ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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二章12話 尊大な探索者

 

「まあ、ミーフェの事知らなかったみたいだし、大目に見てあげる。本当なら裏路地でボコって、ミーフェの靴舐めるまで許さなかったんだから、ミーフェに感謝しなよ」

 

「は、はい。ありがとうございます!」

 

 驕る少女の態度に対して、素早く言葉を返す。安心して、恐怖が少し和らぎ自然と声が大きくなってしまうかのような感じを意識する。

 

「ん。分かったならよし。あと、この街にいれば分かるようになると思うけど、一応教えてあげる。ミーフェはミーフェ・ホフナー。リデッサス遺跡街の数少ないソロA級探索者。まあ、他のソロA級は群れてるだけの雑魚ばっかで、実質ミーフェがA級最強だから。ミーフェがここまで親切に教えてあげたんだから、ちゃんと覚えてよ。次ミーフェのことシカトしたら、本当に靴舐めるまでボコボコにするから」

 

 ソロA級か……なんだか情報と違うような。確か、この少女はソロB級だったはず。先日遭遇した後にランクが変動しているという可能性もゼロではないが、それよりも嘘をついているとか、見栄を張っているとか、自分のランクを素で間違えて認識しているとかの方が可能性が高いだろう。

 

「はい! ありがとうございます! さっきはすみませんでした!」

 

 まあ、追求しても良い事は無さそうなので、適当に返事をするだけにとどめる。

 

「ま、いいよ。あ、それ待ってると冷めるから食べて良いよ。ミーフェもなんか頼むし」

 

 ホフナーは急に寛大そうな雰囲気を出すと、俺に食事を勧めてきた。『相席している人の食事のタイミングに口出しする』というのは中々できることではないが……まあ、今の俺の状況的には許可を貰えたのは良かった。出来立ての料理は早く食べたいし、かといって勝手に食べ始めたらこの少女は怒りそうな雰囲気がある。

 少々気分が悪いが、ありがたく許可を喜んでおこう。ん? 今、俺は気分が悪いと感じているのか。ん? そんな気分が悪いポイントあっただろうか? こういう面倒な人と関わるのは別に初めてというわけではないし…………うーん、これはアレかな? 最近、良い人とばかり関わっていたから、不快に感じる閾値が厳しくなっているのかもしれないな。気を付けよう。

 

「はい。そうします」

 

 適当に言葉を返しつつ食事に手を付ける。味は普通に美味しい。ただ、クリスクの美味い店には劣るように感じる。まあ、相席している人によって感じ取れる味も変わってしまうのかもしれないが……

 俺が食べている間に、ホフナーは注文が決まったのか、店員を呼びつけ料理を頼んでいた。それに気付かないふりをしつつ自分の料理を黙々と食べるが、残念ながら目の前の迷惑少女は見逃してくれなかった。

 

「お前、魔獣と戦ったことある?」

 

 さっさとここから立ち去るためにも、迷惑少女に話しかけられるまでの間にできるだけ料理を食べておきたかったが……話しかけられてしまったので、しょうがないから適当な言葉を考える。

 

「一度……あ、いえ、戦ったことはありません」

 

 魔獣と遭遇した経験は二回。一度は交戦せず、一度は作業のように抹殺した。どちらも戦ったとは言えない、というのは言い訳だ。たぶん質問の定義的には、『戦った』と答えるのが正しい回答だ。だが、もしどう戦ったかなど詳細を聞かれた際に『スクロールで一発でした』なんて言うわけにもいかない。なので、途中で言葉を変えた。

 

「今、一度って言ったでしょ。何? 一度あるの?」

 

 俺の曖昧な言葉が気に食わなかったのか、ホフナーは追及してきた。まあ、その追及は想定内なので、対応可能だ。

 

「あ、いえ、その魔獣を見た事はあるんですが……逃げてしまったので、戦ったというのは変かと思いまして」

 

 よし、嘘は無かった。今のは交戦しなかった方の一度に関して説明したのだから。

 

「紛らわしいなー。つまり戦ったことないんでしょ。まあ、しょうがないか。弱そうだし」

 

「低層で拾い物するのが精一杯です。えっと、あなたはどうでしょうか。戦闘とかはやっぱり得意で……?」

 

 呼び方に迷ったため二人称を使う。なんか苗字で呼んでも名前で呼んでもケチ付けてきそうだし、敬称とかも悩む。困った時の二人称だ。

 

「『あなた』じゃなくて、『ミーフェさん』でしょ。間違えないでよ」

 

 少し不満そうにホフナーはこちらの呼び方を咎めてきた。どうやら二人称の方が駄目だったみたいだ。『名前+さん』の形で呼んで欲しい人のようだ。まあ、普段から慣れた呼び方なので、俺にとってはむしろ容易い。好感が持てない相手のファーストネームを呼ぶのは少し嫌だけど、ホフナーが拗ねる方が面倒そうなので、しょうがない。

 

「あ、すみません。ミーフェさん」

 

「ん。あと、ミーフェは戦闘が得意なんてレベルじゃないから。超絶強いから。ソロA級でミーフェとやり合える奴なんて滅多にいないし、A+級もミーフェが本気だせば大体ボコれるから。ていうか、この前ミーフェに舐めた口利いた高ランクのやつ半殺しにしたし。まあ、最近はギルドの顔立ててあげてるから、あんまりボコってないけど、ミーフェがガチになったら、皆土下座して道譲るから」

 

 たぶんこの少女はソロB級だと思うが……うーん? 話を盛ってるのかな? いまいちピンとこない。いや、まあ今までの情報を纏めると、実際戦闘力は高そうではあるし、全部が嘘ってことは無さそうだが。うーん。まあ、少なくとも俺よりは強いだろうし、たとえ口だけで実際に手を出さないのだとしても扱いには気を付けよう。

 

「ミーフェさんが尋常じゃなく強いというのは凄く伝わってきました。偉大な探索者の先達とお話しできてよかったです」

 

 適当に言葉を並べつつ、一方でそろそろこの店から出られないかを考える。この流れで、上手く、『じゃあ、さようなら』みたいに持ってけないかな……?

 

「まあね。お前も、まあまあ見る目があるし、そこそこ躾けられてるみたいだが、低層探索者くらいならできるんじゃない?」

 

「あ、ありがとうございます! 頑張ります!」

 

「うん。頑張りなよ」

 

「じゃあ、自分はこれで失礼します! 色々と教えて下さってありがとうございました」

 

 よしよし、あとは会計して店を出よう。そう思い席を立とうとしたが、それよりも早く目の前の少女が口を開いた。

 

「ちょっと、待ってよ。どこ行くの?」

 

「あ、その、お腹いっぱいになったので――」

「――は? ミーフェまだ食べてないんだけど。勝手に店を出ようとしないでよ」

 

「あ、すみません」

 

「はぁ~。分かってないなー。ミーフェがガチになったら裏路地でボコボコ確定なんだど? さっきから話聞いてなかった? それともミーフェの事舐めてるの? ギルドにビビッてやらないと思ってる?」

 

 ホフナーは幼い顔立ちには似合わぬ威圧感を出してきた。お怒りのようだ。

 やはりこの少女は苦手だ。ルティナみたいにぷりぷり怒るんじゃなくて、なんか不機嫌そうなオーラが伝わってくるし、何よりルティナと違う点として、『この少女はもしかしたら手を出すんじゃないか』という雰囲気が僅かながらにある。

 まあギルド側の見解(正確にはギルドに所属している職員一人の意見ではあるが)は手を出さない人ってことらしいし、俺の人間観察的にも手を出さないようなタイプに見える。まさしくギルド職員(ベルガウ)が言っていた口だけというやつだ。でも、僅かながら、なんか気まぐれや短気、あとは心の僅かな溝のようなもので手が出ることもあり得るのではないかと思うのだ。

 

「あっ、そのっ、すみません。決して舐めてるつもりはなくて。むしろ、そのっ! ミーフェさんの事は凄い探索者だと思って尊敬しています」

 

 無理やり話題を変え、話を誤魔化す。

 あと実際ホフナーは悪い意味で凄い奴だし、こんな風に振る舞える勇気は尊敬している。よって俺の言葉に嘘はない。

 いや、まあ別に嘘っぽい事を言って脅しをかけるホフナーに対しては、嘘を吐いても問題がないような気がしないでもないが(勿論、その嘘は整合性があるものであるべきだが)、俺は何となくだが嘘はあまりつきたくない人なので、こういう時でも自分の言葉に嘘がないかを気にしてしまう。

 なんだろう? 一貫性とか連続性とか気にするタイプというのだろうか? ああ、いや、単にあんまり嘘が上手くないし嘘を吐くと緊張したりしてバレちゃいそうだから、嘘を吐かないだけかもしれない。

 

「はぁ~。調子の良い舌だなぁ~。ん~? ミーフェが前、良く回る舌をナイフで刺して抉ってやったって話したっけー?」

 

 言葉を回すホフナーの雰囲気からは悪感情は読み取れない。むしろ、唇は弧を描き、にやにやと上機嫌だ。やはり先ほど考えた通り尊敬の需要と供給のバランスが悪いようだ。

 

「いえ! 聞いてません!」

 

「あ~。言ってなかったかー? でもまあ、それを言ったら、皆ビビちゃって、ミーフェ相手に喋れなくなっちゃうから、あんまり言わないんだよな~。どうしよっかなー? まあ、言わないであげようかな。この店を小便臭くしたくないしね。ミーフェに感謝しなよ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 俺が感謝の声を適当に挙げるとホフナーは片手でそれを軽く制した。大物みたいな振る舞いだ。実際ソロで遺跡を攻略している以上、大物なのかもしれないが、なんか色々と小さい感じが否めなかった。

 それから、席を立つ事を許されなかった俺は、結局ホフナーが料理を食べ終わるまで、彼女の相手をした。彼女の話は色々あったが、一言で纏めると、自己主張が強いってことだ。そして概ねその根幹は戦闘力の強さに支えられているような感じがした。どれほど強いかは分からないが、本人の自称でここまで強いと言い張れるのだから、たぶんかなり強いのだろう。実際ギルド内で見た振る舞いからは強者のようにも見えた。いや、まあ戦闘の素人である俺がどう思っても、それはただの感想でしかないのだが。

 ホフナーが食い終わり、少し時間が経ってようやく、彼女の話が終わった。会計を済まそうとすると、ホフナーが急にキリリとした表情を作った。

 

「ここはミーフェが持つからいいよ。新入り」

 

 奢ってくれるのか……普段なら嬉しいような気持ちを感じる場面なんだが、この少女が相手だと嬉しくない。なんか借りみたいな感じがして、凄く嫌だ。不安になるから奢って欲しくない。

 

「い、いえ、そんな。偉大な先達であるミーフェさんに奢って頂くなんて……!」

 

「いいって。ミーフェは一流だから金もあるんだよ。新入りは無いでしょ。この位、ミーフェ気にしないから」

 

 いや、そこではなく……! 純粋に……! お前に……! 借りを……! 作りたくない!

 

「いえ、ですが……」

 

 抵抗しようと言葉を出すが、ホフナーの表情を見て、留まる。こちらをジロリと睨んでいる。不機嫌そうだ。

 

「ミーフェが良いって言ってるんだけど?」

 

 声に僅かな苛立ちを感じる。よし、止めておこう。この少女を怒らす方が面倒そうだ。ここは奢られ、そしてその恩は踏み倒す方向で行こう。どうせリデッサス遺跡街なんて、そう長くはいないのだから。

 ……長くはいない、か。一瞬だけ胸に感じた痛みを堪えつつ、目の前のホフナーに対応する。

 

「すみません! 失礼しました! ミーフェさん」

 

 俺が謝るとホフナーはさっさと会計を済ませて店を出た。俺もその流れで店を出る。ホフナーと話をしていたためか時間が結構経っている。まだ日は高いが、もしかしたら、午後の活動計画を変更する必要があるかもしれない。

 

「じゃあ、またね、新入り」

 

 そう言ってホフナーは俺に背を向けた。

 

「はい! 色々と教えて下さってありがとうございました!」

 

 その背に向かって適当に言葉を並べつつも内心安堵する。ようやく別れられた。しめしめって言いたいけど、だいぶ予定を乱されたので、しめしめではないな。どっちかと言うとしくしくだ。

 

「――あ、そうだ」

 

 内心少し悲しくなっていると、突然ホフナーが振り返った。今日はもう疲れたんだが……

 

「新入り。もし、ムカつくやつがいたら今度言って良いよ。一度だけならミーフェがそいつボコっておいてあげるよ」

 

 ……?

 いや、別に…………そんなこと言われてもな。

 暴力という手段を持つのはメリットかもしれないけど、ホフナーみたいな存在と親しいと他人に思われるというデメリットがあるし、他にも相手側からの報復を恐れないといけないし、あとまあ暴力による解決法は心情的に選びにくいというのもある。総合的に考えて、ハイリスクローリターンな手段だ。そんな手段は別に持たなくて良い。

 

「…………はい! ありがとうございます!」

 

 持たなくて良いけど、否定したら怒りそうなので、表面的な感謝にとどめておく。俺の言葉を聞くと今度こそホフナーは背を向け歩き、そして路地裏に消え見えなくなった。さっきまでろくでもない話ばかり聞いていたので、路地裏で後ろ暗い事でもするのかな、と一瞬考えてしまう。ああ、いや、口だけだから、しないか? まあ、どちらでも良いか。今度こそ、もう会う事もないだろうし。というか、会いたくないし。

 

 

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