曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第19話 男だけの一時

 

 

「……えるぅ?」

 

もの静かな昼時のリビング。その中を1人、ゆっくりとソファに手を付けて立ち上がるエル。先日、掴まり立ちができるようになり、僅かだが歩けるようになってからというもの、こうして着実に一度に歩ける時間が増えてきている。ソラやましろも何が起こってもいいように、彼女が歩いているところを静かに見守っている。と、歩いていたエルの視線がツバサの巣箱へと向けられる。しかしその中には誰もいない。その後にエルがリビングを見渡し始める。

 

「エルちゃん、どうしました?ツバサ君を探しているんですか?」

 

その姿に気付いたのか、ソラがエルを抱える。視線が巣箱の中を覗けるほどの高さにまで上げられると、エルはじっと巣箱の中を見る。だがそこには、見上げて見ていた時にもわかっていたことだがやはりツバサはいない。

 

「えるぅ……」

 

寂しそうな声を漏らすエル。彼女がツバサを探していることに気付いたソラは、エルをあやしながらツバサを探してみることにする。

 

「ツバサ君……ここにはいませんね。研究室にいるんでしょうか?」

「ツバサさんなら今日はいないわね」

 

エルがやっていたようにリビングを見渡すも、当然ツバサはいない。となれば、研究室の方で勉強でもやっているのかと考えたソラだったが、2人がツバサを探していることに気付いたヨヨが、家にツバサはいないと告げる。

 

「え?ツバサ君いないんですか?」

「そういえば……どこ行ったんだろう」

 

ましろも、ツバサがいつの間にかいなくなっていることにようやく気付く。

 

「もしかしたら何か用事があるのかもね。ほら、飛行機を見に行ったりとか!」

「なるほど!ツバサ君らしいです!私も頑張らないと!」

 

夢のために頑張るため。ツバサはその一環として今日も動いているのだろう。ソラも納得したように頷き、自分もツバサを見習わなくてはとやる気を上げていく。だが、その実態は多少異なるようで、

 

「いえ、今日はヤクモさんと遊びに行くそうよ」

「「え?」」

 

ヨヨから告げられたツバサの外出理由はヤクモと遊びに行くという内容であったものであった。2人が遊びに行ったということも驚きだが、男子同士なのだ。同じプリキュア同士ということもあるし、ツバサからすればこの世界で初めてできた同性の友達だ、一緒に遊びに行きたいと考えるのも当然だろう。

 

「あー……でも、おかしくはないのかな。2人とも男の子だし」

「確かにそうですけど……私達に言ってくれても……」

 

しかし、ソラは少し残念そうである。当然気持ちはわかるが、街を見て回ったり遊びに行くのなら自分たちも誘ってほしい。皆で一緒に遊んだほうが楽しいのではないかと言いたげだ。そんなソラの気持ちがわかったのか、苦笑しながらましろはソラを宥める。

 

「まあまあ、ソラちゃん。男の子同士でしか楽しめないこともあるんだよきっと」

「かもしれないけど……」

「じゃあさ、今日は私たちは女の子だけで遊びに行こうよ!」

「える!」

「女の子だけで……」

 

女の子だけでお出かけと聞いてエルのテンションが上がる。ソラも女の子だけで遊びに行くと聞いて、自然と頬が緩む。ましろという友ができるまで、友達と遊びに行くという行為すら遠い存在だったのだ。同性だけででかけるという行動に憧れを抱かないわけがない。

 

「はい!ぜひ行きましょう!」

「決定だね!それじゃあ早速……!」

 

ソラの了承を得たましろはスマホを取り出し、出かける場所を調べ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいよ!ラーメンお待ち!」

「うおおお!」

「おぉ……こりゃすごい……」

 

個室に座るヤクモとツバサの目の前に2つのどんぶりが置かれる。そこにはどんぶりの中から溢れるほどに積まれた大量のもやしやキャベツなどの野菜とチャーシューが見えるラーメンがあり、美味しそうなスープの匂いが漂ってくる。

 

「こ、これが噂の……い、いただきます」

 

箸を入れると太い麺が姿を覗かせる。油とニンニクの匂いを嗅ぎ取りながら、おそるおそるといった様子でツバサが麺をすすっていく。

 

「……お、美味しい!これすっごく美味しいです!」

「そっか、口に合ってよかったよ、ここのラーメン。合う合わないが結構大きいらしいからそこだけ気になってたんだよね」

「まさかこういうのが食べられるようになるなんて……!凄いこってりしてる……!」

 

ぱあっと顔を輝かせてラーメンの美味しさに舌鼓を打つツバサ。喜んでくれて何よりとヤクモも食事を始める。と、食べ始めながら先ほどのツバサの発言について聞いてみる。

 

「こっちだとあまりラーメン食べないの?」

「え?あー……ラーメンを食べないというよりはその……あまり匂いが残るものはどうしても食べれなかったという感じですね……」

 

頬をポリポリと搔きながら、溜息を漏らすツバサ。ツバサ自身そのことに納得はしているようにも見えるが、どちらかというとそうするしかないから受け入れているだけ、というニュアンスに近いようにヤクモは感じた。

 

「……こちらの世界に来てから今まではこの世界の鳥のフリをしていたってのは話しましたよね?」

「うん」

 

他の人にこの話が聞かれないようにと周囲を見回すと、少し声音を下げてヤクモにそう話す。そこについては以前聞いた通りであるため、ヤクモも頷く。

 

「そうなると、当然ましろさんに感づかれないように生活を送ることになって……いや、それは別にいいんですが……ただ、食事に関してはやっぱり色々と不都合が……」

「あぁ……」

 

納得したように声を漏らす。プニバード族のツバサがこの世界の鳥のご飯を食べれるのかという疑問はあるが、先日のヤーキターイを見るにおそらくプニバード族も普通の人間と同じような食事をとっているのだろう。そう考えると、ましろの目を盗み、ばれないように食事をとらなければならないというのはやはり相当なストレスになってしまっていたようにも思える。

 

「ましろさんが学校に行っている間は良いんですが……ヨヨさんの方でもましろさんにばれないように手回しをしてくれたりもしてくれたんですが、それでも限界は出てきてしまうんですよね……僕も我慢していたんですがやっぱりその……ね」

「まあ……そうだろうなぁ……」

 

こうして好き勝手に喋りながら美味しそうにラーメンを食べている姿を前にすると、この制限から解き放たれたのが相当に嬉しいのだろう。当然、ましろが悪いというわけでは一切ないのがツバサの中でもかなり申し訳なかったようでもあり、そういった反動もあるのだろう。

 

「そういったこともあって、外食を勧めてもらって、時折お昼は外で買って食べたりもしていたんですが……やっぱり、臭いがきついものって食べにくいんですよね……一回だけ食べたことがあって、味は好みだったんですけど……帰ったら、ましろさんがリビングの臭いを気にし始めて……」

「……ちなみに何食べたの?」

「その時は餃子でしたね確か……ニンニクとかニラとかがたっぷり入ってて……」

「あぁ……」

 

話を聞けば聞くほどそうなるだろうなぁという感想しか出てこない。しかもニンニクとは。当時のましろからすれば自分はもちろん祖母すら食べた記憶がないのに部屋にニンニクなどの臭いがしてるのだから軽いホラーだったのかもしれない。

 

「あの時はもしばれてたらと思うと心臓がばくばくしてたのを覚えてます……」

「ま、まぁ……でも、今はもう違うでしょ?」

「はい!もう僕の事もばれちゃいましたし、食事も勉強も隠れてやらずに済みましたし、こうやってこそこそせずに自由に外出することもできます!のんびり羽を伸ばせるってやっぱりいい気分ですよ」

「……?」

 

ヤクモの箸が止まる。それは慣用句なのかそれともツッコミ待ちなのか。あるいはプニバード族的な意味で文字通りの意味だというのか。

 

「……?どうしました?なんか変なことでも言ってました?」

「いや……なんでもないよ」

 

ヤクモが今の言葉を気にしているのを悟ったのだろうか、不思議そうに首を傾げるツバサ。どちらの意味かはわからないが自然と口を出てきた言葉のようであるが、どうとっても会話に支障がないものだ、わざわざ突っついて食事をまずくするようなこともやりたくないと当たり障りのない返答をして次の麺を口の中に放り込んでいく。お互いしばしの間、無言のまま食事をしていたが、

 

「……そういえば」

「どうかした?」

 

ここであることを思い出したのかツバサはヤクモを見る。今度は何を聞こうというのか。ヤクモが再びツバサを見ると、ツバサはじっとヤクモを見つめてくる。見た目で気になることでもあるのだろうか、そこまで変なことはしてないはずだが。

 

「ヤクモさんって、なんでランボーグが出るとわかるんですか?」

「……あぁ……」

 

ツバサが聞いてきたのは、ヤクモのランボーグの出現が分かるという謎の体質の事であった。厳密にはアンダーグエナジーを感じ取れる……とヤクモは解釈しているのだが、普通の人間にそんな体質があるわけがない。スカイランド出身であるソラやツバサにも当然なく、何故かヤクモにだけこの体質がある。そのことを考えたことも確かにあるのだが、結局それに対する答えが出ることもなく。

 

「そうだな……よくわからなくてとりあえず有益だからいいかとしか考えてなかったけど……なんでだろうね。ツバサはどう思う?」

「どう、と言われても……」

 

考えながらそう答えるヤクモ。便利に使えてるんだからとりあえずそれでいいよね、というのがヤクモの下した楽観的な結論であった。実際の所メリットしかなく、もし不都合なことが起こるとどうなるのか予想しようもないというのが現状なのだから仕方ない。ではツバサの考えはどうなのかとヤクモは逆に質問してみることにする。今度はツバサの方が考え込むこととなる。

 

「むむ……むぅ……」

 

どうにか納得のいく答えを出そうと全力で頭を回転させるツバサ。実際問題、ここで納得のいく理屈がわかるならヤクモとしても願ったりかなったりである。だが、この問題に対しては答えが出せなかったのか、

 

「すみません……僕もわかりません」

「まぁそうだよね……」

「ただ、もしかしたら……」

 

ツバサから降参の申し出が出てくる。だが手がかりになりそうなものといえば。ツバサの脳裏に1人の男が浮かび上がる。

 

「ヤクモさんってカバトンと関係があったり……」

「いやないけど?」

「するわけないですよね。すみませんこんなこと言っちゃって」

 

さすがにその男の関係者なのかという推測は失礼にもほどがあるのだろう。自分も以前その関係者だと疑われたのもあるのだ。間違ってもこういう予想は確証がない限りやってはいけないだろうと謝るツバサ。ヤクモの方は特に気にしてないといった様子であった。

 

「別に気にしてないよ。ところでこの後どうする?」

「あ、それなら行きたいところがあるんです」

「じゃあそこ行こうか」

「はい!」

 

話題を切り替え、次の行き先を決めたところでそこにすぐにでも行けるように2人は急いで残りを腹の中へと押し込み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

腹を膨らませた2人は次の目的地として本屋を訪れていた。チェーン店というだけあって、中はそこそこ広く、客もそれなりにいて賑わっているといった様子だ。ちらほらと目立つように置かれている新刊の表紙を流し見しながら奥の方へと向かったヤクモとツバサ。お目当てのエリアに来たツバサは目的の本を探すように本棚を食い入るように見ていく。

 

「参考書か……」

 

専門的な参考書の数々。一目見て難しいものであるとわかると同時に、ツバサが目指す夢へのハードルの高さが伺える。プリキュアになり、ツバサ個人としては空を飛ぶことができるようになったはずだが、学問に終わりはないといったところか。

 

「あ、ありました!よかったぁ、売ってて……以前来た時はなかったんですよね」

「あるだろと思っていくと何故かそれだけないことはたまにあるな……」

「そうなんですよ」

 

うんうんと同意するように頷くツバサ。そこまで人気があるわけじゃないから普通に置いてあるだろうと思って店に向かうと他にも同じことを考えている人が自分より先に来て買ってしまったのか、それとも単純に店に入荷していなかったのか。どちらかはわからないが目的のものがないとわかった時の気分の落ち込みは中々にくるものがあるものだ。やっとお目当てのものを見つけることができたことが嬉しいのか、大事そうに分厚そうな参考書を抱きしめるツバサ。と、ツバサの視線が手ぶらのヤクモの手に向けられる。

 

「ヤクモさんは何か買わないんですか?」

「え?俺?といってもあまりほしいものもないしな……最近は電子書籍とかだし……」

「電子書籍、ですか……」

 

ぽつりと呟くヤクモ。ツバサもその言葉には興味があるのか、ヤクモの言った言葉を復唱する。

 

「興味ある?」

「それはありますよ。紙の本には当然紙の良さはあると思います。でも……どれだけ分厚くても、何冊あってもその重さを気にしないで1つの本で読める不思議な本……それが手に入ったらもっと捗るかもしれないと思うと興味はとてもあります」

 

力強く、電子書籍への興味を語るツバサ。少々捉え方に違和感は感じるが、ツバサなりの解釈なのだろう。実際、スマホやらタブレットやらがあれば好きな本をいつでも好きなときに読めると考えると確かに魅力的だ。ヤクモは基本的に漫画だの小説だのにしか使わないし、知りたいことがあるならその時はおとなしくネット検索で済ませることも多いのだが、教科書なども電子書籍で用意できればもっと便利かもしれないとは考える。

 

「ツバサはスマホ持ってないんだっけ」

「さすがにそこまではねだれませんよ!」

「まあ普通に高いよね……」

 

そんなこと、とんでもないと慌ててスマホを持っていないことを強調するツバサ。自分の場合は色々必要になるからと買ってもらったが、ツバサ、そしてソラの場合だといずれスカイランドに帰ることになるのにスマホを買ってもらうという贅沢な行為をヨヨにさせるわけにはいかないだろう。

 

「でも、ミラーパッドだと似たようなことはできるようです」

「そういえばヤーキターイのことも調べてたっけ。この世界の事も色々調べられるのかな……」

「そういうこともできたらいいですね」

 

尤も、ミラーパッドはヨヨの持ち物なのでツバサとはほぼほぼ無縁のようなものだが。

 

「……ちなみにどんなの読んでるんです?」

「……こういうの?」

 

他の客に邪魔にならないように本棚から適当なスペースに移動すると、ヤクモは自分が購入した電子書籍の一部をツバサに見せてみる。といっても、どういうのが好きなのかもわからないので、適当に表紙を見せてみる。

 

 

 

 

 

 

「これはどういうものなんですか?」

「テニスの漫画かな……ちょっとツッコミどころも多いけどそこも面白いってやつ」

 

 

 

 

 

 

「じゃあこれは?」

「カードゲームかな……カードゲーム本格的にやり始めるのは少し経ってからからだけど」

 

 

 

 

 

 

「これは……」

「結構かっこいい衣装ですね」

「主人公が死神になる漫画だったなこれは……」

 

 

 

 

 

 

 

「これは……なんか感じが違いますね」

「これはラノベ……いや小説かな。ファンタジー系の……いやでもファンタジー世界の住人からしたらどうなんだ?」

「別に言うほどスカイランドはファンタジーでもなんでもありませんが……この世界の方がよっぽどファンタジーです」

「ファンタジー……いやSFになるんじゃないかなぁ……」

 

 

 

 

 

一通り、ツバサに本を見せ終わったヤクモはふと、天を仰ぐ。別に減るものがあるわけではないが、改めて考えると自分の好みを友達にここまで曝け出しているというのは中々に凄いことをしているような気がする。いかがわしいものは一切ないし、むしろこれで興味を持ってはまってくれたら嬉しいという下心も当然あるわけだが、こうして自分の読んでるものを羅列してみると思った以上に統一性がない。少年漫画系が多い傾向だけは確認できたが。

 

「……」

 

考え込むツバサ。やはりこういった作品は彼も男の子なのだから興味があるのだろう。その視線はちらちらと漫画コーナーに客寄せと宣伝を兼ねて置かれてる漫画の最新刊に向けられていた。確かあれはゴリゴリの能力者バトルものだったなと記憶を手繰っていると、ツバサが本に手を伸ばしては引っ込めるという謎の動作を何回かやっていた。

 

「何を迷ってるの?」

「え……えっと……こういうのにお金使っても、いいのかなって……」

 

外食は事情があった時期もあってか抵抗はないし、勉強のための出費も当然のものだが、こういった娯楽系に個人の判断でお金をつぎ込むのはいかがなものか。そこの抵抗でツバサは苦しんでいたようだ。こういう時本を貸したりできないのは確かに電子書籍の不便な所だなとぼやきながら、ヤクモは家に置いてある漫画に何があったのかを思い出してみる。

 

「じゃあ、今度漫画貸そうっか?」

「いいんですか?」

「少し古い漫画だけど、それでいいなら」

 

その中にこれならおすすめできるかなと思ったものがあったので、それを勧めてみることにする。古いといっても確か続編は今も連載しているらしいみたいな話を聞いた記憶があるが、そこまでは追っていないのでわからない。まだスマホで本を読むという文化を取り入れる前だったため家に単行本などもそろっているのだが、それが今回は丁度よかったようだ。

 

「ヤクモさんが読んでる本……興味があったので楽しみです」

「そ、そっか……はまってくれたら俺も嬉しいな」

 

期待に胸を膨らませるツバサのキラキラした視線を受けながら、頼むぞ過去の名作と念じるようにヤクモは家に置いてある漫画に祈りを捧げるのだった。

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