リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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調理室にて【後編】

 久しぶりに会ったメンチと雑談をしていたリンは、遅れて護衛控室に顔を出した。

 使用人の社交場も兼ねている談話室ではなく小規模な護衛専用の部屋に入ったのは、そこで護衛メンバーだけで呑もうという話が上がっていたから。メンチの厚意で使用人にも料理が振舞われたため、休憩中だったり仕事を終えた組員や使用人たちが談話室には沢山いるだろう。

 

「うわ、酒臭っ」

 

 リンが中に入ると、酒臭い空気が充満していた。すぐさま窓を開けたくなるが、どうせ自分もすぐにこの臭いの一部になるのだと思い直す。特に酒臭い息をしていそうなバショウは、その割には平然とした顔で一升瓶を振ってリンに声をかけた。

 

「おー、リン! 先に呑んでるぞ!」

「私の歓迎会も兼ねてるって聞いてたけど……かなり出来上がってるわね」

「いんや? まだまだだよ!」

 

 せっかく旨い料理が出てくるのならばリンの歓迎会とクラピカのリーダー就任祝いもしようと言い出したのはバショウだったはずだ。しかし、明らかに2時間以上飲んでいそうな空気である。

 同じペースで呑んで潰れないようにと思っていたが、どうやら正解だったようだ。偶然ではあるが少し遅れて参加した自分を褒め称える。

 

「隣のクラピカは伸びてるけどな……」

 

 バショウにロックオンされたのか、膝に腕をついて俯いているクラピカをスクワラが気の毒そうに見た。反対隣りの自分にバショウが絡んでこなくて良かったと思っているらしい。

 センリツとヴェーゼが場所を空けてくれたため、それに甘えて間に座る。奥に座っていたリンセンがグラスを持って来てくれ、正面に座るバショウがジャポン酒を注いでくれた。

 

「ジャポン酒が癖強すぎるんだよ」

 

 そう言いながらもシャッチモーノがグラスを掲げ、クラピカ以外の全員で乾杯をする。乾杯にも参加できないあたり、完全に潰れているようだ。

 

(そういえばクラピカって酒飲めるんだ。……あれ、クラピカって17じゃなかった?)

 

 レオリオの国では16歳から飲酒OKだったという(レオリオは14から飲んでいたらしいが)。世界各国を回るハンターの場合、どこの飲酒法が適用されるのかは人によって意見が異なるところだが、取り敢えずヨルビアンは18歳からだったはずだ。

 

「クラピカ、酒飲んだことなかったんじゃない?」

「だろーな。そういやこいつ、いくつだ?」

「17歳」

 

 シャッチモーノの言葉にリンが答えると、一斉に非難の眼がバショウに向いた。バショウは気にせずからっと笑うと、バシバシとクラピカの背中を叩く。吐いてしまうのではとリン含め全員が思ったが、幸いその様子はない。

 クラピカが未成年飲酒をこれまでにしてきたとは思えない。大方今後ファミリーの付き合いに顔を出すためにも酒に慣れておかないと……とか思っているところを上手くバショウに焚きつけられたのだろう。どんなやり取りがあったかもある程度想像はつくが、考えるだけ不毛なのでやめておくことにした。

 

「どーせ、挑発に乗っかっちゃったんでしょ? べろべろのクラピカ、面白かっただろうな~。見たかったわ」

「おー、なかなかの見ものだったぜ。特に……」

「止めとけバショウ。藪蛇だ」

 

 元々同僚だからかそれとも年若いクラピカを気遣ってか、彼らはクラピカがダルツォルネの後釜に就任しても、明らかにファミリーを掌握するための動きをしていても、接する態度を変えない。ありがたいことだと内心思っているリンである。

 

 リンを含めた面々で呑みなおし、場の空気も温まってくる。ヴェーゼはおもむろに口紅を塗り直すと、リンの肩を優しく抱いた。

 女性らしい色気を伴っているのにどこか男らしい強引さで、リンの顎を軽く持ち上げる。流石のヴェーゼもやはりアルコールの臭いが香る。

 

「ねえ、キスしない?」

「きす……キス? 唐突過ぎでしょ。しないわよ、私まだほぼ素面だし猶更」

「都会では流行ってるのよ? インスタントラヴァーっていうの。ね、スクワラ?」

「お、おう……」

 

 ヴェーゼがスクワラに降ると、なぜかスクワラは気まずそうな表情を見せた。その顔を向かいからしっかり見ることのできたシャッチモーノが思わず噴き出す。

 それを起点に場に笑いが生まれたが、リンはよくわからないので軽く首を傾げておいた。ともかくファーストキスを酒の勢いで同性に奪われたのではたまらないので、断っておくことも忘れない。

 

「百合の趣味はないわ」

 

 酒の量には細心の注意を払っている。間違っても「薔薇の趣味はある」とは言ってはいけない。

 揶揄い半分だったようで、ヴェーゼはあっさりと離れてくれた。口だけは強気に笑っている。

 

「そう? ざーんねん」

「何だよ、リンが下僕になるところ見てみたかったのによ~」

 

 バショウの言葉にまた面々が笑みを溢す。何かしらの念の発動条件だったのだろうことと、それによって自分が下僕になる可能性があったことを察したリンは思わず身震いした。気持ちを温めるためにジャポン酒を一口飲む。

 

「あ、やっぱり。なーんか企んでる気がしたのよね。ヴェーゼって他人手玉に取るの好きなタイプでしょ」

「あら、わかる?」

「オーラの色がそんな感じ」

「オーラの色?」

 

 ヴェーゼの色は紫と黄緑色。リンに言わせると、『典型的な操作系』の色だ。

 酷い極例だとイルミ、マシなところで言うとシャルナークといったところか。例外もあるが、この色の組み合わせを持つタイプはかなりの確率で女王様気質である。

 

「先天的な体質で、オーラに色がついて視えるらしいわよ」

「そ、センリツとお揃っち。嘘発見にも大活躍~」

 

 センリツに軽く寄っかかり、ニッと笑う。ヴェーゼが感心したように口を開いた。

 

「へえ、便利じゃん」

「俺達の感情も見えるのか?」

「安心して。プライバシーの観点から基本は目の精孔を調節して見えないようにしてるから。ま、見ても分かるのは、スクワラがエリザにベタ惚れってことくらいよ」

「なっ……!」

 

 次から次へと爆弾が落とされるが、リンの落とした爆弾はその中でも特大だった。即座に顔が真っ赤になったのは明らかに酒のせいではないだろう。

 

「付き合ってもそこまで惚れてるってのァいいねぇ」

「あのお嬢に言っちまったが終わりだよ。もう屋敷の全員知ってる」

 

 ネオンに恋人はいないのかとしつこく問い詰められたエリザが白状したことにより、リンはもちろんこの場の全員が知っている。

 だが、リンセンがとどめを刺したのは言うまでもないだろう。恥ずかしさを誤魔化すため、スクワラは一気にグラスを空にした。

 

「そういうリンはないの? コ・イ・バ・ナ」

 

 ヴェーゼが色っぽい唇で1文字ずつ区切って発音する。一気飲みに加えてヴェーゼの仕草に、スクワラが少し気分悪そうにする。

 

(ああスクワラ、心に決めた人が居るのにキスされた上に恥ずかしい下僕になったことがあるのね……)

 

 今までの話の流れ的に、ヴェーゼの下僕になったことがあるのだろうと察したリン。先日のクラピカの言い淀みっぷりもこのせいか。

 だが他のメンバーはとっくにこのネタに飽きているらしく、興味ありげにリンの顔を見た。話を逸らすのは難しそうだ。

 

「ないわねぇ~我ながら年頃なのにどうなのって思うけど。仕事柄同年代の男と関わる機会がどうしても少ないのよ」

「そこにいるじゃねえか。ほれ、護衛団リーダー。若頭候補だろあの感じじゃ」

「ネオンみたいなこと言うわね。そんなにファミリー内でカップル成立してほしいの?」

 

 茶化すバショウに呆れ顔を向けてお茶を濁す。クラピカをどうこうといわれてしまえば、本気で考えこんでマジっぽい回答になりそうだったからだ。

 

(レオリオの番としてしか見てなかった……そういえばクラピカってホモじゃないんだっけ?)

 

 かなり失礼なことを考えているが、ここで言ったところで場の空気が凍るだけなので黙っておく。リンはこれでも公共マナーを守る腐女子なのだ。

 しかしこのままではまた話を蒸し返されてしまうと、時間稼ぎをしている間に考えた理由を駄目押しで重ねる。

 

「うーん……まあ、誰かと付き合ったところで放置する未来見えてるしね。親父みたいになりたくないのよ」

「ジン=フリークス、有名よね」

「あ、知ってたの?」

「親子2代でプロハンターともなれば噂になるわよ。ゴン君……弟さんもプロハンターになったのよね?」

 

 それは言い訳でもなく、リンの本心だ。自分と同じような寂しい思いをさせたくないと思っている。ゴンにだって思っていた。結局は置いて島を出てしまったが。

 

「そ。親父の育児放棄っぷりを見てたら私もそうなるんだろーなって思ってね。実際弟放り出してハンター試験受けてるし。そんなの彼氏に申し訳なくない?」

 

 そう言いながらもふと考える。恋人を欲しいと思っていないのは周囲が独身ばかりというのも起因するかもしれないと。

 今はメンチやノワールをはじめ、沢山の仲間が居る。仕事柄全員とはならないだろうが、もし自分以外の仲間達が全員パートナーを得たとしたら、自分は寂しさを覚えるのだろうか?同じように恋人がほしいと思うのだろうか?

 

(んー、ハンター仲間が結婚しても、連絡を取り合ったり数年に一度顔を合わせるってスタンスは変わらないだろうしな……。それともやっぱり心細くなるのかしら?)

 

 少なくとも趣味仲間、会社仲間が旦那や恋人の話をしていても、特に何も感じない。

 彼らと違って自分には普通の人生を歩めないと思っているところもあるかもしれないが。しかしハンター仲間でパートナーを得そうな人間は今のところ思いつかず、当分この答えはわかりそうにない。

 

「……そろそろ夜も遅いし、お開きにしましょっか。クラピカを部屋に送らないといけないし、スクワラの面倒も見ないと」

 

 リンの心境を読んだかのように、センリツが解散を促した。話し込んでいる間にいつの間にかグロッキーになっていたスクワラや、今にも机に頭をぶつけそうなクラピカ。彼らも明日からまた通常通りに働かないといけないのだから、介抱してやった方がいいだろう。

 

「スクワラはエリザに任せればいいだろ。クラピカは俺が運ぶか」

「シャッチモーノも少しふらついてるし、危ないわ。……リン、お願いできる?」

「いいわよ。こいつの溜めてる仕事量も気になるし」

 

 何やら2つの意味で誘導された気もするが気のせいだろうか。だが、万が一バショウ達をクラピカの部屋に入れて、クラピカの目的を察知されたらあまり嬉しくはないのも事実。もしかすると部屋に緋の眼に関連する資料を放置している可能性もある。

 センリツはクラピカの本当の目的を唯一知っている人間だ。助け船はありがたく乗せてもらうに限る。ひょいとクラピカを抱き上げると、他の面々に挨拶をして部屋を出た。

 

(……センリツのお膳立てもあったから進んで引き受けたけど、やっぱりバショウに頼むべきだったか?)

 

 両腕も完治したし弱っているクラピカが珍しかったため面白半分に引き受けたが、冷静に考えると自分がクラピカを姫抱っこしていたところで何の需要もない。

 メイメイに扉を開けてもらって中に入る。流石と言うべきか、ファミリーの働き者である以上の情報は読み取れない部屋構成となっていた。真面目半分の理由は徒労に終わったわけだ。やはり男性陣に頼んでその後の介抱までしっぽりとやってもらった方が良かったか。

 

(いやでもな~。あのメンバーでクラピカのカプに適してる相手がいるかって言うと微妙なところなのよね)

 

 万が一しっぽりやっていたとしても覗き見ることはできないのだが。そしてBL展開を望む割には高望みなリンである。

 ベッドにクラピカを横たえる。机には書類が山積みだ。明日のクラピカが頑張ることになるのだろう。個人的な仕事よりもバショウの誘いを優先するあたり、もしかしたらクラピカも楽しみにしていたのかもしれない。

 ついでだと、皺にならないように上着を脱がせ、ハンガーにかけた。(腰巻きは流石にセクハラか……?)と逡巡していると、代わりにメイメイが外してくれる。

 

「……なぜ、蜘蛛を裏切ったんだ」

 

 嘔吐用の袋や起きた時の水を水さしごと用意していると、上半身だけを起こしたクラピカがリンを見ていた。

 頭が痛いのか片手で額を押さえ俯く。吐く様子はないものの、リンも慌てて注いだばかりの水を差しだした。

 

「酔うならもうちょい面白い酔い方してよ。私が来てからずっと寝てたわよ?」

 

 普段から寝不足なのだからてっきりこのまま朝まで起きないと思っていたのだが、完全に予想外だ。取り敢えず人並みな揶揄い文句を言ってみるが、クラピカに反応はない。無言で水を受け取って飲み干すと、質問の答えを求めるようにリンを見つめ返す。

 

「ずっと疑問だった。絶対に旧友だという蜘蛛につくのだと思っていた。最後までリンが蜘蛛を裏切ってこちら側につくと、信じられなかった」

 

 酔っ払いの戯言かと思っていたが、存外意識ははっきりしているようだ。ならばとリンも適当に相手するのをやめて真剣に言葉を返す。

 

「……私のスマホ見たんでしょ? なら、クラピカ達を大事にしてるのもわかってもらえたと思ってたけど」

「同様に蜘蛛のことをそう思っていたのもわかった。だから、だ。……もしもパイロとリンが対立したとしたら、俺はパイロについていたかもしれない。付き合いの長い友人を裏切りはできない」

 

 結局は両方を選びとったとはいえ、当初は旅団を裏切ろうとしていたのもまた事実。クラピカはそれが不思議で仕方なかった。

 理屈でもない本心からの言葉は、実はクラピカが不得手としているところだ。特に幻影旅団が絡むとその傾向は強くなる。それをここまではっきりと述べるということは、今まで多少なりとも考えてきたのだろう。

 

 ここまで対話が足りなかったのはもちろんだが、クラピカは本当の意味でリンの真意を理解できていなかった。だからこそ今、酒の勢いに任せて聞こうとしている。メンチの時といい、今日の自分は調子が悪いのだと少しばかり心の中で言い訳をして。

 

「パイロ……」

「クルタ族の幼馴染だ。目が悪く、治療できる医者を探すために俺は旅に出た。襲撃されたのは、故郷を出てから数週間後だった」

「……」

 

 元の世界で聞き覚えのある名前。僅かに容姿も覚えている。それも朧げなものだが。

 だが、リンにとっては虚像の記憶でも、クラピカにとっては実在した友人だ。幼馴染で、親友で、何でもしてやりたいと思う程の仲だったのだろう。

 しかしその未来は幻影旅団によって握り潰された。クラピカは全てを喪ったのだ。帰る場所も、家族も、親友も。

 

(今のクラピカの表情を知っていたら、どうにかしようとしたかしら?……否)

 

 クルタ族の住む地も知らなければ、襲撃される日時も知らなかった。おまけに相手はA級盗賊13人。救済はよっぽどの下準備をしても不可能に近かっただろう。

 そもそもリンは、転生したからといって原作キャラの救済を志していたわけではない。それは幼少期にG・Iやゾルディック家で培ったシビアな倫理観からだ。

 ゾルディック家によって暗殺されていった人間たち、元々は犯罪者だったレイザー。どれだけ努力しても報われない、全てが一瞬で潰えるような世の中で、全てに手を回してはいられないと悟った。

 リンがイルミの過保護に一定の理解を示すのはここに起因する。どれだけの才能があろうと、力があろうと、この世界は少しの不運と歯車のズレで簡単に大切な人が死んでしまう世界だからだ。

 

 だが、いうなればリンは当時、クラピカの未来を知っていた。責任はないが、クラピカの未来を変えられた可能性はあったのだ。

 項垂れるクラピカの姿を見て、良心が痛んだ。同時に、それがなければ自分たちがハンター試験で出会うことはなかったであろうことに気づき、複雑な気持ちになる。

 

「……まあ、クラピカ達を裏切る考えは初めからなかったわ」

 

 だが、今はその気持ちに蓋をしよう。開いたところでどうにもならないものなのだから、それならば今のクラピカのために、今のリンの本心を語るべきだ。そう思ったリンははっきりとそう言った。

 

「初めから……?」

「クラピカが蜘蛛に復讐を考えていた時から。まあ、ハンター試験の頃からね」

「なぜ?」

「ゴンが悲しむじゃない。私、実はかなりのブラコンなの」

「知っている。……ああ、そういうことか」

 

 納得できたというようにクラピカは頷いた。自分の言い方のせいだが微妙に誤解しているらしいので、それを訂正しておく。

 

「でも、ゴンが居なくてもクラピカを裏切りはしなかったわよ」

「キルアが居るからか?」

「クラピカを気に入ってるから」

 

 それはクラピカが思った以上にシンプルな理由だった。ただの好意の大きさだ。旅団との人数差の考慮や同情も含まれるのだとしても、最終的には一言で済むような理由だ。

 

「ハンター試験も合格させたし、元々クラピカを裏切る考えはなかった。でも、その後を見て見ぬふりするかは迷ってた。……たださぁ、クソピエロのせいでクラピカとクロロ達の衝突地点がはっきりわかっちゃったからね。あの時、どっちに付くか腹くくった」

「誰かと重ねていたのではなくてか?」

「……それもあるけど、クラピカだからよ。え、てかあの時起きてた?」

「いや、センリツからそうかもしれないと聞いただけだ」

 

 センリツとの会話を聞かれていたのかと思ったが、考えすぎだったようだ。思わず胸を撫で下ろす。

 本当はどちらも選ばないで済むのが最もいい。争いなど起こらないのが良いに決まっている。だからこそ選択を最後の最後まで先延ばしにはしていたものの、どちらを選ぶかはとっくの昔に決まっていた。

 それはパドキア共和国の空港で分かれる間際。クラピカの決意を聞いた時だ。だからこそクラピカを弟子にとった。念でクラピカを操作してでも命を誓約にするのを阻止し、精神的にダメージを負うのを防いだ。

 

「クラピカは友達だし、復讐のしんどさを独りで背負ってほしくなかった。辛い思いをしてほしくなかった」

 

 自分にはメンチとノワールが寄り添ってくれていた。同じようにクラピカの支えになりたいと思っただけだ。

 

「それがクラピカを優先してクロロ達を殺しにかかった理由。……これでいい?」

「……ああ」

「じゃ、おやすみ」

 

 閉じられた扉を見届けると、クラピカはぼふりと枕に頭を預ける。まだ頭が痛く、着替えた方がいいのはわかっているが、動く気にならない。

 

 センリツの言葉を聞いて、メンチからリンの過去を断片的に聞いて、リンの向こう見ずな行動の裏側には後悔の念があるのだということを知った。

 だが、それだけではクラピカを助ける理由にはならない。クロロだって、リンにとっては手を貸したいと思える存在だったはずだ。

 いくら考えても、この点だけはどうにもわからなかった。ノワールの言う通り、自分がリン達の友人に似ていたから?それだけで命を捨てられるのか?

 

 そんなクラピカへの回答は、思っていたよりも数倍あっさりしたものだった。疑問が晴れてスッキリした一方で忘れかけていた言葉が再び頭をよぎり、顔を顰める。

 

 目を閉じてはいたが、護衛控室でのリン達の会話は全て聞いていた。その中でリンは1つだけ勘違いをしていることがある。挑発されて飲みすぎたわけではない。

 バショウに酒を飲むように挑発されてぴきりと来たのは事実だが、それだけならあそこまで飲み過ぎたりはしなかった。その後に言われた言葉を脳裏から消したくて飲み過ぎてしまったのが本当のところだ。

 ほろ酔い気分でつい口を滑らせてしまったリンのネオンへの言葉。

 

―全然、仲間よただの―

 

 ただのとは何だ、ただのとは。こちとらその仲間相手に命懸けで戦い、挙句悲願の復讐を諦めて敵の頭を逃がしたというのに。

 だが、仲間でしかないのも事実だ。その点でリンの言い分はもっともだが、『仲間』という言葉でぞんざいに扱われるのは腹が立った。

 メンチの件にしてもそうだ。メンチに言われた通り、なぜ自分はそんなにリンの過去をほじくり出そうとしているのだろうか。自分でもなぜここまで調べたくなるのかわからない。調べたところでプライバシーを侵害するだけだというのに。

 はっきりとでは無いにせよクラピカがそう言うと、バショウは何言ってるんだこいつと言わんばかりに即答したのだった。

 

「何言ってんだ。そんなん、リンが気になるからじゃねーのか」

 

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