ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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ハーメルンの推しキャラ投票一位記念です。


二章幕間 すいすい生きるコツ

 

 クリスク遺跡街。

 探索者たちの成果により賑わうこの街は、本日も活気にあふれていた。

 そんな中、遺跡街にある一際立派な建物であるクリスク聖堂の中、ヘルミーネ礼拝堂では一人の美少女が悩まし気に唸り声を上げていた。

 

「うーむ、うーむ、うーむ……!」

 

 灰色の髪の美少女――スイと呼ばれる聖導師はここ最近ある悩みがあった。

 

「お兄さんの帰りが遅い……! スイちゃんを放っておいて、リデッサスで遊んでいるに違いない……! ぐぬぬ……やはり私も行くべきだったか……!?」

 

 そこでスイは一度言葉を切ると「うむむー」と再度唸り声を上げた。

 

「……リデッサスにはアレがなー。アレさえなければ、お兄さんと観光に行ったのにな~。一緒に観光に行って~、串焼き食べて~、それからそれから~楽しいこととかしてー、うーむ、でもでも宿屋で駄弁るだけっていうのも悪くないな~。うむむー。たまには使命を投げ捨てて観光も悪くないなー」

 

 そこまで言ったところで、スイに僅かな悪寒が走った。スイはふと視線を礼拝堂の奥深くにある至聖所の方へと向けた。

 ヘルミーネ礼拝堂の至聖所はカテナ教会における数ある至聖所の中でも、特に神聖なものだ。このクリスク聖堂を管理する司祭でさえも立ち入ることはできない。さる理由から、スイだけは立ち入りを許されていた。そして、ルールにズボラそうに見えるスイであっても、この至聖所では、ふざけることはできない。実際に藤ヶ崎戒がクリスクにいた時も、スイは彼には一度も案内しなかったほどの場所なのだ。

 そして、その至聖所には鏡が置いてあった。スイは、鏡に映る銀髪の美しい少女を視界に捉えた。

 

「うげげ」

 

 スイは美少女が出すには相応しくない声を上げた。スイはこの鏡が少しだけ苦手だった。

 

「分かってますよ~。ちゃーんとお勤めは果たしますよー。だからそんなに睨まないでよ~」

 

 まるで誰かに語りかけるようにスイは喋る。それに応じる声はない。気まずくなったスイは鏡を見ながら、その場で自身の体を左右に素早く動かした。もし藤ヶ崎戒がここにいれば、凄まじく速い反復横跳びに感動しただろう。鏡に映る銀髪の美少女は困ったような顔をした。それを見たスイは得意げな顔をして口を開いた。

 

「それじゃあ、まあ、串焼き休憩ということで……! ちょっと行ってきます……! さらばだ……!」

 

 それだけ言うと、スイはそわそわとヘルミーネ礼拝堂を出た。

 

「まったく、まったく……! 最近は良くないです……! 色々とダメな方へ向かっています……! それもこれも、お兄さんが礼拝をサボっているからです……! はやくお兄さんは帰らないと、スイちゃんが闇堕ちしちゃいますよ……! とりあえず、串焼き成分の補給と……っ! むむっ! その前に、今日のお手紙を確認せねばっ!」

 

 大事なことに気付いたスイはいそいそとステップを刻みながら、クリスク聖堂の郵便管理室へと向かった。お気に入りの相手からの手紙が来ていないか確認するのは、スイにとって、毎日の日課であった。

 

「今日は~、お兄さんは~、ちゃんと手紙を~、出してるかな~、出さなかったら~、早馬で送るぞ~、スイちゃんの手紙が~、お兄さんに襲い掛かる~、ユリアは足がくさい~、うむうむ、お兄さんがユリアとイチャイチャしないように、ちゃんとネガキャンせねばな……! 次は何にしようかな~、足がくさいはもうやったからー、うーん、えっちな本を隠してる~、それはユリアじゃなくてお兄さんだー、ユリアは~、んー、頭がピンクにするか……! うむ!」

 

 事実無根の悪評を口にしながら郵便管理室にたどり着いたスイは、たまたまそこにいたクリスクの司祭と遭遇した。彼を困らせつつも、目当ての人物からの手紙を入手し満足したスイは、それを懐にしまった後、素早く郵便管理室を抜け出しクリスクの街へと出ていった。

 念願の手紙を入手したスイはうきうきとした表情で聖堂から少し離れた串焼き屋で数本ほど串焼きを手に入れ、食べ歩きながら再び聖堂へと戻った。

 

「この串焼きはまあまあかな~。でもお兄さんがいつも持ってきたのと味が違うなー。うーん、お兄さんがいっちゃう前にどこで買ってたか聞いておくべきだったか……! うむむー」

 

 ヘルミーネ礼拝堂の前で串焼きを頬張りながら、スイが感想を呟いていく。さすがのスイであってもヘルミーネ礼拝堂の中では飲食をしなかった。鏡の中の相手に睨まれたらたまらないからだ。

 

「お兄さんが帰ってきたら、今度一緒に串焼きデートしよーっと。うんうん、美味しい串焼き食べ歩きだね。よしよし、流石はスイちゃん、賢い作戦だ……! お兄さんもスイちゃんと串焼きデートできて嬉しいに違いないっ……! む?」

 

 そこまで言うとスイは、あることに気付いてしまい顔を歪めた。

 

「今、リデッサスにはユリアがいる……! ユリアがお兄さんと勝手に串焼きデートをしているかもしれない……! 最近二人はイチャイチャしてるみたいだしなっ! ぐぬぬ……! ユリアに先を越されたかもしれない……! 許せん……! この手紙の返信でユリアのネガキャンをもっと盛大にやらなくてはっ……! ではお手紙開帳っ!」

 

 スイは決意を固めると、後回しにしていた、藤ヶ崎戒からの手紙を開いた。楽しみを少しだけ我慢できるのが、すいすい生きるコツなのだ。

 ゆったりとした顔つきで、スイは手紙の一文字一文字を丁寧に読んでいく。途中ところどころ、ニヤリと可愛らしくも邪悪な笑みを浮かべながら、そうして最後まで読み切るとスイは満足気な顔をした。

 

「うむむ。まあまあ楽しんでいるようですなー。うむうむ、これはお土産と次回デートも期待できそうですっ……!」

 

 ニヤニヤしながらスイは、手紙を片手にヘルミーネ礼拝堂の中の奥深く、至聖所へと戻った。

 ぽすりと椅子にこしかけたあたりで、鏡の中の少女がスイを咎めるように見た。その少女の視線の先がスイの片手――手紙に向けられていたことに気付いたスイは慌てて手紙を自身の懐の中に隠した

 

「ふ、ふ、ふひゅ~、ふひゅ~」

 

 誤魔化すように、口笛にならない口笛をスイは吹いた。銀髪の少女がスイのことを白けた表情で見た。

 

「ふひゅ~、ふひゅ~」

 

 スイは、銀髪の少女が自身に向ける視線の意味は分かっていた。けれど、何も分からないとばかりに、口笛にならない口笛を吹き続けた。すっとぼけるためだ。

 しばらくスイと銀髪の少女の間で同じやりとりが続く。先に折れたのは銀髪の少女だった。彼女は、少し呆れつつも、仕方がないとばかりにスイに咎めるような視線を向けるのを止めたのだった。

 

 

 

 

 スイが至聖所で定められて儀式を終えたころには、すっかり日は沈み夜となっていた。

 

「うむー。今日も一日かかってしまったかー。やっぱりお兄さんがいないと時間がかかるな~。はよはよはよはよ帰ってこい……! はやく帰ってこないとスイちゃんが闇堕ちして大変なことになるぞー! 世界が滅亡するぞー! お兄さん~」

 

 ふざけたこと言いながらもスイは自身のベッドに横になった。そして、枕元においてあるぬいぐるみを突っつき始めた。ぬいぐるみはデフォルメされているが、さる人物が元になっていた。何でも器用にこなせるスイが何となく作ったものだ。

 

「はやくっ、はやくっ、帰ってこいっ、帰ってこいっ、世界の危機っ、危機だぞっ」

 

 言葉を区切るたびにスイは、ぬいぐるみを突っつく。

 何度も何度もぬいぐるみを突っついたあと、スイは満足したのか、ぬいぐるみを抱きしめ、動きを止めた。

 そうして、しばらくすると、ぬいぐるみを抱きしめたままスイはすやすやと寝息を立てて眠りにつくのであった。

 

 

 

――スイはまだ知らない。藤ヶ崎戒がクリスク遺跡街に帰ってこないことを。そして、今後彼と、ヘルミーネ礼拝堂で談笑することがもう二度と無いということを。

 




これにて本当に二章終了です。
次回から三章に入ります!
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