけがないだろうという気持ちもあるが、その激情ゆえにあのような状況を作り出したのもまた事実だった。

 クラピカの心境を知ってか知らずか、少年はニヤリと笑う。

 

『よかったじゃねーか、お前はまだ生きてる。次に活かせよ』

 

 少年のくせしてやたらと尊大な態度だ。こんな生意気なところまでキルアに似ている。しかしなぜか、肩にぽんとおかれた手には年齢以上の重みがあった。

 

 少年の言いたいことはそれだけらしい。暫く無言が続く。

 名前を聞きたいのに、何を知っているのだと問いかけたいのに、口が動かない。どこかで見覚えのある顔だが、間違いなく会ったことはない。ならば自分はどこでこの少年の存在を知ったのだろうか。

 もうこの夢も終わりに近づいているようだ。少年は立ち上がると、どこかへ向かって歩き出した。途中でふと、思い出したようにクラピカを振り返る。

 

『特にリンにはちゃんと相談しろよ。あいつ、地雷踏むと面倒くせーとこあるから』

 

 ああ、そうだ。その言葉でクラピカは少年をどこで見たのか思い出した。幼いリンも写っていたあの写真だ。この少年はリンに腕を引っ張られる形で、しかし満更でもなさそうに写真に写っていた。

 目を覚ますと、そこには自分と年齢の近いリンの顔があった。リンにこの夢のことを話そうかとも思ったが、そのままクラピカは口を閉じたのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 リンがノストラードファミリーに正式に雇われてから、およそ10日が経った。

 だが、ボスならともかく基本的に買い物以外は殆ど家から出ない令嬢の護衛なんて、仕事量はたかが知れている。ましてや護衛が必要な事態なんて、マフィアとはいえなかなか起こらない。基本的にはネオンの後ろについて歩き、たまに2人きりになるときに色々話して信頼を得る努力をする程度だ。

 対照的に、クラピカの仕事量は倍増していた。なし崩しにダルツォルネの跡を継ぐことができたとはいえ、前任からの仕事の引継ぎは一切ない。当然だ、死んでしまったのだから。

 

(わかってる、わかってるわよ。正念場だってことは)

 

 加えてクラピカはファミリー内部を掌握するべく、神経衰弱を起こし始めているノストラード氏に代わって様々な仕事を引き受けている。初めは渋っていたノストラードだったが、クラピカが完璧にこなせてしまうものだからどんどん仕事が回っていくのだ。

 ネオンの能力がなくなりボスも腑抜けになってしまった以上、内部抗争やそれに伴う外部からの襲撃を避けるためにも、クラピカは早急にファミリーを掌握して建て直す必要があった。

 

(とはいえ、よくここまでやれるわね。前から思ってたけど社畜の素質があるわよ)

 

 そんなわけで夜。クラピカの様子を見に部屋を訪ねたリンは、明らかにやつれたクラピカの姿を目の当たりにしてドン引きしていた。

 ダルツォルネから引き継いだ仕事を覚える傍ら、各賭場やボスのコミュニティーにも顔を出し内情を把握する。喧嘩っ早い組員には拳で実力の差を思い知らせ、帰ってくるとボスやネオンの要望を聞いて各所に手配をする。とどめにその日一日で溜まったデスクワークを夜通しで処理する。

 それがセンリツやリンセンから遠回しに聞いた、クラピカの現在のルーチンだ。いつ眠っているのかと問いたい。

 

(ていうか寝てないわよねこれ。寝てないから隈できてるわけだし)

 

 事実、リンが扉を開けてもクラピカは顔もあげずに書類と格闘している。書類の内容を見るに、過去の組員のデータらしい。疲れた顔のクラピカ、クルタの民族衣装までもがどこか萎びている。

 

「クラピカ」

「ああ、リンか」

 

 大きなデスクに手をついてクラピカを見下ろす。やっぱり書類から目を離す様子はない。何やらカタカタとPCも叩いていると思ったら、書類のデータと共に簡単な個人用メモを入力しているようだ。

 

「組員のデータくらいなら私が目を通しておくわよ。それどころじゃないんじゃないの?」

「いや、俺自身が把握していないと意味がない。それにリンにはお嬢様の……ネオンの懐柔を最優先してほしい。緋の眼を取り戻すには、組の実権と情報、双方がないと成り立たないからな」

 

 敢えてネオンの名前を言い直した辺り、お嬢様と素で言ってしまったのだろう。早くも社畜精神が身に染み始めているクラピカに、他人事ながら危機感を覚えるリンである。

 そして最近、一人称が変わった。指摘されたいところでもないだろうことからわざわざツッコミはしないが、今までの一人称では組員に舐められるからだろう。ただでさえ男と思えないほどに綺麗な顔をしているのだから、容易に想像がつく。

 

(……ま、役割分担って形で頼ってくれるだけマシか)

 

 ここまでするクラピカだ。もしもリンが居なくても、最終的には緋の眼に辿り着くことができるのだろう。不本意な手段だろうが実権さえ掌握してしまえば、あとはライトやネオンを拷問するなりと情報を得る手段はいくらでもある。

 それをしないのはリンと役割を分担した方がはるかに効率が良いからだ。事実、リンはネオンに気に入られて雑談の傍ら順調に情報を引き出し始めている。

 その気になればリン個人でも交渉しに行けるだけの情報は得られ始めているものの、相手はガードの堅い裏家業の人間ばかりで、交渉するにはやはりクラピカの権力が必要だ。盗みもできなくはないが、無意味に喧嘩を売るのは得策とは言えない。

 

(個人で入手している会社員とかなら、全然私だけでも交渉できるんだけどなぁ)

 

 それをしないのは、クラピカが自分の手で仲間を取り戻したいと思っているのが伝わってくるから。だがあまりにもこの状況が続くのならば、リン一人で一部先に交渉する必要もあるだろう。

 

「流石に休んだ方がいいわよ。隈できてる」

 

 少ししゃがみ込んで下から見下ろすと、思った以上に隈は濃く貼り付いていた。どこかで似たようなことがあった気がするが、そういえばヨークシンのノストラードダミーホテルで「蜘蛛にこれ以上手を出すな」と忠告した時も同じ状況だった。隈は明らかに今の方が濃いが。

 

「定期的にセンリツの笛で回復しているから問題ない」

「どこをどう取れば問題ないの?」

 

 定期的とはどれくらいのスパンを指しているのだろうか? リンは知っている。一昨日ようやっとセンリツに叱られて回復させてもらっただけだ。それを『定期』というにはかなり無理があるのではないか。

 

「修行の時にレオリオに使ってた能力、使おうか? 【私の代わりに眠って】(睡眠パンダ)

「制約で20メートル以上離れられなくなるのだろう。四六時中ネオンのところに居ては仕事にならん」

 

 それを指摘されると何も言い返せない。だが納得しきれずに腕組みをして、むすっと顔を顰めるリン。気を遣ったわけではないだろうが、クラピカはふと顔をあげてリンの顔を見た。

 

「それより、腕の良い料理人を知らないか?」

「それなら知ってるわよ。世界一って言ってもいいくらいの凄腕。……ボスの命令?」

「いや、娘の方だ。まったく我が儘で困る」

 

 聞けば聞くほどクラピカの苦労が察せられる。苦労人なところといい変に律義なところといい、具現化系は皆こうなのだろうか? なぜかノワールの顔が浮かび、そう思うリンである。

 

「……ネオン、親父があんだけ情けない姿になってるのに気にしないのね」

 

 これまで接した時の雰囲気で察していたが、ネオンは父親の狼狽えぶりや憔悴ぶりに何も感じていないらしい。

 リンはジンがあんな腑抜けた姿になったら、どうするだろうか。思い浮かべてみるが、ゲタゲタと笑って馬鹿にするか、ダサい顔するなとキレている自分しか思い浮かばなかった。少なくとも無関心になる理由が分からない。

 

「子は親の鏡写しという。父親が娘を道具としか思ってこなかったように、娘も父親を金づるとしか思っていないのだろう」

「鏡写しねぇ……」

 

 子は親の鏡写し……あまりリンの好きではない言葉だ。理由は言うまでもないが、ジンと似ている要素が顔面以上にあってほしくないからである。

 だが、クラピカの言うことはその通りなのだろう。過保護なまでのボディーガードの数は、娘ではなく娘の能力を護るため。買い与えられる玩具は言う通りに動いてくれる道具を失いたくないから。自分も大概な育児放棄者の下で育ったが、少なくとも愛情は受けていたのだと彼らを見ていると思い知らされる。

 

「正直理解できないわ。今まさによそ者に浸食されようとしてるのにね」

「そのよそ者に加担している奴に言われたくはないがな」

「今んとこはただのお喋り友達やってるだけだし」

 

 あくまで『今のところは』。この先どうなるかはわからないが。

 ネオンに限らず、近い将来手段を選ばずに実力行使をしなければいけない時が来るだろう。裏社会の人間と交渉するとは、そういうことだ。

 今までは『掃除屋』としてしかマフィアと関わったことはない。だからこそ、彼らのやり口は知ってこそいるが同じことをしたことはない。可能ならば穏便に済ませたいが、拷問や脅迫の必要も出てくるだろう。その時は自分が率先してやると、リンは決めていた。

 

「んじゃ、連絡しとくわ。売れっ子だから今から来れる最短で頼むけど、期待しないでよ?」

「助かる……」

 

 クラピカは疲れた口調でそう言うと、また書類に向かい始めたのだった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 リンの紹介を受けてから約2週間後。クラピカは依頼人として、メンチと対面していた。

 かつては受験生と試験官だった2人は、今や雇い主代理と雇われハンターだ。少しでも舐められないようにと、クラピカは居住まいを正す。

 

「あの時の試験官か」

「あの時のクソ寿司野郎じゃない」

「……」

 

 リンからは誰が来るか聞かされていなかった。思わぬところで知っている顔に出くわしデフォルトで高圧的な態度を取ったクラピカに対して、メンチは的確な応酬を返す。

 しかし本物の寿司の何たるかを知っている今、そう言われてしまえばぐうの音も出ないクラピカだ。

 渾身の力作であった(今思えば駄作も駄作)寿司こと、米を纏った魚が脳内でぴくぴくと蠢く。写真をひらひらと見せてきたリンのニヤつき顔も同時に浮かんだ。

 

「リンったらこんなんに肩入れしてんのね。趣味悪っ」

 

 一方、二次試験で見た不味い寿司のひとつひとつを細部まで記憶しているメンチ。

 いくらイケメンと言えど、食べるにも値しないものを出してきたクラピカを見る美食ハンターの目は厳しい。ハンター試験の時とは違いリンとの関係性を隠す必要もないので、親友の趣味も含めて容赦なくこき下ろす。

 

「……リンと同期らしいな」

 

 このまま言われっぱなしも癪だが、珍しくクラピカでも言い返せない話題だ。そのためクラピカは、強引に話を変える方を選んだ。加えてメンチに聞きたいこともあったからだ。

 

「そうだけど? じゃなきゃこんなチンケなマフィアのために料理作りになんて来ないわよ」

「ノワールとも同期だと聞いている」

 

「こちらへ」と簡潔に大広間、厨房を案内しながら尋ねる。ノワールの名前を出すとメンチは少し驚いて目を見開いた。

 

「あら、ノワールとも会ったの? リン、相当あんたのこと気に入ってんのね」

「ならばリンと同い年だという友人のことも知っているか?」

「……聞いて何になるの?」

 

 核心部に触れた途端、メンチの纏う緊張感が高まった。本当に知りたい事柄を悟られないため、厨房の扉を開きながらも言葉を選ぶ。今日はメンチにすべてを任せるため、料理人は誰も居ない。この場にはクラピカとメンチ2人だけだ。

 

「ノワールが、俺に似ていると言っていた。どんな人物かと興味を持った」

 

 メンチは無言で冷蔵庫を開ける。指示されていた食材は全て中に入っている。後はメンチが個人的にハントしてきた美食を材料に、ネオンのための夕食を作ってくれるはずだ。

 

「材料は……いいわね」

 

 簡単に食材や器具を点検し終えると、メンチはクラピカの顔を覗き込んだ。顔つきをくまなくチェックする時特有の視線に、反射的に少し前に見た夢を思い出す。

 

「……似てるかしら? どっちかって言うとゾルディックのガキンチョの方が似てたけど」

 

 手を顎に添えながら訝し気に言うメンチ。だが、放たれた過去形の言葉に確信を持った。クラピカが最も知りたかったのはそこだ。

 

「やはり、既に死んでいたのか」

「……知ってんならわざわざ聞く必要があるとは思えないんだけど」

 

 カマをかけられていたのだと気づき、メンチはあからさまに気分を損ねた表情をして見せた。リンからの紹介でなければ、このまま帰っていただろう。

 しかし親友の弟子兼年下の後輩が言うことだからと、何とか気持ちを落ち着かせる。クラピカはそれも見越したからこそ、このタイミングで聞いたのだった。

 

 ヨークシンで見た、幼いリンがメンチやノワール達と写った写真。年齢やメンバーを加味すると、それがハンター試験の最中、もしくは直後に撮影されたものであると想像するのは難くない。

 その写真には、4人が写っていた。そして数年後の写真には十字架とリン達3人。誰が死んだかは消去法で簡単に説明がつく。夢で見たあの少年だ。

 

「言っとくけど、それリンの地雷ど真ん中だから。それに私にとっても気さくに触られたいところじゃないわ」

「……享年からして何かあったのだろうと思っていたが」

 

 その言葉に、今度はクラピカが驚きを見せる番だった。メンチも顔を顰め、肩をすくめる。そして『なぜそんなに驚く』と言わんばかりの眼で、クラピカを見返した。

 

「何よ、師匠は完全無欠な超人だとでも思ってた?」

「いや、そうは思わない。あいつは短気な上に命知らずの向こう見ず、口は悪いし手も早い。おまけに下品だ。完全無欠とは程遠いだろう」

「ふはっ、結構わかってんじゃない」

 

 よくそこまでペラペラと悪口が出てくるなとメンチが思わず吹き出す。だがクラピカからすれば全て正当な意見だ。

 女性なのにレオリオのアダルト雑誌を学術論文でも読むかのような顔して眺めているのだから、下品と言わずして何という。ヨークシンでは自らが手を出すなと喧しく言い聞かせていた盗賊相手に単騎特攻し、修行中は意見の食い違いで散々喧嘩になった。

 

「……だがハンターとしての力量は確かだ」

 

 しかし、同時にハンターとしてのリンの実力も思い知った。ウボォーの殺害を止められたばかりか、知らない間に切り札として病院に運び込まれた。一時はミッション達成を諦めて優先順位を選んでいたようだが、最終的には自分たちの何重にも練った作戦すら先読みされ、全てを思惑通りに動かされてしまった。

 

「確かに武力やハンタースキルは昔から凄かったけど、当時まだ12歳だもん。私やノワール含め、誰だって新米の頃はやらかすわ」

 

 そう言いつつもリンに対する見解はメンチも一致しているようで、クラピカの言葉に対する反対意見は返ってこなかった。

 ああ、彼女もリンをよく見ているのだとクラピカは内心感心する。同時に不穏なその言葉にある種の確信めいた憶測も持ち上がった。

 

―クラピカ達への愛情のほかに、大きな恐怖と後悔、色んな感情が渦巻いていた。一方で決心はずっと揺らがない、そんな音。……きっとあなたを誰かと重ねていたんでしょうね―

 

 センリツから聞いたリンの本心。いったいリンは、自分を誰と重ねていたのだろうか?それがずっと気になっていた。

 重ねる相手が死人だとは限らないが、これが一番説明がつく。明確な証拠があるわけではないものの、後悔をもってしてクラピカと重ねるような相手だ。十中八九、クラピカと重ねていたのはリン達と同期だった同い年の少年なのだろう。

 

「やば、今のは聞かなかったことにして」

「当時、何があったんだ?」

 

 うっかり話してしまったと言わんばかりにメンチが口を塞ぐ。更に追撃を加えるとメンチは訝し気にクラピカを見た。

 

「あんた何でそんなことばっか気になるのよ」

 

 メンチの言い分は至極真っ当だ。いくらリンを介しての紹介とはいえ、メンチのミッションはあくまで料理を作ること。予め希望メニューや食べられない食材は聞いているものの、ここに来てから一度も仕事の話をしていない。

 それどころか尋ねてくるのはリンの過去ばかり。知ったところで、クラピカには何の利益もないものだ。

 

 本人が話してくれるならば耳を傾けるが、一般的に根掘り葉掘りと聞くものではないとクラピカも理解している。ならば、なぜ自分はリンのことをここまで知ろうとしているのだろうか。

 

(そういえば、なぜなのだろうか?)

 

 ゴンやキルア、レオリオと違い、リンが自分の過去を話そうとしないから?

 確かにリンが話すのはゴンに関連する過去ばかりで、それ以前の幼少期やハンターとして旅をしていた頃の話はほとんどしない。かろうじてミルキやメンチと関連して、会社を作ったという話を聞いただけだ。だがそれだけでは理由としては弱い気がする。

 

 過去を知らなかったせいでヨークシンでの諍いが起こったから?

 いや、知っていたとしても、あの場で自分が復讐を諦めることはできなかっただろう。このような結果になったのは、皮肉だが旅団と衝突して人質が居るという状況だったからこそだ。

 

 では、なぜ? 考え込むが答えは出ない。厨房を出ても、使用人たちに命じて会場のセッティングを始めても、答えは出ないのだった。

 

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