曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第25話 決戦準備

 

ソラシド市にかけられた高架線の下。その中に、一台のおでん屋の屋台がある。1人の店主が切り盛りしている静かなその場所は、カバトンにとってこのソラシド市で安らげる数少ない場所であった。

 

「やばい……やばすぎるのねん……」

 

意気消沈した様子で愚痴るカバトン。今の彼はモヒカンヘアこそそのままだが、ちゃんと外用のスーツを着ており、一見すれば髪型が目立つだけのくたびれた男のようにも見える。肩から伸びる棘はそのままのようだが。

 

「チャンスをもらったのに、失敗してしまった……」

 

その脳裏に過るのは、プリキュアを、特にキュアクラウドを倒し損ねた前回の一戦。それどころかキュアクラウドは新たな力を手に入れるというカバトンが欲しがっていたものとは真逆の結果となってしまった。これを知ればあのお方がカバトンに慈悲を与えるわけがないだろう。

 

「今度こそ、今度こそ終わっちまうのねん……」

 

はぁ、と深いため息を吐くカバトン。店主には見えないように屋台の下でゆっくりと手を広げる。そこには小さい玉にするように生成したアンダーグエナジーが浮かび上がっていた。

 

(ランボーグじゃ、もうプリキュアには勝てねえ……)

 

前回の戦いの結果を踏まえ頭を抱えるカバトン。さすがにあそこまで追い込んで逆転なんてされてしまえばもうランボーグに頼ることは意味がないという思考になるのも仕方がないだろう。とすればどうすればいいか。

 

(……あの奥の手しかないのねん……失敗しちまった以上、もう俺に次があるかどうかすらわからねえ……それなら……命を燃やす覚悟を見せつけるしかないのね……!?)

 

カバトンはあることをする覚悟を決める。それはカバトンにとっては決してやりたい行動ではないのだが、状況がそれを許しはしない。と、ひそかにカバトンが決断したその時だった。うっすらと空が薄暗くなっていく。

 

「……」

 

ぞくっと嫌な予感を感じるカバトン。まさかこれは。そう思いカバトンが外を見ると。

 

「どうしました?ヤクモさん?」

「いや、なんか暗くなってきたなって」

「確かに……たまたまお日様が隠れちゃったのかな?」

 

夕暮れが近い時間帯で買い物でもしてたのだろうか。制服姿のヤクモ達とたまたま合流したのかツバサを合わせた4人が楽しそうに喋っている姿があった。突然薄暗くなったことを4人で談笑しているようだが、彼らからすればましろの言うようにたまに明るい昼時が急に薄暗くなったような感じでしかないのだろう。それも仮に起こっても一過性のものなので基本的に気にするようなことでもない。だが、先ほど感じたその嫌な予感はカバトンに警鐘を鳴らしており、その薄暗さの正体に感づき始めていた。

 

「あ、あいつら……!うおおおおおお!!」

「「「「!?」」」」

 

だというのに、あの4人は呑気に世間話をしている。それが無性に苛立って仕方がない。気付けば店を飛び出し、カバトンは4人の目の前へと躍り出てスーツを脱ぎ捨てる。突然現れたカバトンに身構え、いつでもミラージュペンを使えるようにする4人。ヤクモも、すぐに服の下にしまってたミラージュペンを出してペンダントと共に握りしめる。

 

「お前はカバトン!?」

「てめぇら……イラつくぜ……!イラついてしょうがないのねん!!」

 

ふつふつと沸き上がった怒りはカバトンの心を埋め尽くしていく。なんで怒りが湧いてくるのか。なんで負け続けるのか。なんでこの世界でこんなことをしているのか。そもそもどうしてスカイランドからアンダーグ帝国に帰ればいいだけの話だったのにこの世界に来ることになったののか。次々と湧いてくる怒りが言葉となって出てくる。

 

「こっちはいよいよヤバイことになってるってのによぉ!」

「「……?」」

 

カバトンの感情に任せた叫び。それを聞いたソラの険しい表情に疑問が浮かぶ。そしてヤクモも、カバトンのヤバイという物言いから、前回自分を集中的に始末しようとしたことと関係があるのかという推論を立てる。

 

「やばい……?どういうことです?」

「前回、俺をやたら始末しようとしていたことと関係があるのか?」

「うるせぇ!ヤクモ、てめぇもだが……今はそれよりも!」

 

当然それに素直に答えるカバトンではない。2人の質問を一蹴したカバトンは、怒りに震える手でソラを指差す。いきなり自分を指名されたソラが困惑していると、

 

「そもそも、こうなってるのも全部、お前が悪いのねん!」

「え?」

 

いきなりそう言われ、さらに困惑するソラ。無論、そんなものはこちらからすればただの言いがかりでしかない。だがカバトンにとっては言いがかりでも何でもないのだろう。それを証明するようにカバトンはどんどん怒りを並べていく。

 

「プリンセスエルを攫おうとしたあの時!お前さえ邪魔しなけりゃ……!!あれからやることなすことまるでうまくいかねえ!!お前は俺の疫病神だ!」

 

疫病神とまで言い放ち、ソラに怒りをぶつけていくカバトン。カバトンの言うことは前半は事実なのだろう。だが、ソラとしてもカバトンの発言を受け入れるつもりは全くないし、まして事実である前半部分ですらエルを攫うことを阻止するのは当然のことだったのだ。結局のところただの逆恨みではないかと解釈し、再び表情を険しくする。

 

「お前さえ倒せば全部うまくいく!俺と1対1で決闘だ!!」

「……え!?」

 

ここで戦闘を始めるつもりか。そう思ってたソラは、突然のカバトンの挑戦に驚く。意外な申し出を受けて言葉が出てこないでいる間にもカバトンは勝手に期間を設けることとする。

 

「勝負は3日後!最強にTUEEE奥の手でお前を倒してやるのねん!!」

 

勝負は3日後。勝手に日付を決められた挙句、逆恨みであれこれ言いだすカバトンに、ツバサとましろも不満が爆発する。

 

「逆恨みもいいところです!」

「ソラちゃん、そんな勝負受ける必要ないよ!!」

 

当然のことだ。そもそも本当に正々堂々なのかどうかすらわからないのだから。1対1で勝負すると言っておいて罠にはめてくる可能性だって十分ある。だがヤクモは、先ほどのカバトンのヤバイという言葉がずっと引っかかっていた。何故この状況で1対1にこだわろうとしているのか。今まで様々な作戦を立ててこちらを倒そうとし、エルを攫おうとしていたのに。

 

「……それを素直に受けるメリットがこっちにない」

「イヤとは言わせねぇ!」

 

怒りに身を任せてこそいたが、カバトンは頭を冷静に回転させていた。当然だ、状況が状況なのだから。ここで立ち回りを間違えれば破滅待ったなしの状況、だからこそ相手がちゃんと挑戦を受けるように魅力的な報酬を付ける。

 

「もしお前が勝ったら、もうプリンセスエルには手を出さねえと約束してやる!」

「「「「!」」」」

 

カバトンの出した条件。それはこの一戦で負ければ手を引くという宣言。それが本当なら確かにこちらもソラが1人で相手するという厳しい条件を呑むメリットにはなるだろう。今までであればランボーグを倒せてもカバトンはその度に逃げて仕切り直しをしてくるため、イタチごっこのような形になっていた。だがここでカバトンの魔の手から完全に解放されるとなれば、スカイランドにエルを帰らせるための間、阻む障害は何もないということになる。

 

「……その言葉に、嘘はありませんね」

 

真剣な表情で、ソラが問いかける。もしカバトンが言っている言葉がこの場でもわかるような偽りの言葉であったのなら、その時は即座に変身する。そう言わんばかりにツバサとヤクモもミラージュペンを強く握る。カバトンはそれが真実であると強く頷く。

 

「ああ!!」

 

はっきりと、そう断言するカバトン。普段の彼ならばチャンスがある限り何度でも仕掛けるための口約束として言っていたかもしれない。しかし今はもう違う。

 

(……どうせ負けたら、始末されちまう……それどころか、戦う前に始末される事すらあり得る……俺にはあるかどうかもわからねえ次しかない)

 

生きるか死か。もう退くことのできない戦いに、カバトンは臨もうとしていた。

 

「これは最終決戦だ!!首を洗って待ってろ!!」

 

そうカバトンが宣言すると同時に、薄暗くなっていた空がもとの輝きを取り戻す。その変化を、嫌な予感の消滅と共にカバトンも感じ取ったのだろう。どうやら、この戦いが終わるまではカバトンの始末を待つつもりのようだ。その温情に心の底から感謝し、カバトンは姿を消す。

 

「……」

 

カバトンの強い覚悟が伝わってくる。確かに本人の言う通り、小細工や卑怯な手は使わないつもりなのだろう。それだけの意地を感じ取り、ヤクモは握っていた手をゆっくりと離すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。ましろの家で4人とヨヨは作戦会議を行っていた。議題は当然、カバトンの事だ。しかし、中々話は始まらず、無言の時間が過ぎていく中、ましろがゆっくりと口を開く。

 

「ソラちゃん……本気なの?」

「私が決めたことですから」

 

この決闘に並々ならぬ思いを込めていたのは確かにましろにもわかる。だが、本当にそれを受けていいのかどうかといわれると、やはり踏ん切りがつかないところがあったのだろう。それに、戦うのならばソラ1人ではなく全員でやるべきじゃないのか。そう考えてしまうも、しかし、ソラはカバトンの挑戦を受けるつもりのようだ。

 

「それに……エルちゃんをスカイランドに送り届けたとして、カバトンに狙われている限り安心はできません。これで決着を付けます!」

 

ここで終わらせる。そう強い決意と共に自分の意思を伝えるソラ。ソラの覚悟は固い。しかしエルは不安そうな声を漏らす。ツバサも、

 

「でも、あんな奴の言葉を信じていいんでしょうか」

 

カバトンが何かを企んでいるのではないかと考えているようだ。しかしソラは、カバトンは今回はそのようなことは考えていないはずだと首を横に振る。

 

「カバトンの目はいつになく真剣でした」

「……カバトンの言っていた奥の手ってのがそれだけのものなのかもね」

 

ヤクモもソラの言葉に同意するように言う。それだけの自信があり、そして今まで使いたくはないであろう最後の手段であるその奥の手を使おうと考えているからこその最終決戦なのだろう。となると、浮かび上がる問題が出てくる。それは、

 

「……それがハッタリでないというのなら……果たして勝てるのでしょうか」

 

1人で奥の手を持ち出したカバトンにソラが勝てるのかどうかという問題だ。無論、ソラの実力を疑っているというわけではない。しかし前回の戦いで本気でお互い倒す気で向き合ったわけでないとはいえ、カバトンと一戦交えたツバサは、カバトンがああ見えて高い実力を持っていることを理解していた。だからこそこのような言葉が出てきたのだが。

 

「……うーん……」

 

再び全員が沈黙してしまった。確かに今のままでは勝てるかどうかはわからない。となればどうするか。

 

「どんな手かはわかりませんが、それでも勝つのが……!」

「……ヒーロー、だよね?」

 

ソラの言葉を引き継ぐようにましろがほほ笑む。

 

「!ましろさん……」

 

カバトンがどんな手を使うか、今はまだわからない。しかしソラがそれを乗り越えるというのならば、自分たちはそれを応援するだけだ。それが、ましろの出した答えだった。

 

「そうだね。確かにカバトンの言っているところがどこまで本当なのかって考えたらキリがなくなっちゃうけど……俺は、ソラさんの答えを尊重したいと思う」

「ヤクモさん……」

「ツバサ君も、心配なのはわかるけどさ。こうなったらソラちゃんを皆で応援しようよ!決戦までまだ3日もあるし、丁度明日から三連休だよ!」

 

ヤクモも、相手の事を考えて不安になるよりもどうすれば勝てるかを考えた方がいいと言う。ましろも、そんなヤクモの言葉に同調するようにツバサを説得する。幸い、カバトンの指定した日までの間、自分たちは学校もなく休みだ。対策を考えるための時間はいくらでもある。

 

「確かに祝日は挟むけど……何か考えがあるの?」

「うん!」

 

さらにましろにはとっておきのプランがあるようだ。そのプランを皆に話すと、それに必要となるもう1人に電話をし始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。全員を乗せた一台のハマーが自然の溢れる長閑な景色の中を走っていた。その中には大量のキャンプ道具が積まれており、ご機嫌なあげはを含む一行はキャンプ地へと向かっていた。

 

「特訓、特訓!楽しい特訓!」

 

楽しそうにあげはが言う。昨日ましろから連絡を受けたあげはは二つ返事でこれを了承、特訓という名のキャンプのため、ヨヨがたまたま持っていたキャンプ道具一式を積み込んで車を軽快に走らせていた。

 

「急に頼んじゃってごめんね」

「平気平気!それに本当に皆でキャンプに来る機会があるなんて思ってもいなかったし!……ちょっとレポートやばいけど」

「「ん?」」

「あはは、何でもない何でもない!私、超優秀だし?レポート程度なんてことないから!」

 

嬉しそうに語るあげは。不穏なワードが聞こえてきた気がしてヤクモとましろが同時に反応するも、それを誤魔化すあげは。

 

「それに、ソラちゃんの大勝負のためだもん」

「ありがとうございます!」

「あい!」

 

あげはの言葉に礼を言うソラとエル。せっかくのキャンプということ、そしてヨヨの方もスカイランドに繋がるトンネル作成の山場を迎えていることもあり、ヨヨはこのキャンプには同行できず、ヤクモ達で面倒を見ることとなった。

 

「……そういえば、特訓って何やるの?やっぱり滝行?それとも山の主と戦ったり?……は!まさか山の頂上で必殺技の修行をしたりしちゃう感じ!?」

「いやいや、漫画の読みすぎじゃないですか……」

「そうだよ!まさにそういう特訓だよ!」

「えっ」

 

冷静に突っ込むツバサ。が、ましろから返ってきたのはまさかのあげはの発言を肯定するもの。当然、

 

「はい!それです!」

「よっしゃ!!」

 

ソラもノリノリである。女性陣がフィクションのような修行方法をノリノリでやろうとしている中、おいおいと呆れた様子のツバサがヤクモを見上げる。

 

「ヤクモさん、本当にこれでいいんですか?」

「まあ……山の主はおいといて必殺技は多少は可能性あるんじゃないかな……プリキュア的には……俺が欲しいって思わなくもないけど」

「やめてくださいよ」

 

男子チームには合体技はないことを自嘲するヤクモ。救いを求めたはずの相手からいきなり刺されたことにショックを受けてしまうツバサ。一応それらしいことはできたがやっぱり合体技は男の子としては憧れる部分がツバサにはあるのだろう。連携技もそれはそれで趣があっていいんじゃないのかとヤクモの方は考えてたりもするが。

 

「 ところでね、いい滝があるんだよね、修行にぴったりな!」

「本当ですか!?」

(滝?確かにあったけど、あそこの滝って確か……)

 

これから向かうキャンプ場の記憶を掘り起こすヤクモ。そこには確かに滝があったが、あげはが言うように修行にぴったりなものかどうかといわれると、そういうものではなかったような気がする。しかしその知識を掘り起こす前に一行はキャンプ地へと到着するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おぉ……」」

「どう?私が調べたアゲアゲのパワースポット!」

 

キャンプ場に到着し、まずは早速滝の元へ向かった一行。ジャージに着替え、準備万端な様子のソラを含め、目の前に見える巨大な滝に驚いていたが、

 

「……あぁ、肩こりが治るとかいう滝か」

「「「え?」」」

「あ、あれ?本当だ……」

 

やっと思い出したとヤクモがポンと手を叩く。滝と肩こりにどういう繋がりがあるのかとツバサが質問しようとしたところでヤクモの言葉に慌ててスマホでこの滝のことを調べ、それが事実だというあげは。

 

「肩こり解消のパワースポットみたい……でも、よく知ってたね?」

「以前来た時そんなものがあるのを見たから……まあ、肩こりはおいといて普通に滝行はできるんじゃないかな」

「そ、そうだよねあはは!ちゃんとサイトから調べてきたはずなんだけど……」

 

ヤクモのフォローに乗っかり大笑いして誤魔化そうとするあげは。しかしここで、ヤクモの悪気のない追撃がかかる。

 

「普通にキャンプ場の公式サイトにでかでかと載ってたはずだけど……」

「え、えーと……ごめん」

「……あげはさん」

 

それをジト目で見ながら、ツバサはあることに気付いてしまう。

 

「さっきは優秀とかレポート程度とか言ってましたけど、本当は学校が忙しくて余裕ないんじゃないですか?全然調べ切れてないじゃないですか」

「うぇっ」

 

図星だったのか、あげはの口から中々聞かない変な声が漏れる。それを聞いたことでああ、やっぱりあれは空耳ではなかったのだとましろとヤクモも悟る。

 

「あ、あげはちゃん……」

「そうなんですか……?」

「ち、違う違う!それより、ほら!山の主について調べて……」

「それ、俺達じゃハードル高くないかな……」

 

尚の事往生際が悪くソラの特訓のために動こうとするあげは。しかしこの状況では完全に逃げに入っているようにしか見えない。

 

「僕がこの辺の鳥たちと話して聞いてきますよ」

「え、できるの!?」

「当然ですよ、僕だって鳥なんですから」

 

言われてみれば確かにそうなのだが。鳥に変身したツバサは自分に任せるようにと羽を胸に当てる。餅は餅屋というし、ここはツバサに任せるべきだろう。

 

「じゃあそっちはツバサに任せてテントの準備とかはやっておくよ」

「そうだね!私も、腕によりをかけて晩御飯の準備をしておくよ!」

「皆さん、ありがとうございます!では、私は滝に打たれて精神を統一します!」

 

ヤクモとましろも、ソラが特訓に集中できるようにキャンプの準備を整えることにする。着々と、自分を抜いて話が進んでいく光景を目の当たりにしたあげはは、僅かな期待と共に5人に縋るように、

 

「じゃ、じゃあ私はぁ……」

「「「「学校のレポート!」」」」

「える!」

「あ、はは……了解……」

 

手伝いを申し出たものの、まずは自分の事から片づけてくれと全員から言われ、あげはは肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ソラの特訓の日々は、瞬く間に過ぎていった。滝に打たれ、ツバサと動物たちの協力によって見つけ出された山の主であるリスと共に山を駆け回り、構えを磨き、体を鍛える。そんなソラをツバサは動物たちとの通訳役として、ましろは食事作りで、ヤクモもエルの世話や力仕事などの細かい雑用を行い、そしてあげははレポートを全力で書いていく。そして決戦前夜。

 

「……綺麗だね」

「はい……」

 

女性陣のテントの外。キャンプチェアに座り、上着と暖かいココアを用意してソラとましろは天を見上げていた。都会から離れ、綺麗な星が輝く自然の中での夜。その輝きはとれも綺麗で、いつまでも見ていられるようだ。当然、頭では寝る時間を迎えれば寝なければいけないとわかっている。しかし、

 

「……私、今日は眠れそうにないです」

「そっか……私も」

 

明日という大事な日を前に、緊張もあるが中々寝付けないでいた。

 

「……2人も、そうなんでしょうか?」

「そうみたいだね」

 

耳に入る焚火の音。2人が視線をずらすと、男子用のテントの外に置かれていた焚火台の前に座ってるヤクモとツバサの姿があった。会話はないようだが、焚火で暖を取りながら何を考えているのだろう。だが、2人とも、きっと同じことを考えているのだろう。そう思った2人は焚火の傍にチェアを持って移動する。

 

「ソラさん、ましろさん」

「あはは、なんか眠れなくて」

「僕達もです」

 

同意するように苦笑するツバサ。

 

「あ……暖まりにくいなら俺達が移動しようか」

「平気平気、私たちは寒くないから」

「そっか」

 

2人が自分達とは異なり上着を着ているのを見て、その心配はなさそうだと立ち上がるのをやめる。しばしの間、焚火の音だけが静寂の中で鳴っていたが、ツバサが口を開く。

 

「……カバトンが、どんな奥の手を使ってくるのか……色々考えていたら、中々寝付けなくて」

「うん、私も同じことを考えてた」

「僕達ですらこうなんですから、ソラさんはもっとですよね……」

 

明日への不安の方が今は大きいのだろう。こうして暖を取るという行為でごまかしているが、やはり不安は消えたりはしない。

 

「ツバサ君……」

「私達にはこれぐらいしかできないけど……だから全力で応援するね」

「ましろさん……」

 

それでも、できることはある。それは全力で応援すること。2人の思いを感じ取り、ソラの口から笑みがこぼれる。当然、ソラの勝利を望んでいるのは2人だけではない。それは他の皆も同様だ。

 

「ありがとうございます」

「……私、そろそろ寝るね。ツバサ君も、もう戻ろうっか」

「?あ……はい、そうですね。ヤクモさん、後はお願いします」

「うん、片づけはやっておくよ」

 

ヤクモに後処理を任せると、ツバサとましろはテントの中へと戻っていく。そして残されたヤクモは、まだ燃えてる焚火を見る。まだ火は燃えているがもう少しで燃え尽きるだろう、それならそれまで待てばいいかとチェアに背中を預けると。

 

「……」

 

まだテントに戻ってなかったソラがヤクモの隣に移動してきていた。まだ寝なくてもいいのだろうかとヤクモが首を傾げていると。

 

「ヤクモさん……隣、いいですか?」

「あ……うん、いいよ」

 

ヤクモの許可を得てソラが座る。こうしてみると髪を下ろしているソラの姿がよく見える。普段とは異なるその可愛い姿に視線を奪われていたが、今はそんな甘い状況ではないと自分を叱責する。

 

「……ソラさん」

「はい」

 

期待するような視線をヤクモに向けるソラ。思えば最初に出会った時もソラは自分のことを評価していた。ヤクモ自身が謙遜していても、ソラにとってはそうではなく、その後もソラは自分のことを慕ってくれていた。そんなソラに、今は応えてあげたい、彼女の不安がそれで取り除けるなら。そう思ったヤクモは、

 

「……あ……」

 

ソラの手を取って握りしめる。以前、自分が悩みを吹っ切った時、ソラがやってくれたことだ。自分も、そうしてあげるべきだと、ヤクモは直感していた。

 

「……俺は、できることは全部やれたと思ってる」

「……はい。私もそう思います」

「だったら後は……きっと、出たとこ勝負でしかないと思うんだ」

「……はい」

 

自分の言葉を告げるヤクモ。ソラを鼓舞できるのか、不安を取り除けるのか、それはヤクモにはわからない。だが、ヤクモにできることは、これだけだ。

 

「だから俺は、きっとソラさんなら勝てる……いや、エルちゃんを守り切れるって信じてる」

「!……はい!」

 

ヤクモの言葉を聞き、嬉しそうに笑顔を浮かべるソラ。カバトンに勝てるかどうかではない。エルを守れる。そう言われると、自分がプリキュアになった時のこと、エルを助けるためにこのソラシド市に現れ、エルを守るためにプリキュアになったのだというキュアスカイの成り立ちを思い出すことができた。

 

「……ヤクモさん」

「……!?」

 

それを思い出させてくれたヤクモの傍にいたのは、正解だったのだと。気付けばソラはヤクモに寄りかかっていた。

 

「そ、ソラさん?」

「お願いです……今だけはこのままでいいですか?」

 

思わず声が上ずるヤクモ。しかし、ソラの頼みを前に、

 

「……う、うん。ソラさんがそうしたいなら……俺は全然かまわないよ」

「ありがとうございます、ヤクモさん……」

 

嬉しそうに、顔を赤らめながら静かに答えるソラ。こうしていると、不安がなくなるような気がして、心が穏やかになって心地がいい。そんなソラを見ながら、その温度と感触に恥ずかしさと照れが入り混じったような表情を浮かべながらヤクモは、燃え尽きようとしている焚火の方に視線を移すのだった。

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