「カイゼリン!!」
クラウドがカイゼリンに駆け寄る。スキアヘッドのまさかの裏切りによって貫かれた胸部。その攻撃によって倒れ込んだ彼女の体はかなり危険なところにあるはずだ。いかにアンダーグエナジーを多く持ち、その力である程度延命できたとしても、この状態を放置すれば手遅れになることは間違いない。
「スキアヘッド……!?消滅したはずじゃ!?」
「……っ」
ウィングたちが驚愕の表情をスキアヘッドへと向ける。いきなりカイゼリンの背中を撃ったその卑劣な姿。やっと話し合えると思った相手を襲ったスキアヘッドに、スカイは怒りの表情を向ける。
「ごほっ……ごほっ……!」
クラウドに体を起こされるカイゼリン。せき込む様子の彼女を見て、とりあえず命はあるようで安心する。しかしスキアヘッドが突き刺した槍は中で返しがついているのか下手に抜くことができない。
「な、何故だ……スキアヘッド」
この状態でできる治療は限られている。カイゼリンの傷にクラウドがアンダーグエナジーを注ぐ形で彼女の怪我を少しでも処置しようとする。その甲斐もあってか痛みこそ感じながらも震える声でスキアヘッドに問いかける。
「これじゃ応急処置……バタフライ、パレットを」
「やめておけ。アンダーグエナジーの海から生まれた者にとって、光の力は毒だ」
「そんなわけがない。俺はアンダーグエナジーを浄化して自分の傷を癒せる。だったら……」
「それはお前がアンダーグ帝国人のカイゼルとのハーフだからだ」
カイゼリンを治療することはできないと宣告するスキアヘッド。クラウドはアンダーグエナジーの海から生まれたアンダーグ帝国人とは違い、人間との間に生まれたハーフだ。人としての体を持つからこそ、光の力であるプリキュアの力も彼は受け入れられるのだろう。スキアヘッドはクラウドからカイゼリンへと視線を向けると、つまらなさそうに吐き捨てる。
「光の力などに惑わされ、アンダーグエナジーを、最強の力を手放した……自業自得。父親と同じ最期を遂げることになることになったな」
「何……?」
スキアヘッドの言葉にカイゼリンが困惑の表情を浮かべる。いったい彼は何を言っているというのか。それを理解させるかのようにスキアヘッドがカイゼリンの胸部へと視線を移す。カイゼリンはスキアヘッドの視線に促されるがまま自分の胸を貫いているアンダーグエナジーの槍へと視線を向けると、
「あ、ああ……!?」
「思い出したか。封印されていた記憶」
何かを思い出したのか、カイゼリンの体が震え始める。怪我の影響もあるが、思い出したくなかった記憶の蓋をこじ開けられ、顔色が急速に失われていく。彼女は思い出しているのだろう、父が死んだ時、何が起こっていたのか。
「お父様は……エルレインに殺されてなんか……いなかった……誕生日パーティは、何事もなく終わって、アンダーグ帝国に戻ってきた……」
カイゼリンの言葉は、それまでの彼女とムラクモが言っていたカイザーの死に関する事象の根底を覆す内容だった。当時の記憶を思い出し始めたのか、カイゼリンの言葉は止まらない。
「あの時のお父様は……平和を謳歌し始めていた……力が全てというかつてのアンダーグ帝国の信念を捨て、平和な世界で何を信じるべきかを模索するべきだと……あ、ああ……いやあああああ!!」
そして全てを思い出し半狂乱になり叫ぶカイゼリン。ヤクモが抑えても暴れる彼女だったが、その記憶を改めて彼女自身が認知したのだろう、困惑の色が彼女の顔に浮かび始める、
「こ、この記憶は……」
「本当の記憶を思い出したか」
「本当の記憶!?」
カイゼリンの思い出した真実の記憶。その中にいるカイザー・アンダーグは完全に改心し、平和への道を模索していたようだった。そんな彼が死んだ理由を、淡々とスキアヘッドは口にしていく。
「カイザー・アンダーグを手にかけたのはこの私だ。そしてカイゼリンの頭に偽りの記憶を上書きした。キュアノーブルが裏切った、カイゼリンは私が作り出した記憶を信じていたのだ」
スキアヘッドが告げた真実にその場にいた全員が固まる。特にカイゼリンの顔は、様々な感情が入り混じってぐちゃぐちゃになったかのような顔になっていた。それでも震える声で、どうして今まで仕えてきた父にそのような仕打ちをしたのかと問いかける。彼女の本能はそれを聞いてはいけないと叫んでいるのがわかったが、聞かずにはいられなかった。
「な、何故そんなことを……!?」
「お前の心と体。全てをアンダーグエナジーに捧げさせるため。力にはそれを使う者が必要。力を求め、戦いの為に使う者がいてこそ、力は力足るのだ。強引に体を奪うこともできなくはないが、それでは100パーセントの力を発揮できない」
「……お前は、何者なんだ……スキアヘッド……」
スキアヘッドの中に眠るおぞましい真意。その片鱗を知り、震える声で問いかけるカイゼリン。目の前にいるこの男は、今の彼女には未知の悪魔のような何かにすら見えていた。
「違う。私はアンダーグエナジーの化身」
「!」
次の瞬間、アンダーグエナジーがスキアヘッドの周囲から吹き上がり、彼の姿が変わっていく。アンダーグエナジーが消えると、そこには以前よりも禍々しい姿となり、アンダーグエナジーを全身に漲らせるスキアヘッドがいた。いや、それはもはやスキアヘッドではない。
「ダークヘッド」
自らの名をダークヘッドと名乗ると共にアンダーグエナジーを発射する。クラウドがカイゼリンを攻撃から庇うと同時に、何か仕掛けてくると確信していたバタフライがシールドを生み出しダークヘッドの攻撃を受け止める。
「まずはあいつを追い払わないと!クラウドはそのままカイゼリンを!」
「わかった!」
「……ふん」
クラウドがカイゼリンを抱え、バタフライのシールドを壁として後退を始める。同時にスカイ、マジェスティ、ウィングが挟み撃ちを狙う形でダークヘッドへと仕掛ける。だがダークヘッドはトンネルの中へと逃げ込むと、クラウドとカイゼリンの前に現れる。
「っ!」
「「「しまった!?」」」
「「手出しはさせない!!」」
カイゼリンを抱えている今のクラウドにダークヘッドに抵抗する手段はない。ダークヘッドの出現に反応したプリズムとバタフライが攻撃を仕掛けるも、2人の攻撃をダークヘッドは片手で軽く受け止めるとそのまま自身をその場から消滅させる。
「「!!」」
そしてクラウド達の背後に現れる。トンネルを用いた移動ではなく、短距離でのワープ。初めて見せるダークヘッドの攻撃に反応しきれていないプリズムとバタフライへと向かってダークヘッドはアンダーグエナジーの弾丸を放つ。
「「きゃあああ!」」
2人の体が吹き飛ばされる。さらに回し蹴りを放ってクラウドを吹き飛ばすと同時にアンダーグエナジーを鞭のように伸ばしてカイゼリンの体をつかみ取る。
「ぐあ!」
「カイゼリン!」
スカイ達が即座にカイゼリンの元へと向かおうとする。しかしダークヘッドがアンダーグエナジーを彼女達の手前の地面へと着弾させ、煙によって4人の進行を防いでしまう。そしてカイゼリンの体をアンダーグエナジーに包み込んで浮かせると、
「キュアマジェスティを降臨させてプリキュア達に敗北し続けたフリも全て無駄になってしまったぞ。せっかくここまで育ててきたというのに、器としては結局劣っていたままだった」
つまらなさそうにカイゼリンへと吐き捨てる。と、ここであることを思い出したと言わんばかりにカイゼリンにある言葉を告げる。
「ああそうだ、もう1つ嘘があった。愛している、そう言ったな?」
「!」
「それが一番大きな嘘だ」
「……!」
ダークヘッドから全てが嘘であり茶番だったと明かされ、カイゼリンの頬を絶望の涙が流れていく。
(……私が信じていたものは……何もかもが嘘に過ぎなかった……そして、カイゼルも、ヤクモも裏切って……偽りの記憶を信じるがままに、エルレインの生き写しだったあの子を……胸が痛む……息が苦しい……もう、いっそ……消えてしまった方が……)
「俺達の声を聞くんだ、カイゼリン!!」
槍を握る腕からも力が抜けて下げられる。完全に全てに絶望し、消えてなくなりたいとすら考えるようになるカイゼリン。その心を繋ぎ止めたのは、クラウドと、そしてスカイの声だった。
「!」
「ダークヘッド……カイゼリンを離しなさい!」
「何故?」
カイゼリンを離せと要求するスカイにダークヘッドは理解できないとばかりに疑問の声を口にする。
「この女が、アンダーグ帝国がお前たちにしたことを忘れたのか。それとも、クラウドの身内だから助けると?」
「否定はしない。でもそれだけじゃない。それだけなんて小さすぎる理由で、俺達はカイゼリンを助けようとしたんじゃない」
だがクラウドははっきりと、カイゼリンを助けるのはそれだけではないと断言する。その強い瞳と心を見たダークヘッドは、どこか納得がいったように少しだけ頷いていたが、続くスカイの言葉に彼女へと視線を移すことになる。
「その通りです。泣いている人に手を差し伸べるのに理由なんていりません」
「!」
「……良い入れ物が他にもあったか……」
2人の言葉に驚いたような表情を浮かべるカイゼリン。まだ自分を見捨てず、助けようとしてくれているのか。そんな、驚きと不安と喜びが入り混じったような表情だった。それとは対照的に、ダークヘッドは誰に聞こえない声で静かに呟くと、巨大なトンネルを開く。
「「「「「「!!」」」」」」
カイゼリンの体がトンネルの中へと放り込まれていく。そしてダークヘッドは挑発するようにプリキュア達へと言う。
「この女を取り戻したければ来るがいい。アンダーグ帝国まで」
そう伝え、ダークヘッドもまたトンネルの中へと消えていく。そしてトンネルはその場に存在し続ける。プリキュア達が飛び込むことを待っているかのように。
「アンダーグ帝国行きのトンネル……!」
「明らかに罠ですね……でも」
「行かない選択肢なんて、俺達にはない!」
ウィングの言う通り、罠以外の何物でもないだろう。わざわざ自分達の世界にまでプリキュアを呼び寄せようと言うのだから。しかし、クラウドの言う通り、最初から手段なんて残されてはいなかった。
「行こう!カイゼリンを助けに!」
「当然!」
クラウドの言葉に頷き合う6人。そして、
「レディー……」
「「「「「「ゴー!!」」」」」」
スカイの掛け声と共に6人は走り出す。トンネルへと飛び込みながら、スカイは考えていた。
(私……カイゼリンに答えなきゃいけないんです。力が全てではないのだとしたら、何を信じればいいのか。その答えを……!)
カイゼリンからの問いかけ。ダークヘッドによって中断されたその問いへの答えを彼女へ届けるために。スカイは新たに生まれた決意と共に仲間達と共に遂にアンダーグ帝国へと降り立つ。洞窟の中のような天井が広がるその空間には、プリキュア達を待っていたかのように大量のランボーグが待ち構えていた。
「……クラウドが帰ってくるのを待っていた、なんて感じじゃないか……!」
軽口を言いながらこの状況を分析するバタフライ。とはいえ、彼女自身顔が引き攣ってしまう程のその物量を前に、他の5人も冷や汗を流す。
「カイゼリンを助けるためにはこのランボーグをどうにかしなければ……」
「でも時間もかけていられない、それよりもどこにいるかを……!」
次の瞬間、アンダーグエナジーを感じ取りクラウドがある方向を見る。そこにはどこかへ続く洞穴があり、まばらに存在しているはずのランボーグ達がそこでだけ陣形を組んで守りを敷いていた。
「あの奥から大きなアンダーグエナジーを感じる。もしかしたらダークヘッドとカイゼリンはあそこに……」
「確かにランボーグ達はあそこを守っているように見えますね……一気に行きます!」
先制攻撃とばかりにウィングが飛び出していく。そして力を高めていくと、一気にランボーグ達へと突っ込んでいく。
「ひろがるウィングアタック!!」
キョーボーグやアンダーグ帝国の刺客との戦いを経て成長したウィングアタックがランボーグ達をなぎ倒していく。一瞬で陣形を崩壊した洞穴へ向かってクラウド達が走り出す。しかしウィングアタックが開戦の合図となったようにランボーグ達が次々となだれ込んでくる。
「邪魔だ!」
「あっち行って!」
飛び降りてきたランボーグに向かって雲や光弾を投げつけてその弾性で弾き飛ばしていくクラウドとプリズム。しかし移動しながらランボーグへの対処を並行して行うのは限界があるし、進軍速度も遅くなる。誰かがここに残る必要がある、クラウドとプリズムによって周囲にいたランボーグが一掃された後にそう判断したバタフライが立ち止まる。
「皆、先に行って!」
「「「「!?」」」」
「あいつらが追いかけてきたら挟み撃ちにされる!ここで私が食い止めておくから」
「そんな!?」
なんとバタフライは自分がこの場に残るというのだ。しかし、この数を相手に1人で残るのは無謀に等しい。彼女だって無事で済むかわからない。いや最悪の場合、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。だが、この戦いにはその決断も必要なのだと、バタフライはわかっていた。
「1人残してなんていけません!」
「カイゼリンを助けるんでしょ、違う?」
「……」
「でも!」
「ウィング!お前も残ってくれ!」
「!」
言っていることは理解できる。しかし、バタフライ1人を残すという選択肢は彼女を見捨てるように思えて、スカイは渋い顔を浮かべ、マジェスティは異議を唱える。しかし、バタフライの言葉を聞いたクラウドがウィングに声を上げる。
「わかりました。僕も共に残ります」
「!」
「僕も同じことを考えていましたから。あなたの悪い癖ですよ」
バタフライの隣にウィングが降りると、彼女へ笑いかける。
「もっと僕を頼ってくださいって、言ったでしょう?」
「……ありがとう。正直ほっとしてる」
この場に残り、共に戦ってくれると言ってくれたウィング。その言葉は、バタフライにとってとても頼もしいものであり、ランボーグを前に険しくなっていた彼女の表情に笑みが戻る。やはり彼女も1人でこの場に残るのはとても不安が大きかったようだ。
「心配はいりません、僕達は最高のコンビですから!」
「ああ、後で合流しよう」
「……お願いします!」
「2人とも無理しちゃだめだよ!」
この2人がこんなところで負けるわけがない。そう信じるクラウドと、2人にこの場を託すスカイ。プリズムも状況を呑み込んで2人の判断を受け入れることにしたようだ。それでも不安の色を見せるプリズムを安心させるように、バタフライが軽快に笑う。
「わかってるって!」
「……ツバサ」
バタフライの言葉にプリズムが少しほっとした様子を見せる。と、ここまで黙っていたマジェスティがウィングへと話しかける。
「あなたは私のナイトだからね」
「!はい!」
「こんなところで倒れたら許さないんだから!無事でいて!あげはもだよ!」
たった2人でこの場に残すことを、一番危惧していたのは彼女だった。もしこれでウィングの身に何かが起こったら。しかし、ウィングがこの場に残ると宣言した以上、自分にできるのは絶対に生き残ってほしいと彼へのエールを投げかけることだけだった。そして涙を隠すようにウィングに背を向けると彼女は走り出す。3人も頷き合うとマジェスティの後を追うように洞穴の奥へと入っていく。
「プリンセスのご命令とあらば」
「……だね!」
マジェスティの、エルにああ言われてしまったら何としても生き残らなければ。マジェスティだけではない。他の皆も自分達が生き残ってくれることを信じているのだ。
「……さて」
当然、バタフライ達が話をしていた間にもランボーグ達はこちらへ迫ってくる。もう目と鼻の先にまでたどり着いた軍勢へと2人は振り向くと、
「「ここは絶対に通さない!はあ!!」」
ランボーグへ向かって飛び出すのだった。
★
洞穴を抜けると光を放つ水晶らが点在する湖が広がっていた。その水晶は水中の中にもあるのか、水自体も発光しているように見える。湖の中は道が整備されているようで人工的に作られたと思われる道が奥へと続いている。と、
「!」
水が波打ち、直後地面が、いや洞穴全体が揺れ始める。何かが水の中にいると確信し4人が湖へと視線を向けるのと同時に、水の中からランボーグが浮上してくる。
「ランボーグ」
それは巨大なスライムの姿をしたランボーグ。だがその大きさはクラウド達も驚くほどで、水面から天井へと届きうるほどのサイズで、頭部を天井に擦り付けながら4人へと迫る。天井を擦るごとに天井の一部が崩れ、湖や地面へと瓦礫が落ちていく。
「戦うにしても食い止めるにしてもこの場はまずいな」
「逃げよう!」
クラウドとプリズムの言葉に従い、通路の奥へと逃げ込む。当然ランボーグは4人を追いかけてきており、道中でクラウドとプリズムがランボーグの動きを止められないか試みるも、水で生まれた体には光弾も雲も吸い込まれてしまい、そのまま無力化されてしまう。そして湖を抜け、高い天井のある橋へと出てくる。その橋の向こう側には奥へと続く穴があり、それを確認した4人は走り出す。しかし、その後ろからランボーグが追いかけてくる。
「来たよ!?」
洞穴を抜け、橋へと現れたランボーグは、プリキュア達が橋の上から移動できないことを確認したのか、突然巨大な口を開く。直後、橋の表面をえぐる勢いでアンダーグエナジーの光線を放ち、4人を攻撃してくる。
「「!?」」
「だったら!」
「任せて!マジェスティックベール!」
クラウドがランボーグの攻撃を受け止めようと前に出ようとする。だがマジェスティがそれをマジェスティックベールで受け止める。
「マジェスティ!?」
「何してるの!?早く行って!」
マジェスティはこの場に残りランボーグを食い止めるという。確かにこのランボーグの攻撃に対応できるのはクラウドかマジェスティのみ。そして誰が食い止めてカイゼリンを助けに行くかと選択を迫られた時、彼女も選んだのだ。ウィングやバタフライのように自分がこの場に残ると。
「マジェスティ……」
「……ふと思ったの。どうして私がスカイトーンを生み出す力を、不思議な力が備わっていたんだろうって。どうして私達は6人なんだろうって……私は……こう思うの」
マジェスティは攻撃を食い止めながら3人に語り掛ける。何故、自分はみんなと出会い、皆をプリキュアにすることができたのか。何故、自分達は6人でプリキュアになったのか。その思いの裏には、300年前で出会ったエルレインの姿があった。
「大きなプリンセスは1人だった。辛かったんじゃないかな……一緒に戦う仲間が欲しかったんじゃないかな……一緒に泣いて、笑って、励まし合う仲間が……」
エルレインは、1人で戦ってきていた。しかし、エルレインはアンダーグ帝国との和平を完全に成すことができず、300年後の現在にまでその禍根を残すこととなってしまった。それは、自分1人だけの力で解決しようと、いや解決するしかできなかった彼女の限界だったのだろう。だからこそ、エルを最初から成長した姿ではなく赤ん坊として王様と王妃に託したののかもしれないと。
「だから、きっと彼女の使命を受け継ぐプリキュアは、私達は6人なんだよ!」
「マジェスティ……」
「行って!こんなの押し返してすぐ追いつく!私を……仲間を信じて!」
「「……」」
「ああ、待ってる!行こう、スカイ!プリズム!」
マジェスティにこの場を託し、クラウド達はさらに奥を目指す。マジェスティの姿が見えなくなるまで、必死に走るスカイとプリズム。だが、いまだに彼女たちの耳には戦いの戸が届いており、やがて、スカイの顔に悲しみの色が浮かぶ。
「エルちゃん……」
エルの名を呼ぶと、立ち止まってしまいそうになる。だが、その背中をマジェスティが押すかのように声を張り上げる。
「立ち止まるな!ヒーローガール!」
「「……!」」
マジェスティの言葉に2人がはっとなる。今、自分達が成さねばならないことを思い出し、顔を上げる。そこには、走りながらこちらを見つめるクラウドの姿があった。覚悟している表情だったが、それでも2人にはわかる。その表情の奥には、彼にもエルやツバサ、あげはを置いてきたことへの葛藤があるということが。だからこそ、立ち止まるわけにはいかない。ヒーローとして、そして共に走る仲間を立ち止まらせないために。
「絶対にカイゼリンを助けて……皆で帰ろう!!」
「はい!!」
「うん!!」
3人は感情を込めて声を上げる。迷いと葛藤を吹き飛ばし、最奥へと踏み出すために。3人は一秒でも早く戦いを終わらせるため、走るスピードを引き上げるのだった。
★
アンダーグエナジーの海の傍の岩壁。そこに無造作に転がされていたカイゼリンに突き刺さった槍が消滅する。彼女の視線の先にはダークヘッドが映し出したであろうアンダーグ帝国でのプリキュア達の戦いの風景が広がっていた。
「……強いな……ヒーローというものは……」
ヒーロー。キュアスカイが、ソラが目指すものであり、プリキュア達の強さの根幹に存在している要素だろう。仲間に戦況を託し、奥へと突き進む彼らの覚悟と、ランボーグを前に戦い続ける戦士の姿。身も心も強き者達だ。カイゼリンはそんなことを考え、ぽつりと言葉を呟く。
「カイザーではなく、お前をアンダーグエナジーの入れ物に選んだのは何故だと思う」
「……」
戦いを静観し、プリキュア達がこの場に来るのを待っていたダークヘッドが、カイゼリンに問いかける。そう言われれば、確かに疑問が残る。当時、自分の実力はカイゼルにも劣っていたし、何より最強の実力を名実ともに持っていたのはやはりカイザーのはず。なのにダークヘッドは、自分を選んだ。それは一体何故なのか。
「お前が、ヒーローだったからだ」
「え……」
その答えを端的に、ヒーローと称するスキアヘッド。しかし、そのように言われてもカイゼリン本人に心当たりなどあるわけがない。
「お前の中にはヒーローとしての光があった。その光の分、お前はカイザーより入れ物として大きい。カイゼルもまた、光を持つ者ではあったが、お前はカイゼルよりも我が強かった。それ故、より入れ物として優秀だったのだ。だからお前を選んだ……だが。もっと大きな入れ物がもうじきここに来る」
「!?まさか……」
何故カイゼリンが適任だったのか。その理由を語りながら、ダークヘッドは走るクラウド達を見る。それを聞き、カイゼリンもダークヘッドが言う入れ物が誰を指しているのか、即座に理解する。
「ヤクモ……!?」
「その通り。必要とあらば力を純粋に求め、それを受け入れる心。仲間たちを支え、導き、自らも大切なものを守るためにその身をも投げ打つ精神性。やるべきことを一度定めれば自ら突き進む我の強さ。何より、アンダーグエナジーに対する親和性の高さ。どれを取っても高水準だ……だが」
これまでの戦いでもクラウドはアンダーグエナジーを取り込み、受け入れ、それを活用した様々な戦い方を行っていた。しかし、それ故にクラウドがアンダーグエナジーを受け入れても、そのエナジーを受け入れた上で自分と言う個を見失わない程に彼の練度は高い。その一点だけが、アンダーグエナジーの入れ物として高い質を持ってこそいれどダークヘッドが疎ましく思っていた欠点だった。しかし、
「もう1人いた。破壊の為に力を求める存在……キュアスカイもまた、良い入れ物になる。キュアクラウドを陥落させるついでに、質の高い入れ物ももう1つ手に入れられるだろう」
「!?」
クラウドを切り崩すため、そして入れ物をさらに確保するため。ダークヘッドの視線は続けてキュアスカイへと向けられるのだった。