知ってたよ…そう来るのは…!!
目の前に立つ鬼は、積怒ではない。今まで交戦していた鬼ともまた別の個体だ。幼さすら感じる若い体躯、憎しみを湛えた瞳。そして何よりも、嫌でも感じてしまう、今までとは別格の強さ。
そう、憎珀天だ。刀鍛冶の里編最悪の鬼が出てきてしまった。正真正銘、崖っぷちの展開。そしてはっきりとわかってしまう。こいつには私たちの力は通用しないと…。
それは本当に、一瞬の出来事だった。耳を劈くような半天狗の叫び声を合図に、目の前の積怒が隣で協力して戦っていた筈の哀絶を突如喰らう形で吸収。
一体でも合体すれば、その能力は飛躍的に上昇する。禍々しい瘴気が噴き出して私たちが思わず動きを止めたのもこのタイミング。
更に両手を前に差し出すと、こちらに向かって来ていた空喜と可楽も吸い寄せられた。そしてまた、真っ赤な血をまき散らしながらの吸収。彼らの拒絶の表情も無視して。
むくむくと変形する姿に、その場の誰一人動く事はできなかった。無論、原作の展開を知っていた筈の私でさえも。それほどまでに禍々しくて、畏怖の念さえ沸き起こる様な光景だった。そしてこうなってしまえば、私たちではもう太刀打ちできない。
動けないままの私たち。新たな鬼はまず玄弥の背後に忍び寄り、変化した姿かたちと共に身に着けたらしい背の太鼓を力任せに叩き鳴らした。瞬間、木でできた龍が私たちに襲い掛かる。
しかしこの時、不思議な事が起こった。私の視界に映る景色が一瞬二重になったのだ。
形容しがたい感覚なのだが、フラッシュバックだとか走馬灯?と言うのが一番近いだろうか。一瞬、目の前で光が飛び散り、目に映る景色とは別でそれから先の展開が一気に見えた。
たった一瞬だが、吐き気を催すような光景だった。頸を掻き斬られる玄弥、動揺した炭治郎の腹部に突き刺さる木の根、怒り狂った禰豆子の血鬼術…。
原作では明らかに見た事のない光景。だって、玄弥はこんな所で死なないし、炭治郎だってこんな所で大きな負傷はしないから。
でも、この世界は何が起こるかわからない現実だ。そして、これが私の妄想や幻影だとかじゃなければ、これは第六感が見せた数瞬先の『死』だ。それを理解したら、いつのまにか身体が勝手に動いていた。
「…っ」
「おい!おい**!!」
もしも私の脳裏に映った光景が未来予知の類なら、背後から大技を繰り出され、恐らく玄弥の命はなかった。
それでも、その未来は現実のものにならずに済んだ。…私が攻撃より先に玄弥を担いで空中に回避したから。代償に、少し太腿の肉を持っていかれたけれど。
動脈が千切れ大腿骨を掠め、言葉にならない痛みが全身に走る。意識を持っていかれないのが奇跡なレベルだ。
流石の玄弥も動揺した様子で私の名前を叫び続ける。この間まで黙れだの何だの言ってたのに、もう立派な仲間じゃないか。やっぱり戦いは絆を深めるんだよな、なーんて。心の中でも冗談言ってる場合じゃないけど。
…この後に起こる展開が見えた、それは窮地に陥る中で私の超感覚が研ぎ澄まされたからだろうか?まるで、予知能力みたいだ。今までの第六感とは何か質が違うような。そんな気がする。
まあ、今は考察なんてしようがない。生き残った後でゆっくり考えよう。ともかく、数瞬先の玄弥の死を回避するために鬼より先に行動したわけだ。あの一瞬だけ、私は上弦のスピードを超越していたと思う。まぁ、間に合わなかったけど。足くっそ痛い。
ちらりと左足に目をやると、スカートの裾ごと肉が数センチえぐれていた。真っ暗闇でも戦えるように、と訓練で鍛え上げた夜目が、真っ赤な鮮血を確認する。見なければよかった。なんか余計に具合が悪くなった気がする。知ってるか?思い込みで人間って死ねるんだぜ?
直ぐに呼吸で止血したけれど、血もかなり出たようで視界がやや霞んでいる。それでも虚勢を張って頭上を睨みつけると、ぼんやりとする視界に映る憎しみ鬼は、遥か高みから白けた表情で私を見下ろしていた。半天狗は木の龍に抱えられる様にして隠れている。
まるで弱者を護るヒーローみたいだ。そして『弱者』とやらも、頭を抱えて蹲り、これではどちらが攻撃してきた側かわかりやしない。今だって追撃をしてこないのは、私たちが矮小な子悪党に見えているからなのだろう。
「大丈夫か**!あいつがこの間言っていた…」
禰 豆子を抱えて龍の攻撃を回避していた炭治郎が私たちの元へ駆け寄る。事前に説明していた炭治郎には改めて言うまでもないが、玄弥に説明する意味も兼ねて私は答えた。
「うん。恐らく今のあいつの最終形態。もう、私たちだけではどうしようもないよ…」
そう、私たちだけであの鬼を倒す事は不可能だ。
一瞬、ごく一瞬なら先ほど玄弥を助けたようにスピードを上回る事ができる。だけどそれは決定打にはならない。雷の呼吸を使える私と炭治郎が辛うじて一瞬素早く動ける、その程度。勝つための武器というよりは死なないための武器と言ったところか。
それに、雷の呼吸は瞬発力には長けているけど、そのスピードを落とさずに戦い続けるには長い修練と身体への適応が必要になる。ちょっと例えが変だけど、マリ●カートのキノコみたいなもんだと思って貰えればいい。あんな加速がずっと続くわけないでしょう?身体の負荷が半端ない。
だから、雷の呼吸を扱う人間は他の呼吸の使い手と比べても特に身体を鍛えようとする。どの呼吸よりも扱うのが難しく、身体に負担もかかるから。代表例が着痩せのえぐい金髪タンポポな。閑話休題。
つまり、使い続ければ私たちのスタミナが切れてどの道やられる。短期決戦で頸を取る事は実力差からして厳しい。こうなる事はわかっていたからこそ、最終形態になる前にカタをつけたかったのだけれど。
詰んだ。私たちだけでは勝てない。どうしようか…。
「弱き者をいたぶる鬼畜…。不快、不愉快、極まれり…」
ヒーローを気取った鬼が、上から目線に呟いた。鬼が『鬼畜』呼ばわりとか、ユーモアのセンスあるなクソが。ちょっと韻踏んでんじゃねぇよ。
蜜璃さんが居ないのも非常に痛い。温泉は里からかなり歩く場所にあるのだ。日の当たらない里では昼夜いつ鬼が来るかわからないと、当番制にしていた事が裏目に出た。
鎹烏も知らせに行ってくれているだろうし、異変に気付いてくれてるとは思うが、蜜璃さんがこちらに加勢してくれるまであとどれくらいかかるだろうか。蜜璃さんが居ない時に鬼と遭遇したのは、本当に本当に、タイミングが悪かった。
逆に言えば、私たちはこの鬼たちと相対してからそこまで時間が経っていないという事だ。戦いが始まった時刻は恐らく深夜の3時ごろ。今は…4時くらい?
短時間で起きた攻防、失った戦力、考えるだに恐ろしい。
「のう?極悪人共めが」
玄弥に肩を貸され炭治郎に支えられながら見上げる。龍に乗る鬼と地面を這いつくばる私たち。勝負の優劣が形にして見えたみたいで腹ただしい。本体の半天狗はいつの間にやら何処かへ隠れたようだ。
半天狗は、窮地に追い込まれる事で覚醒する鬼だ。原作では自分を守ってくれる強い感情を具現化、分裂する血鬼術を使う鬼だったと記憶している。つまり、今自分を守ってくれるのは憎しみだと判断したと言う事か。
何に憎しみを抱いてるわけ?逆ギレも良いとこじゃないか。ふざけんな。あんたよりこっちの方が憎しみでどうにかなりそうだわ。鬼の言葉にイラつき思わず歯を食いしばると口の中から血の味が広がった。
でも、むかむかして仕方がないが、もの凄くもの凄ーーーく腹が立つが、相手の言う事に一理あると思ってしまう自分も居る。
ずっと考えていた事だ。どんなに極悪非道な鬼が相手だろうと、それを無惨に殺す私たちが何よりも正義だ、なんてそんな理屈は通らないから。
正当防衛だけれど、誰かがやらなきゃいけない事だけど、決して褒められた事ではない。
それに、立場によって正義なんて容易く一変するものだ。例えば、原作で会うや否や禰豆子を斬ろうとした冨岡さん。あの時の禰豆子はまだ誰も殺していなかった。
もしも、あの時冨岡さんが禰豆子を斬っていたら?炭治郎にとって冨岡さんはヒーローとは正反対の存在だっただろう。
そもそも冨岡さんじゃなかったら見逃される事もなかっただろう。初対面が煉獄さんだったら?不死川さんだったら?間違いなく彼らは禰豆子を斬ったし、そうなれば炭治郎にとっての鬼殺隊は極悪集団でしかなかった。鬼よりも救いようのない最低の集団だ。
鬼だって生きるためには人を食べなければならない。どちらが悪いとかではない。もう、そうするしかないんだ。私は鬼殺隊に味方しているから、鬼が敵でいるだけ。炭治郎は鬼に家族を殺されたから鬼が敵なだけ。
状況と環境次第では私たちは正義を語りながら平然と人間を殺していただろう。戦争なんて、そんなもんだ。
要は、相容れない2つの軍勢が殺しあっているだけの話だ。本当に、救いようがなくて、腹が立つ。脳裏を堕姫…梅がよぎった。
「どうして、俺たちが、悪人なんだ?」
鬼を見上げ、静かに炭治郎が尋ねた。握りしめた拳はぶるぶると震え、彼の怒りが沸点に達している事を示している。
でも、炭治郎が怒るのは当然だ。彼の鼻なら、この鬼がどれだけ人を殺してきたか、嫌でもわかってしまうだろうから。そして、彼にとっては最愛の家族を殺した、仲間たちを殺し続けてきた、そして今も民を苦しませている鬼こそが悪なのだから。
「弱き者をいたぶるからよ。先ほど貴様らは手のひらに乗るような小さく弱き者を斬ろうとした。なんという極悪非道。これはもう鬼畜の所業だ」
「ふざけるな…お前たちのこの匂い、血の匂い!喰った人間の数は100や200じゃない筈だ!」
炭治郎、私はあんたのその純粋さが時々凄く怖くなるよ。自分の行いを正義と信じているその真っすぐな瞳が、絶望に沈む日はいつか必ず来るから。きっとそれは、平穏な日々を取り戻したある日に突然訪れるから。
「その人たちがお前に何をした?その全員が、命をもって償わなければならない事をしたのか!?」
でも、どうしようもない事だ。それに、目の前の鬼は間違いなく悪だ。少なくとも、今の私たちにとっては。
私たちはとっくに、もう戻れないところまで来ている。炭治郎だってそれはわかっている。ならば…、やるしかない。この道の先に美しい勝利なんかないけれど、それでも守りたい人のために。
「捻じ曲がった性根だ。絶対に許さない。悪鬼め…お前の頸は俺が斬る!!」
炭治郎が啖呵を切ったのを合図にするかの様に、龍が咆哮をあげた。
叫び声とか音とか、そういう次元ではない。最早それは一種の衝撃波だ。やはり他の鬼の技も使えるらしい。それも、かなり威力が上がった状態で。完全な上位互換だ。
「~~~!!」
幸い多少の距離があったから身体がミンチになる事は避けられた。だけど頭がぐわんぐわんする。鼓膜が破れそうだ。
ニーハイを破いて唾液で軽く湿らせ、耳に押し込む。昔漫画で見た即席の耳栓だ。ないよりもマシ、程度のものだけど、ないよりマシならあった方が良いだろう。
私の行動を理解した炭治郎と玄弥も、同様に布地を破いた。声掛けで連携が取れなくなるのは辛いが、鼓膜が破けるよりよっぽどマシだ。
炭治郎が憎珀天目掛けて走りだす。おそらく、木々から龍へ飛び移って頸を斬る算段なのだろう。禰豆子もそれを追いかける。
呼吸による身体能力の強化ができない玄弥は逡巡していたが、私がジェスチャーで『本体を探して』と伝えるとこくりと頷いて攻撃を避けながらも近場の地面に視線を巡らせ始めた。
私も憎珀天の相手だ。あいつは柱がようやっと戦えるような相手だ。炭治郎と禰豆子だけではすぐに死んでしまう。
近場の木に一息で飛び乗り、そこから木でできた龍に飛び移った。痛む足に見て見ぬふりをして一気に龍の身体を走り抜ければ、あっという間に高度数十メートル。当方高所恐怖症ではないが、見下ろすのはやめておこうと思う。
血鬼術 狂圧鳴波(きょうあつめいは)
前方の炭治郎と私に目掛けて、憎珀天が回音波を打ち出した。至近距離では身体が木っ端微塵になる威力。離れていてもかなりのダメージになる。耳栓がどれくらい効果あるのかわからないけど。
「~~~~!!!」
大丈夫…ぎり耐えられなくもない事もない事もない!!きっっっついけど!!
闇の呼吸 陸ノ型 黒点(こくてん)
攻撃が止んだタイミングを見計らい雷の呼吸を使って瞬時に加速、炭治郎を追い越す。そのまま憎珀天目掛けて直進し、回転をかけながら突きを放った。しかしそれは二本指で軽々と受け止められ、そのまま私の身体もろとも投げ飛ばされる。
高度数十メートルを玩具の様に身体が舞う。第六感で龍の位置を確かめ、身体を捻って着地位置を調節して降り立った。
私と入れ違いに禰豆子が憎珀天に向かって飛び掛かる。鬼化を一気に進行させ、肌の紋様が一段と色濃くなった。
「ぬるい、ぬるいのぉ…その程度の力で弱きをいたぶるのか、やはり悪!!」
禰豆子の爪を避け、そのまま腕を掴んだ憎珀天。軽く力を入れると、禰豆子の腕は易々と砕け、千切れてしまった。
血鬼術 爆血(ばっけつ)
睨みを利かせながらその腕を操り、鬼だけを燃やす火を放つ。しかしそれも宙に飛び上がり避けられてしまう。鬼化した状態での血鬼術は一段とエネルギーを使うようで、鬼たちが襲来してきた時と比べると心なしか禰豆子の動きに焦りが見えてきている。
ヒノカミ神楽 炎舞(えんぶ)
炭治郎が龍の身体を駆け上り、更に距離を縮める。しかし憎珀天が正面から回音波を再び放った。先ほどよりも近距離で攻撃を受け、炭治郎の動きが一瞬硬直。そこに数十メートルはあろうかという龍の尾が動き、瞬きの後には炭治郎の身体が横殴りに吹っ飛ばされていた。
「炭治郎!!!」
耳栓をしているから聴こえないとわかっていても、思わず叫んでいた。吹っ飛んだ先で落下の威力を相殺するような動きをしているのが見えたから、致命傷にはなっていないと思うけれど。それでも大ダメージなのに変わりはない筈だ。
森に突っ込んだ炭治郎の姿を見て怒り狂った禰豆子が、力任せに憎珀天に蹴りを見舞う。しかし憎珀天は頸にクリーンヒットした足を難なく掴んだ。上弦の肆ともなれば禰豆子の攻撃も歯が立たないらしい。足を掴み、炭治郎同様に地面へ向けて投げ飛ばす。
「くっ…!!」
瞬間、第六感の予知能力が働いた。禰豆子の落ちる先に炭治郎が居る。禰豆子もそうだが、特に炭治郎が空から落ちてくる禰豆子を受け止めきれない。よくもスプラッターな映像を見せてくれたな予知能力!
そんなの、当然回避するに決まっている!
闇の呼吸 伍ノ型 淵源開闢(えんげんかいびゃく)
雷の呼吸で加速して禰豆子を横から受け止め、落下地点の軌道を逸らした。そのまま落下地点の木龍に型を放ち、威力を相殺する。龍の上に禰豆子を下ろした時、再び予知能力が働く。私たちを串刺しにする木龍の姿が。
しかし頭上で銃声が響いたと同時に、その予知も霧散した。
「うるせーんだよガキ鬼!ちったぁ黙りやがれ!!」
耳栓越しでも聴こえるくらいの馬鹿でかい声で玄弥が叫ぶ。憎珀天が私たちに追撃しようとするのを止めてくれたらしい。
「悪人に生きる資格などなし!!」
憎珀天が叫ぶと同時に龍の口が玄弥を飲み込んだ。ギリギリと口が閉じ、見なくても、予知能力を使わなくてもじきに木龍が玄弥を嚙み潰すのがわかる。
「くっっっそが!!!!!」
自分の無力さに悔しさと苛立ちが募り、思い切り暴言を吐いた。漆ノ型で力任せに攻撃を切り裂き、龍の身体を飛び移りながら玄弥を飲み込んだ龍の頭目掛けて居合切りを叩きこむ。
血鬼術 狂鳴雷殺(きょうめいらいさつ)
『感情任せに突っ込むな』って師範に言われていたな、そういえば。
飛んで火にいる夏の虫。攻撃を当てるどころかカウンターで鳩尾にを別の龍の頭を食らって吹っ飛ばされ、挙句に雷と回音波が飛んできた。この至近距離、流石に回避は無理だ。
駄目だ。マジで死ぬわこれ。…なんて他人事の様な考えが浮かんだ時、視界が予測不能な方向に振れた。
「!?!?!?」
「**ちゃああん!!無事よね!?よかったああああ!!」
気づけばいつの間にか私の身体は柔らかな細腕…に見せかけた筋肉ミチミチの堅い腕に抱えられていた。視界は夜目だからこそわかるけど、綺麗な桜餅カラー。ふんわり香る甘やかな香りは蜜璃さん特有のものだ。耳栓を外し、きらきらとした瞳を見上げる。
「蜜璃、さん…?」
「そうよぉそうなのよ!!本当に生きててよかった!遅れてごめんね!!」
助かった…安堵するのも束の間、玄弥が龍に捕らわれているのを思い出した
「蜜璃さん!!玄弥を助けてください!!あの龍の口の中です!!」
木龍の口は未だ閉じ切ってはいない。さっきの時点では既に鬼化が解けていると思っていたのだが、もしかしたら木龍を喰らう事で鬼化して耐えているのかもしれない。しかしそれも時間の問題だろう。
状況を察した蜜璃さんは憎珀天に向かって大声で叫んだ。
「ちょっと君!おいたが過ぎるわよ!玄弥くんを返してもらうからね!」
「黙れあばずれが。儂に命令して良いのはこの世で御一方のみぞ」
蜜璃さんの啖呵を鼻で嗤う憎珀天。どころかなかなかのセクハラ発言までかましてきた。目線は確実に蜜璃さんの主張が激しいおっぱいに向かっている。
…確かにこのデザインはファンタジー世界観な鬼滅の刃界でも軽く引かれる悪目立ちの仕方なんだけどさ。初対面の鬼にピンポイントな罵倒を受けて蜜璃さんは顔を真っ赤にしている。
「あ、あ、あばずれですって!?」
あー、凄い怒ってる。怒ってるって言うか、びっくりしてる。蜜璃さんくらいピュアピュアだと、敵の悪口にも驚愕しちゃうんだな。幸か不幸か、蜜璃さんを見ていると少し冷静になってきた。
蜜璃さんが来てくれた。勝てる、かもしれない。炭治郎たちに半天狗の本体を探させて、私は蜜璃さんの補助だ。おかしな話だが、この世界はノンフィクションなのに、鬼の戦いは原作に近いものになりやすい。私という異物が戦う直前まで鬼と接触していないからか、それとも何かしらかの大きな力によって修正が起きているのかはわからないけれど。
でも、逆に言えば原作に近づけて戦いを進めれば勝てる確率が上がるという事だ。今までは余計な被害者を出さないように物語の改変に積極的だったけれど、この戦いに限っては原作に近づけた方が良い、と思う。
私が思案しているわずかな間に、蜜璃さんは空高く飛び上がり瞬く間に木龍へと技を放っていた。
恋の呼吸 参ノ型 恋猫しぐれ(こいねこしぐれ)
そして次に蜜璃さんの姿が見えた時、蜜璃さんの腕には救い出された玄弥の姿があった。再び私の眼前に降り立ち、キッと憎珀天を睨みつける。
「私、怒ってるから!見た目が子どもでも許さないわよ!」
恋の呼吸 弐ノ型 懊悩巡る恋(おうのうめぐるこい)
蜜璃さんが憎珀天との交戦を開始した。私は私にできる事をしなければいけない!
「玄弥、大丈夫!?」
玄弥に問いかけると、耳栓を外して聞き直した後、こくりと頷いた。目の感じからして、鬼喰いでなんとか耐えていたという私の予想は当たっていた様だ。
「柱が来たのか…」
「うん。だから、炭治郎と玄弥には改めて本体の居場所を探してほしいの。取り敢えず炭治郎を探そう」
周囲を見渡したところ、百メートル程先に炭治郎の気配を感じた。玄弥と駆け寄ると、禰豆子に支えられている炭治郎の姿があった。さっきの落下の衝撃で足を駄目にしている様だ。今立って歩けているのは気力に他ならない。
「炭治郎!!」
私が呼びかけると、炭治郎はこちらに気づき禰豆子と共に近づいてきてくれた。どうやら耳栓は既に外していたらしい。
「**、玄弥…無事でよかった…!蜜璃さんも来てくれたのか!」
私たちを見てホッとした様子の炭治郎。だけど、まだ安心するには早すぎる。
「炭治郎!玄弥と禰豆子と一緒に本体を探す事はできる!?」
「匂いを辿ればなんとか…!俺たちで本体を斬るのか!?」
事前に鬼の特性を説明していた事もあり、察しの良い炭治郎は私の意図をすぐに汲んでくれた。軽く頷き、簡単に説明をする。
「原作では、蜜璃さんが憎珀天と戦っている間、炭治郎と玄弥が鬼を追いかけてたんだ。その状況に近づければ、原作と同じ様に半天狗を殺せるかもしれない」
「お、おい何だよゲンサクって…つーかお前何でそんなに鬼に詳しいんだよ」
「生きて帰れたらちゃんと説明するよ。ともかく、本体を探して!!」
私がそう言うと炭治郎が嗅覚に意識を向け始めた。これでいい。彼らに本体探しを任せ、私は蜜璃さんの援護だ。
蜜璃さんも憎珀天とかなりぎりぎりの戦いをしている。頸を狙うならともかく、防戦しながら注意を逸らすだけなら私も力になれるかもしれない。
「**!」
私が木龍に飛び移ろうとした時、今までにないくらいに焦った声音で炭治郎が大声を出した。同時に憎珀天が狂圧鳴波を打ち出したらしく、距離が離れているとはいえ反射的に耳を抑えながら聞き返す。
「どうしたの!?」
「どうしよう!**!!どうしたらいいんだ!」
「落ち着いて!!だからどうしたの!!」
「本体が居ない…匂いがまったくしないんだ!!」