全集中で駆け抜けたい   作:夜桜百花

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死なない

(駄目だな。終わった)

 

 鬼狩りにとって呼吸は普通の人間以上に重要なものだ。そんな生命線を奪われ、身体が悲鳴を上げている。最後の息を振り絞って渾身の一撃で型を放つも、無駄に終わってしまった。肺に水が入り込み朦朧とする意識の中、無一郎はぼんやりと思った。

 ぼやける視界の中で鬼が嘲笑いながら別の隊士へ攻撃を向けている。自分は死ぬとわかりきっているから見る必要もない、という事か。完全に玩具扱いだ。

 

 …まぁ、どうでもいいだろう。実際、死ぬのだから。もうじき、息が続かなくなって口を開く事になる。その時が終わりだ。

 

 別に、鬼を倒す使命感が失われたわけではない。だが、客観的に見て絶望的な状況である事を聡い彼は理解していた。故に、足掻いても仕方ないと考えていた。

 

―どうしてそう思うんだ?先の事なんて誰にもわからないのに―

 

(…声?)

 

 気が付くと、先ほど共闘していた少年が、目の前で微笑んでいた。名前は…忘れてしまった。でも、こんなところに居るはずないのに。

 

―自分の終わりを自分で決めたら駄目だ―

 

 どこかで聞いたような言葉が頭に響く。耳ではない、頭に。これが走馬灯というものなのだろうか?しかし、無一郎にはそれが過去の記憶かわからない。何も覚えていないから。

 うっすらと見聞きできた姿と声。誰よりも、彼自身が一番戸惑っていた。目の前の人間は現実のものか、それとも自分の妄想か。

 

 狭窄した視界の奥で、赫灼の瞳の男の子が優し気に微笑む。確実に言える事は、この人間はさっきの隊士ではないという事。だって、彼は今、分裂鬼と戦っているから。ならば、こいつは誰だ?

 

(まぁいい。どう考えても終わりだろう、こんな状況)

 

 無一郎は思う。力のない人間は、誰を護る事もできないと。しかし、少年はなおも言葉を続ける。あの、屈託のない微笑みを湛えて。

 

―絶対どうにかなる。諦めるな。必ず誰かが助けてくれる―

(何それ、結局他人任せなの?一番だめだろうそんなの)

 

―ひとりでできる事なんてほんのこれっぽっちだよ。だから人は力を合わせて頑張るんだ―

(他の隊士は交戦中、誰も僕を助けられない。皆僕より弱いから)

 

「諦めんな!!」

 

 遠くで、自分とそう歳の変わらない少女の声が聴こえた。今度は走馬灯ではない、現実の声だ。水を介しているせいで随分とぼやけた声に聴こえるが。

 

 軽く顔を傾けて目をやると、玉壺から伸ばされた蛸足を我武者羅に斬りながら、まっすぐにこちらを見る隊士の姿があった。確か…何て名前だったっけか…。

 馬鹿が状況も見れずに、好き放題言ってくれる。諦めるな、なんて言うのは簡単だ。でも、現実を見ろよ。どう考えてもここから自分が抜け出すのは無理だ。

 そして、まんまとそんな目に遭っている僕が一番馬鹿だ。柱だからって、自分の力を無意識に過大評価していた報いが来たんだ。

 

「こんな所で死ぬ気!?柱でしょうが!!死ぬまで、生き抜けよ!!」

 

 死ぬまで生きるなんて、安直だな。思わず鼻で笑いそうになった。吹き出すほどの酸素は自分には残っていないのだけれど。

 

 とうとう、身体がもたなくなった。酸素を求めてはくはくと喘ぐ。鼻から、口から、水が押し寄せてくる。痛い、辛い、苦しい。こんな感情、どれも久しぶりに感じた気がする。そして、それももうじき、終わる。

 

(無理だ。僕はこのまま死ぬ他ないんだから)

―無一郎は間違ってない。大丈夫だよ―

(いくつも間違えたから僕は死ぬんだよ)

 

 苦しい、さっさと死んでしまおう。無一郎はゆっくりと目を閉じて意識を手放そうとした。しかし、声はそれを許してくれない。

 

「皆で生きて帰るんだ!時透さんが死ぬなんて嫌だ!意地でも生きろ!」

 

 ぼんやりした視界の先で、少女がこちらに走ってくるのが見える。上弦の鬼二体もの攻撃を、ギリギリで搔い潜りながら。というより、若干避け切れてない。致命傷は避けてるけど、ほら、今もまた蛸足に吹っ飛ばされた。それでもめげずに向かってくる。

 まぁ、一般隊士が上弦の攻撃をあそこまで避けられているのが奇跡に近いか。なぜ、自分のために必死になっているのか。無一郎には理解ができなかった。

 

(本当に好き放題言ってくれる…なんでそんなに僕のために動けるんだよ)

―人のためにする事は、巡り巡って自分のためになる―

 

 目の前の少年が、霞と共にその姿を変えていく。…どこかで見た様な、赤い瞳だ。

 それにこの言葉も、どこかで聞いた台詞だ。確か…さっきから視界にちらつく2人。彼らが言ってたんだ。情けは、人の為ならず。そして、…あの人も言っていた。

 なんだか力が湧いてきそうな気がする。気がするだけかもしれないけど。

 

(…そうだね)

 

 どういうわけか、今度はその言葉を受け入れられる気がした。

 頭の中の霞が晴れていく。生まれ変わっていくみたいだ。

 

―そして人は、自分ではない誰かの為に信じられないような力を出せる生き物なんだよ―

 

 うん、知ってる。

 

「自分が何者なのか思い出せ!!無一郎の無は、無限の無なんでしょう!?」

 

 自分が、人のために情けを掛けようとしている。あの時の父さんのように。

 

 呼吸が苦しい。あの時の母さんの様に。

 

 限界を超えた力を出そうとしている。無一郎の無は無限の無だと言った、有一郎のために。

 

 …ああそうだ、**。あの隊士たちの名前、**と炭治郎だ。

 

 今なら、信じられないような力を出せそうだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 可楽と玉壺の攻撃を避けながら、水獄鉢に捕らわれた時透さんの手助けに走る。初めこそ水から抜け出すために型を放っていたのに、今はぼんやりと漂うだけになっていたから。きっと肺の中の酸素が尽きたんだ。諦めて死を受け入れようとしている様にしか見えない。

 それに、このシーンは、漫画で見た事があるような気がする。確か…小鉄くんが助けたんだっけ?どうやって助けたかまでは覚えていないけれど、この世界では小鉄くんはとっくに避難していてこの場に居ない。猶更、時透さんは生きる事を放棄しかねない。

 

 無我夢中で、必死に叫んだ。少しでも生に縋り付いて欲しくて。もう師範や千代子さんの様に、誰かを失いたくない。誰も、死んで欲しくない。死ぬまで、最期を迎えるその瞬間まで、自分の生も誰かの生も諦めたくはない。

 

 玉壺にやられた脇腹が痛む。たぶん、肋骨が折れた。でも、そんな事に構っていられない。

 

闇の呼吸 陸ノ型 黒点(こくてん)

 

 思いっきり、肺が破れるのではないかというくらいに息を吸い込んで型を放った。それこそ、呼吸音の限りなく小さい闇の呼吸でも音が聴こえるくらいに。それくらいしないと、柱が壊せなかった血鬼術を破る事は出来ない。

 バクバクとうるさい心臓を押さえつけてエネルギーに変え、水でできた球体に刀を差し込んだ。刀と共に空気が入り込み、水晶玉のような美しい球体は歪に形を変える。いつだったか、繭玉から村田さんを助けた時の要領でそのまま刀を振り下ろそうとした。しかし貫いたはいいものの、水がヘドロの様に絡みついて刀がそれ以上動かない。背筋に寒気が走った。

 

 やばい、亀裂は入ったからじきに壊れるだろうけど、それじゃあ間に合わない。彼に死期が近づいているのが、第六感で嫌でもわかってしまう。助けられない。私には、助けられない。

 

「自分が何者なのか思い出せ!!無一郎の無は、無限の無なんでしょう!?」

 

霞の呼吸 弐ノ型 八重霞(やえかすみ)

 

 やけくそになって腹の底から叫んだ。時透さんの目に力強い光が宿ったのはそれとほぼ同時だった。

 僅かに入り込んだ空気を口に含み刀を振るう。瞬く間に、何重にも亀裂が入り、水獄鉢は水風船でも割ったかのように弾け飛んだ。四方八方へ水飛沫が舞い散り、近くに居た私も頭から冷たい水をひっかぶる。雪も降りそうな真冬なのにも関わらず、心臓が高鳴り身体は熱い。

 

「時透さん!!大丈夫ですか⁈」

「ゲホッ…うぇ…大、丈夫…。君って本当にお人好しだね…」

 

 辺りの空気を一気に取り込んで肺の水を吐き出しながら、時透さんは呆れた声で言った。取り敢えず、何とかなったみたいだ。私の力ではないけど。

 

 呼吸を整えながら長い髪の水気を絞り、体勢を整える。その姿は今までとはまるで別人みたいだ。もしかしたら、記憶を取り戻したのかもしれない。確か、原作でもこの辺りで記憶を取り戻していた。何がきっかけになったのかはわからないけれど、本当に良かった。

 

「!**、前を見て!!」

「!!」

 

 時透さんの声と第六感の反射で、とっさに刀を構えた。刀身に可楽の手がぶつかる。もしも刀を構えてなかったら、私の頸は飛んでいた。背筋に寒気が走る。

 

「ヒョオオオオオ!!手負いのくせに儂の血鬼術から出たと!?」

「良い良い、楽しいのう!!玩具がまた一つ増えたわい!」

「あの蛸壺鬼、僕がやるよ。あまり助けてやれないけど…**、死なないで。これ、柱命令だから」

 

 私の名前、覚えてたの…?驚きのあまり、思わず彼の名を呼ぶ。

 

「時と…」

「無一郎」

「え?」

「僕の名前は、無一郎。無限の、無一郎だから」

 

 そう言って時透さん…いや、無一郎くんは笑った。霞の痣を浮かび上がらせながら。

 

「**のおかげで、記憶が戻ったんだ。今なら、何でもできる気がする」

 

霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り(いりゅうぎり)

 

 驚きのあまり言葉を継げないでいる私にそう言って、無一郎くんは玉壺に直線的な斬撃を加えた。蛸足でガードをした玉壺はそのまま吹き飛ばされ、それを追う無一郎くんも共に、私たちとの距離が大きく開く。

 私が周囲を気にしないで戦えるように配慮してくれたのだろう。距離は開いたものの、彼のこちらを気遣う気配が感じられるから。ピンチになったら助けに来ようとしてくれているのかもしれない。足を引っ張るわけにはいかないな。

 

「続きをやろうじゃないか!まこと、楽しい宴じゃよ。のう?小娘」

「…ただの玩具になってあげるつもりは、ないから」

 

 その場に残ったのは、私と可楽のみ。楽しそうに笑い声をあげる鬼の目を真っすぐ見据え、刀を構える。さっきまでとは打って変わって、心は冷静だ。冷静に興奮しているというか、すごく集中しているというか、ゾーンに入っている感じ。

 

『玩具になるのはお前だよ』とは言えない。はっきり言って力量は向こうの方が上だ。だけど、ここで死ぬ気は毛頭ない。力量差があるなら、今縮めてやれば良い。

 

 集中しろ。呼吸を研ぎ澄ませろ。目の前の全てを見切れ。

 

「いつまでほざいてられるかのう!」

 

 呼吸のわずかな隙間を切り裂くように、可楽の天狗団扇が大きく振られた。瞬間、辺りの木々を吹き飛ばし切り裂くような突風が巻き起こる。

 

 風が私の元へ届くコンマ数秒、吸い込んだ酸素を全身の血液、筋肉に巡らせる。常中の時よりも更に早く、大量に、人間の限界を超えるギリギリまで。

 

闇の呼吸 漆ノ型 如法暗黒龍(にょほうあんこくりゅう)

 

 連撃で自分の周りの風の流れを変え、バリアの様に身を護る。私の動きはさっきよりも更に、それこそ過去の戦いとは段違いに、切れ味を増している。その証拠に、今の攻撃で私には傷1つついていない。

 それに気づいた可楽が驚きで一瞬硬直した。その隙をついて、雷の呼吸を併せつつ独特の歩法で姿を眩ます。

 

「…ッ!やるのう小娘!それでこそ楽しめるというもの!!」

 

 後ろから近づくも気づかれ、鋭い爪が右から飛んでくる。事前に察知していた私は、前方に走っていた勢いを利用して宙返りの要領で回避した。近くの木の枝に飛び乗り、再び可楽の視界から姿を消す。闇の呼吸の真髄は、暗殺術にも近いその動きにあるから。

 

「視界を遮るものがなくなれば分かりやすくなろうぞ!」

 

 複数の攻防の後、苛立った可楽が周囲に大きく風を巻き起こした。まるで竜巻でも起きたかのように、数十メートルに渡る木々が消え、辺り一面の遮蔽物が排除される。

 

「予想済み、だっつーの!!」

 

闇の呼吸 伍ノ型 淵源開闢(えんげんかいびゃく)

 

 事前に察知していた突風を真上に大きく跳んで避け、一刀両断を狙う。即座に回避した可楽に、更に追撃を加える為に走る。

 

(もっと早く!相手の行動を読め!身体を動かせ!上弦に後れを取るな!物語の進行に後れを取るな!じゃないと死ぬぞ!)

 

 自分の無意識にとる行動の癖、相手の思考、行動パターン、全てを読み解け。考えろ、勘を働かせろ。持てる武器を全て使え。

 

(だって私は生きてるんだから!この世界で…!!)

 

 私はこの世界で生きている。この世界に存在している。だから、煉獄さんは生き残った。宇髄さんは五体満足で生還した。だから…師範たちは、殺された。

 冷静に戦況を見る一方で、やるせなさが心を埋め尽くす。皮肉な事だ。自分がこの世界に存在している証明をこんな形で思い知るなんて。

 

 私は馬鹿だ。わかっているつもりでしかなかった。この世界の未来を変えるとは、生きていたはずの人間が死ぬかもしれない未来を作り出すものだ。

 私は調子に乗っていた。死ぬ筈だった人を助ける事ができて、トントン拍子に上手くいって、それでいて原作の様な台詞が聴こえてくるから、『私が居なくてもこんな未来だったんじゃないか』なんて思ってたんだ。

 

 ふざけてる。馬鹿げてる。物語の結末を知っていながら、どうしてそんな事が言えたんだ。私の介入によって確かに未来が変わっている。この世界の未来は、もう誰にもわからない。

 頬が熱い。身体が熱い。このまま燃えちゃうんじゃないかってくらいに。でも、まだ死ねない。死ぬわけにはいかない。死ぬまで、意地でも生きてやる!

 

 私のせいで死んだなんて言ったら、師範は怒るだろう。だって、あの人はきっと無惨が屋敷に来る未来を知っていたはずだから。知っていて、迎え撃った結果なのだろうから。ならば私のする事は後悔なんかじゃない!

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

(こいつ、先程とは動きが段違いだ)

 

 可楽は可楽で混乱していた。何が起きている?

 

 **に足りないもの、それは経験。それを弁えた上で、**は自身の持てる全力を駆使してそれを吸収しようとしていた。

 敵の動き、思考回路、使える攻撃手段。第六感の助けも借りているとはいえ、先ほど述べた通りすぐに身につくものではない。ここまで**の剣技を一気に熟達させているのは、執念以外の何者でもない。

 頬が黒く色づいているのは単なる泥汚れか、それとも痣の発現なのか。**自身にはわからない。気づいてすらいないから。

 

 変化が訪れたのは、その時だった。

 

 攻撃を躱し、受け流し、懐近くまで潜り込む。闇の呼吸をベースに雷の呼吸を絶妙なバランスで調節して緩急をつけ、相手の動揺を誘い、隙を突く。

 狙うは頸だ。

 

闇の呼吸 壱ノ型 暗箭傷鬼(あんせんしょうき)

 

 私の刀はあと少しのところで受け止められてしまった。だらだらと血を滲ませながら、可楽が楽しそうに笑う。釣られるように、私も笑った。

 

 勝利を確信して。

 

闇の呼吸 肆ノ型 晦冥ノ水面(かいめいのみなも)

 

「が、ぁ!!おの、れ…!!」

「はぁっ…はぁっ…」

 

 次の瞬間には、可楽の腕は天狗団扇ごと真っ二つに裂けていた。刀を抑え込んでいた手で避けた腕をかばいながら、鬼は初めて『楽』以外の感情を露にする。

 

「おのれ、おのれおのれ何をした!!再生できぬ!!」

「よそ見、しちゃ駄目だよ。敵が刀を2本持っている可能性も考えておかなきゃ」

 

 左手に持った短刀。それは珠守さんに作ってもらったばかりの毒入りの刀だ。高濃度かつ大量の藤の毒が含まれた刀。当然、上弦といえど再生力は落ちる。

 

「もう十分楽しんだでしょ?」

「ま、」

 

 続きは聞かなかった。聞く必要もなかったから。

 頸を落とし、分裂再生をしようとする身体に毒の染み込んだ短刀を突き刺す。可楽は動く事もできずにピクピクと痙攣するばかりだ。いずれは脱出されるだろうが、時間稼ぎにはなる。こいつを殺すには本体を潰すしかないのだから。

 喜怒哀楽の鬼を1体封じた。でも、半天狗は本体を叩かないと意味がない。無一郎くんは玉壺相手にかなり優勢の様だ。私がするべきは、半天狗を叩く事。

 

 炭治郎たちと離れてからどれだけ時間が経った?戦況は?

 

 感覚を研ぎ澄ます。気配を探る。…居た、北西だ。他の鬼を捌きながら、本体を追っている。今なら800 mも北に進めば、先回りできそうだ。

 

「挟み撃ちしてやる…!」

 

 気配を殺し走る。いつだったか、カナヲが炭治郎を追っていた時の様に木々を飛び移りながら。やっぱりこっちの方が断然速い。そして場違いながら、これが当たり前の様にできる様になっている自分に少し感動もしてしまう。

 

 どこまでも続く森の景色も、可楽に木々を吹き飛ばされた平地で戦った後なら新鮮に映る。暫く走ればあっという間に前方に炭治郎たちの姿が見えてきた。玄弥が本体の頸に刀を振るうも、刀は折れてしまう。

 玄弥の目に動揺の色が出た。隙を狙い積怒が錫杖で玄弥の頸を狙う。鬼化している玄弥の唯一の弱点は脊髄。頸を狙われてしまえば、再生できない。

 

「玄弥後ろー!!!」

 

 雷の呼吸でも間に合わない。私はどうしようもなく叫んだ。玄弥が気づいているとわかっていても、叫ばずにはいられない。

 

 数瞬先の最悪の未来が見え、そして消えた。炭治郎が積怒の腕を斬った事で、軌道がずれたのだ。

 

「玄弥ー!!諦めるな!絶対斬れる!!**と俺で守るから!頸を斬る事だけ考えろ!柱になるんじゃないのか!不死川玄弥!」

 

 積怒を斬った勢いを木にぶつけて殺し、そのまま地面に着地しながら炭治郎が叫んだ。その後ろから哀絶が音もなく忍び寄る。私は近くの木から炭治郎の真後ろに降り立ち、迎撃する構えをとった。

 

血鬼術 激涙刺突(げきるいしとつ)

闇の呼吸 弐ノ型 月下爛然(げっからんぜん)

 

「喜怒哀楽の1体は動きを封じた!玄弥!今のうちに早く!!」

「**!!助かった!!」

「…クソが!!」

 

 半ばやけくそになりながら玄弥が再び半天狗へ顔を向ける。今度は刀ではなく、使い慣れた拳銃を向けて。2、3発撃ちこむも鬼の頸は無傷だ。禰豆子はどこ!?空喜も見当たらない。彼らは別で交戦しているのか!?

 

「腹だたしい!この餓鬼どもがぁ!!」

「もうちょっと黙ってろ!!」

 

 積怒の攻撃を受け止めながら私も叫ぶ。あと少し、時間が欲しい。少し離れた所から可楽の気配も感じる。あいつ、もう抜け出したのか!!

 

「玄弥早く!!もう1体の鬼がまた近づいてくる!今がチャンスなの!!」

「ちゃんすってどういう意味だよ!」

 

 咄嗟に出た私の横文字言葉も理解できず、苛立ちながら玄弥が再び刀を振る。ちょこまかと動きながら半天狗は避け続ける。

 

「ひぃぃぃぃ…」

「クソが!!どうやったら斬れるんだ、よ!!」

「そうだ!!禰豆子!!」

「むー!!」

 

 刀は使えないと判断した玄弥は刀を投げ捨て、両手で拳銃を構え撃ち込んだ。

 

血鬼術 爆血(ばっけつ)

 

 炭治郎の叫びに応え、追いついたばかりの禰豆子が打ち出された弾に炎を纏わせた。鬼を焼き尽くす炎を纏った日輪の弾丸は真っ赤に燃え、本体の頸へと届く。

 

「ギャアアアアアアア!!!」

 

 断末魔とも絶望の悲鳴ともとれる声に反応したのは、私の目の前に居た、積怒だった。

 いや、積怒ではない。6体目の鬼だ。

 

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