全集中で駆け抜けたい   作:夜桜百花

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闇と雷

「そう言えば、**最近機嫌良いよな。なんかあったのか?」

 

 眠っている伊之助の頬をツンツンとつつきながら、善逸が何気ない口調で尋ねてきた。

 最近は、就寝前に炭治郎と伊之助の見舞いに来るのが日課になっている。禰豆子は先に炭治郎の病室へと向かった。個室に移されたため、こうして別々にお見舞いしなくてはいけないのだ。勿論炭治郎の病室も後で向かうのだが、私の勘がもうすぐ伊之助が目覚めると告げているため、こうして善逸とスタンバイしているわけである。

 

 獪岳と秘密の協定を結んでから、半月が過ぎた。

 互いの呼吸伝授を行うという話だったが、獪岳も私も日中は個人の訓練がある。加えて獪岳は任務もこなさなければならないため、本来なら眠っているような朝早くに早起きをして2人で指定の場所に待ち合わせ、特訓を続けている。まぁ、鬼殺隊全体が夜型生活だから朝早くって言っても7時とかだけど。健康的。

 他の隊士が皆眠っている時間帯に訓練をする事は、互いに都合が良かった。日中はお互い自分の訓練や任務があるからね。特に獪岳は呼吸を習っている事を善逸に知られるのがプライド的に許さないらしく、善逸にバレないように会う事を提案してきた。

 でも日中の訓練や食事、炭治郎たちのお見舞いなどなど、私は1日の殆どを善逸と共に行動しているわけで。そんな生活の中でバレずに獪岳との訓練時間を作るとなると真夜中か早朝が妥当なんだよね~。勿論音でバレない様に練習場所も考慮している。どんだけバレたくないんだよ獪岳って思ったけど黙っておいた。触らぬ神に祟りなし。

 

「ん~?最近知り合いと呼吸の教え合いっこしてるんだけどさ、教えてくれる人は可愛いし呼吸はカッコいいしでハッピーなのよ~」

 

 まず雷の呼吸、これがもう凄い。霹靂一閃だけでもカッコいいと思っていたけれど、他の5つの型もそれぞれ圧巻の一言に尽きる。そういえば原作では壱ノ型以外は殆ど出てこなかったもんなぁと思いつつ、目をキラキラさせながら獪岳が型を放つのを見ていたら、奇行種を見る様な目で見られた。

 そして獪岳の教えが良かったのか私が他の呼吸を扱う事にも慣れつつあるのかはわからないが、驚いた事に自分が以前よりも雷の呼吸を使いこなせるようになっている事に気付いた。勿論雷の呼吸のみをそのまま使うとコントロールが上手くいかないのだが、闇の呼吸を混ぜ合わせる事によって身体の負担も抑えつつ威力を最大限に発揮できるようになった。自分に合う様に呼吸を作り替えるってこういう事なのかと納得。少し前までチキュウダイスキ!をやっていたのが嘘みたいだ。

 それに、予想通りと言うべきか、獪岳には闇の呼吸の適性があった。彼は雷の呼吸と闇の呼吸双方に適性があったようだ。改めて見てみると、日輪刀もなんかそんな感じの色しているし、必然でもあったのかもしれない。

 

 そんな訳で、炭治郎以外は誰も使えなかった闇の呼吸の型を、獪岳はあっさり覚えてしまった。まだ半月しか経っていないのにもう肆ノ型まで使える。呼吸や剣術の下地が出来ているからこその成長の早さなんだと思うけど、私としては嫉妬を隠せない。これが才能の暴力か…と少し涙した。やっぱり獪岳には奇行種を見る様な目で見られた。

 そして、この間の練習終わりに御礼を兼ねて桃パフェを食べに近くのお店へ(無理やり)一緒に行ったのだが、これまた尊かった(語彙力)。

 原作通り獪岳は桃が好きらしく、店に引き摺って行って私の奢りで注文すれば、文句を言いつつも桃パフェをしっかりと完食してくれた。でもね、その食べ方がもう愛しいのよ。「なんで俺が食わねぇといけねぇんだよ」とか言いつつ抱え込むようにして食べてるし、好物を味わいたいと誰かに取られたくないがせめぎ合った結果なんだろうけど、物凄くデカい一口で頬っぺたいっぱいに頬張ってもぐもぐしてるし、そんで最後の数口は味わう様にチビチビ食べるし。なんていうか、好きなものを食べる子どもって感じ。尊すぎて尊死するかと思ったよ私…。勿論獪岳には奇行種を見る様な目で見られた。

 

 それに桃パフェ自体もめっちゃ美味しかった。高級品なのに、こんなに惜しみなく使っていいの!?ってくらいにジュレやアイスや生の桃をトッピングしてて、ホイップとカスタードとのマリアージュが半端なかったんですわ。炭治郎たちが元気になったら改めて4人で行きたいと思う。ちなみにこれを食べたの朝の訓練後だから昼前の話なんだけどさ、蝶屋敷でその後普通に朝食も食べちゃったよねぇ。カロリーが心配な今日この頃です。

 

「…とまあそんな訳でさ、もう尊みが深み侍で暴力的なまでの愛しさそしてキュンですって感じな訳よ」

「…そうかよ」

 

 雷の呼吸を習っているのは流石に伏せたが、そんな感じで教わった呼吸を自分のものにできてきている話やとある人物に闇の呼吸を教えている話、ついでに桃パフェの話なんかをオタク特有の気持ち悪い笑みを湛えつつ軽く話すと、どういう訳か善逸は拗ねた様にしてそっぽを向いてしまった。

 

 ん~今の話で怒る要素あった?善逸も呼吸習得がしたかったとか?あるいは私のキモオタな顔面が見るに堪えなかった?

 

「どしたの善逸、怒ってる?」

「別に」

 

 取り敢えず原因究明をするのが手っ取り早いと思って聞いてみるも、明確な答えはくれない。それなのに、あからさまに拗ねているアピールは継続中だ。どないせぇっちゅうねん。

 

「なんなのさ。言ってくれないとわからないよ?」

「別に。最近朝に**の音が聴こえないと思ったら、そんな事をしてたのかと思って」

 

 いかにも「こそこそしやがって」って感じで言われ、流石の私もムッとして言い返した。

 

「何よ、そんな言い方する事ないんじゃない?」

「事実を言ってるだけだろ。いいんじゃないですかねぇ?毎日幸せそうな音をさせて、幸せそうで何よりです」

「ハァ!?ほんと何に怒ってる訳!?」

 

 あんまりにも嫌味な口調で言われ、ついカッとなって声を荒げる。でも、私の身を心配して叱られた事は何度もあったけど善逸が今まで私に対して悪意を向けて来た事なんてなくて、ムカつくと同時に動揺と悲しさが胸の内から込み上げてきた。それが音でわかったのだろう、善逸も表情が曇る。喧嘩を吹っかけてきたのは善逸なのに、訳がわからない。

 

「うるせぇよお前ら…。腹減った…」

「「伊之助!!」」

 

 お互い言い返す事も出来ずに無言でそっぽを向き合う中、沈黙を破ったのは2カ月弱ぶりに目覚めた伊之助だった。ずっと眠っていたため、元来ハスキーな声は更に低くなっている。

 善逸とハモッた事に若干の気まずさを覚えつつも、時間帯は真夜中、自室に戻ってしまったアオイちゃんたちを呼びに行くには私が行くしかなかったので2人を置いて急いで病室を出た。知らせを受けたアオイちゃんたちが寝間着に上着を着ただけの姿で涙ながらに病室に急行して泣き始めた事で善逸との言い合いはそれ以上続く事はなかったが、心の中にしこりが残った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「おい、まだ紋逸と喧嘩してやがるのか?」

「おっしゃる通りです伊之助様…。もうね、しんどいです」

 

 ガツガツと病院食をかっ込みながらそう聞いて来る伊之助。本当にこいつは病人なんだろうか。病人は2カ月弱眠り続けて目覚めた数日後に、米2合は食べません。

 

 喜ばしい事に、伊之助の身体は全集中の常中によって回復力が向上した事と、2カ月近くぐっすり眠っていた事で、すっかり完治しているらしい。ただ、寝たきり生活で筋肉が衰えた事、今まで食事をしていなかった事を考慮して、数日は徐々に日常生活に戻る為のリハビリをするところから始めていくのだとか。

 

 …と言っても、大人しくじっとしている訳ないのが伊之助。病棟を走り回り天井を這い回り、アオイちゃんにしょっちゅう叱られている。

 いや、元気なのは凄く良いんだけどね?朝目覚めたら天井の伊之助と目が合った時があって、あの時ばかりは流石に叫んだわ。毒は効かないわ強靭な身体を持ってるわで、検診を終えたしのぶさんが「伊之助くんはミツアナグマと同じですね」って言ってたのが妙に印象に残っていたけど、ここにきてそれを実感している。本当にザ・野生児って感じ。というか毒が効かないってどういう事?ゾルディッ●家もびっくりの体質だ。

 

 むしろ健康な私の方が最近は周囲の人たちに心配されている。そしてその原因はわかり切っている。善逸に避けられている事だ。訓練はおろか、食事や炭治郎たちのお見舞いまで時間をずらして、とにかく徹底的に避けられている。更にどうやら私の音を聴き分けて鉢合わせないようにしているらしく、同じ屋敷に居るはずなのにここ数日一切彼の姿を見ていない。

 第六感で待ち伏せしようともしたのだが、善逸の聴覚の方がより広範囲かつ正確に察知できるため、待ち伏せが一切通用せずに撃沈した。冷静に考えたらわかる事だったと気づき更に落ち込んだ。五感が鋭いって本当にチートスキルだと思う。お前だって第六感があるじゃないかって言われるかもしれないけど、日常生活における汎用性の高さは段違いなんだよな。

 

 …という訳で、意気消沈している私である。そりゃそうでしょうとも、推しでもある大好きな友達に訳も分からずキレられて、その後に避けられて、それでも平気で居られる程私のメンタルは強くない。食事の時だけはおとなしくベッドに戻る伊之助の傍らに突っ伏し、どんよりとしたオーラを纏いながら伊之助に助言を求めた。

 

「ねぇ伊之助、どうしたら善逸と仲直りできるかな?仲直りっていうか、なんで善逸が怒ってるのかもよくわかってないんだけど…」

「俺もよくわからねぇよ。あいつはお前の事になるとほわほわしたりトゲトゲしたり忙しいからな」

 

 伊之助なら、もしかしたら善逸に何か聞いているかもしれないと思い尋ねてみるも、更に謎が増えただけだった。ほわほわはまだわかるけど、…トゲトゲ?私そんなに日常的に善逸に不快な思いをさせていたの?ずっと我慢していたの?我慢が限界を迎えた結果なの?…生きるのやめた方がいいかな?

 更に纏う空気を重たくさせた私に呆れたらしい伊之助は食べ終えた茶碗をお盆に戻し、ズベシと私の頭にチョップを喰らわせた。

 

「わかんねぇ事考えても仕方ねぇだろうがよ。それよりお前、飯まだなんだろうが。いいから行って来いよ。食うもん食わねぇと力が出ねぇだろうが」

「うぅ…それもそうか…。そうする…」

 

 確かに伊之助の言う通りだ。そもそも今の私は、獪岳との訓練も終えて本来なら朝食を取る時間なのに、イマイチ食欲が湧かずにふらふらと伊之助に会いに来ていたんだった。この後はいつも通りの訓練予定だけど、食べておかないと昼食まで持たないだろう。

 そう言って肩を落としながらも立ち上がりかけた私の腕を軽く掴み、伊之助はベッドからでも手が届く位に私の頭を下げさせた。そして頭をわしゃわしゃと撫で繰り回し、照れくさそうに口を開いた。

 

「さっさと食って元気出して来い。子分が弱ってると俺もなんつーか、モゾモゾするんだよ」

「親分優しい~好き~…」

 

 伊之助に心配させてしまった。元気を出さないとね。お返しに伊之助の頭をしっかり撫でてから、私は食堂へ向かうために手を振りつつ病室を後にした。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「俺たちの同期の獪岳って奴、偉そうだよな。な~にが「役立たずはすっこんでろ」だよ」

「だよなぁ。でも、雷の呼吸って壱ノ型が全ての型の基本だろ?偉そうにしてたって、壱ノ型だけ使えないって事は結局…なぁ?」

「それな。他の型が出来た所で大したことねぇよ。どうせすぐ死ぬだろ」

 

 気晴らしで食堂に来てもこれだよ、嫌になっちゃうな。料理が不味くなるでしょうが。

 最近獪岳がこの区域に滞在しているからか、蝶屋敷で獪岳の噂話を聞く事が増えた。それも大体は悪口。…まぁ、「役立たずはすっこんでろ」とか言ったら良い印象は持たれなくて当然なんだけどさ。食堂で食事をしつつ、隣のテーブルから聴こえてくるそんな会話をできるだけ耳に入れない様に務める。無心になって箸を動かしているうちに、話をしていた2人の先輩隊士は食事を終えて席を立った様だった。

 

 はぁ、やっと出てってくれたよ。悪口モブ先輩が食堂を出たのを察知して、心の中で安堵のため息を吐いた。もうね、推しの悪口を言う奴とか口開いた時点で死刑案件だけど、いちいち突っかかってたら鬼殺隊内で居場所がなくなるのも辛い現実。ただでさえ私の代は目立ち気味だし。余計な事はし過ぎると任務にも支障をきたす。…もう手遅れな気もするけど。

 

「テメェもう1回言ってみろ!!」

 

 食事を食べ終えて手を合わせ、食器を片付けるために席を立ちかけた時、食堂の外から聴き慣れた叫び声が聴こえてきた。周囲の隊士たちも気づいた様で、「喧嘩か?」「誰だ?」とかざわざわしている。嫌な予感がしつつも、食器を手早く返却して私も食堂出口に足を向けた。

 出口付近は野次馬でごった返しており、何が起こっているか確認できる場所まで移動するのには少し骨が折れた。ガタイの良い隊士たちの間を潜り抜けて最前列に顔を出すと、2人の隊士と取っ組み合いをしている金髪の隊士の姿。予感的中、善逸だ。

 

「訂正しやがれ!獪岳は弱くなんかねぇよ!!」

「善逸落ち着いて!先輩だよ!?」

 

 後ろから善逸を羽交い締めにする事で何とか先輩隊士2人組からひっぺがえす。会話から私たちの先輩にあたる事はわかっていたが、改めて顔を見るとどう見ても私たちより年上だ。蜜璃さんと同い年位だろうか。

 そんな2人に対してよくもまあ、1人で殴りかかれたな善逸。これ以上悪目立ちをしたらいよいよ任務にも支障をきたすようになるぞ。私たちの代は炭治郎の人徳だけでなんとかなってるんだから。…まあ、そもそも炭治郎が鬼連れ隊士で新米隊士なのに継子でってとこから、真っ先に目を付けられる原因にはなってるんだけど。

 

 そうして何とか善逸を抑え込んでいると、距離をとれた事で落ち着きを少し取り戻したのだろう先輩方が吠えた。わざわざ離れてから文句を言う辺り、よっぽどブチ切れた善逸に面食らったのだろう。

 

「なっなんだよてめぇ…あいつの知り合いかよ?鬼殺隊士の癖に基本の型すら使えないんだ。死ぬ奴に死ぬって言って何が悪いんだよ!?」

 

 前言撤回、悪目立ち上等だコラ。私の推しを悪く言う奴は先輩だろうが鬼だろうが許さん。

 

「天誅ぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 叫び声と共に放った飛び膝蹴りは、見事に先輩隊士2人の顔面にクリティカルヒットした。勿論決め台詞に深い意味はない。両膝をそれぞれの顔面に当てたため、もしかしたらスカートの中身が見えたかもしれないが…まぁ、衝撃で記憶も飛んでいるだろう。しらんけど。

 

「…**、俺が言うのもアレだけど、少しやり過ぎだろこれ」

「ホントに善逸が言うのもあれだね。でもこれくらい当然の報いだわ。同胞の死を願うなんて虫唾が走る事をする人が、入って1年も経ってない女隊士の攻撃すら躱せないなんて赤っ恥でしょうよ」

 

 わざと野次馬に聴こえる様な声でそう言ってやれば、「だせぇ…」とか「確かに…」とか小さく聴こえた。言い方は悪いけど、印象操作って結構大事。これで少なくとも善逸は突然先輩に殴りかかった癇癪持ちの隊士ではなく、大事な仲間のために怒った情に厚い隊士として彼らの記憶に残るだろう。

 取り敢えずけしからん先輩たちをこのままにしておいては、アオイちゃんたちに迷惑が掛かる。私としてはそのまま海に沈めてもいいくらいなんだけどね。そんなわけで、善逸と共に先輩を救護棟まで引き摺って行き、手当をお願いした。忙しい所に更に仕事を増やしちゃって申し訳ないと思う。後でお菓子でも差し入れしよう。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「上の階級の奴殴ったって?問題起こすなカスが。お前みたいなのが居るのは本当に恥だぜ」

「…」

 

 やっべ、喧嘩して以来数日ぶりの善逸じゃん。何話せばいいんだ…と思いつつ、先輩方を引き渡して救護棟を出た所で、獪岳と遭遇した。救護棟のすぐそばに訓練場があるから別段驚く事でもないんだけど、わざわざ獪岳が善逸に接触するとは思わなかったから予想外の一言に尽きる。そんな獪岳は、私には目もくれず、善逸を軽く睨みつけている。

 何か他に用でもあったのかと思いきや、彼はそれだけ言うと、スタスタと行ってしまった。善逸は言い返すでもなく、ただ唇を噛みしめて俯いている。

 やっぱりこの2人、放っておけない。私は自分も善逸と喧嘩していた事をつい忘れて、善逸に声をかけた。

 

「…善逸、正直に教えて。獪岳の事どう思ってる?」

「はぁ?…嫌いだよ。大嫌いだ」

「じゃあ、なんで獪岳の悪口を言われて怒ったの?」

 

 ここ数日まともに会話もしていなかったのに急に質問され、訳がわからないながらも善逸は素直に答えてくれた。それをいい事に更に私が畳み掛けると、少し気まずそうに眼を逸らしながらも少しずつ思いを話してくれる。

 

「…あんな奴らに獪岳の凄さはわからないから。あいつは嫌な奴だけど、誰よりも努力してるまっすぐな奴なんだ。修行から逃げ続けていた俺なんかと違って」

「そんな憧れてた兄貴を侮辱されたら、そりゃ怒るよね。…でもそれ、たぶん檜岳には伝わってないよ。私が介入するのはお節介もいい所だけど、2人ともちゃんと向き合うべきだと思うんだ。後悔する前に」

 

 私のお節介な発言に対して、少し鬱陶しそうな表情をしながらも善逸ははっきりと否定の言葉を発した。

 

「そんな事言われてできるならとっくにやってるよ。でも、あいつは聴く耳を持たない」

 

 まぁそうだろうなぁ。うろ覚えだけど、善逸の修行シーンで獪岳に桃投げつけられてた気がするし。何ならこの2人はまともにお互いの顔を見て話した事あるのかってレベル。やっぱり第三者が場を用意するのが手っ取り早いかなと思ったりする。

 

「…少しここで待ってて、絶対に獪岳を連れ戻してくるから。そしたら殴り合いでも何でもしな」

「…はぁ!?」

 

 よその家の兄弟喧嘩に介入するなんて、当人からすれば有難迷惑なんてモンじゃないだろうなと思う。これは完全な自己満足だ。…でも、この2人に不幸になって欲しくないから。そのためなら多少の無理強い程度、やってやる。

 私は善逸の返事も待たず、言うだけ言ってその場を後に走り出した。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ねぇ獪岳!!ねぇってば!!」

 

 勘を頼りに獪岳を探せば、訓練場の中でも一際人目につかない木陰にその姿はあった。真剣を使って素振りをしていた獪岳は、私の顔を見るなり更に眉間にしわを寄せた。

 

「んだよ、クソ女」

「クソは余計。…そんなに善逸の事嫌い?」

 

 私がそう尋ねると、獪岳の眉間の皺は更に深くなった。なんというか…顔に出過ぎ。ある意味似た者兄弟だよなぁこいつら。

 

「当たり前だろう、あいつはカスだ。何の矜持も根性もない。あんな奴と2人で後継だなんて、虫唾が走る」

「後継って、桑島さんの?」

「軽々しくその名を呼ぶな、元鳴柱のすげぇ人だ。…そんな人の後継になれるなんて名誉ある事なのに、よりによってあいつと2人でだ。クソが!!」

 

 原作の知識だとか善逸がたまにしてくれる話の記憶を頼りにそう言うと、獪岳はいつもの比ではない位に苛立った様子で答えた。

 そういえば、喧嘩をする数日前に善逸に文が送られてきて、後継者になる事が決まったと言っていた。嬉しそうにしつつも浮かない顔をしていたのはそういう事だったのか。善逸は獪岳が2人で後継になる事を良しとしない事も察していたのだろう。

 そして原作で獪岳の事を知っているつもりでいたけど、話をする中で彼の心の奥底が少し見えてきた。

 とどのつまり、獪岳は承認欲求が強いのだ。それは根底に愛されたいという念がある。でも、彼自身がそれを認めないからいつまで経っても渇きは満たせない。いっその事、とおちゃらけた口調にしつつもはっきり言ってやる事にしてみる。

 

「つまり獪岳は、その“すげぇ人”が自分を認めてくれない様に感じるのが不満なのか」

「…てめぇふざけてんのか。いい度胸だな」

 

 図星だったのだろう。見事に挑発に乗った獪岳は目を吊り上げて私の胸倉を掴み上げた。身長差があるから少し身体が宙に浮いて息苦しい。そして原作で鬼化した時にも負けず劣らずな気迫で睨みつけられると正直怖い。

 でも、ここで怖気づいたら負けだから、私は静かにその目を見つめながら言葉を紡いだ。

 

「獪岳は幸せだよ。無条件に愛してくれる人が居る」

「は?」

「善逸とか桑島さんとかさ。彼らはきっと、とっくに獪岳を認めている。必死に修行をするひたむきな背中だって、努力によって磨かれた剣技だって、私でも気づくのに彼らが気づいてないわけない」

 

 そう言うと、わずかに動揺したようで眉根がピクリと動いたのが分かった。

 

「…っ、テメェに何がわかる」

「わかるよ。桑島さんの事はよく知らないけど、善逸は友達だもん。少なくとも、ビビリの善逸が、感情剥き出しにして先輩を殴るなんて柄じゃないのは獪岳だって知ってるでしょ?善逸にとって獪岳はそれだけ侮辱されたくない、憧れで大事な人なんだ」

 

 私がそう言うと、反論の言葉が見つからなかったのか獪岳は舌打ちをしながら私をポイと突き飛ばした。流石にその程度で尻餅をつかない位には鍛えているので、特に気にする事もなく着地する。そして改めて獪岳の目を見つめた。真っ黒な瞳は何処かこの世界に期待をしていない風にも見えて、何とか彼の心を開きたいと思った。

 

「これは私の我儘だけどさ、善逸の事をちょこーっとだけ見てやってよ。きっと獪岳のためにもなる」

「なんで俺がそんな事しなきゃいけねぇんだ」

「与えない人間は、誰からも与えられなくなる。人間ってそんなもんなんだよ。認められたいなら認めなくちゃいけない。愛されたいなら愛せる人間にならないといけない」

 

 ギブアンドテイクってやつだ。少し違う?んじゃ、御恩と奉公みたいな?…なんか余計遠ざかった気がする。

 

「俺がいつそんな事を求めた」

「獪岳は気づかないフリをしているだけだと思う。だから何をしても不満が募る。幸せの箱に開いた穴が塞がらない」

「てめぇ…ふざけんのも大概に…」

 

 私が言葉を重ねれば重ねる程、獪岳の額に青筋が浮かんでいく。きっと彼は、言葉だけで諭しても認めないだろう。駄々っ子みたいなもの。こういう時は多少力ずくでも納得できる方向に持っていくのが1番なんだ。荒業だけど…腹を括り、私はそばの物置に入っている竹刀を指差しながら言った。

 

「ねぇ獪岳、ちょっと手合わせしない?あんたが勝ったら私は口出ししない、私が勝ったら私の言葉に耳を貸す。このままじゃ会話は平行線だし、それがお互い手っ取り早いでしょ」

「…いいだろう。むかっ腹が立って仕方ねぇからな。テメェにも、カスにも」

 

 私の言葉に獪岳はそう返すと、悪い笑みを浮かべながら日輪刀を構えた。

 

 え…私、竹刀で戦おうって言ったつもりだったんだけど…伝わらなかった?あれ?

 

雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷(ねつかいらい)

 

 そう思う間もなく、青い雷の幻影を迸らせながら下段からの斬り上げ攻撃が襲ってきた。勘を頼りに咄嗟に日輪刀を抜き、辛うじて反射で受け流す事に成功する。

 

「しかも開始の合図無しぃ!?」

 

 というか、待って!待って!私のこの刀、この間の吉原遊郭編での戦いで折れちゃってるんだって!ただでさえ獪岳強いのに!殺気全開の相手な上にそんなハンデまで背負わされたら死ぬ!冗談抜きでマジで死ぬ!!

 

闇の呼吸 陸ノ型 黒点(こくてん)

 

「勝つか負けるかの生死を懸けた勝負に合図なんかあるわけないだろうが!!」

「待って!ねぇこれそんな重大な勝負だったの!?軽~い手合わせくらいのやつじゃないの!?」

 

 習得したばかりの型を放ちながら獪岳にそう叫ばれ、避けつつも思わずツッコミを入れる。陸ノ型使ってくるとかマジ!?本当に殺す気じゃん!苦しめて殺す気じゃん!!というか闇の呼吸、しっかり使いこなせているね!凄い!!

 

雷の呼吸 弐ノ型 稲魂(いなだま)

 

「真剣勝負に軽いもクソもあるか甘ちゃんが!!」

「カッコいいかよ!!」

 

 一息で放たれる5連撃を回避するために空中へ飛び、近くの木に着地した。避けきれなかった一撃が右腕の羽織をあっさりと引き裂く。寸止めする気もなしですか!そうですか!!

 ともかく刀が使えなくては何も始まらない。木の上から軽く辺りを見渡し、刀を持っている隊士を探す。幸運な事に縁側で休憩している村田さんが視界に入った。神タイミング!素早く足に意識を集中させて飛ぶ。一瞬後に自分が居た場所の枝がバッサリ斬り落とされたのは見なかった事にした。

 

「村田さん!すみません日輪刀貸してください!!」

「あ、**ちゃ…て、ええええ!!??」

 

 のんびりお茶をしていた村田さんに雷の呼吸で急接近し、横に置かれていた日輪刀を引っ掴む。隊士にとって刀は命と同じくらいに大切なものだ。他人が易々と触れて良いものでない事は重々承知しているんだけど…後ろから猛スピードで追って来ている黒い弾丸を見て察して欲しい。命と同じくらい大事なものよりは命そのものの方が大事だ。

 

「逃げんなクソ女ァ!」

 

雷の呼吸 陸ノ型 電轟雷轟(でんごうらいごう)

闇の呼吸 漆ノ型 如法闇黒龍(にょほうあんこくりゅう)

 

 獪岳の放った雷神の如き連撃を、村田さんの刀を抜刀して同じく連撃を放つ事によって辛うじて相殺する事に成功した。後ろからは村田さんの叫び声が聴こえる。マジで巻き込んで申し訳ありません。アオイちゃんたちへのお詫びのお菓子を買う時に村田さんの分も買っておこう。

 

「ねぇ獪岳!そんなに獪岳は桑島さんの特別になりたいの!?」

「…あぁそうだよ!俺が先生の背中を追いかけて日々真面目に修行してるのに、それには見向きもしねぇで逃げ回ってばかりのカスと同列に扱いやがる!それに腹が立って仕方ねぇんだよ!文句あんのか!」

 

 幾度となく連撃の攻防を交わしながら、私は獪岳に向かって叫んだ。戦いの最中だからこそ言葉に弾みがついているのだろう。普段なら聞けないような獪岳の心の声が叫び声となって返って来た。

 やっと聞けた、獪岳の本心。ここまで身体張ってるんだ、洗いざらい聞かせて貰おうじゃない!!

 

「獪岳が桑島さんに望む“特別”って何!?」

「はぁ!?」

「いいから言ってみ!!」

「…唯一無二だ!他に無いからこそ、特別なんだろうが!!それがあのカスと同列に扱われてるんじゃ、唯一でも何でもない!」

 

闇の呼吸 肆ノ型 晦冥ノ水面(かいめいのみなも)

 

 獪岳に負けるわけにはいかない、とこちらからも下段の斬り上げを繰り出した。それを受け止めた獪岳と睨み合いになる。私の質問に答えると同時に、獪岳が腕力で刀を弾き返した。やっぱり年齢から考えても男女差で考えても、力では敵わないらしい。そして今気づいたけど村田さんの刀、色薄っすいな!!エフェクトだけじゃなくて刀まで色薄いのな!!どうでもいいけど!!

 

闇の呼吸 捌ノ型 羅刹ノ舞(らせつのまい)

 

「なんっだその答え!カッコつけか!厨二病か!!正直に「誰よりも愛されたい」って言ってみろ!!」

 

 力で負けているなら変化球はどうだ、と言わんばかりに歩法を変化させ、いくつもの影分身を作る。そして怒りのままに思いっきり叫びながら一斉に攻撃を仕掛けた。唯一無二だとかなんかカッコいい事言ってるけど、要するに大好きな師範に誰よりも認められたいって事でしょうが!

 

「…テメェ、どれだけ俺をコケにしたら気が済むんだ!!」

「むしろ愛されたいっていう事の何が悪いの!?」

 

 フェイントを使った私の技は、同様に闇の呼吸を習得しつつある獪岳にあっさりと見切られた。それどころか裏の裏をかかれて首に刀が届きそうになり、私は私でそれを間一髪で回避した。本当に殺す気満々だね!マジで私が死んだらどうする気なんだろコイツ。というか、隊員同士で真剣を用いた争いって御法度じゃなかったっけ?今更だけど!

 

雷の呼吸 肆ノ型 遠雷(えんらい)

 

 回避したそのままの体勢で大きく後退した私に追撃する為、獪岳は大きく飛び上がり空中からの突きを放った。自分の日輪刀でそれを受け流し、重力のままに落下してきた獪岳に思いきり頭突きをした。炭治郎直伝・基本の正面頭突きだ。ただ炭治郎と違って石頭じゃないから、尋常じゃなく痛い。情けなく少し涙目になりながらも私は叫んだ。

 

「自分の方を向いて貰いたいって思うのは自然な事でしょうが!尊敬してる人なら尚更!でも自分は背中を向けている癖に相手にはこっちを見て欲しいだなんて、我儘もいいところだ!あんたは子供かぁ!!」

「…!!」

 

 年齢的には子供だとか、考えちゃいけない。勢いのままに頭をぶつけたため、痛みで言い返す事が出来なかったらしい。獪岳が一瞬で距離を取り青筋を立てながら刀を構え体勢を立て直そうとした、その一瞬の隙を逃さなかった。

 

雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)

 

「さっきも言ったけど、獪岳は愛されてる。出会って少ししか経ってないけど、私だって獪岳が好きだし尊敬してるもん。ちったぁ冷静に周りを見てみ」

 

 首筋に刀を当てかけた状態でびたりと寸止めし、静かに語り掛けた。同じ居合斬りなら雷の呼吸と闇の呼吸を混ぜた技、暗箭傷鬼・一閃を使っても良かったんだけど。善逸を思い出して欲しくて敢えてこちらを選んだ。まさか年下の隊士に負けるとは思わなかったらしい獪岳は呆然として動きを止めている。

 

「という訳で私の勝ち。…はぁ~、本当に死ぬかと思った。ねぇ、1つ聞いていい?」

「もういくつも聞いてるだろうがよ」

 

 獪岳の首筋に当てていた日輪刀を降ろし、私は安堵のため息をついた。そのまま1人ごちつつも獪岳に話しかけると、さっきよりは怒気の収まった声音でぶっきらぼうにそう言われた。なるほど、それもそうだ。ここまで腹を割って話して(物理的にも割れる…というか切り裂かれかけた)今更遠慮する必要もないだろう。

 

「獪岳にとっての信念って何?」

「俺の信念は、…どんな手を使ってでも勝つ事だ。泥水啜ったって、罵られたって、最後は生き残った奴が勝つ」

 

 この言葉にはどれほどの重みが込められているのだろう。文字通り、血反吐を吐く思いで生き延びて来たんだと直感した。原作では悲鳴嶼さんの寺で盗みを働いた描写があったと思うけど、逆に彼はそんな生き方しか知らなかったんだと思う。

 

「その信念、凄くカッコイイね。泥臭くて、人間らしくて、私は凄く好きだ。…でもこう言っちゃなんだけどさ、獪岳は強いんだからもっと気高く生きてもいいと思うよ」

「…綺麗ごとで生きていけるような世の中じゃねぇんだよ、この世界は」

「今の獪岳は強いから、きっと大丈夫だよ。それに、獪岳を愛してくれている人も沢山居るから、多少綺麗事を言っていたって支えてくれるよ。大丈夫、絶対に大丈夫」

 

 我ながら無責任に聞こえる発言だなぁと思いつつも思った事をそのまま言葉にして伝えた。怒らせるかな?と思ったが、私の言葉を聞いた獪岳からはむしろ、ふっと肩の力が抜ける。

 

「…本当におめでたい奴だなテメェ」

「こんな、油断したらすぐ死ぬような世界に居るんだからさ。多少は図々しく生きないとね」

 

 私の言った事の意味はイマイチ理解しきれなかった様だが、私の奇行に慣れたらしい獪岳は特に何も言うことはなかった。先程までのピリピリした雰囲気も消え、私の言葉が獪岳の心のどこかに引っかかってくれた事がわかる。

 ここまで来たなら行く所まで行ってしまえ、と、私は更に図々しい発言を試みることにした。

 

「ねぇ。番狂わせが起きたとはいえ、先輩隊士の獪岳に勝ったんだからさ。ご褒美として、1個だけ私のお願い聞いてよ」

「…んだよ」

「こないだ行った甘味処の桃パフェ、善逸と一緒に食べに行って来てよ。そんで私にはお土産としてみたらし団子買って来て」

「1個じゃねぇじゃねぇかよ」

 

 そう言いつつも否定の言葉は返ってこなかった。私はそれを了承の意と受け取り、「じゃあ善逸の所に行こう!さっきの場所で待ってるから!」と言い残して善逸の元へと猛ダッシュで駆けて行った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「善逸!!」

「**!大丈夫か!?凄い音や叫び声が聴こえてたけど…」

 

 普段ならこの程度走っただけなら息切れしないんだけど、私も少し気が急いていたらしい。軽く息を整えながら善逸に声をかけると、心配そうに眉尻を下げた善逸がそう言った。かなり距離が離れていたとはいえ、やっぱり善逸には聴こえていたんだな。私も獪岳も戦いのテンションで結構青臭い事叫んでたから、冷静になると恥ずかし過ぎる案件だと思う。

 

「ま、まぁね~…。それより、獪岳の説得できたよ。今向かって来てるはずだけど、どう?」

「…確かにあいつの音が近づいてるけど、まさか本当に?」

「勿論。こう見えてやればできる子だからね、私」

 

 そう言ってわざとらしくふんぞり返って見せれば、ようやく善逸も少し笑ってくれた。そして2人でクスクスと笑った後、善逸がおずおずと口を開いた。

 

「**、この間は、その、ごめん…。**が獪岳と会ってるのは知ってたんだ。あいつの音も**の音が聴こえなくなる時間と同時に聴こえなくなってたから。…なんだかそれが羨ましかった。**も、獪岳も」

「…うん、私こそごめん。その、獪岳と善逸が仲悪いのは知ってたから言い出しづらくて…。獪岳から聴こえるっていう“不満の音”を消したかったんだ。善逸たちと同じくらい、獪岳は私にとって幸せになって欲しい人だからさ」

 

 私がそう言うと、彼は一瞬驚きで蜂蜜色の目を大きく見開き、その一瞬後に私の過去を思い出して納得したような声を出した。

 

「不満の音ってなんでそんな事知って…ああ、それもお前の世界で語られてた?」

「まぁ…そういう事。でも、実際にあいつと向き合う事ではっきりしたよ。あんたら、似た者兄弟だね」

「どういう事だよ!」

 

 誰かの愛を貪欲に欲するという点で善逸と獪岳はよく似ている。それを表現する手段が違っていただけで。私の言葉を聞いた善逸は、口では嫌そうにしながらも少し照れくさそうな、むず痒そうな表情を浮かべた。

 

「おらカス、行くぞ」

 

 その声で獪岳がようやく追いついた事に気付き振り返る。目を合わせてこそくれないが、こうして来てくれただけでも大きな進歩だろう。後は私が居なくても、2人で何とかできると思う。今日をきっかけにして獪岳の幸せの箱の穴は少し塞がっただろうから。

 獪岳の言葉を理解しきれていない善逸は目を白黒させつつ叫んだ。

 

「獪岳!?行くってどこに…」

「チッ…そこの馬鹿女に聞いてねぇのかよ。そいつが「勝ったから団子買ってこい」っつうんだよ」

「あ、桃パフェも忘れちゃ駄目だよ?」

「うっせぇわかってるわボケが」

「獪岳って何やかんやで律儀だよねぇ。そういうとこ、嫌いじゃないよ」

 

 ニヤニヤしながらそう言うと、心底鬱陶しそうに睨みつけられた。いいんだ、いいんだよ、きっと照れ隠しだよね(オタク特有のご都合解釈)!!そして私たちのやり取りを見た善逸がギャンギャンといつものテンションで騒ぎ立てた。

 

「ちょっと!なに俺が知らない間に仲良くなっちゃってんの!?」

「仲言い訳ないだろクソが」「まぁね~マブダチだよ~」

 

 やっぱり噛み合わないけど、罵倒する獪岳が少し嬉しそうに見えたから、仲良くなれたんだと信じてる。

 

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