「ごめん、ちょっと外れちゃって」
「ううん、気にしないでよ。電話は大丈夫だった?」
「家からで帰るときにお使い頼まれた程度だから気にしないで」
通話を終えて席に座り直すヤクモ。ソラの顔を見ると少ししょんぼりしているのが目に入る。
「ソラさん、ごめんね……」
「あ、いえいえ!ヤクモさんは悪くありませんから!」
「そっか……じゃあ、話してもらってもいいかな?」
「はい!」
改めて待ってましたと気分を上げていくソラ。そして自分の過去を思い出すように懐かしみながら、幼い日の頃の出来事を口にしていく。
「小さい頃……村で入ってはいけないと言われてる森に入ったことがあるんです」
立ち入り禁止にされている森。この世界でも山や森に入ると野生動物が危険だったり迷うから入るなという話もよくあるのだが、スカイランドにおける事情はおそらくこの世界とは違うのだろう。
「凄く怖かったんですけど……でも、そこをあの人に助けてもらったんです。本物のヒーローに……」
ぎゅっと手を握りしめながら嬉しそうに語るソラ。幼い頃に彼女に大きな影響を与えたというスカイランドの本物のヒーロー。ソラの脳裏にはその人物の姿がばっちりと浮かんでいた。
「凄い人なんだね」
「はい!その人みたいになりたくて、私はトレーニングをしたりして体を鍛えて、その人の下でヒーローを目指すために王都に向かったんです。そこでカバトンにエルちゃんが攫われたのを見て……」
「それでソラシド市に……」
「……はい」
憧れに追いつくために努力を続けてきたソラ。彼女の人生に大きな転機を与えたのはそのヒーローなのだろうが、その未来図はカバトンのプリンセス誘拐という前代未聞であろう事件によって大きく歪められてしまったのだろう。結果としてソラはこの世界に落ちてしまい、そしてプリキュアとなり、ましろやヨヨ、あげは、ヤクモ、そして学校の友達といろんな人と出会うことになったのだ。
「そっか……エルちゃんが誘拐されそうになったところからはある程度しか聞いてなかったけど、ソラさんも大変だったんだね」
「でも今は平気です!皆さんがいますから!それに、プリキュアになって前よりも大きくなれた気がします!」
「うん、そうだね!」
プリキュアになったことで変われた気がする。それはましろとヤクモにとっても同様だ。しかし、前に進めた、大きくなれたという意味合いも、ヤクモの中では多少の引っかかりを覚えてしまう。単なる表現としての違和感なのだろうが、何か忘れてる気がする。とはいえ忘れていたままでも問題ないということはあまり支障もないのだろう。それに、プリキュアになり、2人と関わるようになって人付き合いが大きく変わったのは事実だ。そういう意味ではヤクモも大きく変わったのだろう。
「でも、まだまだ知らないこともいっぱいありますし、未熟な部分もあります……ですが、ヒーローを目指している身としてはもっと精進しなければなりません!そのためにもまずは、この世界のヒーローの事を学ぶ必要があると思うんです!」
「「あっ」」
「?」
ましろとあげはの口から同時に声が漏れる。シンクロした2人の声の意味を理解しきれていないヤクモにソラが机を挟んだ状態から身を乗り出してヤクモに詰め寄ってくる。
「ヤクモさん、この世界のヒーローに詳しいと聞きました!ぜひ、教えてください!」
「え?」
困惑の声。ソラがイメージしているのはソラにとって憧れの人のことなのだろう。たまにスポーツ選手だったりをその活躍ぶりや能力の高さをヒーローと揶揄することはあるのだが、ソラが言っているのはそういうのではなく文字通りのヒーローなのだろう。しかしそのようなものはこの世界には当然存在しない。一番近い存在といえばやはりプリキュアなのだろう。しかし、ソラの口ぶりからしてそのプリキュアは除外されている。となると、ソラが聞こうとしているヒーローというのは、
「えーとソラさん……」
「はい!」
ヤクモはフィクションの存在しか知らない。いやもしかしたら本当にそんなスーパーヒーローがこの世界にいるのかもしれない。2人なら何か知っているかもしれないんじゃないかと救いを求めるようにあげはとましろを見ると、
「「……」」
2人とも諦めてと言わんばかりに首を横に振っていた。
「……ソラさんが言っているこの世界のそのヒーローっていうのはね……」
「はい!」
わくわくしながら次の言葉を待つソラ。ヤクモはスマホでぱっと思いついたヒーローについて検索して画像を表示させると、それをソラに見せる。
「これがこの世界のヒーローですか……かっこいいです!」
ソラに見せた画像には金色の2本角に赤い目、全身を黒いスーツの上に上半身は赤いアーマーのようなものをまとい、ファイティングポーズを取るヒーローの姿があった。これがこの世界のヒーローなのかと感激するソラに、ヤクモは残酷な真実を告げる。
「これ……創作のキャラクターなんだよ」
「……え?」
ソラの表情が笑顔のまま固まる。
「え、でもこれ、本物、ですよね?ましろさんが見せてくれた写真みたいで、あのテレビ?でも映ってるような感じで」
「これ22年前のだけど特撮で完全に創作だよ」
「私が生まれる前じゃん、よく知ってるね?」
「父さんが一時期はまってたのかわからないんですけど家にDVDあるんで」
確かに特撮は二次元ではない。実際の人間がアニメに声を当てるのとは違うので、ソラから見れば確かに三次元で現実の存在のように見えてしまうのだろう。しかしそんな夢のような存在は残念ながらこの世界にはいないのだ。徐々にその事を受け入れ始めるのと同時に、ソラは心底がっかりしたように項垂れてしまう。
「うぅ……お話の中の存在だなんて……これでは会うこともできませんね……」
「ど、どんまいソラちゃん」
「あはは……ま、まぁこれも経験ってことで。それにいつかは知ることになるだろうし」
「はい……」
あげはのフォローを受けながらため息を吐く。その様子を見て不憫に思えてきたヤクモは、ソラが満足してくれるかどうかはわからないがある提案をする。
「ま、まぁでも、興味があるならDVDとか貸そうっか?話としては普通に面白いし、おすすめはできるけど……」
「本当ですか!?でも、でぃーぶいでぃーってなんですか?」
「映像が見れるディスク……っていってもあれかな……ま、まぁ見ればわかるよ、ね、ましろん」
「そ、そうだね」
実際に会うことはできずとも、興味は健在。そのお話を知ることができるのならソラにとっても十分に嬉しいことなのだろう。とはいえやはりDVDの存在は知らなかったのか、その説明を求めるも、ソラにわかりやすく説明できるぐらいにかみ砕くことの厳しさを感じ取ったのか、あげははつい匙を投げてしまう。
「でもヤクモ君の持ち物ならヤクモ君の家で見た方がいいんじゃないのかな?」
「えっ」
「ヤクモさんのお家でですか!興味あります!」
「いやそれは……」
「まあまあ、そこはハードル高いみたいだし今回はやめておこうっか?」
女子を家に上げるという行為に抵抗と恥ずかしさがあるのか、慌てて断るヤクモ。あげはのフォローも相まってヤクモの家にお邪魔するというのは一旦なしになったものの、
(これいつか上げる流れになりそうだな……)
ただただ先送りしただけだという予感がするのだった。
★
「……はぁあああ」
ソラシド市にある地下鉄。そこでベンチの上に仰向けで寝転がっていたカバトンは深いため息を漏らしていた。
「プリンセスエルを攫ってアンダーグ帝国に帰るだけの話だったのに、どうしてこうなっちまったのか……しかもプリキュアが最初は1人だけと思ってたらどんどん増えやがるし……」
カバトンの悩みの種は考えるまでもない、プリキュア達のことであった。最初と違って3人に増えたプリキュア。普通にそこそこやるキュアスカイ、強くはないがめっちゃタフで普通に面倒くさいキュアクラウド、そしてキュアプリズム。それぞれのプリキュアに対する評価自体はカバトンの中では差があったがいずれも自分のランボーグに対抗しうる存在である。エルを連れ去ろうにもまずこの3人をどうにかしなければ話にならず、そもそもカバトン自体普段エルがどこにいるのかもわかっていないため、まだ町中をうろついているプリキュア達の方が遭遇するレベルである。
「……ん?」
と、ここでふと気づく。ランボーグを生み出せば向こうから来てくれるのなら、それを利用すればいいのではないかと。
「……ふふん、思いついたのねん。やっぱり俺ってば頭も優秀!早速やってやるのねん!」
カバトンの視線が周囲に向けられる。そこには落とし物と思われるおもちゃが落ちており、カバトンは狙いを定める。
「カモン!アンダーグエナジー!!」
そして膨大なアンダーグエナジーがそのおもちゃに注がれるのだった。
★
「……ランボーグ!」
「「!!」」
そのランボーグの出現は、ヤクモがすぐに感じ取る。ランボーグを感じ取り、気を引き締め雰囲気が変わったヤクモを見て、ソラとましろも戦いのときを察する。またカバトンが行動を起こしたとあげはも気付く。
「会計、私がやっておくから3人はすぐに向かって」
「わかりました!」
「お願い、あげはちゃん!」
3人は店を飛び出す。ヤクモが気配のある場所に向かうと、ランボーグが出現している場所から逃げ出したであろう人々とすれ違う。
「こんなに大勢の人が……」
「一体どんな場所にランボーグを……!」
それだけ人の多い場所にランボーグを召喚したということか。ヤクモ達がその場所に辿り着くと、そこはソラシド市の地下鉄だった。
「ランボーグは地下に……!?」
「地下で暴れられるのはやばいな……すぐに倒そう」
「ヒーローの出番です!」
ランボーグのいる場所は明らかになった。となれば、後は変身してランボーグを倒すだけ。3人は変身して地下の駅へと入るのだった。
★
「……静かですね」
人の気配がない地下。そこに入ったスカイ、プリズム、クラウドは周囲を警戒する。クラウドがアンダーグエナジーを探知しようと周囲に気配を張り巡らせると、その気配が線路の奥から迫っていることに気付く。
「奥から来る!」
「「!」」
クラウドの言葉に2人が反応し、その進行方向へと振り向く。直後、そこから巨大な蛇の姿をしたランボーグが現れる。
「ランボーグ!!」
「蛇!?」
ランボーグがプリキュア達に向かって突進してくる。狭い地下鉄の中なので縦横無尽に動き回ることはできないが、それでも相手は簡単な突進しかできない。それならば回避することは他愛ない。ランボーグの頭部の動きに注意しながら攻撃を避けつつ、プリズムが光弾を生み出そうとしたその時。
「後ろだプリズム!」
「え!?」
クラウドはプリズムの背後にアンダーグエナジーを感じ取る。瞬間、プリズムの背後の地面が砕け、巨大な蛇の尻尾が地中から伸びあがってくる。
「プリズム!」
「うおおおお!」
突然の事態に避けられないでいるプリズムにクラウドが体当たりでぶつかり、無理やり尻尾を回避させる。代わりにクラウドが薙ぎ払われた尻尾の一撃を喰らい、蛇の頭の方へと吹き飛んでしまう。
「っ!?」
牙を突き立てられる。そう考えて咄嗟に両腕を交差させる。しかしランボーグは勢いよく口を開けると、
「「クラウド!?」」
クラウドを丸呑みにしてしまう。目の前でクラウドが食われた光景を目の当たりにしてしまったスカイとプリズムの顔から血の気が一気に引いてしまう。
「クラウドが……ヤクモさんが、食べ、られた……」
「私の、せいで……」
「ランボーグ!!」
クラウドをお腹の中に流し込みながらランボーグは尻尾を振るう。動揺のせいで全く反応できずにいたスカイとプリズムはその一撃をまともに喰らい、壁に叩きつけられてしまう。
「「きゃああああ!!」」
無防備な状態で受けた強烈な一撃に肺の中から酸素を全て吐き出され、胃から何かが込みあがってくる。その感覚を抑え込みながら2人が顔を上げると、腹部を膨らませた巨大な蛇型ランボーグがこちらを見下ろしていた。
「だーはっはっは!待ち伏せ作戦、大成功なのねん!」
遠く離れたところからこちらを見て高笑いするカバトン。面倒なキュアクラウドはこれで封じ、一気に勝利が近づいたことを確信しているのだろう。カバトンは気付いていないようだが、クラウドが丸呑みにされたという事実は、2人に対して精神的に大きな揺さぶりになってしまっている。痛みに耐えながらもどうにか立ち上がる2人の顔は、不安が隠せないでいた。
「ど、どうしたらいいんですか……!」
「クラウドを助けないと……」
「でも、どうやって……」
「それは……あ、あそこ!」
クラウドが中にいる状態では迂闊に攻められない。万が一アップ・ドラフト・シャイニングを使おうものならクラウド諸共巻き込んでしまうことになる。プリキュアが同じプリキュアの浄化技を受けたらどうなるかまではわからないが、それをするにはあまりにも分が悪すぎる賭けといえる。ならばまずはクラウドをランボーグの中から引きずり出すしかない。そう考えたプリズムが指を指したのは、大きく膨らんだランボーグの腹部であった。
「あのお腹は……あそこにクラウドが!」
スカイも、そこにクラウドがいることに気付く。その腹部は内側からクラウドが暴れているのだろう、ぶよぶよと動いているのが見て取れ、まだクラウドが生きていることを告げるものだった。
「まだクラウドは生きてる……!」
スカイの表情にも希望が戻る。まだ仲間が生きているのなら絶対に諦めるわけにはいかない。必ず助け出すと、プリズムと互いに頷き合い、ランボーグへと向かうのだった。
★
ぶよぶよとした感触に全身を包まれた真っ暗な空間で、クラウドは足掻いていた。
「まさか、丸呑みにされるなんてな」
どうにかして脱出しなければ、2人が浄化することができない。しかし自分を取り込んだ状態でランボーグは暴れまくっており、全身が揺れるせいでそれに耐えるのにも一苦労だ。
「俺にも攻撃技があれば……」
苦虫を嚙み潰したような表情になるも、ないものはどうしようもないのだ。それがわかっているからこそ自分を喰らったのだろうから。
「外はやばそうだな……」
何となくだが外の状況も推測できる。このランボーグに攻撃らしい攻撃が命中していないということは、スカイとプリズムもおそらく攻めあぐねているのだ。どうにか出口を探そうと探知能力を使ってみるも、アンダーグエナジーで包まれたような空間のようなこの場所ではほとんど意味はなさない。
「……俺の力で何ができる?」
今まではスカイとプリズムがいたため、攻撃に関して自分が受け持つ必要は確かになかった。しかしこういう状況に置かれ、1人で解決しなければならないとなれば、それを打開する力が必要なのだ。
「力を……」
ぽつりと漏れた呟き。瞬間、何かが蠢き、広がっていくのを感じる。その蠢きに本能が身を任せ、力が右手に集まっていく。このまま、こいつを破壊し、叩き潰すためにこの力を放出しようと、
「……クラウド!」
「!」
ランボーグの皮膚越しにスカイの声が聞こえてくる。どうやら、隙を見つけてランボーグの腹部に張り付き、クラウドに話しかけているようだ。
「待っていてください!絶対に助けます!だから諦めな……きゃっ!?」
張り付いたスカイを引きはがすため暴れるランボーグ。スカイの声が遠くなったため、ランボーグはスカイを振り払ったのだろう。だが、クラウドはランボーグの行動を考える余裕はなかった。スカイの言葉に我を取り戻したクラウドは、真っ暗な闇の中、右手を見る。そこには、蠢く力の奔流が溜まっていた。
(俺は、これをどうしようと……)
もしスカイの言葉がなければ自分はこれをどうしようとしていたのか。それを知っているのは自分の本能だけなのだろう。しかし、理性が戻った今、欲望のままに集めたこの力に対し、別の感情を抱くことができる。本来なら覚えがないはずの、だが懐かしさを感じる力。それをクラウドがはっきり認識した次の瞬間、クラウドの胸元から暗い光が放たれ、虚空へと突き刺さった。
★
「ランボーグ!?」
「んん!?」
「「あれは!?」」
その異変は外からも確認できた。ランボーグが突然の痛みにのけ反る。ちょうどクラウドが収まっていたと思われるであろう腹部からは一本の槍のようなものが貫通して外に出てきていた。
「あれ……内側から?」
「じゃあ、クラウドが!」
「おい、ど、どうしたのねんランボーグ!?」
「今です!プリズム!!」
「うん!」
状況を瞬時に理解し、スカイとプリズムはチャンスを掴むべくランボーグの腹部に取り付く。内側からの攻撃による痛みに悶え震えるランボーグから振り落とされないように必死にしがみつくも、先ほど無理やり振り払おうとしてきたときよりは勢いがない。
「ちょっと大人しくしてて!!」
痛みに口を開けたランボーグの口内にプリズムが光弾を叩き込む。その痛みに悶絶し倒れ、ぴくぴく痙攣するランボーグ。その間にプリズムが槍を掴んでそれを引き抜き投げ捨てると、スカイが躊躇なくその隙間に腕を突っ込む。
「!」
直後、スカイの手に何かから掴まれた感触が与えられる。ぱあっと表情が明るくなり、より力強くそれを握り返す。
「ひろがるクラウドプロテクト!」
開かれた穴から積乱雲状の雲のフィルターが発生し、腕が通るほどの隙間がどんどん広げられていく。そして人が通過できるほどの大きさにまで広がると、スカイが勢いよく腕を引き、内部からクラウドを引き出す。
「クラウド……!」
「スカイ……」
無事に内部から助け出されたクラウドを見て、涙を浮かべながら喜ぶスカイ。クラウドも、少し疲れた様子こそあるものの、目立った外傷はないようだ。自分を強く抱きしめるスカイに対して笑いかけるクラウド。
「助けてくれてありがとう」
「よかった……!」
「大丈夫?クラウド」
「ちょっと疲れてるけど大丈夫みたいだ。それよりランボーグの方を」
「わかった!」
クラウドを助けたとはいえ、まだランボーグは健在だ。とはいえ腹部を開けられ、口内の柔らかい箇所にプリズムの攻撃を喰らって既に満身創痍といった様子だが。
「ヒーローガールプリズムショット!」
ここまで満身創痍ならばアップ・ドラフト・シャイニングを使うまでもない。プリズムの放った巨大な光弾がランボーグを襲い、光の中にランボーグを飲み込んでいく。
「スミキッター……」
「ぐぐ……カバトントン!」
断末魔を上げ、浄化されていく。そしてその場に白い蛇のぬいぐるみが残る。ランボーグが暴れ壊されていた地下鉄が直っていくのを見て、プリズムはクラウドを抱きしめたままのスカイに向き直る。
「2人とも……そろそろ帰ろうっか?そうしたい気持ちはわかるけど……」
「……はぇ?!あ、す、すいません!」
慌ててクラウドを手放すスカイ。突然離されたことでふらつき、倒れかけるもどうにか踏ん張ると、クラウドの首からかけられたキーホルダーが揺れ、金属音を鳴らす。その音でクラウドも疲れていることを思い出し、クラウドの腕を掴んで支える。
「ご、ごめんなさい!」
「あ、はは……そこまでしてもらわなくても1人で立てるから……でも、ありがとう」
「え?」
「……正直、中にいたときどうなるかわからなかったから。スカイのおかげで自分を取り戻せた。だからありがとう」
「……あ」
面と向かって感謝され、思わず顔が赤くなり手を放すスカイ。クラウドも若干顔を赤くしながら地下鉄から出るため歩き始める。
「え、えっと……え、へへ……そうですか……私がクラウドを助けたんですね……きっと、ヒーローに近づいてるってことですね!うん!」
「……もしかして、さっきまでクラウドを抱きしめてたこと思い出した?」
「!?い、いいいやそそ、それはそ……そういうじゃけじゃ!」
よく見ると戦闘が終わって気が緩んだ影響もあるのか、スカイはタイミングが遅れて襲い掛かってきた情報に目をぐるぐるさせながら混乱していた。それらを無理やり憧れのヒーローに近づいているのだと結論付けて強制終了しようとしている様を微笑ましく見ていたが、ふとプリズムは先ほど自分が引っこ抜いた槍の存在を思い出す。
(……あれ?あそこらへんに投げたと思ったけど……)
内部から突き出てきたということはクラウドが何かしたと思ったのだが、それを投げ捨てた方角を見るとそれらしいものは既になかった。しかし、ないのなら自分の技のように時間が経てば勝手に消えるものだったのだろうと考えると、いずれ人がちらほらと来るであろう地下鉄からスカイと共に去るのだった。
★
「皆、大丈夫だった?」
「あげはさん!」
「うん、ランボーグは倒したよ!」
「地下鉄もこれでちゃんと動くようになるはずだよ」
その後、あげはと合流した3人。あげはは3人に怪我などがないのを確認して安堵する。と、その中でも妙にくたびれた様子のヤクモに気付く。
「あれ、ヤクモ君疲れてる?」
「あー……まぁ少し苦労はしたかな……今日はゆっくり休むよ」
「うんうん、それがいいよ」
時間帯も良い感じだし今日はこのままお開きにするべきか。そんなことを考え始めたところ、他の人の話し声が聞こえてくる。
「ねぇねぇ、地下鉄の奴、聞いた?」
「ああ聞いた聞いた、化け物が出たんだってね……でも、それを倒してくれた人たちがいるって」
「うんうん、地下鉄も元に戻ったから帰れるね、ほんと助かったよ」
それは、自分たちがランボーグに勝ち、地下鉄が使えるようになったことを喜ぶ市民の声。それを聞いた3人の顔に、平和を守れたという実感から来る笑みが浮かぶ。その3人の笑顔を眩しいなと思いながら、あげはは見つめるのだった。