「……あーあ……どうしたものかね……」
屋上で深い溜息を吐き、寝床のように広げられた藁の上でゴロンと転がる男、カバトン。ほぼほぼまともな寝床でもない、そんな悲しい場所で眠ったはいいが、こうして昼時になってもなかなかやる気が出てこず、ぼーっと空を見上げていた。
「……」
カバトンの視界に大きな雲と空を飛ぶ鳥の姿が目に入る。それらを見ると、キュアクラウドとキュアウィングを思い出し無性にイライラしてしまう。
「くっそぉ……あいつらのせいで、後一歩だったものを……!」
腸が煮えくり返りそうなほどに怒りを覚えるカバトン。円盤型ランボーグを召喚したあの時の戦いでは間違いなく自分は任務達成に一番近づくことができていた。しかしクラウドがいつまで経っても倒れないせいでスカイとプリズムを倒し損ねた上、ウィングのせいでエルは奪われた挙句、ランボーグが負ける要因となってしまったのだ。
(カイゼリン様にももうすぐ持ち帰るなんて啖呵切っちまった所で取り逃したとあっちゃやばい……相当やばいのねん……!)
もっとやばいのは、エルを確保したためもうすぐエルを連れてアンダーグ帝国に戻るという報告をしたうえで取り逃したということ。今はまだカバトンが仕える存在からの干渉や接触はないが、はっきり言えば時間の問題でしかないだろう。そうなればどのような裁きを受けるか。
「……こうなりゃ、プリンセスは一旦置いといて、まず戦果を挙げるしかないのねん!」
エルを連れていくことが任務であるのだが、このままでは自分の身すら危うい。当然任務達成が最優先であり、それが成立するのならばそれに越したことはないのだが、そもそもカバトンはエルの居場所を知らない。そういう意味でもエルの姿を確認できたあの円盤型ランボーグの一戦はカバトンにとって最高のシチュエーションだったのだ。
「ランボーグを呼べばプリキュアは来る……まずは1人でもプリキュアを倒して手柄を立てるのねん!」
やることを決め、ヨシと頷き体を起こすカバトン。そして屋上から身を乗り出して地上を見ると、ある興味深い組み合わせを見つけることとなる。
「あいつらは……?」
そこにいたのは、本屋からちょうど出てきていたヤクモとツバサの姿だった。キュアクラウドとキュアウィングが2人だけ。周りを見てもソラやましろの姿が見えないのを見て、カバトンは考える。
「……いけるのねん」
ランボーグを浄化される最大の要因は、スカイとプリズムが使用するアップ・ドラフト・シャイニングである。攻撃技そのものはスカイ、プリズム、ウィングにもあるが、今の自分が召喚するランボーグであれば基本的に単体技で浄化される可能性は全くない。そして、ここで残すととにかく面倒なクラウドを倒すことができれば、その後の戦闘でも有利に立ち回ることが可能となる。
「お前たちはここで終わりなのねん!!」
そうと決まれば早速行動開始だと言わんばかりに屋上から飛び降り、ヤクモとツバサの前へと降り立つカバトン。
「お前は!?」
「カバトン!」
「まさかこんなチャンスが来るなんてなぁ……俺様にもまだまだ運はあるのねん!」
にやりと笑い、カバトンの手にアンダーグエナジーが溜まっていく。そのアンダーグエナジーの行き先としてカバトンが選んだのは、店頭に置いてあった分厚い本。
「カモン!アンダーグエナジー!!」
アンダーグエナジーが注がれ、巨大な本に手足が生えたかのようなランボーグが生まれる。
「ソラさんとましろさんがいないときを狙ってくるなんて……」
「それでも迎え撃つしかないな」
「ええ、いきますよ!」
女性陣がいないのは戦力的に痛手だが、それでも逃げる理由にはならない。2人で顔を見合わせ頷き合うと、ミラージュペンを取り出し、変身する。
「夜空に漂いひろがる雲!キュアクラウド!!」
「天高くひろがる勇気!キュアウィング!!」
2人がプリキュアに変身するのと同時に、襲い掛かってきたランボーグの攻撃を回避する。そのまま空から周囲を飛び回り、ランボーグを攪乱していくウィング。クラウドもまたランボーグの周囲を走り回り、ランボーグの方から動くのを待つ。
(皆を呼べたら早いんだが……仕方ないな)
ましろとSNSは交換しているため、連絡自体は可能なのだが、いきなり戦闘が開始してしまった今、離脱する余裕はない。交換して初めてやられたのがソラの制服写真を送られるという謎の行動だったのは今となってはいい思い出である。
「ランボーグ!」
ランボーグが地上にいるクラウドにターゲットを絞り、連続攻撃を仕掛けてくる。それらを受け止め、回避しながらクラウドはウィングがランボーグの視界に入らないように向きを調整するように立ち回っていく。
「たぁ!」
チャンスとばかりに背中に鋭い蹴りを放つウィング。鈍い音が響き、ランボーグが前のめりに倒れこむ。しかしあまりダメージにはならないようで、すぐにむくりと起き上がってくる。
「だったら!」
速度を活かし、縦横無尽に飛び回るウィング。振り回してくる腕を回避しながら腹部を殴りつけたかと思うと背後に回って回し蹴り。またランボーグが振り向こうとしたときには頭上に移動しており、踵落としをランボーグへと叩き込む。
「ランボッ!?」
「はっ!」
間髪入れずにクラウドも回し蹴りを放つ。踵落としの衝撃で脚から力が抜けてしまったのか、ランボーグの体は簡単に飛んでいき、壁へと叩きつけられる。
「どうだ!」
連携攻撃が決まり、ウィングの威勢のいい声が響く。しかしカバトンはこの程度でランボーグが倒れないことはわかっているのか、余裕そうだ。
「ふん、この程度じゃあランボーグは倒せないのねん」
「く……」
カバトンの言う通り、全然攻撃が効いてない様子のランボーグ。それを見て、歯がゆさを感じてしまうウィング。実際、こちらの攻撃は命中こそしているものの全然堪えている様子は見えない。自分がプリキュアになってからの戦いではいつも他の皆がいた。そのため全く気にしてなかったが、スカイやプリズムがいないとこうも火力に難が出てきてしまうとは。
「どうする……?」
自分には速度がある。クラウドにも耐久力がある。戦いを優位に進めるのになくてはならない長所なのは間違いない。しかし大前提として攻撃力がなさすぎる。ならばどうするか。
「……だったら、倒れるまで攻撃するしかない!」
簡単だ。攻撃を喰らっても回復できるわけではないのだから、その分連続攻撃を叩き込んでやればいい。それで体力を削りきってやれば、2人がいない状態でも浄化ができるはずだ。
「クラウド!この程度の相手なら問題ありません!」
「ああ、確実に追い込んでいこう」
それに戦闘が長引けば2人が気付いて加勢してくれる可能性もある。時間をかければかけるほど、不利になるのはカバトンの方なのだ。ランボーグが倒されることはないと高を括っていられるのも今のうちだと、ウィングが果敢に攻め込んでいく。
「ひろがるウィングアタック!!」
高速で突進し、ランボーグに強烈な一撃を打ち込む。先ほどよりも大きく吹き飛び、地面を転がっていくランボーグ。当然それだけでは戦闘不能にはまだまだ遠いが、一回で駄目ならば何度でも打ち込めばいい。
「ランボーグ!」
「はぁ!」
しかし、2回目にはランボーグの方も対応してきたのか、ウィングの軌道を見切るように拳を突き出そうとしてくる。だが、その死角に潜り込んでいたクラウドが腕を下から蹴り上げて軌道をずらし、そのままウィングの攻撃がクリーンヒットする。
「ランボォグ!?」
さすがにこれはきついのか悲鳴を上げるランボーグ。これならばいけると、ランボーグの腹に向かい、三度ウィングアタックを放つウィング。とその瞬間。
「今だ!」
「「!」」
カバトンがランボーグに指示を出す。まさかまたカウンターを仕掛けようというのか。しかしもうウィングが止まることはできない、それならば一気に突き抜けるまでだと拳に力を込める。だがランボーグが行った行動は2人の予想を上回るものであった。
「ランボーグ!」
突然本の体を開くランボーグ。その中は何故か空洞になっており、そこにウィングが飛び込んでしまう。
「しまっ……」
ウィングが中に入った瞬間、体を再び閉じるランボーグ。内部はかなり強固にできており、ウィングアタックの直撃を受けたはずだがランボーグは全くダメージを受けていない。外部からは通るようだが内部から外部には攻撃を通さない性質を持っているらしい。
「ウィング!?」
「ど、どうなってるんだ!?くそ、出せ!!」
突然閉じ込められたウィング。どんな目に遭うかわからず、壁を手あたり次第に殴ったり蹴ったりするが全く効果が出ない。
「迂闊だった……くそ……!」
悔しそうに歯ぎしりをする。相手の行動にもう少し早く気づけたら、こんなことにはならなかったずだ。この状態では、クラウドはもちろん、ここにスカイとプリズムが駆け付けても自分が人質となってまともに攻撃することもままならなくなってしまう。加えて相手は本型のランボーグ。一度閉じられた本を開くのは容易なことではないだろう。
「ウィング……どうにかして助けないと……」
「できるかな?さぁやっちまえランボーグ!」
以前、自分もランボーグに丸呑みされたことがあるが、あの時は運よくランボーグに穴を空けることができたため脱出することができた。今回もどうにかして外部と繋がる隙間を作れば脱出ができるかもしれないが、問題はそのための攻撃力がクラウドにはないということ。
「ランボーグ!」
ランボーグが突進し、クラウドに殴りかかる。とにかく時間を稼いで打開策を見つけるしかないと、うまく腕を回避して掴み、そのまま一本背負い投げの要領でランボーグを投げ飛ばし、地面に叩きつける。が、
「うあっ!?」
「なっ!?」
本の中から聞こえてきたのはウィングの悲鳴。その悲鳴にクラウドの動きが一瞬止まり、投げ飛ばされた状態のランボーグがそのまま拳を突き出してクラウドを吹き飛ばす。
「今の声……まさか!?」
その衝撃に耐え、足裏が地面と擦れる音を鳴らしながら後ずさったクラウドは驚いたようにランボーグを見る。ランボーグが派手に動けば動くほど、内部にいるウィングはめちゃくちゃに振り回されてしまう。ここまでは自分の時と一緒だが、あの時と違うのは、ウィングが個室のようになっている空間に捕らえられている点。ランボーグ自身の柔らかい体が一種のクッションになっていた自分とは異なり、ウィングは壁や天井にぶつかる度にダメージを受けてしまう。
「もっとだ!もっと滅多打ちにしちまえ!」
「ランボーグ!!」
ランボーグが再びこちらに向かって殴ってくる。あくまでウィングは捕らえただけで戦いを優位にする要素として捉えてはいるようだが、痛めつけて時間をわざとらしくかけるようなことをするつもりもないということか。クラウドの前に立ったランボーグは連撃を叩き込み始める。
「っ……!」
歯を食いしばり、それを耐えていくクラウド。回避などの行動をとってランボーグの体を動かすことができなくなったクラウドはそのまま攻撃を受け続けるしかなくなり、怒涛の連続攻撃を叩き込んだランボーグが遂にクラウドの防御姿勢を崩した瞬間に強烈な回し蹴りを叩き込み、クラウドを店へと叩き込む。
「ぐあっ!!」
「いいぞランボーグ!クラウドのタフさもさすがにここまでなのねん!」
ランボーグが出現したことで人々はとっくに避難しており、無人になっていたことが不幸中の幸いか。ぶつかった衝撃で破壊された棚の中、倒れていたクラウドが体を起こすと、右手の指先に金属が触れる。
「……」
戦闘中に気にする必要がないはずだが、無意識のうちにそれが気になったのかつい視線を向けてしまう。そこにはこの店で売っている品物と思われる一般的な文房具のカッターナイフが転がっていた。だが、こんな小さなナイフではランボーグを切り裂くことはできないだろう。藁にも縋る思いになり始めていることにクラウドが気付いたその時、
「ランッボーグ!!」
眼前に迫ったランボーグがクラウドに追い打ちをかけるように押しつぶしてくる。
「がっ!」
質量を活かした攻撃にクラウドも苦悶の声が漏れる。そのまま、足で潰されたクラウドはどうにかランボーグを払いのけようと試みるも、ランボーグはクラウドを逃がさないと言わんばかりに踏みつける力をどんどん強めていく。
(このままじゃ身動きが……!)
ミシミシと嫌な音を鳴らしながら僅かに、だがほんの少しずつ沈み始めていくランボーグの足。この足が限界まで沈む前にどうすれば打開できるのか。
「……!」
ふと、クラウドの脳裏を過ったのは、あの不可思議な感覚。あの時、自分がランボーグの体内から攻撃し、脱出の起点となった謎の現象。攻撃力のない自分がこの状況を解決するにはあれしかない。圧し潰される痛みを耐えながら、クラウドは目を閉じては意識を集中させていく。
(あの時の力を……)
その時の感覚を思い出していく。体の内側に眠る生命力のような力がそれを待ち望んでいたように蠢き始める。この力が今を打開し、ウィングを助けることに繋がるなら。目を見開いたクラウドは、
「来い!!」
掛け声と共にその力を解き放つ。瞬間、クラウドの右手から黒いエネルギーが脈動し、あふれ出す。
「ランボーグ!?」
「何!?どうなってるのねん!?」
その異変は、駐車場から店の中に飛び込んだランボーグを見守っていたカバトンにも目撃できた。ランボーグの足元から突然あふれ出す漆黒のエネルギー。と、次の瞬間。何かがランボーグを一閃し、ランボーグの体が店の外まで吹き飛ばされる。
「ランボーグ!?なんでランボーグの足元からあれが……」
「う、ぐ……!」
ランボーグを覗き込んだカバトンは驚きに目を見開く。なぜならそのランボーグの体には深い切込みが入っており、表紙と中のページがごっそり切り落とされているかのような状態になっていたからだ。そしてその中には入っているはずのウィングがいない。カバトンが店の前に目を向けると、そこにはウィングが放り出されていた。
「はぁ、はぁ……なんとか出れた……!」
痛みに顔を顰めながらもウィングが立ち上がりランボーグを見る。と、そのボロボロの体を初めて視認し、ウィングも驚きを露わとする。これだけの切れ味をクラウドが出したというのかと顔を背後に向けると、そこにはクラウドの姿があった。だが、その姿にはウィングの知っているものと異なる点がある。
「……クラウド?」
顔は下に向けられたまま。振り上げられた右腕は、異質なものへと変わっていた。籠手のようにも見える防具が腕から手まで装着されており、その先端からは鋭いカッターナイフのような刃が伸びていた。そして何より異質なのは、その籠手の甲は盛り上がっており、目のような装飾が存在しているということ。そしてその籠手全体から、黒いエナジーが漏れているということだ。
「それは……」
「う、嘘だろ……なんであんなやつが、しかもプリキュアが、アンダーグエナジーを……!?」
「え!?」
そのエナジーを見て、カバトンが驚愕して漏らした言葉にウィングはさらなる驚きを得る。カバトンが嘘を言っているのかと思ったが、あの反応は間違いなく素だろう。そして、アンダーグエナジーを操る本人がそれを言っているのだ、ヤクモの右腕に起こっている異変は間違いなくアンダーグエナジーによるものなのだろう。
「……」
ふらりとよろめきながらクラウドが顔を上げる。その頭髪が一瞬だけ赤く染まったかのような錯覚を覚えるウィング。クラウドは自分の右手を見て、その異常さに気付き目を見開く。
「なんだ、これ……こんなのが、俺の力なのか……?」
「くそっ!認めねぇ、認めねぇ!プリキュアなんかがアンダーグエナジーを使うだと!?アンダーグ帝国の奴でもねえ奴が!?ランボーグ!!」
「ランボーグ!!」
解放されたウィングなど眼中にもないと言わんばかりにランボーグがクラウドへと襲い掛かる。クラウドがそれに気づき対応しようとするも、力が抜けたかのように膝をついてしまう。
「ぐっ……力が……!?」
「クラウド!!」
クラウドを助けようとウィングが飛び出そうとする。だが間に合わない。アンダーグエナジーを行使した影響なのか、強く疲弊しているクラウドを今度こそ仕留めようとランボーグが拳を振り上げる。その瞬間、
「ランボォグ!?」
いきなりクラウドの右腕がひとりでに動き、ランボーグを切り裂いた。自分の意思と関係なく勝手に動いた右腕に、呆然となるクラウド。しかし、これで気付く。自分の右腕に付けられたこのアイテムは、意思がある。カバトンが言っていたアンダーグエナジーであることを加味するとこれは、
(まさか、ランボーグ……?)
クラウドがそう思った瞬間。甲に付けられた目が同意するように光る。
「ラ、ラン……」
「な、なな、な……」
「!ランボーグが……ウィング!とどめを!」
「!は、はい!!ひろがるウィングアタック!!」
ランボーグのうめき声と共にクラウドの意識が引き戻される。先ほど切り裂いたランボーグを見ると、ランボーグはボロボロになった状態で立ち上がることもできないでいた。浄化するなら今しかない。クラウドの言葉を受け、ウィングの必殺の一撃によってランボーグが浄化されていく。
「スミキッター……」
「くそったれ!カバトントン!」
こんなの予想外だと吐き捨てて消えていくカバトン。周囲の景色が元に修復されていく中、クラウドの右腕が役目を終えたように消滅し、一本のカッターナイフが床を転がる。漂うアンダーグエナジーがクラウドの体の中へと吸い込まれていき、途端に自分の身を襲っていた疲労などもある程度緩和されたように感じるクラウド。しっかりと立ち上がるだけの回復をしたクラウドに、心配そうにウィングが近づいてくる。
「……クラウド、その……」
どう声をかけようかと迷っているのだろう。困り顔のウィングにクラウドは周囲を軽く見まわすと、
「……とりあえず、場所変えようか」
「……はい」
ウィングと共にその場を離れるのだった。
★
夕日に照らされる人のいない公園。ベンチに座り、ジュースを飲みながらヤクモは休んでいた。その隣ではヤクモに奢ってもらったジュースを開けず、その手に持ったままツバサが座っていた。
「……ごめんなさい」
「ん?」
突然謝るツバサ。ツバサが一体何をしたというのかと首を傾げるヤクモ。
「なんて声をかければいいのか……わからないんです。当然、わかってます。ヤクモさんが、カバトンなんかとは違うってことも……だけど……ヤクモさんは、平気なんですか?カバトンと同じ力があるって……それに、体の方は」
「……体のほうなら大丈夫。感覚的な問題って言えばそれまでだけど……俺の体は問題ないと思う。それでカバトンと同じ力があるってことだけど……正直なこと言うなら、俺もわからない」
ツバサの言葉にそう返すヤクモ。プリキュアでありながら、敵と同じ力を持つということ。それがどういう意味なのかは全くわからないし、これからどう付き合えばいいのかどうかも見当もつかない。ただ一つだけ言えることがあるとすれば、アンダーグエナジーを持っているから、同じアンダーグエナジーを感じ取れたということなのだろう。
「……そうだ、ヨヨさんに聞いてみたら……!それに、他の皆にも相談を……」
「……もしかしたらそうしたほうがいいかもしれない。けど……」
ツバサはヤクモに提案する。ヨヨなら知っているかもしれないと。それに、こうして2人だけで考えても答えはいつ出るかわからない。それなら他の皆にも相談した方がいいのかもしれない。ソラとましろだってきっと親身になってくれるはずだ。
「……俺もどうしたらいいのかわからないんだ。話すとしてもどう話せばいいのかわからないし、俺自身こういう力があるってわかってどう受け止めればいいのか、どう付き合っていけばいいのか、何もわからないんだ」
「……」
ヤクモの言葉に黙り込むツバサ。当事者であるヤクモの言うことは尤もだ。そしてそれについて選択するのは自分ではなくヤクモの意思だ。ではどのような選択を取るのか。
「……少し、考えたいんだ。自分でまずは考えて受け入れたい。だから……それまでは言わないでほしい」
「……わかりました」
問題を一人で抱え込むことは確かに問題だろう。そしてこれは、問題の先送りのようにも見えるかもしれないが、個人の心の問題とかだけでは済まない案件だ。もしこのことを喋ったらどう転ぶかはヤクモにもツバサにもわからない。ただ、現状はヤクモの体に悪影響が出ているというわけではない。ヤクモが納得できるならそれで済む話。無理なら他の人を頼ればいいということだ。ならばヤクモの思う通りにひとまずはした方がいいかもしれない。ツバサはそう考える。
「ごめんね、せっかく楽しかったところなのに」
「いえ……僕の方こそ力になれなくて」
「そんなことはないよ……さてと、暗い気分はここまでにして、なんか食べに行こうか」
「食べにって……この状況でですか?」
話を切り替えたヤクモに、ツバサも従うことにする。とにかく気分を変えたいのはツバサも同じだったからだ。心の奥に新たに生まれてしまった悩みを抱えながら、2人は夕暮れの町へと繰り出すのだった。