曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第119話 帝国の支配者

 

暗い霧の中。洞窟のように暗いその空間の中に聳える柱の一つに、スキアヘッドは立っていた。

 

「……プリキュア。アンダーグエナジーの力を上回るとは」

「……時が来たようだな。私自らが戦場に立つその時が」

 

スキアヘッドの目の前にアンダーグエナジーのトンネルが開かれ、それを通じてカイゼリンが声をかける。自分がこの戦いに赴き、終止符を打つと。だが、それを聞いたスキアヘッドはカイゼリンに異を唱えるように口を開く。

 

「まだです。お体の傷が癒えるまで戦いはお控えください。あなたをお守りすること。それが私の使命」

「スキアヘッド。わかれ……今の私には、お前しかいないのだ……」

 

スキアヘッドの前のトンネルが広がり、そこからカイゼリンの姿が露わとなる。彼女は、スキアヘッドに身を寄せながら、心細そうに言う。

 

「今の私には……弟も……そしてあの子も……」

「……」

 

カイゼリンのその言葉をスキアヘッドは無言で聞くと、無表情なまま彼女に手を回すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ソラ達を乗せた鳥が、王都の外で全力で走っていた。鳥たちの表情は、いつになく真剣だ。まるで本能的に危険を感じているかのように。

 

「一体、何が起こったんです!?」

 

ツバサが焦ったようにソラに質問する。今回、ソラ達がスカイランドに赴いたのは緊急の案件によるものだった。

 

「東の草原で一時間程前……怪しいトンネルが開きました。アリリ副隊長によれば、突然目の前が暗くなって……一瞬で隊員達は吹き飛ばされてしまい、気が付いた時にはトンネルは跡形もなく消えてしまったとのことです」

 

青の護衛隊としてその報告を受けたソラは、その深刻な状況を伝える。アリリが反応すらできない程の力を、そのトンネルを開いた何者かは行ったということ。それは、プリキュアやエルを狙った行動ではなく、明確にスカイランドに被害を与えようとして行われた攻撃である可能性が浮上してくる。そのため、都では厳戒態勢が敷かれており、動ける青の護衛隊の隊員たちもシャララの下、いつでも動けるように待機されているのだという。

 

「今言えるのは何かがスカイランドにやってきたということ……!」

「もしそれがアンダーグ帝国だったら……」

「絶対街に行かせるわけにはいかないよ!」

 

その謎の現象を引き起こしたのはまだ誰かわからない。しかしこの状況ではアンダーグ帝国が行ったと考える方が自然だ。そして今回はまだ街の外で起こった出来事だったのが不幸中の幸いだったが、もしこれが街の中で行われていたら。そう考えるとぞっとする。

 

「絶対に止めなければいけないけど……気を付けよう。凄く嫌な予感がする」

「ええ……」

 

そこへ近づくにつれ、ヤクモの中で警鐘が鳴り響いている。それは、やはりヤクモ自身これがアンダーグ帝国の仕業だと本能的に察しているからなのだろう。そのうえで、ヤクモのアンダーグエナジーを感知する力が、最大級の警告を告げている。だがそれは、ヤクモのようにアンダーグエナジーを察知することができないツバサ達でも今回は感じ取れていた。これまでとは違う、今回は特にやばいと感じさせる何かが、この先にある。そう確信していた。

 

「……ヒーローの出番です……!」

 

だからこそ、自分達が止めなければならない。その決意と共に、ソラ達は目的地へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地に着くと、雨が降り出してしまっていた。しかしまだ小雨、雨具を使うような量ではないし、今はそれどころではない。今日のスカイランドの天気も考慮し、あらかじめ防寒具を着てきたましろ達は、早速その脅威の正体を探り始める。

 

「ここが、その場所……?」

「敵はどこに行ったんでしょう……」

 

だが、ソラ達が駆け付けた時にはそこは完全に無人となっており、敵の姿も気配もなかった。トンネルを使っていたということは既にこの場から消えてしまったのか。ソラが注意深く見渡していると、崖の上に1人の女性が立っているのに気付く。暗い赤髪をした、ドレスを着た女性。その後ろ姿に一瞬既視感を抱くも、

 

「ここは危険ですよ!」

 

一般人がここにいるとまずい。何せ敵からの襲撃が起こった場所なのだから。彼女が巻き込まれる前に避難を行わなければとソラが走って近寄りながら声をかける。

 

「安全な場所へ行きましょう」

 

そして女性の下までたどり着き、一緒に避難をしようと呼びかける。

 

「……安全な場所?そんなもの……もうどこにもありはしない」

「え……」

「……?」

 

だが女性は、ソラにそのように返す。女性の意図をソラがわかりかねているのと同時に、ヤクモはやはり既視感を感じていた。会ったことのない相手なのに、その姿に、そして声に何か既視感を感じていたのだ。

 

「ここで、何をしてたんですか?」

「……あれを見ていた……」

 

ましろの問いかけに、崖から見える城と都を見ながら女性が言う。確かにこの場所は、スカイランドの王都が一望できるいい場所だったといえる。しかし、この景色を見るために彼女はここに来たのだろうか。

 

「立派なものだな。悲しみの涙の上に立つスカイランドの城」

「……?」

「あなた……誰!?」

 

悲しみとは何を言っているのだろうか。そもそもこの女性は何者なのか。遂に痺れを切らしたようにあげはが声を上げる。ここはいつ危険になってもおかしくない。このような問答をしている暇があったらすぐにでも彼女を避難させなければならないのだから。

 

「誰、か……ヤクモと言ったか。お前も気付かないか」

「え……」

「いや、無理もない。私とお前は初対面だからな」

「……まさか」

 

ヤクモは、女性の言葉に自分が感じていた既視感の正体を悟り始めていた。その赤い髪も、雰囲気も、声も。全てにおいて別人だが、それでも彼女にはムラクモの面影が、血のつながりがあった。そしてそれを、ヤクモも感じ取っていたのだ。

 

「……カイゼリン・アンダーグ……」

「「「「「!?」」」」」

 

ヤクモの言葉に5人が驚愕し息を呑む。それが正解だと言わんばかりに、女性の全身をアンダーグエナジーが包んでいき、ドレスから動きやすいパンクなファッションへと姿を変えると共に赤い雷鳴が鳴り響く。

 

「その通り……私はカイゼリン・アンダーグ。アンダーグ帝国の支配者」

「「「「「「……」」」」」」

 

目の前に現れた女性が、アンダーグ帝国の支配者。その衝撃の事実を聞かされたヤクモ達は言葉を失ってしまう。と、

 

「!」

 

カイゼリンの瞳が僅かに光ったかと思うと、6人を地面から発生した大量のアンダーグエナジーが襲う。

 

「「「きゃあああ!?」」」

「うわあああ!!」

「ぐうううう!!」

 

そのまま打ち上げられようとする6人。しかしアンダーグエナジーは霧散し、6人はその場に落ち倒れてしまう。幸い、ダメージも少ないようだが、それでも不意打ちを喰らったことにより見た目以上にダメージが大きくなっていたようで苦しそうに呻く皆を見て、エルが心配の表情を浮かべる。

 

「プリンセス……300年待った……」

「?」

 

カイゼリンの漏らした言葉がエルに聞こえてくる。300年とは一体何なのか。当然エルには何のことだかわからない。

 

「あの時の恨みを晴らさせてもらう!」

「える……!?」

「恨みって……何の事だ……」

 

当然、そんな何百年も昔の事を言われたところでエルにはわかるわけもない。ヤクモがエルを庇うように、カイゼリンに問を投げかける。ヤクモの周囲にはアンダーグエナジーが漂っており、先ほどのカイゼリンの攻撃から皆を守るため、全てのアンダーグエナジーを取り込んだのだろう。その結果なのか、金色の瞳と黒ずんだ赤い髪に染まっており、そこでソラ達はカイゼリンに感じた既視感が、ヤクモのこの姿だと気付く。

 

「エルちゃんは1年前に生まれたんだ……そんな昔の事を知るわけがないだろう!」

 

ヤクモの髪が銀色に戻り、エルの前に立つ。直後、ソラ達も立ち上がってエルを庇うように立つ。

 

 

「エルちゃんに近づかないでください!!」

「……エルちゃん、今の話……何か心当たりある?」

「あるわけないじゃないですか!?ヤクモさんだって言ってたでしょ!?」

「ない!ぜんぜんわかんない!」

 

だが、あげははエルに問いかける。しかし、当然エルが知るわけがない。当たり前だ。ヤクモの言う通りエルがこの世界に生まれたのはわずか1年前なのだから。だが、あげははその答えが聞きたかったように笑顔で頷く。

 

「オッケー!いくよ皆!」

 

エルは何も知らない。ならばカイゼリンが過去にどのような恨みを持っていようが、今を生きるエルには関係のないこと。だったら自分達のするべきことは決まったと全員に合図を送り、6人はプリキュアへと変身する。

 

「……汚らわしい……アンダーグエナジーを宿す申し子がプリキュアになるなどと……」

 

クラウドを見て、含みを持たせた声を漏らすカイゼリン。その言葉にクラウドが眉を寄せていると、スカイが問いかける。

 

「カイゼリン、教えてください!あなた達アンダーグ帝国は、どうしてエルちゃんとスカイランドを襲うんですか!?300年前に何があったんです!?話をしましょう……そうすれば、戦うよりいい方法が見つかるかもしれません!」

「……この指を鳴らすとどうなると思う?」

 

だがカイゼリンはスカイの話に付き合う気はないと言わんばかりに右手を見せる。

 

「数えきれないほどのランボーグが街の真ん中に現れる」

「「「「「「!?」」」」」」

 

カイゼリンの宣告に6人は驚愕する。だが、それができない道理はないだろう。先ほどの先制攻撃。6人にも気づかれず、発動されたアンダーグエナジーを見ればカイゼリンがこの程度の芸当をこなせないわけがない。

 

「街は一瞬で滅び。お前たちの愛する者達は……皆……」

「やめて!!」

「そんなことは!!」

「チャンスをやろう。お前たちが選べる選択肢は3つだ」

 

完全に話と戦況の主導権を握ったカイゼリンは、プリキュア達に選択を委ねる。

 

「1つは戦いを諦め、滅ぶスカイランドを静観すること」

「そんなの選べるわけ……!」

「もう1つはキュアクラウド、いやヤクモ。お前がアンダーグ帝国に下ること。そうすればこの場はお前たちもスカイランドも見逃してやろう」

「っ!?」

 

1つ目の選択肢は予想していたが、当然受け入れられるわけがない。それはカイゼリンも予想していたはずだろう。しかし、2つ目の選択肢にクラウドはもちろん、スカイ達も驚愕してしまう。

 

「クラウドを!?」

「なんで!?」

「敵として対峙することになったとはいえ我が甥……自らの血族をアンダーグ帝国の者が手にかけるのは私とて忍びないのでな。ヤクモ、お前1人でこの場は収まるのだ。悪い条件ではあるまい?それに、アンダーグ帝国に来れば待遇は保証しよう」

「断る!その話が全て本当だったとして、お前はスカイランドを諦めていないじゃないか!何故だ!父さんはスカイランドの事をどうこうしようなんて思っていない……ならなんでその姉のあんたは今も恨み続けているんだ!!」

「それに、身内の情が深いなんてアピールするんじゃないよ!私達はあんたがミクモちゃんの事をずっと冷遇してたって知ってるんだから!」

 

身内に対する情を利用した選択肢をカイゼリンが見せても、クラウドはそれを突っぱねる。クラウドの言う通り、この場を収めたところで後にまたスカイランドを襲撃するだけ、しかもクラウドが不在のプリキュアでは絶対に勝てないだろう。それに、本当にカイゼリンが家族への情を持っているかはミクモへの態度や対応を見ると大いに疑問が残る。尤も、名前すら知らないカイゼリンにはミクモが誰の事かはわかっていない様子だが。

 

「ならば仕方ない。第3の選択肢……お前たちの使える最強の技で、今すぐ私を止めてみろ」

「カイゼリン……!?」

「来い」

 

クラウドとの交渉は僅かに期待していたのか、少し苛立ったように3つ目の選択肢を告げるカイゼリン。だが、クラウド達が選べる選択肢は実質1つしかない。自分達の最強の技、マジェスティック・ハレーション。それでカイゼリンの暴挙を止める。スカイランドを守るため、この戦いを終わらせるため。マジェスティが戸惑うスカイ達に声を上げる。

 

「やるしかない!」

 

マジェスティの言葉で、戦う決意を固める5人。そしてクルニクルンを取り出したマジェスティをカイゼリンが一瞥すると、それを合図としたかのように6人はマジェスティック・ハレーションを発動させる。

 

「「「「「「プリキュア!マジェスティック・ハレーション!!」」」」」」

 

キョーボーグすら浄化する必殺の一撃。それがカイゼリンへと襲い掛かる。しかしカイゼリンは無言のままアンダーグエナジーを発射すると、アンダーグエナジーとマジェスティック・ハレーションが拮抗する。今まで、マジェスティック・ハレーションに抵抗する敵はいなかった。それは、そこまで追いつめてから発動していたというのもあるが、初めての競り合いに、不慣れなプリキュア達は徐々に押されていく。

 

「届かなかったな。お前たちの力は」

 

それでも必死に押し込もうとするスカイ達の努力を嘲笑うかのように、カイゼリンはさらにもう1段階アンダーグエナジーの濃度も量も引き上げる。それはマジェスティック・ハレーションを簡単に吹き飛ばしてしまい、6人とクルニクルンが地面へと墜とされてしまう。

 

「……っ」

 

その衝撃によって意識を失ってしまうプリキュア達。変身も解除するほどの大ダメージを受けてしまい、立ち上がることはおろか、動くこともできない。カイゼリンは無言のまま、いとも簡単に倒されてしまったプリキュア達を見る。意外と拍子抜けだと思ってしまったのか、それとも。

 

「……える」

 

そんな中、一番ダメージが少なかったエルが真っ先に意識を取り戻す。だが顔を上げるとそこにはカイゼリンが立っていた。

 

「プリンセス……全てお前が悪いのだ」

「!?エル、わるいことしてないもん!」

「話は終わりだ……!力のない者に生き残る術はない!」

 

エルにとっては身に覚えのない因縁を付けられている相手。しかし、過去に起こった何かを知るカイゼリンにとってはそのエルの無関係と言わんばかりの態度すら気に障るのだろう。一思いに殺してやると言わんばかりにその手にアンダーグエナジーの刃を作り出す。

 

「死ね!」

「える!?」

「うおおおお!!」

「っ!?」

 

そしてカイゼリンが刃を振るったのと、エルを庇うように立ち塞がったヤクモがその刃を受けたのは同時だった。ヤクモが割って入ったことに動揺したのか、寸での所で刃が引かれたことで重症にはならずに済み、ヤクモも皮膚が軽く切れる程度に済んだようだった。

 

「大丈夫!?エルちゃん!」

「ヤクモ!?けが……」

「これぐらい、なんてことはないよ……たとえ力が足りなくても、誰かを守ることぐらいはできる、エルちゃんを助けることぐらい……!」

「……あ……」

 

そんなヤクモの様子を見たカイゼリンが、目に見えて狼狽える。直後、マジェスティクルニクルンがいきなり発光する。

 

「「!?」」

 

その光をヤクモとカイゼリンが認識した瞬間。

 

「……える?」

「……これは」

 

周囲の景色は薄紫色に染まっていた。だが、カイゼリンやソラ達の体も薄紫色に染まっており、雨の水滴も空中に停止していた。まるで時間が止まっていたかのように。

 

「どうなってるんだ……?」

 

エルを抱きしめながら立ち上がるヤクモ。彼の体に触れる水滴は止まっていた時間が動き出したかのように服にしみこんでいく。

 

「ソラさん!」

「ましろ!」

 

この不可解な現象の正体を確かめようと視線を動かすと、一番近くでソラが倒れているのを発見しヤクモが駆け寄る。その隣にましろが倒れているのを見つけたエルがヤクモから降ろされるとましろに駆け寄る。2人がソラとヤクモにそれぞれ触れると、彼女たちの体に色が取り戻され、意識を取り戻す。

 

「「……?」」

「ソラさん!大丈夫?」

「ヤクモさん……え!?なんですかこれ!?どうなってるんですか!?」

 

意識を取り戻したソラの目に飛び込んできたのは、空中で静止したままの雨。ましろも驚いたように辺りを見渡す。

 

「わからない……時間が止まった時の景色ってこんな感じのイメージだったけど……」

 

この状況でどうすればいいのか。それがわからずソラ達が戸惑っていると、クルニクルンが再び光を放ちながら開かれていく。

 

「マジェスティクルニクルン……!?」

 

クルニクルンが放つ光は4人の視界を塗りつぶすほどに強くなっていき、それは意識すら奪っていく。そして次に4人が目を覚ました時。

 

「「「「……?」」」」

 

4人は街の中にある路地裏に立っていた。

 

「こ、ここどこ?」

「都の中?」

「いや、でもこんな所ありませんでしたよ!?」

 

何となく王都に似ているとは思うも、ソラがこんな場所はないという。路地裏の全てを当然把握しているわけではないのだが、だとしても建物などの様式に違和感があった。

 

「なんか……新しいはずなんですけど、古い建物のように見えるんです」

「え?でも、王都なんだよね?」

「……多分そのはず……なんですけど……ど、どういうことなんでしょうか……」

 

ヤクモの言葉にいまいち煮え切らない様子で答えるソラ。とはいえ彼女にもわからないのだろう。

 

「大通りに出たら、何かわかるのかも」

「そ、そうですね……」

 

ひとまずここにいても何もわからないだろうと4人が広い場所に出ようとする。しかしその都は大岩が所々に残っていたりしており、整備しきれていないという感じが見える。4人の知る王都にこのような自然物は意図して残してるものでもなければ存在しない。とすると、やはりここは王都に似ているだけで別の所なのだろうか。

 

「うーん……どうなってるんだ?」

「夢見てるってわけじゃないよね?」

 

その大岩をヤクモが触ったり、ましろが自分の頬をつねったりしていたが、結局これは現実、ということしかわからない。ソラもうーんと唸りながら空や建物を見ていたのだが、そのせいでエルから3人の意識が離れてしまい、エルがふらっと通りの中央に出てしまう。と、車輪が回る音が聞こえてくる。3人が車両でも走っているのかと思った次の瞬間だった。

 

「「あぶなーい!!」」

「「「!?」」」

 

鬼気迫る声と共に鳥車とそれを引く2羽の鳥たちが急ブレーキをかける。幸い、エルにぶつかる前に車両は止まったようだが、それに気付いたヤクモ達が慌ててエルへ駆け寄る。

 

「危ないではありませんか!!」

「ご、ごめんなさい!」

 

鳥達の尤もな注意にエルが泣きそうになりながら謝る。と、もう1匹の鳥がエルが乗っているゆりかごに気付く。

 

「あら……?不思議な乗り物。それなんですの?」

「……」

 

ゆりかごについて問われるも、もう少しで交通事故になっていたという事実へのショックからかエルは固まってしまっていた。と、車の扉が開かれ1人の女性が中から現れる。

 

「お怪我はありませんか?」

「える……!?」

「あら?あなたお一人?」

 

その時、車の中から出てきた人物を見てエルは驚く。腰まで伸びた長い紫の髪、白と水色を基調とした明るく可愛らしいドレスを身に付けたその女性は、

 

「……ミクモ?」

「「「エルちゃん!?」」」

 

そこでようやくヤクモ達がエルに追いつく。ましろがエルが無事なのを確かめて嬉しそうに抱き着く。

 

「よかった、無事で……」

「飛び出したら危ないよ……すみません。ご迷惑をおかけしてしまって」

「ふふ、お怪我がなくて何よりです。ですがここは大きな街、目を離してはいけませんよ」

「はい!気を付けます……!?」

 

鳥達と搭乗者の女性に頭を下げるヤクモとソラ。エルの無事を確かめたましろも遅れて頭を下げると、女性は快く許す。そしてそこで顔を上げたヤクモ達は、目の前の女性がミクモに似ていることに気付く。

 

「み、ミクモさん……!?」

「?何を言っているの……?」

 

ソラの呟きを聞いた鳥が呆れたような物言いになる。それはまさかここにいる人物が誰か知らないでここにいるのか、誰と見間違えているのかと言いたげなその言葉に、大きな溜息を吐くと、

 

「この方はプリンセス。スカイランドのプリンセス、エルレイン様ですよ!」

 

彼女の正体を告げる。が、それはソラ達にとってはあり得ない言葉であり、ヤクモにとっては以前に1回聞いたことのある人物の名で。3人は驚愕の声を上げるのだった。

 

「「「……プリンセス、エルレイン!?」」」

 

 

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