クラウドを連れ去られ、残された3人のプリキュア。どうすればランボーグの接着剤を解けるのか。そう考えた時にあることを思いついたウィングの体がぼふん、と煙に包まれる。変身を解き、さらにプニバードの姿に戻ったツバサが再び人間に戻ると、プリキュアのコスチュームと共にランボーグの接着剤が消えてなくなっていた。
「……ふぅ、どうやら外れたみたいだ」
「そっか、変身を解けば……」
変身を解くと元の姿に戻る。その時、プリキュアの時に受けていたコスチュームの損傷はもちろん、生身の体に付けられた外傷などもある程度なら元に戻る。疲労やダメージなどは基本的にそのままだし、傷も深ければある程度残ってしまうという欠点もあるし、何より戦闘の最中に変身を解除してしまうという行為はあまりにも危険なものであるが、そのランボーグが消えたこの状況であればその手法を使うことができる。既に地面は固まっており、変身を解除しても新たに固められることはない。
「……でも、カバトンはどこに……」
「ヤクモさんみたいにアンダーグエナジーの場所が分かるなら……」
変身を解き、集まる3人。カバトンやランボーグの場所はどこかを考えるも、当然答えは出ない。それが可能な能力を持っていたのがヤクモだけだったということもあり、このままでは完全に打つ手なしだ。と、
「皆、大丈夫!?」
「!あげはちゃん!」
そこに息を切らしてきたあげはが駆け付ける。戦闘のことを知り、急いできたのだろう。あげはは変身を解いている3人を見て戦闘が終わったと思ったのか一瞬顔を明るくするも、すぐに戦闘の痕跡が消えてないことに気付き、それを訝しむ。
「これって……まだ戦いが終わってない感じ?」
「うん……ランボーグとカバトンにヤクモ君が攫われちゃったんだ」
「すぐに探さないといけないんです!そうしないと、ヤクモさんがどんな目に遭ってしまうか……!」
不安な表情であげはに掴みかかる勢いで声を上げるソラ。それだけ不安なのだろう。ソラを落ち着かせるようにあげはは頭を撫でてあげながら、ましろを見る。
「ヨヨさんなら居場所がわからないかな……」
「どうだろう……」
「さすがに見当もつかない状態じゃ……」
「……はっ!?」
あげはに撫でられ、弱気そうな表情のままだが少しは落ち着いたのだろう。ソラが顔を上げようとすると、さらなる気配を感じ、顔を上げる。そこには漆黒のロングコートのようなものに全身を包んだ謎の人物が立っていた。
「……何者ですか」
「いつの間に……」
3人も遅れてソラの見ている視線の先を見上げる。そこに立っていた人物は帽子と一つになった仮面のようなものをかぶっており、顔は確認できないが、その体格などから察するに男だろうか。4人が警戒し、3人があげはを庇うように前に出るように移動すると、男が地面へと降り立つ。
「……あれって」
その時、4人は気付く。仮面にはランボーグの目と思われるものが描かれていることを。帽子やロングコートなどと一体となっているのを見るに、それ自体がランボーグなのだろう。まさかカバトンが召喚していた新たなランボーグか。3人がミラージュペンを構えると、それを制するように男が手を出す。
「安心するがいい。お前たちと戦うつもりはない」
威厳を感じさせる男性の声。仮面越しだからか、それともランボーグの能力の1つでもあるのか。本来の声であるかのようには聞こえない声に、戦う意思はないと告げられても4人の警戒心は崩れない。
「……戦う意思がないというのなら、何のために来たのですか」
「お前はカバトンの仲間なのか!?」
「残念ながらそれは違う。だが、プリキュアの味方というわけでもない」
どこまで言葉を信じていいかはわからない。だが、カバトンの仲間でもなく、かといって自分たちの味方というわけでもないと男は言った。
「あの山へ向かうがいい」
「山?」
そう言い、男が山を指差す。そこに一体何があるというのかとましろが首を傾げる。
「そんな暇はない!僕たちは仲間を……」
「そのクラウドがあの山にいると言っている」
「「「「え!?」」」」
4人が驚く。確かにこの男はランボーグを従えている。だからアンダーグエナジーを感知できることは決して不思議ではない。しかし、自分たちの味方でないというのなら何故ヤクモに繋がる情報を教えてくれるのか。
「……それを伝えてあなたに何の得があるんですか」
相手の真意を理解しかねる4人。これが本当にヤクモに繋がる情報ならば、確かにありがたいことだ。だが、この状況では罠であると考えてしまうのも当然のこと。ツバサの疑問を聞いた男は3人に背を向けると、
「それを決めるのはお前たちだ。だが、どんなに悩んだとしても、時間は残されていない。そして俺に構っている暇も。それだけは確かだろう」
「「「「……」」」」
男の言葉に、4人は黙ってしまう。確かに時間がないことだけは事実だからだ。4人の目の前でカバトンのように黒い靄に包まれて消えていく男。やはりアンダーグエナジーを扱っていることから、カバトンの関係者であることは間違いないだろうという思いが4人の中で渦巻くが、男の言う通り、そんなことを追及するよりも先にヤクモを助けに行く方が先だ。ましろはスマホでヨヨに連絡を取り始める。
「……あ、もしもしおばあちゃん?私だけど、ちょっとミラーパッドで調べてほしいことが……え!?あ、ほ、本当に!?あ、ありがとうわかったよ!うん!」
ヨヨと話すましろだったが、突然驚いた反応を見せる。そしてそれから少し会話をしてスマホを切ると、ヨヨから聞いた情報を皆に伝える。
「皆、あの山の方にヤクモ君とカバトンがいるって!」
「本当ですか!?」
「今すぐ助けに行きましょう!」
嬉しそうにソラが反応する。ツバサもヤクモの居場所がわかったことに安堵しているようで、カバトンが再び戦闘の準備を整える前に救出に行くことを推奨する。そのことに異論はないとましろも頷くと、3人は再度プリキュアへと変身して強化された身体能力を活かして山へと全力で移動する。
「皆、頑張ってね……!」
その後ろ姿を見送り、あげはも遅れて山へ向かおうと車に乗り込む。だが、あげはの脳裏にはある疑問が浮かんでいた。
「……どうして、ヤクモ君の居場所をヨヨさんは知ってたんだろう……」
そこまで考えて、ヨヨがミラーパッドで戦いを見ていた可能性に気付く。そこであの男の話を聞いて前もって調べてくれたと考えれば、ましろが電話した時に即座に連絡することができてもおかしいことではない。ヨヨのサポートに感謝しながら、あげはは車を走らせるのだった。
★
「ラン、ボーグゥ!」
頭部の蓋を開いたランボーグが補充された接着剤を山の中に連れてこられたクラウドに次から次へと浴びせていく。殴ったり蹴ったりしての攻撃ではないのは、下手に攻撃を行って接着剤が剥がれることでクラウドに行動の自由を与えないためだろう。そしてもう1つ。以前クラウドがウィングと2人だけで戦った際にランボーグの重量を活かした攻撃が効果を見せていたことから、このまま重量でクラウドを仕留めるつもりなのだろう。
「へっ、ここはまずばれねぇ、なんたって広いからなぁ……そら、もっと固めてやれ!」
再びランボーグの接着剤がクラウドにかかる。先ほどは不意を打って呼吸が困難になってしまったが、来るとわかっていれば固まる一瞬前に勢いよく鼻息を出して鼻の穴だけは塞がらないようにし、呼吸を確保することはできる。しかしクラウドにできるのはこれだけ。それ以外の体は完全に動かず、積もっていく接着剤の重みは段々洒落にならないものとなっていく。
「……ぐっ!?」
重量バランスが崩れたのか倒れるクラウド。その姿を見て、一瞬やったかとカバトンが期待を込めるも、まだまだ意識は明確に残っている様子を見て少しだけ落胆する。
「ったく、確かにあのお方が直々に言うのも納得なのねん……キュアクラウド、こいつだけは他のプリキュアよりも優先して一番酷く潰せってのは」
カバトンが自分の上司にあたるであろう女性から受け取った指示は、プリキュアを叩き潰すこと。特にクラウドは二度とプリキュアになれないようにという内容。そしてカバトンはその指示を、クラウドだけは他の奴よりも特に念入りに叩き潰し、永遠にプリキュアに変身できないようにしろと解釈していた。
「ま……アンダーグエナジーを何故か使えるってことは言ってみれば俺達の裏切り者ってこと……こいつだけは絶対にってのも当然のことなのねん」
うんうんと頷きながら、再度ランボーグに攻撃を指示する。何度も固められた体には回数を繰り返せば繰り返すほど多くの接着剤がくっついていき、重みも増していく。その重量に耐えながらも、クラウドは絶望するのではなく、この場を打開するためにもカバトンの発言を心の中で復唱していた。
(アンダーグエナジー……そうだ、確かに俺の中にもその力がある……)
それしか手がないのならば、アンダーグエナジーを使うしかない。今のクラウドならば迷いなくそれを行使することはできるだろう。しかし、致命的な事実が1つある。クラウドはアンダーグエナジーの使い方が分からないのだ。
(前回は……確か)
以前この力を使えたのは自分が追い込まれていたからだ。その時に無意識のうちに発動し、ランボーグまで作り出した。つまり、本人の意思でそれを使ったというわけではない。その時の感覚を思い出し、何となくで使うしかない。だが、そのアンダーグエナジーの使用にはまだ問題が残っている。
(それに……どうやって作るんだ?この状態で……)
アンダーグエナジーを使用したところでできるのはランボーグを生み出すことだろう。だが、両手が塞がっているこの状態ではアンダーグエナジーを手から出すことはもちろんできないし、体も動かせない状態ではランボーグの素材を探すことも不可能。となると、仮にこの状況でアンダーグエナジーが使えたところで状況は好転することはない。
「……ぐ」
みし、みしと遂に嫌な音がし始める。呼吸も徐々に困難になっていき、それがキュアクラウドかどうかと問われたら事情を知らなければまずたどり着けないであろう程に、透明を超えて真っ白になった接着剤の塊ができ始めていた。
「よぉし!いいぞランボーグ!もうちょっとなのねん!」
「ランボーグ!!」
終わりが見えてきたことを喜び合うカバトンとランボーグ。これをぬか喜びにしないためにも、より一層クラウドの固形化に気合を入れるランボーグ。が、その終わりに辿り着く前に、カバトン達にとっては好ましくない方向へと状況が変化する。
「それ以上クラウドを攻撃するな!!」
「何!?」
空から現れたウィングがランボーグを攻撃して吹き飛ばす。遅れてスカイとプリズムが現れる。
「お前ら!?ど、どうやってここが!?」
「答える必要はありません!!クラウドを返してもらいます!プリズム!」
「うん!」
プリズムが光弾を接着剤の塊へと次々放ち、爆発によってどんどん剥がしていく。そしてランボーグの前に立ちはだかるスカイとウィング。先ほどは不覚を取ったが、今度はそうはいかない。種が割れた以上、先ほどの不覚を取ることもない。カバトンは冷や汗を流し悔しそうにプリキュア達を睨みつける。
「くそ、後少しだってのに!!だがまだだ、ランボーグ!こっちは当てりゃ勝てるんだ!!」
「ランボーグ!」
とはいえ、それがプリキュア達にとってまだ必殺の攻撃であるのも事実。優位性はこちらにあると宣言し、ランボーグに攻撃指示を下す。ランボーグは接着剤を放出する遠距離攻撃を織り交ぜながらスカイとウィングに肉弾戦を仕掛けていく。
「無駄だ!」
「当たれば厄介ですが、もう通用しません!」
接着剤に関しては確実に回避し、接近戦に関しては可能なら回避、無理なら受け流すように対応し、生まれた隙にパンチやキックを入れるスカイ。ウィングは可能な限り接着剤の的になるように動いてランボーグを攪乱し、スカイが戦いやすいように動く。そしてクラウドを包む接着剤の塊を解体していたプリズムは、クラウドの姿が見えるところまで破壊を進めめていた。
「やった!」
(プリズム……皆)
そこでクラウドも皆が自分を助けに来てくれたことを知る。そのことに安心しながらも、すぐに動けるようにしてほしいとプリズムに目で合図を送る。プリズムはその意味を理解して一瞬だけ躊躇したものの、戦いを続けるスカイとウィングを見て、覚悟を決めたかのように先ほどより大きめの光弾を作りだすと、それをクラウドへと投げつける。
「うわ!」
「!大丈夫!?」
クラウドの全身を爆発が覆い、その下から多少コスチュームを焦がしながらも完全に接着剤から解放されたクラウドが倒れた状態で現れる。最後は威力を上げたことでかなりの荒療治になってしまったため、ダメージがあるかどうか気になったプリズムがクラウドに近づく。問題はないと返事を返しながら体を起こしたクラウドの目の前に、いつの間に落ちたのだろうか、ヤクモが普段から身に着けていた傘のマークが入ったキーホルダーがあった。
「……」
その時、初めてクラウドは気付く。そのキーホルダーが僅かだがアンダーグエナジーを帯びていることを。そしてクラウドがそれを手にした瞬間、脳裏に一本の道具の姿が浮かび上がる。
「クラウド……?」
「あの野郎!くそ、ランボーグ!!奴らに全部ぶちまけちまえ!!」
「ランボーグ!」
「「しまった!?」」
ここでクラウドが完全に解放されたこと気付いたカバトンが、接着剤を無効化できるプリズムごと無力化するため、ランボーグに再度の指示を出す。それを受けたランボーグが補充された全ての接着剤をプリズムとクラウドへと放つ。完全に不意を打っての一撃にスカイとウィングも対応できず、攻撃されたことに遅れて気付いたプリズムがプリズムショットを撃とうとするも、もはや間に合わず。
「!?」
瞬時にプリズムの前に立ったクラウド。当たったと確信し、ほくそ笑むカバトンの目の前で、クラウドは脳裏に浮かんだそのヴィジョンを現実のものとするかのようにキーホルダーを強く握りしめる。浮かび上がったのは姿形だけではない。新たなる力の名、それは、
「……アンブレランス!」
クラウドの目の前に盾が広げられた。それは接着剤を全てはじき返し、クラウドとプリズムを守る。
「な、なにぃ!?」
激しく動揺するカバトン。クラウドの手に握られたのは、一見すると黒を基調としたカラーリングの広げられた傘のようにも見える。しかし、その防御力はランボーグの攻撃を受け止めてみせたことからわかる通り、ただの傘というわけではない。強力な防御力を秘めた新たな武器、それがこのアンブレランスだった。
「……凄い」
軽く傘を回して雨のように接着剤を完全に払ってみせるクラウド。回避されるならまだわかる。しかし、これなら確実に勝てると踏んで選んだ素体なのだ。それをこんなインチキめいた方法であっけなく攻略されることなど、あってはならない。あってはならないのだとカバトンが怒りの声を上げる。
「ふざけてんじゃねぇえええ!!くそ、よくもよくも……!ランボーグ!!」
「ランボーグ!!」
ランボーグが横になり、寸胴のドラム缶ボディを利用した転がり攻撃をクラウドへと放つ。
「クラウド!」
「いや、これで終わりにしよう、スカイ、プリズム」
アンブレランスを閉じるクラウド。そのまま先端をプリキュアの腕力を活かして斜めに強く地面に突き刺すと、そのままの角度がぶれないように足を根本に差し込む。その傘に命中したランボーグは、その角度に乗って空へと打ち上げられてしまう。
「ランボーグ!?」
「なぁ!?」
「今です!」
「うん!今度こそ決めるよ!」
プリズムと傍に立ったスカイが今度こそ、スカイトーンを取り出す。その目標は大空を舞うランボーグ。
「「プリキュア!アップ・ドラフト・シャイニング!!」」
「スミキッター……」
奇策で一時はプリキュア達を完封しかけてみせたランボーグ。しかし、その雄姿も遂にプリキュア達の手によって浄化されてしまう。それを見たカバトンが悔しさと絶望が入り混じった表情で拳を地面に叩きつける。
「くそぉおおお!!」
それだけカバトンにとって大きな作戦だったのだろう。それを失敗したということはどうなることか。今度こそ自分は終わりなのではないだろうか。だが失敗してしまった以上は全力で許しを請わなければならない。胃がキリキリと悲鳴を上げる音を聞きながら、自分を見る4人のプリキュアにカバトンは吐き捨てる。
「くそ、くそ!次があったら覚えてやがれ!!カバトントン!!」
そして消えていくカバトン。完全に戦いが終わったのを確認し、4人は安堵したようにほっと溜息を吐く。と、そこに、
「皆!」
「あ、あげはちゃん!」
あげはが走ってくる。あげははクラウドの姿を見つけ、無事であることを嬉しそうに喜んでいたが、その視線がクラウドが手に持っていた傘に向けられる。
「……あれ?それは……」
「……あ、そうです……クラウド、その傘は一体……」
「あ、ああ……急に使えるようになったんだけど……あ」
変身を解くヤクモ。変身を解いてもアンブレランスはそのままだったが、それが元のキーホルダーへと変わってしまった。
「こいつが変わったみたいだ」
「それって……」
同じく変身を解いたツバサが心当たりがあるかのような声を漏らす。おそらくはこれがアンダーグエナジーで槍になったと思っているのだろう。しかしそれとは別であるとヤクモが首を横に振ると、
「よくわからないけど、こいつのおかげで助かったんだ。きっとこの後も役に立つと思うよ」
そう言いながら、キーホルダーをミラージュペンと共に首にかけ直す。と、そんなヤクモに近づくと、ソラが顔や腕などを確認してくる。
「そ、ソラさん?」
「何か、怪我とかしませんでした?他にも痛いところとか……」
「大丈夫だって……ほら、服も元通りだし」
「そうですけど……」
「ソラちゃん、すっごく心配してたんだよ?もしヤクモ君が倒されてたらどうしようって」
ソラの気持ちを代弁するましろ。それについてはある程度不可抗力とはいえ申し訳なく思いつつも、あのままだったら倒されていても本当におかしくなかった。ヤクモが耐久力に優れたプリキュアだったからこそ、物理的な攻撃の連打よりも搦め手による堅実な一手を強いらせることができたからこそ他の3人が間に合ったのだ。幸運が重なった結果といえるだろう。
「それなら皆が来てくれたおかげでたすかったよ。本当にありがとう、ソラさん」
「はい!どういたしまして!」
最速で駆けつけてきてくれたのだろう、新たな力、アンブレランスの覚醒もあって気分がいつもよりも良くなっているヤクモの礼にソラも笑顔で答えるのだった。