全集中で駆け抜けたい   作:夜桜百花

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藤の花の家紋の家

 突然だが、私は運動神経が悪い。とても、悪い。

 そして、笑いの神様に愛されてるのではないかというくらいに、どんくさい。どれくらい運動神経が悪くてどんくさいのかというと、小学生の頃ドッジボールで顔面にボールが当たった回数がクラスぶっちぎりの1位だったと誇れる程度だ。最早笑いの神様に愛されているというレベルだと思う。

 そんな私が鬼と渡り合うことができているのは、ひとえに血の滲むようなきっっっつい努力と、死を感じたことによる第六感の才能の開花、そして適性の高い呼吸と出会えた運のおかげだ。あと、師範との人間的な相性。

 

 実は呼吸を使うこと自体は、厳しい修練が必要であるがそこまで人を選ぶものではない。当然だろう。私のようなモブだって出来ているんだから。そこの君、君だってこの世界なら呼吸の使い手になれるんだ!…誰に言ってるんだろう。

 呼吸とは肉体を効率よく動かすための技法。つまり、ある程度のセンスがあればあとは努力で何とかなってしまうわけだ。まあ、その努力がめちゃめちゃしんどいんだけど。

 問題は、自分に適合した呼吸に巡り合うことができるか、なのである。

 その点私の場合は恐ろしく運が良かった。自身に適合する呼吸が、闇の呼吸という呼吸の中でも特に使い手の少ない呼吸であったのにも関わらず、それを教えてくれる育手に出会えたのだから。

 

 師範の修行は死ぬほどしんどかった。指示された内容がめちゃくちゃすぎて、何回「ぱーどぅん?」ってなったかわからない。一生懸命に聞いているはずなのに脳みそが仕事をしてくれなかったレベル。

 でも、理論の解説やアドバイスは要領を得ており、わからないところやできないところを聞けば丁寧に教えてくれる。何より厳しい以上に優しかった。私が現時点で炭治郎達が使えない「全集中の呼吸・常中」を使えているのも師範のおかげだ。

 鱗滝さんのようなタイプの人が師範だったら、たぶん私は耐えきれずにエスケイプを図っていたと思う。いや、悪い人ではないと思う。すごい良い人だと思うんだけどさ。でも「お前の骨を折る」とか平気で言うし。

 あと、なんで全集中の呼吸・常中も教えずに独り立ちさせてんだよって、習得した今なら思うわけですよ。呼吸の常中って隊士の中でも使えるのはほんの一握りだから、当然育手でも使える人は限られるんだけどさ。でもお前、元柱じゃん!?使えるじゃん!?!?じゃあ教えろよ!ってなるわけ。マジでこの技術、あるかないかで大違いだから。

 ちなみに常中を使えない隊士はそもそもこの技法の存在を知らない隊士が半分、知っててもできない隊士が半分ってところだ。これ、豆知識。

 

 …話がそれた。

 要するに何が言いたいかというと、呼吸が使えるようになっても、鬼殺隊士になっても、私はすごく運動神経が悪くどんくさいのだ。異世界転生無双小説のように、どや顔で立ち回りながら「俺の力が知られたらまずい…」なんて到底できやしない。

 さっきの炭治郎と伊之助の攻防を見てただけでも、運動神経というか、身体を動かすセンス?のようなものの格差を感じたし。

 なんだよあの身体の捻り方。なんで人間がナチュラルにあんな動きできるんだよ。少年ジャン●だから?二次元だから?今目の前にいる君たちは私にとっては3次元だけどね??

 

 なぜこんなに、私が自分のどんくささを熱弁しているかというと。

 

「ぎゃあっっ!!」

「うおぉぉおぉお!いてえ!!」

 

 目を覚ますなり急に飛び起きた伊之助の頭に思いっきり私の頭がぶつかったためである。

 なんなんだよこのベタな展開。もっと俊敏に反応できればこんな恥ずかしい展開にはならなかったのに、と思わずにいられない。少女漫画かよ。相手が私って死ぬほど需要ないわ。

 …とまあ、それで、冒頭の言い訳に戻るのだ。

 いや、気絶してる伊之助の顔を覗き込んでなんかいませんよ?やっぱこいつイケメンだな~とか思ってませんよ?怒られないうちに舐めまわす様に顔を観察して、脳裏に焼き付けておこうとか思ってませんってぇ!!

 

「ぎゃあぁあ!!起きたぁ!?」

 

 善逸が叫ぶ。私も叫びたい。間抜け過ぎて。いや、むしろ埋めてほしい。

 

「女ぁ!!てめえさっきはよくも殴ってくれたな!!俺と勝負しろ勝負!!!」

「いった…女じゃなくて**ね。あと、私と戦わなくても、善逸…あそこの金髪タンポポ頭が勝負してくれるよ」

「うっそだろ??!!」

 

 私の言葉に、善逸が死刑宣告を受けたかのような悲鳴を上げた。伊之助が「勝負ぅ!!」と叫びながら善逸を追い回す。逃げ回る善逸。

 

「寝起きでこれだよ!!一番苦手これ!!」

 

 ごめんよ善逸…。でも、私も今そういうのについて行けるテンションじゃないんだ。さっき墜落死から救った借りがあるだろう?お願い代わりに頑張って。

 善逸を犠牲にした私は、先ほどまで行っていた作業に戻る。鼓屋敷で亡くなった犠牲者たちの弔いだ。鼓屋敷からスコップを拝借し、兄妹たちに手伝ってもらいながらひたすらに穴を掘っていく。妹ちゃんにはこんな荒い仕事をさせたくないから、近くに花を摘みに行ってもらっている。

 

 炭治郎や兄妹たちと作業をしていると、逃げ回っていた善逸がこちらに走ってきた。そして私を盾にする。おい待て。こいつほんとに私の事盾要員だと思っているだろ。まあ、今回は私も悪いんだけど。

 

「何してんだお前ら!!」

「埋葬だよ。伊之助も手伝ってくれ。まだ屋敷の中に殺された人が居るんだ」

 

 炭治郎が答えるが、伊之助は心底理解できないと言った風だ。

 

「生き物の死体なんか埋めて何の意味がある?やらねぇぜ?手伝わねぇぜ?そんなことより、俺と戦え!!」

 

 うわぁ…脳筋だぁ…でも確かに、山で獣と暮らしていたならそう言った考えになるのかも。

 ところで善逸。そろそろ私を盾にするのはやめようか?

 しかしそれを聞いた炭治郎は、どういう訳か優し気な表情で伊之助を見つめた。

 

「そうか…傷が痛むからできないんだな…」

「は?」

 

 炭治郎くん?なんでそういう解釈になったの?

 

「駄目だこいつら…どっちもおかしいわ…」

 

 そうだね、善逸。噛み合っていないねこいつら。そして、はようその腕を放しなさい。これ以上のおさわりはオタク的にやばい気がするの。

 炭治郎は心底可哀そうに思っていると言った慈悲の表情で続けた。

 

「いや、いいんだ。痛みを我慢できる度合いは人それぞれだ。亡くなっている人を屋敷の外まで運んで、土を掘って埋葬するのは本当に大変だし、**や善逸、この子たちと頑張るから大丈夫だよ」

 

 …ずれてる。もはや煽ってるんだよなぁ。

「ね?」と顔を向けられた兄妹たちも、私たちと同じ心境のようで、微妙な表情をしながら目を逸らしている。

 

「伊之助は休んでいると良い。無理言って済まなかったな」

 

 やめて炭治郎!これ以上屈託のない慈愛の顔を伊之助に向けるのをやめて!!もう見ている私達が耐えられないから!!!

 

「はぁ???舐めるんじゃねえぞ!100人でも200人でも埋めてやるよぉ!!!」

 

 ビキビキと青筋を立てた伊之助がそう叫んだ。うーん。単純である。ある意味功を奏したのかもしれない。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 何とか全ての人たちを埋めて、弔うことができた。犠牲になった青年たちを想って手を合わせる。少し離れたところでは、仕事の終わった伊之助が木に頭突きをしている。

 

「なにしてるの??あの人」

「見ちゃだめだ」

 

 傍ではひそひそと兄妹たちの会話が聴こえる。この兄妹がここに居る誰よりも大人だと思うのよ私。

 そうしていると、炭治郎の鎹烏が山を下りろと指示を出してきた。黒曜はどうしたんだろうと思っていると、不貞腐れた顔で私の肩に降りてきてプイとそっぽを向いた。自分が指示できなかったから拗ねちゃったみたい。チュン太郎も善逸の頭に降り立って一声可愛く鳴いた。

 伊之助の烏は何処に居るんだろう?と軽く探すと、木陰からこっそりとこちらの様子を窺っていた。なんであんなにこそこそしているんだろう?心なしか見た目も荒んでいる。

 

「担当の剣士に喰われカァけたらしいぞ」

「ああ~なるほど…」

 

 私の疑問を読み取って回答をしてくれる黒曜。不憫な烏だ。伊之助に当たったのが運の尽きだったな…。あとで何か光物をあげよう。

 

「おい!どこへ行く!」

 

 炭治郎の鎹烏に従って歩き始めると、木に頭突きをしていた伊之助が叫ぶ。「山を降りるんだよ」と炭治郎が返すと、まだ勝負がついていないとごねた。あ、それまだ続いていたんだね。

 

「疲れてるだろー?いいから降りるぞ」

 

 あ、炭治郎。それ言ったら…。

 

「はぁぁああ??俺は疲れてねぇ!!勝負だ!!」

 

 …ほら、やっぱりね。まぁ何はともあれ、伊之助もついてきてくれそうで良かった。

 

 山の麓まで来たところで、兄妹たちと別れた。

 ちなみに、鬼に攫われたお兄ちゃんは稀血だったらしく、炭治郎の鎹烏から鬼除けとして藤の花の香り袋を渡されていた。ゲロ付きで。お兄ちゃん、ちょっと顔が青ざめていた。そらそうだ。でも持っておく方がいいよ。

 ひとまず任務をこなしたわけで。長かった1日がようやく終わりそうだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「勝負だ!!勝負しろ!!」

 

 山を降り始めてから小一時間、伊之助は炭治郎にずっとそう言っている。中途半端に勝負を中断させられたのがよっぽど気に入らなかったらしい。

 でも、短い付き合いでも伊之助の扱いは大体把握できている。伊達に鬼滅オタクをやっていなかったからね。特に最推しはかまぼこ隊だったわけでして、これくらいは朝飯前。こう言えばいいんだよ。

 

「はぁ~あ…伊之助は力比べじゃないと実力を見せられないの?炭治郎、骨も折れてるのにさ~。そんな彼に勝っても嬉しい?別の方法でも勝てるってところ見せつけなきゃ」

「なっ!!勝てるわ!!余裕だわ!!力以外でも俺は最強だ!!」

 

 ポイントは『この程度もわからない可哀そうな子だ』という感じで呆れ気味に言う事だ。煽り効果抜群。

 うん、ちょろいな。これでさっきのように伊之助が暴れることは無いだろう。少なくともしばらくのうちは。

 

「いいか、俺は必ず隙を見てお前に勝つぞ!!」

 

 伊之助がまたも炭治郎にそう叫ぶ。

 

「俺は「お前」じゃない、竈門炭治郎だっ!!」

 

 だーかぁーらーそこじゃないんだよ炭治郎。ずれてるよ炭治郎。

 私がぼそりとそう呟くと、隣を歩いている疲れた顔の善逸が静かに頷いた。良かった、私が間違っているんじゃなかった。

 

「蒲鉾権八郎…お前に勝つ!!」

「誰なんだそれは!!」

 

 炭治郎の言葉を聞いた伊之助はなんか厨二くさいポーズと共に、改めて宣戦布告をした。言い直したばかりなのにも関わらず、名前が絶望的に違う。

 …ってかまぼこ…ごんぱちろう?もしかして…これは…。

 いい加減に頭に来たらしい善逸が叫んだ後に驚いて私を見やる。

 

「だぁぁああ!!うるっさいわ!!…って、なんで**ちゃんは涙を流してるのさ!わけわかんないよ、泣く要素あった?!」

「いや…感動のあまり」

「なんで?!?!」

 

 だって、かまぼこだよ?あの、かまぼこ隊の由来になったシーンだよ?そこに私がいるなんて…もうこれ、私も正式なかまぼこ隊でしょ。…うっ、涙で前が見えん。

 ドン引きの善逸。炭治郎はリアクションに困っているし、伊之助ですら怪訝そうにこちらを見てくる。仕方ないじゃないか。鬼滅ファンがこのシーンを生で見て感動しないわけないだろう?

 争いは止んだけれど、山を降りるまで私と彼らの距離は物理的に開いていた。辛い。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「休息、休息ゥ!!負傷ニツキ、完治スルマデ休息セヨ!!」

 

 炭治郎の鎹烏の指示に従って歩く事おおよそ数時間。満月が高く昇ってきた頃に藤の花の家紋の家に到着した私たちは、手厚いもてなしを受けた。

 炭治郎達は藤の花の家紋の家に泊まるのは初めてだったようで、歓迎具合に驚きっぱなしだ。でも、私も何回泊めて頂いても慣れない。先祖が助けてもらったというだけで、見ず知らずの他人をこんな遅い時間にもてなそうと思えるだろうか?

 清潔な(しかも私たちそれぞれにぴったりサイズの)浴衣に温かいお風呂、それに上等な食事。家主のおばあさんは目にも止まらぬスピードで全ての支度を済ませてくれた。

 

「妖怪だよ炭治郎!**ちゃん!!あのばあさん妖怪だ!速いもん異様に!妖怪妖怪!!」

 

 まあ、気持ちはわかるけどね?善逸はこの後私と炭治郎に両側から拳骨をくらわされて撃沈した。

 食事は本当にどんな速度で用意したんだよ?ってくらいに豪華だった。大盛りの白米に天ぷら、煮物にお味噌汁。特に天ぷらは揚げたてのほかほかだ。うーん…おいしい!本当の本当に、こんなに手厚くもてなしてもらっちゃって良いの?

 野生児の伊之助は両手で天ぷらにがっついている。善逸の「箸使えよ…」という注意も無視だ。それどころか、炭治郎の天ぷらも横取りした上にものすごく腹の立つ笑顔を炭治郎に向けている。

 あ、自分が肉弾戦禁止されたから、炭治郎から勝負を仕掛けさせる気なのね伊之助。わかりやすく炭治郎を挑発している。私と善逸は呆れ顔を隠せずにいる。さあ、どう出る炭治郎?さすがに食べ物が絡むとキレるか??

 

「そんなにお腹が空いているなら、これも食べていいぞ~」

 

 つ…伝わってなーい!!!炭治郎くん、伝わってませーん!!!

 これも長男力ってやつか?絶対鈍いだけだろ!!

 挑発が上手くいかなかった伊之助は猿のように叫んでいる。はぁ、とため息をついて、私は炭治郎と伊之助を宥めた。

 

「伊之助。ちゃんと食べないと炭治郎も力入らないから勝負の時に万全で臨めないよ?いいの?それとも、弱っているところを潰すのが山の王のご趣味?」

「はぁあ??んなわけねーし!!100%の権八郎をぶちのめせるし!!」

「そんじゃ、その辺にしときなさい。炭治郎も、ちゃんと食べないとだめでしょ。我慢のし過ぎはよくないです。私の天ぷらあげるから」

 

 私がそう言うと、炭治郎が驚いた様に声をあげた。

 

「えっでも…」

「あ、食べかけは嫌?大丈夫、まだ箸つけてないから」

 

 流石に私でも食べかけを人に渡しはしないぞ?ましてや推しだ。畏れ多くて死ねる。

 

「いや、それは気にしないんだが、**の分がなくなるだろ?俺は大丈夫だぞ」

「うるさい」

 

 そう言って海老天を炭治郎の口に無理矢理突っ込めば、炭治郎はふがふがと言いながら赤い顔をしてありがとうと呟いた。うん。素直でよろしい。

 

「お布団でございます」

 

 寝る支度を整えて戻ってくると、おばあさんが布団を敷いてくれていた。「出た!ようk…」と言いかけた善逸が私と炭治郎に再びはたかれたのは言うまでもない。

 

「早いもん勝ちぃ~。俺がこっちだ」

 

 そう言って伊之助が一番東の布団に飛び込んだ。足を豪快に開いて寝そべるからチラリズムがすごい。いやん、目に毒♡

 そんな伊之助の挑発にもやっぱり炭治郎は気づかない。にっこりと笑って「いいぞ、好きなところで寝ろ」な~んて言ってる。もはや、手のかかる弟くらいに思ってません?本当に同い年なのこの2人?

 それを聞いた伊之助はムキィ!!と叫ぶと八つ当たりで枕を私の方に投げてきた。何となくそんな展開になる予感がしたからサッと避けると、後ろに居た善逸がそれを顔面にくらった。うーん、不憫。というか…あれ?布団、3つしかない。

 

「私の布団、無くない?」

「お嬢様のお布団はお隣の部屋にございます」

 

 私の疑問に、家主のおばあさんが答えてくれる。

 私だけ別??女の子だから、当然ではあるんだろうけど…。

 

「え、やだ!私も皆と寝る!!」

「駄目に決まっているだろう?嫁入り前の女の子が、男と寝室を共にするなんて」

 

 私が叫ぶと、炭治郎が困り果てた顔でそう言った。しかし、そう言われておとなしく納得する私ではない。というかその程度で引き下がるならこんな事言っていない。

 

「お願い!!一生のお願い!!私だけ部屋が別だなんて寂しすぎるぅ!!!」

 

 かまぼこ隊を眺められないし、という言葉は省略しておく。

 寂しいのは本当だもん。久しぶりに人と会えたんだもん。そりゃあ、同じ空間で寝るとか尊過ぎて無事に朝を迎えられる気がしないのはあるけどさ、それ以上に1人で寝るのが寂しい。そしてこんなチャンス逃すわけにはいかない。

 ちなみにこの数日、話した人間と言えば最低限の宿の人との会話の他は野党や暴漢のみだ(こちらからの一方的な肉体言語含む)。唯一のまともな会話をしてくれたのは黒曜ただ1羽。烏と話すだけの日々がどれだけ空虚か、おわかりか?

 

「炭治郎!余計なことを言うな!女の子が自ら一緒に寝たいと言ってくる機会なんざ、今後一生訪れないかもしれないんだぞ!!!」

 

 善逸がそう言って炭治郎を説得する。下心丸出しの発現ではあるが、実際に手を出す度胸はないと知っているので、ここはスルーしておく。

 

「そうは言うが…」

 

 それでも渋る炭治郎。長男の道徳性と貞操観念ってやつか。鬼滅の刃が道徳教育にもってこいと言われる所以である。爛れた精神年齢成人済の薄汚ねぇオタクには通用しないがな!

 そんな炭治郎に追い打ちをかけるように口出ししてきたのは、男女で区別をつけるという概念自体の無い、道徳レベル小学生以下の伊之助だ。シンプルに理解できないといった表情で口を挟む。

 

「別によくねえか?何が駄目なんだよ」

「年頃の男と女が同じ部屋で寝るのは良くないんだよ。俺は15歳だけど、見たところ皆同じくらいだろう?」

「俺は15だ。たぶん」

「俺は16だよ」

「私も(肉体年齢でいうのならたぶん)16だね」

 

 伊之助と善逸に続いて、私もそう答える。何となく、とんでもない詐欺をしている気分になる。ああ、コナ●君もこんな気持ちだったのかな。

 

「だろ?16なら、もう立派な大人だ。嫁入り前の娘さんが男と床を同じくするべきではない」

「だぁかぁらぁそれの何がよくないんだよってぇの!」

 

 16でアウトなら本当の年齢は容赦なくアウトだろうな。言わないけど。

 そしてオカンじみた炭治郎の説明も、野生児には通用しない。炭治郎が懇切丁寧に伊之助に説明している隙を狙い、おばあさんにお願いして布団を同じ部屋に移してもらうことに成功した。ありがとうおばあさん…。

 場所は部屋の西側。右から伊之助、炭治郎、善逸、私の順番だ。

 

「もう…今日だけだからな」

 

 炭治郎がため息交じりにそう言った。

 

「うん!(大嘘)」

 

 私もそれににっこりと頷いた。当然守る気はない。これからも、隙を突いては推しの寝息をBGMに寝てみせる!!

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「お医者様でございます」

 

 布団騒動の後、おばあさんはお医者さんまで呼んでくれた。お医者さんも、こんな遅い時間に来てくれてありがとう。

 3人が一斉に胸元を開ける。逞しい胸筋が丸見えだ。いやん♡♡

 こっそりガン見しておくのも忘れない。この美しい光景を網膜に焼き付けよう。

 私だけは服の上から聴診器を当ててもらった。隣で善逸が少し残念そうな顔をしているのがわかったが無視しておくことにする。3人の胸板はガン見していたくせに、自分は隠す。女の特権を未だかつてないほど利用している。

 

「うん、重症」

 

 医者にそう告げられる。まあ、そうだろうな。

 

「…4人中3人が、肋折れてるとはな」

 

 お医者さんを見送った後、それぞれの布団に4人で横たわった。2本肋を折った善逸がそう呟く。

 

「アバラより、コブが痛てえ…」

 

そう言って伊之助が頭をさする。

 

「あー…ごめんね?」

 

とりあえず謝っておくことにする。あんまり悪いと思ってないけど。

 

「でもさ、炭治郎はともかく善逸は伊之助に殴られたからだし伊之助は炭治郎に殴られたからじゃん。なんで仲間割れで骨折してんのよ」

 

 コブは私だけど。とは言わない。

 私が白い目を向けてそう言うと、加害者である炭治郎と伊之助は返す言葉も無いと言った虚無の表情を浮かべた。

 

 お医者さんに診察してもらったところ、見事に3人は骨折をしていた。ちなみに私は身体中打撲しているが、骨折はせずに済んだ。自由落下からの地面に激突して骨を折っていないのは、鬼滅の刃的には普通かもしれないけど元の世界で考えると凄すぎる。ナイス私。

 1番心配していた炭治郎を殴った手も、腫れ上がりはしたが骨に異常はない。1週間もすれば次の任務に就くことになるだろう。でも、きっと明日には身体中青タンまみれだ。ああいやだ。年頃の女の子だと言うのに。

 善逸が伊之助をじろりと睨む。

 

「お前、俺に謝れよな。痛かったんだぞ。ぼかすかぼかすか叩きやがって。謝れ」

「断る」

「謝れよぉ!!!」

「断るぅ!!」

 

 断り続ける伊之助に吠える善逸。なんでそんなに頑ななんだ。そして、謝られたらそれであっさり許すんだ善逸。骨折られてるのに。

 

「そんなんじゃもう、ご飯を一緒に食べてやんないぞ」

「はぁ?なんだそりゃ」

「ご飯は皆で一緒に食べたほうが美味しいんだぞ」

「そうだぞっ」

 

 善逸の言葉に続いて炭治郎も賛同する。

 食事なんて勝手に食べりゃいいじゃん、初対面の相手に対してえらい押しつけがましい言い方だな…と一瞬思ったが、2人からすれば伊之助はもう仲間で、仲間と食事をするのは当たり前という価値観なんだろう。

 勝手な予想だけど、この時代、もしかしたら仲間で食事をする文化が思っていたよりも根強いのかもしれない。軍隊の仲間で食事をするみたいな?何となく高校生の頃友達と昼食を取っていたのも連鎖的に思い出した。

 そう思うと、この言葉、かなり胸にくるわ。ご飯を一緒に食べるという概念のない伊之助に、一緒に食べる人を失った炭治郎と善逸…。あかん、また涙が出てきよる。

 

「お前ら…頭大丈夫か」

「お前に言われたくねぇ!!てか**ちゃんはなんでまた泣いてんの!?」

「大丈夫だ、問題ない」

「何が大丈夫なの?!」

 

 寝る前の雑談タイムは続く。

 話題は鬼殺隊への入隊理由に移った。伊之助は、鬼殺隊がどれほどのもんだと言う。炭治郎が、伊之助が鬼殺隊に入った理由を尋ねると、伊之助は「山に入ってきた鬼殺隊員と力比べで勝ち、刀を奪って最終選別の情報を得た」と答えた。

 当然私たちはドン引きだ。炭治郎すらもドン引きだ。可哀そうに、名も無き鬼殺隊員。

 

「**は、どうして鬼殺隊に入ったんだ?」

「色々あってね。育手のおばあさんに拾われたんだ。すごく立派な人でさ。あの人達に恥じない人間になりたかった(あと、鬼殺隊に入ったら君たちに会えないかなーとか期待してた)」

 

 括弧の部分はもちろん省略しておく。そしたら、「すごく立派なことだな!**は凄いな!」と笑顔で褒め称えられた。罪悪感がすごい。

 

「…炭治郎。誰も聞かないから俺が聞くけどさ、鬼を連れているのはどういうことなんだ?」

暫くの間の後に、善逸が起き上がって、おずおずとそう尋ねる。沈黙の後、尋ねられるのを待っていたかのように炭治郎がぽつりぽつりと呟いた。

 

「**と善逸はわかってたんだったな。善逸はわかってた上で、庇ってくれたんだよな。**も、黙っていてくれてたんだよな。2人とも、ありがとう」

 

 その言葉に善逸が身を捩って照れる。そのにやけ方やめた方がいいと思うよと思ったが口には出さないでおく。流石に野暮ってものだろう。

 

「俺は鼻が利くんだ。最初から分かっていたよ。善逸が強いのも、**が優しいのも」

「いや、強くはねぇよ?ふざけんなよ?」

 

 え、何その落差。急にスンっとした表情になるのやめて?

 そうしていると、箱がガタリと音を立てて開いた。先ほどまで炭治郎にすごんでいた善逸は、一転して恐怖に怯えた表情で私の陰に隠れる。やっぱりこいつ私のこと盾だと思ってるよな?

 箱が開くと中からひょっこり現れたのは我らが天使、禰豆子ちゃん。いよっ待ってました!!

 

「紹介するよ。妹の禰豆子だ」

 

 炭治郎がそう言う。それに呼応するように、禰豆子は箱に入る大きさから元の姿になった。

 

「私は**。よろしくね。禰豆子」

 

 そう言ってニコッと笑いかけると禰豆子は「むー♪」と言って笑い返してくれた。

 か…、可愛い!これがヒロインの力と言うやつか。なんだか堪らなくなって禰豆子を抱きしめた。私は今、抗いようのない「KAWAII」に屈服しているのである…これが幸せというやつか。なんかリラックス効果ある気がする。眠気が一気に来たもん。

 

「炭治郎…お前」

 

 ふと後ろを見ると善逸が物凄い殺気を放っていた。声も低い。普通にしてたらイケボなんだよな、善逸。

 雷の呼吸を使っているのか、電気をバチバチと纏わせたまま言葉を紡ぐ。

 

「お前…いいご身分だなぁ?!こんな可愛い子を連れてたというのか。こんな可愛い女の子を連れて、ウキウキウキウキと旅をしていたんだなぁ…。妹だとしても許すまじ!!!鬼殺隊を舐めるなよ!!」

 

 そう言って刀を構え、炭治郎を追いかけ回す。ドタバタと大騒ぎが始まった。今何時だと思ってるの?

 伊之助は眠気が来たらしく、いつの間にやら寝入ってしまっている。こんな騒がしいのによく寝られるな。

 …でも、私ももう眠い。禰豆子ちゃんと一緒に寝るとしよう。

 

「禰豆子。一緒に寝「炭治郎!待てー!」

 

 もう眠いのに、早く寝させ「粛清してやるー!」

 

 …いやもういい加減に「止まりやがれ!!」

 

 ぷっつん。

 

「…うるっっっせえわ!!!!!!!!!!」

 

 近所に響き渡る怒鳴り声。ごめんなさい近隣の皆さん。そうですね、私が一番うるさいですね。私の怒鳴り声に、時間が止まったかのように2人の動きは止まった。

 

「もう、あのね、ほんとに眠いの、マジで。いや、ほんっとうに、ね、勘弁して」

「「ごめんなさい…」」

 

 炭治郎と善逸が反射的に謝罪を口にする。

 いや、許さん。お姉ちゃんはもう怒りました。なんか闇の呼吸で幻影纏わりつかせちゃってるけど、仕方ないね。眠くてイライラしてるんだもん。睡眠は私にとって最も大切な生理欲求なのだ。

 

「炭治郎。善逸に謝りなさい。全くあんたに非はないけど、とりあえず謝っときなさい」

「ご…ゴメンナサイ」

 

 予想外のお説教に、炭治郎がカタコトになりながら謝罪を口にした。更に私は畳みかける。

 

「あと、禰豆子にも謝りなさい。こっちはあんたに非がある。なんで、もっと早く紹介しなかったの。もっと早く紹介してくれたら、禰豆子も狭苦しい箱の中でずっと過ごす必要なかったのに」

「うう…それは本当にすまない、禰豆子」

「むーむー(かまへんで)」

「いや、俺の扱い酷過ぎやしない?」

 

 私の言葉にしょんぼりとする炭治郎。手をひらひらと振る禰豆子。納得のいかない善逸に鼻提灯を器用に膨らませる伊之助。

 

「そして善逸」

「え、はい」

 

 矛先を向けられた善逸は、私の言葉にびくりと肩を震わせた。炭治郎と伊之助を拳骨した時の事を思い出したのだろう。小動物の様にカタカタと震えられると何だか私が悪い事をしている気分になってしまう。

 

「あんたはつまりこういう事ね?炭治郎が可愛い女の子を連れて旅をしているのに嫉妬している。」

「そうですけど…」

「自分も女の子とキャッキャウフフしたいのにと」

「う…改めて言われると刺さる…そうです」

 

 言葉の矢が急所に当たったらしい善逸が胸を抑えて撃沈しつつも返答した。眠すぎて女らしからぬ声を出しているであろう私は、特に気にする事もなくその場で思いついた案を口にした。

 

「じゃあほれ、とりあえずはこれで我慢しなさい」

 

「女の子が居ればおとなしくなるんでしょ?」そう言って布団の東側、すぐに眠れる体勢で布団の上に座っている私にとってはすぐ左をポンポンと叩けば、善逸は笑えるくらいに狼狽した。

 

「へ?!そそそそれは、**ちゃん、つつ、つまりえっと」

「今更だけど、**でいいよ。ちゃん付けされる歳でもないし。とりあえずは私の添い寝で我慢しろ。早く寝たい。やかましいと寝れない」

 

 まあ元々隣の布団だから大差はないけど。もうほんとにマジでとんでもなく眠いの。今にも意識飛びそうなのに、騒がしいせいで眠れやしない。

 ちなみに禰豆子は、私が善逸に説教をしている間に私の右隣ですよすよと寝入ってしまった。炭治郎もとりあえずは落ち着いたと言った様子で自分の布団へと戻る。

 

「え…えっとじゃあ、オジャマシマス…?」

「ほいほい」

 

 そう言ってカチコチに緊張しながら布団に潜り込んでくる善逸の頭をポンポンと撫でてやる。あ、眠い。寝かしつけてるの私なのに、私が先に寝落ちするわこれ。

 推しと一緒で寝れるかな?とかも思ってたけど、それ以上に誰かと一緒に寝れるっていう安心感がやばい。いつぶりだろ…。

 そのままゆっくりと意識が沈んでいった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 朝までぐっすりで絶対目なんか覚めないと思っていたのに、戦いの後で興奮していたのだろうか。ふと、目が覚めた。まだ外は暗い。

 眠ってから、1刻も経っていないだろうか。ぼーっとする頭。再び夢の中に入ろうと思いながら、ふと、目の前のあったかい物体に気が付いた。善逸だ。それに気づいた瞬間、「あ、やっちまった」と悟った。

 もしかして、今私は善逸と添い寝をしていますか?頭ポンポンもした気がします。

 

 やりましたね、私。

 

 戦いの最中になし崩しのボディタッチをした事は、命が懸かっていたからまだ許されるだろうが、炭治郎おんぶに引き続き、善逸と添い寝ですか。出会って1日でやっちまいました。

 もう私絶対元の世界に帰れない。いや、元々帰る手段なんかないけど。帰ったとしてもウン千万人のファンに殺されてしまう。鬼滅ファンはもちろん、ぜんねず派の人や腐界のお姉様方にも。

 ヒュッと変な息が漏れた。いかん、全集中の呼吸・常中をしなければ。ヒッヒッフー。いやこれラマーズ法。

 

「**…どうしたの??」

 

 私の心臓が爆音を奏でていたのか、それとも呼吸音の乱れに気づいたのか、善逸が目を覚ました。寝ぼけまなこで目を擦っている。

 

「あ…ゼンイツサン」

「なんでカタコトなのさ…」

「いや、えーと、あのですね、差し出がましい真似をしてしまい、大変申し訳ございません。今からでも、禰豆子様と場所を代わりましょうか?ボーイズなラウ゛をお好みならば炭治郎と密着して頂ければ…」

「何言ってんの」

 

 とりあえず、ぜんねずか炭善にするか?と提案するも、一蹴された。くそう、人間は愚かだ。いつだって己の過ちに気づいた時には遅いんだ。

 …ん?なんか今、私、もやっとした?何に対してだろう?

 そんな私の思考はいざ知らず、善逸は猫が甘えるように私にすり寄ってきた。さらさらの金髪が、より近くに迫る。お風呂上がりの為炭治郎じゃなくてもわかるくらいにいい香りだ。

 

「俺はここがいい。あったかいし」

「ぐふっ…仰せのままに」

 

 何この破壊力。私、明日死にます?

 善逸はそのままくっつきながら、「ねぇ」と続けた。俯いているため表情はよく見えない。

 

「あのさ…時々でいいからさ…こうやって一緒に寝てくれない?」

「う゛…いや、でも」

「ダメ?」

「…たまーーーーーーーーにだからね」

 

 すまん!全国の善逸ファン、NLBLファンの皆!私は善逸とこれからも添い寝するぞ!!!推しにこんなか細い声でお願いされて断れるだろうか?いや、ない!!

 いやでもまあ、炭治郎が止めるから実際今後添い寝することは無いでしょ。ていうかそもそも、禰豆子が登場したんだから今後は禰豆子一筋になって他の女と添い寝しようなんて考えにはならないだろうし。

 

 しかし、私の予想とは裏腹に、今後も善逸が周りの目を盗んでこっそり私の床に忍び込むようになるのはまた別の話。

 

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