ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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一章63話 過ぎ行く日々 ユリア②

 

 そしてまたある時、この日もスイとの朝の礼拝(ざつだん)を終えユリアと一緒に本探しに勤しんでいた。そんな中、ユリアから珍しい提案を受けた――曰く、ユリアから紅茶をご馳走してもらうという話だった。切っ掛けは些細な事だった。本を探している時、ユリアとは近況やら何やらと雑談を挟む。そして、話題が普段飲んでいる飲み物の話題になったのだ。

 俺は酒はあまり飲めず、こちらの飲食店ではジュースや水、そして時々ハーブティーを飲んでいた。ユリアも似たようなものだったが、一つだけ違いがあった。それは彼女が紅茶を嗜んでいることだ。

 実を言うと俺も結構紅茶が好きだ。しかし、残念ながらこちらの世界では見つからず、俺はてっきり茶の類はこちらの世界には無い、又はあったとしてもクリスク周辺では飲まれないものだと思っていたが、まさかあったとは。

 

 俺はユリアに正直に話した――つまり実は紅茶が好きという事を話し、さらに紅茶はどこに売ってるのかという事を聞いたのだ。彼女は俺の言葉を聞くと、破顔した。どうも紅茶好きというのは、この辺りでは珍しいらしく、同好の士を見つけた喜びがあったようだ。そして話が進んでいき、なんとユリアが紅茶をご馳走してくれるという話になったのだ。

 

 本探しの集中が切れていたこともあったし、何より久々の紅茶が飲めるという喜びもあり、俺はついついその話を受けてしまった。ユリアも本探しの手伝いが嫌になっていたのか、それとも同好の士と一緒に紅茶を飲めることが嬉しかったのか、いそいそとした足取りで俺を教会の喫茶室のような場所へ案内した。

 ユリアに座って待つように指示を受け、そしてしばらく待つと、にこやかな表情のユリアがティーセットを持って現れた。ティーポットからは紅茶特有の香りが漂っている。

 おお……紅茶だ……

 ユリアはてきぱきとティーカップを並べるとそこに紅茶を注ぎ、それからゆったりと椅子に座った。

 

「淹れました……! ぜひ飲んでみてください。あと、よければ、クッキーも一緒にどうぞ。この紅茶によく合いますよ」

 

 紅茶とクッキーを勧められるユリアの淡い赤の瞳からは、強い自信のようなものを感じられる。先程のいそいそとした足取りといい、珍しいユリアだ。

 

「はい。ありがとうございます。ではっ、早速……!」

 

 ティーカップを口元に寄せ、まずは香りを確かめる。おお……紅茶の香りだ……

 そして、ゆっくりと口に含む。おお……紅茶の味だ……

 最後に飲み込む。おお……紅茶の喉越しだ……

 

「どうですか……?」

 

 自信と期待、そして僅かばかりの不安を表情に乗せ、ユリアが問いかけた。

 その答えは俺は一つしか持たない。

 

「おいしいです。とても……おいしいです」

 

 大変おいしかった。紅茶を飲んだのが久々という面もあるだろうが、それを除いたとしても、純粋においしかった。茶葉がおいしいというのもあるだろうし、淹れ方が上手というのもありそうだ。香りの立ち方や味の滑らかさ、茶の濃さなどなど、淹れ方によって左右される面は多いはずだ。

 

「それなら良かったです。修行した甲斐がありました……!」

 

 嬉しそうに、それでいて、どこか得意げにユリアが言葉を口にした。

 

「修行……確かに、凄くおいしかったですし、ユリアさんの淹れ方が上手いというのは自分にも分かったんですが……修行というと……あの、もしかして、聖導師の方は紅茶を淹れる修行もされるんですか?」

 

 気になってしまい、ついつい問いを発してしまう。

 

「あ、いえ、聖導師は紅茶の修行はしないですよ。ただ、私の場合は、実は師匠が紅茶が好きで……ええっと、私は元々、聖導師に……聖導師見習いになるより前は紅茶とは縁が無かったんです。けど、聖導師見習いになったあと、師匠と出会って、それで師匠が紅茶が好きで、聖導師の修行の合間によく紅茶を淹れてくれたんです。それで私も好きになっちゃって……ただ、私の師匠はちょっとだけ適当なところがあって、お湯の量とか茶葉の量が安定しないことがあるというか……」

 

 ユリアは当時を思い出したのか、少しだけ曖昧に笑った。

 

「――それが気になっちゃって私が紅茶を淹れるようになったんです。私が紅茶を淹れると、いつも師匠が褒めてくれて、それが嬉しくて、こだわっちゃったのかもしれません。お湯の量とか茶葉の量だけじゃなくて、ポットやカップの温度とかも気になっちゃって、それでどうすれば一番美味しくなるか色々と試しちゃって……一時期はだいぶそれに嵌っちゃったりもしました。ある意味、紅茶の修行を勝手にやってたみたいな感じです……ただ、そのお陰で、紅茶を淹れるのはだいぶ上手くなったと思います」

 

 少し恥ずかしそうにしながらも、ユリアが理由を教えてくれた。

 なるほど。それであんなに美味しかったのか。結構、凝り性なんだな……いや、今までのユリアの雰囲気からすると凝り性というのは結構イメージ通りかもしれない。

 

「なるほど。なんだか、真面目で何事にも真剣なユリアさんらしいですね」

 

「い、いえ、そんなことは……」

 

「あ、でも、少し意外ですね」

 

「意外、ですか……?」

 

 ユリアが少し不思議そうに問い返した。

 一瞬、言うべきか悩んだか、でもそこまで問題ないだろうと思い、口を動かすことにした。

 

「……あ、いえ、その、ユリアさんのお師匠様って、なんだか、自分の中のイメージだとユリアさんみたいなイメージなので、お茶のお湯と茶葉の量が安定しないというのは凄く意外というか……いえ、決して悪いことじゃないですし、たぶん、おおらかな方なんでしょうけど……」

 

 ん、この言い方だとユリアが『おおらかでない』と受け取られるか……? ちょっと良くなかったかな……?

 内心、悩むが、特にユリアは気にした風ではなく、納得気味な顔をしていた。

 

「確かに、師匠はおおらかというか……そうですね、ちょっとだけ適当というか、……もしかしたら、スイさんに少しだけ似てるかもしれません」

 

 それもう『おおらか』超えて、『不真面目』では……?

 

「スイさん、ですか、なんかイメージがガラリと変わりました。スイさんですか……」

 

「あっ! いえ、師匠はそこまで不真――あ、その、おおらかでもない、かもです……」

 

 ユリアが教会の隠された秘密を口にしそうになるが、途中で慌てたように語句を選んだ。やはりユリアもそう思っていたのか……

 

「な、なるほど。結構掴めました……ええっと、ああ、そういえば、この紅茶ってだいぶ珍しいんですね。まさか売ってないとは……」

 

 少し気まずくなってきたので、話題を変えることにする。咄嗟に良いものが思いつかなかったので、目の前の紅茶――その珍しさについてだ。

 この喫茶室に来るまでに少しユリアと話をしたのだが、それによると、どうやらクリスクでは紅茶を扱っている飲食店は無いらしい。一応、偶に茶葉を売っている店があるらしいが、店に並んでいることは珍しく、また茶葉の種類も選べないため目当ての紅茶を入手するのは大変難しいらしい。ユリアはたまに市場や店に並ぶもののなかで、良いものを選び個人的に蓄えているという話だ。

 

「はい。元々、茶は南の方の植物みたいで、ミトラ王国では栽培していないみたいです。なので、なかなか流通しないみたいで……この茶葉も少し前に市場で偶々売っていたものです」

 

「そうでしたか……そんな貴重なものを、分けて頂いて……その、ありがとうございます。それと、すみません、結構飲んじゃいました……」

 

「あ、いえ、それは、全然良いんです。まだまだ茶葉はありますし、それに一緒に飲む人がフジガサキさん以外はいないですから。やっぱり珍しい飲み物なので、飲む人はもっと珍しくて……『フェムトホープ』のメンバーにも勧めたりしたんですけど、あまり良い反応は貰えなくて……」

 

 ユリアは残念そうに視線を落とした。紅茶布教活動はいまいちのようだ。

 

「それは残念でしたね。良い飲み物だと思いますが……うーん、何ででしょうか。やはり初めてのものだから、人によっては抵抗があるのかもしれないですね」

 

「そうかもしれません…………でも、フジガサキさんには喜んでもらえたようで、良かったです。やっぱり味を分かって貰える人に飲んで欲しいですから」

 

 ユリアはにっこりと穏やかな笑みを浮かべた。

 それから、クッキーをお供に紅茶をおいしく飲み、ユリアと和やかに雑談をした。

 

 なお、雑談は楽しく、紅茶もクッキーもおいしかったが、肝心の本探しはいまいちであった。まあ、こういう日があっても良いと思う。

 

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