全集中で駆け抜けたい   作:夜桜百花

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立志編
トリップ


―なるほど、頭がいいな。

 

 呑気な自覚はある。でも、自分が死ぬ間際でも素直にそう思った。だって、鬼狩りに邪魔されることなく人を喰えちゃうもんな。

 人はどうしようもない状況に直面すると、全てを諦めてしまうのだろうか。数瞬先の己の死を察しながらも動けずにいる私に対して、眼前に迫る鬼はにまりと笑い尖った爪を大きく振り上げた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 私自身は、どこにでもいるごくごく普通の社会人。今日も遅くまで仕事をして、帰路についたところだった。

 なんてことのないいつも通りの帰り道。曲がり角も、歩きながら見える景色も、すれ違う会社員だっていつもと同じ日だった。冷凍保存しておいたカレーでも温めて食べるかー、そんでお風呂入ったら酒飲みながら漫画の続きでも読むかーなんて考えながら歩いていた矢先の事。

 

 空間の亀裂?とでもいうのかな?漫画に出てきそうな、アニメでバトルシーンとか能力者が使ってそうな、つまるところそんな感じの裂け目が突如目の前に現れた。

 そんなの、当然立ち止まるじゃん?まじまじと眺めるじゃん?こちとらルーチン化された日常に慣れきっている凡人だ。急に想定外の出来事起こるのやめてほしい。嘘、思考停止の中にちょっとわくわくは混じっていた。

 そしたら裂け目からにょっきりと飛び出してきた手によってその中に引っ張り込まれ、気づけば山の中。何言ってるかわかんない?大丈夫、私もわかってない。

 

 アスファルトに覆われた街中では感じることのできない少し湿った柔らかい土の感触と、近くに滝でもあるのか、マイナスイオン漂う水の音。そして目の前には、もんのすごい牙と爪を持ったいかにも鬼って感じの化け物。必然的に最近ドはまりしている漫画を連想した。

 そう、鬼滅の刃ね。もはや国民的漫画にまで成り上がったあの作品に出てくる鬼とビジュアルが全く同じだった。

 

 …というか、本当にビジュアルが同じ。つまり、3次元にアニメデザインの人(鬼?)的な奴が居るって事。

 もうね、パニックだよね。驚きのあまり表情筋は仕事するのを放棄したみたいで真顔のままだけど。現実なんてそんなもんよ。私はリアクション芸人ではない。アドリブはノーセンキュー。

 

「何回やっても驚きだよねぇ。血鬼術で異空間から人間を連れ込めるなんて」

 

 あ、喋れるんですね鬼的なあなた。イケボですね。具体的に言うとCV.中●悠一って感じ。通りすがりのモブ鬼にしておくには勿体ないね。

 …というか、血鬼術って仰いました?いよいよ鬼滅の刃的な世界観じゃん。どこのなろう系小説?私トラ転もしてなければ特別な能力の付与もされてないんだけど。チート能力とか貰えないの?

 

「…へ?」

 

 私の口から間抜けな声が漏れ出た。人間は理解の追い付かない出来事が起こると身体が動かなくなるらしい。

 しかし身体はフリーズしている一方で、頭は他人事のように冷静にこの状況を分析している。鬼の呟いた言葉と今の私の状況。何となく読めてきたぞ。オタク察し良い。

 

 つまり、この鬼はこの世界と私の住んでいる世界を断片的に繋げる血鬼術を持っているのだ。どんなチート能力だよ。そして繋がった先の異世界(私の住んでいる世界)には鬼は存在しない。平和ボケした人間ばかり。

 それならその能力を利用して異世界から人間を調達すれば、簡単に人間を喰らうことができる。この世界で人間が消える訳でもないから、噂にもならず鬼狩りが来ることもない。そうして着実かつ安全に力を付けることができる…と。

 

 考えたな。周囲にはセーラー服やジーンズなど、鬼滅の刃の世界観にはそぐわない服が散らばっている。もしかしたら、最近ニュースで報道されていた失踪事件はこの鬼の仕業なのかもしれない。そして、散らばった服の持ち主の末路はおそらく私の末路でもある。

 勘の良いオタクは嫌われるし死ぬよ。今の私みたいに。QED、証明完了。

 

「別世界の人間でも、人は人。喰えば力になるでしょ。悪く思うなよ、平和な世界の人間」

 

 ああ、私、死んじゃうのか。せっかく大好きな漫画の世界に来れたかもしれないのに。助けてくれよ炭治郎。そして呼吸を教えてくれ。鬼滅キャラとの絡みを見せてくれ。私は壁になるから。箱で推してるんです。

 …なーんて、さすがにご都合主義すぎるだろうか。完全な現実逃避だ。死ぬ前に少し妄想するくらい、いいじゃない。腰が抜けてて立ち上がれないんだもの。

 きっと殺されていった人たちも、こんな気持ちだったのだろう。日本の経済を救えても、モブ1人の命は救えないんだよ。

 

 「そんじゃ、お命頂きまーす」と、軽いノリで鋭い爪が私に振り下ろされようとするその瞬間だった。殺そうとしてくる鬼にくぎ付けだった私の目が、なぜかその左後方に向いた。なぜだろう、そこを見ないといけない気がしたから。

 

 闇夜の向こう、暗闇に少し慣れてきた目を凝らすと、そこには老婆が居た。黒地に濃紺の霞がかった上品な着物を身に纏った老婆だ。

 音もなく、しかし素早く背後から鬼に近付いて来ている。どう考えても老婆の動きではない。忍者か何かか?年季を感じさせる柔らかな皺を湛えたその顔からは何も表情を読み取ることができない。

 瞬きも忘れて見つめていると、一瞬目が合った。しかし老婆は意に介さず鬼に視線を移し、刀を構える。唇がわずかに動いた気がした。

 

闇の呼吸 壱ノ型 暗箭傷鬼(あんせんしょうき)

 

 そしてその刹那、瞬きする間もなく鬼の首は落とされた。

 

 鬼が自分の音もない敗北に気づいたのは、その頭が地面に落ちてからだった。胴体はズシャリと音を立てて私の目の前に倒れ伏す。

 驚いた表情で老婆と自身の胴体を交互に見、静かに灰になっていった。ちなみにCV.中村悠●の美声は聴けなかった。

 

「間に合って良かったよ。怪我はないかい?」

 

 斬った鬼には興味もないといった様子で、老婆は私に話しかけてきた。濃紺の刀身に付いた血を軽く一振りして振り払い、納刀する。かっこいい。

 

「はい…。助けていただき、ありがとうございました」

 

 脱力しながらも、丁寧に礼を述べた。緊張からか、私の喉から発せられる声はいつもよりも少し高い。

 

「お嬢ちゃんみたいな幼子が、こんな山の中で何をしていたんだい?見たところ、変わった風体の着物も来ているし…」

「へ?!いやいや、幼子なんて年では…え!?」

 

 成人してからというものの年齢確認をされた事なんて一度もない、年相応の顔面であると自負しているのに、この人は何を言っているんだろう…?

 

 そう思いながらふと自分の胸元を見て、愕然とした。明らかに着ている服が大きくなっている。否、私が小さくなっているのだ。

 服のダボつき具合を見るに、12、3歳くらいだろうか?中学生の頃の体躯そのままだ。先ほど声が高く感じたのも、体が幼くなったからかもしれない。ヤダ~工藤●一じゃーん、と私の中のおちゃらけ担当な私が声を上げている。

 狼狽している私を見てしばし逡巡した後、老婆は「とりあえず私の住んでいる屋敷に来なさい」と言ってくれた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 案内された屋敷は、一般人には到底住めないような豪邸だった。イメージでいうなら蝶屋敷。それを更に昔ながらの家屋にした感じと言いますか。要は日本伝統の武家屋敷的なでかい家だ。老婆の身なりの良さからしてお金持ちであるは何となく想像がついていたけど、ここまでとは。

 

 老婆の名は、明暗菊子(あけくらきくこ)というらしい。

 真っ白な髪に年季の入った皺。一見どこにでもいるおばあさんだけど、眼光だけが柔らかな物腰とは不釣り合いすぎるくらいに鋭い。そして時折ちらりと見える腕の筋肉が明らかにパンピーのそれじゃない。

 私がこことは別の世界から来たことを何となく察したのだろう。丁寧なもてなしの後に、鬼についてや、鬼狩りについてをこれまた丁寧に説明してくれた。菊子さんの人の好さが伺える。

 

 そして、「漫画で読んだので知ってます」と言うわけにもいかずに黙って話を聞いていたが、やはりこの世界は鬼滅の刃の世界で間違いないようだ。

 鬼滅の刃の漫画を読んでいた事は伏せたうえで先ほど私の身に起こった事、私が異世界から来たという事を話すと、驚きこそしたものの、菊子さんは妙に納得がいったという表情で頷いていた。

 オタクよりも察しの良い人だ。この年齢で鬼を斬ってる事からも考えてかなりの腕前の人、なんなら柱だったんじゃない?的な予想を立てているが、全集中の呼吸のように通常は使えない技能を使える人は、アブノーマルな事態にも免疫があるのだろうか?

 

 それよりも、私の方が驚きっぱなしだった。

 考えても見てくれよ。異世界に居る、それだけでも仰天モノなのに私の身体ときたら、コ●ン君よろしく縮んでしまっているのだ。あいにく私はアブノーマルな展開に免疫のないパンピーだ。これさっきも言った気がする。

 

 身体が若返ったのは、異なる時代の異世界にトリップしてしまった弊害だろうか?確か鬼滅の刃って雰囲気メインで歴史関係は重視されていないけれど、時代背景的には大正時代だったよな?もしそうなら、受精卵とかになってなくて良かった。神様本当にありがとう。

 そして鏡を見てこれまた驚いたのが、私の見た目が鬼滅の刃の世界観に違和感のないものになっていた事である。しかもかなりの上方修正。少年漫画っぽくデフォルメされた顔立ちに、本来こげ茶がかっていた瞳は、深いネイビーを湛えている。黒髪はそのままだが、肩より長いロングヘアーの鏡に映る私の顔は、どう見ても美少女の部類だ。

 

 これもこちらの世界に無理やり渡らされた影響だろうか。要するに、今の私の外見はいかにも鬼滅の刃にキャラクターとして出てきても違和感のないものに作り替えられているということである。

 そりゃあ、アニメキャラが3次元に存在する世界で私だけ元の世界の見た目だったらシュールだけどさ、なんというご都合主義なのであろうか。

 ああ、ますます殺されなくてよかった。神様、菊子様、ありがとう。

 

 そんなことをぼんやり考えていると、頭の中で話を整理し終えたらしい菊子さんが、申し訳なさそうに話しかけてきた。

 

「なるほどね…。あんたには申し訳ないことをしてしまった。助けるためにやむを得なかったとはいえ、あの鬼を殺したことによって、あんたはもう帰る手段を失ってしまったという事になる」

「いいえ、助けていただいたのに、感謝こそすれど恨むような事はありません。だけど、これからどうすれば良いかが分からなくて…どこか住み込みで働けるような場所はありませんか?」

 

 いや、本当にどうしよう?この世界では私は戸籍もないし職もない、身元不明のプー太郎だ。

 そして元居た世界に帰れないとなると、向こうでは私は新たな行方不明者としてニュースに取り上げられるのだろう。冷静に考えるとやばい。仕事どうしよう、家族どうしよう。恋人は居なかったけど…。

 現実から目をそらし、そこらへんで野垂れ死ぬくらいならオタクとして生きて死にたいから蝶屋敷とかに紹介してくれないかな?と下心丸出しの返事をすると、予想外の言葉が返ってきた。

 

「そうだねえ…その前に一つ聞きたいのだが…。先ほどから気になっていたのだが、あんた、鬼に斬りかかる私を捉えていたな?私の技は一般人にはとても反応できるものではないのに、なぜわかった?」

「…なんとなくです」

 

 くそう!恥ずかしい!『お前、ただものじゃないな?』的な雰囲気で言われたのに、その答えがただの勘だなんて!!すいません!私ただの一般人!周りに流されながら学業を修め、辛うじてそこそこまともな会社に勤められているだけの、正真正銘のただものです!

 勘が良いのは事実だ。昔から、友人に恋人ができた事や、初対面の上司が不倫している事がなぜかわかったりした。何となく嫌な予感がして避けた電車が後日大事故を起こして新聞の一面を飾っていたこともある。

 流石にその時は度肝を抜かれたが、どのエピソードも、観察力があるとかラッキーだったで終了する話だ。怪我した回数だって、不運に見舞われた回数だって数えきれない。

 というか、ほんとに勘だけで生きていけているならそもそも鬼に攫われてこんな所にいない。まじまじと空間の裂け目を観察した挙句即死エンドまっしぐらなんてせずに、おうちへ向かってまっしぐらしていただろう。

 

「いや、多少の勘の良さで捉えられる技じゃないんだよ、闇の呼吸壱ノ型は。もしあんたの言っている事が本当だとしたら、それは紛れもない才能だ」

「へ??いやいやいや、私はそんな大層な人間じゃないですよ。だいたい、私の勘が才能だっていうなら、鬼に異世界へと引っ張り込まれることは無かったんじゃないですか?」

 

 私がそう言うと、菊子さんは首を捻りながらも答えてくれた。

 

「おそらく、元来持っていた素養が命の危険を感じた事で開花したのだろう。…私は、鬼狩りの育手をしていてな。普通の職を紹介する事もできなくはないが、もしもあんたが望むなら、この技を継承する事もできるかもしれない。どうだい?」

 

 おいおいおいおい。マジか!どうせ私では呼吸を使って~とか無理だろうな~とか思っていたけど、もしかして私も鬼殺隊に入れちゃったりします??オタクの夢、鬼殺隊士になれたりします??

 しかも「闇の呼吸」とか言ってましたよね?なにそれ超絶厨二心くすぐるじゃん!オリジナリティ溢れちゃってるじゃん!原作に無かった呼吸じゃん!!そんなかっけー技が使えるようになっちゃったりするんですか??そうと来れば、やらねえ理由がねぇってもんよぉ!!!(ここまで脳内ノンブレス)

 

「…っ!やります!やりたいです!お願いします!」

 

 食い気味に弟子入りを申し込むと、女の子が大喜びで刀を振るいたがるとは思っていなかったのだろう、多少面食らった顔をした後に菊子さんは笑い出した。

 

「そいじゃ、これからよろしくね。**」

「よろしくお願いいたします!師範!」

 

 …って感じで菊子さんこと師範と出会ったのが3年前の事ですわ。いや、あの時の私、マジで修行舐めてた。だいたい、炭治郎の修行シーンだって結構割愛されてたもんな。パパっと呼吸とか使えるようになると思ってたわ。すみません。

 予想通りというか、案の定師範は元柱だった。柱稽古のシーンからも想像がつくだろうが、元柱であるという師範の修行はえげつない。毎日「あ、今日死ぬんだな」って思った。というか実際何回か三途の川見えた。

 

 始めの修行は、ひたすら基礎体力を向上させる事と、素振りをして刀を握る感覚を身に着ける事。剣道部も泡吹いて倒れるんじゃねえかってくらい、素振り素振り素振り。当然ながら手のひらの皮はずる剥けて閲覧注意状態になった。

 そして山登り。これは炭治郎の修行を想像してもらうといい。まんまその修行だ。罠が殺しにかかってくる。平気で登山ルートに崖やら滝が含まれている。そして時たま師範の仕掛けた罠が作動して岩が降ってくる。死ぬわ。

 

 この修行によって、第六感で事前に罠を察知する事ができるようになった。というかできなかったら死んでいた。屋敷に帰ってきたら師範と一緒に呼吸のトレーニング。ラジオ体操でいう深呼吸の30倍速と思っていただけるといい。肺が死ぬ。

 本来は食事の用意とかって弟子がするもんなんだろうけど、体は10代に戻っているとはいえ、運動なんてまともにしていなかった現代っ子が超人的身体能力を身に着けようとしているんだ。そんな余裕はとてもなかった。炊事や家事は3人のお手伝いさんと、あろうことか師範の娘さんでこれまた元柱だという、千代子さんが担当してくれていた。

 師範代、元柱、姉弟子…そんなすんごい人に家事をさせるなんて申し訳なさが半端なかったが、代わろうとしたら、千代子さんが憐れむような表情で「いいのよ」って言ってくれるもんだから、お言葉に甘えることにした。師範の地獄稽古を知っているからだろう。時折飴玉をくれた。優しい。

 ごはんとお風呂も意識朦朧としながら済ませると、髪も乾ききっていないまま気絶するように眠る。その繰り返しで初めの1年は過ぎていった。辛いとか考える余裕すらなかった。ただただ、毎日必死だった。

 ちなみに余談だが、ありがたいことに風呂は毎日入らせてもらうことができた。大正時代って毎日お風呂にはいれる人はあまりいないイメージだったけど。この世界特有の文化なのか、はたまた師範がお金持ちだからなのか、町から離れた屋敷と山以外には殆ど行った事のない私には、わからなかった。そんな考察すらする余裕がなかった。

 

 2年目に入ると、徐々に組み手をしてもらえるようになった。主に師範、時々千代子さんが相手だが、2人ともどちゃくそ強い。

 当然だ、隊士ですらない私に対して元柱が相手だなんて、難易度ナイトメアもいい所なのだから。つーか動きが見えない。手加減してくれているはずなのにこれである。泣きそう。

 ただ、ここで驚いたのだが、動きが全く見えていないのになんとなく師範がどの方向から打ってくるのかがわかるようになっていた。師範が言っていた、勘が良い…第六感の才能というのはこの事かと、自分に感動を覚えた。

 だって、炭治郎や善逸、伊之助やカナヲは五感の一部がすごく鋭い。それと同じような才能って事じゃん?!もう私、漫画の登場人物だったら立派なメインキャラ候補でしょ!やっぱり私はなろう系だったか…とか思っていたら、したたかに顔面に竹刀を打ち付けられた。どうやらなろう系ではないらしい。

 2年目の半分が過ぎる頃、初めて呼吸が使えるようになった。師範や千代子さん、お手伝いさんたちまで大喜びしてくれて、その日はちょっとしたパーティーになった。

 私も、これまでの努力が実り始めている実感と、それを心から喜んでくれる人たちがいる嬉しさで思わず泣いてしまった。

 

 私は本当に幸せ者だと思った。もちろん、元の世界に置いてきた両親や、友人たちを思い出さないわけではない。でも、だからこそ、異世界から飛ばされてきた得体のしれない私を家族のように思ってくれる人たちがいる事がありがたかった。

 初めは漫画で見た技をかっこよく使いたいだけのオタク的好奇心だったが、この頃には師範たちの期待に応えたいと心から思うようになっていた。

 

 …というところでダイジェスト終了。

 この世界に来てから3年経った今日、私は師範から「教えられる事は全て教えた」と言われ、鬼殺隊の最終選別を受けるべく藤襲山に向かうところである。

 師範はわざわざ鬼狩りにならずともいいと言ってくれたが、何より私が鬼殺隊に入りたかった。それは原作キャラと会えるかもという憧れもあるし、師範の名に恥じぬ弟子でいたいという気持ちがあったからだ。

 3年間の修行の間に現柱の話や鬼殺隊の話をそれとなく聞いたりしてきたのだが、どうやら今の時間軸は原作が始まるよりも前のようだ。つまり、鬼殺隊に入れば見知った人物に会える可能性が高い。原作キャラと共に師範から教わった呼吸を活かして戦う事が出来ればどんなに素晴らしいだろうと思う。

 

「**、今日まで本当によく頑張ったね。あんたなら大丈夫」

「師範…。本当に、本当にありがとうございました。絶対に合格して帰ってきますから」

 

 玄関先で改めてそう言われ、感極まりながらも元気よく返事をした。師範はそれでも少し心配そうに、私に尋ねる。

 

「もちろんだよ。ちゃんと刀は持ったかい?」

「はい!」

「全集中の呼吸・常中は?」

「寝ててもできます」

「道はわかるね?」

「え~と、たぶん…最悪勘で何とかなります」

「そんなことに才能を使うんじゃないよ」

 

 私のおちゃらけた返答にくすくすと笑った後、師範は最後にこう尋ねてきた。

 

「死なない覚悟はもったかい?」

「…ばっちりです!!」

 

 師範は時折こうして訪ねてきた。私はこの言葉が結構好きだ。最後まで生を諦めるな、強く生き抜けということなのだろう。師範の深い愛情を感じる言葉だと思う。

 

「それなら問題ないね。必ず帰っておいで」

「はい!行ってきます!」

 

 こうして私は屋敷を後にした。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 歩き続けて数日。藤襲山の最終選別場所にたどり着いた。

 元の世界の私なら数日筋肉痛で動けなかっただろうが、3年の修行を終えた私には何てことない距離だ。全集中の呼吸も常中でばっちり。何なら走ってもよかったけれど、師範から聞いていた選別の日程的にベストなペースで歩いてきた。数か月ぶりに屋敷と山以外を歩くのでゆっくり楽しみたかったとも言う。

 ちなみに、今の私の服装は青と黒の袴に編み上げのブーツといったものだ。袴には何とか修行に差し支えがないくらいに慣れることができたが、草履や下駄だけはどうにも馴染む事ができず、見かねた師範が用意してくれた。本当に感謝しかない。

 真っ黒な髪は後ろで1つの三つ編みにしている。白地に紺色のグラデーションがかったリボンは出発の際に千代子さんがくれたお守りだ。

 長い髪は修行に邪魔だが、毛量が多いせいでショートヘアにすると悲惨な事になってしまうため、今まで仕方なしに伸ばしていた。だけどこの時初めて伸ばしていて良かったと思った。三つ編みにしているのはどうせなら大正浪漫を感じたいのと、あとはなけなしの乙女心というやつだ。元の世界の服や荷物は、明暗邸に置いてきている。閑話休題。

 

 最終選別場所で、私は更に神様に感謝した。

 

「た、た、た…」

「?」

 

 そう、鬼滅の刃の主人公、竈門炭治郎その人が居たのだ。原作では初期でしか身に付けていなかった水色の着物に、お面を付けた状態で。可愛い!尊い!ありがとうございます!!

 つまり、この世界の時間軸は、丁度原作が始まったところ、という事だ。淡い期待はしていたが、まさかこうも期待通りに行くなんて…。という事は、ここで選別に残れば私ってかまぼこ隊の同期じゃん!俄然燃えてきた!

 

「君も選別を受けに来たの?」

「う、うん…」

 

 そう考えていると、ずっと見つめられている事に気づいた炭治郎が話しかけてきた。

 性格も原作通り。わかってはいたけど、原作の登場人物に初めて会ったことで、改めて鬼滅の刃の世界であることを実感する。そして初対面に関わらず凝視している不審者に話しかけてくれる炭治郎、聖人である。

 

「そうなんだ!俺、竈門炭治郎!お互い頑張ろうな!」

「わ、私は明暗**。絶対に生き残ろうね!」

 

 そう言うと、炭治郎はにかっと笑って手を振っていった。ま、眩しい…。これが主人公属性ってやつか。その眩しさで私、灰になりそう。

 明暗という名字についてだけど、師範に弟子入りした際に養子縁組もしてもらっていた。なんといってもこの世界では私は身元不明の人間。この先、生きていくにも戸籍が必要であるとの事だった。いや、マジで何度でもいうけど神様かよ師範。

 ちらりと辺りを見渡すと、善逸や伊之助、カナヲに玄弥も居た。話しかけたいけれど生死を懸けた試験前にマブダチになるのは厳しいだろうし、取り敢えずは保留かな。でもテンション上がってきた。頑張ろう。

 

「この中で七日間生き抜く。それが最終選別の合格条件でございます。では、行ってらっしゃいませ」

 

 3年前だからうろ覚えではあるものの、聞いたことのある台詞がそのまま紡がれた。なんとしても生き残ってやる。

 よし、と心の中で気合を入れて、私は山の中へ入っていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 この世界の時間軸が原作準拠である事に確信を持った時点で、私はある覚悟をしなければならなかった。

 それは、自分がこの世界の未来を変える覚悟である。

 主要キャラたちと同期という事は、物語の根幹にどうやっても関わる事になる。だけど、かまぼこ隊を眺めることができる夢の切符を前にして今更身を引く気はさらさら無い。

 それに、物語を変えることができるという事は、死んでしまうはずの人物を助けることができるかもしれないという事である。

 

 煉獄さんが死んだ時…ぶっちゃけ泣いた。原作知ってたくせに映画館でもまた泣いた。その後漫画を読み返してまた泣いた。あの悲劇を防げるかもしれないのだ。だが、それによって別の人物が死ぬ可能性も生まれてくる。

 なんにせよ、私が関わることによって物語がどう転ぶかわからなくなってくるという事だ。熱心に修行したし、強くなったという自信もあるが、何が起きるかわからない生死の狭間を潜り抜ける世界だ。足手まといにはならないようにしないと。

 

 そんな私の思考は、びりびりと感じる「嫌な予感」によって遮られた。…来る。静かに呼吸を整え、刀に手をかけた。鬼の討伐は初めてだ。緊張で少し汗がにじむ。

 いかにも、といった風体の鬼が舌なめずりをしながらこちらへ歩いてきた。

 外道だな。第六感がそう告げる。何人も喰ってきて、罪悪感などかけらも持っていないのだと直感的に理解した。慈悲はない。同じ人間だったと思ってはいけない。

 

「…人間か。丁度腹がh」

 

闇の呼吸 壱ノ型 暗箭傷鬼(あんせんしょうき)

 

 鬼は首が地面に落ちてからも斬られたことに気づかず、そのまま灰になっていった。

 

「うーん!初討伐!!」

 

 闇の呼吸は全部で9つある。それらの殆どは斬り裂くその時まで音を発さず、見る者に影や暗闇を見せる。

特に壱ノ型は基本中の基本であり、その動きは訓練されたものでなければ音のない影が迫るようにしか見えないのだ。師範があの時、なぜ捉えることができたと驚いていた理由も今ならわかる。

 それにしても、中々かっこよかったんじゃないか?今の私。これをやりたいが為に3年間頑張ってきたってモンよ。

 1人で悦に浸る。視聴率は0である。寂しい。気を取り直して次へ向かうことにする。

 

 試験から5日ほど経過したと思われる。断定できないのは、太陽の昇った回数でしか時間を把握できないからだ。初日は前日に泊まった宿で貰ったお弁当を食べたが、それからはガチガチのサバイバル生活だった。おなかを壊したくないので水は煮沸してから飲む、食料は主に木の実。

 こんなサバイバル能力、絶対鬼狩りに必要ないだろ。もうちょっと人道的かつ合理的な選抜方法があると思う。そして何より、寝ている時にも容赦なく襲ってくる鬼。やめろ私は寝起きが悪いんだ。八つ当たりで、一番苦しむと言われている陸ノ型を手当たり次第に放ったのは少し反省している。

 あと2、3日で試験も終了だ。終了の合図に気づけるように、私は山の入り口付近に身を潜めていた。

 HUNTER×H●NTERでも言っていたな、そういえば。試験終了間近の受験生は元の入り口に多く集まると。さすがだ冨●義博。できれば私が異世界トリップする前に完結してほしかったよ…。

 

「猪突猛進!!!猪突猛進!!!」

「うぇぇええぇえ?!」

 

 寂しさのあまり1人で視聴率のない回想をしている時だった。そんな叫び声が聴こえたと思った瞬間、上から猪の被り物をした少年が降ってきた。

 木に登ってたんだよ?私。なんで更に上から降ってくるわけ?どんな身体能力してるわけ?当然私は耐えきれずに少年もろとも落ちる。

 

「いっつつつ…」

 

 痛…お尻打った…。すごいダサい落ち方してしまった。

 

「なんだお前!!鬼か??!」

「ハァ!?どう見ても可憐な女の子でしょうが!!!って…!!!」

 

 失礼極まりない発言に思わず言い返してしまったけど、伊之助じゃん!!

 山に入ってから誰にも会わなかったのにこんな形で会う事になるとは…。ぶっちゃけ5日間誰とも話していなかったから嬉しい。原作キャラという事抜きで嬉しい。たとえそれが酷く無礼な出会い方でも。

 

「お前、強いな!俺の名は嘴平伊之助!手合わせ願おうか!」

「私は明暗**…って…え??」

 

 な ん て 言 っ た ?

 

獣の呼吸 参ノ牙 喰い裂き(くいざき)

 

 なんか不穏な言葉が聴こえた…と頭が理解する前に、左前方から伊之助の刃が飛んできた。反射的に刀を抜き、受け流す。

 

「ばっっっかじゃないの!?なんで鬼でもないのに斬り合いなんざ…!」

 

 刹那、伊之助の持つもう一本の刀が向かってくる。ギリギリで首を逸らすことで回避した。

 

「いいっかげんに…しろぉ!」

 

 首を逸らした体勢そのまま、刀を振り抜き無防備になった伊之助の顎にサマーソルトキックよろしく、蹴りを放った。1回転は厳しいから足を蹴り上げただけだけど。

 結果は見事クリーンヒット。まさか返り討ちに遭うとは思っていなかったのだろう。伊之助はそのまま地面にひっくり返った。

 

「うぉ…女、お前やっぱ強いな…」

「女じゃない!**!これから仲間になるんだから、覚えておいてよね!」

「はぁ?!仲間だぁ?!」

 

 ああ、そうだった…。伊之助って初めの方、結構なサイコパスだったな…女の子踏みつけてたし。

 

「そ、仲間。持ちつ持たれつ、助け合う仲間」

「俺はそんなもん必要ないぞ!山の王だからな!」

 

 なるほど、イメージそのままの返答だ。少し楽しくなってきて揶揄うように諭す。

 

「そうかもね。伊之助強いもん。でも、そんな悪いもんじゃないよ?今ならクーリングオフあるからさ、お試しでいかが?」

「くーりんぐおふ?」

「そ。仲間が居て悪いこともないって事。例えば…こうやって囲まれた時とかさ」

 

 私がそう言うと、伊之助も気づいていたのだろう。黙って私に背中を預けてきた。あら、素直じゃん。お姉さん、素直な子好きよ?

 ギャンギャンと騒いでいた私たちの声を聴きつけて寄ってきた鬼に囲まれる。まあ当然ではあるだろう。その数は5匹。普通に考えれば鬼狩りもまともにしたことのない隊士候補生2人が相手にできる数ではない。

 漫画には選抜中の伊之助は描かれていなかったが、私が居なかったらこうして騒ぎ立てることなく伊之助は物語通りに選抜を終えていただろう。もう、この時点で物語は変化している。迂闊な事は出来ない。なんとしても2人で勝ち抜いて見せる。

 

「じゃあ伊之助…死なない覚悟はできた?」

「生意気言うな女。俺は山の王だぞ」

 

 そう来なくちゃね。出会ったばかりだけど、守られている背中に妙に安心感を覚えた。

 一斉に襲い掛かってきた鬼に、私たちは同時に攻撃を開始した。

 

獣の呼吸 肆ノ牙 切細裂き(きりこまざき)

闇の呼吸 捌ノ型 羅刹ノ舞(らせつのまい)

 

 捌ノ型は素早く、かつ緩急をつけて動きながら斬りかかる技である。見た者からは、使い手の残像が幻影のように見えるという。鬼を倒すための技なのに鬼から名前を取っているのだから、皮肉だなと思う。

 どれが私なのかわからなくなったのだろう。混乱した鬼の首を後ろから斬り伏せた。まず、1匹。

 ちらりと伊之助を見やると、丁度3匹同時に倒したところだった。すごい。私も負けないぞ。

 

「おい!女!後ろだ!」

「!?」

 

 しまった。伊之助の正面に居た鬼の一匹がこちらに回り込んでいたのか。

 振り返る間もなく、伊之助が「どけ!」と叫んだので、反射的に地面に伏せた。そのまま伊之助が頭上を走り抜ける。

 

獣の呼吸 弐ノ牙 切り裂き(きりさき)

 

 目にも止まらぬ十文字斬りが炸裂する。鬼はそのまま灰になった。

 

「どんなもんよ」

 

 フスーっと鼻息をさせながら、伊之助がこちらに歩いてくる。被り物越しでもドヤ顔してるのが分かるぞ。

 

「ありがと。助かったよ。…でも」

 

闇の呼吸 壱ノ型 暗箭傷鬼(あんせんしょうき)

 

 伊之助の切細裂きで首を捉えきれなかった鬼が再生して伊之助に襲い掛かろうとするところを仕留めた私は、伊之助に負けず劣らずのドヤ顔を晒した。フスーっと聴こえそうなくらいの鼻息を一緒に。

 

「…お互い様ってやつだね。どう?仲間も悪くないでしょ?」

「…まあ、子分にはしてやってもいいかな」

 

 そう言って伊之助はプイっとそっぽを向いた。あら、照れ隠し?可愛いな。

 そんなこんなで私は伊之助と少し仲良くなれた。万歳。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 7日が過ぎ、元の入り口まで戻ってきた。選別も終了の合図がされたので、山を下りてきた。炭治郎達も無事だ。よかった。生き残ったのは、私を含めて…あれ?8人?

確か、原作では5人だったよな?ということは、私の関与によって、ここで死ぬはずだった子が2人生き延びたという事か。全てに関与することは不可能だけど、それでも死ぬはずだった人の運命を変えられて少し嬉しい。

 でも、その他は特には変わらないな。炭治郎は残った人数が少ない事に愕然としているし、善逸は死にそうな顔してる。

 

 あの後私と行動を共にしていた伊之助は、試験にもいい加減飽きていたらしく、ようやっとの終了に大喜びだ。なんなら、とっとと隊士になるにあたっての説明を聞き終えて山を降りてしまった。

 オタク特有の緊張故にあの後は殆ど話せなかった私だけど、あっさり行かれると少し切ない。

 

 日輪刀の鉱石を選び、隊服の採寸をしてもらった。

 胸が強調されたデザインにされそうになったので、思い切り殺意を込めて睨みつけたら泣きつかれた。カナヲの採寸の時にはモンペのしのぶさんが居るからできなかったんだろうな。

 押しに弱い私は、胸のデザインだけは譲らなかったが、スカートのデザインには妥協せざるを得なかった。2X歳が合法でアニメ的ファッションをできる事に興奮していたとも言う。

 結果決まったのは、膝上10 cm程度の長さのタイトな巻きスカートだ。合わせ目の部分は深いスリットになっており、タイトでも動きやすい。学ランベースの中に和服要素も取り入れて、可愛いと思う。

 でも、これ構え方によっては太ももチラ見せでエロいな…。デザインは可愛いからいいんだけど、元の世界の私なら到底履く勇気の出ないミニっぷりだ。これを履けるのは、ひとえに今の私がアニメ美少女ルックスだからである。どうせなら堪能してやろう。大丈夫。カナヲだって隊服スカートだけど作中でパンチラさせてないんだから。

 鎹烏には黒曜と名前を付けた。厨二すぎるか?とも思ったけど、世界観が世界観だから(褒め言葉)、これくらいで丁度良いと思う。

 一通りの説明を聞き終えて解散した後、選別の運営らしき黒髪おかっぱの子供に歩み寄った。確か、輝利哉君だったかな?産屋敷邸の跡取りの。

 

「どうかされましたか?明暗様」

 

 淡々と尋ねられる。う、目の奥怖いな。怯むもんか。

 

「改めまして、明暗**と申します。私の身の上については、3年前に元闇柱の明暗菊子から伝えられているかと存じます。新米隊士の分際でおこがましいことは承知の上ですが、異世界から持ち込んだからくりの件で、御館様にご相談したいことがあると、言伝をお願いしたいのですが」

 

 師範は血鬼術によって迷い込んだ異世界人について、御館様に報告していた。この件は柱にのみ伝えられている機密事項なのだとか。だから、これだけでも十分伝わると思い、私はそう答えた。

「かしこまりました。じきに鎹烏を飛ばしますので」

 私の返答に、笑っているのか笑っていないのかわからない表情で輝利哉君はそう答えた。礼を述べると、私も山を下りることにした。

 

 歩く事数日。うーん、漫画で炭治郎の言っていた事、よくわかる。疲労が一気に来たし、隊服重い。せっかくだから道中観光でもしちゃおうかなんて思ってもいたけど、とてもそんな余裕はない。

 ちんたら歩いていると、後ろから黒曜にせっつかれる。というか、突っつかれる。

 

「カァァァ!おいこら早く歩け!」

 

 痛い。とても。

 やっとのことで明暗邸に戻ると、千代子さんがそわそわとしながら門の前で待ってくれていた。

 

「**!!!お帰りなさい!鎹烏からあなたが合格したって報告が来て、ずっと待ってたのよ!!」

「千代子さん!ただいま戻りました!!」

 

 思わず涙がこぼれた。いかんな、こっちの世界に来てから精神が肉体年齢に引っ張られている気がする。ただただ嬉しくて、出迎えてくれた師範たちに抱き着いた。その日の夕餉はすっごく豪華だった。

 

 数日後、刀鍛冶さんが明暗邸にやってきた。名は珠守さんというらしい。とうとう、私にも日輪刀が与えられる時が来たのだ。やべ、興奮するわ。

 ちゃんと色、変わるかな。千寿郎はいくら修行しても色変わりしなかったっていうし…やめてくれよ?今更適性が無いなんて言うの。もう私はかまぼこ隊を間近で眺め倒すって決めているんだ。というか、かまぼこ隊に紛れ込む気満々なんだ。

 おそるおそる刀を握ると、…刀の色は変化しなかった。なんてことは無く(よかった!ほんとによかったよう!!!)私の刀は濃紺の刀身に、切っ先だけ真っ白な刀になった。

 …なにこれ、超かっこいいじゃん。

 

「おめでとう、**。これであなたも、正真正銘の鬼殺隊員よ」

 

 千代子さんがそういって笑いかけてくれた。へにゃりとそれに笑い返す。そうしていると、別の部屋に行っていた師範が、羽織を持って戻ってきた。

 

「**。これは、うちの呼吸の使い手に代々贈られる羽織だ。持っていきなさい」

「師範…。ありがとうございます!」

 

 そう言って、さっそく羽織ってみる。白を基調に、袖口と裾が濃紺のグラデーションになっているその羽織は、以前に千代子さんがくれたリボンと同じデザインだ。羽織ってみると、想像以上に真っ黒の隊服に映えた。

 

「うわぁ…ありがとうございます。大事にしますね」

「それと、あんたに鎹烏の伝令が来ている。産屋敷邸へ来いってね」

 

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