ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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一章24話 異世界五日目 朝の礼拝①

 朝の眩しさを感じながら目を覚ました。こっちの世界に来る前は夜型だったが、だんだん、朝型生活の感覚にも慣れてきた。とりあえず、教会に行くか。

 俺は宿屋でいつも通りに朝食を済ませた後、教会へと向かった。朝はやはり少し寒い。

 前と同じような時間帯だったからか、やはり教会へ向かう人は多い。探索者らしき人もよく見る。朝の礼拝に参加する人は多いようだ。

 適当なことを考えながらも教会の大きな門をくぐり、人々から離れて、一人『ヘルミーネ礼拝堂』へと向かう。道中、人が殆どいない。教会の入口近くなどには人が沢山いたことを考えれると、なんだか不思議だ。

 

「おおー、ちゃんと忘れずに来たか~。偉いぞー、お兄さん」

 

 『ヘルミーネ礼拝堂』の前で待っていたスイは欠伸をしながら、そんな言葉をかけてきた。

 

「スイさん。おはようございます」

 

「うんうん、おはよー、お兄さん。今日も眠いね~」

 

 眠そうにするスイの衣装はいつもと同じように着崩した黒ローブ姿だ。やはり制服なのだろうか。

 

「はは、確かに眠いと言えば眠いですね」

 

「まあまあ、立ち話も何だし、中に入ろうよー。温めておいたからさ」

 

 スイに導かれるまま礼拝堂の中に入った。中は暖かく、朝特有の寒さは感じられなかった。暖房か何か使っているのだろうか。前回入ったときはここまで暖かくなかった気がする。疑問が表情に出たのか、スイは俺の顔をみると、にやりと笑い口を開いた。

 

「聖なる術の応用だよ。こうやって部屋を暖かくすることもできるからね。まだ今は秋だけど、冬が本格的に来たら手放せない技だよー。主の奇跡に感謝だね」

 

 あ、今ってやっぱり秋だったんだ。何となく周りの様子を見て秋なんだろうなと思っていたが。うーむ、俺がこっちに来る前、元の世界は4月だったから、少し不思議な気分だ。夏が飛んでいる。いや、まあ、夏どころか世界レベルで飛んでるから、季節が変わったぐらいで驚くことでもないか。

 

「なるほど、便利ですね」

 

「そうそう便利なんだよー。まあ、でも使い過ぎると中々温かくって、眠くなってきちゃうんだけどねー」

 

 あれ……それって朝が弱いスイとは、ある意味相性が悪いのでは。

 

「温めて貰ったところ恐縮ですが、朝が苦手なスイさんからすると、より眠くなるので、嚙み合わせが悪いような気もしますが」

 

「むむー、これはむしろ朝が弱い私にとって必要な事だよー、お兄さん」

 

「必要?」

 

「そうだよ。朝が弱いからお布団から出れないのに、その上寒さまであったら絶対に出れないよー。暖かくなってようやく動けるようになるんだから」

 

「なるほど? ああ、でも、なんか……あ、いえ」

 

 ふと気になったことが言葉に出かけたが、流石に言っていいか判断に迷ってしまい、尻すぼみになる。

 

「なになに? 途中で区切られると気になるよー」

 

「えっと、言って良いですか?」

 

「いいよー」

 

「その、聖なる技って結構簡単に使って良いんですね。もっと秘術みたいなイメージがありましたが……」

 

 俺の言葉を聞くと、スイは一瞬固まった後、何度か瞬きをして、そして薄っすらと笑った。

 

「ほうほう、お兄さん。それは私が聖導師として相応しくないって言いたいのかな~」

 

「え? いえ、別にそういうつもりはないんですが……あれ、もしかして聖なる術を使うのには何か規定があったりするんですか?」

 

 それならスイは駄目な気がする。今回だけではなく、今までも何度も聖なる術の一つである『力』を濫用してるし。

 

「規定ってほどでも無いけど、まあ、何でもかんでも使って良いわけでは無いね。主の御業の代行者としての使命感を持たないといけないから。分かる? しめーかん」

 

 使命感がまったく籠っていない口調でスイは言ってのけた。やっぱりスイは少し駄目なのではと思った。しかし一方で、やけに親切な面もあるから、それは美徳とも言える。彼女の属している宗教の教典とかは読んでないので分からないが、概ね俺の知る限り宗教というものは『分け与える』ということを美徳としている場合が多い。だから見ず知らずの人に金貨3枚も渡そうとするあたり、むしろ『らしい』と言えるかもしれない。

 

「なるほど。えーっと、まあ、その、聖導師に相応しくないとまでは思ってないですよ」

 

 個性的だなとは思うけど。

 

「本当かなー? 何だか疑ってるような気配を感じるなー。聖導師を疑うなんて悪いお兄さんだなー。時代が時代なら、お兄さんを異端審問にかけてたよー」

 

 スイは言葉尻を伸ばしながらも少しずつ俺に近づいてきた。

 

「そのワード、響きが怖いですねー」

 

 話ながらも、スイが詰めた分だけ彼女と距離を取る。まあ、彼女の身体能力を考えると、距離を取ることに意味は無いが。

 

「冗談だよー、お兄さん。流石に私もお兄さんを理由なく虐めたりはしないよー。そんなに距離を取られたら傷つくよ~」

 

 理由があったら虐めるのか。いや、ただの言葉の綾か。

 

「スイさんの冗談は微妙に分かりにくい時があるので……」

 

「それはお兄さんの反応が面白いからだよー。そんなんだから、つい冗談も気合が入っちゃうんだよね。おっとと、また立ち話を続けちゃったね。いい加減座ろっか、お兄さん適当なところに座っていいよ」

 

 その適当にっていうの一番悩むやつなんだが。まあ、前回と同じところでいいかな?

 俺は前の方の長椅子に腰かけると、スイは隣に座って言った。

 

「次は悩まなくて済むように、お兄さん用の椅子を置いておこうっか?」

 

 あんまり悩んだ風には見せなかったと思うんだが、案外気付かれるものなんだな。まあ、ルティナは気付いてなかったしスイが気付きやすいタイプなだけか。

 

「え、いや、それを置かれた方が悩むと言いますか」

 

 自分のためだけに何かしてもらうと気まずいって言えばいいのかな。

 

「だいじょーぶ。だいじょーぶ。地下室に置いてあるやつだから。今は誰も使ってないし、気にしなくていいよ」

 

 地下室? 物置ってことか。

 

「あー。いえいえ、お気遣いなく。全然大丈夫なんで」

 

「遠慮しないでいいよー。お兄さん」

 

「いえいえ、お構いなく」

 

「むむむ。もしかしてオチを読まれた? やるね。お兄さん」

 

 そう言いながらスイはニヤリと笑った。

 

「え? 今なんか、良くない流れでした?」

 

 またなんか企んでたのか……?

 

「うーん、良くないと言うか、お兄さんの眠気とついでに私の眠気も覚める、暖かいジョークを言おうとしたんだけどなー。ん? 暖かいのにさめる……冷める? いや覚めるか……」

 

「どんなジョークだったんですか?」

 

「えぇ、流れたジョークを解説させるの? お兄さん」

 

「ああ、いえ、別に難しいようなら全然いいんですが……少し気になったので」

 

「しょうがないなー。さっきのはね。椅子は椅子でも審問椅子ってオチだったんだよー。ひとつ前の異端審問と被せてるんだよ。どう? 眠気も覚めそうでしょ」

 

「審問椅子……?」

 

 名前の響きからあんまり良いものには聞こえない。電気椅子みたいな感じか……?

 

「拷問用の椅子だよー」

 

 無言で長椅子の端の方に寄りスイから距離を取る。

 

「冗談だって最初に言ったのに~」

 

 スイは抗議の声を上げながら立ち上がり再び俺の隣へと腰かけた。

 

「スイさんの冗談はやっぱりなんかこう、微妙に凶暴性を感じると言うか」

 

「そんなことないよー、お兄さん。私はこう見えてよく『優しい聖導師様だー』って言われるよ~」

 

 まあ、親切っぽいところがあるし実際にそうなのかもしれないが……

 

「それは、その言った人が……」

 

 またしても、言っていいのか悩み言葉が止まってしまった。

 

「もー、お兄さん、気になるところで止めないでよー」

 

「その言った人が、スイさんの冗談を聞いたことが無いのでは?」

 

「むむむ、うーん、こうなったら……『そういう余裕ぶった指摘をするなんて生意気……!』。さあ誰の真似でしょーか?」

 

 いきなりクイズが始まった。しかもモノマネって、俺とスイの共通の知り合いから考えると、答えがほぼ一択の気がするんだが。

 

「ルティナさん」

 

「正解! ところで、今の結構似てなかった?」

 

「似てました」

 

 雰囲気がそれっぽかった。

 

「よしよし。あ、そうだ、ルティナで思い出したけど、昨日会ったんだってね。魔術の事、沢山聞かれたってルティナが嬉しそうに言ってたよー」

 

 ん……? あれ、なんか話題が急変してないか?

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