「ランボォオオグ!!」
挑発されて激昂されたのか。ランボーグがクラウドへと突進してくる。その突進を真正面から受け止めるクラウド。しかしパワーはランボーグの方があるのか、じりじりと押されていく。
「クラウド!」
「来ないで!」
その様子を見て、援護しようとスカイがランボーグを攻撃しようとするも、クラウドが静止の声をかける。
「こいつの相手は暫く俺がやるって言ったはずだよ」
「で、でも―――!」
瞬間、クラウドの足が宙を浮き、支えを失ったクラウド諸共ランボーグが突進し、壁へとクラウドを頭ごと叩きつける。
「ああ!?」
「クラウドを離して!!」
たまらず、プリズムが両手に光弾を生成すると、それをランボーグへと放つ。それはランボーグへとヒットこそすれど、硬い装甲にはやはり通らない。2人の攻撃ではダメージにならないと学習したのかランボーグはプリズムを無視して壁に叩きつけたクラウドに向かってガンガンと頭を叩きつけていく。
「全然通じない……!」
「だとしても、クラウドを助ければ!」
ダメージが入らなくてもとにかくランボーグの意識をこちらに向けなければ。スカイが拳を構えるも、カバトンは先ほどまでの驚きの表情はどこへやら、今や余裕綽々といった様子だ。
「さっきはちょいとびびったが……結局一番弱っちぃ奴だってのは間違いなかったみたいなのねん。そんで、お前たちもこいつには勝てない……ランボーグ!そいつをさっさとぶっ倒したら残りもやっちまうのねん!」
「ランボ……!?」
「ん?」
カバトンの指示に返事を返しながら頭を壁から引き抜こうとするランボーグ。と、その時だった。ベキッと何かが壊れたように外れる音がしたのは。その明らかな異音に自分の体に何が起こったのかわからず、思わず後ずさるランボーグ。自分では確認できない異変を主に確かめてもらおうとカバトンの方を向くために体を半回転させると、その全容をスカイとプリズムも目撃する。ランボーグの顔部分の装甲がまとめて剥がされていたのだ。
「何ぃ!?あ、あんな弱ぇ奴がどうやって……!」
「ってて、さすがにこんだけ殴られれば多少は痛いか。とはいえこれ、やっぱプラモデルだな」
穴になりつつある壁から飛び出したクラウドが特に大きなダメージを負った様子を見せず、平然とした様子でランボーグに飛び乗ると、そのまま装甲と装甲の間に手を差し込む。そして勢いよく引っ張ると、今度はスポン!と気持ちのいい音を立てて装甲が剥がれてしまう。
「「クラウド!」」
「ランボーグ!?」
暴れるランボーグの背中から跳び、先ほど引っぺがしたばかりの装甲を無防備な皮膚に投げつける。装甲を柔らかい皮膚に叩きつけられたことでここで初めてランボーグも痛みを訴える。スカイとプリズムの元へ降り立つと、2人に視線を送る。
「ほら、なんとかなった」
「な、なんとかなったって……」
「あそこなら攻撃が通用する。2人とも!」
「……はい!」
何事もなかったかのようにしているクラウド。どうやらキュアクラウドはかなりタフなようであり、その耐久力には目を見張るものがある。一方でその攻撃力や特性に関しては、今このように2人に攻撃を促している通り、然程高いとはいえず、プリズムのような遠距離攻撃手段も備わっているわけではないようだ。とはいえ、今はクラウドの特性や様子よりもランボーグだ。クラウドが作ってくれたチャンス、それを逃すわけにはいかない。
「ヒーローガールスカイパンチ!!」
「ランボォオオオグ!?」
勢いよく飛び出したキュアスカイが青い閃光となってランボーグに鋭い拳を叩き込む。強烈なパンチを喰らったランボーグが回転しながら吹き飛んでいき、壁へと叩きつけられる。
「おい、さっさと起きるのねん!!」
「ら、ランボォオオグ……!」
ふらふらになりながらもどうにか起き上がるランボーグ。キュアスカイの一撃をまともに受けたものの、まだ装甲は全身に残っており、それらが吹き飛んで叩きつけられるダメージを軽減してくれていたようだ。
「まだ動けるの!?」
「もっと軽くなれ!」
「ランボーグ!!」
ランボーグの全身から装甲が外れていく。いきなり防御を捨てたことをプリズムが訝しんだ次の瞬間、ランボーグがこれまで以上の速度で走り出す。
「速っ!?」
「これじゃ、アップドラフトシャイニングで捉えられない!?」
まさかこんな隠し種があったとは。この隠し玉には対応できないと笑うカバトンだったが、クラウドが両手を前に向ける。そして、
「ひろがるクラウドプロテクト!」
技を宣言すると、巨大な雲が目の前に次々と出現する。それを周囲を高速で走り回るランボーグの進行ルートに設置すると、その内部をランボーグが通過していく。
「!これならランボーグを……」
「ランボーグ!!」
しかしランボーグはクラウドのキメ技をぶち抜いてしまう。
「駄目……通じてない!」
「……いや、待ってください!あれは……」
しかし、クラウドは慌てず再びクラウドプロテクトを次の進行ルートに動かし直す。その間も穴が空いていた箇所はもくもくと雲が膨れ繋がっていき修復されていく。それを通過し、ぶち抜いていくランボーグ。修復するクラウド。そんな攻防が何度か続いていく。
「あぁん?そんな無駄なこと……お前、力もなきゃ技も一番弱いのねん?」
「技は弱いが、無駄かどうかを決めるのは早いんじゃないか?」
嘲笑するカバトンは、クラウドの不敵な笑みを見る。この状況で何を狙っているというのか。その答えは、クラウドの発言の直後にクラウドプロテクトに突っ込んだランボーグが雲を突き抜けることができず、突入してきた箇所も修復されたことで完全に内部に閉じ込められたことで明らかとなる。
「ど、どうなってるのねん!?」
「ランボーグが遅くなってたのに気付かなかったみたいだな」
ただ、考えなしにクラウドプロテクトを使用していたわけではない。この技はバリアで相手を受け止めるような防御技ではなく、フィルターのようなものを何層にも重ねたような技で、相手の攻撃を弱めながら通過させるという異質な特性を持った技だ。その中を生身で通過したことで、ランボーグを満たすアンダーグエナジーや力が徐々に削がれていき、それは速度の低下という目に見える変化として現れていたのだ。その速度と力が一定を下回った状態でこうしてクラウドプロテクトの内部に閉じ込めてしまえば、自力でそこから脱出することができない檻となる。これがクラウドの狙いだった。
「今だ、2人とも!」
2人の反応からして、身動きさえ封じてやればランボーグを倒す手段がある。それがクラウドの目論見であり、2人にとっても待ち望んだ瞬間だった。スカイとプリズムは互いに顔を見合わせて頷くと、ミラージュペンと変身に使ったものとは別のもう1つのスカイトーンを取り出す。
「スカイブルー!」
「プリズムホワイト!」
「「プリキュア!アップ・ドラフト・シャイニング!!」」
2人の放つキメ技により、天に巨大な円盤が出現する。その中へと雲諸共吸い込まれたランボーグは、全身に浄化の力を受け勢いよく地面へと叩きつけられていく。
「スミキッター……」
断末魔のようにその言葉を呟くと、ランボーグが消滅し、その場に素体となっていたであろう模型のみが残される。さらにこの戦闘で破壊されたショッピングモールの内部が次々と修復されていき、元のあるべき姿に戻っていく。
「凄いな……」
思わず、クラウドの口からそんな言葉が漏れる。まるで戦いなんて最初からなかったかのように戻っていく景色にほっとしつつ、キメ技を撃ち終えた他のプリキュアと共にカバトンを見る。
「か、カバトントン」
ランボーグを倒され状況は不利と悟ったのか、カバトンが奇妙な呪文を唱えるとその体が黒いもやとなって消えていき、霧散していく。撤退したのだろう、それを認識すると同時に気が抜けたのかクラウドの変身が解けてしまい、元のヤクモの姿に戻ってしまう。
「おっとっと……」
「大丈夫ですか!?」
「あ、うん大丈夫……」
気が抜けた影響が体にも現れたのだろう。膝から力が抜けたように座り込んでしまうヤクモに慌てて変身を解いたソラとましろが近づいてくる。2人が心配していたのはあれほど攻撃を受けていたヤクモの体のことなのだが、当のヤクモは今尻もちを付いたことで負った痛みの方が強いようで、自分のお尻を気にしながら立ち上がっていた。
「なら、いいんだけど……それにしても、ヤクモ君もプリキュアになっちゃうなんて!驚きだよ!」
「……え、えっと……そのプリキュアって……何なのかな?」
ヤクモが大丈夫だと判明して安心する2人。ましろもまた、初めてプリキュアに変身したときは気が抜けて疲れでへたり込んでしまったものだ。当時、といってもつい最近ではあるが懐かしさを思い出しながらも嬉しさと驚きの混じった様子でヤクモに矢継ぎ早に話しかける。2人だけのプリキュアだったが、新しい仲間ができたことが嬉しいのだろう。しかし、対するヤクモは戦ってる時の真面目な様子はどこへやら、しどろもどろになりながらましろに対応していた。
「あ、そうだよね!そこからだよね!ソラちゃん、ヤクモ君にプリキュアのこと、教えないと!」
「あ……はい!そうですね!それじゃあ行きましょう!」
「え?行く?」
仲間が増えて嬉しいのはソラも同じなのだろう。どこか気になることがあったのか上の空だったが、ましろの言葉を聞いて同意するとヤクモの腕を掴む。
「はい!ましろさんの家に行きましょう!」
「……はい!?」
この流れで女の子の家に連れていかれるのか!?そんな言葉が心の中で木霊する。
「い、いやそこまで迷惑をかけるわけには!?」
「あ、気にしないから平気だよ!それに、他の人に聞かれるわけにもいかないし……」
「いや、家の人とか……」
「おばあちゃんもプリキュアの事知ってるから平気だよ?」
「知ってるの!?」
「える!」
ソラに引きずられるように引っ張られながら、プリキュアの事をどこか別の所で聞けないかと抵抗を試みるも、その尽くが打ち砕かされる。そして喜び合う少女達に連れられてヤクモはショッピングモールを後にするのだった。
★
そのまま2人に連れられたまま、ヤクモが連れてこられたのはましろが住む大きな家だった。道中で聞いた話によると現在ソラはましろの家に住み込んでいるらしい。家に入ると、ましろの祖母であるヨヨという人物が四人を待っていた。
「ただいまー」
「お帰りなさい、ましろさん、ソラさん。そしていらっしゃい、ヤクモさん」
「お邪魔します……って、え?どうして俺の名前を?」
突然自分の名前を呼ばれて驚きながら入室するヤクモ。ましろが前もって名前を伝えていたのだろうかと見ると、ましろも疑問に思ったようで首を傾げていた。そんな2人を見て笑うと、何故ヤクモの事を知っているのか、ヨヨはその答え合わせをしてくれた。
「あなたのお父さんとは知り合いなの。息子であるあなたの事も時々聞いていたわ」
「え?そうなんですか?」
「は、初耳……」
まさかの答えを耳にし、一体どういう経緯があって知り合ったのかという興味が湧いてくる。とはいえ、今は自分の父親がどうやってましろの祖母と知り合ったのかというどうでもいいことよりも、プリキュアという存在について教えてもらうことの方が大事だ。席に通されたヤクモは、プリキュアの事について話し始めるソラとましろの話に耳を傾けることにするのだった。
★
「……と、いうわけなんです」
「なるほど……」
スカイランドという別の世界から来た、その世界のお姫様であるプリンセルエルを連れ去ったカバトン。それを追いかけてソラはこの世界に落ちてきてしまい、スカイランドに戻るためヨヨの元でこうして生活をしているのだそうだ。そんな生活の中でもエルを連れ去ろうとカバトンはランボーグと呼ばれる怪物を生み出し襲い掛かってくる。それに対抗するため、エルの手によってソラとましろはプリキュアへと変身する力を受け取った。そして今回、ヤクモもまたその力を受け取ったということになる。
「……プリキュアの力、か」
羽ペンへと戻ったミラージュペンと暗い紫色のスカイトーン。自分の胸から生まれ、そしてエルから受け取った自分のアイテムを見つめるヤクモ。あの時、自分で決断し、その結果変身したプリキュアは、思った以上に大変な役目であったようだ。しかし、
「わかった。こんな俺でも、できることがきっとあるんだと思う。だから最後まで付き合わせてもらっていいかな?」
「本当ですか!?」
「ありがとう!本当に助かるよ!」
当然協力しない理由もない。プリキュアとして協力する意思を見せると、2人ともぱあっと表情を明るくしてお互いに手を合わせて喜び合う。ここでミラージュペンとスカイトーンを置いて帰ることは確かにできるのかもしれないが、ここまで話を聞いてプリキュアをやめて日常に戻ることはヤクモにはできないことだった。
「ソラさん達が元の世界に帰れずに困ってるって聞いたら放ってはおけない。当然のことだよ」
「ありがとうございます!」
「それで……2人が帰れる目途は立っているんですか?」
「ええ、スカイランドに繋がるトンネルは順調よ」
ここで気になることをヨヨに聞いてみる。いかに戦う力があっても、根本的な解決にはならない。だが、ヨヨの返答を聞いてヤクモも安心して胸を撫で下ろす。と、ここでふと、自分の身に以前まで起こっていた異変のことを思い出す。
「ヤクモさん、まだ気になるところが?」
「あ……いや、そういえば・・・・・これが原因だったのかな」
「?どうしました?」
「いや……ここ最近、妙な胸騒ぎがあって……さっきもそうだったんだけど……」
「ヤクモさん!?やっぱりさっきの戦いのときに怪我を!」
「前からだから無関係だよ」
ソラの発言を訂正し、もう一度ミラージュペンを見るヤクモ。
「ミラージュペンが出てきてからそういうのがなくなったんだ。だからもしかしたら……」
「元々ミラージュペンが出ようとしていたってことかな……だからエルちゃんもすぐにスカイトーンを渡したのかな?でもそうだと凄いなぁ……私もソラちゃんとエルちゃんと出会ってからプリキュアになったのは少し経ってからだったし……」
「偶然でしょ……って、ん?」
ふと、ヤクモが時計を見ると、既に時間は夕刻を指していた。ヤクモの目線に釣られて2人も時計を見て今の時間を見ると、いつの間にか話し込んでいたことに気付く。とはいえ最初の方はほぼ2人が話していたようなものだったが。
「もうこんな時間なんだね……ヤクモ君とこうして話すの初めてだけど、すっごく楽しかったよ」
「私もです!男の子の友達と話すのも初めてで……本当に楽しかったです!」
「え?あ、うん……俺も、楽しかったよ、迷惑とかかけてなかったらいいんだけど……」
少し恥ずかしそうに言うヤクモ。楽しかったのは事実だが、実際問題相槌を打ったり言葉足らずだったり返答に詰まったりしていたことも時折あったため、その点は大丈夫だったのかどうかは気になっていた。しかし2人はそんなことはないといった様子だったため、ヤクモの心配は杞憂に終わったようだ。
「なら、よかったんだけど……それじゃ、俺、そろそろ帰るよ」
「それなら、家まで送ります!」
「いや手間でしょ」
「あはは……ヤクモ君結構ツッコミとか入れるときは結構鋭いところあるんだね……何となく感じてはいたけど」
ソラは大真面目に言っているだろうし、それはヤクモとましろも理解している。だが大真面目だからこそ、こうしてツッコミどころが発生してしまい、気付けばヤクモもついつい口にしてしまっていた。結構お似合いかもね、なんてましろが内心考えながら、玄関までは送るよと言い、皆で玄関まで向かう。子供たちが出ていき、エルと2人残ることとなったヨヨは、いつの間にやら眠ってしまっているエルを見ながら、呟くのだった。
「プリンセスは、やっぱりあの子も選んだのですね……」
★
「……」
帰宅し、迎えた夜。ベッドの上に寝転がりながら、ヤクモはミラージュペンを見ていた。これ自体は今はただのペンでしかない。プリキュアに変身するための道具ではあるが日常的にも使える道具というのも中々画期的なものだ。とはいえ、これを絶対になくすわけにはいかない、ソラやましろのように普段から身に着けておくべきだろうがどうやって携帯できるようにしようか、やっぱり首にかけて服の内側に入れておくのが安牌だろうなと考えていると、ドアがノックされる。
「ヤクモ、入るぞ」
「うん」
父親の声が聞こえると扉が開かれ、銀髪の男性が顔を覗かせてくる。こんな夜の時間に一体どうしたのだろうか。
「どうしたの父さん」
「お前、帰ってきてから妙に疲れてただろう。大丈夫か気になってな」
「ああ……色々あっただけだから。特に気にしなくていいよ」
何事もないように振る舞ってはいたがやはり両親には疲れは隠し通せなかったようだ。こればっかりは仕方なかったかと内心ぼやいていたが、父もヤクモの今の台詞にこれ以上追及することはなかった。
「そうか、まあ体に問題なきゃいいんだがな」
「体には気を付けるよ」
「おう、そうしとけ……ああ、それと」
「ん?」
言われるまでもなく、これからのプリキュアの戦いは間違いなく体が資本になるだろう。肝心なときに体調を崩して戦えません、では話にならないのだから当たり前のことである。まあ両親を心配させないようにそこも気を付けるべきかと考えていると、父から嬉しい言葉を投げかけられる。
「お前、結構いい顔してるぞ。良いことあっただろ」
「……かもね」
それを聞いたヤクモは、表情に笑みを浮かべながら答え、それを聞いた父も満足げな表情を見せる。
「ならいいんだ、んじゃ、早く寝ろよ」
「うん、お休み」
父親が部屋を出ていき、ヤクモも寝る準備を始めようとする。と、
「ってて……やっぱ突っ張るな。でも……」
戦いのせいだろうか、あの時は気にしていなかったがやはり体には負担がかかっているようだ。しかし、これも決して悪い気分ではないのだった。
「プリキュアになって、俺にできることがあるんだ、これから頑張らないと」