曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第109話 結婚式

 

「今日は何の特集でしょう?」

「ソラちゃん、この前の恐竜特集もツバサ君とすっごく楽しく見てたよね?」

 

その日。ソラとましろは何げなく昼のバラエティ番組を見ていた。その番組ではましろも言っているように様々な題材で特集を組んでおり、この世界の知識や歴史などもわかるというのもあってソラはもちろん、ツバサも気に入っている番組であった。

 

「はい!あの後、ヤクモさんと一緒に映画を見たりしました!……ツバサ君はなんで呼んでくれなかったのかってふてくされちゃいましたけど……」

「あはは……ツバサ君も食いつき凄かったからね……」

 

恐竜特集を見てソラがはまっていた時はヤクモの家にある映画を一緒に見ていたりしたようだ。後でましろがタイトルを聞くと定期的にテレビでも再放送されてるぐらい有名なシリーズだった。と、そんな事を話しているとツバサがいないことにましろが気付く。

 

「ツバサ君は?」

「それが……スカイランドの王様から送られてきた本を読んで勉強しているようなんです。ヤクモさんも一緒に研究室に籠っているようで……」

「そういえばツバサ君、研究したいことがあるって言ってたけど……」

 

先日のハレバレジュエルの一件で賢者となったツバサに王様がさらに知識を深められるようにと様々な書物を送ってくれたのだろう。しかし、そこにヤクモの姿があるのは妙である。それに、ここ最近は勉強の時間になるとツバサは研究室に籠るようになっており、ヤクモも放課後や休みの日の空いた時間はツバサに付きっ切りで研究室に入り浸るようになってしまっていた。

 

「……折角この家に来ているんですからこちらに来てもいいのに……」

 

そう呟きながら、リビングの扉を見るソラ。その先、ツバサの研究室の微かに開かれた扉の隙間から、エルが真剣な表情で本を読みながらノートに何かを書いているツバサの姿を見ていた。そこにはヤクモの姿もおり、彼も何かを書いていたり、ツバサが用意したであろうメモを使って文章を翻訳していたりしていた。

 

「……えーる?」

「……エルちゃん、あっちで遊ぼうっか?」

「える……」

 

ツバサの真剣な様子に声がかけられないでいるエル。だが、声をかける気は不思議としておらず、集中しているツバサをじっと見ていたが、その様子を見かねたあげはがエル抱き上げ、リビングへと向かう。そこでは、研究室に籠ってしまったツバサとヤクモの話を続けているソラとましろの姿があった。

 

「うーん、もしかしてその研究、ヤクモ君にも手伝ってもらってるのかな?」

「そうなんでしょうか……なんか、ヤクモさんが遠くに行ってしまってるような気がして寂しいです」

「大丈夫だよ、ヤクモ君がどこかへ行くことなんてないんだから……でもさ、勉強熱心だし研究までするなんてツバサ君、どんどん凄くなってくね」

「……そうですね、頼もしい限りです」

 

別にツバサとつるんでいる分には同じ男の子同士なのだからソラも構わないのだが、以前と比べて少し一緒に居る時間が減っていることはどうしても寂しく感じてしまう。そんなソラの様子を見かねて話題を変えたましろの気遣いに気付き、ソラも彼女の話に乗っていると、あげはとエルがリビングに現れる。

 

「おっ、もうこんな時間か。今日の特集はなんだろ?」

「あげはちゃん。これからわかるよ」

 

番組が始まることをすっかり忘れていたのか、あげはがエルと共にソファに座り、4人は画面を見る。するとそこには結婚式場が映り、新婚夫婦と参列者たちの姿が出てきた。

 

『今日の特集は、結婚式!』

「結婚式……」

「花嫁さんのウエディングドレス、綺麗だなあ!」

 

結婚式。その題材を聞いたソラが少し驚いたように呟く。画面には綺麗な花嫁衣装に身を包んだ花嫁が出てきて、その綺麗な衣装にましろは見惚れていた。

 

「える……!」

「あ……」

 

画面では新郎新婦が仲睦まじく腕を組んでいる姿に切り替わり、ソラとエルはすっかり見入っていた。

 

「おっ、エルちゃんも興味津々だね?」

「凄く……綺麗です……!こちらの世界の結婚式は、こんなにキラキラで……ロマンチックなんですね……!」

 

特にソラはウエディングドレスを見るのが初めてな様子で大興奮していた。

 

「ソラちゃんも着てみたい?」

「はい!……あ、いやそういうことでは……え、えっと、私の知る結婚式はこうではなくてですね……」

「え?どういうこと?」

 

ソラがここまで憧れるのもヤクモとの関係故なのだろうということはわかっていて敢えて聞いたが、ソラからの返答に逆にましろの方が戸惑ってしまう。

 

「スカイランドの結婚式ってこの世界と違うの?」

「あ、そうなんです!」

 

ましろがスカイランドの結婚式のやり方に食いついてくれたことに内心安堵しながら、ソラも自分たちの習わしを語り始める。

 

「私の村では結婚する2人が、まず村中に聞こえる大きな声で力いっぱい叫ぶんです!」

「叫ぶ?」

「その声を聞いた村の人が集まって、皆で一晩中ダンスでお祝いするんです!」

「なんか、それも楽しそう!」

 

この世界の結婚式は身内や知り合いで行われることも多い。立場によってはそういうこともないが、基本的に見知った相手しか招かないだろう。しかし、ソラの村で行われる結婚式ではそういった垣根を超えて村全体で祝福する。それは、スカイランドの結婚事情を知らなかったましろやあげはにとっては逆に新鮮でとても面白みのある内容だった。

 

「けっこん、なに?」

「んー……結婚っていうのは、大好きな人同士がこれからもずーっと仲良くしようねって約束することかな?」

「……ソラとヤクモ、けっこんする?」

「ええ!?」

 

結婚の意味が分からずあげはに質問するエル。そしてあげはから噛み砕いて説明された内容を聞いたエルから飛び出したまさかの言葉にソラが固まってしまう。ましろとあげはもじーっとソラを見つめると、ソラは居た堪れなくなったのか恥ずかしそうに、

 

「ま、まぁ私の事はいいじゃないですか!その……わかりきってますし……?そ、それよりもエルちゃんはどうでしょう?結婚に興味があるなら興味のある相手とか……」

「い、いやいや……」

 

さすがにエルにそれを振るのはないだろうと思わずましろが突っ込む。しかしエルはソラから投げかけられた言葉を聞いてゆっくりと立ち上がると、

 

「エル!ツバサとけっこんする!」

「「「……え?」」」

「結婚するの!!」

「「「……えええええええええ!?」」」

 

まさかの宣言にソラ達は驚きの声を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……僕が、ぷ、ぷ、プリンセスと結婚!?」

 

3人の大声に何事かとツバサ達が作業を一旦中断してリビングに顔を出す。そんなツバサの顔を見たエルが、嬉しそうにツバサに駆け寄ってくる。エルがこんなに嬉しそうにしているのに3人はどうしたのかと2人が問いかけ、先ほどまでの流れを伝えられたのだが、ヤクモは唖然となってしまい、ツバサも完全に思考がフリーズしてしまっていた。

 

「するの!」

「エルちゃんはツバサ君が大好きですからね!」

「うん、でもまさか今から結婚したいぐらい好きだったなんてね。でも……さすがに結婚はまだ早いかなぁ……」

 

エルがツバサの事を大好きなのは確かに皆知っている。しかしそれは赤ちゃんのいう好きであり、LoveではなくLikeの意味だとてっきり思っていた。もし成長したらその意味も変わるのかな、等と3人も考えたことはあるのだが、まさか今の時点でLoveの方だったとは知らなかったが故に大きな声をつい出してしまったようだった。

 

「お、お言葉は大変ありがたいのですが……僕がプリンセスの結婚相手なんてと、とても恐れ多くて」

「やーやー!けっこんする!!」

『そしてここで新郎新婦によるケーキ入刀です』

 

頑なにツバサと結婚すると言い張るエル。一体どうすればとツバサが挙動不審になる中、テレビの中の結婚式の映像は遂に佳境に。新郎新婦がケーキに入刀するシーンを見て、女性陣が食い入るように夢中になる。

 

「わあ!大きなケーキですね!」

「そうそう!新郎新婦が一緒にケーキを切ったりするんだよね」

「えるぅ!」

「……そっか!エルちゃん、ああやって綺麗なドレスを着たりケーキを食べたりしたいんじゃないかな?」

 

そのシーンに魅入るエルを見て、ちらちらとツバサの方に視線を移しながらましろが言う。

 

「……ドレスやケーキ?」

「わかるそれ!私も小さい頃、結婚式の真似したなあ」

「あー……確かにあんな大きなケーキを食べてみたいって思ったことは昔あったような……」

 

そしてあげはとヤクモの発言を聞き、ツバサもそういうことかと胸を撫で下ろす。エルは本気でツバサと結婚したいと言っているわけではない、この世界の行事を真似して、綺麗なドレスを着たりケーキを一緒に食べてパーティのように盛り上がりたいと思っているのだろう。それであの言葉が出てきたのかと納得する。

 

「成程。では結婚ではなくこのようなパーティがしたいということですね」

「私もこの世界の結婚式がどのようなものなのか体験してみたいです!」

「だったら……結婚式!……ごっこ、やっちゃおうか!」

「楽しそう、それ!少年もいいよね」

「プリンセスが喜ぶのなら!」

 

本当に結婚するのではなく、あくまでそういう経験がしたいということであれば喜んで協力しよう。無事、ツバサから言質が取れたのを聞き、女性陣は嬉しそうに顔を見合わせる。

 

「良かったですね、エルちゃん!」

「うん!早速、準備始めよう!」

「……ほ、本当に大丈夫なのかなこれ……」

 

ツバサは全く気付いていないが、完全に女性陣はそういうつもりでこの結婚式を執り行おうとしている。それに気付いていたヤクモは不安そうにしつつも、エルのために挙式を行うため尽力するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

結婚式の準備は素早く行われていた。ヨヨとましろがケーキを準備している間、あげは達は飾りつけやドレスなどを用意していた。といってもツバサの衣装に関してはすぐには用意できないため、蝶ネクタイで代用することになる。そんな中、研究室を作業スペースとして一時的に使用していたことで、積まれていた本などを脇に移動させていたのだが、あげはがその本に大量の付箋がついているに気付く。

 

「これって……少年、随分頑張って読んでるじゃん」

「この本には見たことのないスカイジュエルがたくさん載っているんです。きちんと学べばスカイランドの役に立てるかもしれません」

「……」

 

その内の1冊を開くツバサ。楽しそうに本を読むツバサの後ろ姿を、エルはじっと見つめていたところにましろが現れる。

 

「ケーキが焼き上がるまで時間あるし、ツバサ君は本を読んでていいよ?」

「こちらの準備も、もう後少しですから」

「いいんですか?」

「いいよ。ケーキが焼き上がるまでに終わればいいからね」

「わかりました。ではお言葉に甘えて読んできますね」

 

ましろ達に言われたことで、ツバサも時間が来るまで勉強をすることにする。その後ろ姿を寂しそうに見つめていたエルの様子に気付いたあげはが、エルに近づく。

 

「大丈夫、結婚式の準備ができたら、ツバサ君戻るからね。とびっきり可愛い格好して、ツバサ君を迎えよう?」

「える!」

 

あげはの発言に、エルもわくわくした様子で頷く。そしてケーキが焼き上がるまで、飾りつけや小道具、エルの衣装などを急ピッチで進めていき、遂にケーキが焼き上がったところでツバサを呼び、一行は庭に出て結婚式を執り行うこととなった。

 

「……」

 

緊張した様子で、エルを抱っこするツバサ。これが形だけのものだとツバサは頭では理解しているが形式だけでも結婚式は結婚式。それをエルと共に執り行うのに緊張しないわけがない。そんなツバサの緊張など知らず、エルは可愛らしい紙で作られたティアラを被り、ソラ達が作り上げた紙の花束を持って神父の役を務めるヨヨの言葉を待っていた。

 

「エルちゃん、可愛い!」

「うん、すっごく気合入ってるね」

「当然だね。少年、リラックスリラックス!」

「よ、余計に緊張させないでください!?」

 

ましろ達が思い思いに感想を挙げていく。ツバサが煽らないでくれといっぱいいっぱいな様子でつい声を上げてしまう様子を見てヨヨは微笑む。

 

「エルちゃんとツバサさんはこれからも大好きな気持ちを忘れず、仲良くすることを誓いますか?」

 

ヨヨが語り掛ける。その言葉を聞いたツバサとエルは互いに顔を見合わせると、

 

「もちろんです!」

「ずっとなかよし!」

 

そう誓い、笑い合う。そして式は進んでいき、ヨヨがミラーパッドを置き、写真を撮影することになる。ミラーパッドのタイマー機能をオンにすると、

 

「皆、もうちょっと近寄って」

 

エルとツバサを中心とし、皆で身を寄せ合って写真に納まるようにする。その位置取りを確認してあげはが口を開く。

 

「それじゃあ、皆でー?」

「「「「「「「アゲー!」」」」」」」

 

ポーズを取ると、シャッター音が押される。ツバサとエルの結婚式の写真がミラーパッドに保存され、続けて2人のケーキ入刀に入る。そして皆でお祝いし、最後に皆でケーキを食べるところまでの経緯が写真に収められていく。

 

「素敵な結婚式だったね」

「はい!見ているこちらもドキドキしてきました!スカイランド流に合わせて朝まで踊りたい気分です!」

「……踊り?」

「そういえばヤクモ君はその話聞いてなかったね……」

 

ソラの踊り発言の意味が分からず首を傾げるヤクモに苦笑するヤクモ。と、ミラーパッドを動かしながら写真を見ていたヤクモはそれを見ていたが、

 

「でも、折角ならミクモも呼びたかったな」

「今いないの?」

「父さんと母さんと買い物に行ってるよ。母さんがミクモに買ってあげたいものがあるって」

「そうなんだ……」

 

ここにミクモもいれば楽しんだだろうなと思いを馳せていた。とはいえミクモは今日はムラクモ達と出かけていていないため、この写真は後で見せることになりそうだ。

 

「じゃあ、そろそろ片付けようっか?」

「ですね……?」

「ツバサ君?……あ」

 

楽しいパーティになったが、ケーキも食べ終えたし片づけに入った方がいいだろうとあげはが判断する。他の皆もそれに賛成し、ツバサが片づけを行おうと立ち上がろうとするのだが、その手をエルが握ったまま離さない。

 

「プリンセス?」

「けっこんしたの!」

「え?」

 

一体どうしたのかとツバサが疑問そうに問いかけると、自分とツバサは結婚したのだと言うエル。その様子を見て、ツバサは遂にエルにとってこの結婚式がどういう意味を持っていたのかに気付く。

 

「けっこんしたからずっといっしょなの!」

「結婚って……結婚式っぽいパーティじゃなくて……?」

「うんうん」

 

ツバサの言葉にエルは首を横に振る。そしてはっきりと、期待するようにツバサを見上げる。

 

「もしかして……ホントの本当に、け、結婚なんですか……!?」

 

段々声が震えながら、ツバサはエルに問いかける。いやいや、そういうわけじゃないだろうと。だがエルは、そんなツバサの微かな願いを粉々にするように、

 

「えーるぅ!」

「ええええええええええええ!?」

 

満面の笑みで頷いて見せる。それを見たツバサはこれまでにないほどの絶叫を上げる。そのあまりの声量にあげは達が驚いてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。結婚式をしてお腹も膨れ、身も心も満足したことでエルは眠気に襲われてしまい、昼寝に入ってからまだ起きてはいなかった。ヨヨがエルについて眠るのを見守っていたが、その頃リビングでは、

 

「まさか……プリンセスが本気だとは……ヤクモさん、僕はどうすれば……」

「どう、って言われてもなぁ……」

 

ツバサがどうしたらいいのかとヤクモに泣きついていた。もう時間も時間のため、ヤクモも帰ろうとしたのだが、ツバサにこの状態で1人にしないでほしいと言われたため、一泊することが決まり親に事情を話して着替えだけ取りに戻り、また虹ヶ丘家へと戻ってきていた。

 

「でも、エルちゃんの気持ちもわかります。テレビで見た花嫁さん、とても幸せそうでしたから」

「……はぁ。ソラさんはまだいいじゃないですか……プリンセスはプリンセスなんですよ、スカイランドのお姫様なんです」

 

ソラの言葉を聞き、ツバサは溜息を漏らす。エルが普通の子であればこの結婚式がその子にとって本気であったとしてもツバサもその子が大人になったらね、と受け入れられたかもしれない。しかし、

 

「僕は普通のプニバード族の家系なんです……父が絵描きなだけで生まれも何もないんですよ」

「つまり……家格が釣り合ってない?」

 

ヤクモの言葉にぶんぶんと首を縦に振るツバサ。言わんとしていること自体は確かに理解できるため、ヤクモも苦笑するしかない。

 

「でも、エルちゃんも目が覚めたらいつも通りに戻ってるかもよ?」

「そうでしょうか……」

「……」

 

ヤクモに慰められ、ツバサも少しだけ安心したようにヤクモを見る。しかし、女性陣達はうーんと唸っているだけで、ツバサは3人の姿を不安そうに見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕には……無理……荷が、重すぎますぅ……」

「……」

 

朝日もまだ見えない薄暗い時間帯。ツバサの研究室からツバサの苦しい声が聞こえてくる。その声に目を覚ましたヤクモが二段ベッドの下で眠るツバサを覗き込むと、人の姿のまま眠るツバサがどんな悪夢でも見ているのかと思う程に苦しんでいた。

 

「……」

 

昨日の結婚式をそれだけ思い詰めていることなのだろう。昨日はヤクモの言葉で多少持ち直したものの、あの状態のまま1人で眠る気力はツバサにもなく、一緒の部屋で寝ることとなったのだった。

 

「……こりゃ、まだまだ大変そうだな……」

 

その様子を見て、一旦起こすかどうか迷いながら、ヤクモは溜息を漏らすのだった。

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