曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第101話 最強の保育士失格

 

綺麗な青空の下に立つ保育園。その外で、あげはと園児たちは今日も元気に走り回って遊んでいた。その中であげはは両手を上げながら、

 

「……ふっふっふ!この保育園をめちゃくちゃにしてやるぞー!」

「保育園の皆は僕達が守る!!」

「「「「「「たあああああ!!」」」」」」

 

とびっきりの悪い顔を浮かべ、怖そうに宣言する。両腕も上げて手もワキワキと動かしてそれっぽく恐怖を演出していかにもな悪役を演じようとする。保育園を襲おうとする悪い敵を前に、たける達6人の園児たちが立ち上がると、あげはにまとめて襲い掛かる。

 

「やーらーれーたー!」

「もう……あげは先生弱すぎ!もっと強いのやって!」

 

本当に殴られたりしたりはしないが、生徒達にわちゃわちゃとされる。正義の味方と化した子供たちの攻撃によって悪役のあげはもこれ以上は戦えないと倒れてしまい、諦めたようにがっくりと膝をつく。園児たちとの遊びの一環でやっていることなので本気になるわけにもいかないし、ここら辺が落としどころとしては正しいのだろうが、全員が全員それに満足するわけでもない。特にたけるにとってはそのようで、呆れたような表情であげはに駄目出しをしてくる。

 

「そうだ!あげは先生がやっつけたゾウさんの怪獣くらいの……」

「ちょっ!?たける君!?」

 

いきなり初めて戦ったランボーグの話をされ、慌てるあげは。確かにあの時、たけるにはばっちり変身してるところを見られていたため、彼が正体を知っていることは当然ではあるのだが、内緒にするという約束ではなかったのか。他の園児たちもたけるの話に興味津々にあげはに質問してくる。

 

「え!?あの怪獣を先生が!?……先生じゃなくてプリキュアでしょ?」

「!!そう!やっつけたのは私じゃなくてプリキュア!だよね?たける君!」

 

園児たちが純粋で助かった。内心ほっとしながら園児の1人の質問に繋げる形で返答する。そしてたけるは、キュアバタフライの正体があげはだということを黙っている約束をしていたことを思い出し、あげはに乗っかる。

 

「そうそう!やっつけたのはプリキュアだ!」

「まったくもう……」

 

笑いながら、たけるの言い間違いを優しく宥める形に収めるあげは。これで他の園児たちから疑いの目は向けられずに済んだなと考えていると、他の園児の泣き声が聞こえてくる。

 

「?どうしたの?」

「大丈夫か?」

 

あげはがその鳴き声のした方へと向かう。と、その脇をたけるが小走りで抜けていき、泣いている男の子に駆け寄る。

 

「速!?」

「壊れちゃった……トンネル作ってたのに……」

 

その男の子は砂場で山を作っていたようで、そこにはトンネルを掘っていた形跡があった。しかし途中で山が耐えきれずに崩れてしまい、トンネルが崩落してしまったのだろう。頑張って作ってきたものが壊れてしまったショックに悲しくなり、泣いているようだった。

 

「一緒に作るから泣くのやめな!」

「……うん!」

「やるじゃん、たける君」

「最強だからね!あげは先生みたいに!」

 

たけるに言われ、男の子も泣き止むとたけると一緒に山を作り直し始める。友達を助ける姿を見て喜ぶあげはに、たけるも元気に返す。特に、自分みたいにと言ってくれたことがあげはは嬉しいようで満面の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、そんなことがあったんですか?」

「私もたける君に負けないよう、もりもり食べて頑張らないと!」

 

そんなことがあった日の夕食。今日の事を嬉しそうに皆に話すあげは。良いことがあると食欲も増してご飯が進む。そう言うかのようにどんどん食事を食べ進めていく彼女の食べっぷりは見ていて気持ちがいい。

 

「ご飯をしっかり食べる!それがヒーローです!」

「あーい!」

「そうだ!この事をヤクモさんにも教えてあげましょう!」

「あはは、それがいいかも!ソラちゃん、後で伝えといてくれないかな?」

「わかりました!!」

 

こういう出来事は皆で共有するべきだとするソラにあげはも賛成する。後で電話しようとソラが決めていると、ましろがバケットに新しいパンを入れて持ってくる。

 

「皆、おかわりもあるよ」

「ありがとうございます!」

 

どんどん食べ進めていく食欲旺盛な2人にはこれぐらいがちょうどいいのだろう。ソラはおかわりを持ってきてくれたましろに礼を言いながら、あげはと共に焼き立てのパンに手を伸ばすのだった。

 

「……」

 

そして夕食が終わり、時間も過ぎて就寝時間。ソラ達もどんどん眠っていく中、止まり木に止まっていたツバサも眠たそうに欠伸をする。

 

「ふぁ……僕も寝ますね、おやすみなさいあげはさん……」

「うん、お休み」

 

リビングにはあげはだけが残っていた。彼女はファイルにしまっていた、実習に関係した書類にボールペンで色々と記入しており、一旦手を止めてツバサの挨拶に返事を返すと、ツバサも巣箱の中へと入っていく。それを見届けたあげはは、再び書類にペンを走らせていた。そして、どれくらいの時間だろうか。

 

「やぁるじゃあん……」

「!?」

 

たまたま、ツバサの眠りが浅くなってた時間にあげはの少し大きめの声が聞こえてくる。突然のあげはの声に驚き目を開くツバサ。家の中は完全に真っ暗になっており、止まり木にぶら下げられているランタンから眠気を促進させる暖かく淡い光が漏れている程度しか光源はない。しかし、目を覚ましたツバサがあげはの声がすぐ傍から聞こえたことから視線を動かすと、そこには絨毯の上で寝転がって眠りこけているあげはの姿があった。

 

「とんねる……いっしょに……」

「って、寝言……」

 

寝るならちゃんと部屋に戻ってほしいと思いながらも、一度眠っている状態を起こすのも忍びない。やれやれと言いたげに肩を竦めると人の姿に変わるツバサ。そして毛布を取ってくると、あげはの上にかける。

 

「全く、世話が焼けるんだから……」

「ふふ……たけるくんさいきょー……」

 

ツバサが毛布をかけてくれるとは全く気付いておらず、夢の中で楽しそうに過ごすあげは。その様子を見ているとふふっ、とツバサの口からもつい笑い声が漏れる。

 

「子供達のこと、大好きなんですね」

 

あげはが園児たちの事をどれだけ想っているのか、それは見ているだけで伝わってくる。ツバサはいい気分のまままた巣箱へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、たける君!」

 

そして翌日の保育園。玄関に靴を入れるたけるの姿を見つけたあげはが元気に挨拶をする。のだが、

 

「……」

 

たけるはあげはを一目見ると無言で園の中へ入っていってしまう。いつもならあげはが挨拶すればたけるもちゃんと返してくれるはずだったのだが、何かあったのだろうか。その後も、たけるは普段の様子はどこへやら、急に静かになってしまっていた。そういう時期が来た可能性は確かにあるのかもしれないと一瞬考えるも、まだ保育園児でそれは早いと思うし、何か嫌な予感をあげはは感じていた。

 

「……あげは先生、たける君のことでちょっと……」

「え……」

 

何があったのか聞こうとしたあげはを、他の先生が呼び止める。そして職員室の方へと移動したあげはは、彼の家に何があったのかを聞かされることになる。

 

「たける君が、引っ越し……!?」

「急に決まったらしくて……うちの保育園に来るのは今週いっぱいだって……」

「そう……なんですね……寂しくなるな……」

「たくさん遊んだもんね、あげは先生」

「あ、いえ……」

 

今まで一緒に遊んだり過ごしてきた仲間たちと急に離れ離れになる。それはあげはや園児たちにとっても寂しいことだろう。特にあげははたけると一緒に遊んだりしていたので、彼女の寂しさも人一倍だろうと同僚が慰めの言葉をかける。その言葉に自分がショックを強く受けていたことに気付いたあげはは誤魔化すように笑うと、園児たちの所に行くために席を立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「たーけーるー君?」

「!」

 

その日、たけるは皆と外で遊ぶことはなかった。最初こそ外に出ていたものの、すぐに遊ぶ気力がなくなってしまったのか、室内に戻って1人で絵本を読んで時間を過ごしてしまう。その様子を他の園児たちも最初は気にしていたものの、すぐに遊びを再開しており、彼の様子を気に掛ける人はいなかった。だが、他の園児たちと遊びながらもずっと様子を気にしていたあげはが1人になれたタイミングを利用してたけるの元を訪れていた。

 

「何して遊ぼうっか?」

「……」

 

普段と変わらない様子でたけるを遊びに誘う。しかしたけるは寂しそうにあげはから視線を外して後ろを向いてしまう。

 

「……そうだ!かくれんぼしない?」

「しない……」

 

その様子に気付いたあげははたけるを楽しませようと、かくれんぼを提案する。しかしたけるは遊びたくないと言わんばかりにあげはの誘いを拒否してくる。だがあげはもめげずにたけるを遊びに誘おうとする。

 

「じゃあ縄跳び?」

「しない」

「えっと、そしたら……」

「遊ばないってば!」

「!……じゃあ、遊びたくなったら、言ってね。たける君のこと、待ってるから」

 

しかし、今のたけるにはその誘いは届かないようだ。それだけ、複雑な心境なのだろう。少しでも彼の心に寄り添えたらと思って誘ったが、とにかく1人になりたいと考えているなら今は自分が手を出すような状況ではないのだろう。もう少し、彼が今の自分の思いに折り合いをつけるのを待とうと決めるあげは。そんなあげはの言葉を聞きながら、たけるは悲しそうに、そして悔しそうに両手を強く握りしめる。

 

「……」

 

その背中に、あげははかける言葉が見つからなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

その日の夜。あげはは完全に意気消沈した様子でリビングで項垂れていた。帰宅したあげはの様子を見かね、ソラが呼んだヤクモも心配そうにあげはを見ていた。

 

「あげはさん、どうしたの?凄く落ち込んでるけど……」

「そうですよ……あげはさん、そんな大きな溜息をついちゃって……」

「!やだなぁ、溜息なんてついてないって」

 

ヤクモが来るまでは頑張って耐えていたようだが、遂に大きな溜息が漏れてしまうあげは。電話で様子については聞いていたが一体何があったのかヤクモとソラが質問するも、あげはは慌てて誤魔化そうとする。しかし、5人の無言の視線を受けて、あげはも観念して今日あったことを話し始める。そしてそれを聞いたソラ達も、悲しそうな表情に変わっていく。

 

「……たける君。保育園から離れるの、よっぽど寂しいんですね……」

「お別れはいつだって辛いから……」

「うん、たける君を励ましたいけど……どうしたらいいのかわからなくて……これじゃ、最強の保育士失格かも」

 

ましろの言葉に同意するように頷くあげは。別れの辛さはよくわかっているはずなのに、今の自分はたけるに寄り添うことができていない。これでは、目指している最強の保育士には程遠いとさらに落ち込むあげは。その様子を見て、こんな時ではあるが湧いてきた疑問をツバサはつい質問してしまう。

 

「……あの、今更ですが……その最強の保育士って何なんですか?」

「……言われてみれば確かに……そういうニュアンスとしか思ってなかったけど……」

「まあ……確かにぶっちゃけるとそういう感じなのはそうなんだけど」

「やっぱり、強い先生!ってことでは?」

「うーん、そういう強いとはちょっと違うかな」

 

最強の保育士。あげはが掲げるその目標は一体どういう保育士なのか。これまではツバサもヤクモが言っているようにそういう雰囲気的なものかと解釈していたのだが、改めて考えると優しい保育士などの方が言葉としては違和感がない。それこそ言葉だけ切り抜くと拳を突き出し、力が強い、皆を守って助けてるみたいな受け捉え方をしているソラが一番それらしい受け取り方と言えるだろう。3人の指摘にあげはもそう言われればそうなっちゃうかと苦笑しながら、自分が目指しているという最強の保育士について説明し始める。

 

「私が小さかったころ、お父さんやお姉ちゃんと離れて暮らすようになって……悲しくて保育園でも落ち込んじゃって。そんな時、傍にいて見守ってくれた先生がいたんだ。雨の日も、晴れの日も……ずっと気にかけてくれて。その人の手がすっごく暖かくて、心まで温かくなった気がして。保育園の先生って凄い……最強だって思ったの」

 

あげはが最強の保育士を目指そうと思った理由は、彼女の過去にあったようだった。両親の離婚で落ち込んだ彼女に寄り添ってくれた保育士。その姿が今も彼女の中に強く残っているのだろう。

 

「その先生があげはさんの心を守ってくれたんですね」

「子供の心を守る。それが私が思う最強の保育士。でも……私はたける君に何もしてあげられない……このままお別れなんて」

「大丈夫。きっと、あげはさんの心は伝わってるはずだよ」

「あげはちゃんも寂しいよね……元気出して」

「ありがとう、ましろん、ヤクモ君。でも……私のことはいいの。今はただ、たける君に笑ってほしい……」

 

自分の事は既に折り合いはついているからいい。しかし、今その問題に直面してるのはたけるなのだ。幼いながらも襲い掛かってきた辛い現実の中でも、心を強く持って笑ってほしい。自分のように。そのためにあの先生のように寄り添ってあげたいと思いつつも、中々現実はうまくはいかない。

 

「あげはちゃん……」

「って、ごめんごめん!大丈夫!明日はバッチリアゲてくから!」

 

しんみりしてきた雰囲気を誤魔化すように明るく振る舞うあげは。その様子をツバサは特に心配そうに見ていたが、かける言葉が出てこなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後の金曜日。制服に着替えたソラとましろはソファに座って登校する時間になるまで過ごしていた。先日のあげはの様子が頭の中に残っていたせいで、今日がその日なのかと思うと目覚めが早くなっていたのか、全員の動きも早く、結果としてだいぶ余裕ができてしまった。とはいえ他にできることもないと2人でのんびりしていたのだが、そこにエルが何かを探している様子で近づいてくる。

 

「エルちゃん、どうしました?」

「ツバサ、いないの」

「「え?」」

 

ソラとましろがエルの言葉に首を傾げる。そういえばリビングにツバサの姿は見えない。ツバサの巣箱をエルを抱きかかえて一緒に覗き込んでみると、確かにそこにツバサの姿は見えず、2階や研究室、庭などを覗いてみてもどこにもいなかった。

 

「本当ですね……ツバサ君の姿が見えません。どこに行ってしまったんでしょうか」

「あげはちゃんなら何か知って……あ、もう保育園行っちゃったか……ツバサ君もお出かけしちゃったのかな」

 

飛行機の観察のを始めとして用事でツバサだって外に出ることもあるだろう。そう気にするようなことじゃないとましろとソラはエルを宥めると、エルはつまらなさそうにしょぼんとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、保育園の駐車場に一台の黄色いハマーが駐車されていた。運転席から降りてきたあげははカバンを取り出して肩にかけると、鍵を閉める。きちんとロックの音がしたのを確認して保育園に向かおうとするのだが、ここでカバンが突然揺れる。

 

「え!?」

 

カバンの中に何かがいる。知らない間に生き物が入ってきたのかと驚いてしまい固まってしまうあげは。唖然となっているあげはの視線の先で、カバンの中にいる何者かが外へと飛び出してくる。それは車のボンネットへと綺麗に着地し、そこであげははカバンの中に何が入っていたのか気付く。

 

「少年!?何してるの!?」

「……どうしても言いたいことがあって」

「?」

 

なんと、あげはのカバンの中に入り込んでいたのはツバサだったのだ。そうとは全く気付かずカバンを持ってきていた自分も悪いが、なんでそんなことをツバサがやったのかもよくわからない。しかし、ツバサはあげはに伝えたいことがあって、潜り込んできたのだろう。ここまで待っていたのはあげはに言う言葉が中々まとまらなかったのだろう。あげはが一体何を言おうとしてここまで来てくれたのか、ツバサの目をじっと見つめる。

 

「……あげはさんは寝ているときも子供達の事を考えて笑っているようなおかしな人なんです」

「おかしな……!?」

 

労いの言葉や、たけるの事で落ち込んでいる自分への励ましの言葉をかけに来てくれたのかと思ったが、おかしな、などとバッサリ言われるとは思っておらずまさかの発言にあげはは思わずショックを受けてしまう。おそらくツバサもこのような言い方になってしますことをずっと躊躇していたのだろう。しかし、それでも一度言い出した以上は止まるわけにはいかない。ツバサは車から降りて人の姿を取ると、話を続ける。

 

「でも、そんなあげはさんだからこそ、たける君や子供達はあげは先生が好きなんだと思うんです」

「……」

「無理に笑おうとしないでください」

「!」

 

ツバサの言葉にはっとなる。無理に笑おうとしている。それはあげはにも心当たりがあった。たけるのことで落ち込んでいる本心を無理に誤魔化してい笑って皆を元気にしようとしている。ツバサからはそう見えていたようだ。ツバサはあげはに笑いかける。

 

「そのまんまのあげはさんでいい。十分、素敵な保育士さんなんですから」

「……ツバサ君」

「……はっ!」

 

ツバサの言葉にあげはが思わず嬉しそうな声でツバサの名を呼ぶと、ツバサも自分がかなりキザなことを言っていたことにここで気付いたのか顔を赤くしてしまう。

 

「じゃ、ぼ、僕は忙しいので!」

 

慌てて誤魔化すように甲高い声になりながらあげはに背を向けて逃げるように去ろうとするツバサ。その背中を見ていたあげはは思わずふふっ、と笑ってしまうのだった。

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