ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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二章33話 獅子と怪物

 

 チラリと視線を動かしユリアを見る。ユリアは少し困ったような表情でホフナーを見ていた。なんだろう? 少し不思議だ。まるで突然話しかけられて困っているかのような表情だ。

 いや、気持ちは分からなくも無いが、元々俺とホフナーが話していたのをユリアが割り込んだのだから、ホフナーの態度もギリギリ分からなくもないというか……ん? なんだ? もしかして、ユリアはホフナーに気付かないで俺に話しかけてきたのか? それはちょっと変な気もするけど……それほどまでに俺と会えた事が驚くべきことだったのだろうか……?

 

「無視してないで答えなさいよ」

 

 ユリアの困惑を無視と捉えたのかホフナーがさらに彼女に詰め寄る。

 

「ミーフェさん、あの、すみません、そのたぶんユリアさんは無視しているわけではなくて――」

「――カイ! ミーフェが舐められてるってことはパーティーが舐められてるってことなんだよ。いいわけないでしょ」

 

 ユリアを庇おうと間に入るが、ホフナーの怒りは止まらなかった。

 思ったより怒っている。不味いなと思い、ユリアをチラリと見る。ユリアは先程の困ったような表情と打って変わって、(にこ)やかな笑みを浮かべていた。柔らかく、そして優しい。慈愛を持っていることが一目で分かるような、そんな表情だ。ふと、悪寒が走った。なんだ……この感覚……?

 

「えっと……ミーフェちゃんって言うのかな? ごめんね。今ね、大事な話をしてるところなの。だから、ちょっと待ってもらっても、いいかな?」

 

 優しい表情でユリアはホフナーに諭すように話した。

 

「は? ミーフェ様でしょ。雑魚探索者がイキらないでよ。調子乗ってると、裏路地でボコボコにするよ?」

 

 ホフナーが低い声で脅しをかけるが、ユリアは笑みを崩さぬままゆっくりとホフナーに近寄っていく。

 

「ミーフェちゃん……えっと、ごめんね? でも私、フジガサキさんとお話したくて。少しだけ待ってくれないかな……?」

 

 優しい声音だが、提案自体はホフナーの意向を完全に無視していると取れなくもない。控えめなユリアにしては珍しい、いや非常に珍しいと言える気がする。なんかクリスクにいた時よりも大胆だ。何かあったのかな?

 

「だから、ミーフェ様でしょ。お前みたいな雑魚が調子に乗っていい相手じゃないんだけど。格の違いが分からないかなー。まあ、雑魚すぎると、ミーフェの強さが分かんないか」

 

 ホフナーは、一度大きくため息をつくと、なぜか俺の方に一度顔を向けた。得意げな表情をしている。いや、そういう表情をされましても……

 

「ミーフェちゃん、あのね、私たちは、同じ探索者で対等な関係だと思うんだ。だから、様とかそういう呼び方は普通はしないんじゃないかな……」

 

 困っている俺とは裏腹に、ユリアは自然な口調でまたしてもホフナーに語りかけた。なんというメンタルの強さ。そしてまともな意見。ホフナーのような非常識な相手に、ここまでまともさを貫けるのは尊敬に値するが、臆病な俺としては、これは不味いのではないだろうかと思ってしまう。

 

「対等なわけないでしょ。ミーフェの方が強いんだからミーフェの方が上に決まってるから。というかさっきから頭が高い。今すぐミーフェに土下座しなさい、四流探索者」

 

 案の定、ホフナーは大変お怒りだ。そして久々の土下座要求だ。思えば最初にホフナーに会った時も土下座要求されたな……

 

「あのね、ミーフェちゃ――」

「――次そのふざけた呼び方したら、ガチでズタボロになるまで痛めつけるよ」

 

 それでもなおホフナーに道理を説こうとするユリアの言葉に重ねるように、ホフナーが低い声で警告を発した。

 

「ミーフェさん! ミーフェさん! あの! いや、お話し中すみません! でも、流石に不味いんじゃないですか、ここ宿の中みたいですし……」

 

 これは不味いと思い、横から会話に割り込む。言葉の最中に振り向いたホフナーの圧力に屈し、謝罪の言葉が出てしまうが、めげずに発言を続けた。気に入っている宿屋で揉め事を起こしたくないし、何よりクリスクで色々親切にしてもらったユリアに酷い目にあってほしくないという思いがある。

 いや、まあ二人が戦ったらどっちが強いのかいまいち分からないけれど。でもホフナーがここまで強気に出る以上、ホフナーが優位なのではないかと素人目線では思ってしまう。

 ホフナーは、こちらの言葉を聞くと、辺りを見回し、一度俺の方を見た。ホフナーと視線が交錯する。なぜか満足気な表情を浮かべている。俺の疑問を他所にホフナーは俺から視線を外し、再びユリアの方を強く睨んだ。

 

「まあ、今日は気分じゃないし特別に見逃してあげるから、さっさっとここから出ていきなよ。二度とミーフェの前でその雑魚面(ざこづら)見せないでよ」

 

 ホフナーは吐き捨てるようにユリアに言葉を投げつけた。それに対してユリアが何かを言う前に、俺の方からもユリアに声をかけることにする。

 

「あの、えっと、ユリアさん。その、すみませんが、今日のところは……」

 

 黙っているユリアは曖昧な表情で、俺とホフナーをそれぞれ見た。

 

「………………、…………その、二人ともごめんなさい。ちょっと焦ってて……また出直しますね」

 

雑魚面(ざこづら)見せないでって言ったんだけど。分かってないのかな、この三下は」

 

 間を置き、悩みながらも言葉を紡ぐユリアに対して、ホフナーが食って掛かる。

 

「えっと……フジガサキさんだけがいるときに来ますね……」

 

 ホフナーに睨まれたユリアは目を逸らしながら少し小さな声で答えた。ホフナーに気を使っているような言動ではあるが、それをやるとホフナーは怒るような気がするが……いや、まあ俺がユリアと同じ立場ならば、同じような事を言ってしまう気もするが……

 

「はぁ~。分かってないなー。カイにも雑魚面(ざこづら)見せるなって意味なんだけど。カイはミーフェの仲間で一流になるんだから、お前みたいな雑魚と馴れ合ってる暇はないの。ほら、さっさと失せなよ」

 

 案の定、ホフナーは呆れと怒りが混じったような態度で手を振りユリアを追い出しにかかった。あと、ホフナーの中では、俺は彼女の仲間確定でかつ一流になりたい人のようだ。特にどちらにも興味はないので、声を大にして違うと言いたいが、ホフナーが怒りそうなので止めておこう。

 

「それは……ちょっと……、その…………」

 

 俺が黙っていると、ユリアが困ったような表情で言葉を悩ませていた。ホフナーの無茶苦茶な話に、心を痛めているのかもしれない。助け船を出せないことに申し訳なく思いつつも、『案外ユリアも結構引き下がらないところがあるのだな』と妙なポイントが気になってしまう。

 

「さっきからボソボソうざいな~。あー、なんか面倒くさくなってきたなー。本当なら即ボコりコースだけど……まあ、カイの顔も立てなきゃいけないし、しょうがないから特別に認めてあげてもいいよ」

 

 ……今までで俺の顔を立ててくれたことがあったのだろうか? いや、俺が認識していないだけで、ホフナーの中ではあったのかもしれない……

 

「本当?! ありがとう! ミーフェちゃ、ミーフェさん……」

 

 おお……ユリアも呼び方を変え……あ、いや、待てホフナーの要求は『様付け』では無かったか……? さりげなくランクダウンしてないか?

 俺がユリアのさり気ない言い換えに困惑している一方で、ホフナーはユリアが屈したと判断したのか勝気な表情を作ると、

 

「まぁ、ミーフェ器デカいから。その代わり、お前は今からミーフェに絶対服従ね。とりあえず、今すぐ土下座してミーフェの靴を舐めなさい。それができたら次に会ってあげないこともないよ」

 

 などと、器の小さい要求をした。

 

「あ、あの、……えっとね。その、私が会いたいのはフジガサキさんだから……ミーフェちゃ、ミーフェさんとは別にいいかなって……」

 

 ちらりと俺の方を見ながら、ユリアは要求を遠回しに断った。ふざけた要求を断ることは自然な事だ。だからそれには驚きはない。でも、遠回しながらも言ってることは火の玉と言うか……なんか俺のイメージしているユリアと少し違うというか。ユリアってこんな人だったっけ?

 ああ、でも俺はユリアが接しているのを見た相手って『フェムトホープ』の面々とスイくらいだから、相手によってはこういう事もあるのかもしれない。実際、ホフナーは癖があるし、相性が悪いのかもしれない。

 

「は? ミーフェ抜きでカイに会えるわけないでしょ。てか、ミーフェに舐めた事言ったらボコるって言ったんだけど? カイに免じて容赦してやったけど、ここまで舐められたらミーフェもガチでいくから。とりあえず表――」

 

 ホフナーは急に言葉を切ると、宿の入口をじっと睨んだ。彼女に釣られてそちらを見ると、険しい顔でこちらを見る茜髪に美少女――ルティナと目が合った。

 

 

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