ほのぼの生存戦略、気ままに生きるのは難しい   作:こふし無双

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一章86話 お触り厳禁!

 

「私が調べた限りではね。スイはどうだったの?」

 

「んー。たぶん使えると思うよ」

 

 二人の言葉を聞いたマリエッタは満足気な表情をした。

 

「わかった! それなら調べな――」

「――あ、あの!」

 

 そしてそのまま、マリエッタが言葉を発した時、ユリアは口を挟んだ。

 

「何? ユリア?」

 

「あの、その、スイさんやルティナさんの診断を疑うわけではないんですけど、やっぱり教え手であるマリエッタさんが直接調べた方がいいと思います……その、手触りとか、魔力の流れとかもマリエッタさんなら分かりますし、細かいレベルで知っていれば、フジガサキさんに教えるときにスムーズに行くと思いますから。どうでしょうか……?」

 

 少し不安そうに、だけれど、真剣そうな表情でユリアがマリエッタたちに話した。

 

「まあ、ユリアちゃんが言うなら」

「んー?」

「なるほど! それはそうだね! それじゃあ! 今度こそ、カイさん、おでこ触るね!」

 

 ルティナ、スイ、マリエッタがそれぞれユリアの言葉に反応する。そしてマリエッタはこちらに近づいてきた。しかし、彼女の手がこちらの額に触れるよりも早く、席を立ったスイが間に割り込んだ。

 

「お触り厳禁でーす」

 

「ちょっとだけだから!」

 

 マリエッタはスイを躱すように体をひねり、俺の方に近づくが、スイが素早くマリエッタの体を取り押さえた。

 

「ん! 動けない! いや! 相変わらず凄いねスイ! ユリアより強いかも。もう人間じゃないでしょ!」

 

 マリエッタは体を動かそうとしているようだが、びくともしない。

 

「いやいや~。私はたぶん、まだ人間だよー」

 

「うーん! 全然解けない! スイ! ギブアップ! 放して!」

 

「放しませーん。お触り厳禁でーす」

 

「あの、スイさん。マリエッタさんは魔術の適正を調べるだけですから……」

 

 ユリアがやんわりとスイに許しを得ようとする。

 

「ダメでーす。どうしてもって言うなら、私の屍を超えてからにしてもらおうかな~」

 

 スイは、にやにやと挑発的な笑みを浮かべながらユリアの求めを拒んだ。

 

「えっと、それなら、私が……」

 

 そう言うと、ユリアは静かに席を立ちあがり、マリエッタを取り押さえたスイを迂回するようにテーブルを回り、反対側から俺の方に近寄ってきた。おっかなびっくりといった感じで手を伸ばすが、彼女の手が俺に触れるよりも先に、またしてもスイが間に割り込んだ。デジャヴだ。

 

「ちょっとちょっと、ユリア何してるの? お触り厳禁だよー」

 

 マリエッタを取り押さえながらスイがユリアに注意をする。

 どうやらユリアの動きに合わせ、スイはマリエッタを抑えたままユリアと俺の間に移動したようだ。

 

「器用に動くね! スイ!」

 

 スイの動きにより無理やり彼女とともに動かされたマリエッタは、妙に感心したような声を上げる。

 

「あ、あの、屍を超えないで調べられないかと、思いまして……!」

 

 妙に使命感が籠ったような表情でユリアがおずおずと話す。

 

「むむ! お兄さん見た?! 今、ユリアは無抵抗なお兄さんのおでこを触る気だったんだよ! これがユリアの本性だよ!」

 

 ふざけた内容でスイはユリアを糾弾する。勿論、半分以上冗談で言っているのだろう。スイはたぶんユリアに構ってほしいのだろう。まあ、もしかしたら、俺に対する独占欲的な感覚も少しはあるのかもしれないが。

 それにしても、スイのユリアへの悪評がまさか本人を前にしても言うものだとは……まあユリアは真面目で優しくて、それでいて懐が広そうだから、つい話したくなってしまうのかもしれない。ユリアならば、このくらいの事は苦笑いで許してくれそうな雰囲気がある。

 けれども、なぜか、当のユリアは苦笑いではなく真剣な表情をしていた。どうも、スイはふざけているが、ユリアは真面目に取っているようだ。あれ? 読み違えたか? 何か言った方が良いかもしれない。

 

「えっと、スイさん」

 

 こちらに背を向けるスイに声をかける。

 

「何かね、お兄さん」

 

 スイは、くるりと顔だけこちらに向ける。

 

「何かダメな理由とかってあるんですか?」

 

 俺の何気ない質問だったが、なぜか空気が張り詰めた気がした。気になり周囲を見る。

 アストリッドは特に表情を変えていない、無表情でこちらを見守っている。ルティナは呆れたような顔をしている。こちらを振り向くスイは相変わらず悪戯気な表情だ。マリエッタはスイに取り押さえられているため表情は見えない。ユリアは、とても緊張した表情でスイと俺の方を見つめていた。

 ユリアから張り詰めた空気を感じる。今の質問、良くなかっただろうか? 俺としてはユリアやマリエッタの助け船になればと感じたが……ユリアにとっては良くない質問だったのか……?

 

「んー? 聞きたいかね~?」

 

「あんまり、マリエッタさんを抑えたままだとお店の人も困りそうなので、結構知りたいです」

 

 結構状況はカオスだ。座っている俺の近くのスイが立ち、そのスイはマリエッタを取り押さえたままユリアと向き合っている。ユリアも本来の席から離れたところにいる。ちゃんと席に座っているのは六人中三人だ。立ってる人たちは皆俺の周りにいるし、二人は俺のおでこに触ろうとし一人がそれを阻んでいる。字面にしても中々独特な状況だ。たぶん店員さんが見たら困惑するだろう。

 

「なるほどー、それは一理あるね~。よーし、マリエッタ! 解放だ! 着席したまえ~。ユリアも席に戻って~」

 

 俺の考えに理解を示してくれたのか、それとも他の理由かは分からなかったが、スイはマリエッタを解放した。解き放たれたマリエッタは一度体を伸ばすと、席へと戻る。そして、それに合わせてユリアもまた席へと戻った。

 二人が席に戻るのを確認すると、スイは一度俺の傍まで来て、軽く俺の頭をぽんぽんと二度叩いた。なぜ叩く……?

 

「うむうむ~。よしよし、それで、理由だね。理由はね~。なんとなく、かな。今の私の気分として! お兄さんに勝手に触るのは禁止ってこと!」

 

 よく分からない仕草に困惑していると、スイがよく分からない理由を教えてくれた。日が陰っても、スイのマイペースぶりに陰りは無いようだ。

 

「横暴だ!」

 

 席に戻ったばかりのマリエッタから抗議の野次が飛ぶ。

 

「その、スイさん、一回だけ認めてもらえませんか? その、マリエッタさんが教えるとき、教えにくいと思いますし……フジガサキさんの為にもなると思うんです……」

 

 暖かい表情で、優しく親切そうな雰囲気。だけれど、どこか張り詰めたような、そんな感じがした。

 

「ふむふむ、で、本音は?」

 

 一方で、スイは普段のマイペースさを崩さずにどうでも良さそうにユリアに問う。

 

「………………えっと、その本音とかじゃなくて、魔術を教えるのは危険も伴いますし、お互い、特に教える側は教わる側の事を良く知ってないと……二人とも、しっかりとしてますけど、もしもの事もありますし……」

 

 スイのマイペースな理不尽さの呆れたからだろうか、ユリアは少し答えるのに時間をかけた。

 

「ふむふむふむふむ。ユリアよ。私の目を見て、質問に答えるのだ~」

 

 しかし、そんなユリアの真面目な返し方もスイには無力だった。スイはふざけたような口調で、ユリアに不可思議な要求をする。

 

「え……? いいですけど、あの、マリエッタさんが適正を調べる話は……?」

 

「それは、ユリアの答え方次第だよー。じゃあ、質問するよ~」

 

 真面目なユリアはできるだけ話の軌道を修正しようとするが、スイはにやにやと笑い、自分勝手な問いを発する。

 

「は、はい」

 

「ずばり! ユリアはお兄さんの事を特別な人だと思っているか。はい、か、いいえ、で答えてね~」

 

 ……質問の意図が良く分からない。なぜそんな質問をするのだろうか。そもそも特別とはどういった意味だろうか。俺が不思議に思ったのと同じようにユリアも感じたのか、彼女は困惑したような顔つきになった。

 

「…………えっと……、その答えは……はい、だと思います。その、探索者としてソロで活動してて、中層……? まで一人で行けるのは特別な人でないとできないと思います。将来的にはギルドでも有数の探索者になると思います」

 

 ユリアは精一杯といったように言葉を絞り出した。聞いていて納得できる点がある回答だ。特別の解釈にもよるが、概ね質問に対して誠実に答えているように思える。

 

「んー! 不正解! よっておでこ検査は禁止です!」

 

 しかし、スイはその答えに納得しなかった。いや、そもそも何をもって正解とするのかがまったく分からない。もしかしたら、最初から何を言っても不正解と答える気だったのかもしれないが。

 

「横暴だ! 悪徳聖導師!」

 

 マリエッタから野次が飛んできた。チラリと見るが、楽しそうに酒を飲んでいた。当事者の一人のはずだが……いや、まあそこまで真剣になる話ではないのかもしれない。ユリアだけが真剣に取っているが……たぶん感性の違いだろう。安全意識とかその辺りだろうか。

 たぶん今までの話の流れを見るに、本来、マリエッタが魔術を教える分にはそこまで慎重に考える必要はないのだろう。十中八九安全性が保証されているものなのだろう。けれど、ユリアは僅かな危険性も見逃したくないのだろう。真面目で真剣な彼女らしいと言える。

 そして、スイはユリアに構ってほしくて色々とイチャモンをつけているのだろう。そう考えると、どちかというとユリアに味方をしたいところだが……先程はユリア側だったマリエッタも楽しく野次を飛ばしているため、ユリアの思いを汲むのは難しいかもしれない。それに、さっきのスイの立ち回りを見ると、検査をしてもらうのを意地でも妨害してきそうだ。

 

「えっと、でも……」

 

「風の適正はあるって分かるんだから、それで十分だよー。はい! 閉廷! これ以上、魔術の話をするのは禁止!」

 

 ユリアの戸惑いの声に対して、スイは両手で大きくバッテンを作った。皆が困惑し、言葉が出ないでいる中、ただ一人ユリアだけが、口を小さく動かす。

 

「あの、でも――」

「――はいはいはい! 『あの』とか、『でも』とかも禁止! もう魔術の話はダメ! 別の話、別の話~」

 

 それでもなお引き下がろうとするユリアの言葉を遮るように、スイが駄々をこねた。これはちょっと介入が難しそうだ……まあ、実際にマリエッタに教えて貰うのはずっと先だし、その段階になってからマリエッタに調べてもらえばいいだろう。その時ユリアにも話を通せば、彼女の心配事も減るだろう。俺もできるだけ安全は重視したいし、この考えが丁度良い気がするな。

 

「えっと――」

「――それなら、ちょっと聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」

 

 しかし、俺の思いとは裏腹に、ユリアがさらに言葉を重ねようとした。しかし、それもアストリッドの言葉に遮られてしまう。

 

「うむうむ~。何かね、アストリッドー?」

 

 スイはユリアの言葉を潰したことが気に入ったのか、ここぞとばかりにアストリッドの発言を促した。

 

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