ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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三章5話 一緒に……

 

「たしか、リーシアさんでしたよね?」

 

「……、そうよ。よく分かったわね……」

 

 ここまで美しいと自然と覚えてしまうと思うが……あまり自分の見た目について客観的に認識していないタイプなのだろうか。

 

「この前、親切にしてもらいましたから」

 

 俺の言葉を聞くとリーシアはぎこちなく視線を逸らした。彼女の頬は少し赤かった。初めて会った時も、顔が赤かったし、ここ数日、たまに見かける時も顔が赤かった気がする。おそらく寒さが原因だろう。正直、俺もかなり寒いと思っている。

 

「…………そう」

 

 リーシアは小さく呟いた。

 それから数秒間、無言が続いた。気まずくなり何か言葉を口にしようとしたが、それよりも先にリーシアの口が動いた。

 

「あのね………………」

 

 弱弱しくこちらを見ながら、語句を口にし、そしてまた止まり、間が開く。

 

「はい……?」

 

 気になり催促の言葉を送ってしまう。

 

「えっとね…………いつも、…………いつも何してるのかしら?」

 

 リーシアは言葉に詰まりながらも、慎重に問いを発した。

 

「何、ですか、えっと、……この街に来たばかりだから色々知りたくて街を調べてる感じです」

「――教えるわ」

 

 俺が問いに答えると、今度は素早く言葉が返ってきた。そして今度は俺が戸惑った。

 

「……? それは、街のことを教えてもらえるということですか……?」

 

 確認の言葉を口にする。

 リーシアはこくりと頷いた。なんか凛としている雰囲気と反して仕草が小動物みたいな美少女だな。

 

「え、いえ……それは、ご迷惑になってしまいますし」

 

 なぜ教えてくれるのだろうか。疑っているわけではないが、不思議に思い、とりあえず断る流れを作る。

 

「迷惑じゃないわ……」

 

 しかし、リーシアはその弱弱しい印象に反して、少し強めに主張してきた。勿論、声色は消えてしまいそうなほどに儚いものだったけれど。

 

「えっと……」

 

 正直悩む。なんか相手に気を遣ってもらっていたら悪い気がするし……けど、なんか断るとそれはそれで悪い気がする。そう思うのは、たぶん彼女がまるで触れれば壊れてしまいそうな雰囲気を持っているからだろう。断ると傷付けてしまいそうだ。

 

「ダメ、かしら……?」

 

 リーシアは、しゅんとしたような落ち込んだ表情になった。なんだか可哀そうな気がする。罪悪感みたいな感情が湧き出て来る。

 

「ええ、いえ、そういうわけでは……そうですね、そういえば、あまりこの街には詳しくなかったので、詳しい方から聞けるなら、凄く助かります」

 

 しょうがないので彼女の言葉を受け入れることにする。いや、しょうがなくもないか。今、俺が口にしたように詳しい人に教えて貰えるならば情報収集や街に構造把握などの効率も良くなるだろうし、よくよく考えれば受け入れて良いような気がしてきた。人脈とかもできれば作っておきたいし……まあ、この少女の弱そうな雰囲気からして俺の逃亡計画を進める要因にはあまりなってはくれないだろうけど……いや、勿論、街の情報収集に少しでも役に立ってくれるのだろうから、それで十分だし、見ず知らずの少女にそれ以上求めるのは酷か。

 

「……私、あんまり詳しくないわ………」

 

 リーシアはぼんやりとしているような、それでいて少しだけ困ったような顔をした。

 はて?

 

「ん……?」

 

「でも、がんばって教えるから…………」

 

 リーシアは頬を赤くしながら俯き気味で答えた。自信が無さそうに見える。

 

「なるほど……それは、なるほど…………えっと、よろしくお願いします……!」

 

 もはや何も言うまい。

 

 

 

 

 それからリーシアに街の中を案内してもらった。

 とはいっても、リーシアもそこまで詳しくなかったので、街の構造把握という点では大きな進展はなかった。どうも、リーシアも旅人のようで、このテチュカの街のことはあまり知らないらしい。俺よりも少し前にこの街に入っているという意味では先達なので、その分の知識は俺よりもあったけれど、大きな違いは無さそうだ。

 ただ一方で街の構造把握とは違う点で大きな進展があった。それは街の中でリーシアと会話をしているときのことだった。

 儚げで、何を考えているか少し掴みにくいリーシアと一緒に街を回っていると、何となく気まずくなった俺は適当な話題を出していた。そして、話題の中の一つとして、ヒストガ王国の料理についても触れてみた。リーシアはどう思っているのか、同じ旅人仲間として知っておきたかったのだ。もしかしたら、俺が勝手に料理の味の基準を吊り上げているだけで、ヒストガ王国がこの世界の基準という可能性もある。そのため俺は恐る恐るリーシアに聞いたのだ。ここの料理どう? と。

 そしてリーシアは次のように答えた。

 

「あんまり美味しくないわ……」

 

 リーシアの回答を聞いて俺は少しだけ嬉しくなった。やはり不満は共有すると少し落ち着くし、何より、同じ旅人のリーシアも美味しくないと口にするということは、この世界の基準はヒストガ王国ではないということだ。少し安心した。まあ、リーシアと俺の求める基準が高くて、実際はこの世界の平均はヒストガ王国味という可能性もあるが、それでも、自分以外の人が自分と同じ意見だと少しばかり安心できるのだ。

 

「やっぱりそうですよね。自分も美味しい店を探してはいるのですが、なかなか難しくて……リーシアさんは何か知っていたりしますか?」

 

「……美味しい店は知らないわ」

 

「そうでしたか……それは残念です。ちなみにテチュカ以外で、ヒストガ王国内で美味しい料理が出る街ってありました? 自分はもう十日以上ヒストガ王国にいるのですが、なかなか見つからなくて……」

 

「美味しい料理が出る街…………美味しいご飯が食べたいの……?」

 

 リーシアは、俺の質問に答えることなく逆に質問をしてきた。

 そしてそれは少し変わった質問だった。

 今の流れで美味しいご飯が食べたくないと答えるだろうか……いや、まあ俺も似たような質問の仕方をする時もあるし、別に良いんだが。

 

「はい。食べたいです。なので探しています。ミトラでは……ああ、自分はミトラ王国の方から来たんですが、ミトラ王国は美味しい料理が多かったので。どうもそれが忘れられなくて……」

 

 俺が質問に答えると、リーシアは少し考えるような表情になった。

 そのまましばらくリーシアが無言になる。少し気まずく思い、何か言葉を作るべきか悩んだが、リーシアが何かを考えているようなので止めておいた。何となくだが、何か喋ろうとしている気がする。

 さらに少し待つと、リーシアが口を開いた。

 

「私、知ってるわよ……美味しいご飯を作れる人」

 

 ん……?

 さっき店は知らないと言ったが……人か。知り合いに料理人でもいる感じか……? あ、いや、料理人ならどこかで働いているだろうし、そういう意味ではなく個人的に料理が上手な人と知り合いということか? 

 

「人……? えっと、個人、ですか?」

 

「……うん。あのね、……ルミちゃんっていう子がいてね。えっとね、ルミちゃんは私の弟子なの……それで、ルミちゃんは料理が上手いから…………あ、あのね……ロラン、良かったら、……その、……来る?」

 

 リーシアは頬を赤くしながら、詰まりつつも懸命に言葉を紡いだ。

 ただ、一方で、俺は少し理解に悩んだ。

 えっと、とりあえず、落ち着いて今リーシアが言った言葉を解釈しよう。

 まずルミという人がいる。どこかで聞いた響きだ。自信は無いが、初めてリーシアに会った時にその名前を聞いたような気がする。そして、この人物はリーシアの弟子であり料理が上手いらしい。

 弟子か。徒弟制度みたいな感じ? 料理が上手いということは料理人の師弟? いや、それは違うか。それならリーシアの方が料理が上手くないと少し変だし、なんとなく流れとして適切でない気がする。まあ絶対リーシアが料理人ではないとは言い切れないが、たぶん違う。

 だから、えっと、リーシアは職人的な何かなのだろうか。そんな雰囲気はしないが……ああ、いや、違う違う、今理解すべき本質はそこではない。とにかくリーシアには弟子と呼べる存在がいて、その存在であるルミという人物は料理が上手。それで、最後の言葉だが…………料理を振る舞ってくれるという解釈でいいのだろうか? いや、厳密に言うと、ルミという人物に料理を作ってくれるようにリーシアが頼んでくれるということかな。

 

 何というか……何というか……少し、いや結構気になる。気になるが……お邪魔していいのだろうか? たぶん『来る』という質問からして、リーシアの職場か宿泊施設か、または料理を作れる場所を借りるみたいな感じだろう。行っていいのかな? それに、少し気になった事もある。

 

「えっと…………その、ルミさんという方が振る舞って下さる料理をご一緒できる、という話でしょうか……? ああ、その、勘違いでしたら、すみません」

 

「合ってるわ」

 

 なるほど……興味があるな。うーん、でも……一応聞いておくか。

 

「……それは、凄くありがたい話です。あ、でも、一つ聞きたいことがありまして、いいですか?」

 

「…………うん」

 

 リーシアは弱弱しく俺を見た。なんか罪悪感。

 

「あ、その、大したことではないのですが……その、リーシアさんって今日はお昼は一緒の店でしたよね」

 

「……そうね」

 

「確か、自分の記憶違いでなければ、昨日もお店で料理を食べてましたよね。ああ、その自分も一緒でしたから……」

 

 記憶を辿りつつリーシアに問う。俺はなぜかここ最近リーシアと行動パターンが被っていた。つまり同じお店でお昼ご飯を食べているのだ。

 

「…………そうね」

 

 リーシアは気まずそうに俺から視線を逸らした。

 ……はて? なぜ逸らす……? いや、まあいいか。

 

「えっと、それで、その前も、お昼は同じでしたよね。ああ、その自分の分が間違えてリーシアさんの分に入ってしまって、それでリーシアさんが持ってきてくれた時です。それで、少し気になったんですが、リーシアさんもここ数日は外で食べてますよね。お弟子さんの料理ではなく。あ、あのこれは責めてるわけではなくて……あ、あの、何と言うか、その……」

 

 俺が話しているとリーシアが泣きそうな表情になってしまった。何か凄く申し訳ない……

 

「えっとですね。それでですね。つまり何が言いたいかというと、お弟子さんも忙しいのかなと思ったんです。その、リーシアさんは美味しい料理を求めるタイプの人だと思います。自分と同じで。だから、お弟子さんの料理が上手なら、ヒストガ王国味よりもそちらの方が良さそうなはず。でも、リーシアさんは最近は外で食べている。だからお弟子さんが忙しいか、または何か事情があって食べれない状態なのかなと思ったんです。それなのに、自分のせいで、リーシアさんやお弟子さんに無理をさせてしまったら申し訳ないと思ったんです……ああ、その、何と言うか、今まで会話から見て、自分はだいぶ美味しい料理を求めていた感じを醸し出していましたし、リーシアさんは優しい方ですから、それで無理にこちらに気を遣ってくれたのかと思って。でも、無理をして欲しく無くて……ああ、なんか、すみません、言ってることがぐちゃぐちゃで……」

 

 なんか、こう、リーシアが泣きそうで、急いで思ってることを口に出していく。気になった事とは、これのことだ。リーシアの最近の行動から考えると、『弟子に料理を作ってもらう』というのは誰かが無理をすることに繋がるのではないかと思ったのだ。まあ俺の妄想かもしれないけど……

 

「………………ぐちゃぐちゃじゃないわ。ちゃんと伝わったわ……やっぱりロラン、あなたはとても優しい人なのね…………」

 

 リーシアが何かを悟ったように遠い目で俺を見つめた。

 

「……? え、ええっと、その、ありがとう、ございます……?」

 

 俺の言葉を聞くと、リーシアは手で自身の目元を拭った。結局涙を出させてしまったみたいだ。難しい……

 

「うん…………あのね、ロランの言う通り、本当はルミちゃんはちょっとだけ忙しくて……でも、大丈夫。私も手伝うから……それにルミちゃんも料理を作りたいって言ってくれてたから大丈夫だと思うわ。ルミちゃんは器用だから二人分でも三人分でも変わらないと思うの…………だから、ロランが心配しなくていいわ。だから、来て欲しいわ」

 

 こちらを見るリーシアからは強い意志が読み取れた。儚げな瞳の中には懸命な何か宿っている。

 

「なるほど……えっと、そうですね。では、せっかくですから、ご一緒したいと思います。えっと何時いけばいいでしょうか。あ、あとお昼ご飯ですか、それとも夕ご飯ですか?」

 

 懇願するようなリーシアの言葉に応えながら、内心で、彼女が先程言った『手伝う』という言葉が気になった。料理を手伝うという意味か? それだとやっぱり料理人の師弟? いや、それは少し変な気がするし……うーん、単純に考えて、ルミという人物が忙しいから、その忙しい作業を手伝うって意味かな?

 

「そうね。お昼ご飯にしようかしら……明日のお昼にしましょう。お昼前に西の広場で待ち合せましょう」

 

「分かりました。明日を楽しみにします。よろしくお願いいたします」

 

 色々言い訳みたいな言葉を並べたが、結構楽しみだ。このリーシアという少女は、なんか気品みたいなものを感じさせる。ユリアみたいと言えばいいだろうか。ユリアが勧めるお店は美味しかった。つまりユリアは舌が良かった。リーシアもそうなんじゃないかと俺は思っている。つまり、明日の料理は大変期待できる……!

 

「うん……帰ったらルミちゃんに伝えておくわ」

 

 それから少し会話をしてリーシアと別れた。

 

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