曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第130話 世界を守るため

 

「ランボーグ!」

 

広がっていく亀裂。そこから都の中に落ちてきたアンダーグエナジーが道端の石ころへと入り込み、ランボーグとなってその場にいた人々に襲い掛かる。

 

「きゃああああ!」

 

何の力も持たない一般人ではランボーグに対応することができない。そのまま襲われるがままになってしまうかと思われたその時、

 

「はあああ!」

「スミキッター……」

 

ランボーグの頭上からシャララが現れ、ランボーグを両断する。キラキラエナジーの光を纏ったシャララの剣は、ランボーグを一撃で浄化することに成功する。

 

「城へ!」

「は、はい!」

 

脅威を排除し、城へと避難するように市民に告げる。だが城の方では人々が比較的安全な城の中へと入ろうと行列を成してごった返しているが無理もないだろう。今、この都にはスカイランド中から避難してきた人々がいるのだから。鳥たちは都から飛んで逃げることができるが人はそうはいかない。そのため、城ではヨヨと王様がトンネルを開き、人々を一時的にソラシド市に避難させているのだ。

 

(……厳しい戦いになりそうだな)

 

口にはしないが、シャララも戦況の苦しさを感じ取っていた。ランボーグは次から次へと生まれる。いかにキラキラモードを搭載した武器があろうと、それを持つ兵も当然限られる。時間が経てばたつほどランボーグの数がこちらを上回っていき、分の悪い消耗戦が続くだけだろう。それまでに人々の避難が完了すればいいのだが、ちらと城の方を見た限りだと、それも今すぐに、というわけにはいかないだろう。となればこの状況を打開するための一手は、

 

「プリキュア達、か……それまで、何としても食い止めてみせる!」

 

カイゼリンをプリキュア達が止めれるかどうか。6人を信じ、シャララは襲い掛かってくるランボーグ達を切り捨てていく。シャララを始め、青の護衛隊や衛兵たちが必死にランボーグとの戦いを繰り広げているのと同時に、王様と王妃は人々をトンネルへと誘導し、1人でも多く避難を進めていた。だが、トンネルの出口であるソラシド市の方では、ヨヨが避難してきた人々を安心させるように諭していた。しかし、

 

(……だけど……)

 

ヨヨがトンネルの状態を危惧していると、その嫌な予感が的中するかのようにトンネルが消滅してしまう。スカイランドの方では脱出するためのトンネルが消えてしまったという事実に民達が不安に揺れる中、王様も険しい表情を見せる。

 

「ヨヨ殿の予想が当たったか……!」

 

トンネルは本来、多くの人を移動させられるようにはできていない。可能な限り人々を移動させたつもりだったが、それでもスカイランドには多くの人々が取り残されてしまっている。こうなってしまった以上、トンネルが再び開通するまでの時間を考えると、もうスカイランドの人々が別の世界へ避難を行うことは不可能に近いだろう。後は戦士たちが、この戦いを制することを祈ることしかできない。

 

「でやああああ!」

「スミキッター……」

 

声を張り上げながら、ランボーグを叩き切るアリリ。その近くではベリィベリーもランボーグとの打ち合いの末にランボーグの浄化に成功したようで、仲間の無事を安堵するように声をかける。

 

「やるなベリィベリー」

「副隊長も中々やりますね」

「それだけ軽口を叩けるならまだまだいけるだろう……!」

 

この場は敵を殲滅した。次の場所へ向かおうとしたその時、空から追加のアンダーグエナジーが降り注ぎ、2人の周囲をランボーグが取り囲む。

 

「「「「ランボーグ!」」」」

 

1対1ならばともかく、何体ものランボーグを同時に相手にするのは2人だけでは難しい。しかし、ここで退くわけにはいか

ない、1体でも多くの敵を倒さねばとアリリとベリィベリーが得物を構えると、2人の前にバタフライが現れる。

 

「バタフライキッス!」

 

バタフライが小さな光の蝶を複数放ち、ランボーグ達を攻撃する。予想外の攻撃にランボーグ達は反応しきれずそのまま浄化されてしまう。2人がバタフライの救援に喜ぶも、空を見上げると状況は何も改善していないことを悟らされる。

 

「バリアがあんなに……」

 

バリアの亀裂は全体に広がり始めており、アンダーグエナジーが亀裂を拡大させるように侵食し、そのまま都の中へと降り注いでいる。それによって降り注ぐ範囲が広がっていき、生まれるランボーグも数を増えている。これを止めるためにはやはり、ウィングのバリア修復を待つしかない。

 

「ミラーパッドバリア、メンテナンスモード」

 

城のバルコニーに立ったウィングがミラーパッドを操作する。アンダーグエナジーが侵食している箇所をピックアップし、それを1つ1つ修復していくことでバリアを治すしかない。

 

「絶対に治してみせる……!」

 

1つ1つ、少しずつバリアを修復していくウィング。しかし亀裂は直した傍から別の方向へと広がっていき、このままではただのイタチごっこになってしまう。

 

「はああああ!!」

 

バリアの外ではスカイとマジェスティがカイゼリンとの戦いを続けていた。カイゼリンは手にまとったアンダーグエナジーを刃とし、プリキュア達を切り捨てようとする。それをスカイが避け、マジェスティがマジックアワーズエンドで受け止める。そしてマジェスティが鍔迫り合いを演じている間にカイゼリンの背後を取ったスカイが彼女を背中から抑え込む。

 

「!!」

「戦いを止めてください!」

「うああああ!!」

 

しかしカイゼリンはスカイを軽々と投げ飛ばす。スカイはクラウドが移動させた雲にぶつかって止まるが、スカイを葬ろうとカイゼリンが放った追撃のアンダーグエナジーが彼女の目に入る。

 

「!」

「ぐあっ!?」

「クラウド!!」

 

そのアンダーグエナジーを受け止めるクラウド。だがアンダーグエナジーの吸収を行うより前に稲妻がクラウドを弾き飛ばし、そのままバリアへと叩きつけられてしまう。が、スカイとマジェスティがクラウドの身を案じる暇もなく、カイゼリンの攻撃への対応に迫られる。

 

「……まだ大きさが足りない……これじゃさっきと同じ……」

 

クラウドの身を案じながらその手に生み出したプリズムシャインを見つめるプリズム。徐々に3人は追い詰められてきている。街も、バリアの様子や降り注ぐアンダーグエナジーを見るにどんどん劣勢になろうとしている。焦りの気持ちが募る中でも、冷静に今のプリズムシャインでは駄目だと自分を律する。

 

「プリズム、落ち着いて!」

「クラウド!」

「その通りです!私達が何時間でも、食い止めますから!行きましょうクラウド!」

「うん!」

 

バリアから身を起こして一旦地面へと降りて来たクラウドに制される。そしてプリズムにまだチャンスは来ていないと諭すスカイと共にカイゼリンへと再度向かっていく。

 

「……もっと、広がれ……!私のプリズムシャイン!絶対に、カイゼリンの心を取り戻すんだ!」

 

2人の思いを改めて受け、プリズムは全力をプリズムシャインへと注ぎ込む。と、

 

「!?」

 

クラウドが一層のアンダーグエナジーの高まりを感じ取る。それは、バリアの一部が完全に破壊され、大量のアンダーグエナジーが都へと注ぎ込まれるものだった。

 

「しまった!?」

 

バリアの修復を続けていたウィングもそれにすぐに気付く。だが、ミラーパッドの操作程度で修復できるレベルは既に通り過ぎてしまっており、瞬く間にウィングの周囲に大量のランボーグが現れる。

 

「く……」

「「「「ランボーグ」」」」

 

一旦空へ、そう考えるもそれはできないとすぐに判断する。ランボーグ達はプリキュアだから狙っているのではなく、この都にいるから狙っている。自分だけなら逃げることは簡単だが、そうなればランボーグは城に集まった人々へと狙いを変えるだけだ。だが、ウィングの戦闘力は広い空間とその速度を活かすことで発揮される。皆を危険に晒さねば自分の全力を発揮できず、かといって自分にヘイトを向けさせればこの数のランボーグの浄化もできるか危うい。いや、状況はウィングが思っているよりも遥かに最悪だった。

 

「「「「「ランボーグ」」」」」

 

王様達と逃げてきた人々の前にもランボーグ達は既に現れていた。さらにアンダーグエナジーはこれで出尽くしたわけではない。次から次へと降り注ぎネズミ算式に増えていくのだ。もはや、都がプリズムシャインを待てる時間など残ってすらいなかった。

 

「くそぉ……!」

 

一体どうすればいいのか。考えても考えても答えが全く出てこない。ここまで来て、負けるのか。ウィングが諦めかけた、その時だった。

 

「オレェエエエエエ!」

「!」

「クセエエエエ!!」

 

聞き覚えのある声と共に、気体のような何かが放たれる。それらはランボーグ達を呑み込んでいくと、

 

「「「「「「ラ……ラララ……!?スミキッタ……」」」」」」

 

なんとその気体はランボーグ達を浄化していく。まさかのキラキラエナジーの力を持つ気体、それを誰が放ったのか。普通ならそう考える所だが、それよりも先にウィングはある感想が本能的に出てきていた。

 

「くさっ!?なんだこれ!?」

「ぐぁーははは!!」

「!?」

 

そのあまりの臭さに顔を顰めていると、高笑いしながらウィングの前に1人の男が現れる。その見覚えのある姿は間違いない、

 

「カバトン!?」

「見たかひろがるオナラガス!一週間オナラを溜めるために食べるのがポイントなのねん」

 

なんとカバトンだった。しかもカバトンは、何故かランボーグを浄化する術を身に付けていたのだ。その手段がオナラという、ある意味カバトンらしくもあり、そして認めたくない手段なのはウィングも考えないことにする。

 

「ランボーグ」

 

だが、ランボーグは倒しても倒しても湧いてくる。2人に迫るランボーグを前にカバトンがぶん殴ってやろうかと拳を構えると、ランボーグの眼前に割り込んできたミノトンが光る拳でランボーグを吹き飛ばしながら浄化する。

 

「ミノトン!?」

「久しぶりだな。恩返しに来たぞ」

「その拳は……!?」

 

アンダーグ帝国の刺客であったはずのミノトンとカバトンが助けに来てくれた。その事実を嬉しく思いながら、何故キラキラエナジーを2人が使えるのか、その疑問をウィングが口にする。すると、

 

「どうやらプリキュアの技で浄化されたのが大きいらしいな」

「ムラクモさん!?」

 

その場にムラクモも現れる。今回は普段と異なり、敵ではないことを示すためかコートに付けていたランボーグの仮面は降ろしており、その上から黒いマフラーのようなものを巻いて完全にランボーグの顔が見えないようにしている。

 

「どうしてここに……」

「こいつらの面倒は見てたからな。それに最初から決めていたんだよ。バリアが壊れ、アンダーグエナジーが使えるようになれば入り込めるってな」

「あ……」

 

不幸中の幸いだろう、バリアが破壊され、アンダーグエナジーが使えるようになったということは彼らもその力を振るえるようになるということだ。

 

「カイゼル様のため、ヤクモ殿のため。そしてお前たちプリキュアのため、この力、今こそ使おう!」

「皆……」

「そういうこった。さあ……久しぶりの大立ち回りだ、存分にやるぞ、お前ら!こい、アンブレランス!」

 

バリアに突き刺さったアンブレランスの名を呼ぶと、ムラクモの手にアンブレランスと、クラウドが持っていた単体で使い道がなくなっていた鞘が戻る。そして、

 

「ミクモ、糸を頼む!俺じゃ倒すことしかできん!」

「うん!」

 

ムラクモの後ろから現われたミクモの手から光の糸が放たれ、それがアンブレランスへと巻き付いていく。直後、アンブレランスと鞘から刃が伸び、光の糸と合わさって光の大剣へと変わっていく。

 

「ぼさっとしている時間はないぞお前ら!カバトンとミノトンはランボーグをとにかくぶっ潰せ!俺は城を死守する、ミクモは俺の援護だ!んでウィング、お前はバリアの方を引き続き頼むぞ!」

「はいなのねん!」

「承知!」

「うん!」

「わかりました!」

 

ムラクモが指示を飛ばすと、バルコニーから飛び降りて王様と民達の元へと降り立つ。

 

「あの人は!?」

「あの服装……あの時の!?」

 

バリアが割れたのを確認しすぐに城の方へと駆けつけていたアリリとベリィベリー、バタフライもムラクモの姿を見つける。特にアリリは、そのコートから以前交戦した人物だとすぐに気付く。

 

「ら、ランボ!?」

「そなたは……」

「ヤクモの父親さ、身内の不始末をつけるために来た!」

 

驚く王様達にそう言い放つと、ムラクモはランボーグ達を次々と切って捨てていく。その姿にアリリもやはりあの時の人物だと確信しながらも、

 

「す、凄い……」

「俺達も皆を守るぞ!」

「は、はい!」

「こっちは大丈夫そうだね」

 

アリリとベリィベリーもムラクモが対応できないランボーグを倒しに行く。そしてムラクモ達が駆け付けたのを見たバタフライも、ウィングの元へと一旦合流しに向かっていく。

 

「はいはーい……皆、ソラシド市にはこのトンネルを使ってね」

 

ムラクモがランボーグ達を浄化していく中、市民たちをトンネルの中へと通していく一人の男がいた。それはバッタモンダーだった。当然、かつてスカイランドで暴れた彼を覚えている人もおり、不審に思う人物もいたのだが、トンネルの向こうから逃げられたこと、トンネルが閉じられたことで別れてしまった家族や友人と再会できたことを喜ぶ声が聞こえてきたことでこのトンネルは不審なものではないと確信し、次から次へと中へ入っていく。

 

「僕って、根はいいやつなんだよなぁ」

 

人々が段々嬉しそうにトンネルの中に入っていく姿を見ながら、自画自賛するようにバッタモンダーが笑う。

 

「良い性格をしているものだな」

「おっと?褒められちゃった、自己肯定感上がるねぇ」

 

その背後から、アリリ達と同様城へ向かっていたシャララから呆れ半分に声を掛けられる。彼女自身バッタモンダーの事については既に水に流しているものの、このような開き直った姿を見れば呆れ声も出てくるものだ。尤も、そのバッタモンダーの変化が人々を救っている側面もあるため、あまり強く言えないのも困りごとだが。

 

「得意げにしてる暇があったらこっちでトンネル開きやがれ!全員逃がしきれるかどうかはお前にかかってるんだぞ!」

「りょ、了解です!」

「……やれやれ」

 

ムラクモの言葉にピシッと背筋を伸ばして慌てて走り出す。その背中を見ていたシャララだったが、ムラクモの言葉が意味することを考えていた。アンダーグエナジーのトンネルで再び避難が再会されたものの、やはり街の広さや人々の人数を考えると時間の限界があるのだろう。これではあくまで被害の軽減しかできない。

 

「……気休めでしかない、か。だが……消えかけた希望が見えれば十分!」

 

それでも、事態は好転した。それによって人々の心にも活力がもう一度生まれた。まだ戦える、終わっていない。そのあきらめない気持ちが、もう一度自分達を戦場へと向かわせるのだ。そしてウィングも、その心を取り戻させてくれたカバトン達に礼を言う。

 

「ありがとう……本当にありがとう」

「カイゼル様も言った通りだ。お前は自分のやるべきことに戻れ」

「はい!」

 

再びバリアの修復に取り掛かるウィング。その間、現れるランボーグをカバトンとミノトンは次々と撃破していく。そして、バリアの修復に集中する中、ウィングはあることを考えていた。

 

(1人で空を飛びたいって夢を見ていた……その夢は広がって、プリンセスのナイトに、ヨヨさんみたいな賢者に……夢が広がる中で、たくさんの仲間たちと出会った。そして今、僕はこんな夢を見ている……皆と一緒に、この世界を守りたい……!)

 

ここまで歩んできたことで見つけた新たな夢。世界を守るという大きな目標を、皆と一緒に成し遂げたい。そのためにも自分の出来ることを絶対にやり遂げて見せると集中するウィング。その目の前にランボーグが生まれるも、彼は集中しているあまり気付かない。いや、気付く必要はないと思っていた。今ランボーグが現れても、それを止める頼れる仲間がいるから。

 

「ひろがるバタフライプレス!」

「!バタフライ!」

 

合流してきたバタフライの技でランボーグが浄化される。その声でウィングはバタフライが来てくれたことに気付く。

 

「集中集中!……あ!」

 

手を止めないでとバタフライが言うも、すぐに何かがひび割れる音に2人の視線がバリアの上部へと向けられる。多少は修復されたものの、再びどこかが欠けたかのようにバリアは崩れていく。

 

「っ!」

 

すぐにバリアを修復しようと作業を再開するウィング。それを見たバタフライが両手を合わせると、

 

「はああああ!」

 

巨大なシールドを生み出し、それをバリアの上部へとぶつけ、そのまま蓋のようにする。それによってアンダーグエナジーが堰き止められ、一時的に都の中でランボーグが生まれることが阻止される。

 

「「「「!!」」」

 

シールドは、バリアが持つキラキラエナジーの恩恵を受け、さらに巨大になっていく。シールド自体が、そしてバリアが互いに強化されていくその様子は、かつてクラウドの雲でバタフライのシールドを強化する現象の応用ともいえるだろう。

 

「……」

 

アンダーグエナジーが完全に堰き止められた光景に、クラウド達は2人がやってくれたのだと笑顔を浮かべる。そして、自分の侵攻を対処し、食い止めたプリキュア達の姿に、カイゼリンも驚いたように動きが止まっていた。信じられないものを見るかのように、そして別の感情を抱きながらバリアを見るカイゼリン。

 

「凄い……!?バタフライ!!」

 

バタフライの離れ業を目の当たりにし、ウィングが笑顔を浮かべる。しかし、バタフライの様子を見るとやはりこの行動は大きな負担をかけているようで苦しそうに膝を付きながらも両手を必死に上げていた。

 

「無茶だ、体がもたない!」

 

このままでは彼女が倒れてしまうと心配するウィング。しかしバタフライは力を振り絞るように再び立ち上がると、

 

「うああああああ!!」

 

高まった力が変化した金色の光をその身にまといながら、ウィングに笑いかける。

 

「余裕余裕!これくらい!」

 

やせ我慢なのは見るからに明らかだったが、彼女は全力でやるべきことをやっているのだ。ウィングはその意思を汲み取り、浸食と崩壊が防がれたバリアを再構築し出す。

 

(そんなはずがない……そんなはずがないのに!)

(キュアバタフライは……皆を守るプリキュアだから!ツバサ君、君の夢だって……守ってみせる!)

(あげはさん……僕達なら!)

 

再構築されたバリア、そのキラキラエナジーがカイゼリンが刻んだアンダーグエナジーの痕跡を浄化し始める。

 

「皆を守れる!!」

「……」

 

そしてバリアが一際強い輝きを放ち、完全に修復される。バリアが元の姿になったのと同時にシールドが消え、バタフライがその場に崩れ落ちるように座り込む。

 

「やるじゃん……少年」

「ふふ……ここで少年はないんじゃないですか?」

 

彼女だって疲労が大きいだろうに、こんな時にまで軽口を叩くことはないんじゃないかと思わず呆れながらも、彼女が無事で安心するウィング。そんなウィングの様子に安堵したように笑う。

 

「はは……少年だよ。私にとってはこれからもずっと……」

「こらー!」

「「!」」

 

戦いが終わったかのような和やかな雰囲気を破ったのは、やはり数が多すぎる残党処理に手を焼き始めていたカバトンだった。

 

「終わったなら力を貸せい!カイゼル様にこれ以上の負担をかけさせるな!」

「はい!」

「うん!」

 

ミノトンからも叱責され、2人はすぐさま次の戦いを始める。それとは対照的に、バリアが復活した際の光を浴びたカイゼリンは、戸惑った様子でバリアを見つめていた。しかしすぐに自分の周囲に現れたスカイ達に気付いてアンダーグエナジーを連射し始める。しかし、彼女自身焦っているからか、それともキラキラエナジーの光を浴びたことが原因なのか、既にそのエナジーに稲妻は確認できない。

 

「もうやめるんだ!これ以上の戦いは!」

「!?」

 

真正面からアンダーグエナジーの連射を受けると同時に瞬間的に速度を跳ね上げたクラウドがカイゼリンの両手を掴む。カイゼリンがクラウドを振り払おうと両腕を振り回し、アンダーグエナジーを放つも、その攻撃も行動も、今のクラウドには通用しない。それどころか、

 

「う、うあああ……!?」

 

受けたアンダーグエナジーはクラウドの全身を包むキラキラエナジーとなる。その光に怯えたような反応を見せるカイゼリンへ向けて、プリズムが声を張り上げる。

 

「カイゼリン!皆を守りたい……その気持ちがあなたの力を上回ったんだよ!!」

「そうです!これって、力が全てじゃないってことになりませんか!?」

「っ!?」

 

プリズムに続き、スカイが声を張り上げる。それは、彼女自身意図したことではなかったが昔、彼女が父を助けた時に遺言のつもりとして呟いた言葉だった。それを思い出したカイゼリンは、クラウドを振り払うこともやめ、アンダーグエナジーを放出することもなくなっていた。

 

「……もう、終わりにしよう。こんな戦いが続いたって、生まれるのは涙だけだ」

「……」

 

クラウドが諭すようにカイゼリンに笑いかける。その言葉を聞いたカイゼリンの瞳から、涙がこぼれ、だらんと両腕が下がる。今がその時だと、彼女の手を握っていたクラウドの手が離され、落ちていく。それを見たプリズムが、両手を天に掲げる。

 

「煌け!プリズムシャイン!!」

 

先程を超える巨大なプリズムシャインが、カイゼリンに命中する。光に彼女が包まれていく中、カイゼリンの声が4人に聞こえた。

 

「……お父様……」

「今だ!」

「スカイ!」

「プリズム!」

 

彼女を取り戻すのは、カイゼリンの戦意が喪失し、その心が取り戻された今しかない。地面から跳んだプリズムと降下するスカイが雲に着地すると、スカイミラージュを構える。

 

「「プリキュア!アップドラフト・シャイニング!!」」

 

アップドラフト・シャイニングの光がカイゼリンを浄化していく。その場にキラキラエナジーの柱が立ち上り、それが消えると共にその場に膝を付いた様子で崩れ落ちるカイゼリンが現れる。

 

「皆!」

「大丈夫!?」

「ウィング!バタフライ!」

「やったよ!カイゼリンを……」

 

それと同時に、ランボーグ達を倒し終えたバタフライとウィングが合流してくる。プリズムが確かな手応えがあったと言うと、カイゼリンの元にクラウドが歩いていく。

 

「カイゼリン……」

「……教えてくれ」

 

カイゼリンの言葉に、クラウドの足が止まる。愛する者を失い、信じていた信条は過ちだと気付かされ、何も残っていない。そんな自分はどうすればいいのか。それを弱々しい表情でカイゼリンは問いかける。

 

「力が全てでないというのなら、何を信じればいい……?」

「だったら、話し合って見つければいいさ」

「え……」

「そうですよ。やっとお話ができましたね」

「……」

 

クラウドとスカイの言葉に、カイゼリンは顔を上げる。戦いではなく、話し合いによってこれからの道を見つけようと。今のカイゼリンも、その言葉を否定する気はなく、これでやっと戦いが終わったのだと、マジェスティ達が安堵した、その時だった。

 

「っ!?」

 

カイゼリンの顔が歪む。突然目の前で起こった衝撃の光景は、スカイ達の思考と動きを驚きで完全に停止させてしまっていた。そして止まっていたのは、カイゼリンも例外ではない。自分の胸部を貫くアンダーグエナジーの槍を、信じられないように見て、そして力尽きたように倒れてしまう。

 

「何度も教えたはず。力が全て……それはアンダーグエナジーの海から生まれた私達にとって議論するまでもないことだ」

 

カイゼリンの背後に黒い靄が生まれていた。そこから聞こえてくる、死んだはずの男の声。やがてその靄は、1人の人物の姿へと変わっていく。

 

「カイゼリン・アンダーグ。あなたは最期まで愚かな生徒だった」

 

その場にいた全員が、信じられないものを見るかのように、言葉を失った表情で降り立つ死んだはずのスキアヘッドを見るのだった。

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