リン=フリークスの冒険   作:夜桜百花

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グリードアイランド編
始まりの草原


(……っと、この感覚はなかなか慣れないわね)

 

 ゲームを起動させると同時に一瞬感じた浮遊感。へその上がふわりと落ち着かない感覚を覚えると同時に、G・Iの空間へと降り立つ。完全なる瞬間移動というやつだ。

 そして飛ばされた先は、相変わらず近未来を模した不思議な内観だ。かつてリンがクリアした際にアップデートを施すとリストは言っていたが、この辺には変化を加えていないらしい。大きな変更を加えたわけではないだろうし、当然と言えば当然か。

 

「エレナさん!」

 

 扉を開けた先には、あの時と変わらないエレナの姿があった。念能力者だからかそれとも特殊な能力を施しているのか、ゲームキャラを思わせるような独特の雰囲気は変わらない。だが、エレナもまたリンにとっては育て親の一人だ。

 それはエレナも同じで、リンのことは自分の娘のように可愛がってきた。そのためリンに気づくと、キャラクターのような固まった表情がパッとほぐれる。

 

「リンちゃん!大きくなったわねぇ!」

 

 リンは嬉しさのあまり駆け寄り、エレナの乗っている機体に手を添える。数年が過ぎたが、フリーザを思わせるようなあの不思議な機体にも変化はないようだ。エレナもリンの頬を包み込み、母親のような表情を見せた。

 

「そうだ、ゴン君も来てるわよ」

「良かった、ちゃんと来れてたんだ」

 

 懐かしそうに目を細めたエレナだったが、ふと顔を曇らせる。前回リンが来た目的が、お世辞にも褒められたものではなかったからだろう。その理由を察してしまえば、納得するしかない。

 

(まあ、レイザーが匿ってたってことは、当然エレナさんも知ってただろうしね……)

 

 今回も同じような不穏な理由で来たのかと不安そうにするエレナ。彼女を安心させるため、少し大げさなくらいの笑顔を見せる。

 

「心配しないで。情報収集も目的だけど、今回は普通に楽しみに来てるの」

「……そう、よかった!」

 

 嘘をついているわけではないが、少しばかり罪悪感を感じなくもない。だが、裏社会に流通する人体の情報を探していると言えば、エレナは当然喜んではくれないだろう。

 しかしリンもまた、仲間への協力を止める気はない。これ以上は心配させたくないため、敢えて何も言わないでおく。ミトが言っていた、いわゆる『隠し事癖』だ。

 

「へへ、ありがとね心配してくれて。そういえば、アップデートはされたの?」

「ちゃんとやっておいたわよ。基本ルールは変わってないけど、ジンの命令で『嵌め』対策はばっちり」

 

 おおよそ、対策された基準は『見ていて面白くないかどうか』なのだろう。ちまちまと地味にカードを集めて集団で戦う戦法は、ジンが一番つまらないと言いそうなものだ。

 

「じゃあ扉を開けるわよ。説明はスキップで良いわよね?」

「うん!あ、後から友達が来るからよろしくね」

 

 そう言うと、開いたばかりの扉から外に出た。小さな螺旋の階段を降りると、懐かしい始まりの草原がリンを迎える。誰も居ないのを良いことに、大きく伸びをして深呼吸し、故郷の匂いを目一杯肺に取り入れた。

 

(うーん、やっぱここの匂いは“故郷”って感じするわね)

 

 見渡す限りの草原地帯。遠方からの視線も感じないあたり、かつてのようなハメ組は居ないらしい。何処へ行くのも自由な、文字通り始まりの場所だ。

 暫く草原の香りを堪能していると、クラピカが降りてきた。きょろきょろと周囲を見回しながらもどこか毒気を抜かれたような表情だ。

 

 呪われたゲーム、プレイヤーを殺してまでカードを奪う連中がいる、という前振りがあったため、内心はかなり警戒していたのだろう。

 そこに待ち受けていたのがこの平和な草原だ。クラピカが驚くのも無理はない。

 

「凄いな。ゲームの中とは思えない」

「でしょ? 親父たちが作った自信作のゲームだからね。……改めてようこそ、G・Iへ」

 

 自分が作ったわけではないが、それでも父親をはじめ沢山の仲間が作成したゲームだ。テストプレイもしていたし、多少は胸を張る権利があるだろう。

 そしてクラピカは表情には出さないものの、珍しく落ち着かない様子だ。「ブック」と試しに指輪のある手を出し、バインダーを出してみる。

 

(初心者あるあるね。取り敢えずバインダー出してみたくなる。気持ちはわかるわ)

 

 警戒心は少し薄れたようだが、未知の技術に目を丸くする。歳相応の少年らしいその表情に、リンは思わずにんまりとしてしまう。

 そもそも、賞金首(ブラックリスト)ハンターがハンターとしては邪道の部類だと思っているリンだ。ハンターたるもの、やっぱりこう、ロマン溢れるものにわくわくしながら手を伸ばすべきだろう。そういう意味ではクラピカは今、ようやっとハンターとしての一歩を踏み出したと言えるのではないだろうか?

 

「指輪をつけてる限りはこのゲーム内ではこの魔法が使えるの。凄いでしょ?」

「これらすべてが念能力で作られているのか。ジョイント型の能力は想像以上にできる範囲が広がるのだな」

「……ちょっと冷め過ぎじゃない? もうちょい純粋に楽しみなさいよ」

 

 流石クラピカ、ゲーム世界へ入って初めに考えることなのに、夢がない。

 これには呆れかえるしかないリンだが、クラピカは気にしていないようだ。効率的に事を進めるべく、経験者に顔を向ける。

 

「これからどうするんだ? まずはゴンとキルアに連絡を取りたいところだが……」

「こっちの世界では通信機器は使えないからね。呪文(スペル)カードがあればすぐ会えるんだけど……」

「何かしらの条件が必要なのだな」

「そう。簡単に言うとお金がかかって、その上ランダム。しかも、お金も現実世界のものは使えない」

 

 加えて言うと、呪文(スペル)カードのカード化限度枚数がMAXになっていてはそれすらもできない。最悪、お金を貯めてもカードを得られない可能性もある。

 だが、これは今言わなくてもいいだろう。リンの言葉を聞き、クラピカは難しい表情で頷く。頭が良いクラピカだ。この説明だけで状況を把握できたのだろう。

 

「なるほどな。こちらで仕事を探す必要があるのか」

「……はい?」

 

 珍しくふざけていると一瞬思ったリンだったが、クラピカの顔は至って真剣だ。面白くもない冗談を言ったわけではなく、本気と書いてマジらしい。

 

「もしかして、クラピカってゲームしたことない?」

「ハンター試験の三次試験待機場でゴン達とやったのが初めてだな。それ以降も触れたことはない」

「やっぱり。まあ初心者ってのを差し引いても、アレは絶望的に下手だったけど」

 

 三次試験で待機させられている時、クラピカはゴンとキルアと共にスマブラをプレイしていた。キルアの勧めで初心者向けのキャラクターを使っていたにもかかわらず、ほぼ全て自爆で死んでいたクラピカだ。

 本人も流石に自分にゲームの才能がない自覚はあるようで、リンの言葉にむっと口を尖らせる。

 

「所詮は娯楽作品だろう。不得手であるデメリットはない筈だ」

「あー、娯楽を馬鹿にしたわね! サブカルがどれだけ人生を色鮮やかにするかをわかってないのよクラピカは!」

 

 形式的な雇用関係こそあるとはいえ、ここでのリンとクラピカはただの友人だ。ノストラードファミリーの人間も居なければ、自然と二人のやり取りも昔のようなものになる。

 かつてのハンター試験やパドキアに行った時のようなクラピカが戻ってきていることが、リンは内心嬉しくて仕方ない。一時期は荒んだ色をしていたオーラも、かつての色に戻っている。

 

 リンが歩き出すと、目的地があると悟ったのか何も言わずについてくる。その顔は不服そうなまま変わらないが。クラピカがついてきてくれているのを確認し、徐々にスピードを上げて走り出した。

 

「で、どうすればゲームの中で金銭を得られるんだ」

 

 目的地も告げられないままに先導するリンに、さっきの話はなかったことにしたクラピカが後ろから尋ねた。リンも走るスピードは緩めないまま、軽く後ろを振り返る。

 

「大体のRPG……ロールプレイングゲームでは、モンスターを倒すと手に入るわ」

「……なぜモンスターが金銭を持っているんだ?」

 

 なぜと言われると、確かになぜだろう。しかし、そこは深く考えてはいけないポイントだ。

 

「気にしちゃ駄目。とにかくこの世界でも、モンスターを倒して手に入れたカードを換金するのが一番手っ取り早いかな」

 

 走り始めて一時間。到着したのは岩石地帯だ。ごつごつとした殺風景な岩場がリン達を出迎える。この地帯はかなり広く、数十キロにわたって見渡す分には岩しか見えない。

 ここはG・Iの中でも特にモンスターが発生する場所。そしてリンは知る由もないが、ゴンとキルアが修行をした場所でもある。ともかく、小銭稼ぎにはうってつけの場所だろう。

 

「よっしゃ、久しぶりに弟子育成と行きましょっか。クラピカ、出てくるモンスターを手当たり次第に狩るのです!」

 

 そう言ってびしりと荒野を指さしたリン。一方でしらっと冷めた目でリンを見つめるクラピカ。

 

「自分が動くのが面倒なだけではないのか?」

「そんなことないわよ。ここのモンスター、そこそこ癖が強いから戦闘の基礎ができてないと普通に詰むし。良い経験!」

「ならなぜ自分はミトさんから貰った菓子を広げているんだ」

「ほらほら、言ってる間に来たわよー」

「……!?」

 

 ぶちぶちと文句を言っている間に背後に忍び寄っていたのは、サイクロプス。

 ターゲットを捕捉してとげのついた棍棒を大きく振りかぶると、リンとクラピカ目掛けて振り下ろした。大振りな攻撃故に二人ともさして苦も無く交わす。

 

「かなりの攻撃力だな、当たってはひとたまりもない」

 

 小高い岩に飛び乗ることで退避したクラピカ。リン達が居た場所には巨大なクレーターができており、思わず冷や汗を流す。

 サイクロプスは、リンにとってはテストプレイで4歳の頃から倒し続けてきたお馴染みモンスターだ。クラピカより更に高い位置からミトに貰ったドーナツをもぐつきながら、ファイトとクラピカに手を振る。その手にもドーナツが握られており、いわゆる長嶋食いだ。

 

「ちなみにあいつ、Dランモンスターよ。がんば!」

「……くそっ!」

 

 師匠兼友人が当てにならないと悟ったクラピカが、『凝』をしながらも攻撃を避ける。

 そして眼が弱点だと理解し、瞬時に【導く薬指の鎖】(ダウジングチェーン)を大きく振って目にぶつけた。ちょっとした岩ならば砕けるだけの威力を出した鎖は、サイクロプスを軽くノックダウンさせるのには十分だ。

 

「ナイスー! でも、できるだけ鎖なしで戦えるようにね!緋の眼が精神力を大きく削るってヨークシンで分かったわけだしさぁー! 具現化系でもある程度の肉弾戦には耐えられないとぉ!」

「呑気なものだ……!」

 

 少し離れたところからメイメイとドーナツの取り合いをしつつ、師匠としてのアドバイスを投げるリン。全く動いていないのに偉そうに言われてイラっとしたクラピカだったが、能力の欠点は自分でもよく理解しているため、助言通りに動く。【導く薬指の鎖】(ダウジングチェーン)以外は緋の眼が条件にある以上、この鎖以外は極力使わない方が良いだろう。

 あちこちを跳ねまわるマリモッチ、リモコンラットに操作された複数体の騎士、泡を吹きまくるバブルホースなど、サイクロプスを皮切りに明らかに大量のモンスターがクラピカに襲い掛かる。いくら何でもこれはおかしいと、ゲーム初心者でも気づくほどには。

 

「多すぎるのではないかー!?」

「ごめん言い忘れてたぁ! 私がモンスターの岩場(ここ)に来ると、やたらモンスターが大量発生するの! たぶんオヤジのせい! 私だけハードモード的なぁー!」

 

 当のリンは被害を受けないように【透明な反射鏡】(ミラーミラージュ)を上空に展開して退避しているため、損をしているのはクラピカだけだ。上空に向けて叫びつつ、会ったこともないジンにヘイトを向け始めるクラピカである。

 

「修行ではなくモンスターを倒して金銭を得るのが目的なのだろう? ならばお前も動けぇ!」

「可愛い弟子の成長っぷりを見ていたいのよ~!」

 

 そう叫びながらも、効率良くモンスターを倒していくクラピカ。基本的には体術で攻撃し、難しい場合は補助として【導く薬指の鎖】(ダウジングチェーン)を使用する。なるほど、確かに動きやすい服装で来て良かった。

 そしてドーナツをもぐつきながらも、弟子の動きをしっかりと観察するリンだ。その隙にメイメイが一個、また一個とドーナツを盗み食いしていく。

 

(……仕事にかまけて修行サボってるかと思ってたけど、真面目にやってたみたいね)

 

 クラピカの手腕もあり、十数分もすれば岩場のモンスターは一掃されていた。カード化が解除される前に、ドーナツを食べ終えたリンも地面に降り、手分けしてカードをバインダーに仕舞う。

 

「……リン、こいつはカードにならなかったのだが、そういう仕様なのか?」

 

 最後の一枚を拾ったところで、離れたところのカードを集め終えたクラピカがリンの下へ戻って来た。

 その手には何かの生き物が抱えられている。合流して真っ先に文句を言われなかったのはそちらに気を取られていたからのようだ。

 

「いや? カードのままバインダーに入れず放置してたら元に戻りはするけど、それでも一度はカードになるはずよ?」

 

 そう言いながらもクラピカが抱えている生物をよく見てみる。

 それはぬいぐるみのような小さなパンダだった。羽は生えていないが、メイメイにそっくりだ。2Pカラーのように黒部分は少し暗い緑色。サイズもメイメイより少し小さいくらいか。

 

「ていうか、こいつ何?なんかメイメイに似てるわね」

「ここのモンスターではないのか?」

「私もここには何度も来たことあるけど、初めて見たわ。何か特別なことした?」

「強いて言うならば、倒したモンスターの数が50体を超えたな」

「じゃあ、一定時間以内に50体のモンスターを倒すと現れる特殊フラグ、とかかしら」

 

 パンダはクラピカに懐いているらしく、考え込んでいるクラピカをよそにそのまま頭に乗っかってしまった。

 絶妙にライバル心をくすぐられたらしいメイメイが、クラピカの周りを飛びながらパンダにちょっかいをかける。パンダとクラピカ、好きな人には堪らない構成というやつだ。

 

「ま、いいか。せっかくだし、連れていこ」

 

 もしかしたら何かの役に立つのかもしれない。SSランクカードのフラグの可能性だってあるだろう。頷いたクラピカも、満更ではないらしい。

 

 そのまま2人と2匹は魔法都市・マサドラに向かい、モンスターカードをすべて換金した。そしていくらかの食事費用を残して、持てる限りの呪文(スペル)カードを購入する。

 ここからはお待ちかね、ぺりぺりとカードが入った袋を剥いては、バインダーに納めていく作業を繰り返す。所謂ガチャタイムだ。

 

「んー、【同行】(アカンパニー)全然出ないわね。やっぱ物欲センサーに引っ掛かるか……お、【堅牢】(プリズン)出た」

 

 手に入れたカードのレアリティや内容を見て一喜一憂しているリンとは対照的に、クラピカの頭には終始疑問符が飛んでいる。カードの説明を読んで多少の使い方を理解しても、そもそもゲーム慣れしていないせいでどれが良いカードなのかピンとこないのだ。

 

【同行】(アカンパニー)とやらがないと、ゴン達と会えないのか?」

【交信】(コンタクト)が出たから連絡できないわけではないけど、自分たちで歩かなきゃだからちょっと手間ね」

 

 そう言いつつもリンは楽し気だ。久しぶりの故郷というのはもちろんだが、楽しかった神ゲーを数年越しに初期化して最初からやり直しているワクワク感は格別。初心者が隣にいることで俺つえームーブができるのも悪い気はしないところ。

 終始テンションが高いリン、一方でクラピカは少しゲームに疲れ始めている。体力的にもそうだが、どちらかというと精神的な意味で、だ。元々ゲームに馴染みのない生活を送っていたところにいきなりハードモードをプレイさせられたのだから、当然ではある。

 

「結局【交信】(コンタクト)しか連絡取れそうなカードは出なかったわね。誰かが溜めてるとか? ハメ対策はやったって聞いてたけどな~」

「?」

 

 そう言いながらもフリーポケットに入れていた【交信】(コンタクト)を1枚取り出し、「【交信】発動(コンタクト・オン)」と唱える。バインダーが自動でパラパラと捲られ、真っ黒だった表紙裏画面にプレイヤー名が浮かび上がった。

 

「えーと、ゴン……ゴン……これだ」

 

 ニッグから始まる一覧を指で辿り、ゴンと表示されたところを探す。上から12番目のところにあったそれを指でタップすると、一昔前の携帯の通話モードのような画面に切り替わった。

 それを見て無言で感心するクラピカ。疲れてはいるが興味は尽きない彼もまた、かなりゲームを楽しんでいる。

 

(……ん? コール音、こんなんだっけ?)

 

 バインダーからはえらく今時なコール音が響きわたる。発売されたのは10年以上前のゲームだが、妙なところにアップデートを加えているようだ。

 驚いたようなゴンの声は、待つこと数秒後に聴こえてきた。

 

『……もしもし?』

「やっほ~。ゴン、元気してるー?」

 

【交信】(コンタクト)の使用条件は、対象のプレイヤー名がバインダーに登録されていること。すなわち、ゲーム内20 メートル以内でプレイヤーと接触している必要がある。

 ゴンの動揺はリンがG・Iに来ているのもそうだが、接触せずに連絡を取ることができたことにもあるのだろう。

 

『え、え、姉さん? なんで【交信】(コンタクト)使ってるの? てかなんで使えるの?』

 

 もちろんそれは、リン達が幼少期にこの世界に来ていたからだ。しかしそれはわざわざプレイヤー名をアナグラムで登録している父親の意図をぶっ潰すことにもなりかねない。

 それ自体は別にどうでもいいリンだが、どうせならゴンに自分で気づいてほしいのでそこには敢えて触れないでおく。

 

「G・Iに居るからよ。そっちに行きたいんだけど、今どこにいる?」

『えっと、懸賞の街(アントキバ)!』

 

 あまりにもざっくり過ぎる説明だが、相手がゴンだから仕方ない。それにアントキバは初めに来ることの多い場所ということもあり、比較的小さな町だ。行けばすぐに見つかることだろう。

 

「あ、結構近いわね。すぐに行くわ……クラピカも居るわよ」

『ほんと? うん、待ってるね!』

 

 喜びを隠し切れないゴンとの交信を切断すると、アントキバのある方角を軽く指差してクラピカに目配せする。リンが走り始めるとクラピカもそれに続いて地面を蹴った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 キルアは悩んでいた。放出系の系統別修行についてだ。

 変化系であるキルアにとって、基本的に放出系は苦手分野である。特にオーラを体外で留める技能が決定的に苦手だ。

 そのため、念弾を作っても大した威力もなく岩にぶつける前に消えてしまう。得手不得手はあって当然だが、この分野については完全にゴンに後れを取っている。親友でありライバルでもあるキルアとしては悔しいところ。

 

「もー、何でできねーんだよクソ……」

 

 系統の違いから、最近は系統別修行の時間は個別で訓練をしている。近くにビスケとゴンが居ないのをいいことにキルアは小声で悪態を付いた。

 腹が立てば立つほどにやる気も無くなってくる。ごろりと原っぱに寝転んで空を見上げた。町はずれで人気もない場所だが、耳を澄ましてみるとNPCの喧騒が聴こえてくる。

 

(確か、リンがめちゃくちゃ上手かったよな。あいつ本当に放出系じゃないのかよ)

 

 ヨークシンでノブナガが言っていた言葉によれば、リンは確か特質系だ。思えばペットとして連れているメイメイも出したり消えたりしている。あれは念獣の類なのだろう。

 特質系の系統別得意分野はよくわからないが、リンが放出系を得意としているのは三次試験の時に見せたオーラからして間違いない。かめはめ波だとかふざけていても、あの威力は本物だ。

 

 放出……オーラの放出……気の放出……。

 

 幼い頃読んだ漫画が脳裏をよぎる。そういえばあの漫画は放出系技能で溢れていた。何か参考になるかもしれない。念とはイメージがものを言う世界なのだから。

 

 ぴくり、と少年心が疼く。誰だって好きな漫画の名シーンは真似てみたいものだ。

 きょろきょろと辺りを見渡して、誰も人がいないことを確認する。小声で台詞を言いながらポーズを取り、オーラを手のひらに集めた。

 

「か……め……は……め……波」

 

 ぽふりと小さな念弾ができ、ふよふよと飛んで岩に当たった。念は気持ちの作用が大きい……というのは本当らしい。今までとは段違いに進歩したことに味をしめ、キルアの気持ちは高ぶる。

 

「すっげ……。……か~め~は~め~……波!」

 

 力を込めて念を発すると、先ほどよりも更に強力なオーラを放出できた。弱弱しいながらもビームのようにして岩に当たる。

 これはいける、あの名シーンを再現できる。自分もなれるのかもしれない。永遠の主人公・孫悟空に!!

 

 この時点で、放出系の修行の工夫ではなくいかに少年漫画を再現するかになっているのだが、キルアは気づいていない。

 ベジータとでも対峙するのかと言わんばかりな気合の入った声をあげる。全力で練られたオーラは手の中に一点集中している。辺りが明るく光り輝く。

 

「かぁ~めぇえ~はぁあ~めぇえ~!!」

 

 いける、これならば月だって砕ける気がする! あくまで気がするだけだが、念において気持ちは重要だ。

 空に打つか目の前の岩に打つか。いや、初めは手堅く行こう。岩に焦点を定めた時、後ろから声が飛んできた。

 

「何してるの? キルア」

 

 人に見られたくない姿トップ3にランクインする瞬間をゴンに見られてしまった。

 だらだらと冷や汗をかきながらゴンを見るが、当人は何も気にした様子はない。呑気に「キルアもかめはめ波やるんだ!」という始末だが、それは今のキルアを深く傷つける言葉だ。

 

「聞いてよ! 姉さんとクラピカがG・Iに来てるんだって!」

 

 リンとクラピカに見られなくてよかったと、キルアは心からそう思った。

 

 ……とまあ、そんなことをリンとクラピカは当然知る由もなく、ゴンと【交信】(コンタクト)をしてから一時間後、リン達は三人と無事に合流を果たしていた。

 

「ゴンー! キルアビスケー!」

 

 ゴン達は人混みを避け、アントキバ近場の草原で待っていた。ビスケ直伝の修行によって少し身体つきが筋肉質になった弟に、リンは大きく手を振る。

 

「姉さーん! クラピカー!」

 

 リンが手を振るとそれ以上にゴンが両手で大きく振り返してくれた。腕だけでは飽き足らずにぴょんぴょんと飛び跳ねる姿に、(うちの弟マジ天使)とリンが内心思っているのは言うまでもない。

 クラピカですら表情を柔らかくするくらいだ。加えて(この笑顔で戦争が終わるのでは?)とリンが真剣に考えたのも仕方ないだろう。

 

 そんなことを考えながらも、近くに来て少しばかり目を疑う。二人の身長差はさして変わらず、キルアの方が僅かに高い。だが、二人とも明らかに目線がリンに近づいている。もう少しすれば追い抜かれてしまうかもしれない。

 

「久しぶり。ゴンもキルアも、随分背が伸びたわね」

「えへへ……成長期!」

 

 驚いたリンがそう言うと、ゴンは照れ臭そうにはにかんだ。

 キルアはともかく、ゴンも人並みには身長が伸びてくれそうだと安心するリンだ。是非低身長の父親を追い抜いてほしいところ。

 

「クラピカ、そのパンダはどうしたの? 姉さんの能力?」

「いや、なぜかついてきたんだ……」

「何かのフラグみたいよ、わかんないけど。……ていうか、何でキルアそんなテンション低いの?」

「……別に……」

「もー、かめはめ波くらいいいじゃん」

「ばー! 言うなぁ!!」

 

 何かよくわからないが、ゴンが繊細な思春期の少年心に傷を入れたようだ。

 しかし叫んだら少しスッキリしたようで、キルアもいつもの雰囲気に戻った。もう大丈夫そうだと察したゴンは、次にビスケの方に案内する。

 

「ビスケ紹介するよ、クラピカと俺の姉さん!姉さんクラピカ、俺達の師匠のビスケだよ!」

 

 ぐいぐいと二人の手を引っ張ってそちらに行くよう促すと、ゴンは誇らしげに自分たちの師匠を紹介した。ゴン達をビスケに弟子入りさせるよう頼んだのはリンなのだが、本人はそれを忘れているらしい。

 

「ビスケも久ぶ……」

「初めましてぇ♥クラピカさんって言うんですね!」

 

 今年はコミハンに参加できなかったため、ビスケと会うのも約1年ぶりだ。しかしビスケはリンには眼もくれず、一心にクラピカを見つめている。きゅるきゅると瞳を潤ませて、明らかに猫かぶりモードだ。

 

(そうだった……ビスケは儚げ美青年好き……)

 

 ビスケは腐女子なのもそうだが、それ以上にシンプルなイケメン好き。中性的かつ影のある雰囲気を纏うクラピカはそんなビスケの好みドンピシャだったようで、性格上ガチ恋はないが猫を被る相手としては十分だったらしい。

 口元に握りこぶしを当てて小顔効果も忘れない。実年齢を突っ込みたくなるところだが、流石にリンも命を粗末にする気はないのでやめておく。当然出てくる声も1オクターブ高かった。

 

「ビスケット=クルーガーと申します♥どうぞよろしく♥♥」

「……クラピカだ」

 

 一方のクラピカは、簡潔に挨拶をした後は我関せずと言わんばかりにつーんと目を合わせないようにしている。本能的に相容れない相手だと悟ったようだ。

 その判断は正しいと言える。唯一の誤算は、相手がその程度ではへこたれない、図太い57歳だということくらいだろう。ビジネスとして会っていれば猫も被らず強気に出ていたのだろうが、今のビスケにとってのクラピカは降って湧いたただのイケメンである。

 

 呆れつつも忘れられていては悲しいので、リンも少し強めに主張をする。ずいと身を乗り出せば、ようやくビスケはリンの存在に気づいた。

 

「……ビスケ、久しぶり……」

「あ、あんた居たの! 久しぶりね!」

 

 酷い言われようだ。イケメンハンターの盲目フィルターにかかれば、消しゴムマジックもびっくりな消え方をしてしまうらしい。

 ビスケのイケメン好きはいつものことなので、リンもさして気にしない。ロックオンされたクラピカが、救いを求めるかのようにリンに視線を向ける。

 

「リン、彼女とは知り合いなのか?」

「……まあね。私もビスケの弟子ってとこ。あと、会社の創設仲間」

「「そうだったの!?」」

 

 リンが姉弟子であることに驚いたのか、あるいは二人が仕事仲間だというところに驚いたのか。ゴンとキルアの反応具合からして、両方らしい。

 

「ゴンとキルアには前話したわよね。私、昔キルアの兄貴のミルキって奴と翻訳会社作ったのよ。で、ビスケはその時の創設メンバー。ついでに言うと二次試験の試験官だったメンチもその一人」

「……世間は狭いな」

 

 ヨークシンでリンの写真フォルダを見ていたゴンとキルアが、「そういえばその四人で写ってる写真、あったよな」、「あ~、あったね」と思い出す。

 あの時は確かに楽しかったが、その後ヒソカとのエンカウントという現在にまで続くトラウマを製造しているので、あまりその話はしないでほしいと思うリンだ。必然、なんとか話題を変えようと必死になる。

 

「そ……そんなことより、二人とも修行は順調?」

「うん! 『発』も作ったよ!」

「ほんと? どんな能力なのか気になる~!ビスケ監修なら安全だしね!」

 

『発』は独学や師匠次第ではとんでもない地雷能力になりかねない。最後に能力を作るのは自分自身だとしても、相談相手はやっぱり必要だ。

 ついでに言うと、師匠のせいで遊び半分な念を作らされた可哀そうな男をリンは知っている。カイトという名前の男だ。

 

 それはそれとして、オーラマニアの血が騒ぐリン。突っ込んで聞くことはできないがどんな能力かできれば教えてもらいたい、とうずうずしていると、キルアが「ふふん」と得意気に笑った。

 

「俺の『発』、見たら驚くぜ? 対策も難しいからリンだって倒せるかもな」

「マジ? キルアがよければちょっと組手しない? 能力の試運転も兼ねてさ」

「良いじゃない。戦いの中で能力を使う訓練も必要だからね」

 

 ビスケの許可も貰い、キルアは「おっし!」と気合を入れてリンと向かい合う。ゴン達が離れたのを確認すると、キルアが先に動いた。能力も既に発動させているようだ。

 

「んじゃ、こっちから行かせてもらうかな」

「先輩だからね。先手は譲ったげる」

「余裕ヅラかましてられるのも今のうちだぜ?」

 

 模擬戦が始まる。

 バチバチと青い電気を爆ぜさせながらリンに向かって走るキルア。そこから攻防力70程度の割合で繰り出された拳は、並のハンターならば一撃で鎮めることができるレベルのものだ。

 

(お、キレの良いパンチね。この年頃のイルミでもここまでの動きはできなかった。肉弾戦は当時のイルミを超えたかな?)

 

 キルアは暗殺者として育てられた。一応対人戦や肉弾戦も訓練メニューに取り込まれてはいるが、本分の隠密術へ割かれるリソースの方が圧倒的に大きい。

 それでもここまでの攻撃をできるのは、ビスケから心源流の手ほどきも受けたからだろう。我ながら良い師匠をキルアにつけたものだと自画自賛する。

 

(加えて、微妙に左腕を隠してるわね……何企んでるのかしら?)

 

 身体を傾けているように見せかけて、絶妙なバランスで死角を生み出している。見えない後方からの攻撃を警戒しつつ、キルアの拳を左手で受け止めた。

 同時にバチリと電撃がリンを包む。だが、それだけだ。【雷拳】(イズツシ)を受けて平然としているリンに、キルアは大きく動揺した。

 

「おっと!」

 

 わかっていたため平然と右手でヨーヨーも受け止めるが、思った以上にずしりとした重さに、思わずリンは声を上げた。

 おおよそ50kgといったところだろうか。本来ならばリンが後方へ退避したところに背後からヨーヨーが襲い来る二段トラップだったのだろう。

 

「電気とヨーヨーね。良い能力じゃない!」

「はぁ!? なんで効かねーんだよ!」

「言ったでしょ? 昔ゾルディック家に預けられてたって。その時に耐電訓練もしたのよ」

「そうだった……ずりーぞ!」

 

 リンがゾルディック家に預けられていたのなら耐電訓練をしていても不思議じゃない。考えが及ばなかった自分に舌打ちし、悔しさのあまり負け惜しみを言ってしまうキルアだ。

 一方でリンは真剣にキルアの能力を分析する。ちゃんと自分に合った能力を作っているらしく、感心すると同時にホッとした。一応、リンにはキルアの念能力指導の責任がある。これならばおかしな念能力を作らせたとシルバに叱られることはなさそうだ。

 

「電気……オーラを電気に変化させてるのかな? やっぱキルアは変化系か」

「……へぇ、そう思うんだ。電気はサブで、ヨーヨーを具現化してる具現化系の可能性もあるのに?」

「その反応が変化系なのよ。ヒソカほどがっつりではないけど、オーラ別性格診断なんて皆多かれ少なかれやってるしね」

 

 当たっていると悟られないように意味深な態度を見せたキルアだったが、ここまではっきりそう言われてしまうと何も言い返せない。「変化系は気まぐれで嘘つき♦」と言っていたヒソカの言葉が脳裏をよぎる。

 キルアはリンに系統を教えていなかったし、ゴンと違ってノブナガに系統をばらされるようなこともなかった。占いの類は信じていないキルアだが、ここまで見事に当てられると少し信憑性があるのではないかと思わなくもない。

 

「つーか、ヒソカの占い知ってたのかよ」

「実は天空闘技場に行った時に動画買って観たのよね。あ、ゴン! ヒソカとのバトル、最高だったわよー!」

 

 脇で観戦しているゴンにそう言って笑顔で手を振るリン。ゴンも「ありがとー!」と笑顔で手を振り返した。模擬とはいえ、戦闘の緊迫感が一気に薄れる。

 

「んじゃ、あの時のヒソカの真似でもしてみようかしら」

 

 そう言うと、リンは改めてキルアの目を見た。宣言通り、これからするのはヒソカの真似事だ。自分も楽しみつつ、ちょっとした稽古をつけてやろうと考えているリンの思考回路は、実は戦闘に関してのみはヒソカと似ている一面がある。

 

「私的オーラ別性格診断ではぁ~……」

 

 指をくるくると回し、キルアをびしりと指差す。謎の気迫に思わずキルアもたじろいだ。

 

「変化系はズバリ、本心の見えづらい猫かぶり!」

(……合ってる)

 

 認めこそしないがドンピシャだ。つぅ、とキルアの額を冷や汗が流れた。そしてゴンも横目でビスケを見ながら(合ってる……)と確信する。

 クラピカが隣に居るのもあって、ビスケの眼は未だ絶賛きゅるきゅるモードだ。そしてクラピカは頑なにビスケと眼を合わせようとしない。眼を合わせたら捕食されてしまうのではないかという程に。

 

「ちなみに私は特質系。個人主義の自己中」

「合ってるな」

「うるさい自覚してるわ」

 

 ちなみに修行中に似たような診断は受けているため、クラピカが(具現化系も教えてほしいっす……!)となることはない。キルアを眺めながら(……合ってる)と思うだけだ。

 

「私らの相性は割かし良い方ね。互いに別行動も多いけど、何だかんだ信頼し合ってギブ&テイクできる関係。でも特質系って、わかってても敢えて空気読まないとこあるからさ……」

 

 そう言うとリンは少しばかり大きくオーラを練った。先輩だからこそ、強者ムーブをかましたい時もあるというものだ。特にそれが尊敬されたい弟分ならば、猶更。

 楽しくなりそうなバトルだからこそ、嬉しさのあまりリンは口元を軽く緩めた。

 

「私がズタボロに圧勝しても、文句言わないでよ? キルア」

 




リンリンのオーラ別相性診断
~特質系編~

特質系×強化系 ?点
物凄く個人によって左右される組み合わせ。
強化系は基本的に誰に対しても態度を変えないので、対象を特質系が気に入るか否かに左右される。
要は特質系が「こいつおもしれー」ってなるかどうか。あと個人的に気に入るかどうか。ある意味系統としての相性は無いに等しい、ニュートラル。

特質系×変化系 80点
安定して仲良くなりやすい。
変化系の気まぐれや嘘つき度合いにも、特質系は個人主義なので振り回され過ぎずに楽しんで付き合える。
逆に、特質系のたまに発動する謎なアホさにも変化系がなんだかんだで乗っかってくれるので、心地よい距離間で友情が長続きする。

特質系×放出系 80点
放出系の包容力が炸裂する。オカンとダメ息子or娘になりやすい組み合わせでもある。
特質系のバランスの妙な歪さが放出系からすると放っておけなくて、面倒を見ることになりがち。
放出系が友人に1人いると、特質系のメンタルが段違いに安定する。

特質系×具現化系 80点
互いに欠点を補い合える組み合わせ。
細部の詰めが甘くなりがちな特質系を具現化系がフォローしたり、冒険策に出づらい具現化系を特質系が引っ張ったり。
公私ともに相性のバランスが良い。

特質系×操作系 60点
一見マブダチに見えても実は互いに冷静に相手を観察している組み合わせ。
心友になることは少ないが、ビジネスパートナーとして組ませると異様に仕事の効率が上がる。
一方で対戦ゲームやらせると、系統別の組み合わせで一番空気が険悪になりやすい。桃鉄とドカポンはNG。

特質系×特質系 100点
あからさまに仲良くすることはないが、互いの解像度が異様に高い。「こいつわかってんじゃん」とかお互いに内心思っている組み合わせ。
別々に遊んでたくせに急に仲良く通信とか始めるタイプ。
ただし、なまじ解像度が高いからこそ、たまに不一致が起こるとそれに気づかず致命的アンジャッシュを引き起こしやすい。言葉にするの大事。

※注:あくまで傾向であり、実際の親密度を保証するものではありません。
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