ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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二章81話 熱くて眩しい

 

「はい。ミーフェさん。お疲れ様です! バックパックお持ちしました」

 

「ん。……ん? いや、別に疲れてないけど」

 

 バックパックを受け取ったホフナーは不思議そうにこちらを見た。

 

「……そうでしたか、失礼しました。そのもし自分だったら今の戦闘できっと疲れ果ててしまうと言いますか。いえ、自分ではなく、このリデッサス遺跡街にいる殆どの探索者に今の戦闘はこなせませんし、仮にできたとしても、疲れ果てて倒れてしまうと思ってしまって……すみません。失礼しました。ミーフェさんを凡人の尺度で考えてはいけないと分かっているのですが……」

 

「まあ、別にいいよ。てか、今のはミーフェの三割くらいの力かな」

 

 当然のような顔でホフナーが言葉を口にする。

 なんか、大きく見せている感じはしないな。本当に三割なのかもしれない。

 

「三割……ですか!」

 

「あ~、まあ、ミーフェ、今やる気ないし、三割もないな。一割くらいかな」

 

 ホフナーは僅かに視線を逸らした。三割のようだ。いや、三割でも十分凄いんだから、三割でいいのでは……?

 

「一割! 普段のミーフェさんはこの十倍凄いんですね。凄いです。いや、というより、すみません、あんまり意欲が出ないようなところにミーフェさんを呼んでしまって」

 

「いや、まあ、別にカイが……」

 

 俺が気まずそうな感じの声を出すと、なぜかホフナーも少しだけ気まずそうな顔をした。はて?

 

「ミーフェさん?」

「――ん、まあ、ミーフェ器デカいから、いちいち気にしないけど、ミーフェ位の一流と一緒に探索できるとか、滅多にないから、カイはもっとミーフェに感謝した方がいいよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 いつもなら漫才って思うけど、これは本当にありがとうだな。こんな凄い戦闘を見る事なんて滅多に無い、いや、たぶんもう一生無いかもしれない。

 これ拝めただけでもホフナーと組んで良かったかもしれない。いや、まあ、本質的には、ホフナーの超人的な技量を見て俺が得をするわけではないし、むしろ『感覚』露見のリスクを背負うのだから、ホフナーと組めて良いという考え方は少し間違っているのかもしれないが……それでも、まあ、なんというか、これ程の技量を見ると普通に感動してしまうのだ。

 実際、本当に凄い動きだった。何となく適当に流していたが、『ラヒゼカート』の羽弾を一発回避するだけでも凄い。かなり弾速が速かったし、普通に凄い。しかも連続して避けていたのだ。それも多方向から同時に打ち込まれていた。それを全て舞うように避けていた。一種の美しさすら感じる。武芸の達人だ。一流のアスリートでも、こうは動けまい。

 

「ん。『ラヒゼカート』は心臓と舌が高く売れるけど、カイ、バラせる?」

 

 そう言いながらホフナーは『ラヒゼカート』の死骸から舌を抉る。うお、グロ……

 

「あ、いや、その……」

 

「まあ、いいよ。苦手みたいだし。そっちはミーフェがやっとくから、代わりにミーフェのナイフ磨いておいて」

 

 そう言ってホフナーは三本のナイフを俺に渡してきた。それを受け取る。まだホフナーの右手にはナイフが一本ある。たぶん、この一本は魔獣の解体に使用するのだろう。合計四本のナイフか……

 ホフナーは戦っている時、二本のナイフを使用していた。しかし、四本のナイフの全てが血で汚れいている。どこかのタイミングでナイフを使ったのか……ああ、そうか、戦闘を大きく動かしたホフナーの投擲――あの投擲で二羽の『ラヒゼカート』を仕留めた。あれは何を投げたか分からなかったが、ナイフを投げたのか。なるほど。あれ? でも投げたナイフはいつ回収したんだ……?

 

「はい。ありがとうございます。磨きます」

 

 まあ、兎に角、磨こう。魔獣の内臓を摘出するよりかは全然簡単だ。意外とホフナーって相手が苦手としている仕事は振らないタイプなんだよな。まあ、今までもその片鱗はあったけど……

 ホフナーのナイフを磨いていく。三つとも微妙にサイズや形が違うな。不揃いなのは意図しているのだろうか? なんとなく、同じナイフを持っていた方が扱いやすそうに思えるが。まあ、ホフナーは戦闘の専門家だし、何か考えがあるのだろう。

 

 無心にナイフを磨くが、時折、ホフナーのいる方から何かが切られたり抉られたりする音が聞こえてくる。駄目だ、音だけでも中々グロい。俺は戦闘ができない人だが、仮にできる人だったとしても討伐で稼ぐのは難しかっただろうな。

 ちなみに余談になるが、ホフナーは冷却用の魔道具をバックパックに埋め込んでいるようで、魔獣を解体して得たものは冷やして保管されているようだ。十層から十四層までの魔獣全てとなると中々容量が厳しそうだ。まあ、ホフナー曰く、金になる部位のみを取っているらしいが。

 よし、ナイフもだいたい磨き終わった。ホフナーの方も解体作業を終えたのか、一生懸命、バックパックに内臓を詰め込んでいた。しばらく、その様子を眺めた後、バックパックとの格闘を終えたホフナーに磨いたナイフを差し出した。

 

「ミーフェさん、こちらも終わりました」

 

「うん。まあまあかな。でも、ちょっとまだ磨き足りない」

 

「すみません……!」

 

「まあ、その辺も今度ミーフェが躾けてあげるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「クランのリーダーの探索道具を磨くのも新入りの仕事だから。帰ったらミーフェの靴も磨いてもらうから。しっかりね」

 

 俺って副首領じゃないの……? いや、副首領じゃないけどさ……まあ相対的に一番新人だから、ホフナーの定義では間違ってないかもしれないけど。

 

「はい! 頑張ります」

 

 まあ、この遺跡の探索終えたら、俺は隣国に高飛びするから、いなくなっちゃうけど。どうしよう? 時間があったら磨くか? あー、でもタイミング的に良くないな。たぶん磨けないや。ごめん。でも、まあ『頑張る』としか言ってないし嘘ではないはず。

 

 満足そうな顔のホフナーとともに十四層のホールを抜けて『感覚』が導く先の通路へと入る。この通路へは今のホールを経由しないと行けなかった。なので、今の戦闘をする必要があったのだ。

 通路を進んで数分ほどで、いつものように地図にない部屋が見つかる。相変わらず警戒しているホフナーと一緒に部屋の中へと入る。

 

 中には……うーん? 何だこれ?

 部屋の中央部に台のようなものがあり、その上に光り輝く石が置かれている。小さな石だ。ただ、輝きはかなり強い。眩しいくらいだ。しかし、その小さな石以外はこの部屋に何もない。結構広めの部屋なので、変な感じだ。それに、まるで、この石を飾るかのような台まである。なんか不気味だ。『感覚』でできた部屋ではなく、誰かが設計した部屋のように思えてしまう。

 

「魔力がだいぶ濃い……」

 

 ホフナーが小さく呟くと俺を見た。その目力に少し圧を感じる。

 

「カイ、これ何か分かる?」

 

「いえ……すみません。分からないです。ミーフェさんは……?」

 

 実際、本当に分からない。一通り深層由来の素材は目を通しているのだが、この光る石は何か分からない。

 

「は? 知らないけど。何? 言っとくけど、ミーフェが知らないってことは誰も知らないってことだから」

 

 ……あれ? 珍しい、知らないことを認めるだなんて。いつもは少し難しそうな顔をしたり、『知っている』と言い張るのに。何か条件があるのかな?

 

「いえ、すみません。失礼しました」

 

「はー、まあ、ミーフェが知らないってことはガチで誰も知らない素材かも。何か魔力が濃すぎるし……分かんないけど、安定してるし危なそうじゃないから、採っちゃっていいよ」

 

 『凄そうだから回収しておこう』みたいなノリだな。なんだかクリスク遺跡に初めて入った日の自分の振る舞いを思い出す。

 

「あ、はい、採ります」

 

 ホフナーの言葉に従い慎重に石に近づく……うわ、なんか近づくと輝きが強く感じる。思わず腕を使い目を覆う。

 

「? カイ、どうしたの?」

 

 ホフナーが不思議そうな声で尋ねてきた。いや、普通に輝きが強すぎるんだが……ホフナーの光検知能力が疎いのか、それとも距離の差が大きいのか。

 

「いえ、ミーフェさん、何か、眩しくて……」

 

「は? 眩しくないよ。はやく拾いなよ」

 

 仕方が無いので、さらに近づく。光が強くなる。いや……これ、眩しいぞ。かなり眩しい。後ろにいるホフナーを見る。ホフナーは不審そうに俺を見ている。

 ええい、ままよ!

 強く床を踏みしめ、石を拾う――!?

 

「熱っ!」

 

 思わず、石を落としてしまう。石がそのまま俺の後ろ――ホフナーの方へと転がっていく

 今、かなり熱かった。触る直前までは全然熱さを感じなかったのに、触った瞬間熱くなった。手を見る。手袋は焼け焦げているような感じはしない。念のため、手袋を脱いで肌を確認する。異常なし。それに全然痛くない。良かった。結構熱かった気がしたが、一瞬だったから火傷にはなってないようだ。

 

「ん。全然熱くないけど?」

 

 ホフナーの声がして、そちらを見る。眩しい! ホフナーが光る石を俺に見せつけるように持っていた。眩しい!

 

「えっと、ミーフェさん。熱くないんですか?」

 

「全然余裕だけど」

 

 我慢している感じの声ではない。石の輝きのせいで、顔色はよく見えないが、たぶんいつものような得意げな顔をしているのだろう。

 あんなに熱くて、それに尋常じゃないほど光ってるのに、よく平気だな。やっぱり光検知能力がおかしいんじゃ……あれ、ホフナーってもしかして弱視だったり? いや、それは無いよな……あれ、でも、そういえば今までも? あれ?

 

「あの、ミーフェさんってもしかして目が……その、見えなかったりしますか?」

 

「は? 見えてるけど。てか見えなかったらこんなに戦えないでしょ」

 

 確かに。え、でも、じゃあ、何で今も強く輝く石を平然と持ってるんだ……

 

「なるほど……そうですね、すみません」

 

「まあ、いいよ。これはミーフェが預かっとくから」

 

 そう言って、ホフナーは光り輝く石をバックパックにしまった。バックパックの中からは石の輝きが見えなかった。かなり強い光だったと思うが、結構厚い生地でできてるのかな?

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

「まあ、こんな不気味な部屋はなかなか無いし、ビビッてもしょうがないけど、正直に言った方がいいよ。熱いとか眩しいとか言い訳しなくていいから」

 

 ……?

 えっと、よく分からないけど、なんかアレだな。もしかして俺が輝く石を自分のバックパックに回収するのが嫌で嘘を言っていると思ったのか?

 いや、本当に熱いし本当に眩しいんだが……俺はホフナーほど頑丈じゃないし、光検知機能もしっかりしているのだが……うーん? あれ? もしかして俺がおかしかったり? いや、まあ、いいか、どうせこの石だって後で換金するのだし、深く考えなくてもいい。願わくば光り輝く熱い石が、光り輝く厚い金貨になって欲しいものだ。

 

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