ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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一章29話 異世界五日目 ユリアと資料探し②

 そのまま、十分程度歩き、だいぶ奥の方まで進んだ。もう受付からはだいぶ離れていて、辺りには人影一つ無い。俺とユリアだけが、静寂とした図書館内にいるように感じられる。

 

「この本棚の確か、このあたりに……あった。この二冊と、あと上の方にある、あの本が聖なる術に関する本だったはずです」

 

 ユリアが二冊の本を手に取り、俺に見せ、さらに片手で、本棚の上のあたりを示した。だいぶ高い所にある。4メートルくらいありそうだ。あれは取れないな……

 

「ああ、ありがとうございます。助かりました。上のは……まあ、無理ですね」

 

 俺が諦めの声を上げると、ユリアは一瞬悩んだ顔をした後、キョロキョロと周囲を窺いはじめた。

 

「えっと、ちょっと待ってください……うん、誰も見てないよね」

 

 そう呟くと、ユリアはその場で跳躍した。へ?

 思わず驚きながらも、飛んだユリアを視線で追う。俺の身長よりも高く飛び上がったユリアは手を伸ばし一瞬で本棚から本を取り出し、そのまま垂直落下。そして着地。

 ん? 今、着地の音が殆どしなかったぞ……どうなってんだ。それに垂直跳びで2メートルくらい飛ばなかったか……? しかも一瞬で本棚から目当ての本を抜き取り、その過程で本棚や周囲の本には何も影響を与えていない。着ている黒いローブや特徴的なピンクブロンドの髪にも乱れはない。そして驚くべきことに、これらの一連の流れで僅かな着地音以外の音がなかった。ほぼ無音だ。

 なんだこれは……

 

「えっと、どうぞ……」

 

 ユリアはどこか恥ずかしそうにしながら、本を差し出してきた。いや、凄い曲芸を見た。

 

「あ、ありがとうございます。あの、今のは……?」

 

「えっと、その、取れそうだったので……つい。あ、あの、一応、音は立ててないので……」

 

 少し顔を赤らめながら、ユリアは俺から視線を逸らした。いや、別に図書館内での突然の跳躍に関して、責めているわけではないのだ。むしろ、人間離れした技に驚いているのだ。

 

「そ、そうですね。今のは、えっと、もしかして、聖なる術の『力』の活用でしょうか……?」

 

 スイの恐るべき力と似たものを感じる。

 

「はい。まだまだ未熟なので、少し音は出ちゃいますけど……」

 

 未熟……? 謙遜か? それとも聖導師って皆こんな感じなのか。いや、まあ、スイの身体能力も相当だったし、それを考えると、やはり聖導師全員超人説が濃厚か。

 

「いやはや、十分凄いかと……音も殆どしませんでしたし。もしかして、人によっては音が全くしないという事もあるんでしょうか?」

 

「熟練の聖導師は皆、今のは無音でできると思います。このクリスク聖堂にも一人聖導師が所属していますが、その人なら、無音でできるはずです……あ、私はクリスク聖堂所属ではないです」

 

 スイのことだろう。俺には超人同士の強さの差など分からないが、ユリアの言葉をそのまま受け取るなら、スイの方がユリアよりも上ということになる。ユリアはクリスクの探索者として最高レベルであることを考えると、少し意外な情報だ。というか、クリスク聖堂所属とかって何だ。重要なことなのか?

 

「スイさんのことですか」

 

 俺がスイの名前を出すと、ユリアは大きく目を瞬かせた。あ、スイの名前出しちゃった。俺はふと、さきほどスイとした『怖い司書にスイの名前を密告しない』という約束を思い出した。いや、まあ、いっか。目の前の少女が『スイの言及した怖い司書』である確固とした証拠はないわけだし……

 

「……!? スイさんと知り合いだったんですか」

 

 驚いているように見える。何故だ……?

 

「ええ、まあ、一応。あれ、なんか、えっと知り合いだと変ですか?」

 

「い、いえ。そんなことは無いんですけど……でも…………スイさんは何か、フジガサキさんの事を言っていませんでしたか?」

 

 何かって何だ……

 

「何かとは?」

 

 俺が聞くと、ユリアも自信の質問が朧気なことに気付いたのか、少し気まずそうな顔をしたあと、視線を宙に彷徨わせた。

 

「あ、いえ、その、何と言うか、その……すみません。何でもないです」

 

「ああ、そうでしたか。えっと、とりあえず、本取って下さってありがとうございます。他にもいろいろと、探すのを手伝ってくださったり、ありがとうございました」

 

 三冊の本を受け取り、周囲を見回す。ちょうど少し離れたところに読書用だと思われるテーブルと椅子を見つけた。あれを借りよう。

 

「いえ。少しでも助けになれたのなら、良かったです」

 

 ユリアは優しく微笑みながら、そんな言葉を口にした。こういう、人に親切なところはスイと同じだな。いや、まあスイのは少し分かりにくいが。どちらにしろ聖導師というのは、人に対して親切なのかもしれない。

 

「では……自分はこのあたりで……失礼します。また、何かありましたら、その時はよろしくお願いします」

 

 調査でも会ったし、図書館でも会った。何か彼女とは縁があるかもしれない。

 ユリアに頭を下げて、ゆっくりと歩き出し、先ほど見つけた読者用のテーブルへと向かう。

 

「あ……」

 

 しかし、途中で、ユリアが声を出したのが気になり、振り返り彼女の方を見る。

 

「何か、ありましたか?」

 

「えっと、その、ご迷惑でなければ、もう少し一緒にいてもいいですか……?」

 

 ……? 

 

「……ええ、別に大丈夫ですが。この本を読むだけですが……何かありましたか?」

 

「……それは、その………………あ! あの、その本。本棚の上の方にありましたよね。戻せないですよね……? 読み終わったら私が戻しますから、なので、それまで、一緒にいてもいいですか?」

 

 え……? ああ、なるほど。そういえば、先ほど『手に取った本は元の場所へ』という張り紙があったな。忘れてた。そっか、戻さないといけないとなると、確かに俺一人では戻せない。なるほど。

 

「それは、とても助かりますが、ただ、読むのに時間がかかると思いますし、ユリアさんにだいぶ迷惑をかけてしまうと思いますが……」

 

「いえ! 全然大丈夫です。今日は元々非番ですし。それに、図書館を使う人は少ないですから、こんな風に奥の方の本を探してまで読んでくれるフジガサキさんみたいな人をサポートするのも聖導師の役目ですから! き、気にしないでください!」

 

 なぜか興奮気味にユリアはまくし立ててきた。というか、聖導師ってそんな役目まであるのだろうか。役目が多すぎないか? スイなんかは暇そうだったが……あれかな、教義とかで定められた聖導師の役割が曖昧で、解釈次第で忙しさが変わる感じだろうか。いやまあ、多分ユリアが真面目で親切なタイプなのだろう。

 

「そ、それに……! 聖なる術に関する本ですから、何か読んでいて分からない事があれば、教えることもできるかもしれないし……! なので! ご一緒してもいいですか?」

 

 それは確かに実際助かる。専門家のサポートを受けながら読書できるならば、それはもう何と言うか、至れり尽くせりだが……うーん、なんか、親切すぎないか……?

 

「そう言って頂けるのは本当に助かりますが……」

 

「な、なら決まりですね……!」

 

 ユリアは緊張しているように見えた。

 よく分からなかったが、特に自分には損はない。いや、むしろ得ばかりあるので、ユリアの言葉に従うことにしよう。

 

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