ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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一章59話 過ぎ行く日々 スイ①

 それは、段々と寒さを感じるようになってきた、ある日の朝のことだった。

 

「おはよー、お兄さん」

 

 相変わらず眠そうに欠伸をしながら、スイは『ヘルミーネ礼拝堂』で俺を待っていた。

 

「おはようございます。スイさん」

 

「うむうむ、では、まずは今日の串焼きをいただこうか~」

 

 水色の瞳が期待するようにこちらを見た。

 ……困ったな。その期待には応えられない。なぜなら、今日はスイの分はないのだ。少し気まずい。

 

「あー、すみません、今日は串焼きを持ってきてなくて……」

 

「うむ? うむむ?」

 

 スイは不思議そうな表情を浮かべると、「うむ? うむ?」と言いながら、俺の周囲を回り始めた。何回か回ったところで、くんくんと匂いを嗅ぎ始めた。これは、まさか……いや、そんなことは無いはずだ……

 

「匂う、匂うぞ~、お兄さんの体から串焼きに匂いがするぞー」

 

 まさか、そんな……感づかれるとは……!

 実を言うと、俺は今日ここに来るまでの間に串焼きを食べたのだ。だが、買ったのは一本だけ。スイの分は用意できなかった。これには深い事情――銅貨を殆ど持ってなくて、お釣りで財布を一杯にしたくなかった、という大変深い事情があったのだ。ゆえに、手持ちの銅貨のみで購入することができる量――つまり一本分の串焼きだけ買ったのだ。そして俺はなぜだか串焼きをかなり食べたい気分だった。俺はクリスクの聖堂に来る前に串焼きを食べ終え、そして何食わぬ顔で今スイの前に立っているのだ。

 しかし、まさか、こんなことになろうとは……

 

「匂いですか……? 最近、スイさんと一緒に串焼きを食べてますから、その時にの匂いが服にこびりついてしまったのかもしれませんね」

 

 俺はとりあえず、すっとぼけた。

 次の瞬間、スイは飛び掛かった。超人的な加速力により一瞬で距離を詰められて、対抗手段を立てる暇もなく、がっちりと抱きつかれる。

 

「ちょ、スイさんっ!」

 

「ポケット検査っ! ポケット検査っ!」

 

 スイは俺に抱き着いたまま、器用に手を動かし俺の服のポケットに手を突っ込む。不味い、そこには……!

 必死に抵抗しようとするもスイの圧倒的な力に抑え込まれ、なすすべもなくポケットから、機密品――串が抜き取られた。そう、ポイ捨てするわけにもいかなかったから、食べ終えて残った串をポケットに入れておいたのだ。

 串を奪ったスイは俺から離れて、まじまじと串を見つめた。

 

「何だこれは……! 何だこれはっ!」

 

 そしてスイは見せびらかすように、串を振り回した。体全体を使って大袈裟に串をアピールしているせいか、彼女の灰色の髪もそれに合わせて揺れ動く。

 スイは驚愕半分、にやにや半分みたいな説明しにくい表情でこちらを見る。

 

「棒でしょうか……?」

 

 俺はすっとぼけた。

 

「匂う! 匂うぞー、串焼きの匂いがする~、これは串焼きの串だ!」

 

 鋭いヤツめ……

 

「あぁ、なるほど、串焼きのやつでしたか。もしかしたら、何かの時に入れたままにしてしまったのかもしれないですね」

 

「ほかほかの匂いがする! これは今日の朝に買った串焼きだ……! こんなちゃち(・・・)なトリックでスイちゃんを騙せると思いましたか……!」

 

 ちゃち(・・・)と口にしながらスイは串をポケットに出し入れすような仕草をする。ポケットに隠したことが気に食わなかったようだ。

 

「いや、まあ、これは、非常に複雑な概念が絡み合っていて、何と説明したらいいか……」

 

「複雑な概念……無駄です! スイちゃんには分かります……! お兄さんの中の人が串焼きを食べましたね……!」

 

 中の人……? え、何……?

 俺が困惑していると、スイは人差し指で俺の腹を指した。

 

「ここ! ここにいるだろ……! これがスイちゃんの串焼きを食べたに違いない……!」

 

 腹……? あ、いや、まあ確かに、食べた物は胃腸で消化されるかは間違いではないが……

 困惑が覚めない俺を無視して、スイが俺の腹を手の甲で軽く二回叩いた。

 

「中にいますか?」

 

 そして素早くスイはその場で屈み、耳を俺の腹へと合わせた。今日のボケは中々先が読めずツッコミどころに困るボケだ。

 

「ぎゅるぎゅる言ってる……! やっぱり中にいるんだ……!」

 

 驚愕の表情でスイは俺を見た。食後は胃腸が鳴る音がするものだ。あ、待てよ、でもそれを指摘したら、それはつまり、串焼きを食べたことを自白することになってしまう。いや、串焼きではなく朝食を食べたから胃腸が鳴っていると説明することも可能か……?

 

「胃腸の音、では?」

 

「お兄さんの中の人が、スイちゃんの串焼きを食べているに違いない……! けしからん……! 返せ……! 返せ……! スイちゃんの串焼きを……! 返せ……!」

 

 スイがぽこぽこと俺の腹を叩き始めた。特に痛くはない。超人的なスイの力の強さを考えると、かなり加減されていると考えていいだろう。つまりいつも通り、ふざけているのである。

 ええっと、とりあえず、たぶん俺が答えるべき言葉は……

 

「まあ、そのスイさん。何というか、串焼き食べてすみませんでした。あの、次、朝にクリスク聖堂に来るときに、串焼きを買う機会があったら、必ずスイさんの分も買うので……」

 

「むー、まあ、スイちゃんは優しいので、特別に今回の件は大目に見ちゃいます……! でも次隠し串焼きしたら、もうダメですよ……! お兄さんにアレします、スイちゃんの師匠が、アレします……!」

 

 相変わらず、難しいアレの概念だ。

 

「気を付けます……!」

 

「よしよし、お兄さんとも仲直りしたし、中の人とも仲直りだな……! 許すぞ……!」

 

 そう言うと、スイは俺の腹を優しく撫でた。数秒ほど撫でると、スイは再び俺の腹に耳を押し当てた。

 

「ぎゅるぎゅる言ってる……!」

 

 それ以外言わないだろ……

 

「反省してるってことかもしれません」

 

「うむ……! ならよし……! それじゃあ、寒いから中に入るよ~、お兄さん」

 

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