ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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三章6話 強そう

 

 リーシアに誘われ翌日。俺は昼前に西の広場にやって来た。

 結構楽しみにでうきうきしている。お腹もちゃんと空かせておいたので準備は万端だ。

 雪が残る広場では寒さのためか人は少ない。辺りを見回してみたが、まだリーシアはいないようだ。良かった。待たせてしまっていたら気まずく感じたと思うので、彼女より早く待ち合わせ場所に来れて何よりだ。

 それから数分程待つとリーシアが広場に現れた。相変わらず透明感のような雰囲気を与える美少女だ。リーシアは俺に気付くと、こちらに近づいてきた。彼女の頬は以前と同じように赤い。寒さが厳しいからだろうか。

 

「ロラン……待ったかしら……?」

 

 少し不安そうにリーシアが問うてきた。

 

「いえ、少し前に来たところですから、待ってないですよ」

 

 喋ると白い吐息が出てしまう。やはり雪が止んだとはいえ、かなり寒いな。

 

「…………それなら、良かったわ…………家に案内するから、来て」

 

 そう言うとリーシアは歩き出した。そんなリーシアの横に並ぶように付いて行く。独特の間を持つリーシア相手に雑談で苦戦しつつも、広場から都市の中央方面へと歩いていく。

 しばらく歩いていくと段々とおかしなことに気付いた。なんか馴染みがない場所に移動している。というか、あれ? この辺りって……

 俺が疑問に思う間もリーシアは進み続ける。元々上手くいかない雑談が、疑問のせいもあり途切れてしまうが、何とか足を動かし彼女に続く。

 そして、城門が見えた。

 そう城門だ。

 テチュカの外へと続く城門ではない。テチュカの中心近くにある城門だ。

 

――城壁都市であるテチュカには城壁が二つあるのだ。一つは都市の外周を囲む城壁だ。俺がテチュカに馬車で来た時に雪の中で見た大きな城壁だ。基本的にはテチュカの街と言えばこの外周の内側を指す。貧民街などは城壁の外にある感じだ。俺が借りている『ウスタレゴ』の宿などは当然この城壁の中にある。そして、もう一つの城壁は内側にある城壁だ。テチュカの中の支配階級――ヴィシニェフ家を中心とした貴族たちがこの城壁の中に住んでいる。貴族以外にも上流階級や、その他都市にとって重要な人物が住んでいたりするようだ。当然俺は住んでいない。俺が借りている宿は外側の城壁よりは内側にあり、内側の城壁よりは外側にあるのだ。

 

 そして、俺が『まさか……』と思っている間もリーシアの歩みは止まらず、何食わぬ態度で内側の城門を潜る。俺は思わず、城門の前で止まる。数人いる衛兵たちは特にリーシアを呼び止めることはなかった。

 え……? ここって入って良いのか? いや、リーシアが入ってるからいいのか? なんか貴族とか偉い人たちが住む場所だし庶民は立ち入り禁止かと思ったが……ああ、でも行政施設に関わるものだと考えれば、入ってもいいのか……?

 俺が考えている間もリーシアは進んで行ってしまい、距離が開く。慌てて俺も城門を潜ろうとして、肩を掴まれた。見ると衛兵さんが怖い顔で俺を見ている。

 ごめんなさい……

 

「ここから先は貴族の方々が住まう場所だ。戻れ」

 

 淡々と感情の籠ってない声を、冷たそうと取るか、職務に忠実そうと取るかは悩むところだが、それ以上に掴まれた肩が少し痛いことが困るところだ。

 悟られないように視線を彼の腰元へ一瞬向ける。腰に付けている鞘には剣が綺麗に納まっていた。余計な心配だが、彼がこれを抜くような展開にはなって欲しくないな、と思った。

 

「あ、すみません……あの、リーシアさん!」

 

 少々の痛みと怖そうな雰囲気に触れてしまったがため、少し驚きつつも、門の中に入っているリーシアの背に声をかける。リーシアは一度足を止めてから振り向いた。そして不思議そうな視線をこちらに投げかけた。

 

「……? どうしたの……?」

 

 リーシアの言葉を聞きながら衛兵をチラリと見る。彼は冷たい目で俺とリーシアを交互に見た。

 

「あ、あの、入れないみたいで……」

 

 衛兵を刺激しないようにしつつ状況を説明する。リーシアは不思議そうな顔のままこちらに歩いてくる。そして、俺の方を掴む衛兵の傍まで来た。

 

「……? 入れるわよ……?」

 

 しかし、衛兵ではなく俺の方へ言葉をかける。

 

「これ――こちらは、お連れの方ですか?」

 

 埒が明かないと思ったのか衛兵がリーシアに対して話しかけた。今、『これ』って言いかけた……? あ、『これ』は所持品ですかみたいな……? 付属物的な……?

 

「……? そうよ」

 

 怪訝そうな顔でリーシアは衛兵に答えた。

 

「そうでしたか。これは失礼しました。どうぞお入りください」

 

 衛兵はそう言うと、俺の肩を掴んでいる手を離した。何となく彼の目をもう一度見た。その目は先程と一緒だった。

 

「いえ、お忙しいところすみません」

 

 俺はそう彼に告げた。リーシアは不思議そうにしながらも再び歩き出し俺は彼女に続いた。

 

――衛兵の目が冷たく見えたのは、この冬の寒さのせいだろうか、それとも俺が紛らわしい存在だからだろうか。

 

 いや? だがリーシアにも同じような目を向けていたのはどういうことなのだろうか。彼は誰に対してもそういう目なのだろうか? いや、まあ、城壁を守る衛兵だから、警戒心とかが求められる役職なのかもしれない。それならば別に不思議ではないか……?

 ああ、でも、カテナ教の聖堂を守る門番はもっと温かみがあったな……まあ、役割が全然違うだろうから比較するべきではないか。ただ、それでも何となく思ってしまう。俺と特に相性上は問題は無い街の守衛と、俺と相性が悪いはずのカテナ教の門番、後者の方が温かく感じるというのは何だか不思議な気分だ。

 

 そんなことを考えつつもリーシアと一緒に街を歩く。

 歩いていて気付いたことがあった。街の中の雰囲気が城門の外とかなり違う。

 俺が借りている宿がある方の街――複雑なので一般街と呼称しよう、一般街は全体的に高層物が多かった。建物がどこも数階以上あり、平屋は滅多に無かった。広場などは空間がある程度開いているが、それ以外の場所は全体的に高層で日陰ができやすい作りをしていたと思う。これは遺跡街とは違う造りだ。

 一方で、ヒストガ王国の一般的な城壁都市は同じような造りだった気がするので、もしかしたら、遺跡街が例外なだけで、普通はこういう造りなのかもしれない。

 それで、話を戻すが、衛兵が守っていた城壁の中の街――複雑なので貴族街と呼称しよう、貴族街は高層物が少ない。せいぜい二階や三階で、平屋もある。建物を詰め込んでる感じもしないし、なんか広々している感じがする。それに道も一般街よりも綺麗に感じるし、街の装飾も上品な感じがする。高価というか、高貴というか……なんか、場違い感がある。庶民の俺がいていいんだろうか……?

 

 そして、そんな俺の小さな悩みを吹き飛ばすようにリーシアは段々と高級そうな方へ足を進めていく。何だか眩しく感じる。それはきっと、雪で太陽が反射しているからだけでは無さそうだ。

 

「リーシアさん。聞いてもいいですか」

 

 少し不安になり、つい余計なことを聞こうとする。

 

「……なにかしら?」

 

「えっと、その大したことではないんですけど。リーシアさんは旅をされてるって言ってて……そのどうやってこんな立派なところへ入れるようになったんですか? もし良ければ後学の為にお聞きしたいです」

 

 というか、リーシアの立場が分からないので聞きたい。

 旅人っぽいことを言ってたのに、こんな所に入れる理由が分からない。さっきの衛兵の態度を見るに、ここは一般人は立ち入り禁止だ。

 一方で、リーシアは明らかに特別扱いをされていた。城門を通った時はフリーパスだったし、さらに付属品の入場まで可能にしている。特に後者が凄い気がする。あんな風に出入りを禁止しているのに、リーシアが許したらどんな付属品でも入って良いというのが謎だ。

 しかもボディーチェックとかも無かった。普通ボディーチェックくらいしないだろうか? まあ俺は武器とか持ち込んでないので、結果的にはボディーチェックする必要性は無いんだが……うーん、もしかしたら、あの門を守る衛兵クラスになると一目見ただけで相手が武装しているかそうでないか分かるのかな?

 

「そうなの……? みんな入れるわけじゃないの……?」

 

 リーシアはよく分からない事を言った。

 ……?

 いや、本当によく分からない。なぜ疑問形で答える……『そうなの……?』って。うん? どういうこと?

 

「えっと、何だか、入って良い人とそうでない人がいるみたいな感じでしたけど……それでリーシアさんが入って良い人で……たぶんですが、あの感じからすると入っていけない人の方が多いんだと思いますが……」

 

「そうなの……?」

 

 そうだよ。

 

「恐らくは……」

 

「…………知らなかったわ」

 

 リーシアは、ぼんやりとした表情で答えた。

 嘘を言っているような感じではない気がする……

 うーん?

 

「なるほど……?」

 

「えっとね…………もうすぐ家に着くわ……」

 

 リーシアは少し困ったような顔になり話題を変えた。何となくだけど、『俺が困ったから』リーシアも困ったみたいな雰囲気だ。困らせてしまったなら悪いと思うけど、でも俺の視点から見ると、俺も困ってしまっているので仕方がない。

 

「ああ……分かりました。なんだかどきどきしますね……」

 

 一体どんな家なんだろうか……少し怖いぞ。なんたって、話しながらも俺とリーシアは歩いているのだが、段々と建物の雰囲気――高貴さみたいなものが上がっている気がするのだ。城門を潜って貴族街に入った時に見えた建物のグレードを10とすると、今周囲にある建物のグレードは40以上ありそうだ。

 

「……? どきどき……? えっとね、ロラン、大丈夫よ…………怖い人とかはいないわ。家には私とルミちゃんしか住んでないから……ルミちゃんは優しくて良い子よ」

 

 怖がってるの読み取られたか……気を遣わせてしまったようだ。

 

「ありがとうございます。それなら安心できそうです」

 

「うん……」

 

 それからさらに数分程歩いてリーシアの足が止まった。

 

 俺は恐る恐るリーシアが立ち止まった先を見る。

 そこには立派な、それはもう立派なお屋敷があった。

 

 先程のグレード理論で説明するなら70くらいだろうか。二階建ての屋敷は、飛び抜けて大きいわけではないが、その佇まいには品格と威厳が漂っていた。

 建物は石とレンガで構成されており、頑丈な作りであることが一目でわかる。石の外壁はしっかりとした灰色をしており、レンガの部分は深い赤みを帯びていて、互いに調和することで全体に力強い印象を与えていた。屋根も壁も綺麗な色合いで、雪で反射した太陽の光を浴びているためか艶やかに見えた。壁には所々彫刻が刻まれていて、それがまた美しい。花や人、動物など様々な彫刻が精巧に刻まれている。窓の一部には色とりどりのステンドグラスが散りばめられているのが見えた。他にも小さいが庭まである。

 豪華すぎるというわけではないが、建築の際に時間や労力、お金や当時の技術・センスの限りが尽くされているような感じがした。つまり家に気品があるのだ。周りの屋敷も気品がある感じの家が多いが、この屋敷は一味違うように俺には思えた。あと屋敷の屋根から庭にいたるまで除雪が終わっているという点も地味に気になる点だ。

 そして、最後にトドメとして、この立派な屋敷には、テチュカで最も高貴な紋章――ヴィシニェフ家の紋章が掲げられていた。

 

 なるほど……

 俺はリーシアの方を見た。ちょうどリーシアも俺を見た。

 

「ここよ」

 

 リーシアが無慈悲にそう告げた。

 そよ風が流れた。体に風があたる。寒い。いや、たぶんこれは単なる寒さだけではないだろう。

 

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