(キュアノーブルがカイゼリンを裏切った……そんなはずが……!?でも……)
カイゼリンの言う真実。しかしそれはエルレインの発言とは大きく矛盾している。だが、懐疑的とはいえムラクモも同じことを証言していたし、そのムラクモの話を裏付ける内容なのは間違いない。そして何より、傷を抑えながらも悲しみと怒りに燃える彼女の恨めしい表情は、
(あの目は……嘘を吐いている目ではありません!?)
決して嘘をついていないと、そう確信させるものだった。
「……カイザー・アンダーグが、エルレインさんに……キュアノーブルに殺された……!?」
「そうだ……キュアクラウド……いや、ヤクモ……お父様は……お前の祖父はプリキュアによって殺されたのだ……」
「何故殺される必要があるんだ!?2つの世界が和平を結んだはず、だったら再び開戦の口火になりかねない行動をエルレインが取る理由はないはずだ!」
「……それは、スカイランドの民達の噂話から始まった……お父様は何百年も生き続ける……エルレインが、キュアノーブルの没後、また侵略を改めてするのではないかと……」
「……」
確かに、スカイランドの住人よりもアンダーグ帝国の住人の方が寿命が長い。カイゼリンも、ムラクモも当時から生き続けているのだ。それに対し、スカイランドの住人の寿命は普通の人間と変わりない。今はエルレインがいるから何とかなっているだけで、そのエルレインがいなくなればスカイランドはカイザーの思うがままではないかと。そのような不安が民の中に生まれたのだ。
「スカイランドの皆がそんなこと噂でも言うはずが……」
「いいや、奴らはそう語っていた……先日の大戦の記憶も新しい人々が和平を結んだとはいえそのように不安を抱くのは無理もないだろう……私とお父様もスカイランドの民達を安心させるために尽くしてきた……カイゼルも、エルレインやスカイランドの民達と積極的に交流し、打ち解けようとしていたのだ……だというのに、あの女は!」
マジェスティが噂の存在に異議を唱えようとするも、情勢からしてその噂が当然発生してもおかしくはないと一蹴される。その点は、スカイ達も噂そのものは生まれても仕方のないことだと認めざるを得ない。だが、
「あれはエルレインの誕生日だった……2つの世界の平和をより堅いものにするため、帝国の別の用事で来れずにいたカイゼルを置いて私とお父様は彼女の誕生日を祝いに行った……だがそこに、衛兵たちが突然なだれ込んできた!」
「「「「「「!?」」」」」」
「私達が状況を呑み込む間もなく、キュアノーブルは父を殺した……そして私も命を奪われようとしていたのだ……スキアヘッドが助けに来て、帝国に連れ帰らねば、私もこの場にはいないだろう……」
突然のキュアノーブルの裏切り。それは、カイザーに対応を許すことなく彼の命を奪うに至った。カイゼリンは寸での所で命を救われたものの、信じていたはずのスカイランドの裏切りは、彼女に大きな悔恨を残していた。
「私は誓った……スカイランドに絶対に復讐をすると……!手始めに我々の前に現れたお前を……キュアノーブルが送り出したお前をこの私自らの手で始末すると……!」
そしてカイゼリンは震える手でマジェスティを指差しながら荒々しく声を張り上げる。しかしマジェスティは首を横に振り、自らの胸に手を当てる。
「私はこの暖かい力を信じてる!キュアノーブルがそんなことするわけない!」
「落ち着いてくださいマジェスティ!」
「黙れ!そして貴様はあろうことか……カイゼルを無理やり味方に引き入れた挙句、何も知らない甥をプリキュアに選んだ……!そのことを初めてカバトンから聞いた時……私は貴様を絶対に許さないと誓った!お前たちは私に……またしても家族の命を消させようとしているのだと!」
「ちが……そんな……」
カイゼリンがカバトンに命令した、キュアクラウドが変身できないように叩き潰すようにという言葉。その真実はこれだった。しかしカバトンはその命令を曲解していたようだが。そしてカイゼリンがヤクモを引き入れようとしたり戦いから遠ざけようとしていた理由も、おそらくはこれなのだろう。確かに、ヤクモを選んだのは自分であることは間違いない。彼を自分から危険に巻き込んだのは事実なため、マジェスティはここで言葉に詰まってしまう。だが、
「俺がプリキュアになって戦うのは俺が選んだ道だ。それが俺の選んだ道……後悔はしていない!だから俺は、あんたを止めたい!これ以上は……止まらなくなる!戦いが起これば、もっと多くの涙が流れる!」
クラウドはそんなことはないとマジェスティとカイゼリンに宣言する。クラウドのその言葉にマジェスティもほっとしたような笑みを零すが、カイゼリンは表情を歪ませながら拳を震わせながら、痛みに苦しむように膝をつく。
「やめろ……もう、お前も敵だ!スキアヘッドを殺したお前も……!」
「恨むなら俺だけ恨めばいい」
「ヤクモさん!?」
「俺が応急処置でも無理やりすれば、スキアヘッドは生きていたんだ。でも……今は傷を癒してほしい。戦うなら、その後に……」
「今の私が痛みを感じているのは傷の痛みではない……!心の傷が痛むのだ……!その痛みは、もう何も残っていない私には癒すことはできない……家族も愛する人も、誰も……」
「家族ならいるだろう。父さんだって、あんたとずっと話をしたがっていた!ミクモだって……エルレインと似たあの人だってあんたと話を……」
「あんなもの、娘でも何でもない!!」
地面を勢いよく殴りつけながら怒号を飛ばすカイゼリン。それによってクレーターが生まれる中、カイゼリンは激情のまま、ミクモの事に触れ始める。
「あの日……エルレインに渡すはずだったプレゼントの人形……アンダーグエナジーの海に捨てたはずのそれがアンダーグエナジーを纏い生まれたのがあいつだ!私は許せなかった……本当なら存在すら許したくなかった……だがスキアヘッドは、スカイランドへの怒りを決して忘れないようにと、彼女を存在させ続けた……それによって私は、この怒りを、憎しみを忘れずに過ごせた……!」
「……」
ミクモが生まれた経緯。そしてエルレインと瓜二つの彼女を悪く思ってしまうのも、カイゼリンの過去からすれば仕方のないことかもしれない。しかしそれ以上に、話を聞いていくにつれて急激に頭が冷静になっていくクラウドはスキアヘッドのミクモへの対応に大きな違和感を感じてしまっていた。まるで、カイゼリンの怒りを完全なものとするためにミクモの存在を利用してしまったかのような。そんな感覚があった。
「もはや、この痛みは……海よ!!」
激情の叫びをカイゼリンが上げると共に彼女の周囲にトンネルが開かれ、どす黒く巨大なアンダーグエナジーが吹き上がる。
「アンダーグエナジーの海よ!お前に私の全てを捧げる!!招来!!!」
アンダーグエナジーの海。アンダーグ帝国の人々が生まれる正に母なる海からもたらされた力が次々とカイゼリンの体内へと入り込んでいく。
「が……あ……」
「カイゼリン!」
「クラウド!」
見かねてクラウドがカイゼリンへ手を伸ばそうとするもスカイがその腕を掴む。今まで見たことがないほどに膨大なアンダーグエナジー。あの量に干渉しようとすればクラウドがどうなるかもわからない。
「スカイランドを……貴様たちプリキュアを消し去ることができるなら……この身が無くなろうとも構わぬ!」
吹き上がエルアンダーグエナジーがカイゼリン諸共天へと放たれる。その衝撃によって吹き飛ぶクラウド達が視線を上へと向けると、
「カイゼリン……!?」
無数の黒い根によってトンネルの中から伸び、全身に絡みつくカイゼリンの体。その背中からは巨大な黒い悪魔の羽が生えている。カイゼリンの周囲には膨大なアンダーグエナジーの影響か無数の大岩が浮いてしまっており、彼女がどれだけの力を保有しているのかが一目で理解できる。
「カイゼリンアンダーグはもういない……!力!それが我が名なり!!」
カイゼリンが両腕を広げる。それと共に羽が光を放ち、根から切り離され彼女の体が浮遊する。
「カイゼリン……」
「皆、しっかり!」
その姿を見て、悔しそうに拳を震わせるクラウドと、弱気になる他の皆をバタフライが叱責する。
「アンダーグエナジーとカイゼリンを切り離すよ!」
「!プリズムシャイン……!」
その言葉を聞き、プリズムも、かつてバッタモンダーの心を取り戻した大技、プリズムシャインの存在に辿り着く。あの技なら、今のカイゼリンの心だって取り戻させることができるかもしれないと。
「私達、どんなピンチだって乗り越えてきたじゃん?やろうよ!」
「うん!」
「やりましょう!」
「「うん!」」
「ああ……取り戻そう、カイゼリンの心を。そして……この世界の平和を!」
バタフライの言葉に希望を取り戻したプリキュア達は頷き合う。これが最後の戦いになる、この戦いに決着をつけ、失う命をこれ以上出さない。そしてカイゼリンの心を救い出して見せると。6人は地面を蹴って浮遊する岩を乗り継ぎながらカイゼリンへと迫る。
「カイゼリン!」
「邪魔をするな!」
接近してくるプリキュア達を見たカイゼリンがクラウド達を追い払おうとアンダーグエナジーを込めた球体を生み出す。一目見るだけでわかるほどにどす黒いその球体には赤い稲妻が付随しており、クラウドが本能的に危険を察知してアンブレランスを広げて受け止める。直後、
「っ!」
電撃がクラウドの全身に一瞬奔り、アンブレランスが都の方へと吹き飛ばされ、バリアのひびに突き刺さる。全身に走る痺れの方はその場に残っていたアンダーグエナジーを用いた回復で即座に対処するが、カイゼリンの攻撃の全てにあの稲妻が宿っていると考えると、クラウドの吸収能力は普段通り使えないことがこれで判明する。
「クラウド!」
「俺は大丈夫!それよりバタフライ、ミックスパレットを!」
「任せて!」
スキアヘッドに弾かれたミックスパレットだったが、スキアヘッドが死に、カイゼリンが現れる前に既に回収済み。それを発動し、黄色い光を纏ったウィングたちが超スピードでカイゼリンへと突撃する。
「ええい!」
うっとおしいと言わんばかりに稲妻を纏ったアンダーグエナジーを次々と発射してくるカイゼリン。それらを岩を乗り継ぎながら回避していき、着実に迫るスカイ達。
「はああああ!」
そしてカイゼリンの横を取ったスカイが、カイゼリンの意識が他のメンバーに向けられた隙を利用して黄金の拳を放つ。それをアンダーグエナジーを纏った拳で受け止めたカイゼリン。そして2つのエナジーが拮抗し、大爆発が発生してスカイが吹き飛ばされる。
「クラウド!」
「ああ!」
ウィングに言われるよりも前に飛び出し、スカイを受け止めるクラウド。だが、こうやって彼らがカイゼリンを相手に立ち回っているのも全てはプリズムがプリズムシャインを生み出すための時間を稼ぐため、今ならカイゼリンはスカイとの激突によって発生した爆煙によって視界が奪われている。ここしかない、そう判断したプリズムは、
「今だ!煌け、プリズムシャイン!!」
プリズムシャインをカイゼリンの眼前へと放つ。爆煙を払って光がカイゼリンへと降り注ぐ。だが、
「……ふん」
「!?光が届かない!?」
それを鼻で笑うカイゼリン。そして、
「無駄だ」
カイゼリンの手から放たれた闇がプリズムシャインを呑み込むとそのままかき消してしまう。カイゼリンを救う唯一の手立てであったプリズムシャインの消滅にクラウド達は険しい表情を浮かべる。
「見せてやろう。本当の力というものを!」
禍々しい光がカイゼリンの羽を満たす。直後、羽は螺旋を描くように姿を変え、バリアの方へと向けられる。すると、螺旋が花弁のように開かれていく。
「!?」
直後、花弁からアンダーグエナジーと稲妻がバリアへ向かって放たれる。バリアとアンダーグエナジーが激突し、大きな閃光と衝撃を生み出していく。それは外にいるスカイ達はもちろん、バリアの内側で待機していた青の護衛隊も感じ取れるほどの凄まじさ。そしてその威力は、スキアヘッドの手によって傷ついたバリアで受け止められるものではない。ひびはどんどん広がっていく。
「バリアが!?」
そして亀裂を通って都へとアンダーグエナジーが降り注いでいく。それは木々や石など、次々と無機物へ着弾すると共にランボーグへと姿を変えていく。
「「「「ランボーグ!!」」」」
都へと現れたランボーグ達は次々と人々を襲い始める。そして、青の護衛隊の前にも、ランボーグは次々と生み出され立ちはだかる。
「キラキラモード!」
シャララの合図と共に青の護衛隊の持つ武器がキラキラエナジーの光を纏う。これでランボーグを倒しても、復活することはない。必殺の武器を遂に手に入れた青の護衛隊が、人々を、街を守るために遂に動き出す。
「街を守るぞ!」
「「「「うおおおおおお!!」」」」
青の護衛隊がランボーグとの戦闘を開始し、立ちはだかるランボーグを撃破しながら街へと向かっていく。バリアの外では、ウィングが壊れていくバリアを見て先ほどよりも険しい表情になっていた。
「バリアが壊されるなんて……!」
「!?まずい!」
だが壊れていくバリアにだけ意識を向けるわけにもいかなかった。急激なアンダーグエナジーの高まりを感じたクラウドは、カイゼリンが再び羽を螺旋へと変形させ、アンダーグエナジーを放とうとしている姿に気付く。
「駄目だああああ!!」
それを見てウィングが飛び出す。ウィングがカイゼリンの目の前に立ち、両手を広げてカイゼリンを制止しようとする。だがカイゼリンは不敵な笑みを浮かべるとそのままウィング諸共バリアを破壊しようとする。
「スカイ!マジェスティ!」
「「はああああ!!」」
2人が雲のジャンプ台を使ってウィングを助けるため高く跳ぶ。アンダーグエナジーが発射されると同時に花弁を打ち付けることに成功し、その軌道が逸れる。それによってウィングへの直撃こそ回避されたものの、僅かに胸部を掠ったその攻撃にウィングの表情が苦痛に歪み落ちていく。さらに、攻撃が逸らされたことでバリアの表面をなぞるようにアンダーグエナジーが移動していく。それによって、複数の亀裂で耐久力が落ちていたバリアはさらに亀裂を大きく広げていくことになる。
「ちぃいいい!」
うっとおしいと言わんばかりにバリアを一点突破で蹴破ろうと砲身を修正しようとする。だがプリズムとバタフライがカイゼリンの体を押そうとぶつかっていき、クラウドは花に手をかけアンダーグエナジーの勢いを弱めようとする。5人の手によってどうにか攻撃が完全にバリアから逸れるものの、まとわりつかれたことをうっとおしく感じたのかプリキュア達を吹き飛ばしてさらに高高度へと位置する。そこには岩も浮いておらず、そのままではウィング以外接近することが不可能な場所だった。
「まずい……!」
亀裂を見ながらクラウドが冷や汗を流す。亀裂に刻まれたアンダーグエナジーはそのまま街の中へと降り注いでいき、ランボーグを生み出し続ける。
「街の皆が危ない!」
「バリアが損傷してるせいでアンダーグエナジーを抑制する機能が故障しているんだ!」
「……スカイ、クラウド、マジェスティ!ここは任せた!」
「「「!!」」」
この切迫した状況でバタフライは、パーティを2つに分断することを進言する。クラウドはカイゼリンとバリアを一瞥すると、
「バタフライとウィングは街に行くってことだね」
「うん、私は街の皆を守る。ウィングはバリアの方をお願い」
「!はい!」
彼女の意図を理解して話を続ける。バリアを生み出したウィングだけが、その修復ができる。そしてバリアの修復さえ終われば、街の中に出現したランボーグ達はその活動を止めることになる。
「わかりました!カイゼリンは私達が抑えます!」
「クラウドは足場をお願い!」
「ああ!」
カイゼリンの元へスカイとマジェスティを届かせるため、クラウドが雲の足場を次々と浮かばせていく。スカイとマジェスティがその足場を使ってカイゼリンへと向かう中、プリズムは戸惑った様子で皆の姿を見ていた。
「プリズム!」
「!」
「あなたのプリズムシャインでカイゼリンを照らし出して!」
「でも……カイゼリンには効かなかったよ!?」
「お願い、プリズム」
最後に残ったプリズムに、バタフライがもう1度プリズムシャインをしてほしいと指示する。しかしプリズムシャインはカイゼリンを照らすことはできなかった。だが、プリズムシャインはカイゼリンを救うために必要な技だ。クラウドは真剣な目でプリズムに頼む。
「クラウド……」
「それでも、闇に呑まれたカイゼリンの心を助け出す。それができるのは優しい光だけ……ましろん、あなたならきっとできる」
「取り戻そう。皆でカイゼリンの心を。それが俺達のやるべきことだ」
「……うん!」
バタフライとクラウドの言葉に心を奮い立たせ、頷くプリズム。そしてウィングとバタフライが街へと向かい、プリズムとクラウドがカイゼリンを見上げる。そしてクラウドがスカイとマジェスティの援護の為に自分も雲の足場を生み出しながらカイゼリンの元へと向かう。カイゼリンを前に立ち回るスカイとマジェスティ、そこに乱入しカイゼリンを攪乱していくクラウドの3人に時間稼ぎを託しながら、プリズムはその手にプリズムシャインの光を生み出す。
「……ヤクモ君、皆……照らしてみせるよ。カイゼリンの優しい心を!」
先程よりも大きく、強い光を。絶対にカイゼリンの心を照らし出せる輝きを生み出して見せると、プリズムは強い決意を口にするのだった。