「ダイジャーグ!!」
ダイジャーグがその巨体を揺らしながらプリキュア達へと襲い掛かる。しかし、その突進はマジェスティックベールで受け止められてしまう。同時にプリキュア達は散開するのだが、ダイジャーグはマジェスティックベールを破壊しようと躍起になって鋭い牙を突き立てる。
「はっ!」
だが、そんな抵抗は無駄だと言わんばかりにベールの一部を消して腕が伸ばしたマジェスティが牙を掴む。そして、遠くの方でクラウドが作り出した雲の足場に乗り、ダイジャーグの尻尾を掴んだスカイと共にダイジャーグの体を大きく回転させる。
「「はああああああ!!」」
2人の手によってダイジャーグの巨体がすさまじい勢いで回されていき、長い体が巻かれ絡まっていく。
「「大回転プリキュア返し!!」」
そして雁字搦めになったダイジャーグを、2人は勢いよく投げつける。ただでさえ絡まったダイジャーグの体は天井からぶら下がった柱にさらに絡まってしまい、完全に身動きが取れなくなってしまう。
「やあ!」
そこにプリズムが光弾による追撃を仕掛ける。それに合わせる形でバタフライがシールドを絡まったダイジャーグの隙間に差し込むように放ち、その体をさらに締め付けていく。ダイジャーグはどうにか解放されようと暴れるも、それがシールドを逆に食い込ませていく結果となってしまう。
「ジャ!?」
その圧迫感にダイジャーグの口から悲鳴が漏れる。しかし、現状からの解放にしか意識が向いていないダイジャーグは、既にその真下からウィングが迫っていることに全く気付いていない。
「ウィングアタック!!」
シールドを突き破りながら天へと上る金色の光。意識外からの攻撃を胴体に喰らい、天井をぶち抜きながらダイジャーグの巨体がその上のフロアである大空洞へと吹き飛ばされていく。
「ダ、ダイ……!?」
「クラウド……」
大空洞に飛び出したダイジャーグ。その視線の先には、クラウドの姿があった。彼の足には雲のロープが結ばれており、その片方はウィングの足と繋がっていた。ウィングアタックによってダイジャーグと共に大空洞へと到達したウィングと共に、ロープを利用してクラウドも上昇してきたのだ。
「プロテクト!!」
「ダイジャーグ!?」
球体状のクラウドプロテクトがダイジャーグを包み込むほどの巨大な形へと膨れ上がり、閉じ込める。その中で暴れまわるキラキラエナジーがダイジャーグの体にダメージを次々と与えていく。
「スカイパンチ!!」
そしてこの技はダイジャーグに継続的にダメージを刻むだけではない。先行したウィングとクラウド。それに続く形で来る仲間たちが合流するまで、ダイジャーグを縛り付ける必要があったのだ。
「プリズムショット!!」
バタフライが作り出したシールドを足場としたプリズムが、スカイパンチによって下層から押し出される。大空洞まで到達したプリズムの放つプリズムショットはクラウドプロテクトの中へと侵入、内部で拡散し、ダイジャーグの全身を焼き始める。
「ジャアアア!?」
「マジックアワーズエンド!!」
続けてマジェスティが、クラウドプロテクトごとダイジャーグをマジックアワーズエンドで切り裂く。その衝撃で天井へと叩きつけられるダイジャーグ。連続で大ダメージを受け、疲弊した様子を見せながらも視線を下へ向けると、下層から合流したバタフライも含め、まだまだやる気十分と言った様子でこちらを見上げる6人の姿があった。
「ダイ……ジャーグ!!」
だが、ダイジャーグは自分達が通過した空洞の奥に、何が合ったのかに気付いたのだろう。その身をこじ開けられた穴へと滑らせると、そのまま下層へと移動してしまう。逃げたのか、いや違う。ダイジャーグの視線の先には、最下層に残ったままだったカイゼリンの姿があったのだ。
「!」
「ダイジャーグ!」
カイゼリンを見つけたダイジャーグの体がアンダーグエナジーの霧へと変わる。そしてカイゼリンが動きを見せる前に彼女の体内へと取り付いてしまう。途端に彼女の全身を霧が包み込んでしまい、彼女の意識が一瞬消える。次に目を覚ますと、彼女は生命の息吹を感じられない荒れ果てた大地の中に立っていた。差し込む光は沈もうとしている夕日がもたらすオレンジ色の光だけ。意識を取り戻したカイゼリンに、どこからか声がかけられる。
「愛してる」
それは、ダークヘッドの声だった。振り向いた彼女の先に広がる影。そこからスキアヘッドが現れる。
「あなたが必要だ」
そう言い、カイゼリンへと手を差し伸べるスキアヘッド。以前ならば、迷うことなくその手を取ったのかもしれない。しかし、今となっては彼の言葉はカイゼリンの心には全く響いてはいなかった。当然だ、彼から受けた愛などというものは何もなかったのだ。ただ、自分を従順な駒にするためだけに語られた偽りの愛などよりも大切なものを、今の彼女は知っていた。
「そして、あなたも私が」
「いや」
スキアヘッドの目的など既に分かり切っている。クラウドという追い求めていたはずの最高のアンダーグエナジーの入れ物を手に入れられなかったことで、カイゼリンをどうにか間に合わせの入れ物としようとしているだけだと。
「それは違う」
そして、ここに現れたスキアヘッドの形をした何かは、本人ではない。何故なら本人の意思は、既にクラウドとプリズムが生み出した光によって消滅している。ここに残っているのはアンダーグエナジーとスキアヘッドの残留思念が融合したような魔物。それが、カイゼリンをどうにか利用しようとスキアヘッドの亡霊の姿を見せているに過ぎないのだ。
「ぐううう!?」
カイゼリンの心の中に光が満ちていく。それは、ダイジャーグに耐えられるようなものではない。カイゼリンの意識は、光に満ち、ダイジャーグを心から追い出すと共に現実へと帰っていく。現実で意識を取り戻した彼女の手は胸部へと当てられる。そこからは、強い光が溢れていた。
「私には……新たな友が……家族がいる!お前はもう、必要ない!!」
カイゼリンが自分の手でダイジャーグを体内から解き放つ。光と共に外に押し出されたダイジャーグは戸惑ったようにカイゼリンを見ていたが、ダイジャーグを追って降りて来たプリキュア達の姿を見ると、逃げ出すかのように突然巨大なトンネルを開く。
「ダイジャーグ!!」
すぐさまその中へと消えていく。トンネルの中にクラウドがすぐに飛び込もうとするが、その前にトンネルは閉じられてしまう。
「逃げられた!?」
「一体どこに……」
一旦身を隠してこちらを狙っているのか。それとも逃げ出したのか。クラウドがアンダーグエナジーを感知しようとしていると、別の所からトンネルが開かれた気配を感じ取り振り向く。
「そうだなぁ、もし僕があいつだとしたら……君たちが行かれたらいやな所、かな」
聞き覚えのある声に他の5人もそちらに視線を向ける。そこにいたのは、
「バッタモンダー!?」
「カバトンも!?」
「ミクモとミノトンもいるよ!?」
バッタモンダー達だった。スカイランドに彼らが来ていたことを知らなかったプリズムたちが驚く中、クラウドの視線がムラクモへと向けられる。
「カイゼル……それに」
「……後で、話をしよう?」
「……ああ……」
その中にいたムラクモとミクモの姿を見て、カイゼリンが複雑そうな表情を浮かべる。真実を知った今となっては、ミクモに向ける視線も居た堪れなくなり、申し訳なさしか感じない。しかし、彼女が話を求めるならば、自分はそれから逃げるわけにはいかないだろう。そう感じ取り、カイゼリンは静かに首を縦に振る。
「どうやら、詰めには間に合ったみたいだな」
「父さん、ダイジャーグが行った場所ってもしかして」
「ああ、ソラシド市だ」
先程のバッタモンダーの話から、ダイジャーグが現れた場所はソラシド市のはずだと推測するクラウド。ムラクモもそれに肯定すると、
「……もうちょいで開きそうだな」
カバトンの方を見る。カバトンは額の宝石を光らせながら呪文を唱えており、先ほどからプリキュア達をソラシド市へ向かわせるためのトンネルを開こうとしていたようだった。
「カバトントン!!」
そしてカバトンがソラシド市へと繋がるトンネルを開く。
「さあ、行くのねん!行って、終わらせてくるのねん!」
「その傷……」
ここでプリズムはムラクモ以外が傷だらけなことに気付く。だがムラクモの方は普通のコートを羽織っているため、ダメージを受けてもランボーグが受けているだけだから無傷なように見えるだけなのだろう。彼らの活躍を知るウィングとバタフライはもちろん、プリズムたちも彼らが味方として駆けつけてスカイランドの皆を助けてくれたのだと察し、笑顔を浮かべる。
「街は大丈夫だ。我らが協力して守り切った」
「こんな傷、大したことないのねん」
「仕上げは任せるぞ、きっちり因縁終わらせてこい!」
スカイランドの方は問題ないというミノトンの報告に6人の顔色も明るくなる。そしてムラクモの激励に頷き返す。
「後は任せたぞ、プリキュア!」
この後の戦いは、自分の出る幕ではないだろうし、今の自分よりもプリキュア達の方が強いし、適任だろう。カイゼリンからの後押しも受け、6人がトンネルへと飛び込もうとしたその時だった。
「「「「「「!?」」」」」」
なんと6人の体が光に包まれ、変身が解けてしまったのだ。
「え!?」
「嘘でしょ!?」
「このタイミングでなんで!?」
「戦いすぎってこと!?」
「まずいぞ……このままじゃ……」
まさかこんなタイミングで変身が解けてしまうとは。戦いすぎたことでプリキュアの力を使い切って変身が一時的に途切れてしまったのか。混乱しながらも何故変身が解けてしまったのか慌て始める皆を、ソラが制する。
「落ち着いてください!プリキュアの力は私達の胸の中にあります!その力は……無限!限界なんてありません!」
心強い言葉で、はっきりと言うソラ。その言葉にヤクモも頷くと、
「戻ろう、ソラシド市に!」
ソラの言葉にそう続け、4人の顔をソラと共に見る。2人の言う通りだと4人も同意すると、6人はカバトンが作り出したトンネルを通ってソラシド市へと帰還する。そこでは、ダイジャーグが町中を移動しており、何かを探すように視線を動かしている姿があった。
「いました!ダイジャーグです!」
「あいつまさか……」
「誰かに取り付こうとしているんですか!!」
ソラの声にダイジャーグが反応する。大きなビルの屋上、そこにソラ達が立っていた。
「無駄です!だってここは、素晴らしい世界ですから。あなたの入れ物になるような、あなたの力を欲しがっているような人は1人もいません!!」
戦況を変えるための入れ物を求め、その候補がいないアンダーグ帝国を飛び出して逃げるようにソラシド市へと現れたダイジャーグ。しかし、この世界にダイジャーグを、力を求めるような人間なんて1人もいない。この世界で過ごし、人々と交流してきたからこそ、ソラ達はそのことをはっきりと理解していた。
「……始まるな」
「ああ……見せてくれ、お前たちの無限の力を」
6人がダイジャーグと相対する。その光景を、アンダーグ帝国から見ていたムラクモ達は、これから起こる最後の戦いの結末を見守るように、6人を見つめていた。
「ヒーローの……」
「「出番です!」」
「「「「出番だよ!」」」」
6人がミラージュペンを取り出し、掲げる。それと共に黒い曇り空だった空から光が差し込み始める。
「「「「「「スカイミラージュ、トーンコネクト!」」」」」」
6人の体がプリキュアへと変わっていく。スカイランド、アンダーグ帝国と戦いの場を変え、一時は変身が解けてしまう程に消耗していたはずの6人。しかし、その胸には絶えず湧き上がる力が満ちていた。その力を手に再びプリキュアへと変身する。
「無限にひろがる青い空!キュアスカイ!!」
「ふわりひろがる優しい光!キュアプリズム!!」
「夜空に漂いひろがる雲!キュアクラウド!!」
「天高くひろがる勇気!キュアウィング!!」
「アゲてひろがるワンダホー!キュアバタフライ!!」
「降り立つ気高き神秘!キュアマジェスティ!!」
再度の変身を完了させた6人、今の6人に負ける気なんてない。3つの世界で、自分達が勝つことを信じ、待ってくれている皆の思いを理解しているから。だからこそ、ダイジャーグなんかに臆するわけがない。
「レディー、ゴー!」
「「「「「「ひろがるスカイ!プリキュア!!」」」」」」
いつも通りに高らかに名を上げるプリキュア達。ダイジャーグは大空へと飛び上がると、自身が持つアンダーグエナジーを口内へと集めていく。先ほどまでアンダーグエナジーの海に残っていたエナジーそのものの集合体だけあって、確かにその巨大さも威力も目を見張るものがあるだろう。だが、それだけだ。
「ヒーローガール!」
この戦いにこれ以上の時間はいらない。一撃で決着をつけると思いを込め、スカイの声を合図として6人が一斉に飛び出していく。
「「「「「「せかいパンチ!!」」」」」」
6人が光を纏い、虹色の光となってダイジャーグの放つアンダーグエナジーとぶつかり合う。その威力は拮抗するだけにとどまらず、プリキュア達の放つ光が徐々にダイジャーグへとアンダーグエナジーを押し込み始める。
「ジャ!?」
「あなたの道理は、力が全て……でも!私達はもっと強いもので戦ってるんだ!」
「負けるものか……世界を閉じて、同じところでただ濁ってるだけのお前なんかに!」
「私達は広がっていく!あんたを超えて、大きく広く!」
「300年前のスカイランドも、アンダーグ帝国も、そして今も!お前に振り回される時代は終わったんだ!これからは……本当の平和の時代が広がっていく、そこにお前の傲慢な思想は根付かない!!」
「私達は絶対に負けない!」
焦るダイジャーグへ向かい、己の身の丈をぶつけるプリキュア達。ダイジャーグはさらに焦りを募らせ、残るアンダーグエナジーをつぎ込んで対抗しようとする。しかし光は全く後退することはない。
「私達は……ひろがるスカイ!プリキュア!!」
そして光がアンダーグエナジーを突き破り、ダイジャーグの体を打ちあげる。曇り空に開かれた青空の穴。スカイパンチ雲の中で6人は次の一手を打つため顔を見合わせる。
「皆!」
マジェスティがすかさずマジェスティクルニクルンを取り出し、そのページを開く。
「「「「「「マジェスティクルニクルン!!プリキュア!マジェスティック・ハレーション!!」」」」」」
トドメの一撃として放たれた浄化の光。マジェスティック・ハレーションはダイジャーグの全身を呑み込んでいき、残る全てのアンダーグエナジーを浄化していく。
「これが最強の力……私の負けだ……ハレワタッタ……」
力こそが全て。その思想故にアンダーグエナジーにこだわっていたダイジャーグ。しかし、プリキュア達の光と力を目の当たりにし、何がより強い力なのかを理解し満足げに浄化され消えていくのだった。
「……まだ、信じられないや」
ダイジャーグが消え、黒い曇り空になっていた空は白い雲が浮かぶ青空へと戻っていた。その中を落下していく6人だったが、遂に戦いが終わったことを実感のこもってない声でウィングが呟く。
「終わったの……?」
「本当に終わったんだよね?」
実感を感じられずにいたのはウィングだけではないようで、マジェスティとプリズムも同様の感覚だった。
「終わらせたんだよ、私達で」
「うん……やっと、終わったんだ」
少し経ち、戦いが終わったと皆より早く実感するバタフライとクラウド。5人の言葉を聞き、呆然となっていたスカイだったが、戦いが終わったことを彼女も認識したのだろう、嬉しそうな顔をしながら言うのだった。
「帰りましょう……皆の所に!」
★
ダイジャーグとの戦いが終わってからはあっという間だった。冬も終わり、春が近づく中、季節の節目ともありソラシド市では人々が忙しそうにしていた。だがそれよりも忙しかったのはスカイランドとアンダーグ帝国だろう。戦いが終わり、プリキュア達を中心として2つの世界は本当の意味で和平を結んだものの、確執は依然として残っていた。しかし、アンダーグ帝国の住人がスカイランドの住人を助けてくれたこと、何よりスカイランドの人々にもヤクモがアンダーグ帝国の王族の血を継いでいるということが明らかになったこともあり、プリキュアと言う存在を通して徐々にだがその不安などは解消されているようだった。
「……まだか……まだかプリンセス……まだプリンセスは帰って来ないのか……」
玉座の前で、そわそわと歩き回る王様。戦いが終わった後もエルはまだソラシド市に残っていた。1年近くを過ごしたことになる世界、戻る前に心残りがないようにしたいという彼女の意思を汲んだ2人はそれを快諾していた。とはいえそろそろ戻ることができるとなればこうして期待してしまうのも無理はないだろう。
「さっき通信で2時間も話したばかりでありませんか」
「……そういうそなただって……」
呆れる王妃にそう窘められるが、それは説得力がないぞと王様も呆れかえってしまう。何故なら玉座にはエルが帰ってきたとき、彼女が着ることができるように様々な服やアクセサリーを取り揃えてあったからだ。
「プリンセスの服、多すぎでは……?」
「つい」
くすくすと笑いながらそう返す王妃。親としての気持ちはどちらも同じかと。もう親子の中を、このスカイランドを脅かす怪しい影はなにもないのだ、もう少しだけ待つぐらいなんてことはないだろうと考えながら、王様はふっと笑うのだった。
★
アンダーグ帝国の玉座の間。明るく気品のあるスカイランドの玉座の間と比べると陽の光はなく、一見暗く見える。だが、その内装は光を放つ光源代わりの水晶を用いた神秘的な美しさを感じさせるものへと変貌を遂げていた。その玉座の間に座っていたカイゼリンは、一体の人形を刺しゅうしていた。それはミクモが持っていた自分を模して作ったと思われていた人形。だが実際は、カイザーがスキアヘッドに殺された時、彼女が製作途中であったエルレインへと送ろうとしていた人形だった。
「……再開したんだな」
「カイゼル?いつの間に」
「さっき帰ってきたんだよ。やっと用事も終わったしな」
「そうか」
カイゼリンにムラクモが声をかける。その声に軽く返すとそのまま刺しゅうを再開するカイゼリン。と、アンダーグ帝国の城の奥からミノトンたちも姿を見せる。
「カイゼル様、よくお戻りに」
「カイゼル様も帝国に戻るのねん?」
「何十年か経ったら考えるがな」
ムラクモがカバトン達と話をしていると、バッタモンダーがカイゼリンが刺しゅうしている人形に目を向ける。
「人形……?」
「もう一度、作り直してみたくなってな……エルレインのために、作っていた人形だったが……ミクモ、お前に改めて渡そうと思ってな」
「え?私に……」
「……ああ、こんなことで私がしてきた仕打ちを許してもらえるとは思っていないが……」
ムラクモと一緒に帰ってきていたミクモへ向けての人形だと言うカイゼリン。ならば一から作った方がいいのではないかとも考えたが、彼女は経緯はともかくエルレインの現身として生み出された自分の娘。ならばあの時、エルレインに渡すことができずにいたこの人形は、今は彼女にこそ相応しいのではないかとも思ったようだ。
「ううん、私、凄く嬉しい。ソラシド市で、ヤクモやムラクモと一緒に生活して、ソラ達と楽しく過ごして……家族や友達っていいなって思ったから。だから、こうやってお母さんと一緒に過ごせるようになったのは、凄く嬉しいの。だから、段々でいいから……もっと仲良くなりたい、もっとお母さんの事を知りたい」
「……そう、か。ありがとう……」
エルレインはもちろん、ミクモに対してもまだ負い目は大きいが、これでミクモが少しでも気を安らいでくれるならば。そう思っていたが、ミクモから言われた言葉に嬉しさのあまり、声が詰まってしまうカイゼリン。これはまだまだ時間がかかりそうだなと、ムラクモは考えながらミノトンを見る。
「帝国の方はどうなってるんだ?」
「多少は混乱もありましたが今では落ち着いています。カイゼル様が戻ってきてくれたこと、何よりヤクモ殿をはじめとするプリキュア達の存在が広まったのも大きいかと」
「あいつも覚悟してたとはいえ大変だな」
「ところでヤクモ殿は?」
「あいつも忙しいんだ、諦めてくれ。しかしこりゃ、和平はいつまでも続きそうだな。めでたいことだ」
「そうだな……」
アンダーグ帝国も変わっていく。スカイランドもアンダーグ帝国を受け入れる。この関係が続けば、世代を超えてもこの2つの世界は平和であり続けられるだろう。
「しかし、おかしな奴らだ。私についてきてくれるとは。何故だ?」
「こうするのが正しいと、そんなところなのねん」
「武人が主に、国に仕えるのは当然の事」
全員、一度は帝国から切り捨てられ追放された身だというのに、こうして戻ってきたことについてカイゼリンが触れると、カバトンとミノトンは当たり前の事だと言わんばかりにその理由を語る。一方バッタモンダーは顔を背けながらちょっとだけ小声で、
「僕はもっと待遇の良いところの職場が見つかったら普通にそっち行きますけどね……」
「「あ?」」
「ひっ!?」
瞬間、カバトンとミノトンに詰め寄られしどろもどろになるバッタモンダー。こいつらは相変わらずだなと笑いながら、ムラクモは3人から視線を外してカイゼリンを見る。
「ま、結局やりたいようにやるだけさ。それが駄目なことなら他の奴が止めるってだけだろ」
「……ふふ、そうだな」
ムラクモの言葉を聞いて笑うカイゼリン。これからどのような未来が広がっていくのかはわからないが、それでもこの平和はずっと続くだろう。カイゼリンはそんなことを思いながら、針を動かしていくのだった。