汚い、さすがファデュイきたない 作:燃料切れ
古代遺跡と雪に覆われ、常に吹雪が吹き荒れるドラゴンスパイン。
その奥へと続く積雪の道の麓に、ファデュイ先遣隊の拠点があった。
「やってらんねぇ…」
あたりはすでに暗くなっている。昼とは比べ物にならないほどの寒さに、こうして暖をとっているとやはり火の力は偉大であると思う。
こんな時までわざわざ仮面をつける必要もなく、口から白い息が漏れる。
俺は普段のテンションと違い、非常に気怠げな声を漏らした。
「……どうしたんだ」
俺の隣にいた同期の岩使いがマスクで少しくぐもった声で尋ねてきた。
ことの発端は偵察部隊としてドラゴンスパイン派遣されたことである。
雪山の偵察という任務は常に危険と隣り合わせだ。過酷な環境で少しでも集中力をかけば死に直結する。
だからこそ岩使いは問いかけたのだ。
だが俺は答えない。しばらく自分の手の中にある銃を見つめ、不意に口を開いた。
「今日だけで既に5回だぜ?5回。任務中に襲われることがさぁ!!」
そう叫ぶと、岩使いは何も言わずにただ深くため息をついた。
そう、俺達はもう既に何度も命の危機にさらされている。ハッキリ言って異常だろ。
蛮族ことヒルチャールにバッタリ出くわして襲われ。
半壊しているはずの遺跡守衛とかいうロボが動き出し、撤退を余儀なくされたことも何度かあった。
「ふざけんな」と愚痴がこぼれるのも仕方ない。
しかしそれは炎銃で氷制の盾や棍棒を容易に破壊できたことや、別部隊と連携し(巻き込んで)少しの被害で解決できたのだ。
悪態をつく相手。それは襲われた後、休憩していたときに現れた四人組のことだ。
鬼気迫る表情で突撃してきた悪魔は、あいにくの雨で俺が使い物にならなかったのもあるが、それでも尋常じゃない強さであった。
俺と岩使いは辛うじて軽傷であったものの、部隊は壊滅状態に追いやられた。
「しかも紀章だけは謎の執念で奪い去っていくし…何がしたいんだアイツら!!」
「まぁ…確かに」
二人揃ってため息をつく。
・・・少し身の上話でもしよう。
俺の名前は浅野 明。気づいたらこのテイワット大陸にいた。
転生ってやつだな、記憶を思い出した時は驚きで夢なんじゃないかと疑ったぜ。
この大陸に七つある国のうちの一つ、稲妻という江戸時代の日本を感じさせる国に生まれ、今はモンドに住んでいる。
そして、いつのまにかファデュイという組織の先遣隊遊撃兵・炎銃という役職についていた。下っ端も下っ端だがな。
このファデュイってのは相当ヤバな組織で、各国で暗躍し、目的・利益の為なら犯罪組織やならず者とも手を組み裏で大っぴらにできないことをしており、まーーー嫌われてるな!!
住民から危険視されすぎて、町を歩けば白い目で見られるわ、警戒されるわで心が荒んだ俺に、上司がドラスパでの任務を斡旋してくれた。(シベリア並感)
街の騒音から離れて静かで綺麗な空気のもと、美しいオーロラや星空を眺めたり……
そんな感じでワクワクしてたのに「生きて帰れるといいな」と岩使いに言われた時の心情は最悪だったわッ
実際初日から最悪な目にしか合っておらず、こんな寒い中、テントで寝なくてはならない。俺は寒いのは苦手なんだ!
酒でも飲めば少しはあったまるか?
「うしッ 今夜はヤケ酒だ!!」
「……そうだな」
普段は面倒と断る岩使いも今回は珍しく同調してくれた。
ついでに酒を物資の中に紛れさせていたことについて許して……くれない?後で報告する? アッハイ。
▼
「おーお前さんらが酒を飲んでるなんて珍しいじゃないか」
酒瓶を持った瞬間、ピッタリ背後から声がかかった。間延びしたやる気のなさそうな声だ。
こうやって急に声をかけて驚かそうとしてくるやつには心当たりがある。
案の定。振り返るとそこには、箱を抱えたデットエージェントの姿があった。
デットエージェントとは、スネージナヤの運営する「北国銀行」の借金取りのことだ。ちなみにファデュイの中でもエリートである。
ただの尖兵である俺と違い装備が豪華なんだよなぁ……鎌みたいな武器かっけーなぁ。
……いやいや! 俺の武器の銃だってカッコいいぞ!!
メンテナンスは欠かさず行なっているから一度も壊れていない。相棒みたいなものだ。
「心臓に悪い……」
「・・・面倒が増えた」
「まぁまぁ、そういうなって、わざわざ紀章を渡しに来たんだから」
と言い、デットエージェントは紀章が入っているらしい箱を椅子代わりにして座った。
そして、どこからともなく酒瓶を取り出し飲み始める。デットエージェントは透明になることができる。どうやら酒を隠していたようだ。
昔、酒は死んでも隠し通すと、わけわからんことを話していたが……今でもバレてないのかよ。
いやそれよりも今はこの状況の方が意味わからない。
「ここはモンドだろ? 璃月配属のお前がなんでここにいるんだ?」
「なぜ紀章を持っている」
「てか勤務中なら酒を飲むなよッ!」
「能力の無駄遣いだ」
立て続けに問うとデッドエージェントは笑いながらこう言った。
「いやーなんか知らんが上司から渡されたんだよ。最近噂の旅人が追い剥ぎするから補充しとけって」
えっ誰それ知らない。だがデットエージェントの物言いから夕方出くわした金髪野郎でまず間違い無いだろう。
「因みに明日も来るらしいぜ? 良かったな、また飲めるぞ」
と不穏なことをぼやき、へへへ…とシニカルに笑う。今は仮面を外しており、あらわになったニヤついたその顔が、より神経を逆撫でする。
疲れを癒すはずが、憂鬱になってくる。岩使いも同じなようで、顔を見合わせ誓う。旅人をぶん殴ってやろうと。
「しかも最近は旅人一行の中に「公子」様も居るらしいぜ」
公子――たしかスネージナヤの最高戦力である11人の執行官の第11位である。ゲーテホテルでルークの話を聞いたことがあるが、おおよそ人間とは思えない恐ろしい強さとのことだ。
その戦績は末端の俺でも聞いたことがある。
まじかよ、ていうか公子=サンも殴らないといけないってことじゃん。勝てるわけがないッピ!
うちの最高戦力の一人がパーティーにいるって旅人って本当さァ……(憤慨)
「一体どっちの味方なんだ……」
「あれじゃね? 抜打ちテスト」
「仕事やれてるかってか? ないない、そんなタイプじゃない」
どうやらその公子サンは戦闘狂のバトルジャンキーで信じられない強さらしい。
しかも水の神の目を待ってるのだという。元素力とかいう名前からして強い力を操れる相手に勝てるわけ無いだろ。いい加減にしろ!
神は死んだ。勝てる気がしない。
「明日ボコられるの確定してるじゃん……」
もう嫌だこの仕事……仕事?
思いつく、
「なぁ、ファデュイって仕事だよな?」
「まぁそうなんじゃないのか?」
「公子サンが来た時に辞表出せば辞められるんじゃね?」
「お前天才だろ」
そもそも嫌われてまでファデュイやる必要ないわな!!
消耗品扱いだし、ブラック企業も裸足で逃げ出す組織に居ていいことなんてないッ!
女皇の意志?知らないねッ!!(最低最悪)
普段であれば絶対に思いつかないであろうそのアイデア。というか思いついてもやらないアイデア。だがこの時の俺は酒と疲れのダブルパンチで精神が不安定であった。
岩使いは既に寝ており、ストッパーのいない酔っぱらい集団は止まらない。
その場の勢いで辞表まで書き、「どうせ辞めるなら」と一泡吹かせるために岩使いを叩き起こして計画を練る。その大騒ぎは地獄の様相を呈している。
しかし、その騒ぎは作業のため早く寝ることとなり、意外にすぐ終わった。
「ところでお前さん。さっきから何を握ってるんだ?」
「は? あぁ…ほんとだ」
デットエージェントに言われ、ふと手元を見るとがっしりとした何かがあった。
いつのまにか握っていたらしい退職届とデカデカと書かれた紙を開くと、そこには翠色の宝石ーー神の目があった。
「「…………寝るか」」
俺は目の前の出来事を全て忘れて寝具に潜った。