ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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二章40話 迷惑かけちゃ駄目だよ

 

 『フェムトホープ』と再会した翌日の朝、部屋のドアを開けると、そこにはユリアがいた。今日も昨日と同じく腰から垂れている革に縄状のものを括り付けている。これはやっぱり武器なのだろうか? 以前マリエッタがそんな感じの事を言っていた気がする。

 しかし、宿の中でも武装するとなると、『フェムトホープ』的にはリデッサス遺跡街はかなり危険地帯のようだ。俺も武器を携帯した方が良いのだろうか……?

 

「き、奇遇ですね……!」

 

 俺が安全対策について考えていると、ユリアがぎこちなく話しかけてきた。どうやら偶然、朝起きて活動を開始する時間が噛み合ったようだ。少なくともユリアは偶然だと思っているらしい。

 

「あ、どうも、おはようございます」

 

 出待ちしてないよな……? どうしてもホフナーのせいで疑心暗鬼になってしまう。今日もホフナーは受付で待ち伏せしているのだろうか……

 

「おはようございます……あ、あのフジガサキさん。朝ご飯がまだでしたら、一緒にどうでしょうか……?」

 

 伏し目がち提案してくるユリアからは不安の色が見て取れた。

 特に断る理由もなかったため、彼女の誘いに乗る。移動中に二、三会話を挟み、宿の受付前を通り過ぎようとしたところで、ホフナーが現れた。やはり来たか……

 

「ん、カイ。おはよう。朝一緒に食べるよ」

 

 いつものようにナイフを腰につけている。リデッサス遺跡街はやはり危険なのか……? いや、でもホフナーは敵も多そうだし、性格的にも常時武装しているタイプだろう。きっと治安が良いクリスクでも武装するに違いない。

 

「あ、ミーフェさん。おはようございます。あ、その、えっと、実はユリアさんと一緒に食べることになってまして……」

 

 断れないか試してみる。

 

「は?」

 

 駄目そうだ。

 ホフナーがユリアを睨むと、ユリアは特に緊張することも無く優し気な笑みを返した。

 ……どうして、俺のような小市民には緊張するのにホフナーにような野蛮な相手には緊張しないのだろうか。

 

「おはよう、ミーフェちゃん」

 

「は? ミーフェさん、でしょ」

 

 早速訂正が入った。

 

「え……? ああ、そうだったね。うん、分かってるよ。おはよう、ミーフェさん」

 

 ユリアは最初、心底不思議そうな顔をしたが、後になって昨日の出来事を思い出したのか呼び方を訂正した。ホフナーって結構インパクトあると俺は思っているのだが、ユリアにとっては些事なのかもしれない。やはりAAランクパーティーのエースともなると色々と修羅場を潜っているのだろう。

 

「ん、まあ、いいか。ちょっと口の利き方がなってないけど、ミーフェ器デカいから気にしないよ。雑魚はそもそも頭が悪い奴が多いし。まあ一緒に来てもいいけど態度は弁えなよ」

 

「ありがとう。ミーフェちゃ……ミーフェさん」

 

 朗らかな笑みを浮かべるユリアからは、どうしてか優しさ以外の別のものを感じてしまう。なんか迫力がある……

 しかし、ホフナーはそれに気づかなかったのか、俺の方を向くと、

 

「カイ。カイはミーフェと一緒に一流になるんだから、付き合う相手は選びなよ」

 

 と注意した。

 個人的になんとも言えない空気になりつつも、適当に会話をしながら飯屋へ向かった。適当な会話といっても、殆どがホフナーが喋り、俺がそれの相手をして、ユリアが黙っているだけだ。たぶんユリアはホフナーに気を遣ったのだろう。少し気まずくなりユリアを窺ったが、優しそうな笑みでホフナーを見ていたので、あまり気にしていないのかもしれない。大人の対応というやつだろう。……ユリアの年齢は、元の世界で言うとまだ大人じゃないけど。何と言うか、俺より年下だけど、人間できてるな。俺がたぶんユリアと同じ立場だったら、凄く不快に感じて、きっと態度に出てしまうだろうから。

 店に入り三人でそれぞれ注文を済ませた後も、ホフナーの自分語りは続いた。料理が運ばれた時、ようやくホフナーの語りは止まり、朝食を頬張りはじめた。そしてその隙を突くように、ずっと黙っていたユリアが口を開く。

 

「あのフジガサキさん……良ければ、今日、一緒に行動してもいいですか? 邪魔にならないようにするので……!」

 

 緊張半分、興奮半分といった雰囲気をユリアからは感じる。

 

「ああ、そうですね――」

「――ぐ。駄目に決まってるでしょ。今日カイは、ミーフェと一緒に街巡るんだから」

 

 俺が答えるよりも早く、咀嚼を終えたホフナーが口を挟んできた。

 

「えっと、ミーフェちゃ、ミーフェさんじゃなくて、フジガサキさんに聞いてるんだけどな」

 

「は? カイはミーフェのパーティーだから、リーダーであるミーフェに許可取らない駄目に決まってるでしょ。分かってないなー、雑魚面は」

 

 まだホフナーのパーティーには入っていないし、これからも入る予定はない。

 

「……えっとね。昨日も言おうと思ってたんだけどね。あんまりフジガサキさんに迷惑かけちゃ駄目だよ。ミーフェちゃ、ミーフェさん」

 

 ……!! 言ってしまった……まさか言うとは。いや、そもそも俺が言わないのが悪いのだが……だが、ホフナーは怒ると大変そうだし、それに凶暴な印象がある。あと、実際強そうな気がする。できればホフナーを怒らせたくはないのだが……いや、まあ、俺は怒られないと思うが、ユリアがホフナーに何かされないか心配だ。

 

「さっきから何言ってるの? ミーフェがカイに迷惑かけてるわけないでしょ。それより、ミーフェのこと舐めてるでしょ。ぽっと出てきた雑魚のくせに調子に乗らないでよ」

 

 声に苛立ちを込めながらホフナーがユリアに言葉を投げつける。

 正直、想像していたより怒ってないような気がする。

 

「私はミーフェちゃ、ミーフェさんの事を舐めてなんかいないよ。心配してるんだよ。このままだと、ミーフェちゃんが危険な目に遭ったり、怖い思いをするんじゃないかって心配してるんだよ……」

 

 優しそうな声音ながらも、どこか不安げな表情でユリアが言葉をかける。今さり気なく、ミーフェさんって訂正しそびれている……いや、でもまあ言いたいことは分からなくはない。ホフナーの態度は悪い意味で注目されやすく、場合によっては恨みを買いやすい気がする。それは長期的にはデメリットを積み上げる行為だ。

 しかし、ユリアの優しさに溢れた言葉はホフナーには通じず、むしろ強い怒りを掻き立てる。

 ホフナーが鋭くユリアを睨み、何かを言いかけるが、一度俺と目が合うと、なぜか、言葉を飲み込んだ。それから数秒ほどして再びホフナーが口を開く。

 

「はー、ミーフェの慈悲深さが分からないかな~。雑魚面は。カイの知り合いみたいだから、ミーフェもカイの顔立ててるけど、あんまり舐めてると裏路地でボコボコにするよ。一応言っとくけど、ミーフェがガチになったらA級とかでも瞬殺だから。まあ、力の差がありすぎて実力差が分からないんだろうけど。雑魚面にも分かりやすく言うと、雑魚面が雑用やってる『なんとかホープ』ってパーティーのエースとか相手でも、ミーフェがガチになったら瞬殺だから」

 

 『なんとかホープ』……いや、そこはいいか。あれ? でも『フェムトホープ』のエースってユリアではないか? というか雑用。うん? なんかホフナーの認識は事実とは違うようだ。

 

「えっとミーフェちゃん、『なんとかホープ』じゃなくて『フェムトホープ』だよ……?」

 

 今度は別に意味で心配そうにユリアがホフナーに声をかけた。アホな人を見るような、優しさと不安が混ざった目だ。あとまたミーフェちゃんって言ったなと、俺は細かい事を気にしつつパンを齧る。

 

「は? 何でミーフェが雑魚パーティーなんか覚えないといけないの? あんまり舐めた態度続けるなら、『なんとかホープ』のやつら全員に焼き入れるから」

 

「…………」

 

 ユリアが何とも言えない表情で黙っていると、ホフナーがまたしても口を開く。

 

「もしかして、できないと思ってる? あー、なるほど。分かった、分かった。さっきからイキってる理由、あのリーダーの赤い奴でしょ。確かに赤いのは強いけど、まあガチでやったらミーフェが勝つから。というか、『なんとかホープ』構成からして雑魚すぎるから。戦えるのはリーダーの赤いの一人だけだし、あとは雑魚と雑魚面と超雑魚の銀色だけ。教会かぶれ(・・・)の戦士飼ってる程度でイキってるくらいじゃリデッサスでは生き残れないから。はー、赤いのもミーフェのパーティーに入っていれば一流になれるかもしれないけどな~。まあ、赤いのが土下座して頼んできたら入れてやってもいいけど」

 

 言葉を投げつけて来るホフナーに対して、ユリアは困ったように黙ってしまう。それにホフナーが気を良くしたのか次々と言葉を投げ続け、ようやく一段落したところで、ユリアが伏し目がちに言葉を選ぶように口を動かす。

 

「えっとね。ミーフェちゃん。『フェムトホープ』のリーダーはルティナさんじゃなくてアストリッドさんだよ……?」

 

 悩んだ上の言葉なのだろうが、なんだか本筋とは違うところを突っ込んでいる気がする。いや、まあ『フェムトホープ』のリーダーは確かにルティナではなくアストリッドなのだが。個人的には、口を挟むところはそこなんだ、って感じだ。お、このスープ、単独でも美味いけどパンの後に食べるとより美味しい気がする。

 

「は? アストリッド? どれ? 赤いのじゃないの?」

 

 ホフナーは純粋に驚いているような態度でユリアに問うた。

 

「えっと、昨日、フジガサキさんとルティナさんと私と、あとミーフェちゃんで一緒に行った大聖堂の奥の方に部屋に行ったでしょ。そこで待っててくれた人だよ。冷たく見えるかもしれないけど、凄く優しい人なんだよ」

 

「あの雑魚がリーダー。あのさ……リーダー変えた方が良いよ」

 

 珍しく真面目な表情で、少し真剣気味にホフナーがユリアに告げた。なんか、いつものふざけた助言ではなく、本気の助言のような気がする。ホフナーにとって強さは重要のようだ……まあいまいちホフナーの考える強さ指数については疑問もあるのだが。

 というか、実際ルティナとアストリッドってどっちが強いんだろうか? 今度会ったら聞いてみようかな。あれ? でも確かエースはユリアで、ユリアに関しては以前マリエッタが非常に強いと言っていて、さらに昨日ルティナが尋常じゃなく強いと言っていた。

 なので、たぶんユリアが『フェムトホープ』最強なのだろうけど……そうするとホフナー理論で言うならば結局はアストリッドはリーダー不適切で、ユリアがリーダー適切ということになるな。まあ、なぜかホフナーは、ユリアのことを『凄く弱い』と考えているみたいだが。

 

「あと、その、さっき銀色って言ったけど……あのね、ミーフェちゃん、リュドミラ様は『フェムトホープ』のメンバーじゃないよ……」

 

 ホフナーの忠告には答えずに、さらにユリアが言葉をかける。そうだ。俺も少し気になったが、さっきホフナーは銀色と言っていた。たぶんリュドミラの事だ。ユリアも気になったようだ。たぶん今までの発言からすると、ホフナーはリュドミラをフェムトホープのメンバーと誤認し、マリエッタを数えていない。まあ、マリエッタは昨日は一瞬しかホフナーと会っていないから、ホフナー側の認識としては難しいだろうけど。

 

「は? 知ってるけど、本当は三人構成でしょ。知ってるから」

 

「ううん、ミーフェちゃん、『フェムトホープ』は四人構成だよ」

 

 知ったかぶるホフナーの言葉をユリアが優しく潰す。

 

「皆集まってるときに一人仲間外れにするとか、やっぱり雑魚パーティーは分かってないなー」

 

「ううん、ミーフェちゃん、昨日は皆揃ってたよ……」

 

 分かってる感を出すホフナーの言葉をユリアが優しく潰す。

 

「は~。まあ雑魚がいくら群れようがミーフェには敵わないんだから、どうでもいいけど。それより、カイ、こんな雑魚面と一緒にいると雑魚が伝染(うつ)るから、あんま馴れ合うんうじゃないよ、一流は一流らしくしないと」

 

 ユリアに勝てぬと思ったのかホフナーは話題を変え、俺へと矛先を向ける。ユリアは優しくて良い人……だと思うので、できれば一緒に行動したりもしたいのだが。

 

「えっと、ユリアさんにはクリスクでお世話になっていて……それに良い人ですし。雑魚とか雑魚じゃないというのは自分にはよく分かりませんが、あまりそういった基準だけで決めるのは、何かと不都合もあるのではないでしょうか……? あ、いえ、決してミーフェさんが悪いと言うわけではなくて、例えば、パーティーを運営するにあたっても、強さだけを選抜基準にすると不都合もあると思いますし、以前ミーフェさんも仰っていたと思うのですが、確か『鼻が利く』のが便利だとか。そういった感じで戦闘力以外にもパーティーに貢献できるところというのはありますし……」

 

 適当に言葉を並べつつ、ホフナーに気を逸らし、ホフナーの警告を無視できないか試してみることにした。

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