ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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一章64話 過ぎ行く日々 ルティナ①

 

 そして、またある日の事。

 

 いつものようにスイと朝の礼拝(ざつだん)を行い、その後はユリアと本を探したり昼飯を食べたりした後、なんとなく魔道具店を訪れた時だった。

 魔道具店に入った理由は、何か便利なものは無いかなという興味と、将来的な三層突入の準備のためだった。

 新しく入荷されたものを中心に見ていたところ、ふと声をかけられたのだ。

 

「何やってるの……! カイ!」

 

 茜色の髪の美少女、ルティナだ。何だか久しぶりに会った。まあ、相変わらず赤い瞳は怒っているように見えるが。

 

「ああ、ルティナさん。お久しぶりです。この前は魔術について色々と教えて下さってありがとうございます」

 

 とりあえず感謝のゴリ押しで、状態が鎮静しないか試してみる。

 

「話を逸らさないのっ! また、魔道具店に来て……! 他にやる事があるでしょ!」

 

 失敗だ。ぷりぷりと怒ってらっしゃる。

 

「ええっと? まあ、今日は探索は休みの日なので、ええーっと、そうですね。やっぱり将来的には魔道具を扱ってみたいですし、それで来てみたんです」

 

 もう扱ってるけど、それを言ったら色々と変なので、将来的に欲しいということにしておく。夢見る権利は誰にでもあるはずだ。

 

「相変わらず、生意気なんだから……! それよりスイにお金、ちゃんと返したの? まだ返せてないなら、こんな所にいちゃダメでしょ!」

 

 おや、もう結構前に返したはずだが、返済の情報は共有されていなかったようだ。

 

「返しましたよ」

 

「本当? 後で確認すれば分かるんだから、嘘だったら怒るんだからっ!」

 

 いや、もう怒ってるじゃん。

 

「いや、でも本当に返しましたよ」

 

「今度スイに会ったら確認するからね!」

 

 別にいいけど……あ! ふと思いついた。そうだ、せっかくだから提案しよう。

 

「それでしたら、朝に会ってみたらどうですか? スイさんが毎朝話し相手を求めて『ヘルミーネ礼拝堂』に人を呼んでるんですよ」

 

 眠そうなスイでも賑やかなルティナがいれば目が覚めるだろう。

 

「『ヘルミーネ礼拝堂』なんてダメでしょ! というか、何でそんな事カイが知ってるの! 教会の恥だよ!」

 

 恥とは。

 

「え、スイさんの話し相手をしているからですよ」

 

「嘘! まだやってたの! ていうか、それ、『ヘルミーネ礼拝堂』だったの!  何やってるの! 二人とも」

 

 これは話の流れ的に『ヘルミーネ礼拝堂』を使ってるから怒ってるのかな? まあ、なんか神聖そうな場所だし、眠気覚ましの雑談をする場所としては不適切なのかもしれない。

 

「話し相手ですかね……」

 

 とりあえず質問に答える。

 

「そうじゃなくて! ああ! もうっ! カイっ! この後予定ある!?」

 

 怒りの染まった赤い瞳がこちらを捉えた。

 どうも『ヘルミーネ礼拝堂』を使ってる理由の方が聞きたかったのかもしれない。質問を言葉通りに捉えるのではなく文脈を見ろということのようだ。難しい。

 

「まあ……無いですよ」

 

「なら、ここだと話しにくいから、来て!」

 

 ルティナに気迫に押されてしまい、彼女に導かれるままに魔道具店を出て、そして、軽食店へと押し込められた。

 席につき、注文を頼むや否や、ルティナが鋭く言葉を放った。

 

「それでっ! 何でカイまでサボリに加担してるの……!」

 

 これは、あれか。スイのサボリの件か。やっぱり怒る人はいるんだな。個人的には他人がサボろうが何しようが、どうでも良い気もするのだが。まあ、聖導師は権威もありそうだし、その上、金になる力の持ち主だ。ただ遊ばせておくのは良くないと思う人も多いのかもしれない。

 

「スイさんが朝の話し相手が欲しいと言っていて、それで、特に断る理由も無かったので、一緒に話をしています」

 

 とりあえず事実をありのままに伝える。

 

「礼拝の時間でしょ! 二人して何でサボってるの!」

 

 ごもっともで。で、でもサボってるのはスイだけだから……

 

「……ええっと、言い訳になりますが、礼拝の義務は無かったと記憶しています。いや、まあスイさんはあるのかもしれないですけど……」

 

「言い訳しないのっ! スイのサボリを知ってたんでしょ! 同罪なんだからねっ!」

 

 すんません。

 

「まあ……それは、その。まあ、すみません。でも、ええっと元を辿ると――」

 

「――だから言い訳しないのっ!」

 

 俺が言葉を全て言い切る前にルティナの声が挟まれた。

 お怒りでいらっしゃる。ルティナはいつもお怒りだが、今日は今までで一番お怒りだ。ぽんぽん爆発するから、火山の噴火みたいだ。

 

「すみません。でも……ああ、ええっと、ちなみに、なぜそこまでお怒りなんですか? すみません、たぶん信仰上の理由があるとは思うんですが、何分、自分は少し違うものでして、その辺りの感覚がよく分からないので、できれば教えて頂きたいのですが……」

 

 宗教は難しいからよく分からないのだ。

 

「スイがずっと礼拝をサボってるからだよ。前からずっとそうだったけど、いつも注意しても、のらりくらり! 『最近は主を信じない人と話をしてる』なんて言い訳までしてっ! あ! これっ! カイの事でしょ! 二人してサボリの大義名分を作ってたんだ! 何やってるの! お金借りてたからってやって良い事と悪い事があるでしょ!」

 

 いや、金の貸し借りは関係ないと思うが……

 それに理由の説明がまだ途中のような。ルティナはよく噴火するから、話が散らかってしまう。

 

「ええっと、自分は直接的にスイさんのサボリを手伝った事は無いですよ。スイさんが眠いので話し相手になって欲しいと言っていて、断る理由も無かったので受けました。それが、悪い事だったのですね? それでしたら、すみません」

 

「うぐ……それだけなら悪くないけど……でも本当はカイだってサボリって知ってたんでしょ! 正直に答えてよ!」

 

 まあ、サボリだとは思っていたが……あれ? サボリだと気付いたのは何時頃だったか。最初から気付いてたっけ、それとも最近だったっけ? どっちだ? 思い出せないな……

 

「もし、『今、知った』と言ったら、ルティナさんは許してくれますか」

 

 とりあえず、スタンスの確認でもするか。

 

「え……そうなの? それなら……いや! 待って! その言い方! 絶対最初から知ってたでしょ! そういうの分かるんだから!」

 

「いえ、最初から知ってたかどうかが、あやふやで。もう結構前からなんですよスイさんの話し相手になってるの。ずっと毎朝会ってて」

 

「ちょっと待って。ずっと毎朝……嘘、もしかして、初めて会った日から毎朝スイの話し相手をやってたの?」

 

 最初からそう言ってなかったっけ……?

 

「ええ、まあ。偶に会わない日もあったと思いますが、殆ど毎朝会ってますね」

 

「なんで……え、お金は、スイに借りてたお金はちゃんと返したんだよね?」

 

 いや、だから金の貸し借りは関係ないような。

 

「ええ。そこそこ前に返しましたよ」

 

「じゃあ何で付き合ってるの! スイとの話にずっと付き合うって……カイは暇人なの?」

 

 暇人……自分の主観では暇ではないけど、でも他人から見ると暇人かも。というか、逆に、スイと話をするのは嫌なのか……いや、まあ、確かに個性的な面がある少女だとは思うけど。

 

「そういう見方もある気はします」

 

「変な言い訳しないの! そういうのを暇人って言うの! まさかとは思うけど……スイから生活費とか貰ってないよね?」

 

 いや、さっき金は返したって言ったじゃん。

 

「いえ、最初に借りたお金は返しましたし、その他には借りてないです」

 

「そう、それなら――待って! 誤魔化されないよ! 借りてないけど貰ってるんでしょ! お金も稼がないで! スイからお金貰って話を聞いてるんでしょ!」

 

 おお! 凄い悪評だ。悪評すぎてスイにまで飛び火している!

 まさか、これはあれか。実在するか定かでなかったが伝説の友達料ってやつか。スイが友達料を俺に払っているとルティナは考えているのか。なんという誤解。それにスイくらい器量が良ければ、友達料は払う方ではなく貰う方のような気もするが……

 

「いや、それは無いです。断言しますが、お金は貰っても借りてもいないです。自分で稼いでいます」

 

 一応、断言しておこう。スイの名誉のためにも……まあ、スイは気にしない気もするが。

 俺の言葉を聞いたルティナは一瞬鋭く俺を睨むと、視線を俺の横へと流した。そうして、ルティナは俺のバックパックを指差した。

 

「じゃあ、そのバックパックは何かな?」

 

 はて?

 

「はい、えっと? バックパック?」

 

「そう、それだよ。『軽量化のバックパック』でしょ。確か、金貨20枚の品。スイからお金を貰って買ったんでしょ!」

 

 なぜ分かった……見ただけで、商品名や価格まで分かるとはマリエッタ以上の目利きだ。

 

「おお……凄いですね。見ただけで分かるとは……確かにこれは『軽量化のバックパック』です。でも自分で買いましたよ。さっき言った通り、貰っても借りてもいないです。お金も商品も」

 

 まあ、しょうがないので、正直に話す。ちょっと変な事になる気もするけど、だいぶルティナはお怒りのようなので、仕方がない。

 

「嘘! 金貨20枚だよ。流石にこんな短期間で、そんなに稼げるわけないよ! 本当はスイに借りたんでしょ。正直に言ったら……立て替えくらいはしてあげるよ」

 

 まあ、そう考えるか。実際ルティナ視点だと、俺は低層探索者なので、この期間で金貨20枚は非常に難しい。

 しかし、それにしても……ちょっと良く話が見えないな。スイに借りたと思うのは良い。いや、違うから本当は駄目なんだけど、まあそこは良いとする。で、なんで『立て替え』なんて言葉が出て来る。まるでルティナが払うみたいじゃないか。

 

「いえ、本当に自分が出しました」

 

「そんなに見栄張らなくていいから。カイはたぶんまだ四層、行けて五層でしょ。ソロじゃ金貨20枚は無理だから。スイからお金を貰って買ったんでしょ。もう分かってるから。カイも本当はこのままじゃ良くないって分かってるでしょ。ほらっ、正直に言う!」

 

 うーん、どうしたものか。これは困ったな……色々な面でルティナを甘く見ていた。

 一つは目利きの力。魔道具店や魔術店で会っていたし、彼女自身上位の探索者だと言っていたが、まさかここまで目利きが上手いとは思っていなかった。

 二つ目はたぶん信仰心。スイのサボリに関してだいぶ気にしているのは宗教的な価値観を重視しているのだろう。

 そして三つめは……よく言えば正義感が強い所。スイのサボリと俺の不自然な所有物から色々と連想し、それが社会通念上良くないと思ったのだろう。良くないと思った事に関して、相手を直接ぶん殴って行く話法は正義感の強さを物語っている。まあ、見方によっては余計なお節介とも言えるが。

 

 とりあえず誤解は解いた方が良いが、ルティナは結構突き進むタイプだから、今更何を言っても聞きそうにないな。それに何かこっちを正そうとしてくるし……むむむ、何と声をかけるべきか。

 

「ええっと、怒らないで聞いて下さいね?」

 

 自分で言いながら、もうすでに怒ってる人に言う事ではないなとも思う。

 

「何?」

 

「実はルティナさんには言ってなかったんですが……結構稼いでて、まあ、こう言うとルティナさんは怒るかもしれませんが、遺跡で上手く立ち回ってるんです。詳しくは秘密ですが、まあ、四層や五層で活動しているわけではなく、より、まあ、何と言うか……今の自分のレベルにあった場所で活動しています」

 

 よし、嘘は吐いてないな……

 

「自分のレベルにあったって何っ! 何層で活動してるの! 変にボカさないでよ!」

 

 お怒りだ……

 

「まあ、四層や五層は……怒らないで聞いて欲しいですが、今の自分のレベルには見合わないというか。正直な話、今の自分は一日最低でも金貨4枚は稼いでます。金貨20枚の魔道具ぐらいなら手が出せるんですよ」

 

 最近の上がりは金貨4枚どころじゃないけど、まあ、正確な値を言うのは、とても不自然なことになってしまうので、ぼかす。一応日当金貨4枚というのは昼組では難しいが、夜組なら可能な範囲だ。ソロで夜組って殆どいないと思うけど……

 

「一日金貨4枚……中層レベルって事? ソロで? あのね! そんなことが駆け出しのカイにできるわけないでしょ! 大口を叩かないのっ!」

 

 中層には行っていないし、たぶん将来的にも行くのは難しいと思っているが、稼ぎの方は事実だ。まあ『感覚』のお陰なので、あまり大きな声では言えないのだが……とりあえず、今はルティナが怒っているので仕方がない。

 

「いえ、本当ですよ。というより、とりあえずの話ですが、スイさんからお金を貰ったないし借りたって件はスイさんに確認すれば分かるのでは? それで、こちらが受け取っていない事が分かれば、ルティナさん的には納得って形でいいですか?」

 

「ちょっと! 話を逸らそうとしないの!」

 

 話を纏めようとしたのだが……うーん、これは本当にお怒りだ。たぶん俺の件だけでなく、スイのサボリの件も大きいのだろう。そちらの方は俺では解決するのが難しいので、根本的にこのルティナの怒りを鎮めるのは無理そうだな。どうしよう。

 

「いえいえ、逸らそうとしているのではなく……えーっとでは仮定の話として、自分がスイさんにお金を貰っていないかつ借りていない、これが満たされればルティナさんの気になる点は一部解消という認識でいいですか?」

 

 もうしょうがないので、一個ずつ処理していこう。これ以上連鎖爆発は避けたい。

 

「まあ、そうだけど……いや、待って、まだスイのサボリの件があるから。二人でサボってたんでしょ! ダメだからねっ!」

 

「ええっと、とりあえず、お金の件を詰めませんか。サボリの件はどちらかというとスイさんの問題のような気がするので」

 

 スイを犠牲にし目の前の問題の解決を図る。

 

「ダメ! そうやって話を逸らす気でしょ! 分かるんだからね!」

 

 むむむ……これはちょっと難しいぞ。うーん、もしかして何か考えがあるのかな?

 

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