「「「……プリンセス、エルレイン!?」」」
「エルとお名前いっしょ!」
「あら!そうなの?」
スカイランドのプリンセス、エルレイン。その名を聞いて驚愕するソラ達とは対照的に、自分と同じプリンセスと言うエルレインに嬉しそうな声を上げるエル。エルレインの方も、エルの無邪気な言葉を聞いて、嬉しそうに笑う。おそらくはスカイランドのプリンセスである自分の名前にあやかって名前をつけたとでも考えているのだろう。
「うん!エルもね、エルだよ!」
「いいお名前ですね」
2人が談笑する様子を見ながら少し下がったソラ達は小声で話し始める。
「や、ヤクモさん、ましろさん、説明してください……!」
「むしろソラちゃん説明してよ……!」
「何が何だかわからないんだけど……とりあえずいつも見てた王都ではないよねここ……?」
「それは間違いありません……」
まだ自然が多く残り、開拓、整備途中という印象が見受けられる街並み。しかし、その中には所々、今のスカイランド王都の面影があり、そしてエルレインと名乗った少女を見て、ヤクモは嫌な予感がしていた。しかし、それを認めたくないという気持ちもあった。何故なら。
(それが本当なら俺の父さん何歳になるんだ……?)
そう、かつてミクモに似ていると言った女性の名をエルレインと呼んだ父。もしそのエルレインの生きた時代が、王都が開拓される前の昔の時代だとすると、自分の父は人が生きていける時間を軽く超えて生きていることになる。元々アンダーグ帝国の住人だと知っている今なら寿命が異なっていてもおかしくない、というのは頭では理解しているが、自分の父親が若々しい見た目のまま三桁も生きているかもしれない、という事実は気持ち的な問題ではあるもののヤクモには受け入れがたい事実だった。とはいえ今そんなことはどうでもいいし、後で俺反抗期になるかもしれない、なんてぼやきながら目の前の現実にソラ達と共にもう一度目を向ける。
「……見たことのないプリンセスがいます」
「「うん」」
エルレインの事を話したら多少は変わるだろうか。いや、今のソラとましろに言っても絶対に混乱が加速するだけだろう。もっと落ち着いてから、エルレイン本人に聞かれないような場所で明かした方がいいだろうとヤクモが一応の結論を下している中、何もわからないことがわかったという現実を前にソラとましろは頭を抱えてしまうのだった。その様子を見たエルレインは、
「何かお困りのようですね。私で良ければ、城でお話を聞きますよ」
「「「……」」」
そう3人に告げる。そこでソラ達は初めて、遠くに聳えるスカイランドの王城を見る。それは、間違いなくソラ達の知る城そのものだ。そしてその城を中心として立地などを考えると、間違いなくここは王都だということに気付く。
「……あの!」
それと、この街並みを見てある事実に辿り着いたソラが、恐る恐るといった様子でエルレインに質問する。
「今って、スカイランド歴何年ですか……?」
「え?もちろん556年ですよ?」
今を生きる人々なら知ってて当たり前の事を何故質問するのか。エルレインも若干戸惑いながら答える。しかしそれを聞いたソラは唖然となってしまう。何故なら、
「300年前です……」
「「!」」
300年前。カイゼリンが口にしたのも300年だった。これはきっと偶然ではない。クルニクルンが自分達を300年前のスカイランドへ飛ばしたのだ。昔あったことを見せるために。
「……確かめよう。何があったのか」
ヤクモの言葉に、ソラとましろは頷く。そして、エルレインに事情を説明するために彼女に手引きされ車へと乗りこみ城へと向かうことになるのだった。
★
「……それは、嵐の晩のことでした。闇の世界の魔物がスカイランドに攻め込んできて、戦いが始まりました。スカイランドの姫はこう祈りました。ヒーローが現れて、青い空と皆の笑顔を取り戻してくれますようにと。姫の祈りに応えるように勇敢な戦士、プリキュアが現れ……プリキュアは、スカイランドを救った……」
城のエルレインの部屋に通されたソラ達。ソラは、自分たちの時代に存在している、かつてプリキュアが現れた昔の話をエルレインに聞かせていた。その話をエルレインは黙って聞いていたが、一切心当たりがないためか現実味を感じ取れていないようだった。
「不思議な物語ね」
「!物語じゃありません!これは本当に起こったこと……じゃなくて、ここでこれから起こることなんです!」
それは過去に実際にあったことなのだとましろはいう。しかし、ソラ達が未来から来たということも、このプリキュアが生まれた物語も、そもそも闇の世界という存在も、エルレインからすれば突拍子もないことなのだろう。それでも、こうやって耳を傾けて理解しようとしているだけ、彼女もできる限り歩み寄ってくれているのだろう。しかし、エルレインが知らないと言うことは、逆にいえばこれからその出来事が起こると言うことだ。ましろはこれは冗談でも空想でもないのだと力説する。
「信じてください。その闇の世界……アンダーグ帝国は実在するんです。おそらく闇の魔というのはランボーグ……この時代ではランボーグはプリキュアでなければ倒しきれない不死身の魔物に等しい存在なんです」
「そうです!私達は未来のスカイランドから……」
ヤクモも、エルレインにこの危険を理解してもらおうと説明する。今の時代ではスカイジュエルを元にキラキラエナジーを発生し、プリキュアでない人物でもランボーグを浄化できる研究が進んでおり、もう少しで実用段階にまで持っていけるほどに進捗が進んでいる。しかし300年前であるこの時代にその技術が確立されているとは思えない。倒すことはできなくとも避難などの対策を事前に用意することはできるはずだとましろの言葉に合わせる形で説明する。
「……確かに。ついこの間、見たことのない魔物が街を襲いました。ですが、皆の力で倒すことができました。不死身とは……それに、人間がヒーローに姿を変えるなんて」
「ランボーグはアンダーグエナジーと呼ばれる力から作られます。そのランボーグ自体は確かに倒すことはできますが……大元のアンダーグエナジーを浄化しない限り、その場に残りづつけるんです。召喚者がそこにいれば、残っているアンダーグエナジーをそのまま使ってまたランボーグを呼び出せるんです……?」
エルレインがヤクモの話に信憑性を感じ取れていないのは、ランボーグの不死性への疑問だった。しかし、あくまで自分の言う不死身とはエルレインが認識しているものとは違うのだということを説明しながら、軽く手を動かすのだがここで違和感に気付く。
(アンダーグエナジーが……?)
実演したら信じてくれるかもしれない。実際にそれを出すタイミングは見定める必要はあるが、準備だけは進めておこうと自分の中のアンダーグエナジーを探ったヤクモは、自分の中にあるはずのアンダーグエナジーを全く感じ取れなくなっていることに気付く。いや、それだけではない。自分の中のプリキュアの力もなくなってしまっていた。首からかけられ服の内側にしまわれていたミラージュペンやペンダント状態のアンブレランスの感触はあるのだが、これは一体どういうことだというのか。
「……証拠を見せます!」
「あ……ソラさん待っ……」
「ひろがるチェン……あれ?」
証拠とは、間違いなくここで変身しようということだろう。しかし、ソラのミラージュペンは全く反応しない。それを見てましろも変身しようとするのだが、当然ましろもできない。このままではエルレインに信じてもらえない、自分達もできないのであればヤクモもできない、だがもしかしたらエルならばと2人の期待の視線を受け、エルが満を持してと言わんばかりに手を上げる。
「ひろがるチェンジ!……える?」
が、エルも変身できなかった。ヤクモが溜息を吐きながらミラージュペンとアンブレランスを取り出すと、
「駄目だ。俺もどっちも使えない」
「そ、そんな……」
どっちも使えなくなることを告げる。これでは自分達が未来から来たという証拠を示すことができないとソラ達が項垂れていると、
「あら……もうこんな時間。皆さん、今日は泊まるところもないでしょう。城に泊まっていってください」
「え!?」
「いいんですか!?」
「もちろんです。すぐに二部屋用意させましょう」
エルレインから寝室を用意されると言うありがたい申し出を受け、ソラ達はそれを受けるのだった。
★
エルレインに今日使用する寝室に案内されるソラ達。ヤクモはまた後で別の部屋へと案内されることになったが、ソラ達が使用する部屋には大きなベッドが置いてあり、それを見たエルが嬉しそうにベッドの上に乗って転がり始める。
「ありがとうございます、プリンセスエルレイン」
「える?」
「エルちゃんのことじゃないの。あっちのプリンセスの事だよ」
エルレインに一礼するソラ。が、それを聞いたエルが自分の事かと反応する。そうではないのだとましろが説明するのだが、
「ちがうよ!エルがプリンセスだよ!エルがプリンセスだよ!」
「え、えっと……」
「エルちゃんは未来のプリンセスだけど、エルレインさんはこの時代のプリンセスなんだよ。だから、どっちもプリンセスだよ」
「える……?」
ヤクモの説明に首を傾げるエル。そんな様子を笑いながら見ていたエルレインは、次にヤクモの寝泊まりする部屋へと案内する。そしてその後、再び女性陣が寝る部屋まで戻ると、
「それじゃあおやすみなさい、小さなプリンセス」
「あい!おやすみ!」
挨拶をして、部屋を出て行こうとする。と、エルレインの足が止まる。
「……未来のこの国は、どんなところですか?」
「!良いところですよ!活気があって!」
「皆優しくて勇敢で、それにそれに!」
「皆仲良しだよね」
「そして皆、一生懸命ですよ」
「はい!人も鳥も竜も手を取り合って一緒に暮らしています!」
エルレインは、未来のスカイランドの様子をソラ達へと問いかける。それを聞いたソラ達は、300年後のスカイランドがどれだけ反映していて平和なのかを語っていく。
「だからこそ、守りたいんです。そんな素敵な世界を……そのために私達は戦っています」
「プリキュアは、大切なものを守るための力なんです」
「……」
ソラ達の話を聞いたエルレインは、少し驚いたように彼女たちの顔を見ていた。しかしすぐに笑みを浮かべると、
「あなた達が生きる未来のスカイランドの事、プリキュアの事、信じてみたくなりました。明日改めて、ゆっくり聞かせてください」
「「「はい!」」」
どうやらエルレインも心境の変化が起こったようだ。これで何か変わるかもしれない。そう思い、ソラ達は顔を見合わせるのだった。
★
夜が深まるにつれ雨が強くなる。そんな中、1人、フカフカなベッドで眠っていたヤクモは目を覚ましてしまった。環境が違うのはあるかもしれないが、そうとは違うなにかがあった。虫の知らせのような、本能的に気配を感じて窓の外を見ると。
「あれは!?」
空に何個もの穴が開かれてるのを見つける。そしてそこから何かがどんどん落ちてくるのを見たヤクモは、それがランボーグであると即座に看破。慌てて部屋から飛び出すと、ソラ達の部屋の扉を勢いよく叩く。
「ソラさん!ましろさん!起きて!!」
「……なにぃ……?」
「ヤクモさぁん……?」
扉の向こう側からましろの寝ぼけた声が聞こえてくる。ソラもどうしたのかとぼんやりとした声を漏らしていたが、
「ランボーグだ!ランボーグが何体も出てきたんだ!」
「「「!?」」」
ヤクモの声に女性陣の眠気が一瞬で吹き飛ぶ。直後、鐘の音が町中に鳴り響き、間違いなく敵襲が起こったことを4人は嫌でも悟らされる。4人が城の外を見ると、既にランボーグは我が物顔で町中を歩いており、破壊の限りを尽くしていた。
「ランボーグ……!」
「どうしよう……プリキュアにならなきゃ戦えないよ……」
「早く避難を!!」
そこに4人を心配してきたエルレインが現れる。ソラは町で暴れるランボーグを見ていたが、覚悟を決めたような表情を浮かべると、
「エルちゃんを頼みます」
「「え!?」」
「ふっ!」
「ソラさん!」
なんとソラは城から跳び出して街へ出て行ってしまう。それを見たヤクモも城の外へと走り出してしまい、ましろとエルレインはその場に取り残されてしまう。
「放ってはおけません!」
いち早く町中に出てきたソラの目に、ランボーグに襲われようとしている子供が目に入る。彼の下へ素早く駆けつけて子供を抱えると、ランボーグの攻撃を回避しながら距離を取って建物の影に入る。
「さあ、逃げて!」
「あ、ありがとう!」
子供が逃げ出したのを確認し、ランボーグの注意を引き付けるように影から出てくる。
「あなたの相手は私です!」
「ララン」
「弱い者いじめをする卑怯者!」
「ランボーグ!」
ソラ自身、自分の手が震えているのを理解していた。今まではランボーグやキョーボーグを相手にしても、プリキュアと言う力があった。しかし今、自分にその力はない。それがどれほど心細く、怖いか。しかし、それでもソラに戦わないという選択肢はなかった。皆を守るためにできるごとをしたいと。だが、そんなソラの決意など関係ないと言わんばかりにランボーグは腕を振り上げるとソラに襲い掛かる。
(プリキュアの力がなければランボーグを浄化できない……でも、できることはあるはず!)
ランボーグを引き付けるように走り出すソラ。と、その時だった。ソラの耳に聞き覚えのある音楽が聞こえてくる。
「!」
それは確か、ヤクモのスマホの着信音だったはずだ。それがヤクモの位置を告げていることに気付き、ソラはそちらに進路を変更。その先にはヤクモが建物の影から姿を見せ、ソラにその姿を見せる。その手には町中に設置されていた滑車から取り外したロープの端を持っており、ヤクモが何かをしようとしていることに気付いたソラが全力で走る。そしてヤクモがいる所をランボーグが通過しようとした瞬間、ヤクモが勢いよくロープを引き上げると、キョーボーグがロープに引っかかって転倒してしまう。その先には、地面に埋められていた槍が何本もあり、その近くにはハンマーが雑に捨てられていた。どうやらここで戦闘があったようであり、壊れて破棄された武器や道具を使ってヤクモが即席の罠を作っていたようだった。
「ララ!?」
見事にヤクモの罠にはまったランボーグが槍の上に倒れ込む。岩を元として作り出されたランボーグの巨体は、自重によってどんどん槍が食い込んでいき、全身にひびが入っていく。そして、
「ランボーグ!?」
ランボーグが粉々に砕け散る。自分を追いかけていたランボーグが倒れたことでソラはほっとしたように胸を撫で下ろすと、建物の影から出てきたヤクモを見る。
「ソラさん、大丈夫だっ……」
ヤクモの顔を見たソラは安心したのかヤクモの胸に飛び込んでくる。ソラの手は震えており、彼女の恐怖を和らげるように優しく握りしめながら、
「俺も一緒にやるよ。だから、1人でも多く助けよう」
「はい!」
ヤクモの言葉に笑顔で頷くと、2人で協力で人々の避難を行う。ランボーグを引き付け、ソラの身体能力とヤクモの罠や作戦で着実に撃破していく。無論、アンダーグエナジーの浄化が行われていない以上、問題の先延ばしでしかないが今はこれしかできない。
「ランボーグ!」
「「……ふぅ」」
今、目の前で倒れたランボーグを見て、これで何体倒したのかとヤクモとソラが一呼吸置く。と、その時だった。
「いでよ、アンダーグエナジー」
男の声が聞こえたと思った次の瞬間、倒されたはずのランボーグがその場に残っていたアンダーグエナジーが集まりランボーグが復活してしまう。
「なっ!」
「あれは……」
「アンダーグエナジーは最強の力!お前たちがどうこうできるものではない!思い上がるなよ」
ヤクモが声のした方向を見ると、屋根の上に一人の男が立っているのが見えた。その男の全身からはアンダーグエナジーが満ちており、間違いなく彼が召喚したのだと判断できた。
「まさか、あの男が……」
「ソラさん、こっちだ!」
「!?でも……」
「今の俺達じゃ止められない!俺達にできるのは……皆を逃がすことだけだ!」
「っ……」
ソラもその姿を見て、彼が襲撃した犯人だと理解するも、ヤクモに腕を引かれ悔しそうにその場を離れる。街を守る兵士たちも、ランボーグを倒すだけならばできるようだが、これでは分の悪すぎる消耗戦にしかならないだろう。勝ち目のない戦いの中でできることを2人は進めていたが、ランボーグは一般人たちにも容赦なく襲い掛かってくる。ソラとヤクモはランボーグを引き付け、皆の避難を進めていたが、
「っ……ここには何もないな……」
街の破壊が進んでしまった影響で即席のトラップに仕えそうな材料はもう残っていない。しかも性質の悪いことに、ソラとヤクモは数体のランボーグに囲まれてしまう。
「しまった……」
「そんな、ここまでなの……!?」
それらを見て、思わず弱気な声を漏らしてしまったソラ。と、その耳に鳥たちの走る音と、
「ソラちゃん!」
「ヤクモー!!」
「「!!」」
ましろとエルの声が聞こえてくる。直後、ランボーグの背中を鳥の足が踏んづけて一体がバランスを崩す。その隙に人を乗せていない鳥が2羽、隙間を縫ってソラとヤクモの下に駆け付け2人が飛び乗ると、そのままましろ、エルレインと合流し4人を乗せた鳥たちは街の外へと全力で走り出す。
「「やった!」」
「飛ばしますよ!」
2人の言葉を聞かず、有無を言わせず、鳥を走らせるエルレイン。そして都から逃れた人々は、東の草原へと集まっていた。雨は止んでいたが、それによって破壊され止めるものがなくなったを消すものがなくなり、所々赤く染まっていく変わり果てた都を人々は絶望と共に見ていることしかできず、精神が疲弊していく民達を見たエルレインの頬を涙が流れる。
「……大切な者を……守る力……」
「プリンセス……?」
エルレインは歩きだす。崖の上へと向かうエルレインを、その場にいた全員が見ていた。そしてエルレインは膝を付いて祈り出す。それは、ソラ達が話したプリキュアの伝説。エルレインは、それを実践しようと思っているのか。それとも、そうとは考えておらず、ただ彼女がこうするべきだと思ったからやっているのか。それはわからない。だが一つだけわかること。それは、
「スカイランドの姫は祈った……ヒーローが現れて、青い空と皆の笑顔を取り戻してくれますようにと……」
「姫の祈りに応えるように、勇敢な戦士が現れた。その名は……」
「える……!?」
その伝説の正体が目の前にあるのだということ。エルレインが祈りを捧げた瞬間、彼女の体を光が包み込んでいく。そして、エルレインは姿を変え、夜明けの光を浴びながらゆっくりとその瞳を開く。
「プリキュアは……プリンセスが呼び出したんじゃない……プリンセスが、伝説のプリキュアだったんですね……!?」
ずっと、エルが力を授けたように、エルレインが誰かを選んだのだと思っていた。しかしこれが伝説の正体。プリキュアが現れたというのは、プリンセスが呼び出したのではなく、プリンセスがプリキュアになるという意味だったのだ。
「プリンセス……?」
「……いいえ。今日から私は、プリキュア……降り立つ気高き神秘、キュアノーブルです」
キュアノーブル。その名を聞いた民達が縋るように膝をつき、祈りを捧げる。その姿を見ながら、ソラはクルニクルンに視線を移すのだった。
(これがプリキュアの誕生……マジェスティクルニクルン……次は私達に、何を見せるつもりですか……?)
★
キュアノーブルが誕生した場所とは反対側。朝日が昇り、破壊の後が残るスカイランドの都を見ていた男は満足そうに顎髭を弄っていた。
「今日はこのくらいにしておこう」
ランボーグをどうにかする手段のないスカイランドを落とすのは簡単。悠長なことをする気はないが、だからといって油断もしない。確実に攻め落とすため、次の攻撃の為にその男、アンダーグ帝国の支配者カイザー・アンダーグは一時の帰還を思案していた。
「……お父様」
「!」
そこに、少女の声が聞こえてくる。カイザーが視線を動かすと、そこには2人の少年少女がスキアヘッドと共に立っていた。1人は暗い赤色の髪の少女。もう一人は銀髪で傘のようなものを携えている少年。それを見たカイザーは溜息を漏らすと、きつい声音で2人へと言う。
「戦場に出てくるなと言ったはずだぞ。カイゼル、カイゼリン」
「でも……」
「カイゼル!弟とはいえお前も男ならば姉が無茶なことをしないようにしろ!」
「ごめんなさい……お父様」
「はあ……貴様も貴様だ!スキアヘッド!役立たずの教育係め!」
「面目ございません」
危険な戦場に子供を連れてくるなどどういうことか。カイザーに怒鳴られ、スキアヘッドは頭を下げ謝罪を述べる。そしてカイゼリンの手を握ると、
「さあ、お2人とも帝国へ戻りましょう」
「ふん」
それでいいのだと言わんばかりにスキアヘッド達に背を向け都を見るカイザー。だが、破壊される都を見たカイゼリンの瞳には涙が浮かぶ。
(戦いが生むのは……涙だけなのに……)
「……」
そのカイゼリンの涙を見ていたのは、カイゼルだけだった。