曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第117話 暴かれた真実

 

「……その日は……朝からとても強い風が……ビュービューと……吹いていました……」

 

日が暮れかけた時間帯。部屋でずっとペンを走らせていたましろは、いつの間にか外が暗くなり、先ほどまで明かりを付けずに済んでいた部屋も段々暗くなっていることにも気づかず夢中で絵本を作っていた。

 

「ビューン!とその日一番の強い風が吹いて……うわあ!と葉っぱが一枚吹き飛ばされてしまったのです……」

 

絵本の題材は、以前決めた落ち葉。その落ち葉を登場人物とし、先日決めたテーマに沿ったストーリーを作っていくましろ。地面に一枚だけ落ちてしまったイチョウの葉っぱに顔を描き、可愛らしく描くと、

 

「落ちた葉っぱ君はしょんぼりとしてしまいました……僕1枚じゃ花も咲かせられないし実も付けられない……僕には何もできないよ……」

 

落ち葉の心境を考え、ストーリーをどんどん作っていく。しかし、ここでましろのペンが止まってしまう。

 

「それから落ち葉君は……」

 

その先のストーリーが思いつかない。完全に行き詰ってしまったようだ。

 

「……」

 

いくら話を考えても、その先に繋がる流れが見えてこない。しかし、ここで少し話を戻すのも何か違う気がする。暗くなる部屋で没頭していたましろが晩御飯に呼ぶ声が聞こえて我を取り戻すと、すっかり部屋の中は真っ暗になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

この日は曇り空だった。朝から絵本コンテストのことを忘れるほどに絵本を作ることだけを考えていて完全に上の空で朝食も止まっていたましろは、絵本の続きを描くために再び公園を訪れていた。空の曇り模様は一瞬だけ家を出た時に気になったが、とりあえず大丈夫だろう、あの公園に行けばすぐにでも続きが湧いてくるはずだと楽観的に軽く考えて出てきたのはよかったが。

 

「……うーん……」

 

ペンを頬に当てながらスケッチブックを睨むましろ。いざ来たからと言って、そう都合よく続きなんて当然出るわけがなかった。

 

「落ち葉君、どうすればいいんだろう」

 

ため息交じりにましろが呟いていると、遠くから紋田が歩いてくる。この日はこの空模様と言うこともあり、いつものキッチンカーも人気も公園にはなく、かといって他のバイトも入ってなかったので、何をするわけでもなく歩いていた。

 

(落ち葉、ね……)

 

紋田の脳裏にはましろの言葉が強く残っていた。林の方を見ると昨日掃除でもされたか風が吹いたのか落ち葉は脇の方に移動している。それを見ると、自分はどうすればいいのかわからなくなってきてしまった。アンダーグ帝国に戻る方法を考えていたが、いざスキアヘッドと会ったら問答無用で消されかけたのだ。仮にここから功績を立てたところで、本当に自分は戻れるのだろうかと考えてしまう。それならいっそ、ムラクモやカバトン、ミクモのように開き直ってこの世界で生きることを決めた方が楽になるのではないか。そうは考えても、今までアンダーグ帝国で曲りなりに積み重ねてきた日々を捨ててこの新天地で生きる選択肢は取りたくない。

 

(……そういうところ、か)

 

こうして顧みると、確かにスキアヘッドの言う通り、諦めが悪く、目障りで見苦しいのだろう。彼の逆鱗を踏むような行動や気質を自分はしていると考えてしまう。そんな相手に、帝国から捨てられた自分が媚びへつらい、無理に帝国に戻ろうとする必要は本当にあるのだろうか。

 

(……何がしたいんだ?俺は……こちらの世界の人間に成りすまして……虹ヶ丘ましろに近づいて……こんな足掻きをいつまで続けるつもりなんだ……?)

 

プリキュアに過去の雪辱を果たす。などと御大層な目的を謳っていたが実際はただの逆恨みだ。その逆恨みで近づいたところで、何の成果も出ていない。それどころか彼女は自分の言葉にむしろ勇気をもらったかのように夢へ向かって邁進し続けている。自分が望んだはずの結果とは真逆の道に突き進んでいく彼女の様子を見ていると、自分にはやりたいことをするような力すらないのではないかと思ってしまう。

 

(力のない者に存在する価値はない……か)

 

スキアヘッドから言われた言葉を思い出す。もしかしたら、本当にそうなのかもしれない。そう、紋田が考えていると。

 

「紋田さん!」

「ぎゃあああ!?」

 

突然後ろからましろに声を掛けられ驚きの声を上げる。見慣れた紋田の反応にとうとうましろも触れることをしなくなったのか、

 

「おはようございます!」

「や、やあ……こんな天気なのに、朝から散歩かい?」

 

何事もなかったかのように挨拶をする。紋田も慌てて爽やかな好青年を取り繕いながらましろに対応する。

 

「そんなところです……実はまた絵本のことで悩んでて……あ、そうだ紋田さん!」

「ん?」

 

取り繕った笑い声を口にする紋田に、ましろがある名案を思い付いたとばかりに紋田を見る。ましろはスケッチブックを紋田へと差し出す。

 

「よかったら……私の絵本を読んでくれませんか!」

「え!?」

 

予想もしていなかった申し出に、紋田は驚く。今まで、何かを彼女から聞かれ、それに返答したりすることは確かにあった。しかし、こちらの意図を一切汲み取らずに曲解し、ポジティブに自分の肥やしに変えていくような人物だ。しかし、この絵本を自分が本当に読んでいいのかという疑問がこの時の紋田にはあった。夢に向かってまっすぐに進んでいくましろが努力し、作り上げてきた絵本を、ただ彼女を陥れようとしていただけの自分が読んでいいのかと。だが、そのことを知らないましろは、まっすぐな目で紋田を見つめる。

 

「僕が……?」

「実はこの絵本……紋田さんとお話したことを元に描いてるんです!」

「え……」

 

以前、紋田がスキアヘッドに殺されかけた日に交わした会話が元となって作り出された絵本。そこにどんな話が載っているのか。もしかしたら、今の自分を変える何かがあるかもしれない。指標となるものがあるのかもしれない。そんな思いも、もしかしたらあったのかもしれない。しかし、紋田はこの時何を考えていたかわからないまま、まるで導かれるようにましろのスケッチブックを受け取る。

 

「……」

 

近くのベンチまで移動し、絵本を読み始める紋田。1ページ、1ページと読み進めていく中、地面に落ちた落ち葉が何もできず、絶望している様子で話は止まっており、次のページ以降が白紙になっていることに気付く。

 

「ん……?」

「……どうすれば、この落ち葉君のお話をハッピーエンドにできるかなって……ずっと悩んでて」

「ハッピーエンド……?」

 

ましろの迷いが、絵本の続きが思いつかないことだということは紋田にもわかった。しかし、彼女の言葉を聞いているとふつふつと何かが紋田の心の中から湧いてくるのを感じとっていた。

 

「紋田さんが落ち葉を見ても、辛い気持ちにならずに済むような。そんなお話にしたいんです」

「……」

 

落ち葉を見ても辛い気持ちにならずに済むお話。ましろが目指しているストーリーを聞いて、紋田は自分の心の中から湧いてくるこの感情が、やるせなさや悲しみ、悔しさが混ざり合った複雑なものだとようやく理解した。それと同時に、ましろに対する怒りが湧いてきていた。

 

「……君が悩むのも当然だよ……何故だと思う……?」

「え……?」

 

怒りを滲ませた声を漏らしながら、スケッチブックを手に立ち上がる紋田。自分の絵本を読んで、何故紋田が怒りに震えているのか、全く理解できずにいるましろを見ていると紋田の怒りはさらに大きくなる。そして、紋田は信じられない行動に出る。

 

「役立たずの落ち葉にハッピーエンドなんてありえない……って内心じゃお前も気付いているからだよ!」

 

なんと紋田は、ましろが描いた絵本のページを破り捨てたのだ。それを見たましろは信じられないものを見るかのように完全に固まってしまう。

 

「落ち葉にだって意味がある!?落ち葉が好きだ!?そんな綺麗事で誰が救われるってんだよ!!」

 

今まで抑えていたものがあふれ出てくるかのようにスケッチブックに描かれていたページを全て破り捨て、スケッチブック自体も地面に叩きつけて踏み躙る紋田。紋田が何をしているか、ましろには全くわかっていないようだった。しかし、紋田の言葉だけは彼女の心にドンドン突き刺さっていく、そんな感じがした。

 

「ふざけんなよ!俺がどんだけ苦しい思いしてるかなんて欠片ほども知らねえくせに!大体全部お前らのせいじゃねえか!!この地獄で俺を唯一気にかけてくれた人なんてカイゼル様しかいなかった!!でもあの人にだけは迷惑かけたくなかったってのに、てめえはそんな気なんて一切知らねえでこっちが言った言葉何でも好き勝手に受け取りやがってクソが!!」

 

一切我慢することなく、感情の赴くままに言葉を続けながらスケッチブックを踏み続ける紋田。しかし、固まっているましろには紋田が致命的な発言、カイゼルの名を口にしていたことにまだ気づけていない。そして紋田の方も、プリキュア相手に絶対に言ってはいけないことを口にしていることに全く気付いていなかった。

 

「お前らのせいだ!お前らのせいで!!俺は負け犬のまま!!アンダーグ帝国に帰ることもできない!!」

「アンダーグ帝国……!?」

「……はっ」

 

今まで呆然としていたましろだったが、アンダーグ帝国と言う単語を聞いて思わず呟いてしまう。ましろのその呟きを聞いた紋田も、遂に自分が言ってはいけないことを口にしてしまったことに気付いたようで、我に戻ったようにはっとなる。しかし、全てがもう遅かった。

 

「……バッタモンダー……?」

「!うあああああ!!」

 

ましろが、紋田の正体を看破する。この怒り様が一番近いのは、バッタモンダーしかいなかった。そして、正体を看破された紋田も、もう取り繕う必要がなくなったからか、ましろへと襲い掛かる。ましろが慌てて横に避けようとするも、紋田の狙いはましろではなくミラージュペンだったようで、ましろがぶら下げているペンを掴む取ると、そのまま離れる。そして紋田から本来のバッタモンダーの姿に戻ると、

 

「仲間を呼ぶなら、今ここで壊すからな!?」

「!?」

 

ペンを破壊するとましろを脅す。そのまま互いに数分間固まってしまっていたが次第に雨が降り始め、それは大降りになっていく。その雨で頭が冷えたからか、ましろは段々、現実を呑み込み始める。

 

「……ああ、そうさ……」

「……全部、嘘だったんだ」

「なんで……そんなこと……」

「お前の心を滅茶苦茶に傷つけるためだよ!どうやら大成功みたいだな……あはははは!」

 

勢いに任せて正体をばらしてしまったが、そのおかげかましろには自分が望んだ通り精神的苦痛を与えることができたようだ。しかし、心なしかバッタモンダーの表情にはやりきった、という表情だけでなく迷いが浮かんでいるようにも見えた。だが、ましろにそれを気付くだけの余裕はない。だが、

 

「よかった」

「あ?」

「紋田さんが苦しんでたのも嘘だったんだ」

「……」

 

紋田という人間は本当は存在せず、彼の悩みは全て噓だった。心を痛めていることはなかった。そのことにましろは安堵していた。しかし、すぐにましろは思い出す。

 

「でも……あの時、スキアヘッドがあなたを狙っていたのは……」

 

ましろは、バッタモンダーがスキアヘッドに殺されようとしていた光景を見ていた。あれは一体どういうことなのか。それと、紋田に扮していた頃のバッタモンダーの発言を重ねてみて、ましろが気付いたのは、

 

「もしかして……」

「そうだよ!任務に失敗したから、俺は消されちまうんだ!!」

「私達なら……あなたを助けられるかもしれない!」

 

バッタモンダーの苦しみは全て嘘ではなかったこと。そして、バッタモンダーはスキアヘッドに狙われ追い詰められているということだった。ならば、自分たちの力ならどうにかなるかもしれない。かつては敵であったとしても、ミクモのようにアンダーグ帝国の脅威から守られている人はいるし、ミノトンのように和解したかつての刺客もいる。バッタモンダーだってそれを望むなら手を差し伸べられる。そうましろは説く。

 

「ううん、助けてみせる!だから、ミラージュペンを返して」

「……」

 

ましろの言葉に、バッタモンダーの心が揺れる。確かにこのままでは自分は死んでしまうかもしれない。しかし、恥を承知で助けを求めれば、プリキュア達の手でスキアヘッドから守ってくれるかもしれない。そう考えれば、確かに悪くはない選択だろう。だが、今のましろはペンがないから無力なだけだ。もしペンを返した彼女が、反撃してきたら。

 

「そうはいくかよ!ペンを取り戻したら、俺を始末するつもりだろ!?バレバレすぎて笑えるぜ!ふはははは!!」

 

それこそ命の危機に瀕してしまう。その手には乗るかと笑うバッタモンダーだったが、ましろの目を見ればそんなことはないのは確かだ。紋田がその申し出を受け入れられなかったのは、プリキュアに保護される自分が惨めで嫌だったのか、それとも。

 

「お……俺はお前を騙していたんだぞ!?それに……」

「助けるよ」

「……」

 

ましろに対する罪悪感からなのか。ましろのまっすぐな視線にバッタモンダーは、苦しそうに俯く。そして、

 

「……お前にはわかんねえよ……何の価値もない落ち葉の気持ちがな……バッタモンモン」

 

悲しそうにそう呟くと、ましろのミラージュペンを持ったまま消えてしまう。1人、その場に取り残されてしまったましろはじっと立ち尽くしていたが、そこにソラが現れる。ソラの手には傘が握られており、ましろが帰れないことに気付いて持ってきたのだろう。ソラの表情は楽しそうで、彼女の頭の中ではましろが絵本の続きで四苦八苦しながらも夢中になっていると思い込んでいるのだろう。しかし、

 

「?ましろさん!?」

 

ソラがましろの姿を見つける。ましろは屋根のあるところではなく、大雨に晒されるベンチの傍でスケッチブックを覗き込んでいた。だがここで、ソラも異変に気付く。何故か地面にはましろが持って行ったはずのリュックが打ち捨てられており、周囲にはチリ紙のようなものが散らばっている。何か、ましろの身に異変が起こっていると即座に判断し、ソラが駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?ましろさ……」

「……ソラちゃん……」

 

ソラの声が聞こえ、真っ二つに割れた落ち葉の絵を見ていたましろが顔を上げる。ましろがソラの姿を見ると、目から涙が流れ出す。

 

「う……うう……ひぐ……!」

 

泣き出してしまったましろの体を優しく抱きしめるソラ。彼女の身に何が起こったか、その詳細はわからない。しかし、ソラが視線を地面へと向けると、無残な姿のスケッチブックがあり、彼女を大きく傷つける出来事が会ったことを悟りながら、彼女が落ち着くまで静かに待つことにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……!」

 

ましろの目の前から消えたバッタモンダーは、息を切らしながら街の路地裏に入る。転移してきたことで既にましろのことを撒いてはいるのだが、こうして走って逃げずにはいられなかった。しかし足元がふらつき、壁に肩をぶつけてしまったことで立ち止まったバッタモンダーは、呼吸を落ち着けようと荒い呼吸を続ける。と、バッタモンダーの握るましろのペンに突然アンダーグエナジーが現れる。

 

「!?」

 

ヤクモならばともかく、ましろはただの人間だったはず。彼女の持つペンがアンダーグエナジーを発することなどありえないし、バッタモンダー本人がアンダーグエナジーを放つこともない。しかし、アンダーグエナジーをまとったましろのペンは勝手に浮き上がっていく。バッタモンダーがそのペンの行く先を見ていると、そこにいたのは、

 

「す、スキアヘッド様!?」

 

スキアヘッドだった。スキアヘッドが右手をペンに向けており、アンダーグエナジーを使ってましろのペンを浮かせるとそれを手に取る。

 

「お前に、無価値ではないと証明するチャンスをやろう」

 

プリキュアが変身するために必要なペンを奪い取った。その功績はスキアヘッドも認めざるも得ないのだろう。元々見つけ次第処す相手だったのだ、これでプリキュアが倒されるならばそれでもよいと考えが変化したのもあるかもしれない。

 

「チャンス……」

 

バッタモンダーの目の前に、スキアヘッドが作り出したアンダーグエナジーが現れる。

 

「そのアンダーグエナジーを取り込めば、巨大な力が手に入る」

「で、ですが!!こんなやばい力を取り込んだら、俺は……!」

「そうだ。お前程度の心ならばアンダーグエナジーに取り込まれて消滅する」

 

ミノトンのような鍛え上げられた心も、ヤクモのようなアンダーグエナジーに取り込まれても尚自分の心を見失わない術もバッタモンダーは持っていない。そんなバッタモンダーが、ミノトンですらヤクモ達の働きかけがなければ本能しか残らない程の力を取り込めば心が完全に消し飛ぶのは当然だろう。

 

「後に残るのは、強力な力を持つ怪物だけだ」

「……!」

「嫌だと言うのなら、ここでお前を消す。さあ、自分が無価値ではないと証明してみせろ」

 

スキアヘッドの与えた選択肢は、バッタモンダーにとってはどちらでも変わりないものだった。死か消滅か。ここで死を選ぶならばスキアヘッドはいとも簡単にバッタモンダーを消すだろう。だがアンダーグエナジーを取り込めば、バッタモンダーという存在は消滅する。どちらに転んでも、スキアヘッドにとってはバッタモンダーの処分が可能となる。

 

「……」

 

目の前のアンダーグエナジーを見つめるバッタモンダー。スキアヘッドも、バッタモンダーがプリキュアと戦うタイミングが訪れる時が来るまで少しは待つことにしたようでトンネルを通って消えていく。そして一人取り残されたバッタモンダーは、苦々しい表情でスキアヘッドから渡されたアンダーグエナジーを見据えるのだった。

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