曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第124話 叢雲

 

その日の夕方。ムラクモにその時に話すと言われた後、家を出て外で過ごしていたヤクモとソラはムラクモが指定した場所と時間を皆に伝え、6人は裏山へと来ていた。

 

「ここにムラクモさんが……でもなんでここを指定してきたんです?」

「さあ……」

「ソラちゃんは何か聞いてない?」

「それは……」

 

ツバサに聞かれるもヤクモもわからないと首を傾げてしまう。ソラも昼間のムラクモとの会話を思い出すのだが、その中にはどこにもこの場所であるべき理由らしい理由はなかったように思える。

 

「残念ながら心当たりは……」

 

ましろの求める答えを出せず、申し訳なさそうに肩を落とすソラ。ひとまず行けばわかるだろうとムラクモの下へと歩き出すのだが、ここでふと、ましろが立ち止まる。

 

「そういえば……ムラクモさんってどこで待ってるの?」

「「あ」」

 

ましろの疑問に思わず間の抜けた声を出してしまうソラとヤクモ。確かにムラクモは裏山で話すとは言っていたが裏山のどこで話すかについては全く触れていない。そしてこの裏山は軽い山登りができる程度には広い。当てもなく探したところでどこかにいる人と巡り合うのはかなり難しいだろう。

 

「しらない?」

「そ、それはぁ……」

「ちょっと電話してみる……」

 

昼間に聞けばよかったなとぼやきながらスマホを取り出すヤクモ。幸せ気分のままだったのがいけなかったのかと小さく漏らしながらスマホを耳に当てようとしたその時だった。

 

「!!」

 

アンダーグエナジーが林の奥から吹き上がる。気配だけではない、目でも視認できるその異変にヤクモ達は顔を見合わせる。

 

「あれは……アンダーグエナジー!?」

「まさか……スキアヘッド!?それともカイゼリン!?」

「いや、この感じは……」

 

敵襲か。皆が警戒しながら消えていくアンダーグエナジーを見ていたが、ヤクモは次第にそれがムラクモのものだと気付く。

 

「父さんだ……多分、あれで場所を教えようとしているのかもしれない」

「……全く、勘違いするじゃないですかこんなの」

 

雑すぎる場所の教え方にツバサが思わず呆れてしまう。ヤクモがいるから別人と勘違いされることはないということなのかもしれないが、それにしたってこれはないだろう。現に自分達はムラクモではなく敵だと勘違いしかけたのだから。

 

「……ま、とにかく行ってみようか……そうすればなんでここなのかわかるだろうし」

 

溜息を吐くと、ヤクモ達はムラクモの下へと向かう。林を進んでいき、奥にある開けた場所へ出ると、そこにはコートを着たムラクモが立っていた。

 

「おう、ようやく来たか」

「ようやくって、さっきまで場所わからなかったんだけど」

「悪い悪い、どうせこうすりゃわかると思って言ってなかったんだよ」

 

特に気にせずヤクモ達を出迎えるムラクモ。フランクな雰囲気だが、彼の服装は話し合いをするには少々似つかわしくない恰好だった。何故なら彼が着ているのはランボーグのコート。ランボーグの仮面は首元に下げられているためムラクモの顔が見えるが、今すぐにでも戦えそうな姿にヤクモも嫌な予感を感じていた。

 

「……で、父さんはなんでここに呼んだのさ」

「なんだ、まだ察してないのか?」

「……」

 

父の言い方に、ヤクモはすっと目を逸らす。嫌な予感が何を意味していたのか、当然気付いていた。しかし、もし本当にそうだとすればこれから起こるのは。

 

「簡単な話だ。今のお前らの力を俺が確かめてやろうってわけだ」

「ええ!?ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 

ムラクモが告げたのは自分と戦えという言葉。それを聞いたましろが慌てた様子で異議を唱える。

 

「私達、300年前の話を聞きに来たんですよ?なんで戦う必要が……」

「そうそう、なんでまた急にそんなこと言うんです?」

 

ましろに同意するような形であげはも意見を言う。それをムラクモは黙って腕を組みながら聞いていたが、2人の言葉を聞き終えるとやがて口を開く。

 

「簡単なことだ。今の俺も昔からは大分衰えてる……そんな俺と戦えないようじゃ、姉上と……カイゼリンと話す土俵にすら立てんぞ」

「そ、それは……」

「アンダーグ帝国の理念は力こそが全て……昔に戻っちまったカイゼリンと話をしたいなら、まず相手の理念に寄り添うことだ。そのうえでお前たちのやり方を、考えを告げて相手を動かすしかない。そうでなきゃただの拒絶だ。お前たちがどう思ってもな」

「「「「「「……」」」」」」

 

ムラクモに諭され、ソラ達もその言葉には確かに一理あると感じざるを得なかった。他のアンダーグ帝国の刺客たちも、最初は敵として戦い、その果てに和解したのだ。それはカイゼリンも変わらない、とムラクモは告げているのだろう。そして、カイゼリンに自分達の言葉を届けるためには、相応の実力がなければならない。カイゼリンの力を受け止めることが、これから先の戦いは前提となるのだろう。

 

「だから、まずは俺に見せてみな。お前たちがどれくらい強くなったのか……話を聞くならまずはそれからだ」

「……わかった」

「ヤクモ君、ムラクモさんが言っていることはわかるけど、本当にいいの?」

 

ミラージュペンを取り出し、ムラクモを見据えるヤクモ。そんな彼の姿を心配そうにソラが見て、ムラクモの発言に理解を示しつつもヤクモが戦うことについて難色を示すあげは。ムラクモとしても本気でヤクモ達を殺そうというわけではないだろうし、彼からすれば手合わせのような意味合いが強いのだろうとは推測できるが、だからといって本気で戦うことに変わりはない。親子でそのような戦いをすることは良いことなのだろうかと考えてしまうのもある意味当然か。だがヤクモは迷うことなく言う。

 

「構わないよ。それに、父さんは俺達を送り出そうとして戦おうとしているんだ。だったら俺は……それに応えたい」

「ヤクモさん……わかりました。やりましょう!」

 

ヤクモの言葉を聞いたソラが納得したように頷く。ソラの心強い言葉にヤクモも背中を押されるように笑うと、ムラクモを見る。

 

「……そう言われたら、やるしかありませんね!」

「える!」

「必要なことだもんね……わかった!」

「オッケー、ヤクモ君がそう決めたなら、付き合うよ!」

 

ヤクモの意思と、ムラクモの思惑を確認し、各々思うところはあれど、この戦いは必要なものだと呑み込んだのか、他の面々も変身の意思を見せる。そして6人がプリキュアへと変身すると、ムラクモはコートの中から一本の黒い細長い筒を取り出す。それにアンダーグエナジーが注ぎ込まれると、鋭い刃がついた槍へと変わってムラクモの手に収まる。

 

「!それは……」

「ランボーグを武器にするのは何もお前の専売特許じゃないんだぞ?ま、遺伝ってやつだな」

 

実際はピンクットンのレッスンで無理やり戦わされた時に出てきた青年が使用していた武器に似ていたから反応したのだが、それを踏まえるとあれは若かりし頃のムラクモをイメージした存在だったのかもしれない。こんなところで謎が1つ解決するとはと呆れながらアンブレランスを取り出すクラウド。そしてムラクモが下ろしていたマスクを上げて顔に付けると、

 

「よし……来な」

「「はあああああ!!」

 

クラウド達に仕掛けてくるようにと手招きする。それを合図とし、スカイ、とマジェスティが同時に飛び出しムラクモへと迫る。2人はコンビネーションを組んで連続攻撃を重ねていき、ムラクモの反撃を封じつつも着実に追い詰めていく。その間に後ろに回り込んだプリズムが光弾を生み出し、

 

「やあ!」

「……おっと」

 

ムラクモへと放つ。だが、プリズムが回り込んだ時点でその気配に気付いていたようで、プリズムが光弾を発射するのと同時に跳び上がり3人の攻撃を回避する。が、空中にはウィングが待機しており、

 

「そこだあああ!」

 

跳んだムラクモの頭上を取り勢いよく飛び蹴りを放つ。だがムラクモは左手を上にあげてウィングの足を掴むと、

 

「え!?」

「おいおい、これで追い詰めたつもりか?全部見えてるぞ?」

 

そのまま何事もなかったかのように高くジャンプ。その勢いによってウィングは上へと引っ張られる形に真っ逆さまになってしまう。

 

「うわあああ!?」

「ウィング!?」

 

そのまま軽々とウィングの足を引き上げると、彼の両足を硬く握って固定したうえでその両肘に自らの両足を当て、そのまま落下し始める。

 

「!?」

 

慌てて拘束から逃れようとするのだが、落下速度が速すぎ、さらに足が肘の関節部分にかかっているせいで全く動かない。なんとか自由に動く頭だけでもと振り回した結果、真下に広がる堅い地面が目に入り、まさかこのまま頭から叩きつけられるのかとその表情が青ざめる。

 

「このままじゃウィングが!!」

「ひろがるクラウドプロテクト!!」

 

このままではウィングが大変なことになってしまう。マジェスティの悲痛な叫びが上がるよりも早くクラウドがクラウドプロテクトを発動する。その内部へと入っていったムラクモとウィングだったが、中で発生している乱気流によって落下速度は弱まっていき、さらに四方八方から強風が2人を襲う形となったことでウィングの体がさらに激しく揺らされる。それによって僅かに腕の拘束が緩んだ隙に拘束から脱すると、そのまま回転を活かしてムラクモの腕からも逃れ、クラウドプロテクトの流れに沿って外へと脱出する。

 

「おっと、逃したか」

「ヒーローガールプリズムショット!!」

 

ウィングが脱出したのを確認し、プリズムショットが内部へと放たれる。クラウドプロテクトの内部で拡散し全体へと襲い掛かっていくプリズムの光。それが止み、クラウドプロテクトが消えるとそこからは所々焦げ付くランボーグのコートを纏ういまだ健在のムラクモが現れる。

 

「あれは完全に決まったと思ったんだがな」

「っ……心臓に悪すぎる……!」

 

ムラクモのぼやきにそんなテンションで言ってほしくないと被害者のウィングが険しい表情で返す。しかしムラクモは気にしていないと言った様子で得物を構えると、今度はムラクモの方からクラウドへと突進してくる。

 

「っ!?」

「どうした!こっちの技は勉強不足か!?」

「一度も教えてもらってないよ!」

 

アンブレランスで受け止め、打ち合い始めるクラウドとムラクモ。しかし、ムラクモの方が技術的に当然上であり、クラウドはすぐに押し切られそうになってしまう。

 

「待っててクラウド!速さの力、アゲてこ!」

 

クラウドを援護するためにバタフライがミックスパレットでクラウドのスピードを強化する。それによってアンブレランスを振るう速度が変化し、ムラクモが一瞬テンポが崩すもすぐに対応してくる。そしてもう一度クラウドへと向けて振り抜いた槍は、バタフライが立て続けに発動したシールドによって受け止められてしまう。

 

「ふん!」

「え!?」

 

しかし槍にアンダーグエナジーを注いで強化したムラクモがシールドを叩き割ってしまう。しかしそのシールドの奥にはクラウドの姿はなく、さらにシールドを破った隙を狙いスカイ、ウィング、マジェスティが3方向から迫ってくる。

 

「やるじゃねえか、ならこれはどうだ!」

 

それを見て面白そうに笑う声を仮面の奥で漏らしながら、迫る3人を前に一瞬間を置くと、

 

「ふん!」

「「きゃああ!?」」

「うわ!?」

 

全身からアンダーグエナジーを衝撃波のように放ち、スカイ達を吹き飛ばしてしまう。だが空中へ投げ出されたウィングは自力で復帰し、スカイとマジェスティをプリズムとバタフライがそれぞれ受け止める。そしてムラクモがアンダーグエナジーの放出を止めると同時に後ろを振り向いて槍を突き出す。直後、その槍とクラウドの右腕が激突し甲高い金属音が鳴る。

 

「くらえ!」

 

クラウドの右腕にはランボーグへと変化したアンブレランスが装着されており、放たれた槍がムラクモの槍に突き刺さる。先端の刃が潰れながらムラクモへと迫るも咄嗟に槍を回転させてアンブレランスを受け流すとそのままクラウドの腹部に蹴りを入れる。

 

「!」

 

一瞬、クッションのようなものを踏んづけた感触を感じながらもそのまま蹴り飛ばす。しかしクラウドは空中で回転しながら着地すると、腹部のコスチュームの内側から雲が抜けていく。

 

「成程……やっぱりやるじゃねえか」

「父さんがこんなに強いなんて……」

 

プリキュア達の実力を肌で感じ、満足げに頷くムラクモ。それぞれの力量、的確なサポート、技の差し込みなどは彼のお眼鏡に適ったようだった。しかしクラウド達からすれば父がこれほどの実力を持っていることの方が驚愕するべき案件であり、自分達も本気で攻めているのにこうも平然としている様子を見せられればあのカイゼリンの弟と言うのも納得せざるを得ない。

 

「さて、地力は十分。俺としちゃもうちょい続けたいところだが、これ以上は取り返しがつかなくなりそうだからな。次で終わりにするか」

「!」

 

ムラクモが何かを手招きする。直後、クラウドの腕の中にあったアンブレランスからアンダーグエナジーが放出されてランボーグとなっていた状態が解除される。直後、アンブレランスが消えてムラクモの手に移動する。

 

「アンブレランスが……」

「不思議じゃないだろ?元々俺のものなんだからな。さあ、こいつはどうする!」

 

ムラクモがアンブレランスと先ほどまで自分の手でランボーグに変化させていた筒の中にアンブレランスを収納する。まるで元々アンブレランスが収まる道具として作られていたかのようなその筒とアンブレランスにアンダーグエナジーが注ぎ込まれる。そしてそれらを放り投げると、

 

「キョーボーグ!!」

 

一体のキョーボーグが生み出される。それは、四足歩行をしている獣のような胴体をしていたが、背中には巨大な砲台が背負われているのが見える。

 

「ムラクモさんがキョーボーグを!?」

「キョーボーグ……そしてランボーグの強さは3つの要素で決まる。1つは召喚者の力量、1つは注ぎ込むアンダーグエナジーの量、そしてもう1つは……素材だ。アンブレランスとその鞘は、ランボーグとキョーボーグを作るという一点に関しては他の追随を許さない業物だ。こいつから作られたキョーボーグは……今までお前たちが戦ってきた奴より強いぞ」

 

不敵な笑みを浮かべながらそう宣言するムラクモ。実際、クラウド達が見るそのキョーボーグは、これまで対峙してきたスキアヘッドが召喚したキョーボーグよりも力強さを感じる。ムラクモの言っていることも決して嘘ではないのだろう。

 

「どうしますか!?あのキョーボーグ……かなり手強いですよ」

「でも、クラウドの武器が……」

「ああ、それに父さんは次で終わりにすると言っていた。つまり……」

「私達も一撃で決めろ、ということね」

 

マジェスティの手にクルニクルンが取り出される。そして6人が顔を見合わせると、

 

「「「「「「マジェスティクルニクルン!!」」」」」」

 

クルニクルンのページを開き、キョーボーグを浄化するための技を放つ。それと同時に、キョーボーグの方も背中に背負った砲台にアンダーグエナジーがチャージされ始める。そして、

 

「「「「「「プリキュア!マジェスティック・ハレーション!!」」」」」」

「キョーボーグ!!」

 

マジェスティック・ハレーションとキョーボーグの砲撃が同時に放たれ、激突する。キョーボーグの放つ一撃は先日のカイゼリンの攻撃にも劣らない強大なもので、マジェスティック・ハレーションと拮抗し始める。

 

「「「「「「ぐううう……!!」」」」」」

 

キョーボーグの攻撃の威力が強く、マジェスティック・ハレーションを放つ6人の表情にも苦悶の色が現れる。しかし、ここで打ち勝てなければ、知りたい話を聞くことはできない。この先の戦いでも、勝つことはもちろん、カイゼリンと話をすることだってできない。

 

「絶対に……!」

「「「「「「諦めない!!」」」」」」

 

6人が声を張り上げ、力を振り絞る。それに呼応するようにマジェスティック・ハレーションの勢いはさらに強くなり、遂にキョーボーグの攻撃を打ち破ってその全身を呑み込んでいく。

 

「スミキッター……」

 

キョーボーグが浄化され、その場にアンブレランスと鞘が残る。そして戦いを成したクラウド達を見て、ムラクモは満足げに仮面を外してコートを元に戻すと、

 

「見せてもらったぞ。お前たちの力」

 

そう言い、笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「300年前。アンダーグ帝国とスカイランドは和平を結んだ……その後、姉上とエルレインは交流を続けていたが……あの日だった。スカイランドとアンダーグ帝国の関係が崩れたのは」

「あの日……?」

 

その後、場所を虹ヶ丘家へと移し、ヤクモ達はムラクモから300年後の続きを聞いていた。今の情勢を見るに予想はしていたが、やはりスカイランドとアンダーグ帝国の関係を崩す出来事があったようだった。

 

「だが……最初に言っておくと俺にも詳しいことはわからないんだ」

「どういうこと?」

「文字通りの意味だ。不可解な出来事過ぎて、俺自身今でも何がどうなってるかわからないんだ。だからお前たちに話すことをしなかった……お前たちが間違った事実を信じてしまってはいけないと思っていたからな。だからこの事も、俺が経験したこと以外は全てが真実だと鵜呑みはするな」

 

何故今まで話さなかったのか、その理由を念押ししてムラクモがヤクモ達を見渡す。そして、

 

「ある日、父上が死んだ」

「「「「「「!?」」」」」」

「姉上とスキアヘッドは、それがスカイランドの手によるものだと言っていた……俺は父上が死んだ時の姿は見ていないから、本当にそれが真実なのかどうかはわからない……だが、それが原因でアンダーグ帝国は一方的にスカイランドとの和平を破棄、交流を止めた……当時のスカイランドに他の世界へとトンネルを開く技術はなく、結果としてアンダーグ帝国とスカイランドは互いに300年間関わることがなくなった」

 

カイゼリンが変貌した原因が、カイザーの死であると明かす。それを聞かされたヤクモ達が唖然とする中、何故スカイランド側にアンダーグ帝国の伝承がほとんど残っていないのか、その理由も明かす。それは以前、ヨヨが触れた話とも一致していた。

 

「でも俺はその間も度々、父の死に疑問を抱き、その詳細を調べようとしては姉上と対立することが増えていった。力を求めるかつての姿に戻りつつあるアンダーグ帝国……療養が長く続く姉上と長く話をすることはできず、スキアヘッドの奴も正しい歴史に目を向けろの一点張り……そっちがそのつもりなら意地でも奴の言う通り正しい歴史を見てきてやるよって考えてな……姉上に帝国から出てく、追放扱いにするなり好きにしろって言い切ってスカイランドに行ったんだが……全部遅かった」

「遅かった、というのは……?」

「既にエルレインは亡くなっていた。で、スカイランドではアンダーグ帝国の存在は風化していて何も掴めず……帝国に戻ってもあれだけのことをやったら粛清されるだろうなって思ったから何するってわけもなく旅をし始めながら生きてた」

 

スカイランドに直接赴けば何かわかったかもしれないが、それをすること自体が禁じられていたのだろう。意を決してそうなってでもと事情を知っているであろうエルレインに会おうとしたときには時すでに遅く、その後ムラクモは現代に至るまで世捨て人のような生活を始めたようだった。

 

「そんな中だったな……調べていて嵐の日にスカイランドと別の世界の境目が歪むことを突き止めていた俺は、この先に行ってみたくなった。この嵐の先に道があるんじゃないか、そう思った俺は嵐の空に飛び込んでこの世界に辿り着いたってわけだ」

「そんなノリで!?」

 

自分の場合は半ば事故のような形でこの世界に流れ着いたツバサには、ちょっと水に飛び込んでくる、みたいな感覚でこの世界にやってきたムラクモに目を丸くする。ムラクモは笑いながら話を続ける。

 

「それでヨヨさんと出会ってな、この世界で生活するための手助けをしてもらう代わりに昔の事を話してたんだ」

「じゃあヨヨさんがアンダーグ帝国の情報を知ったのって……」

「ええ、ムラクモさんから教えてもらっていたの。今ムラクモさんが言ったように信憑性の薄いところもあるから話す内容は少し選ばせてもらっていたけど……」

「そのための苗字も作ったなぁ……嵐の道、それをちょっと弄って嵐堂……お前が生まれた日は嵐の夜でな、そん時の空を見てたら夜の雲でヤクモなんていいんじゃないか、なんてことを母さんと話したもんだ」

「この流れでさらっと俺の苗字と名前の由来話すの……」

 

急に自分の話題になり、呆れるヤクモ。だがヤクモの名前の由来を聞いたあげは達がヤクモを微笑ましく見ていると、ムラクモが立ち上がる。

 

「とりあえず俺が知ってる300年前の、2つの世界が和平を結んだ後から今に至るまでの話だ。どう受け取るかはわからないが……」

「……つまり、ムラクモさんのお父さん、カイザー・アンダーグって人が死んだのがスカイランドのせいだと今のアンダーグ帝国は思ってるって事ですよね?それって……何か傷とかあったりするんですか?」

「いや……俺の知る限り父上にそんなものはないはずだ。それに、元々アンダーグエナジーを血肉の代わりとして人体を修復するっていう技術を一番最初に収めたのが父上だ。その後、アンダーグ帝国にいた間は俺が色々探求してきていたが……その術を会得している父上がそれで死ぬとは考えられない……一応、姉上らの言っている通り、スカイランドで殺されたって説も考えたことはある。あるが……ありえないな」

 

スカイランドにいる人物でカイザーを殺し得る可能性があるのはエルレイン以外にはいない。しかしエルレインの性格上和解したカイザーを手にかけるわけがないし、百歩譲ってそうなら、カイゼリンが1人だけ帰って来れるわけがないからだ。しかし、だからこそカイザーの死の真相がわからないといった様子だった。

 

「……だとしたら一体……」

「さあな。だが……話せることは話した。後は……本人から話を聞くしかないな。スカイランドに出てきたってことは、怪我も大分治っているはず……昔と違って今なら十分話もできるはずだ」

「……わかった。その時が来たら、カイゼリンと話をするよ」

「ああ……頼むぞ。スカイランドでバリアができたら俺が行ってもややこしくなるだけだからな」

 

だが、当時の事についてある程度の話は聞けた。まだパズルのピースは全て埋まってはいないが、とっかかりはできた。後は、カイゼリンとの話を必ず成功させ、過去の歴史の真実を明るみにする。それが、この戦いを終わらせるカギになると、ヤクモ達は強く感じ、顔を見合わせて頷き合うのだった。

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