曇り空の夜のプリキュア   作:popoponpon

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第29話 ファーストシューズ

ゴールデンウィークの幕を開けた初日。ヨヨ曰く、このゴールデンウィーク中にスカイランドへのトンネルは開通するとの話だったため、ましろやヤクモは予定を空けていた。スカイランドに行ってる間はスマホも使えなくなるため、いつになるかはまだわからないがゴールデンウィーク中に友達とキャンプに行く、辺鄙な所なので電波は繋がらなくなるから気を付けてほしいと前もって親と交渉しており、父であるムラクモも快くそれを承諾したこともあり、母からの許可も得ていた。

 

「「「「……」」」」

 

リビングでソラ、ましろ、ヤクモ、ツバサの4人が息を呑んで見守っているのは、ソファに掴まり立ちをしているエルの姿。ゴールデンウィークの予定が空いたことで特にすることのないヤクモはこうして、皆の所に遊びに来ていたのだ。そこで、軽く談笑などを皆としていたのだが、エルが歩きに挑戦し始めたため、こうして談笑を止め、エルの応援をするかのように無言になっていた。

 

「えーるぅ……」

 

ツバサは心配そうに、ましろは嬉しそうに、ソラはドキドキしながら、ヤクモは期待しながら。それぞれが別々の感情を顔に浮かべながら見守る中、エルは遂に、一歩、また一歩と以前よりもはるかにしっかりとした足取りで歩き始めた。

 

「「「「おぉ……!!」」」」

 

感動の声が漏れる。エルと過ごし、彼女の導きによってプリキュアとなった特別な相手。その成長をずっと見てきた今、それが一つの形として現れたのを実感し、4人は達成感を感じていた。

 

「ちょっといいかしら?」

「「「今は駄目!?」」」

 

そこに間が悪く、リビングの扉を開けてヨヨが入ってくる。ちょうどエルが歩き始めたタイミングだったのもあり、ついつい反射的にましろ、ソラ、ツバサの3人が声を上げてしまう。と、すぐに声を上げてしまったことでエルを驚かせてしまったのではないかと慌てて視線をヨヨからエルに戻す。

 

「あい?」

 

その姿を疑問そうに首を傾げて見ていたエル。と、ここが限界だったのか、それとも首を動かしたことでバランスを崩してしまったのか尻もちをついてしまう。

 

「あらら……」

「あぁ……」

 

決定的な一歩だったかもしれないが、どうやら自分達のせいでエルのこれ以上の歩みを一旦止めてしまったようだ。その光景を見て、苦笑するヨヨ。しかし、エルがちゃんと歩けるようになったのは事実だ。

 

「ふふ、あんよができるようになったのね。じゃあファーストシューズを買いに行かなくちゃ」

「「「「ファーストシューズ?」」」」

「える?」

 

聞き慣れない言葉に5人が同時に聞き返す。ヨヨは、5人にファーストシューズについて説明し始める。

 

「ファーストシューズっていうのはこの世界の素敵な習わしよ。よちよち歩きの記念に靴をプレゼントするの。大切な子供が無限に広がる世界に踏み出していけるその一歩目を祝福する大切な靴なの」

「ファーストシューズ……!」

「プリンセスが履く初めての靴ですか……!」

 

そういう文化があったとは。ましろとヤクモも初耳だった。というより子供が知る機会は弟や妹でもいなければないのだろうが。一方、エルの初めての靴を買いに行くというイベントにソラとツバサは嬉しそうである。

 

「早速買いに行きましょう!エルちゃんのファーストシューズ!」

「はい!プリンセスにぴったりのシューズを選んであげないと!」

「お、落ち着いてソラちゃん、ツバサ君」

「急がなくても別に靴屋さんが逃げるわけじゃないから……」

 

早く行こうと興奮した様子の2人を宥めながらも、ファーストシューズを買いに行くことに関して異論はない。ましろとヤクモも、出かける準備をし始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソラシド市に存在する靴屋、ソラシドシューズ。そこを訪れたソラ達は、興味深そうに店内を見ていた。元々動きやすい靴以外にはあまり特徴などを求めていないヤクモはこういった場所を訪れることはあまりなく、大体ショッピングモールとかに売ってるようなありきたりな靴で済ませてしまう。ましろも、頻繁に靴を買いに来るというわけではないためここに来るのは久しぶりだったようで、初めて来るソラとツバサも含め、まずは一通り店内を歩いていた。

 

「凄いですね」

「赤ちゃん用のちっちゃくて可愛い靴がいっぱいだね」

「こんな店があったのは初めて知ったけど……」

「ええ、しかしまさかこんなに種類があるとは……」

 

5人の目の前に広がっていたのはいろんな種類の幼児用のシューズ。男の子用と女の子用に始まり、共用のデザインのもの、はたまたキャラクターが入ったものや派手な模様のものまで色々ある。この中からエルのためのシューズを選びださなければならないのだ。

 

「これは、中々手強いですね」

「手強いって……でも、これだけあるならエルちゃんが満足するものもきっとあるよね」

「うん、早速探してみよう」

「……あ!」

 

早速ソラがピンと来たようである。選ばれたのは青と白を基調としたシューズで、紫のラインがワンポイントのように入っているデザインのシューズ。多少暗めの青と紫の色合いをエルが気に入るかどうかだが、それよりもソラが気に入ったのは、

 

「これにしましょう!頑丈そうで防御力高そうです!」

(防御力……?)

 

頑丈そうなデザインだった。確かにシューズにある程度の頑丈さがあるのは良いことだと思うが、果たしてそれをエルが気に入るかどうか。ツバサに抱かれた状態のエルがソラの選んだシューズを見ると、

 

「……える!」

「……あ」

 

首を横に振ってしまった。渾身の一品だと思っていただけにまさかエルにそれを拒否されるとは思わず、呆然となってしまうソラ。

 

「ま、まぁ……防御力の件はとりあえずおいておこうか……えっと……」

 

今度はましろがシューズを選び始める。その中でましろが選んだのは紫のリボンがついた、歩くと光るというセールスポイントが付けられた白いシューズ。実際にましろが手に持つと、光の反射などでシューズが七色に光って見える。

 

「これどう?ほら、ぴかぴか光るよ!」

「えぃえぃ」

 

いやいやというかのようにましろの持ってきたシューズに拒否反応を示すエル。見た目は面白いかもしれないがエルが気に入る一品にはなりえなかったようだ。

 

「ではこれはどうですか?」

「えるぅ!」

「「あ……」」

 

ましろが選んでる間に別のを選んできたのか、ソラが別のシューズを見せる。しかしそれを一目見るとぷいとそっぽを向いてしまうエル。まさかここまで立て続けに拒否されてしまうとは。

 

「じゃ、じゃあこっちのは?」

「これでどうです?」

 

そうなると絶対にエルが気に入るものを選びたいとましろもソラも燃えてくる。虹の模様が入った赤いシューズを選んできたましろと緑の動きやすそうなシューズを選択したソラ。さらにまだまだと動物の顔のようなものを選んだり、車のようなデザインを選んだり。エルに次々シューズを見せてみるが、

 

「えるぅ!」

「というかソラさんが選んでるの後半から男の子用……」

 

全部嫌だと言われてしまった。完全に手詰まりになってしまい、困ってしまった女性陣。しかし、シューズはこの店にあるものを選ばなければならないのだ。ある程度はエルに妥協してもらう必要があると、ここは少し厳しくいこうと、ソラがエルを窘める。

 

「もう、好き嫌いは駄目ですよ?」

「……ふぅ」

 

そんな女性陣を見て溜息を吐くと、ヤクモにエルのゆりかごを渡すツバサ。そして皆わかってない、とでも言いたげな雰囲気のまま商品棚の方へと歩いていく。

 

「ツバサ君?」

「プリンセスは悪くありません……お二人は足りていないんです。センスが」

「「え!?」」

「おいおい……」

 

いきなり何を言い出すんだと頭を抱え始めるヤクモ。左右を見ればセンスがないと言われたソラとましろがショックを受けてお互いに向かい合うようにしゃがみ込んでしまっている。

 

「別にセンスないってわけじゃないから気にしなくていいよ……俺の方がセンスきっとないし」

「うぅ……だけどエルちゃんには気に入ってもらえてなかったし……」

「ヤクモさんも私の選んだ靴、男の子用だって……」

「いや言ったけどさ……あれはそういう意味で言ったわけではなくて……」

 

先程の発言を掘り起こされ、その弁明も含めてヤクモがてんやわんやしている中、ツバサはエルに向けて言うかのように口を開く。

 

「いいですか?エルちゃんはスカイランド王家のプリンセス……キラキラ輝く一番星、国民のアイドル。そんじょそこらのデザインで満足するはずがないんですよ」

「いや個人の好みの範疇だと思うけど?それに売れてるから商品として置いてるわけだし……」

 

エルのお目にかかるには相応のレベルが求められる。そう言いたいのだろうが、別に商品が悪いってわけではないだろうと思わずツッコミを入れるヤクモ。

 

「ツバサ君家だとこんな感じじゃないのに……」

「ヤクモさんがいるから好き勝手言ってるんですよきっと。それにエルちゃんのことになると時々暴走しますし」

「好きすぎて暴走するってことかな……」

「きっとね」

 

多少は立ち直ったからか、先ほどの発言もあってかついつい毒を吐いてしまうソラ。もう知らないからこの1回で終わらせてくれと投げやりになりながらましろにそう返すヤクモ。暫く棚を物色していたツバサだが、ついに至高の一品を見つけたのか、それを手に取る。

 

(なんかすごいの選んだな……)

 

それはキラキラとした装飾が施されたいかにも高級感のあるシューズであった。横の品書きには『大人気プリンセスシューズ』と銘打たれており、ツバサもそれがエルにぴったりだと思い選んだのだろう。それを大事そうに手に取ると、エルを抱くヤクモの目の前で膝をつき、エルに差し出す。

 

「さあ!お受け取りください、プリンセス!貴女のナイトが選んだとびっきりの……」

「える!」

 

が、ツバサが最後まで言い切ることなくエルは速攻でそのシューズを拒否してしまった。

 

「えー!?」

 

よほどの自信があったのか、それを拒否されショックで涙を浮かべてしまうツバサ。そんなツバサの肩に色々含みがあるような表情でソラとましろが手を置く。

 

「……エルちゃん、とりあえず全部見る?」

「える!」

 

こうなったらローラー作戦でどうにかしようと考えたヤクモの総当たり発言に頷くエル。その仕草は、あの3人に任せてもろくなものを出してくれないと言外に言っているように聞こえ、3人の心に決して小さくないダメージを与えてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これが、最後の一足だよ」

 

それから店内にあったシューズを見せてはエルに首を振られることを続けること数十分。ましろの手に残ったのはこの店にある最後の真っ白な純白のシューズ。これが駄目だったら、もう後がない。4人が息を呑んで見守る中、エルはそのシューズをじっと見る。そして、

 

「えーるぅ」

 

それも首を横に振ってしまった。これで全滅だ。深いため息を吐く4人。

 

「仕方ありません、他のお店を探しましょうか」

「ですね……折角のファーストシューズ、妥協は許されません。エルちゃんのお気に入りの靴が見つかるまで、この街の靴屋さん全部を!いいえ、この世界の靴屋さん全部を回りましょう!」

「それは名案ですね!」

「広すぎるなぁ……」

「話が壮大になってきちゃった……それ終わるころにはエルちゃん大人になってるよ……」

 

エルのためならどこまでも。ソラもツバサみたいに意気込みと共にとんでもないことを口走り始めたがそんなことは物理的にも時間的にも不可能である。とにかく街の靴屋で決着をつけないとなと思いながらヤクモはショッピングモールの靴屋はどうかと提案しようとした、その時だった。

 

「えうえぅい!」

「「「「?」」」」

 

突然エルがある一点を見て歓喜の声を上げた。何か気に入ったものがあったのだろうかと4人がエルが指差す方向を見ると、そこにはレジに1人の女性が立っていた。買い物の途中で丁度会計に入ったのだろう。そんな彼女がレジの上に置いたシューズを見たエルはどうやらそれを気に入ったようだ。

 

「あー!あー!」

「もしかして、あれを……?」

「いやでも……」

 

大きな声を上げるエルの声が女性の耳にも入ってしまったのだろう。思わず振り向いた女性を見て、びくっと驚く4人。いやさすがにまずいだろうと4人は女性に背を向けてエルを隠す。

 

「あれは人のですよ……!」

「別のにしよ……?」

「もしかしたら同じ靴があるかもしれないし、それを探してみよう……」

「えーるぅ!!」

「もう、プリンセス……あまり駄々をこねないでください……」

 

しかし、あのシューズではないと嫌だとエルは言ってしまっている。同じ種類の口を探そうとヤクモが諭すもそれも聞かない有様だ。これはどうすればいいのかと4人が頭を抱え始めていると、

 

「どえらい可愛い赤ちゃんやなぁ」

「「「「わ!?」」」」

 

先程まで会計していた女性がヤクモ達の前に回り込んでおり、エルを見ていた。まさか彼女に迷惑をかけてしまっているのではないかと4人が不安に思っていると、女性が先程エルが欲していたシューズをこちらに見せてくる。

 

「えーるぅ!」

「これ、気に入ったん?」

「すみません!こちらは気にしなくて大丈夫ですので……」

 

慌ててそういうやましい意図はこちらにはないと伝えるヤクモ。ましろ達も同意するように慌てて頷くも、エルの手と仕草は完全にそのシューズを求めている。それを見た女性がにこりと笑うと、

 

「これあげるわ」

「え!?でも……」

「えるぅい!」

 

なんと靴を差し出すと言ったのだ。それを聞いて嬉しそうなエル。確かにこちらとしては願ってもない申し出ではあるのだが、本当にいいのだろうか。

 

「遠慮せんでええよ。まだお会計済ませる前やしな。さ」

「あ……ありがとうございます……!」

 

しかし遠慮することはないと言ってくれた。それに加え、長時間もの間、エルのためのファーストシューズを探していた疲労や、何よりエルの喜びよう、そして女性の厚意を無下にするわけにはいかないとソラはシューズを受け取る。

 

「こない気に入って靴も喜んでるわ。逆におおきに」

 

そう言うと、女性は去っていく。その後ろ姿を見ながら、ソラは嬉しそうに言う。

 

「ヒーローです!ヒーロー発見です!靴の気持ちまで考える優しさ……!それがヒーロー!」

「なんでやねん」

 

そのまま目をキラキラさせながら今の出来事についてヒーロー手帳へと書き記していく。ソラからシューズを受け取り、ツッコミを入れるツバサを横目で見ながら、ヤクモは微妙そうな顔をしていた。

 

「ましろさん……俺達は確かにこれでいいかもだけど……」

「う、うん……あの!本当にいいんですか?これって、誰かにプレゼントする靴、ですよね……?その子ががっかりしたりしませんか……?」

 

ヤクモと同じ気持ちだったのだろう、女性が退店する前にましろが慌てて声をかける。そう、この靴は間違いなく誰かに手渡すために購入しようとしていたはずなのだ。それを自分たちが本当にもらっていいというのか。ましろの指摘にそのことに気付いたソラとツバサもはっとなる。

 

「……これでよかったんや」

「……え」

 

ましろの言葉に立ち止まった女性がぽつりと呟いて店を出ていく。その呟きにどんな感情が込められたのかわからない。しかし、複雑な思いが詰まっていたことだけは伝わってきた。

 

「……やっぱりこれ、返した方がいい気がする」

「える!?」

「!」

 

ヤクモの言葉に驚くエル。ソラがヤクモの言葉に反応するように店を出て女性を探すが、既に人ごみの中に女性は消えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れまで靴を譲ってくれた女性を探そうと付近を歩いていたヤクモ達。しかし、結局見つけることはできず、もう付近にはいないだろうということでましろの家へと戻ってきたのだった。

 

「すぅ……すぅ……」

 

エルは気持ちよさそうにリビングで眠っている。エルからすれば自分が求めていたファーストシューズを手に入れることができて大満足なのだろう。何せそのファーストシューズを抱いたまま眠っているぐらいなのだから。しかし、4人の表情は浮かないままだ。

 

「……やっぱり、断るべきでした」

「……ソラちゃん……」

「きっと、何か事情があったんです。なのに私は……未熟……!」

 

相手の事情も考えず、ただ自分たちのことを考えてシューズを受け取ってしまったと落ち込んでしまうソラ。その様子を見ながら、ヤクモも先程の事を思いだす。

 

「買う直前までいってたわけだからね……でも見つからなかった以上は仕方ないし……」

「また今度会った時に改めてお礼を言おう?」

 

ヤクモとましろも、ソラを慰める。ツバサは2人の言葉にうんうんと頷いていたが、ソラはソファから立ち上がると、

 

「いいえ!今すぐあの人を探しに行って靴を返しましょう!」

「えぇ!?プリンセスは!?こんなにこの靴を気に入ってるのに……」

「そうしたい気持ちはわかるけど……実際さっき探してみて見つからなかったんだよ。さすがに当てもなく探しても見つかるとは思えない」

「それは……」

 

ツバサのエルちゃんのことを考えた言葉も、ヤクモの先ほどの成果についての言及も尤もな言葉である。ソラがこうしてやる気を出したところで、現状ではほぼ空回りに近い。と、

 

「「「「……?」」」」

 

不思議な音が4人の耳に届く。そして届いたのは音だけではない。不思議な力の波動のようなもの。それが不思議な感覚を4人に与えていた。

 

「える……?」

「い、今の何!?」

「ヨヨさんの部屋の方からです!」

「何かがあったのかもしれない、行ってみよう」

「はい!」

 

慌ててヨヨの部屋へと、今の不可思議な感覚で目覚めたエルを連れて向かう4人。ましろがヨヨの部屋の扉を開き、ヨヨの身を案じるように叫ぶ。

 

「おばあちゃん、大丈夫!?……わ!?」

 

部屋の中に入り、ヨヨの姿を探していると、ましろ達の目の前に青い光の塊が飛び込んでくる。それは、ミラーパッドから投影された光によって生まれていた。4人がおそるおそるといった様子で近づく中、ソラはかつて、自分がこの世界に来るために飛び込んだカバトンが生み出したトンネルを思い出していた。色合いや構成している力などは全くの別物。だが雰囲気だけなら、確かにそれに近い。

 

「……トンネルの入り口?」

「スカイランドに繋がってるの?」

「ええ。エルちゃんが歩いた時に言おうと思っていたのはこのこと」

 

ソラとましろの疑問にヨヨが肯定する。

 

「約束通り、完成させたわよ」

 

ヨヨの言葉に嬉しそうに笑顔を浮かべる4人。これを使えば、エルは親の下へと帰ることができる。それを理解したのか、トンネルの向こうにいる2人に会いたいと言うかのように手を伸ばすエル。ソラも、ぐっと両手を握り、ついに目的が達成されることへの期待と喜びを噛み締めていた。

 

「これでエルちゃんをスカイランドに、お家に返してあげられます!」

「ええ、まずは王様達にこの事を報告しましょう」

 

そう言うと、ツバサの手からエルを受け取り、ヨヨがミラーパッドを操作する。すると、トンネルが一旦消失し、ミラーパッドの画面に2人の男女が映る。その身なりや雰囲気などから察するに彼らがスカイランドの王様と王妃のようである。髪色から判断するにエルは母親譲りということだろうか。

 

『おお、ヨヨ殿!連絡を寄越してくれたということは……!』

「はい、王様。スカイランドへ繋がるトンネルが完成しました」

『おぉ!』

『ああ……!』

 

ヨヨの報告に嬉しそうな表情を見せる王様。王妃は感極まったのか涙を浮かべており、それをハンカチで拭いている。

 

『ヨヨ様、一刻も早く……』

「お二人とも、落ち着いてください。安全のため、少しばかりミラーパッドを調節する必要があります」

『どれくらいかかるのです?』

「ええ……」

 

ここでヨヨが視線を外してましろ達を見る。何故自分たちを見たのか、4人が疑問に思っていると、

 

「明日の夕方には」

『おぉ……頼みましたぞ!』

『プリンセス、待っていますよ』

「えーるぅ!」

 

久しぶりに喋ることができた父と母の姿にご満悦なエル。そして、ミラーパッドの中継が切れたヨヨは、改めて4人に振り向く。その顔は、いつになく真剣なように見えた。

 

「さて、皆聞いてちょうだい」

「「「「?」」」」

「アンダーグ帝国はこれからもエルちゃんを狙ってくるでしょう。戦いの場所はソラシド市からスカイランドに移る……でも」

 

ここで一旦言葉を区切るヨヨ。それは、4人にとって残酷な真実。それを告げることに一瞬の苦しさを感じながらも、絶対に伝えなければならないことだとヨヨは静かに切り出していく。

 

「ましろさんとヤクモさんはスカイランドでは暮らせない」

「「「「!」」」」

 

そう、ましろとヤクモはソラシド市に住んでいる人間だ。ソラもツバサも理由あってこの世界に滞在しているが、その滞在も一時的なもの。そしてプリキュアとなったからには、エルがスカイランドに戻れば2人はこの世界の滞在ではなく、スカイランドという自分たちの世界に帰り、アンダーグ帝国との戦いに臨むことになるのだ。そしてそこに、ヤクモとましろの姿はない。

 

「ソラシド市で学校に通わなくちゃいけない。勉強もしなくちゃいけない。それに……家族もいる。もしスカイランドにずっといることを望むのなら全てを捨てなくちゃいけない。もう元の世界に居場所はない……それぐらいの覚悟が必要なの。でもそれを……あなたたちはしてはいけない」

「で、でもランボーグが出てきてエルちゃんを襲ってきたらトンネルを使ってすぐスカイランドに助けにいくよ!そうだよねヤクモ君!」

「うん、もちろんだよ」

「……そうね。そうしてあげて」

 

それでも、トンネルができた以上、行き来は自由になった。ましろの言うように、助けに行くことだってできるはず。それはヨヨとしてもありがたいことだった。しかし、その言葉の裏には、別の思いがあることは明白だった。

 

「でも、この街で、皆で過ごすのは明日でおしまい。寂しいけれど……」

 

まだずっといたい。そのための微かな抵抗のように紡がれた言葉に、ヨヨは現実を突きつける。

 

「あげはさんも呼んで夜はごちそうにしましょう。ヤクモさんも、今日は泊まっていったらいいわ。ムラクモさんには私から連絡しておくから」

「……」

「あーい!」

 

皆が集まる。そう聞いて嬉しそうに笑うエル。色々と思うところは確かにあった。だが、エルの嬉しそうな顔を前にそれを言う気にはなれず、4人は互いに顔を見せあって弱々しく笑うのだった。

 

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